O.G.A.クッキングスタジオ(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「た、助けてください!」

 A.R.O.A.本部の受付に血相を変えて駆けこんできたのはエプロン姿の若い男だ。
エプロンの胸には、A.G.O.クッキングスタジオと書いてある。

「あらあら、どうされました?」

「実は、今夜の料理教室で使う予定だった食材が……オーガになっちゃったんです!」





 彼らのクッキングスタジオではタブロス郊外の農家から新鮮な食材を購入しているのだが、
男が言うには、今夜のディナー講座で使う予定の食材を届けてくれるはずの農家から、
家畜がオーガになったから、本日分の納品はキャンセルさせてほしいと連絡があったそうだ。

「そんなことってあるんですねぇー」

「感心してる場合じゃないですっ!
既に、本日のディナー講座は満席なんです、このままでは我がスタジオは大赤字なんですよ!

なので!」

 ばん!と男が興奮してカウンターを叩いた。

「ウィンクルムさんたちに、直接農家まで行ってもらって食材を取ってきてほしいんです!
ウィンクルムさんなら、オーガをやっつけられるんでしょう!?」

「それってつまり、オーガになった家畜たちを肉として持って来いってこと、ですか?」

「ええそうです!」

 いくら元家畜とはいえ、オーガの肉を口にしても大丈夫なものだろうか。
受付嬢の心配をよそに、男は話を進めていく。


「欲しいのは、鶏肉、豚肉、牛肉、それから羊肉です
あまり時間がかかると、他の家畜たちもオーガになってしまうかもしれないし
ディナー講座に間に合わなくなっちゃうかもしれないので、迅速にお願いします

それぞれ別の柵の中で飼われてると思いますので、
分担して事に当たるのがいいかもしれませんね

燃やしたりして、食べられなくなっちゃうのはアウトですので!」


では、よろしくお願いします!と男は勢いよく頭を下げた。



本気でオーガを食べる気のようだ。
受付嬢は、とりあえずウィンクルムたちに招集をかけた……

解説

●敵
オーガが4種類です。デミじゃないのでトランスしないと倒せません。

*ビーフ
牛のオーガです。HPと防御力がとても高いですが、素早さが低いです。

*チキン
鶏のオーガです。素早さが高いですが、他の能力値は全体的に低めです。

*ポーク
豚のオーガです。噛みつかれるととても痛いです。他の能力値はそれなり。

*ラム
羊のオーガです。毛刈り前なので、羊毛が武器に絡みつくかもしれません。

*グルヌイユ
げこげこっ。



●条件
そんなに強くない敵ですが、このあとお肉になりますので
燃やしてしまったり、原型を留めないほどにコテンパンにしてしまうと作戦失敗となります。
うまいこと手加減してあげてください。

ちなみに、現地までの移動はクッキングスタジオ専用ライトバンが、
精肉は農家のおじさんがやってくれますので、そのあたりはご心配なく。
安心してオーガ退治に専念してください。

ゲームマスターより

あごの名前のミラクルに気づいたら、いてもたってもいられずクッキングスタジオ第二弾です!
肉々しいオーガを退治しちゃってください!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リオ・クライン(アモン・イシュタール)

  A.G.O.クッキングスタジオというと、この間お菓子作りをやった所だな。(EP14参照)
というか、オーガなんて食べて害はないだろうか・・・。
ふむ、動きが素早いのなら・・・その動きをどうにかすればいいわけだな?

チキンを担当。

<行動>
・チキン達の気を引く囮役になる。
・チキンを誘き寄せるために、農家の人にお願いして鶏の餌を分けてもらう。
・トランスをしてから柵に入る。
「私もキミを信じるから・・・」(目を合わせ、ふっ・・・とほほ笑む)
・一緒に柵に入り、餌でチキン達を誘き寄せ、集まったところで精霊に合図を送り、急いでその場から離れる。
・万が一取り逃がしがあった場合、短剣「コネクトハーツ」でチキンに攻撃。



吉坂心優音(五十嵐晃太)
  アドリブ可

持ち物
ロープ

目的
ラムを出来るだけ傷つけずに仕留める

行動
・今回は体術重視で攻撃
・檻に入る前にトランス
・晃太のフォローをしたりする
・ラムがこちらに向かってきたら受け流す
・晃太が両目を潰したら片手剣の鞘で思いっきり頭をぶっ叩き脳震盪を起こさせる
・ラムがふらふらしてきたら晃太に止めをお願いする

