プロローグ
「あー、さみぃなー、こんな寒い時はやっぱ鍋だよなー」
誰もいないと踏んでそんなことを呟けば後ろで声がする。
「そっすねー鍋っすねー」
「おお、お前いたのか」
A.R.O.A.本部の事務で男が二人。資料をまとめながら寒―い部屋でそんな話をしていたのだが。
「鍋パしたくないっすか?」
「いーねー、鍋パ……」
その時、良いタイミングで宅配便がやってきた。
「ちーす、お届け物でーす」
「はーい、ご苦労様です」
受け取り印を押して、受け取ったその発泡スチロールの箱はずっしりといい感じの重みがあった。これはもしかして。べりべりと包装をはがし、ふたを開ける。
「き、きたぁあああああ」
「おあつらえ向き過ぎだろおおお!!」
うおおおと男二人もろ手を挙げて喜ぶ。その箱に鎮座していたのは新鮮な海の幸たちであった。
「これはさ?俺たちに?鍋をしろって?いってるよね?」
「言ってる言ってる」
「いつもお世話になってるウィンクルムの皆さんも一緒に鍋パだー!!」
「おー!」
そうして二人はそれまでやっていた業務をほっぽり出してさっそく案内を作り始めるのでった。
*****
『鍋パのお誘い!
参加費:お二人様200Jr
寒くなってきましたので、みんなで鍋を囲んで温まりましょう!
鍋は三つ用意いたします。
A:海鮮鍋・海鮮だしのあっさり塩スープです。
B:キムチ鍋・辛くて美味しい!絹ごし豆腐がアクセントのチゲ風鍋です。
C:闇鍋・皆さんの持ち寄ったものを入れます。どんな味になっても責任は取りません!
基本材料費を参加費でいただきますが、持ち込みは自由ですので、じゃんじゃんご提案ください!鍋のほかのサイドメニューをお持ちいただいても(ちょっとしたおつまみとか、ごはんとか飲み物とか!)大歓迎です!』
「え、お前闇鍋?」
「いっかいやってみたかったんだよねー?だいじょぶだいじょぶ。AとBの鍋は聖域にしとくし」
「ほんっと悪ふざけが過ぎるぞ!」
にゃははと笑いながらもその広告をでかでかと貼りだす。さて、どんなことになるのやら。
解説
目的:お鍋を楽しもう。
参加費:一組様200Jr
メニュー:ソフトドリンク飲み放題(何を飲むかご指定ください)200Jr
酒類飲み放題(何を飲むかご指定ください。未成年ウィンクルム様はNGです)300Jr
白飯 50Jr
鍋です!どの鍋に何を入れたいか明記ください。(どの鍋に何種類入れてもOKです)
A:海鮮系でしたら何を入れてもOKです。ザリガニとかは勘弁してやってくれれば。
B:キムチ系ですので、海鮮もお肉もあうと思います。お好きなものをどうぞ!
C:闇です。ひたっすらに闇です。何を入れてもいいですよ(食べ物なら)食べても食べなくてもいいですけど……いや!案外
おいしいかもわかりませんよ!?出汁はとりあえずお醤油ベースだそうです。
ABCすべての鍋にかかわっても構いませんし、好きな鍋だけつついてもいいです。
関わっときながら食べないというのも構いませんけども、食材は大事にネ!
パートナーにあーんしてあげるのも醍醐味かも。
〆の食材をご提示いただくのもいいかもね!他の方と被ってしまったら抽選で選ばせて
もらいますのでご了承ください。
*他ウィンクルムとの絡みは多少出てくると思います。NGの方は絡みNGと明記ください。
*闇鍋以外のお鍋は示し合せOKです。闇鍋に入れる具材は掲示板などで明かさないよう
お願いいたします
ゲームマスターより
GM=グルメマスターの寿です。
寒いです!鍋しましょう!
Cの鍋はやばそうだぞ……という方はABのお鍋に逃げてくださいね!
