【慈愛】毛玉よ、そなたは暖かい(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 そこはホワイト・ヒルにあるA.R.O.A.支部。
「ウィンクルムさんでケセラの毛刈りをやってくれませんか?」
 動物に関する様々な事業を展開している動物専門『まるはち』の社員は、「ていうか貴方達の仕事ですよね?」と笑顔で事の次第を説明し始めていた。
 ケセラ、とは。
 見た目は手のひら大の毛玉に三角の耳と一回り小さな毛玉の尻尾がついている、ようするに毛玉。狭くて高いところを好むが、好奇心旺盛で賢く穏やかな動物。ぴょんぴょん跳ねて「もきゅう」と鳴く、現在ペットショップでの売れ筋が右肩上がりだという動物。
「いいですか? 通常数センチほどの長さしかないケセラの毛を、長毛を言っても差し支えない長さに、そしてなおかつ毛の持つ柔らかさと温かさ、そして手触りの良さを残しつつ、毛の量だけはそれまでよりも倍増となるように品種改良するのに一体どれだけの時間と金を費やしたと思うんですか! まず、普段の生息地ではなく寒冷地帯へ……」
「え、いやあの、別に『まるはち』さんの仕事内容を知りたいわけではないんですが」
 熱く語り出す『まるはち』社員に、A.R.O.A.の受付職員は戸惑いながらストップをかける。すると『まるはち』社員は、コホンと一つ咳払いして本題に入った。
「つまりですね、その俺達の血と汗と涙と癒しの結晶である長毛種ケセラの毛刈りをしようとしたら、何か変な生き物が邪魔してスムーズに出来ないんですよ」
「……変な生き物?」
 一言で言えば、骨ばった小人のモンスター。
 一般的にも見かけるモンスターのグレムリンに似ているけれど、それよりさらに小さく、せいぜい十五センチほど。カタコトの人語も話し、さらには小さな小さな槍で武装して飛び回るのだという。
 そいつがいると電動毛刈り機が動かなくなるし、仕方なく昔ながらの鋏で毛刈りをすれば頭を蹴ってきたりケセラに乗っかったりと、悪戯をして邪魔をしてくるのだ。
「せっかく去年からケセラの毛を使った商品開発を本格的にやり始めてるのに、肝心の毛が間に合わないとか、勘弁して下さいよ、商売上がったりですよ! 今年のクリスマスの『まるはち』ギフトの目玉なんですよ?! どうしてくれるんですかこの職務怠慢団体が!!」
「知りませんよ『まるはち』さんのご都合は! 何でこっちの職務怠慢になるんですか!!」
「は? 何言ってるんですか、知ってるんですよ、ウィンクルムはここら辺の町とかスノーウッドの森辺りのどよーんとしたいやーんな空気を、ラブな感じで楽しい空気に変えてキレイキレイしましょうって事になってるんでしょう? ネタは上がってんだよ、どうだお前らの仕事だろう?!」
「あんた依頼に来たのか脅迫に来たのかどっちなんだ!!」
「依頼デスヨ、ヤダナァ! いいじゃないですか、ケセラですよケセラ! ふわふわもこもこわっさりの毛玉ですよ! それを触れるんですよ頬ずりできるんですよ顔をうずめる事も出来るんですよ!!」
「いや、顔うずめるのはケセラが可哀想でしょうが!!」
「はぁ?! 猫とか犬とか飼った事ないんですか?! そこに! 毛玉がいたら! 顔はうずめるものなんですよォ!!」
 バンッ!! と受付の机を両手で叩き付けた。
「……依頼、受けてくれますよね?」
 何故か勝ち誇った笑みで社員は告げる。それに対してA.R.O.A.受付職員は、よく分からない敗北感を味わいながら「…………はい」と答えた。
「毎度ありがとうございまーす! それでは『まるはち』主催の『邪魔者に負けるな逃がすな捕まえろ! ケセラ毛刈りツアー』へご案内しまーす! ツアー代金の詳細はこちらとなっておりますどうぞ!」
「金取るのかよ!!」
 今度はA.R.O.A.受付職員が、ダンッ!! と受付の机を拳で叩き付けた。