「ねぇ晃ちゃん、オーガって食べれるの?
美味しいのかな~?
食べてみたい気はするけど、食あたりにはなりたくないなぁ
もし食べる機会があったら、その時は胃薬必要だねぇ」

「晃ちゃん、今回は傷つけないように仕留めるんでしょ?
難しいけど頑張ろうね~!
作戦通りだね~了解だよん♪
オーガだから容赦しなくて良いもんね~」


水田 茉莉花(八月一日 智)
  グルヌイユ、グルヌイユって…
ほづみさん、はっきり言わないで下さぁい!
しかもそれって…もう鶏のササミ食べられないわ…

で、ほづみさん、トランスは…します?
ああはい、わかりましたぁ(トホホ)

ほ、ほづみさん、先に行かないで下さぁい!
…う、グルヌイユグルヌイユ…ヤダヤダ来ないでってばぁ!
(モグラたたきのようにハリセンでカエル叩き)

うぅ、元々攻撃力がないから大丈夫ですよ
きゃあ!足で踏んだ!ゲコゲコ言ってる!
なんかムニュってした、ふくれてる、もーやーだー!
(涙目)

うー、終わった
食材の積み込み、手伝おうかな?
こうやってお肉になると…
命を頂くことが身に染みてわかる依頼だったわね
でも…今度から棒々鶏食べられないわ


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  顕現してからよくオーガと戦う夢を見るの
そしてそれが現実になる、予知夢って奴?
でもさすがにこれは、見たことないわぁ…

トランス後、ポークの柵に
まずは角付きを探さなきゃ…一応オーガなんだから、あるわよね?角
発見後、レムが引き付けている所に側面からフライパンで頭を狙って殴る
これなら攻撃力は低いし、スタンしてくれたらラッキーね
ポークへの攻撃が難しそう、またはこちらに向かってこられたら
フライパンを当てないよう牽制の意で振り回し後退
同じ柵に他の家畜がいたらフライパンで「しっしっ」って退かせる

精肉作業は専門の人がやるから死亡まで行かなくても大丈夫?
…じゃないわよね、オーガだからちゃんと仕留めないと捌けないわ



春加賀 渚(レイン・アルカード)
  オーガの肉、食べても大丈夫なのかな

ビーフを担当するよ
ディナー講座に間に合うよう頑張ろうね

そういえば初の戦闘依頼だね
トランスしなきゃ
…あの、目瞑ってていいからジッとしてて

レインさんが詠唱するのを邪魔させないようにしないと
前にでてビーフの気を引いてみるね
まともに相手してたら私が危ないから時間稼ぎに務めるよ
赤いハンカチでもひらひらさせてみて気を引けないかな

でも私が危険だからやっぱり早く倒して欲しいな
可及的速やかに詠唱を完了させた上で食材を損わないよう注意を払って攻撃して?
魔法が当たった後に私も追い討ちで武器で頭を突いてみるね

レインさん今度食べてみたら?
将来何かの役に立つかもしれないよ
私はいらないかな


「A.G.O.クッキングスタジオというと、この間お菓子作りをしたところだな」

「ああ、あの菓子食べ放題の……あれは美味かったな」

 待ち合わせ場所に到着した白いライトバンの腹に書かれたロゴを見て
リオ・クラインは先日のハロウィンパーティーを思い出したが
隣に立つアモン・イシュタールはどうやらお菓子の印象の方が強かったようだ。
彼が菓子を頬張っていた様子を思い出し、リオは微笑んだ。

