【ハロウィン・トリート】A.G.O.クッキングスタジオ(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「いらっしゃいませー!A.G.O.クッキングスタジオでーす!
ただいまハロウィン特別キャンペーン中でーす!」

 タブロス市内の大通り。
ハロウィンの準備で賑わう人混みの中
オレンジ色のエプロンにコウモリのバッジを付けた一人の女性がチラシを配っていた。
バッジにはA.G.O.クッキングスタジオと書いてある。


二人がそばを通りかかると
女性は、よろしければどうぞ、とポニーテールを揺らしながらチラシを手渡してくれた。

受け取ったチラシに書かれていたのは
大通り近くにある有名クッキングスタジオの特別キャンペーンのお知らせのようだ。


ふたりは肩を並べて読み進めることにした。





≪A.G.O.クッキングスタジオ≫

〜Happy Halloween!!〜

2人一組でハロウィンにちなんだお菓子を作って
参加者の皆でお茶会をしよう!

材料はキット販売のお気軽クッキング!
担当講師の丁寧な説明で初心者の方も安心してお菓子作りが楽しめます。

エプロンもスタジオで用意させていただきますので、事前準備は一切不要!


選べるキットは4種類
たくさん作ってみんなで食べよう!



1.ジャックのおばけパンプキンパイ
→サクサクのパイ生地となめらかなパンプキンペーストの相性が抜群のパンプキンパイ。生クリームを添えてどうぞ。


2.黒猫のほろにがコーヒーゼリー
→黒猫の毛並みのように艶やかなブラックコーヒーゼリーに甘いミルクをお好みで。苦みと甘みのバランスがたまらない。


3.ミイラ男のぐるぐるモンブラン
→ふかふかのココアスポンジ生地に濃厚なマロンクリームとラム酒の香るマロングラッセ。
旬の味をお楽しみください。


4.ドラキュラのまっかなベリームース
ストロベリームースの上に、血のように赤いラズベリーとクランベリーをのせました。
さっぱりしているので、甘いものが少し苦手な方にも。




お菓子を作り終えたら参加者全員でお茶会を行う予定です。

飲み物は
・魔女の特製ドリンク(赤、緑、黄どれか一つ。味は飲んでからのお楽しみ)
・ブラッドオレンジジュース
・カフェモカ
の中からお選びください。


参加費
キット販売料、エプロンレンタル料、ドリンク料、全て合わせて500Jr


ご注意

※キット販売のお菓子作り体験のため、材料のご持参はご遠慮ください。
※衛生管理のため、仮装はご遠慮ください。

解説

手作りお菓子でハロウィンパーティーを楽しむイベントです。

二人一組であれば、神人同士や精霊同士でコンビを組む事も可能ですが
掲示板等で必ずお互いにご相談の上、プランにご明記ください。

お菓子作りの後は、そのまま全員でお茶会となります。
作るお菓子を1~4から、ドリンクをご所望の場合はドリンクの種類もご記入ください。


ゲームマスターより

ハロウィンイベントのお菓子のイラスト、見るたびおなかが空きますね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  私、お料理とかお菓子作りとか好きなのでとっても楽しみにしてたんです。
イヴェさん、美味しいお菓子を作りましょうね!

先日の夜会では吸血鬼と魔女の恰好をしましたね。
という事で今回はドラキュラのまっかなベリームースにしましょうか?
以前甘いものは少しに苦手だと聞いたので。
ベリームースなら甘味控えめで食べやすいと思います。
夜会、楽しかったです…その…ちょっと恥ずかしかっただけで(思い出して赤面)
その…嫌だったわけじゃないですよ。

後で皆さんとお茶会ですね。私はカフェモカにしようと思うのですがイヴェさんはどうしますか?
他の方からどんなお話が聞けるか今から楽しみです。

お菓子スキル使用
関連EP『魔女たちの夜会』


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ミイラ男のぐるぐるモンブラン

【飲み物】
魔女の特製ドリンク・黄

【行動】

お腹がすいていたから参加しちゃった
ディエゴさん、甘いものは苦手なんだけど私のわがままを聞いてくれたんだよね…。
このお菓子はディエゴさんの為に作らなくちゃ!