どんとこいなかたは闇鍋楽しみましょう。
楽しいプランお待ちしています!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
お鍋の季節か そう言えば最近涼しくなってきたものね 白菜は重いから俺が持って行くよ お鍋はAとCを中心に Bのお鍋も気になるけれど 胃に余裕があったらアクアの少し貰おうかな 海鮮鍋には鱈を入れて 海老団子とか入れても美味しいよね 闇鍋は無難に餅を持って来てみたよ どんな鍋の味に対しても柔軟な対応が出来る子かなと思って あ、闇が進化して暗黒鍋になっていてもちゃんと食べるから大丈夫だよ 自分でも具を投入して育てたようなものだし ん。キムチ鍋も美味しそう アクアが作っていたのコレだったんだね 一口くれるの?じゃあ、遠慮なく この後〆でまた変身するんだってね、お鍋 どんな風になるんだろう きっと美味しいだろうし、ちょっと楽しみだよね |
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
目的 鍋パを満喫!(絡み歓迎) 投入具材 A:牡蠣、白滝(マギ) B:豚バラ肉、ニラ、エノキ (〆に俊と同じトマトと鶏肉入りのリゾット提案。とろーりチーズを乗せる!) 「鍋三種制覇が目標!まずは海鮮鍋から順番に…具はどんなのがあるのかな? 椀によそってもらいマギと一緒にはふはふ食べる。 次の辛~いキムチ鍋はたっぷり肉、肉!葱がトロトロでうまー。豆腐もアツアツ C:イカ墨、イカ、エリンギ 「具が闇色(黒)に染まる、まさに闇鍋!」 わははと自慢げだが被ってるかも? 汁を吸いやすい具材が真っ黒になったり、投入した具材が影との境界すら曖昧に。 汚れやすいのが難点だな アクアがあーんして貰っていたら キラキラした目でマギを見つめる! |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
精霊から奪取した財布の中身は カニちゃんへの愛に費やされましたとさ。めでたしめでたし 闇鍋の具材は我が家の冷凍庫冷蔵庫からかき集めてきた! あと色画用紙で席札作って持ってくよ 俊くんとシルヴァくんのはハート形に切り抜きお誕生日席を演出。 個人情報どこから漏洩したんだろうね。 そして闇鍋の前にゼクの名の書かれた札を固定 飲み物は炭酸系を次々(ソフトドリンク飲み放題 鍋はひたすら海鮮! 魔の食材に当たったら困るし辛すぎるのは苦手だし 僕食べる専門だから鍋奉行は他の人に任せる カニも牡蠣も美味しそう、あっつあつー ただし野菜、キミはダメだ。 あーん? デザート買ってきてくれたらしてやらぬこともない あとキミのそれはあーんじゃない |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
キムチ鍋メインに海鮮鍋もつつく 持込みは豚バラと追加の絹ごし豆腐 シメはチーズリゾット希望 普通の鍋だけ食ってれば安全… ってなんでそこで闇鍋の方に行くんだよお前は…っ!? 待て!そのケーキ俺のだろ!?人にやること… くっ…食べなきゃいけない空気に!? (恐る恐る一口) 雑味の混ざりまくったスープにとろける極上の生クリーム 玉子の風味が台無しな汁まみれのスポンジ 何故だ…何故こんなにも涙があふれるんだ… 不味いからだよ!?食えば食うほどクソ不味いわっ!? ケーキ部分だけ完食し倒れ込む ネカ…今言いたいことは二つ お祝い有り難う ケーキは普通に食いたかった …来年のお前の誕生日覚えてろよ メニュー 酒飲み放題(熱燗 白メシ 350Jr |
柳 大樹(クラウディオ)