「食材がオーガに
そんなこともあるのか、すげぇな……」

揺れる車内、レイン・アルカードがぼそりと呟き
聞いていた、春加賀 渚もふと思いついた疑問を口にした。

「オーガの肉、食べても大丈夫なのかな」


「確かに……
ねぇ晃ちゃん、オーガって食べれるの?美味しいのかな~?」

 渚の素朴な疑問に同じく疑問を持った吉坂心優音が
のんびりとした声で隣に座る五十嵐晃太に問いかける。

「さぁどうやろ?
過去の報告書には食べれない事は無いらしいし美味しかったらしいけど
食あたりとかに気ぃ付けへんとな
ってみゆ、食べる気かいな」

 高校生探偵とも呼ばれる晃太は事前準備も抜かりない。
資料室で、過去にあった似た事件の報告書を読んで依頼に臨んでいるようだ。

「食べてみたい気はするけど食あたりにはなりたくないなぁ
もし食べる機会があったら、その時は胃薬必要だねぇ」

 それ以前の問題やろ、と晃太がツッコミを入れる横で
レムレース・エーヴィヒカイトがバンを運転しているスタッフに詰め寄った。

「オーガの肉は瘴気があり人体には毒だと聞いたが
そのあたりのことは先方に話はつけてあるのか?
任務なら引き受けるがさすがにそこまでの責任は取れんぞ」

 だぁいじょうぶですってぇ!と何とも不安なスタッフの返事と共に
ライトバンは農家の門の前に到着した。

「本当に、大丈夫なのかしら」

 出石 香奈がぼそりと呟いた。




農家、と言うには大きな家屋と数種類の家畜を飼育できるほどの広大な農地。

「思ったよりも広いわね……」

 水田 茉莉花が農地を見渡して呟く。

「オーガ化したヤツを上手く隔離しちまえば、他の家畜には影響は出なそうだな」

 八月一日 智がそう分析した時、壮年の男が出てきてウィンクルムたちを出迎えた。

「どうもどうもウィンクルムさんたち、うちの家畜たちをよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げた男は、早速一同を農地の方へと案内した。


「倒したオーガは精肉所まで運んでもらえれば
うちの若いヤツらがぱぱっと片ァ付けますんで」

 それぞれの柵と精肉所の場所を教わると、ウィンクルムたちは行動を開始した。




●ラム肉のカシスソースがけ


「晃ちゃん、今回は傷つけないように仕留めるんでしょ?
難しいけど頑張ろうね~!」


「せやね、難しいでこりゃ……
取り敢えず作戦通りに行ってみよか」


 心優音と晃太が事前に立てた作戦は、武器を絡め取られてしまわない様
毛の生えていない顔、特に目を狙っていくというものだった。


「作戦通りだね~了解だよん♪」


「おん、頑張ろうな」

 そう言って、晃太が心優音の頭を撫で、少し身を屈める。


「さぁ真実を解き明かそう」

 そっと心優音が晃太の頬に口づけると、二人は橙色のオーラに包まれ、周囲を四つ葉のクローバーが舞った。


「オーガだから容赦しなくて良いもんね~」

「普通の動物やったらやりにくいしな」




柵を開け、農地内に入ると心優音と晃太は周囲を見回した。


「オーガなんだから、角が生えてるはずだよね~」

「ん、あの、一匹だけ群れから離れてるヤツ
アイツと違う?」


 
 晃太が指さす方には、確かに一匹だけ孤立した角の生えた羊がいるのが見えた。

俺が合図するまで心優音は待っといて、と言い残し
素早く羊に近づいた晃太が手にしたレインカトラリーを構える。

それと同時にオーガ羊も二人に気が付いたのか
他の羊よりもやや鋭い目でこちらを睨みつけ、その瞳に晃太の姿を捉えた。


「メェエエエ」


 地の底を這うような低い声で一鳴きした羊は頭突きの姿勢をとり晃太に向けて駆けだした。

頭突きの姿勢を取られたことで、真正面に立っていた晃太からは目を狙えなくなる。
オーガ化の影響か、思ったよりも素早い羊の動きに晃太は慌てて横に倒れこむように飛び退いた。
 

「晃ちゃん!」

「心配いらへん!」


 心優音の心配そうな声に、晃太はすぐに立ち上がり笑ってみせると
羊が自分に向き直るのを見て、すかさず胸の前で印を組む。

「陽炎!」


 晃太の体から立ち上った橙色のオーラが、晃太そっくりの姿に変わる。


陽炎で作った分身を羊の正面に立たせ
晃太自身は羊の頭突きの軌道から外れる。

標的が入れ替わった事に気づかないまま、羊は鼻息を荒くして駆けだした。


勢いよく羊の頭突きが当たった瞬間、晃太の分身は霞のように掻き消え
頭突きの勢いを殺せずバランスを崩した羊がぐらりとよろめいた隙を、晃太は見逃さなかった。

手にしたレインカトラリーで的確に羊の目を突くと
耳を劈くような悲鳴に顔を顰めながら、見守っていた心優音に合図を送る。


「みゆ、今や!」

「わかった、晃ちゃん!」


 目を貫かれたダメージから立ち直れない羊に心優音は急いで駆け寄り
羊の脳天目がけて、鞘に収めたままのウィンクルムソードの腹を思い切り叩きつけた。
ガツン、と鈍い音と共に、羊が白目を剥いて昏倒する。