でもどうすればいいんだろう
砂糖の量を少なくして、マロンの甘味だけを残した…
全体的に甘さ控えめのものにしたいな…
できないか講師さんに相談してみよう。

お茶会の時には、ちょっと勇気を出して
このモンブランはディエゴさんの好みに合わせて…
ディエゴさんの為に作ったものだって言ってみよう。

お菓子作りは上手なほうじゃないけど
気持ちを込めて作ったつもりだから、喜んでほしいな…。



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  キット:2
飲み物:魔女の赤

黒猫のともよちゃん?私会った事あるかな…
ともよちゃんの毛並みを再現する為に頑張ろっか

コーヒーの香りに包まれながらレシピ通りに作っていくよ
折角だから楽しくお喋りしながら作っていきたいね

そういえば、春にも一緒にお菓子を作ったよね
…あれから、もう半年が過ぎたんだね
ねぇ、ハロウィンが終わったら紅葉を見に行くのはどうかな?
降矢さんともっと季節を楽しみたいなと思うんだ
…降矢さん、混ぜる手が止まっているよ?

●お茶会
先ず皆のお菓子の出来を褒めると思うな
お話には聞き役に回ろうかな
そしてドリンクを一口…辛くなければいいんだけれど
メインのカフェゼリー!ふふ、猫に例えてばっかりだよ降矢さん


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  ふふ、みんなでお茶会か・・・。
お菓子作りは初めてなのだが・・・上手く出来るか不安だな・・・。
調理本を見ながら作ればなんとかなるか?

作るお菓子・1番

ドリンク・魔女の特製ドリンク(黄)

<料理>
・初級マニュアル本「調理」のスキルを使用。
・慣れない料理に戸惑いながらも、段々楽しさを覚えていく。

<お茶会>
・沢山のお菓子とみんなとのお茶会にウキウキ。
「こんなに賑やかなお茶会は初めてだ・・・」
・相変わらずテーブルマナーを覚えないアモンに不満を漏らすが、気が付くとフォローしつつ、自慢話みたいに。
・最初は自分が望んでいた様な契約ではなかったが、助けられていく内にいつの間にか対等な相棒として認めている事に気付く。




楓乃(ウォルフ)
  ■作るお菓子
ミイラ男のぐるぐるモンブラン

■飲み物
魔女の特製ドリンク(赤)

「普段、ウォルフに色々お菓子作ってもらってるし、
たまには私が作ってプレゼントするのもいいかもしれないわ!」
…と意気込んで、「たのも~!!」と道場破りのようにスタジオに突撃。

不器用な為、お菓子作りに大苦戦。
「うぅ…。あきらめないんだから…!」と、
何度も挑戦してやっと出来た一つをウォルフに差し出す。
おいしいと言ってもらえてご機嫌に。

お茶会の席では、皆に普段パートナーとどう過ごしているのかを尋ねてみる。(アドリブ可)
その中で、自身が普段、食事もその他の家事もウォルフに任せっぱなしで頼りきってしまっていることに気づき反省する。



「ウォルフ、これ行かない?」

 (普段、ウォルフに色々お菓子作ってもらってるし
たまには私が作ってプレゼントするのもいいかもしれないわ!)