闇鍋は初めてだねー。 結構惨事になるって聞くけど、今回はどんな感じになるかな。 あんま酷い味なら、口直しに海鮮鍋一口欲しい。 好きなもの入れたらカオスになるのは当たり前。 俺が持ってきたのはこれ。 はちみつ、手羽先、かぼちゃ。いっそ甘ったるくしてやろうかと。 ん?手羽先はなんとなくだよ。 かぼちゃは薄く切ってあるから火の通りも早いと思う。 どんな味になるか知らないけど。 甘くしたかった理由? そりゃ、甘いなら俺が粗方処理できるからだよ。(極度の甘党。他の味が嫌いな訳では無い ちょっと。 いや、毒味とかいらないから。俺の胃はそこまで弱くないんだけど。 こういった場で、そこまで警戒しなくてもいいんだよ。 いいから俺にも頂戴。 |
A.R.O.A.本部の一室にて始まったこの宴。いったいどうなることやら……。
目の前に置かれた三つの鍋を見つめてシルヴァ・アルネヴはそのやる気に満ちた瞳を輝かせていた。
「鍋三種制覇が目標!まずは海鮮鍋から順番に……具はどんなのがあるのかな?」
すでにふつふつと煮え始めている鍋の中には、他の参加者が投入した具材と共にシルヴァが入れた豚バラ、ニラ、エノキがいい具合にしんなりして来たころ。
傍らでは精霊のマギウス・マグスが小さく首をかしげた。
(この海鮮鍋の具材、いったい誰が送ってくださったものなんでしょう……)
「白菜と葱も入れましたよ。そろそろ火が通ったと思います。ふたを開けましょうか?」
アクア・グレイがそういっておしぼりでふたにそっと手を添えると、その神人の木之下若葉は気をつけてね、と声をかける。
「はい。……若葉さんは海鮮鍋と闇鍋を食べるんですよね?」
「うん、でもキムチ鍋もおいしそうだよね。胃に余裕があったらアクアのを少しもらおうかな」
アクアはにっこりと笑ってうなずく。
「俺は海鮮鍋のほうの様子を見ようかな?」
海鮮鍋も、彼が持ち込んだ鱈や海老団子がいい具合に煮えてきている。
その鍋の中身はやたらと豪華で、カニ、牡蠣、海老、ホタテ、などなどがひしめき合っていた。半分は本部に届いた例の品だが、残り半分は……。
「僕の持ってきたカニちゃんもそろそろいいかなー?」
柊崎 直香は開かれた鍋の中に浸かっているカニを愛おしそうな目で見つめる。
「今月の食費がカニに消えたぞ」
彼の精霊のゼク=ファルは少々呆れ顔でため息をついた。
「そういえば、席札ありがとうございます」
そういったのは、ネカット・グラキエス。彼の神人である俊・ブルックスも少し気恥ずかしそうに笑った。
彼らの前には、ハート形に切り抜かれたカードが置かれ、誕生日席を演出してあった。
「俺のとこも、ありがとな!」
「俊くんとシルヴァくんはお誕生日月だもんね」
直香はさらりと告げたが、一体どこで個人情報を入手したのか。
「具材が……荷物が嵩張ると思ったら何だこれは」
和やかにみんなで誕生月を祝い拍手をしていると、ゼクが顔を顰めながら密閉容器を掲げる。
その容器にはデカデカと“闇鍋用”と記されていた。
「何が入ってるんだ?」
興味津々で覗き込んだのは柳 大樹。精霊のクラウディオもそれに視線を移す。
「事前にどういったものなのか調べたが……。鍋に入れる食材を参加者に委ねる為に、最終的にどうなるのかはその時々らしいな」
「闇鍋は初めてだねー。結構惨事になるって聞くけど、今回はどんな感じになるかな」
「意外と美味いときもあるというが……」
容器の中身をプラスチック越しに確認して、ゼクがふたを開く。
「闇鍋の具材は我が家の冷凍庫冷蔵庫からかき集めてきた!」
直香が腰に手を当て、きっぱりと宣言する。それって要するに余り物ですね?その言葉を全員で飲み込んだ。
「中身はエリンギになめこにピーマンに……成程。自分が不要と思った食材か」
ずばりとゼクが指摘する。悪びれる様子もなく、直香は頷いた。
「明日以降は茸と野菜しか出さねえぞ」