「やった〜!晃ちゃん、あとはお願いね!」

「任しとけ!」


 晃太は作戦通り、レインカトラリーと羊の首元に宛がった……が

「なんやコレ!?」

 もぞもぞと蠢く羊毛がレインカトラリーに絡みついて刃先は羊の首まで届かない。

「なんか……気持ち悪いね~
仕方ないからロープにしよう、ね、晃ちゃん」

「せやな……」

 首元をかき切ることは諦め、二人は羊の首が締まるようにロープを結んだ。

「丁度ええ、このまま精肉所までひっぱってこ」

「持ち上げるの、大変そうだしね~」

二人でロープの端を持ち、羊を精肉所まで運びきった頃には羊はこと切れていた。




●ポークジンジャー

「あたし、顕現してからよくオーガと戦う夢を見るの
そしてそれが現実になる、予知夢って奴?
でもさすがにこれは、見たことないわぁ……」


ふごふごと鼻を鳴らす音がひっきりなしに聞こえてくる農地の側
香奈とレムレースは柵の中を覗きこんで
夢にも見なかったお目当ての一匹を探していた。

「まずは角付きを探さなきゃ……一応オーガなんだから、あるわよね?角」

「ふむ」

 柵の中を見回す香奈とは反対に、レムレースはそっと瞳を閉じ気配を探る。

「2時の方角に、良からぬ気配を感じる」

 静かに開いたレムレースの鉄黒色の瞳は、角の生えた豚を捉えていた。



「やってやろうじゃない」

 香奈の口づけで二人の体を玉鋼色のオーラが包み、トランスが完了すると

「ふごっ」

 二人の気配に気づいた豚が、ぎろりと血走った眼で睨みつけてくる。
鋭い牙を剥きだして唸る豚から香奈を守るように、レムレースが前に進み出るとその体からオーラが溢れだした。

「俺が相手になろう」

 レムレースのアプローチⅡで豚が香奈から意識を逸らしたのを見計らい
香奈はそっとバトルフライパン「新婚さん」を構えた。

じりじりと間合いを詰め……

「香奈、行け!」

「えいっ!」

 豚がレムレースに噛みつこうと地を蹴った瞬間、香奈のフライパンが豚の頭に炸裂する。
くわん、という良い音と共に、豚が不意を突かれて地に落ちる。が、まだ気絶させるには至らない。

起き上った豚はレムレースに飛び掛かろうと身構えるが、二度目の香奈のフライパンが叩きつけられた。

ごわん、と鈍い音が響き、一瞬豚の足の力が抜けたのがわかった。

「あとちょっとね!」

 香奈が三度目にフライパンを振りかぶると、豚が香奈の存在に気付き
香奈の腕を狙って鋭い牙の生えた口を開け、噛みつこうとしている。

(噛まれるっ!)

痛みに備えて目をぎゅっと瞑る。フライパンを振り回す余裕はなかった。

しかし腕に痛みが走ることは無く、フライパンが地面に当たる、がん、と言う音が香奈の耳に届いた。

目を開けるとすぐそばにレムレースが立っており、豚は先ほどよりも離れた位置で転がっていた。
レムレースが豚の頭を蹴り飛ばしたようだ。

「あ、ありがと」

「ああ」

 香奈が礼を言うと、レムレースは短く返事をしそのまま豚の方へと向かって行ってしまう。
フライパンで叩かれたダメージに加えて横っ面を思い切り蹴り飛ばされたためか豚は気を失っているようだ。