解説

ケセラの毛刈りをして下さい。

『まるはち』の飼育小屋には数え切れないほどのケセラで溢れています。
ケセラはどの子も人に慣れていますので、呼びかければ近寄ってきます。
様々な毛色のもっさり毛玉、じゃなくてもっさりケセラがいますので、どの色の毛玉、じゃなくてケセラと関わりたいのか、何匹関わりたいのかプランに書いて下さい。
書かれていない場合はこちらで決めさせていただきます。
戯れまくってから毛刈りをするもよし、必殺仕事人の如くひたすら毛刈りをするもよし。
ご自由にお楽しみください。ただし、ある程度は毛刈りをしてくださいね。

途中、変な生き物が、髪を引っ張ったり、槍でつついたり、ケセラと逃避行したりと、毛刈りの邪魔をしてきます。
変な生き物は複数いるようですが、ウィンクルム一組に対して一匹ずつしか出てきません。つまり、ウィンクルム同士で協力して毛刈りをしていると、一気に複数匹出てきますので、お気をつけ下さい。
ガン無視してもいいですし、追っ払うだけでもいいですし、捕まえてもいいです。
『まるはち』としては捕まえてくれると「新種の生き物ひゃっほい!」と喜ぶようです。


<ツアー代金詳細>
・参加費+鋏レンタル料 300Jr

オプション
・電動毛刈り機レンタル料 100Jr
 ……鋏より手早く綺麗に毛刈りが出来ますが、変な生き物が近くにいると動かなくなります
・ケセラの餌(ナッツ) 50Jr
 ……ケセラは人見知りしませんが、餌を持ってると、より集まってきます
・蝿叩きレンタル料 25Jr
 ……変な生き物は素手でも充分叩いたり捕まえたりできますが、直接触りたくない方はどうぞ

ゲームマスターより

冬の寒い日、毛玉に埋もれて楽しんできてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  毛玉と一緒に毛玉もふもふで毛玉パーティーだね

飼育小屋に入ったら購入したナッツを持ってしゃがみ込む
本当に毛足が長いんだね。もこもこだ

数匹のケセラに囲まれたらカット開始
手櫛で梳きながら毛並みを整えるようにして切るよ
ん。すっきり。一回り小さな毛玉になったね。可愛い可愛い
一匹終わったら次の子へ
ほら、じっとしていて。絡まっちゃうよ

邪魔をしてくる小さい生き物はべしっと捕まえて眺めてみる
拘束は解かずにケセラの隣に置いてみる
…ん。これはこれで。悪戯しちゃだめだよ

おや。どうしたの毛玉兄弟、傾いてるよ
ん?似たような毛色だったからつい

それなら家に帰ったらアクアの髪も整えてあげようか
出来あがりは保障できないけれど、ね




柊崎 直香(ゼク=ファル)
  我が精霊は言いました。
「良い毛並みを見ると撫でたくなる」と。

ということで今日はキミにぴったりの依頼を見つけてきたよ
僕に感謝しながら勤労したまえ
ケセラたんカモーン!
恥ずかしがり屋ゼクにはナッツを渡しておこう(オプション:餌
これで誘き寄せて刈っておしまい

背後の警戒は任せろー
軍手装備で変な生き物捕獲目指すよ
直接触るのは躊躇うけど道具使って力加減誤ってグシャアとか
それはそれで嫌だしね
ケセラに意地悪するなら全力で阻止、首根っこ掴まえちゃる
ゼク相手ならしばらく様子見。
どんな攻撃してくるのかなとか観察だよ

毛刈りは少しなら手伝ってあげよう
この白ケセラたんはゼクの髪色とそっくりだね
ついでに長毛種精霊も刈っとく?


栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  ふふ、本物のケセラを触るのは初めてだ…あれ、この子達は夢で触ったのより毛が長いんだね…そうだったっけ?
まぁ、どっちも可愛いよね
じゃぁ、お近付きの印に…(餌を取り出し)
わわわ…ふふ、そんなに勢い付けて来なくってもちゃんと皆に上げるからねー
(餌めがけて押し寄せるケセラに埋もれながら楽しそうに)

わぁ…アル凄く手際良いね。あっという間にケセラが短く…
あ、なんかいる…。あっ!あー…(くすくす笑いながら)邪魔をされちゃうのは困るね
じゃぁ捕まえる?
(籠を棒で立て掛けて中に餌を置く典型的な罠をセット)
…んー…ケセラも何匹か入っちゃったけど良いかな?

(捕まえた小人は献上する)

ふふ、もうもふさせてくれてありがとう


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ大歓迎

ケセラとは初めて見ました
ふわふわ・・・コホン!では、はじめましょうか
餌を食べた子から順番にこちらに来てください

(ひたすら無言で毛刈り)
ん?あぁ、これが噂の生き物ですか
どうにかした方が良いのでしょうが・・・今回の依頼は毛刈りがメインですからね
原因も分からないようですし、毛刈りの邪魔にならない限りは無視
もしくは手で追い払う
先生も戯れるのもほどほどにして手伝ってください

・・・・・・よく捕まえられましたね
さすが先生です
閉じ込められる箱か何かを借りてきますので、そのままでいてください

多少は毛刈りのお役に立てたでしょうか
捕まえた生き物も何か分かればいいのですが…
(ふわふわ・・・可愛かった)


■仕事を忘れさせるこの毛玉
「我が精霊は言いました。『良い毛並みを見ると撫でたくなる』と」
 小指を立ててエアマイクを持ち、『柊崎 直香』は語り出す。
 目の前にはケセラの飼育小屋。この中にはふわもこの毛玉が待っている。
「ということで今日はキミにぴったりの依頼を見つけてきたよ、僕に感謝しながら勤労したまえ。ケセラたんカモーン!」
 バン! と音を立てて勢いよく扉を開けば、色とりどりの毛玉の群れが何事かと直香達の方を見る。
 注目を浴びながら直香は『ゼク=ファル』に購入したばかりのケセラの餌を渡す。
「お前は餌はいらないのか?」
「僕は頑張って努力するからいいんだよ。それより恥ずかしがり屋のゼクには必要でしょ。これで誘き寄せて刈っておしまい」
「恩着せがましく言っているがつまりお前働く気ないな」
 何のこと? と言わんばかりに直香は目を逸らして可愛らしく舌を出した。

 二人は早速作業に取りかかる。
 ゼクが一箇所に腰を据え、床にパラパラと餌を置いてみれば、ケセラ達はわらわらと集まって毛玉溜まりが出来た。ちなみに直香は『まるはち』社員の方へ向かってしまった。
(たしかにケセラは気になっていたが、少し撫でてみたい、という程度の興味でこんな大量に……)
 夢中になって餌を食べるケセラを撫でながら溜息をつく。
(まあ、その、たしかに良い肌触りだ)
 ケセラの毛を梳くように撫で続ける。ケセラは気持ち良さそうに小さな目を細める。
(やわらかくて潰してしまわないか心配になるな)
 ケセラのとがった耳をそっとさする。ケセラは擽ったそうに「もきゅぅ」と鳴く。
(鳴き声まで愛らしいだと……)
 ケセラの更なる魅力を引き出そうと喉のあたりを撫で始めた時。
「刈り方が分からなかったら遠慮なく言って下さいねー、教えますからー」
『まるはち』社員の声が響いて我に返る。
 仕事だった。
 かくしてようやくゼクは毛刈りに取りかかる。『まるはち』社員に刈る毛の長さや刈った毛の集め方等を確認しながら。

 噂の変な生き物に関しては軍手装備で捕獲の方向で臨もう。だって直接触るのは躊躇うし、かといって道具使って力加減誤ってグシャアとかも嫌だし。
 そう思った直香は軍手を借りにいったのだが、どうやら予備の軍手は無いらしい。
 さてどうしようかと思ったのも束の間。
 持ってきた荷物にいいものがある事に気付いた。