道で配られていたチラシを手に、楓乃は目を輝かせた。

「お菓子作り?
菓子くらい、オレがいつでも作って、」

「まあまあいいからいいから!」

 質問の体は取っているものの、ウォルフの答えは聞かず
そのまままっすぐA.G.Oクッキングスタジオと書かれたビルへと向かって行く楓乃。

「たのも~!」

「すっげー意気込んで突撃してったけど大丈夫かよ……」

 スタジオの中から聞こえてきた楓乃の声に
ウォルフは慌てて後を追った。





楓乃が中に入ると、スタジオには調理台が5つ。

そのうちまだ空きのあった1つに案内され、一旦椅子に腰かけた楓乃が周囲を見渡すと
見知った顔が思い思いの表情で調理台に着いている。




その中の一人、リオ・クラインはやや緊張した面持ちだ。

「お菓子作りは初めてなのだが……上手くできるか不安だな」

「たく、菓子作りとか面倒くせぇ
いくらハロウィンだからってよぉ……どう思うよ、ディエゴ先輩?」

 そう言ってアモン・イシュタールが
隣の調理台の前で背筋を伸ばして座るディエゴ・ルナ・クィンテロに声をかけた。



「俺は菓子を作るのは初めてだ」

「そうなのか?なんでも涼しい顔でこなしそうなのに」


 ディエゴの言葉にアモンが意外そうな表情で驚くと
ハロルドが助け舟を出した。

「私がお腹が空いていたから参加しちゃった
ディエゴさん、甘いものは苦手なんだけど……」


 (私のわがままを聞いてくれたんだよね)


ちらりとディエゴの表情を伺うと
特に不機嫌ではないが、楽しみにしている風でもない。

やっぱり嫌だったかな、と不安になるハロルドに話しかけたのは淡島 咲だった。



「ディエゴさんも甘い物が苦手なんですね
イヴェさんもそうなんですよ」

 にっこり笑う咲の後ろで
イヴェリア・ルーツが調理台に運ばれてきた材料を使用順にきちんと並べていた。

「でも私、お料理とかお菓子作りとか好きなのでとっても楽しみにしてたんです」

 付き合ってもらっちゃったから
せめて出来るだけイヴェさんも食べられるように甘さ控えめのメニューにしようと思うんですと
話すイヴェリアに、ハロルドは胸に広がった不安を打ち消した。


(このお菓子はディエゴさんの為に作らなくちゃ!)


張り切る一同(特に神人たち)の様子を眺め、楽しそうに笑うのは日向 悠夜だ。


「ふふ、みんな張り切ってるね
私も美味しく作れるといいなあ」

「誰かが自分のために作ってくれた料理っていうのは
どんな高級レストランにも勝る美味だからね
甘いものが苦手な子も、きっと美味しく食べてくれるよ」

 さて、僕のはどうだろうね、と
降矢 弓弦は顎を撫でた。









それぞれの調理台に製菓キットとレシピが配られる。

女性講師が1人調理台の間を見て回り、質問に答えてくれたり手助けをしてくれるようだ。




「いい?絶対手伝わないでね」

 パートナーにそう言い置いて、楓乃はモンブランの材料を受け取った。

楓乃のパートナー、ウォルフは料理が得意だ。

ウォルフに任せておけば味も見た目もハイレベルな料理が
実に手際良く提供されてくるのでとても助かっているのだが
いつも作ってもらってばかりでは申し訳ないと思っていた楓乃の心を見透かしたかのようなこのイベント。

だからこそ、ウォルフに手伝ってもらってしまっては意味が無いのだ。

どうぞ、とスタッフに手渡されたのは
まるでミイラのように包帯が巻いてあるように見えるデザインの白いエプロン。

よし、と気合を入れると
楓乃は土台になるココアスポンジ作りに取りかかった。


「まずは卵白と卵黄を分ける、と……」


 レシピを読みながら卵をシンクの端に打ち付ける。

手際良くきめ細かなメレンゲを作り終えていたウォルフは
楓乃の手元からぐしゃり、と卵が潰れる音を聞いた。

「おいおい、本当に大丈夫かよ……」



 マロンクリームを絞り終え、天辺にマロングラッセを飾る。

「ま、こんなもんか」

 綺麗に出来上がったモンブランを見るウォルフの隣には
クリームをうまく絞れず四苦八苦している楓乃がいた。

ココアスポンジは、メレンゲの泡立て方が足り無かったのか、やや萎んでいる。
全くの未経験の楓乃にメレンゲは難しいと思ったウォルフが手伝いを申し出たのだが

「絶対手伝わないで!」

 と強い口調で断られてしまい手が出せなかった。


「わっ!」

 声がした方を見れば、強く握りすぎたのかクリーム絞り袋の口金から
大量のマロンクリームがはみ出しているのが見えた。

「うぅ……あきらめないんだから……!」

 頬にクリームを付けながら一生懸命クリームを綺麗に飾ろうとする楓乃の姿に
そんなにモンブランが好きだったのか、今度からは時々作ってやろう、と思うウォルフだった。










一方こちらも白いミイラエプロンを身につけたハロルドは
モンブランの材料を前に頭を悩ませていた。

隣でレシピを読み込んでいるディエゴをちらりと見上げる。

(ディエゴさんの為に、ってどうすればいいんだろう)


