栗三昧の美味しい時間(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 秋です。食欲の秋です。
「というわけで、栗です」
「どういうわけかわかりません」
 笑顔で栗の詰まったダンボールを受付テーブルにドサッと置く青年に、とあるA.R.O.A.支部の受付女性職員も笑顔で突っ込んだ。
「いや、依然お世話になった村の者なんですけど……」
 名乗った青年は、以前デミ・オーガ化ウルフの駆除を行った村から来ていた。
「早めに駆除してもらったとはいえ、やっぱり家畜の被害はありましたからね、大分生活に響くかなぁと思ったら、何故か隣の森にある栗の群生が物凄い豊作で」
 しかもやたらと大粒で糖度も抜群、焼いたりするとほっくほく。どうやらこの村特有の種である事がわかった。
 こんな宝があったとは! よっしゃ商売道具ゲットだぜ! と、村の者は素直に飛びついた。
「これからは酪農だけじゃなく果樹園もやっていこうかと思いまして、その宣伝も兼ねてのお礼です」
 どうぞ、と渡された焼き栗は、確かに通常の栗より一回りどころか二回りは大きい。拳大ほどだ。それをほくりと割って半分口に頬張れば。
「……ッ! なにこれおいひい!!」
 甘い。香ばしい。ほこほこしてるのに噛むと滑らか。
 職員はもぐもぐごくんと食べ終わると、すぐに残りの半分の口に入れた。
「美味しいでしょう! 今、村で栗料理専門店も作ろうと考えてるんですよ!」
「いいでふね! おーぷんひたらいひまふよ! ……んぐ、すみませんもう一つ下さい!!」
「どうぞどうぞ! というわけで、栗です!」
「栗でふね!」
 宣伝も兼ねたお礼は、大量の美味しい栗。それは当然ウィンクルム達へ配られる。
 とはいえ、料理が出来ない者もいれば、大量に貰っても困る者もいる。
 なので、支部の食堂を特別に使用しての栗パーティーが開かれる。

「村からいらっしゃった料理人の方が、店に出す予定のメニューを振舞ってくれるそうです。ああ、リクエストにも応えてくれるそうですよ。もしかしたら貴方のリクエストが店の看板メニューになったりして。あ、勿論、腕に覚えのある方はご自分で調理してくださっても構いませんよ!」
 ところで私、巨大モンブランとか食べてみたいんですけど、貴腐ワインと一緒にグイッといきたいんですけど、誰か作ってくれませんかね? と色気より食い気丸出しの余計な一言を添えて、女性職員は笑った。

解説

料理人が作る料理を食べる場合、料理は以下になります。
・ごろごろ栗ご飯
・鶏肉と栗の赤ワイン煮
・いが栗コロッケwithさつま芋
・ほくほく焼き栗
・蕩ける栗の甘露煮、渋皮煮
・むっちり栗蒸し羊羹
・お子様モンブラン
・大人のモンブラン(ラム酒使用)
・栗焼酎(焼酎って見た目透明だから水と間違えやすいよね!)
食べたいものをお好きなだけプランに書いて下さい。
ただし、子供は焼酎を頼めません。
皆様の良識を信じてますけど事故ならしょがないよねわざとは駄目絶対!!

リクエストをされる場合、一般的なものでしたら料理名を、創作料理でしたら作り方をプランに書いて下さい。

ご自分で作られる場合、リクエストと同じく何を作るのかプランに書いて下さい。
材料や道具は全てA.R.O.A.で準備されています。

食べて、リクエストして、自分でも作る、という全部楽しむプランでも構いません。

え? 巨大モンブランを作る?
あー……もしかしたら、職員が何かサービスしてくれるかもしれませんね。
ろくでもないサービスですよ、きっと。あれ、何か酒瓶が見え……。

コメディ時空から逃がれたい方はプランに『☆』を書いて下さい。

村の酪農復興と新事業応援で、300Jrの寄付をお願いします。

ゲームマスターより

皆様で協力もあり、二人きりで楽しむもあり、どうぞお好きなように。
お喋りでもしながら秋の味覚を堪能して下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  凄く立派な栗だね。好きなだけ食べられるなんて嬉しいな
まずはご飯を食べ終えてから、ね(両肩押し着席させ