 ゼクは毛刈りを進める。近くのケセラから順に、教えられた通りに毛を刈る。
「少し大人しくしていてくれ」
 刈る時は軽く押さえつけるのだが、そうなるとふわふわな毛皮に触れるわけで。
 軽く押さえつける筈が、気がつけば撫で撫でしてしまう。
(やはり理想の指通りだな……)
 この滑らかさ、しかしふんわりと柔らかく、何かもうとにかくずっと触って撫でていたくなるこの温もり、などと思った時。
「やってるかねゼク君! まだ謎の生き物には遭遇してないね? よし、それなら今後、背後の警戒は任せろー」
 やたらと元気な神人の声が響いて我に返る。
 仕事だった。
「おい、待て、それで何をする気だ」
 ジトリと睨むゼクの視線の先は、直香の右手。
 そこにはゼクそっくりのパペットがはめられている。
「ケセラに意地悪するなら全力で阻止、首根っこ掴まえちゃる」
 ゼクパペットをぱくぱくさせながら、直香が声色を変えて言う。
「全力阻止はいいが、何故それをつけてるんだ、いつ俺の荷物を漁った」
「だってゼクの荷物は僕の荷物、僕の荷物も僕の荷物だし!」
「俺の荷物は俺の荷物だ!」
「ケセラたん安心してね、ゼクパペが変な生き物をガシッと掴んでグシャアってするからね!」
「やめろ馬鹿!!」
 思わず怒鳴るゼクの足、丁度右腿の辺りがチクチクと痛む。
 見れば謎の生き物が「ウケケ!」と笑いながら、ゼクの右腿をチクチクと槍で刺している。
 怪我まではいかない小さな刺激。だが、間違いなく邪魔をされている。
「ところで先程から妙な生き物の攻撃を受けている気がするんだが」
 自分でも払いのけられる生き物を、敢えて指差して直香に教える。
 直香はにっこりと笑う。
「ゼク相手ならしばらく様子見。どんな攻撃してくるのかなとか観察だよ」
 ゼクもにっこりと笑う。
「直香。少しは働け」
 ゼクの周りにいたケセラ達が何かのオーラを察したようにピャッと逃げ出した。

 グシャアとはしなかったが、本当にゼクパペットで謎の生き物を捕獲した直香は、そのままパペットで抱きしめるように謎の生き物を縛りあげた。
「さて、毛刈りは少しなら手伝ってあげよう」
 この白ケセラたんはゼクの髪色とそっくりだね、と一匹持ち上げて鋏を構える。
 ちょきちょきじゃくじゃく、鋏は進む、進む進む。
「自然な流れで俺の髪を切ろうとするな」
 さり気無くゼクの髪をジャッキン! という計画はばれた。
「ついでに長毛種精霊も刈っとく? と思っただけなのにー」
「長毛種精霊って何だ……俺はそんなに白くない。銀髪だ」
「え、ゼクのこだわりそこ?」
 ケセラも食わない二人の会話は止まらない。きっとケセラの毛を刈り終わっても。


■毛玉はもふもふを楽しむものです
「ふふ、本物のケセラを触るのは初めてだ」
 飼育小屋に入って早速足元の紫色のケセラを抱えあげたのは『栗花落 雨佳』だ。
 以前、依頼で夢の中に入った時にケセラに触れた事があった。だが夢と現実の違いか、手触りが違う。その事に雨佳は首を傾げ、そして気付いた。
「あれ、この子達は夢で触ったのより毛が長いんだね」
「いや、説明で長毛種に改良されたって職員が説明してただろが……」
 呆れ混じりに『アルヴァード=ヴィスナー』が言うが、雨佳は特に気にした様子もなく。
「そうだったっけ? まぁ、どっちも可愛いよね」
 と笑ってケセラを撫で続けた。
(聞いてなかったんだなコイツ…)
 突っ込むのも面倒臭くなったアルヴァードは毛刈りをする為の場所を確保し準備をした。
 それを確認した雨佳が、ケセラを集めようと購入した餌を取り出す。
「じゃぁ、お近付きの印に……」
 まずは抱えているケセラの為に取り出した餌だったが、餌の気配か匂いかをキャッチした他のケセラ達もワサッと集まってきた。
「わわわ」
「って! おい、大丈夫か!? こら、そんな沢山で群がんなっ」
予想外の群がりように、何という事でしょう、あっという間に毛玉の塊(人間大)が出来上がってしまいました。
「ふふ、そんなに勢い付けて来なくってもちゃんと皆に上げるからねー」
 餌めがけて押し寄せるケセラに埋もれながらも楽しそうに笑う雨佳に、必死でケセラを追い払うというかケセラの山を掻き分けていたアルヴァードは、一気に脱力して深く溜息をついた。
「さっさと終わらせちまおうぜ……」
 そうだね、という返事は毛玉の塊から聞こえた。下手したらちょっとしたホラーだ。