甘いものが苦手なディエゴのために作るモンブランは
本人の好みを考えれば甘すぎない方がいいのだろう。

(砂糖の量を少なくして、マロンの甘味だけを残した、全体的に甘さ控えめのものにしたいな……
できないか講師さんに相談してみよう)

ディエゴには聞こえないよう講師を小さな声で呼び止めると
女性講師もハロルドの心中を察してくれたのか、甘さ控えめのモンブランになるように
レシピに書かれた数字をこっそり書き換え、頑張ってね、と笑った。

ハロルドが改めてモンブランの材料を計量し始めると
ディエゴが、自分の材料とハロルドの材料の差異に気付き、声をかけた。

「……分量が違うんじゃないか」

「これで大丈夫なんだよ」

 (甘いものが苦手なのはわかってるけど
気持ちを込めて作るから喜んでほしいな)

隣でスポンジ種を均一に型に流し込むディエゴの横顔を、ハロルドはもう一度盗み見た。



「焼けたか」

 オーブンがココアスポンジが焼きあがったことを知らせる。
ディエゴは中を覗き、スポンジが綺麗に焼けている事を確認すると
オーブンからスポンジを取り出そうと、型に手を伸ばす。

ミトンを忘れた、と思う頃には遅かった。
手が熱されたケーキ型に触れてしまい、ディエゴは反射的に手を引っ込めた。

「あ、ディエゴさんだいじょう」

 ぶ、とハロルドが言い終わる頃には、なぜかディエゴの指はハロルドの耳朶に触れていた。

「ディエゴさん!?」

 いつもは眠そうな目を見開きハロルドが自分の予想通りに驚く様に、ディエゴは胸の内で少し笑った。

「熱い物に触れた時は、こうして耳朶に触れるのだろう
ちょうど良い位置だったから、少し借りた」

「借りたって……」

 もう、とむくれるハロルドに
ディエゴは今度こそ表情に出して笑う。
出会った当初は人形のように感情がなかったハロルドが
今ではこんなに表情豊かに怒ったり、笑ったりする。

その成長とも言うべき変化にディエゴは喜びと楽しさを感じた。
ハロルドの成長を傍らで見て行くことが幸せだなんて
まるで親のようだと思いながらも、ディエゴはこの穏やかな日常が長く続くものと根拠もなく思っていた。

未だ、この時は。








パンプキンパイのセットと、胸元に大きくジャック・オ・ランタンの顔が描かれたオレンジ色のエプロンを受け取り
調理台の上の器具と睨み合うリオに、面倒くささを全面に押し出した態度のアモンが声をかける

「マジでやる気しねぇ……
てゆうか、お嬢様が料理なんて出来るのか?」

「調理本を見ながら作ればなんとかなるんじゃないのか」

 リオが手にしているのは
「お料理のススメ」と書かれた初級調理マニュアル本だった。
材料の計り方や混ぜ方、ちょっとしたコツまでわかりやすく丁寧に書かれているが
書かれている通りに実行できるかどうかはリオの腕次第だ。

「料理とは、なかなか楽しいものだな」

 本人は楽しんではいるようだが、アモンから見ればパイシートを扱う手つきすら危なっかしい。
リオがかぼちゃを小さく切り分けるためにナイフを持った瞬間、アモンはそのナイフを横から奪い取った。

「何をする、返せ」

「お嬢様は知らねぇだろうが、かぼちゃってやつは切るのに結構力が要るんだ
力仕事はオレに任せて、お嬢様はパイシートの方頼むぜ」

 邪魔をされたと思ったのか、むっとした表情のリオに
アモンはもっともらしい理由をつけてナイフから遠ざけた。
あの手つきでかぼちゃなんて切らせたら、指の一本や二本は無くしかねない。