「気絶はしてるけど……精肉作業は専門の人がやるから死亡まで行かなくても大丈夫?
……じゃないわよね、オーガだからちゃんと仕留めないと捌けないわ」

 オーガの息の根を止めることが出来るのはウィンクルムだけだ。
いかに熟練の精肉業者と言えど、生きたオーガの解体は無理だろう。

「よしじゃあ、とどめを……」

 そう言って、香奈はもう何度目かのフライパンを振り上げようとしてレムレースに止められる。

「鈍器でとどめはやめておけ、繊維が潰れる
……俺がやろう」

 結局、この後食肉となる予定であることも踏まえ
大きな傷がつかないよう、レムレースがレイピア「そよ風」でとどめを刺したのだった。



●フライドチキン
「本当に、オーガなんて食べて害はないだろうか……」

 鶏の世話係に柵まで案内してもらいながら、リオが先程からの不安を口にした。

「家畜のオーガねぇ……
元々食用だし、イケるんじゃねえのか?」

「普通の人間は、キミのような鉄の胃袋を持っているわけではないのだぞ」

 アモンのなんとも無責任な発言にリオが釘を刺し、柵の中を覗き込んだ。

「んな、まるでオレが悪食みたいな……あれじゃねえのか」

「確かに角があるな
しかし、あの速さは……」

 悪態を吐きながらリオに続いて柵の中を覗きこんだアモンが鶏の群れの中
角が生えている一羽を指差す。

リオがそちらを見ると、オーガ鶏はかなりの素早さで走り回っていた。




「ふむ、動きが素早いのならその動きをどうにかすればいいわけだな?
……私が囮になろう
先程、世話係の方から餌を少し分けていただいたんだ」

 得意げに鶏の餌を取り出すリオを見、アモンは今まで抱いたことのない気持ちが胸に沸き起こるのを感じた。
恐怖に近いのかもしれない。ただ、今恐れているのは自分が傷つく事ではない。

「下手をして怪我でもしたらどうすんだ!」

 正体不明の恐怖の意味を探る間もなく、言葉が口をついて出る。

初めて見る剣幕のアモンに、目の前でリオが何を怒っているんだ、と目を丸くしているが
声を発したアモンでさえ、なぜ自分がそんな声を出したのかはわかっていなかった。

目を白黒させているアモンを見て、リオがふわりとはにかむ。

「私を心配してくれているのだな、ありがとう
だが、私達は共に戦うパートナーだろう? 大丈夫だ、私を信じてくれ」

 そう言って場違いなほどに綺麗に微笑むリオの瞳には
優しい声とは裏腹に、強い意志が輝いていた。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」


 リオがアモンの頬に口づけると、白風と黒炎が混ざり合うように二人を包んだ。
インスパイアスペルが今までにないほど重く感じられ、アモンは言葉を飲む。

立ち上がったリオが、柵内への入り口に手をかけ
声をかけようと息を吸い込んだアモンが何か言うよりも早く、振り返ってアモンの瞳を見つめた。

射抜くような瞳の光と、強気な中にも気品を感じさせる笑みで先ほどの言葉を繰り返す。

「大丈夫だ、私を信じてくれ
私もキミを信じるから」

 優雅な足取りで、リオは柵の中へと向かって行った。
我に返ったアモンも、慌ててリオの後を追った。



「さあ、鶏たち!エサだぞ!」

 柵の中でリオが餌を使ってオーガ鶏を誘き寄せようとする。
しかし、オーガ鶏は餌には見向きもせず、代わりに普通の鶏たちが一斉にリオに群がった。

「わっ、ち、違う、お前たちじゃなくてっ……」

 無理に振り払うわけにもいかず、リオはそのまま鶏たちを引き付ける形になってしまう。


(好都合じゃねえか)


オーガ鶏と一対一で向き合う形になったアモンは口角を吊り上げた。
鶏相手なら、リオが怪我をすることはないだろう。

「くらえ、トルネードクラッシュ!」

 アモンは鉞「足柄」の腹で鶏を打てるよう、計算して技を放つ。
鉞の腹で弾き飛ばされたオーガ鶏は気を失ってその場に落ちた。

「アモン!ほら、上手くいっただろう?」

「ったく……」

 餌の袋から手を離す事で鶏たちの群れから解放されたリオが
オーガ鶏の首を掴んで持ち上げるアモンに笑顔で駆け寄った。

その姿を見下ろして、怪我がない事を確認するとアモンは安堵し、
安堵した自分に気が付いて驚いた。

(何なんだ、この感じ……オレはコイツが傷付く事を恐れてる……?)