 作業は進む。アルヴァードは素早く慣れた手つきで毛を刈っていく。
「わぁ……アル凄く手際良いね。あっという間にケセラが短く……」
 二回りほど小さくなったケセラを指先で撫でながら、雨佳は感心の声をあげる。
「まぁ、この時期になると羊の毛刈りやらされてたしなぁ。このサイズだとジャガイモ向いている感覚だが……」
 なんて事は無い、と口にするが、それでも何処か心の片隅がくすぐったくなる。それを表に出すほど子供ではないが。
 そんなアルヴァードの心境にまるで気付いていない雨佳は、アルヴァードの頭の上をふよふよ浮いている謎の生き物に気がつく。
(あ、なんかいる……)
 危ないかも、と声をかけようとするが。
「あっ!」
「っ痛ぇ!」
 一歩遅かった。
 謎の生き物が小さい細い足でアルヴァードの頭をカツンと蹴ったのだ。
「あー…」
 くるくると頭上で回りながら「キャキャキャ!」と笑っている。その笑い声をギッと睨みつけるのは、当然、アルヴァードだ。
「くっそ、例の悪戯する生物か……ナメた真似しやがって……」
「邪魔をされちゃうのは困るね」
 くすくす笑う雨佳に「笑うな!」と訴えれば、笑顔のままきょろりと周りを見回す。
「じゃぁ捕まえる?」
 典型的な罠をつくろうよ、と雨佳の発言により、急遽罠作りが始まった。
 材料はこちら。普段はケセラ達の餌が大量に入れられるプラスティックの深皿、そしてアルヴァードが持っていた雪だるまステッキ。
 まず、深皿をひっくり返します。それを雪だるまステッキで立て掛けて、中に餌を置いたら出来上がり。皆様もご自宅で是非。
「……いや、無理だろ」
 満足気な雨佳の後ろでアルヴァードが呟く。
「え、駄目かな」
「だってそれ、ケセラの餌だろ」
「あ」
 何という事でしょう、あっという間に毛玉の塊(机大)が出来上がってしまいました。
 そしてさらに何という事でしょう、腹を抱えてケラケラ笑っていた謎の生き物は、集まった毛玉をアルヴァードにやったように蹴飛ばそうとして、うっかり毛に足を絡ませて引っかかってしまいました。
 それを何とも言えない顔で確認した二人は、『まるはち』社員を呼んで「ワナダ! ワナダ!」と喚く生き物をそっと献上した。
「なんというか……間抜けな生き物だったな」
「そうだね」
 珍しく二人とも乾いた笑みという似た表情で「ワナダー……!」と遠ざかる声を見送った。

 邪魔者もいなくなり、二人は集中して毛刈りを再開させる。
 黙々と毛を刈るアルヴァード、刈られたケセラを撫でて毛を払い整える雨佳。
 二人の協力が実を結び、目に付くケセラはあらかた刈り終わった頃。
「お前……最後まで毛刈りやらなかったな」
 アルヴァードが薄々感じていた衝撃の事実をポツリ。
「ふふ、もふもふさせてくれてありがとう」
 雨佳は楽しそうに微笑んだ。