注文は栗ご飯に赤ワイン煮、コロッケと甘露煮
ほら、孤児院だと美味しい物は基本争奪戦になるから
ここぞという時に確り食べておかないと(こくこく頷き

皿が空いたらリクエストを頼みに行く
丸ごと実を入れた栗大福、栗餡を使った団子
それと……栗と洋梨のケーキを
ラセルタさんにも好きな物を美味しく食べて欲しくて

あれ、ラセルタさん出来上がっちゃってるね
悪い大人に食べさせるデザートはありません(ススと皿避け
……冗談だよ、二人分作って貰ったから一緒に食べよう
ふふ、たまに仕返しするくらいは許して欲しいな?(軽く頭ぽんぽん撫で



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  食欲の秋! 自然からの恵みを満喫するぜ!
沢山のメニューに正直目移りするなぁ。
しかし!一番肝心の物が無いのは何故だ!
「栗きんとんをお願いします!」
とここは元気にリクエスト。
これは外せないじゃん。美味しい栗ならなおさらだ。
出来上がるまで、他のメニューを食べて待とう。

栗ご飯とワイン煮、コロッケでガッツリと空腹を満たす。美味い!と喜んで食べる。
「秋は何もかもが美味しいから大好きさ」
と焼き栗を剥き剥き。ラキアの分も向いてあげる。
「面倒だけど、このひと手間でより美味しくなる気がするよな」
栗焼酎は栗の香りするのか?
栗きんとんを楽しんだ後、大人モンブランで締めだ。
大人の味に包まれた栗を堪能。ラム酒いいじゃん!




ダニエレ・ディ・リエンツォ(ジョルジオ・ディ・リエンツォ)
  ・ごろごろ栗ご飯
・蕩ける栗の甘露煮、渋皮煮
・大人のモンブラン(ラム酒使用)

せっかくの秋の味覚なので
ジョルジオに楽しんでもらいたいと思って参加しました
季節の旬を楽しむ、これも何かの情操教育に・・・
ジョルジオはきっと食べ物に夢中だろうだからきょういくになりませんねきっと。

です、が・・・
ああ、そうでした
モンブランはお酒が入っているのでした
私は、お恥ずかしながらお酒は弱いのです
これはお水を飲みながら少しずつ食べ進めないといけないですね。

残すのはもちろん、ジョルジオには私の酔っている姿など見せられません。

・・・ジョルジオには毎回驚かされます
ちゃんと良い子に育っているようです(感涙)



ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
  よし、ローレンツ。栗食べに行くぞ。
栗が豊作だと聞いたのでな。
俺的には栗ごはんが目的だ。
このあいだお前が作ってくれただろう?実はあの時初めて栗ごはんを食ったんだがあれは美味かった。
あとラム酒の入ったモンブランもうまそうだな。

栗が好きか嫌いかといったらまぁ好きな部類にははいるんじゃないか?今まで栗ってあんまり食わなかったからなぁ。たまにモンブラン食べるくらいだったからな。
他の料理も楽しみだ。

美味いものを食うと心が豊かになるぜ。貧しい時はそれだけで幸せになれたもんだ。食い物で得られる幸せなんてたかだかしれてるって思う奴もいるかもしれないがそれは食うに困ったことのない奴の台詞だ。
美味しくいただこうぜ。