はぁ、とため息をつきながら、ゼクがその容器の中身を闇鍋の中に放り込んだ。
醤油ベースのつゆの中に直香の嫌いなお野菜たちが沈んでいく。
ふとゼクがテーブルに視線を落とすと、闇鍋のド真ん前に“ゼク”と書かれた席札が貼られていた。……剥がれない。
「そして選択肢が無え」
ふふーんと笑う直香を尻目に、もう一度ゼクはため息をついた。
シルヴァが自らが投入した牡蠣を一口食べて、大きく頷く。
「うんっ、美味いっ!当然だけど、美味いな」
「僕も食べる!カニも牡蠣も美味しそう!」
直香が精霊に取り分けてもらったカニを口に運び、嬉しそうに笑う。
「あっつあつー、んっ。ただし野菜、キミはダメだ」
ちょいちょいと箸で野菜を避け、直香は口を尖らせた。なんで野菜いれるのさ、といわんばかりにゼクに視線を送る。
「……残さないで食べるんだ」
「やだー」
ぷい、とそっぽを向きながら、直香はキンキンに冷えたソーダを火照った喉に流し込んだ。
若葉が苦笑しながらその様子を見つめる。
「アクア、鱈と海老団子も美味しいよ。食べる?」
「あ!少しだけ」
ごく自然な流れで若葉はアクアの口元に箸を持っていく。
「ん!美味しいですね!出汁がよく染みてます。あ、若葉さんもキムチ鍋食べますか?こっちも味が染みて美味しいですよ」
こちらも、ごくごく自然に若葉に鶏団子を差し出す。食べさせるアクアの口も『あーん』の形になっていた。
それを見て、きらきらした期待の目で精霊に視線を向ける神人が一人。
(マギ、俺も!)
といわんばかりのその視線に根負けし、マギウスは具をつまんだ箸をアクアたちと同じようにシルヴァの口元へ持っていってやった。
「んっ、あつっ、ふふ、美味いな!」
(嬉しそうだから、良しとしましょうか……)
マギウスは、小さく笑って自分も同じ箸で白菜をつまんで食べ始めた。
「じゃあ、俺も持ってきたもの入れるね」
シルヴァが皆にあっち向いてて、と促し鍋に具材を投入する。
「……いいよー」
次に一同の目に飛び込んできたのは……。
「黒っ」
「何入れたの?」
ほのかに香る磯のかほり。ほのか?いや、ほのかどころの騒ぎではない。結構くさい。
「具が闇色に染まる、まさに闇鍋!」
「あー……」
なるほど、というように頷く若葉。
「……イカ墨、ですね」
ここまでは大丈夫だろう、と皆ほっと胸をなでおろす。火が通ったところでクラウディオが少量器に取り、口に運んだ。
「……うん。イカ墨だ」
「ん、ニンニクのにおいもする……」
くんくん、と若葉がにおいを嗅ぐ。そして、その正体を漆黒の中に目視。マギウスの入れたニンニクのみじん切りとベーコンであった。
「じゃあ、俺が持ってきたのも入れるよ」
大樹の宣言に、お約束どおり皆が目を閉じる。
……鍋に有るまじき甘い香りが漂ってきた。
「な、なんか磯のにおいに混じってすっげぇ甘い匂いしねぇか」
俊がおいしいキムチ鍋を口に運びながら恐る恐るツッコミを入れる。
「好きなもの入れたらカオスになるのは当たり前」
しれっとそう言い放つ大樹の目に迷いはなかった。
「何入れたんです?」
ネカットの問いに大樹は答える。
「はちみつ、手羽先、かぼちゃ。いっそ甘ったるくしてやろうかと」
「なんで!?醤油ベースって聞いただろ!?」
もう、どこから突っ込めばいいのかわからない。激しく動揺し、俊は問いただした。
「突然切る事になったかぼちゃはそういうことか」
クラウディオが納得したようにつぶやくと、大樹がそれに答える。
「かぼちゃは薄く切ってあるから火の通りも早いと思う。どんな味になるか知らないけど」
「えぇぇぇぇえ!いや、知らないってそんな、っていうか、甘いものに混じってなんで手羽先」
「なんとなくだよ」
「なんとなく!?」
もう、これ以上突っ込んでも仕方ない。恐怖の闇鍋はいいとして、……いいとして!