●ビーフシチュー

「そういえば、初の戦闘依頼だね」

 呟いた渚の目の前の柵の中には、角が三本生えた牛が一頭いた。
他の牛たちは危険を察知してか、広い農地の中で散り散りになっている。

二人にとっては初めてのオーガとの戦いだ。
恐怖か緊張か、はたまた武者震いか。笑う膝に力を入れ、レインは音を立てて唾を飲み込んだ。

「レインさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ、心配するな
渚は俺が守ってやるからな!」

 やや裏返った声にレインの本心を察し、渚はくすりと笑った。

「ディナー講座に間に合うよう頑張ろうね
そうだ、トランスしなきゃ」

「トランス、というと」

 レインは記憶を手繰り寄せ、職員から聞いたトランスの方法を思い出し急に慌てだす。
一気に挙動不審になるレインに上手く口づけできない渚が業を煮やした。

「目瞑ってていいからジッとしてて」

「はい……」

「夢がさめるまえに」


 渚に言われるまま目を瞑ると、頬に当たる柔らかい感触。
全身を包む暖かな気配にレインは思わず目を開けると、輝くオーラが自分と渚を包んでいるのがわかる。

「これが、トランス……」

体内に漲ってくる力にレインはぎゅっと拳を握った。




「私が前にでてビーフの気を引いてみるね
レインさんが詠唱するのを邪魔させないようにしないと」

 渚が牛の木を引いている間にレインが魔法を詠唱し、一気に倒してしまう作戦だ。
渚に危険が迫るのを避ける為、迅速に詠唱しなければならない。

「大丈夫か?あんまり無茶するなよ」

 心配するレインに、渚はもちろん、と笑う。

「まともに相手してたら私が危ないから時間稼ぎに務めるよ
可及的速やかに詠唱を完了させた上で食材を損なわないよう注意を払って攻撃してね?
魔法が当たった後に私も武器で頭を突いてみるね」

「注文多いって!」

 事もなげに笑みを浮かべて話す渚だが、なかなかにレベルの高い要求内容は
初めて見るオーガの姿に只でさえ身を固くしているレインの緊張に拍車をかける。


一方渚は変わらずマイペースだ。
赤いハンカチでもひらひらさせてみて気を引けないかな、とポケットを弄るが
残念ながら使えそうな物は無かったので
仕方なくウィンクルムソードで威嚇・囮を引き受けることにし、柵を開け中へと足を踏み入れる。

渚が農地へ入って行くのを見て、緊張していたレインも
掌に人と3回書いて飲み込み、渚の後を慌てて追った。



「もおおお」

 三本角の牛が、農地への侵入者を警戒するように前足の蹄で地面を掻き、威圧感のある声で一鳴きした。

その迫力に気圧されながらもレインが渚の背後で魔法の詠唱を開始し
渚はレインを背に庇い、ウィンクルムソードを見よう見まねで正眼に構える。
赤くはないが、きらりと光る刃先に興味を持ったのか牛はぎろりと渚を睨みつけ突進しようと力を蓄えていた。


「レインさん、どれくらいかかりそう?」

「まだ、もう少し……!」


 牛の突進を正面から受けるのは危険だが、突進がレインに当たるのも避けたい。
レインが戦闘不能になれば、攻撃する術は渚の剣のみとなってしまうのだ。

渚は考えた末に剣の切っ先を牛の方に向け、腰を落として柄を腰のあたりに引き付けて突きの体勢を取った。

突進してきた牛の頭に突きを食らわせれば、動きを止めるくらいはできるかもしれない。
危険な賭けに備えて渚が足を踏ん張ったのと、牛が地面を蹴ったのはほぼ同時だった。

地響きを立てて、牛の角が渚の目の前に迫る。
次に来る衝撃に備え、渚は逃げ出したい気持ちを抑えて剣の柄をぎゅっと握り直した。


「小さな出会い!」

 背後からレインの声と共に、渚の頭の上を飛び越えたプラズマ球が放物線を描いて牛の頭を直撃する。
断末魔の悲鳴と共に倒れる牛、
その牛の数m眼前の渚もまた、危険を切り抜けた安心からか膝から崩れ落ちるように座り込んでしまった。
座り込んだ渚の側にレインが駆け寄る。