■ごろごろ栗ご飯はほっこほこ
「よし、ローレンツ。栗食べに行くぞ」
「栗? うん、いいよ食べに行こうか?」
 A.R.O.A.職員からの誘いに素直に応じた一組目、『ロキ・メティス』と『ローレンツ・クーデルベル』はA.R.O.A.支部の食堂へと向かった。
「栗パーティーへようこそー!」
「うちの村の栗を堪能してくださーい! そして今度遊びに来てくださーい!」
 入り口のところで案内と説明をしている女職員と村の者の二人に笑顔で迎えられる。それだけではない、入り口で既にふわりと温かく美味しそうな香りが漂ってきている。
「ありがとう、栗が豊作だと聞いたのでな」
 俺的には栗ごはんが目的だ、と付け加えれば、村の者はパッと笑顔を輝かせた。
「それうちの料理人の一番の得意料理! どうぞどうぞ! あっちです!」
 案内に従い先を見れば、食堂の奥にほっこりと炊き上がった栗ご飯。
「さぁ、行こうか」
「そんなに栗ご飯が好きなの?」
 普段は冷めた様子の事が多いロキがやけに積極的な事に気がついて、ローレンツは少し疑問に思って訊ねる。
「このあいだお前が作ってくれただろう? 実はあの時初めて栗ごはんを食ったんだがあれは美味かった」
 それを思い出しているのか、それとも迫るほかほか栗ご飯に意識が飛んでいるのか、嬉しそうに口の端を少しだけ緩めた。
 まさかの理由にローレンツは驚くと同時にくすぐったい気持ちになった。栗ご飯を食べに来た理由が自分の料理だったなんて。
「俺なんかが作ったのを美味しいって言ってくれて嬉しいよ。今日は俺の作ったのよりもっと美味しいのが食べられるはずだから楽しみにしていいんじゃないかな」
 尻尾を嬉しそうにぱっさぱっさ振りながらも、自分を卑下した言い振り。それに気付いたロキは呆れたように息を吐き出し、わざと栗ご飯以外のものに目をやって話題を変える。
「あとラム酒の入ったモンブランもうまそうだな」
 目的は話題を変えることだったが、言った内容は本心だった。
 ドーム上の栗クリームの上にはつやりと照る大きな栗が一つ。チラリと乗せられた金粉が美しさと美味しさを煽っている。
「うん、モンブランも美味しいよね。ついでに美味しいコーヒーがあったらいいね。ロキってよくコーヒーと一緒に甘いもの食べてるし……俺も甘いもの結構好きだし」
「そうだな、でも栗ってコーヒーに合うのか? まぁ今日試してみるか」
 とりあえずは、栗ご飯だ。言って二人は栗ご飯を食べ始める。ほっくり温かいご飯と栗を口に運べば、そこは幸せの世界。
「うん、うま……美味いなこれ?! え、米も美味いぞ、何だこれ?!」
「うわ、ほかほかホクホク! 何この栗、香ばしい柔らかい美味しい大好き!!」
「ふふふふふ、言ったじゃないですかうちの料理人の一番の得意料理だって! どうですか?!」
 二人の反応に、入り口にいた村の男が『オラが村を応援し隊!!』というたすきを掛けながらズザザッと割り込んできた。
「この栗ご飯はですね、通常より大きく甘みの強い栗をご飯と一緒に食べても違和感のない、だけどお得感のある大きさと味に仕上げて、米は栗の触感を邪魔しない程度のもっちり感が出るものを」
「いやぁ、栗が好きか嫌いかといったらまぁ好きな部類にははいるんじゃないか? て感じだったけど、これは……」
「すごいね、栗ご飯の栗って崩れたり潰れてるのがどうしても混ざるのに、これは崩れたり潰れたりしてるのがなくて、食べ応えがあるのに柔らかいよ」
「聞いて!!」
 二人は村人をスルーして舌鼓を打ち続ける。
「今まで栗ってあんまり食わなかったからなぁ。たまにモンブラン食べるくらいだったからこんなに美味しいとは思わなかった。この栗好きだ」
 そう言うロキの顔は、口の端が緩んでいるだけとは言えない、自然と零れ出るような微笑みだった。
「俺もそうだな、栗好きかな」
 ほっこりしてて美味しいよね。と、ローレンツも微笑む。
「ちなみにあちらのモンブランはですね!」
 何とか食らいついて宣伝しようとする村人は、やっぱり二人にスルーされた。

「美味いものを食うと心が豊かになるぜ」
 二杯目の栗ご飯を食べながらロキは言う。
「貧しい時はそれだけで幸せになれたもんだ。食い物で得られる幸せなんてたかだかしれてるって思う奴もいるかもしれないがそれは食うに困ったことのない奴の台詞だ」
 特に強調するでもなく、体験したが故の事実として語る。
(ロキはどんな生き方をしたんだろう、美味しい料理とか、そういうのに触れる機会が少なかったのかな?)
 そういえば、と、二人で過ごしている日々を振り返れば、確かに普段の食事でも家庭の味とかに凄く憧れを持ってるような様子があった、ような。
(俺が作った料理も美味しいって言って食べてくれるし……)
 モンブランを貰いに行くロキの後を追いながらローレンツは考える。
 本当にそうなのかは分からない。分からないけど、今モンブランを貰うロキが嬉しそうにしているのは事実だ。
 今はそれが分かればいい。それで充分だ。
「美味しくいただこうぜ」
「うん、美味しいの食べようね」
 嬉しそうで楽しそうなロキを見て、ローレンツはこれからも料理を頑張ろうと思うのだった。
 今と同じ位、毎日ロキの心が豊かになるよう祈りながら。