元々海鮮鍋とキムチ鍋を食べる予定だったのだから気にしなければいいだけのこと。熱燗をあおりながら、俊は気を取り直してアクアに笑いかけた。
「にしても、キムチ鍋はほんっと美味いな。この鶏団子、アクアが作ったんだって?」
「はい!気に入っていただけましたか?」
「軟骨がアクセントになっていてとてもおいしいですね」
ネカットが満足そうに微笑むのを見て、アクアも少し照れくさそうに笑う。
「よかった。豚肉のお団子も生姜がきいていて美味しいですよ、どうぞ」
なんとも安全、安心で美味しい鍋に、舌鼓。
「だいぶ豆腐減ってきたし、追加するぜ~」
俊がキムチ鍋に絹ごし豆腐を投入する。その傍らで、ネカットがなにやら大きな包みを取り出した。
「ん、なんだそれ……」
俊が問いかけると同時にネカットがにっこりと微笑む。
「7日はシュンの誕生日でしたよね。遅くなりましたがプレゼントを用意してきました」
あたりがお祝いムードに包まれる。
「お、おう……ありがとう。プレゼント?」
ネカットがその箱を開くと、そこには美しくデコレーションされたバースデーケーキ。真っ白な生クリームに真っ赤なイチゴ。そう、誕生日のメインの、かわいらしいかわいらしいケーキ。
「おおっ、わざわざ用意してくれたのか、ありが……」
「ここに某有名店のバースデーケーキ(ホール5号)があるじゃろ?」
嫌な予感しかしない。そのケーキを手に取り、彼はきれいに切り分ける。
「これをこうして……」
「お、おい、おまえなんで闇鍋のほうに向かってんだよ、おい!?」
ネカットの手が闇鍋の上でぴたりと止まる。
「待て!そのケーキ俺のだろ!?人にやること……」
「こうじゃ……!」
とぽん。切ない音を立てて、切り分けられたケーキは闇鍋の深い闇へと飲み込まれた。
誰もがとっさに目を背ける。
(うそだと言ってくれ……!)
「さっき一口かぼちゃ食べとけばよかった」
ぽそ、と大樹がつぶやいた。
「……いろいろとまずそうなものができて来たな」
ゼクが眉をひそめる。
傍らではネカットがハッピーバースデー!なんて嬉しそうな顔をしているし……。
(くっ……食べなきゃいけない空気に!? )
俊は恐る恐るおたまでその物体X(漆黒の中の生クリームとスポンジの……自主規制)を掬い、お椀に取る。そして、そろり、と口に運んだ。
お口の中には雑味の混ざりまくったスープにとろける極上の生クリーム。玉子の風味が台無しな汁まみれのスポンジ……本来は暖かいはずのない甘酸っぱいイチゴ、そのどれもが凶器となり鼻腔を侵していく。それはもう、描写することも悍ましい代物に仕上がっていた。
「何故だ……何故こんなにも涙があふれるんだ……」
一同はあー……と複雑な表情で彼を見守る。
ネカットだけが嬉しそうに頷いた。
「わあ、泣くほど喜んでくれるなんて……感激です」
「不味いからだよ!?食えば食うほどクソ不味いわ!?」
だろうねぇー、と直香が頷いた。
「だって生クリームになめこ乗ってるよ?なにこれ」
「折角の闇鍋パーティー(違う)ですから、たくさん召し上がれ」
若葉が少し複雑そうな表情で皿を取った。
「自分でも具を投入して育てたようなものだし……」
瞬間、ひゅっと俊の腕が伸びてそれを阻止する。必死な彼の目が訴える。それは最初の犠牲者としての決死の覚悟からのものだ。
―やめとけ。
若葉は苦笑いしてその皿を置いた。
「こんなもん他の奴に食わせられるか」