■毛玉を堪能した日
 楽しみにしていたのは『暁 千尋』よりも『ジルヴェール・シフォン』の方だっただろう。なにせ飼育小屋に入る前から「沢山の毛玉に埋もれたいわ」とうきうきしていたのだ。
「ケセラとは初めて見ました」
 飼育小屋に入りふわもこのケセラに囲まれ、まず千尋が感想にもならない発言をする。その横では早速ジルヴェールが一匹抱えあげてぎゅっと抱きしめた。
「ふふ、可愛い! もふもふだわぁ」
 抱きしめる力が強かったのか、ケセラが「きゅー!」と声をあげる。
「あら、苦しかったかしら? ごめんなさいねぇ」
 慌てて拘束を緩め、そして「お詫びじゃないけど」と言いながら餌を差し出す。
「はい、これどうぞ」
 するとさっきの苦しそうな鳴き声は何処へやら。元気よくカシカシと食べ始める。さらに、他のケセラ達もジルヴェールへぴょこぴょこ群がっていく。
「あ、あらあら……思ったよりたくさん寄ってきちゃったわね……」
 困惑するジルヴェールをよそに、千尋は目の前に出来上がっていく毛玉の塊に目を奪われていた。
「ふわふわ……」
 ちょっと目が輝いているように見えるのは気がするのは気のせいだろうか。ジルヴェールが「チヒロちゃん?」と呼べば、ハッとしてわざとらしく咳をした。
「……コホン! では、はじめましょうか。餌を食べた子から順番にこちらに来てください」
 千尋の発言は当然ケセラには通じない。餌を食べても特に千尋の方へ向かう様子は無い。
 千尋は無言のままケセラを抱えて毛刈りを始める。
(あらカワイイ、チヒロちゃんもちょっと浮かれてるのかしら)
 真面目な千尋らしい失敗を、ジルヴェールは微笑ましく見守った。

 ひたすら無言で毛刈りを進めていくと、ふわふわな視界にいきなり筋張った生き物が入り込んできた。
「ん? あぁ、これが噂の生き物ですか」
 刈ろうと軽く押さえ込んだケセラの上で、寝転がり足を組みくつろいでいる謎の生き物。
 攻撃をしてくるわけでもない。が、どうしようもなく邪魔だ。やめろ、何故セクシーポーズに切り替えた。
(どうにかした方が良いのでしょうが……今回の依頼は毛刈りがメインですからね)
 入り込んできた原因も分からない今は対処の仕様も無い。よって、毛刈りの邪魔にならない限りは無視。もしくは手で追い払う。それでいいだろうと判断した千尋は、ケセラの上で女豹ポーズを取り始めた謎の生き物を手で叩き落とした。「イタイ! ヒドイ!」という声は聞かなかった事にした。
「先生も戯れるのもほどほどにして手伝ってください」
「はいはい、ちゃんとお仕事もするわよぉ。でもちょっともったいない気もするわねぇ」
 きゃっきゃうふふとケセラ達と戯れていたジルヴェールは、名残惜しそうに膝の上のケセラを撫でて返事をし、ようやく毛刈りを始めた。
 しかし、すぐに作業が止まってしまう。
「あらあら、ダメよ。邪魔しないでちょうだいな」
 謎の生き物が今度はジルヴェールの周りを飛びながら、ありもしない胸を強調させるようなポーズをとって「アハン! ウフン!」とか言っている。何なんだろうこの生き物。
 ジルヴェールは追い払おうとして、しかし、思わず素手で捕まえてしまう。
 咄嗟の反応だ。意識したわけではない。だからこそ、捕らえた本人も動揺して千尋に救いの目を向けた。
「……よく捕まえられましたね。さすが先生です」
 一連の動きを見てしまった千尋は、毛を刈る手を止め、褒めているのか引いているのか分からない感想を述べる。違う、ジルヴェールが求めているのはそんな言葉ではない。
「……ち、チヒロちゃん、これどうしたらいいのかしら……!?」
「閉じ込められる箱か何かを借りてきますので、そのままでいてください」
「えぇっ、このままで待つの!?」
『まるはち』社員を探しに行く千尋の背中へ、ジルヴェールは「お願いね! 少しでも早くしてくれると嬉しいわ!」と若干引き攣った声をかけた。