■栗焼酎がお好きでしょ?
「凄く立派な栗だね」
 食堂の入り口に飾られた栗を見てから、『羽瀬川 千代』は『ラセルタ=ブラドッツ』と一緒に食堂に入った。
「好きなだけ食べられるなんて嬉しいな」
「見事に栗尽くしのラインナップだな、悪くはない」
 並べられた栗料理の中から、デザートのモンブランや栗蒸し羊羹を、そして栗焼酎瓶を見つけたラセルタは、意気揚々と千代に宣言する。
「俺様はこの栗焼酎と甘味が嗜めれば問題無いが」
「まずはご飯を食べ終えてから、ね」
 千代はラセルタを無理やり着席させ、ついでに掴んだままの焼酎瓶をとりあげた。

 テーブルの上には、栗ご飯に赤ワイン煮、コロッケと甘露煮が所狭しと並んでいる。しかし、座っているのは二人だけで、そのうち一人は酒と甘味があればいいと言った人物だ。
「千代、俺様はこんなに食わんぞ」
 ラセルタは並んだ栗料理と千代を見比べながら言うが、言われた千代はもう料理を取り分ける事に夢中だ。
「ほら、孤児院だと美味しい物は基本争奪戦になるから、ここぞという時に確り食べておかないと」
 今がその時、と、千代はこくこく頷きながら「いただきます」をする。
 夢中になって栗料理を食べる千代を、ラセルタは愉しげに眺める。
「まるでリスが頬袋を膨らませた様だな、まだ入るだろう?」
「へふ?!」
 ひょいと差し出された大粒の甘露煮に、千代はこれ以上は無理だと不思議な声を上げてしまう。その様にラセルタは喉を震わせて笑った。

「すみません、リクエストいいですか?」
 ぺろりと平らげた千代は、ここにはない料理をとリクエストを頼む。
「はい、何を作りましょう」
「えっと、丸ごと実を入れた栗大福、栗餡を使った団子、それと……栗と洋梨のケーキを」
 自分が食べたいものと、そしてラセルタに喜んでもらいたいもの。
「いい洋梨も持ってきたんですよ、ついてますね」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「いえいえ、お好きなんですか?」
「いや、俺じゃなくて……」
(ラセルタさんにも好きな物を美味しく食べて欲しくて)
 栗焼酎と甘味を嗜めればと言った彼を思い出す。
(お酒、弱いのにね)
 ケーキを貰って席に戻ったら、栗焼酎を解禁してあげようと、くすりと笑った。

 ところが、ラセルタはどうにも我慢が出来なかったらしく。
 というか、通りすがりの迷惑女職員と、
「栗焼酎もいいけど、モンブランだったらやっぱり貴腐ワインだと思うのよね」
「ほほぅ」
 などと、千代が聞いたら「お願いしますやめて下さい」と言いそうな会話を繰り広げていたらしく。
 今の時期にはイベントがない? 何を言います、収穫の秋はただそれだけで飲む理由になります、何もなくても酒が飲めるぞひゃっほい! という勢いでワインを一杯、焼酎を一杯、やったら悪酔い待ったなしのちゃんぽんを繰り広げ。
 そもそも一杯飲んだだけで酔ってしまうラセルタは、こうしてべろんべろんに酔っぱらってしまったのだった。
 ちなみに女職員は逃げた。だってパートナーに怒られたくない。