闇鍋を見据え、俊が決意を固めた。すばやくケーキの部分を重点的に攻めていく。
「あ!俊!?」
一同がその勇者を祈るような目で見つめる。
「無理しないでいいんだよ!?」
直香はなめこ入りのクリームをみて卒倒しそうだ。
「あっ、それともあーんした方がいいです?」
「ぅぐっ、いらねっ、……」
ネカットの浮ついた申し出にイラつきながら俊はついにケーキの部分だけ浚う様に鍋を平らげた。自然とあたりから拍手が巻き起こる。その拍手の渦の中、俊はその場に倒れこんだ。
「忘れられない誕生日になりましたね……」
ネカットが最高の笑顔で言う。その場にいた全員が思った。
(確かにいろんな意味で忘れられない……)
「……あー」
恨めしそうな顔で俊はネカットを見やる。口からエクトプラズムでも出てきそうな勢いだ。
「それになんだかんだ言って、ケーキの部分他の人に渡してなかったですし」
「そうだな。ケーキの部分だけ見事に平らげて……」
大丈夫か、とゼクが俊の背中を擦ってやった。
「こんなもん他の奴に食わせられるかって……ふふっ、独占欲ですね!私嬉しいです」
「違うわ!犠牲者がでたらどうするんだよ!?」
最後の気力を振り絞り俊がほんの少し頭を上げる。
「ネカ……今言いたいことは二つ。お祝い有り難う。ケーキは普通に食いたかった。
……来年のお前の誕生日覚えてろよ」
「どういたしまして!ん?……シュン、三つになってますよ?」
ネカットの指摘は届くことなく、英雄は机に突っ伏すのであった。
「さて、残りも処理してしまおうか」
「甘いものは苦手ではないが……」
ゼクとクラウディオが残った闇鍋に手を伸ばす。ケーキの悪夢は去ったものの、はちみ
つと手羽先とイカ墨は変わらず存在している。もう何が入っているかはあまり覚えていな
いが。
若葉と大樹も同じように器を取り、決意を固めて闇の産物を口へと運んだ。
と、その瞬間、クラウディオが大樹に制止をかけてその器を自分に渡すよう促す。
「ちょっと」
「毒味だ。何かあっては困る」
「いや、毒味とかいらないから。俺の胃はそこまで弱くないんだけど」
「だが、私の役割は大樹の護衛だ」
クラウディオは、契約するまで裏仕事及び情報の確認ばかり。普通の事に馴染みが無く皆で鍋でつつくという行為にも少し困惑し気味だった。
「こういった場で、そこまで警戒しなくてもいいんだよ。いいから俺にも頂戴」
「そういう、ものなのか?」
あ。とクラウディオに向けて口を開けると、クラウディオは自然とその箸を大樹の口元へと持って行った。箸でつまんだカボチャをぱくり。大樹は一言漏らす。
「甘くて……おいし?くないな……。はちみつとイカ墨が喧嘩してる……」
「あー……手羽先もよく煮えてて、はちみつの効果で照りも出てる気がするけど……やっぱり生クリームが混ざっててちょっとくどいねえ」
若葉も苦笑いを返した。心配そうにアクアがその顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「うーん、でも食べ物には責任持たないとね」
そういって闇鍋担当は一同箸を進めていく。若葉が投入していた餅がずっしりと胃に来る。
「残さず食べる主義だ」
ゼクはそういって顔色一つ変えずに黙々となめこやカボチャを食べるが、相当きついだろう。すべて食べ終わる頃には全員がっくりと肩を落としていた。
(……なんでこんな疲れてるんだろう?)