「大丈夫か渚」

「うん……なんともないよ」

 レインに支えられながら立ち上がった渚が答えると、二人で倒れた牛の亡骸を見遣った。

「ねえ、レイン」

「ああ……どうやって運ぶかな」





●グルヌイユのポワレ

「グルヌイユ、グルヌイユって……」

 農地へと向かう道すがら、茉莉花は一人頭を抱えていた。

「カエルだろ~カエル
げこっと、退治すればいいんだよ
ほら、池が見えてきた」

「ほづみさん、はっきり言わないで下さぁい!」

 智がはっきりと名前を出したそれに、茉莉花はいやいやと首を横に振った。

「そんなこと言ったって、どうせ退治するのは変わらねえだろ
それに、調理するとさ、鶏のササミみたいに美味ぇんだぜ♪」

「うう、もう鶏のササミ食べられないわ……」

 項垂れる茉莉花と目を輝かせた智が食用蛙の養殖池に辿り着くと
池の中には掌サイズの蛙がびっしりと泳いでいた。

「うええ、ほ、ほづみさぁん!」

「結構いるな
さて角の生えてるヤツはっと……お、いたいた
ほら、あいつだ、見ろよみずたまり!」

「見、見れませんー!」

 自分より背の低い智の肩に顔を埋めるようにして
必死に蛙たちを見ないようにする茉莉花だが、それでは依頼を達成できない。
意を決して薄目を開けて顔を上げた。

「で、ほづみさん、トランスは……します?」

「ふんむ……おれはいらねーと思うけど
必要になったらしようぜ
とりま、潰さねーように退治すりゃいいのよーん♪」

「ああはい、わかりましたぁ……って
ほ、ほづみさん先に行かないで下さぁい!」

 楽しそうに返事をしてさっさと柵の中に向かって行ってしまう智に
茉莉花は肩を落とす間も無く嫌々ながらも後を追った。


「カエルぴょこぴょこみぴょこぴょこってな~」

 機嫌よくオーガ蛙に近づき、スキルを発動させようとし、智ははたと気が付く。

(トランスしなきゃスキル使えねーじゃん!
しかもオーガだからダメージも通らねえ!)

「おい、みずたま……」

「きゃあ!足で踏んだ!ゲコゲコ言ってる!
なんかムニュってした、ふくれてる、もーやーだー!」

 すぐにトランスしようと茉莉花の方を振り向くが
蛙に囲まれパニックになりかけている茉莉花は涙目でハリセンを振り回していた。

「うぉい、みずたまり!落ち着け!」

「ほ、ほづみさぁん!」

 一旦茉莉花の手を引いて池から離れたところまで退こうとする智の後を
げこげこと大きな声で鳴きながら、角の生えた蛙が追ってくる。
ついに柵の端まで追い詰められてしまった二人に、じりじりと近寄ってくる蛙。

智は茉莉花を背に庇いながら叫んだ。

「おい、トランスだ!急げ!」

「は、はいっ……五月蝿い、黙れ!!」

 叫んだ茉莉花が智の頬に口づけた瞬間、智は蛙の迎撃態勢に入った。

「ハイアンドロー!」

 智が手にした同名のダブルダガーが蛙の急所に刺さり
跳ねながら近づいてきていた蛙はぼたりと地面に落ちた。


「うー、終わった……」


 茉莉花の呻き声のような勝利宣言が、午後の農地にぽつりと落ちた。





「いやあ、ありがとうございました
おかげでディナー講座には間に合いそうです」

 晴れ晴れとした笑みを浮かべるスタッフが、一同の労を労った。

「本当は今日のディナーも召し上がっていただきたいんですがねぇ、残念ながら人数分しかなくて
またぜひ、AGOクッキングスタジオを御贔屓下さい」

 そう言って、一同を本部前に降ろすと、ライトバンは黄昏の街に消えて行った。











数日後の新聞にAGOクッキングスタジオ、食中毒で1ヶ月間の営業停止処分!の見出しが小さく載っていた。






依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 11月05日
出発日 11月10日 00:00
予定納品日 11月20日