「何処へ行っていた、栗と俺様どちらが大事なのだ?」
 様々な甘味を手にテーブルへ戻れば、そこにはものすごく真面目な顔で困ったちゃんな問いかけをするラセルタがいた。
「あれ、ラセルタさん出来上がっちゃってるね」
「出来上がってなどいない! いいから答えろー」
 子供のようにばしばしとテーブルを叩く様は、間違いなく典型的な酔っ払い。千代は苦笑して、その後わざと芝居がかった調子で持ってきた皿をススッとラセルタから遠ざける。
「そんな我儘を言う悪い大人に食べさせるデザートはありません」
「?! 千代のくせに生意気だぞ、馬鹿者ー」
 そしてとうとう机に伏して尻尾びたんびたん揺らす。
 これがさっき自分にほら食べろさぁ食べろとからかってきた人物だろうか。そう思うと千代は湧き上がる笑いを止める事が出来なかった。
「……冗談だよ、二人分作って貰ったから一緒に食べよう」
 ふふ、と笑い、「たまに仕返しするくらいは許して欲しいな?」と言って軽く頭をぽんぽん撫でる。
 酔っているものの、ラセルタは頭に触れるその手の感触に、物珍しさと心地良さを感じ、一瞬目を見開いてから気持ちよさそうに目を細め。
 そしてむくりと起き上がる。からかう時の顔でも我儘を言う時顔でもなく、心を許した相手へのごく自然な、それでも少しだけ恥ずかしそうな顔で、千代へと顔を近づけ。
「……仕返しは許さないが、今撫でるのは許してやる」
 そして、千代の肩口へとぽすんと頭乗せた。
 千代は動けない。その前に見た顔と今の状況に固まって動くことが出来ない。
 ―――俺にも、もっといろいろ晒してくれていいんだよ?
 ―――なら、お互い様だ。俺様に隠し事は無しにしろ
 いつかの酒の場での会話を思い出す。
 あの時からまたウィンクルムとして、ただ一人の人間として、色々な事や考える事があった。そして今。
「……まいったなぁ」
 ほんのり熱くなる頬は、この場に充満してるアルコールの匂いにあてられたからだろうか。それとも、二人の距離が縮まっているのを感じたからだろうか。


■モンブランは甘く蕩け
 並ぶ様々な栗料理を珍しそうに見て歩いている『ジョルジオ・ディ・リエンツォ』を、『ダニエレ・ディ・リエンツォ』は眼を細めながら見ている。
 まだ幼いジョルジオにせっかくの秋の味覚を楽しんでもらいたいと思って、この栗パーティーに参加したのだが、どうやら成功だったようだと一人頷く。
(季節の旬を楽しむ、これも何かの情操教育に……)
「くりごはん、くりころっけ、くりようかん、もんぶらん……ぜんぶたべれるかなぁ、ぜんぶたべたいなぁ」
 小さな両手で自身の頬を覆って、嬉しそうに身悶えしているジョルジオ。
(……食べ物に夢中ですね、情操教育には……なりませんねきっと)
 ままならぬのが子育てである。流石に美味しそうな食べ物を前にした子供に、食べずに秋を感じてごらん、というのはまだ早かった。
 仕方がないか、と溜息をつきながらも、ダニエレは笑顔でジョルジオを促す。
「さて、何を食べますか?」
「さっきいったの、ぜんぶ!」
「……一つずついきましょうね」
「はぁい!」
 元気な声で返事をして、まずはごろごろ栗ご飯へと向かっていった。