どこからかハァっとため息が聞こえる。ちょっと、ニンニクの匂いが上がってくる……。
ぐっとウーロン茶を飲み干して、クラウディオは小さくため息をついた。大樹が黙々と海鮮鍋を食べている直香にかけあう。
「口直しに海鮮鍋一口もらっていい?」
「んー?いいよー!はいっ」
直香は気持ち野菜多めの器を大樹に手渡す。
「ん、おおありがと。……はー、普通の鍋美味いね。出汁しみてる」
「でしょー?もっと食べていいよ♪」
「おいまて」
ゼクがすかさず直香の肩を掴む。
「んっ、なにー?」
「野菜も、食え!」
ずいっと箸でつまんだネギや白菜を直香の前に突き出せば直香が不敵に笑う。
「あれ?もしかして僕にあーんしてほしい?」
だから自分もやってるのかな~?なんて茶化せば、ゼクは首を傾げる。
「は?」
「デザート買ってきてくれたらしてやらぬこともない」
「食べさせるのに有料というのがお前らしいな。そして、要らん」
本題をすり替えるなとばかりにゼクが箸を突きつける。
「ほら、あーん」
「キミのそれはあーんじゃない」
「……まだ、キムチ鍋ありますよ!〆で気分を変えましょう」
アクアが若葉の背を擦りながら提案する。
「トマトと鶏肉入りのリゾットなんてどう?最後に、とろーりチーズを乗せる!」
シルヴァの提案に、若葉が頷く。
「いいね、おいしそう」
沈没していた俊も顔を上げて頷いた。
そうして投入された具材はくつくつと音を立てていい香りを充満させる。
「トマト鍋に変身ですね!」
火が通るのが楽しみです。とにこにこしながらアクアが笑った。
「どんな風になるんだろう。きっと美味しいだろうし、ちょっと楽しみだよね」
闇鍋でそんなにおなかに空きはないけれど。と闇鍋組は切なげに笑う。
ややしばらくして、トマトキムチ鍋が仕上がった。
「ほら、アクア取ってあげる」
「わぁっ、ありがとうございます!」
トマトがいい具合に煮崩れて米と混ざり合い、その上にふんわりと蕩けたチーズが糸を引く。
「!わわっ!すっごく美味しいですっ」
トマト鍋ってすごく美味しいんですね。アクアが顔を綻ばせると、若葉も自然と笑顔がこぼれる。
「俺にも」
「はい」
また、自然にアクアが食べさせてやるかたちになる。
「うん、おいしいね!」
闇鍋とのギャップも相まって涙が零れそうだ。
各々が楽しんだ宴もたけなわ。
「ところで鍋パする事になった海の幸って誰が取り寄せたんだろ?美味かったし、お礼言わないとなー」
けふ、とおなかを擦りながらシルヴァがA.R.O.A.職員に問いかける。
「あー、これ、同期の奴の実家からなんですよ。だから遠慮とかぜんっぜん要らなかったんで!」
同期?お前のじゃないのか!
「ど、同期の人にごちそう様って伝えといて」
シルヴァが少し気の毒そうにそう告げると、マギウスは自分の取り椀の中にちょっぴり残った〆のリゾットを見つめる。
「……食べてしまって、良かったんでしょうか?」
後日、A.R.O.A本部に悲しげな呟きが漏れたという。
「かあちゃーん……また送って……今度はちゃんと俺の家に送ってぇ……」
ご本人は、一口も食べていなかったのだとか……。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月03日 |
出発日 | 11月09日 00:00 |
予定納品日 | 11月19日 |
参加者
会議室
-
2014/11/08-21:33
>俊
やっぱりさ、キムチ鍋って言ったらその辺りが定番だもんなー
〆までかぶってて流行りの食べ方なのかな?って思ったから、本当に美味いのかも。
肉たっぷりのキムチ鍋楽しみだなー。
>若葉
じゃあ、野菜はニラとエノキを持っていこうかな
マギは海鮮鍋用に白滝もっていくって。結んだ白滝も美味いよな。
うー……すっごく楽しみになってきた! -
2014/11/08-21:04
豚バラ美味しいよね。キムチ鍋にも合うし。
それなら白菜と葱も持って行こうかな?