参加者

会議室

  • [11]出石 香奈

    2014/11/09-23:43 

    プラン提出完了よ。
    みんなお疲れ様、うまくいくといいわね。

  • [10]吉坂心優音

    2014/11/09-00:26 

    心優音:
    >香奈さん
    わぁアドバイスありがとうございます!
    そうですね、それなら目を狙って攻撃してみます!
    両目使わなくして、後はショック死とか自滅してくれれば…
    狙いを定めて頑張りますね(微笑)

  • [9]出石 香奈

    2014/11/08-23:57 

    >心優音
    それなら、毛のない顔面を狙ってみるのはどうかしら?
    シノビは片手剣も装備できるし、至近距離から刺突攻撃するとか。
    スキルは陽炎をセットしておけば、手裏剣装備でなくても使えるしね。
    あ、でも頬肉とか使ったりするのかしら…上手く狙いをつけないと。

  • [8]吉坂心優音

    2014/11/08-23:40 

    心優音:
    わわっ遅くなりすみません!!
    ではあたし達はラム担当ですねぇ♪
    羊の毛が邪魔になりそうだから、毛を刈ってからの方がやりやすいんですけどねぇ
    でも傷つけないようにだしなぁ…

  • [7]リオ・クライン

    2014/11/08-22:12 

    オーガは食用になるのか・・・?

    茉莉花さん達は久しぶり、その他の皆は初めまして。
    リオ・クラインという、パートナーはハードブレイカーのアモンだ。

    私達はチキンを担当しようと考えている。
    範囲攻撃技のトルネードクラッシュを使えば、運よく一撃でダウンできると思うが・・・。
    トルネードクラッシュⅡの場合は威力が強すぎるだろうが、手加減すれば大丈夫か?

  • [6]出石 香奈

    2014/11/08-21:18 

    オッケー、じゃあ各自分担ということで行きましょ。
    ならこちらは、『噛みつかれるととても痛い』…つまり攻撃力が高いってことかしらね?
    というわけでポークを担当しようと思うわ。
    二人とも柵の中に入って、レムがアプローチで引き付けてあたしがフライパンでスタンを狙うわね。

    どこ担当でも基本戦法は変わらないから、他に希望担当があれば変更も考えておくわね。

  • [5]春加賀 渚

    2014/11/08-21:08 

    春加賀 渚と申します。
    よろしくお願いしますね。

    依頼人さんも推奨しているし各自分担でよさそう。
    水田さん方がグルヌイユに立候補しているし、1体につき1組でいいんじゃないかな。

    こちらはエンドウィザードなので敵の足が遅い方が助かるかな。
    という事でビーフを担当できたらなって思ってるよ。
    柵の外から攻撃できたら楽だけど、柵突き破られても困るので中には入っておくね。

  • [4]吉坂心優音

    2014/11/08-18:38 

    心優音:
    香奈さんお久しぶりです!
    他は初めまして、ですかね?
    吉坂心優音とシノビの五十嵐晃太です〜
    宜しくお願いしますね〜♪

  • [3]水田 茉莉花

    2014/11/08-12:28 

    どうも、水田茉莉花です。よろしくお願いします。

    ・・・・・・って、アレよね、グルヌイユって両生類で皮膚呼吸してるアレよね!!
    い、逝ってみます。

  • [2]出石 香奈

    2014/11/08-09:42 

    あら?ごめんなさい
    読み返してみたらそれぞれ別の場所にいるのね…
    分担するってことなら、引き付ける作戦はあまり役に立たないかもしれないわ。
    あたしの方は狙う敵の再検討、
    レムの方は別の手を考えてみるわね。

  • [1]出石 香奈

    2014/11/08-09:38 

    出石香奈とロイヤルナイトのレムよ。
    心優音たちは久しぶり、他の人は初めましてかしら。
    今回もよろしくね。

    あまり時間はないけどとりあえず挨拶とあたし達の方針だけ…
    レムはアプローチ(ⅠかⅡはまだ未定)で敵の引き付け役を担当して
    頸椎等の衛生上食用には適さない、急所のある部位を狙ってレイピアで突き刺す攻撃。
    あたしは動きの遅いビーフの頭部を狙ってフライパンで殴ってスタンさせる。

    悪いけど今日はこれから夜までのぞけないからいったん失礼するわね。


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