 もっくもっくと顔全体で咀嚼して美味しさを味わっているジョルジオは、実はさっきまで少し不満そうだった。
 宣言通り、さっきあげた料理を食べていったジョルジオだが、それ以外にも美味しそうな料理はあったのだ。鶏肉なんてふわふわするいい匂いだった。きっと食べたら空だって飛べそうな気持になるだろう。
 なんせ鶏肉料理の前で出会った女性にも「これは美味しいわよー」と言われたのだ。
 ただその後、「いや、まだ子供なのでワイン煮はちょっと」「あら、私の出身地だと子供の頃からお酒飲ませてたわよ、これぐらい平気平気」「いやいや」「まぁまぁ」とダニエレが女性と笑顔で対立していたのだが。
 ジョルジオが「けんかはだめだよ」と間に入れば、「やだぁ、カワイイ! そんなカワイイ子にはいい気分になれる魔法の水を」「いやいや」「まぁまぁ」という謎の会話も交わされていたのだが。
 とにかく、ジョルジオは鶏肉と栗の赤ワイン煮という美味しそうな料理も食べたかったのだが、ダニエレに酒が入っているから駄目だと止められたのだ。
『じゃあぼくのはとくべつにおおきいくりがほしいな!』
 せめてもの訴えは快諾され、今ジョルジオは黄色いモンブランに、ダニエレが持ってきた甘露煮と渋皮煮も乗せて食べている。
「ぼくもんぶらんすきかもしれないな。おとうさん、これからまいにちもんぶらんだしてくれてもいいよ?」
 子供特有の悪気のない上から目線。それにダニエレはくすりと笑おうとして、頭がふらりとしたのを感じた。
(ああ、そうでした)
 ダニエレは思い出す。大人のモンブランにはラム酒が入っているだと。
 菓子に使われる程度の量でも影響を受ける位、ダニエレは酒に弱い。美味しく食べていたモンブランだが、まだ半分以上残っている。
(これはお水を飲みながら少しずつ食べ進めないといけないですね)
 子供であるジョルジオの前で、残すのはもちろん、酔っている姿など見せられない。だからダニエレは体が限界を叫ばないよう、何気ない様子で少しずつ食べていく。
 しかし、子供は意外によく見ているもの。
(おとうさん、なんかわからないけど、こまったようにもんぶらんをたべてる)
 ジョルジオは酔っているかどうかは分からなくとも、ダニエレがいつもと違う事はしっかりと分かっていた。
 そして、いつもと違う事はしっかりわかっていても、その原因をと推測すれば、それはやはり子供らしく、見当違いの事を考える。
(もしかして、もったいないからちょびちょびたべてるのかな?)
 だってモンブランなんて普段あんまり見ない。きっとダニエレにとっても珍しいものだったのだ。きっとそうだ。
 ジョルジオは子供ながらに真面目に考え、そして行動に移す。
「おとうさん、ぼくのをすこしだけたべていいよ!」
「え……?」
 ジョルジオは自分のモンブランが乗った皿を、ダニエレの方へと押し出す。
「ぼくもたべたいけど、おとうさんがわらいながらたべてるほうがいいから。だから、がまんしないでたくさんたべていいんだよ」
 そしてにっこりと笑う。
 曇りのない笑顔に、ダニエレは顔の筋肉が緩むのがわかった。いや、顔の筋肉だけではない、涙腺もだ。
「……ジョルジオには毎回驚かされます」
「え? なにが?」
 不思議そうに首を傾げるジョルジオに「何でもないです。これは好きに食べていいですよ」と皿を戻してあげ、自分は大人のモンブランを一口、笑顔で食べる。
 情操教育等と考えなくとも、ちゃんと良い子に育っているようだと思いながら食べたモンブランは、さっきまでより甘く感じた。


■幸せ運ぶ栗きんとん
「食欲の秋! 自然からの恵みを満喫するぜ!」
 元気よくきたのは『セイリュー・グラシア』だ。
 沢山の栗料理が並ぶ中、セイリューは目移りしながら練り歩く。しかし、一通り見るとセイリューは咆える。
「しかし! 一番肝心の物が無いのは何故だ!」
 どうやらセイリューの希望の品は無いらしい。そこで彼は料理人のところへ駆けていく。
「栗きんとんをお願いします!」
 元気にリクエストをすれば、料理人は笑顔で「はい、分かりました」と答える。
「これは外せないじゃん。美味しい栗ならなおさらだ」
「良い芋も仕入れてますからね、芋栗きんとんで」
「よっし!」
 まさに秋の味覚。セイリューはそれが出来上がるまで他のメニューを食べて待とうと、既に出来てるところへとまた元気に駆けていく。
「走っちゃ駄目だよ!」
 と困り顔で、それでも笑顔を見せながら言うのは『ラキア・ジェイドバイン』だ。その横で『オラが村を応援し隊!!』というたすきを掛けた男が「まぁ無礼講という事で」と笑う。
「ああ、どうも。さっき入り口で栗を見せてもらったけど、とても良い栗だね」
「でしょう! 今後とも宜しくお願いします!!」
「森からの恵みに感謝して美味しくいただきますね」
「ありがとうございます!!」
 にこやかに会話をはじめ、ラキアは気になっていたことを訊ねる。
「あの、そちらの村って、もしかして……貴族のお嬢さんと一緒に駆除した村かな?」
 依頼を聞いた時から、以前依頼で訪れた村に似ていると思っていたのだ。
 すると、村人は目を丸くして、その後ガシッと両手を掴んできた。
「もしかして駆除してくださったウィンクルムの方ですか?!」
「あ、はい」
「まさかお会いできるとは!! こんなところでなんですが、村を代表して、ありがとうございます!!」
 ラキアの予想は当たっていた。村人はブンブンと手を上下に振って感謝の意を伝えてくる。
「いえいえ、皆さん元気にしてるならいいんですよ。いいものも見つかってよかったです」
 自分達の仕事の後日談を知るとは思わなかったラキアは、不思議な縁を感じながら笑顔で答える。
「栗達の事を毎年村の人が気に掛けてくれると、森もきっと喜ぶよ。手を掛けた分だけ応えてくれるからね」
 植物に詳しいラキアからのアドバイスに、村人は笑顔で「はい!!」と答えた。