新鮮な海の幸が沢山あるみたいだから、箸休めもかねてさ。
ピリ辛トマトチーズリゾット(ごくり)
ご飯食べながら鍋をつつこうかと思っていたけれど、
〆までお腹のスペース空けてスタンバイしていた方がいいかもしれないね。 -
2014/11/08-21:01
俺は闇鍋は手ぇ出さねえからな!(フラグ)
それはそうと、キムチ鍋用の追加食材とシメがシルヴァとだだ被りだった…
他には絹ごし豆腐マシマシの予定だ。
キムチ鍋はまとまりのあるいい鍋になりそうだな(安堵のため息)
ネカット:
あーんですか、素敵ですね♪
みなさんに当てられたらシュンもやってくれませんかねぇ…
俊:
聞こえてるぞ。 -
2014/11/08-19:11
そうかー全種類制覇目指すのもありか、オレもそうしよう!
鳥と豚の肉団子美味そうだなぁ……一応キムチ鍋用に豚バラ肉と
海鮮鍋用に今の季節が旬の牡蠣を用意してるんだけど
これもどっちに入れても良いから、こっちの鍋の方が良いっていうのが
あったら教えてくれな。
キムチ鍋の〆なんだけど、こないだ知り合いから
この食べ方が意外に美味しい!ってトマトととり肉を入れて
チーズをかけて食べるっていうリゾットをオススメされたんだよなー
ちょっと、そうやって食べてみる提案しようかなって思ってる。
(アクアの様子を見て、なんかポンと手を打った) -
2014/11/08-13:00
鍋、俺達は二人で三種類とも制覇出来ればって思ってるよ。
せっかくだから全部の味試してみたいしね。
〆……雑炊とうどんあたりを思い浮かべていたんだけれど、
ラーメンも美味しそうだね。(想像しながら)
そうそう、材料の示し合わせもとい入れる物や持ち込みOKみたいだから
アクアが軟骨入りの肉団子(鳥)と生姜入りの肉団子(豚)を作って持って行くみたいだよ。
入れたい鍋指定があったらそっちに投入するね。
指定が無かったら、多分キムチ鍋に入ってるんじゃないかな?
>シルヴァさん
あーん、か。それは考えていなかったや。
ん。アクアそんなキラキラした目でどうしたの。
-
2014/11/08-09:50
あ!あと気になってたんだけど
海鮮鍋とキムチ鍋の〆って、どれが合うんだろうな?
白飯入れて卵でとじて、青ネギたっぷりも良いし
うどんやラーメンも捨てがたいよなぁ。
とろけるチーズとかかける? -
2014/11/08-08:58
ぼーっとしてて挨拶遅くなったけど、シルヴァ・アルネヴと精霊のマギだ
初めての人も久し振りの人もよろしくなー。
(柳の仕草にひらひらと手を振りかえし)
>柳
あちこちの報告書で名前見かけてたから初顔合わせの気がしないけど
そう言われてみたら、はじめましてだな。よろしくー。
んんー……どうせだから美味いものが食べたいけど
闇鍋も気になってるんだよなぁ。
でも、さっきから食べ物で遊ぶのは許しませんよ。っていう
マギの視線が後頭部にチクチク刺さってるし、どうしようか。
あ、ところで皆『あーん』はするのか?(真剣) -
2014/11/06-21:25
-
2014/11/06-09:29
俊・ブルックスだ、皆よろしく。
俺は海鮮とキムチ両方を程ほどにいただくことにするかな。
なんか前の任務でネカがやたら豆腐にこだわってたから、キムチ鍋がメインかもしれな……
ネカ:
精霊のネカットです。
7日はシュンの誕生日でしたよね!
誕生日といえば…あとは…分かるな…?
俊:
嫌な予感しかしない。 -
2014/11/06-09:17
柳大樹でーす。よろしくー。(右手をひらりと振る
シルヴァくんとマギウスくんは初めまして。
他の皆は久しぶりだね。
俺とクロちゃんは闇鍋に行こうかな。
まあ、あんまりにも味が酷かったら口直しに海鮮鍋一口貰えたらなーって、思ってるよ。 -
2014/11/06-00:18