 結局、謎の生き物は余っていた刈った毛を入れる袋に入れた。時折漏れた「ヤメテ! ヨシテ!」という声は聞かなかった事にした。
「多少は毛刈りのお役に立てたでしょうか。捕まえた生き物も何か分かればいいのですが……」
 毛刈りを終え、刈った毛の入った袋と謎の生き物が入った袋を持って一日を振り返る。
 よく分からない邪魔も入ったけれど、印象に残っているのは。
(ふわふわ……可愛かった)
 二回りほど小さくなったケセラ達が、飼育小屋の中を元気に飛び跳ねている。
「ケセラちゃん可愛かったわねぇ。一匹くらい貰えないかしら?」
 じっと見ている千尋にジルヴェールが唆す様に囁く。ハッとした千尋はまたわざとらしく咳を一つ。
「コホン! 『まるはち』の子なんですから貰えませんよ」
 至極、真面目に答えた。
「……ふふ、冗談よ」
 ジルヴェールは微笑む。さっきのケセラに心惹かれた様子の千尋を思い出しながら。


■毛玉に見え隠れするとある感情
「毛玉と一緒に毛玉もふもふで毛玉パーティーだね」
「一番最初の毛玉って間違い無く僕ですよね。今日そんなにもこもこした格好していないのですが……!」
 訴える『アクア・グレイ』に『木之下若葉』はふるりと首を振り「格好の問題じゃないよ」答えた。
 わからないかなぁ、とふんわりした雰囲気を持つアクアのふんわりとした髪をじっと見つめたが、やっぱりアクアはいまいちピンと来てないらしく、不思議そうに小首を傾げながら飼育小屋の扉を開けた。
 色とりどりのケセラ。毛玉。ふわふわもこもこ。まさに毛玉パーティー。
「これは圧巻」
 若葉は先程購入した餌を手に乗せてしゃがみ込む。同時にアクアもしゃがみ込んで「おいでー」とケセラを呼ぶ。
 次の瞬間には、目を輝かせたケセラが二人目掛けて集まってきた。
「本当に毛足が長いんだね。もこもこだ」
「わわっ! もこもこふわふわ。この子は真っ黒さんなんですね……目、どこなんでしょう…?」
 集まってきたケセラを撫でたり抱えたりしながらのんびりと話しているが、二人は既に毛玉で埋もれている。
 二人を遠巻きに見ているものがいたらこう思うだろう。
 もこもこふわふわの毛玉の塊……で、人は何処にいるんだ……? と。

 予想以上に集まったケセラに囲まれながら毛刈りを始める。
 若葉は丁寧に手櫛で梳きながら、毛並みを整えるように切っていく。
「ん。すっきり。一回り小さな毛玉になったね。可愛い可愛い」
 二回り小さくなったケセラを、いい子いい子と撫でて解放し、次の子へと取りかかる。
「ほら、じっとしていて。絡まっちゃうよ」
 子供へ向けたかのような口調はケセラには通じる筈も無いが、隣で聞いていたアクアが小さく笑った。
 と、そこへ見たことの無い生き物が飛んできた。
 空中でやたらときびきび動き、小さな槍を使って若葉を誘うと威嚇、もしくはケセラを誘うと威嚇。しかし本当に攻撃はしない。「カ、カカッテコイ! カカッテコイ!」と連呼しているが、動きに誤魔化されずその身体を見ると、なんとも見事なへっぴり腰である。
 邪魔だ。しかし害はないだろう。そんなわけで無視を決め込んだ。
「んー……」
 暫く無視して毛刈りをしていたが、目の前や手元で威嚇されるとやっぱりどうしようもなく邪魔だ。
 よし、捕まえよう。
 思い立ったが吉日。若葉は鋏を置くと、謎の生き物を両手で挟むようにべしっと捕まえた。
「そんな蚊を捕まえるみたいに良く分からない生き物捕まえて!」
「大丈夫、潰してないよ」
「そういう事じゃないんです!」
 一部始終を見ていたアクアが突っ込むが、マイペースを貫き、捕まえた獲物を眺めてみる。「ヤ、ヤルカ?! オ?! ヤルカ?!」とあからさまに動揺している。
「元気だねぇ」
「いっそ可哀想になってきました。んー……とりあえず縛っておきましょうか。軽く」
 言ってアクアは周囲を見回すが、縛れそうなものが見当たらない。仕方なく刈った毛を入れる筈の袋を細長く畳んで何とか縛り上げた。
 そんな生き物を若葉はそっと持ち上げ、毛刈りを待つケセラの隣にそっと置いてみる。
「……ん。これはこれで。悪戯しちゃだめだよ」
 そんな若葉の言葉に、謎の生き物は一瞬ぐっと黙り、けれどすぐに「ウ、ウルセー! ウルセー!」と喚き出した。しかし、暴れる様子は無い。若葉とアクアは顔を見合わせて笑った。特に若葉は満足げな顔だ。
「この生き物は『まるはち』さんに最後お渡し致しましょうか」
「そうだね」