 栗ご飯に鶏肉と栗の赤ワイン煮、そしていが栗コロッケを前に、セイリューはご満悦だ。
「美味い!」
「君はいまだ食べ盛りだね」
 もりもりと食べるセイリューを微笑ましく見つめながら、ラキアも同じメニューを食べる。ただし、セイリューよりは控えめな量を。
「秋は何もかもが美味しいから大好きさ」
 言いながら、剥いた焼き栗をラキアに差し出す。ラキアは「ありがとう」と言いながらそれをいただく。
「面倒だけど、このひと手間でより美味しくなる気がするよな! ところで、栗焼酎は栗の香りするのか?」
 ラキアが持ってきた焼酎をクンクンと嗅ぐセイリューに、ラキアは苦笑しながら近くにあった小さいグラスを取る。
「これ意外と強いお酒だから少しだけにしておきなよ」
「ん、これも美味い!」
 顔を赤らめるセイリューに対して、ラキアは顔色を変えずに「そうだね」と微笑む。
「そして、お待ちかね栗きんとん!!」
 綺麗な山吹色のきんとんに、滅多にない大きな栗。それらを思い切って一口で食べる。
「!! 美味い! すっごい美味いこれ!!」
 甘い、蕩ける、ほっくりした栗は柔らかい。
「これは頼んで正解だね……!」
「これもっと食べたい! 持ち帰りとか出来ないかなぁ?!」
 目を輝かせるラキアに、もっもっもっ、と止まることなく食べ進めるセイリュー。リクエストをしてよかったと二人で噛み締める。
 そしてあっという間に終わった栗きんとんの後は、大人モンブラン。
「ッこれも美味い! ラム酒いいじゃん!」
「鼻に抜ける香りがいいねぇ」
 堪能しているラキアの前で、セイリューはモンブランを平らげ「もう一度栗きんとん頼んでくる!」と駆け出した。
 ラキアはその背を見ながら考える。
 思わぬ縁でウィンクルムになったけれど、幾つもの依頼をこなして、二人の間も深まった気がしていた。だけどそれだけじゃない。仲間や、助けてきた人達とも繋がっていく。
 ―――こんな今も、全部セイリューと出逢ったからなんだな……。
「どうですか? 栗きんとん以外にもリクエスト受け付けてますよ」
 そこへ、さっき話した村人が声をかける。
「そうだな、他のもいいけど……」
(セイリューの為に今度栗きんとん作ろうかな)
 あの笑顔を、今度は自分が作り出せたらと思い、ラキアは訊ねる。
「栗きんとんのレシピって、教えてもらう事できますか?」
 村人は笑顔で答える。
「村に遊びに来てくれたら、喜んで!」
 この商売上手。
 そう思いながらも、ラキアの脳裏にはごく自然に二人で村を訪れるイメージが浮かんだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月28日
出発日 11月03日 00:00
予定納品日 11月13日

参加者

会議室

  • [4]羽瀬川 千代

    2014/11/01-00:32 

    こんばんは。羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    皆さま、どうぞ宜しくお願い致します。
    美味しそうな栗料理がたくさんあって、つい目移りしてしまいますね(ふふ
    栗パーティー、今からとても楽しみです。

  • [3]ロキ・メティス

    2014/10/31-20:31 

    はじめまして、だな。よろしく頼む。
    とりあえず栗ごはんを美味しくいただくつもりだ。

  • はじめまして、ダニエレといいます
    秋の味覚を存分に楽しいタイと思っています


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