 視界に入るケセラはもうほとんど小さくなってきて、アクアの側にはあと一匹だけ長い子がいるだけだ。
 アクアが鋏を置いて振り返れば、若葉の周りで毛が長い子もあと数匹だけだ。
 ケセラに声をかけながら、撫でながら、真面目に丁寧に毛を刈っていく。
 そんな若葉を見ていると、アクアの側にいた最後の一匹、薄い水色のケセラがぴょこんと飛び跳ねてアクアの前に出てくる。
 何となくそのケセラと目が合ったので、掌に乗せてみた。
 ボクの毛刈りは? どうしたの? と言っているような「きゅい?」という鳴き声に、アクアは今自分が思ってしまった事を「ちょっと聞いてくれますか」と打ち明ける。
「ほんの少しだけですよ? ほんの少し、ワカバさんにカットして貰ってる、ケセラさん方がいいなぁ、なんて。思ってしまって」
 何だろう。この感情は羨望よりも、ほんの少し苦味が混ざっているような。
 何だろう。わからない。まだよく分からない。
「ナイショ、ですよ」
 だからケセラにだけ打ち明けた。打ち明ける事で自分の中で整理する為に。
「おや。どうしたの毛玉兄弟、傾いてるよ」
 ところが声がかけられる。いつの間にか若葉がすぐ隣にいた。
「け、毛玉兄弟って……!」
「ん? 似たような毛色だったからつい」
「そりゃ似てますけど……あの、もしかして聞いてましたか? ケセラさんと内緒話、の、はずだったのですが」
 声がどんどんと小さくなってしまう。聞かれていたなら恥ずかしい。けれどそんなアクアの心境を知ってか知らずか、若葉はあっさりと「うん、聞こえてた」と答え、内緒話だったんだ、ごめんね、と謝ってきた。
 うわぁ! と沈み込みそうな恥ずかしさを覚えたアクアに、若葉は「でも」と続ける。
「それなら家に帰ったらアクアの髪も整えてあげようか。出来あがりは保障できないけれど、ね」
 アクアはそれを聞いて、一度きょとんと目を見開いてから、満面の笑みになる。
「はい! 是非ともお願い致しますっ」
 元気に答えると、掌の同じ毛色のケセラが「もきゅ!」と嬉しそうに鳴いた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月04日
出発日 12月10日 00:00
予定納品日 12月20日

参加者

会議室

  • [3]柊崎 直香

    2014/12/09-01:04 

    クキザキ・タダカと申しますよ。どうもどうも。
    精霊がそわそわしてるので毛玉に埋もれさせてあげようかと思って。
    他意はないよ。

    各ウィンクルムで作業ってことでいいかな。
    ちなみにうちは変な生き物捕獲を試みる方向だよー。

  • [2]柊崎 直香

    2014/12/09-01:03 

  • [1]木之下若葉

    2014/12/08-22:17 


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