「ああ……めんどくせぇ」

 そう呟いて、アモンはナイフを持ってかぼちゃと向き合った。










「どれも美味しそうですね、どれにしましょうか?」

 咲が販売キットのリストをイヴェリアにも見えるように広げる。

「うーん、ベリームースにしましょうか?
ベリームースなら甘味控えめで食べやすいと思います」

「俺の好みに関してまで考えてもらってすまないな
サクの食べたい物を作るので構わないんだぞ」

 しかし、咲は甘い物が苦手とわかっていながらも、イヴェリアにも少しでも味わってほしかったのだ。

「せっかくですし、一緒に美味しく食べましょうよ」

 講師にベリームースを注文し、臙脂のエプロンを付けながら咲が笑う。
そんな咲の気遣いに、イヴェリアは胸が温かくなるのを感じた。

「ベリームースを選んでくれるのか……
サクにも喜んでもらえるような美味しいものにしないとな」

 二人でお揃いのエプロンをつけ、調理を開始する。

「ドラキュラのまっかなベリームースだから
エプロンも赤にコウモリの羽根の絵なんですね

ドラキュラ、ですか……」


 そこまで話し、ふと咲の手が止まる。
どうしたんだとイヴェリアが咲の方を見ると、咲の横顔がうっすらと赤かった。

「サク?具合でも悪いのか?」

 もしそうならば、料理などしている場合ではない。
イヴェリアが血相を変えたのを見て、咲が慌てて顔を上げた。

「ち、違うんです!
この間の夜会、楽しかったなあって……」

 先日、クレール・ドゥ・リュヌにて行われた仮装夜会。
イヴェリア扮する黒薔薇の君の凛々しい姿と、首筋に落ちたその感触を思い出し
咲はますます頬を赤く染めた。

「嫌だったか?」

 思えば、演じるという魔力に魅せられて大胆な事をしたと思う。
今更ながら問いかけるイヴェリアの言葉を咲は穏やかに、しかしはっきりと否定した。

「嫌だったわけじゃないですよ
その……ちょっと恥ずかしかっただけで」

 照れている咲の姿にイヴェリアは安堵した。
あれだけの事をしても平気な顔でいられたなら、その方が辛い。
照れる、と言う事は
自分を異性として意識してくれていると期待してもいいのだろうか、と自問し
イヴェリアはムースづくりに意識を戻した。









「黒猫のカフェゼリーか…その黒はともよの様に美しい色合いなんだろうね」

 そう呟いてコーヒーゼリーのキットを受けとり、振り返った弓弦が見たのは
黒猫の顔の形の可愛らしいエプロンを着けた悠夜だった。

「黒猫のともよちゃん?私会った事あるかな…」

「あ、ああ、早朝によく来る子だから会った事はないかもしれないね」

「じゃあ、今度会いに行こうかな
よし、ともよちゃんの毛並みを再現するためにが頑張ろっか」

 二人で並んで、時折弓弦が記憶したレシピを確認しながら作業を進める。
悠夜はコーヒーを淹れ、弓弦はゼラチンをふやかし
ボウルの中で合わせて混ぜていく。

悠夜の淹れるコーヒーの香りの中、思い出すのは淡いピンクの春の花。

「そういえば、春にも一緒にお菓子を作ったよね
……あれから、もう半年が過ぎたんだね
ねぇ、ハロウィンが終わったら紅葉を見に行くのはどうかな?
降矢さんともっと季節を楽しみたいなと思うんだ」

 この半年で、友人であったはずの弓弦の見たことのない表情をたくさん知ることが出来た。
半年前とは違う、確かな絆がそこにある。

「時の流れはどんどん早くなるね
秋の紅葉を楽しんだ後は、冬が待っているね
……冬の先、春も一緒に桜を見に行かないかい?
半年前と同じく、桜を」

 紅葉はもちろん、その先も。
冬の雪も、春の桜も、二度目の夏も
ふたりならきっと笑って過ごせると僕は知っている。

まだ見ぬ季節に弓弦が思いを馳せていると
横で見ていた悠夜が声をかけた。

「……降矢さん、混ぜる手が止まっているよ?」

「おおっと」

 コーヒーと混ざったゼラチンは、弓弦のが持つボウルの中で温度を落とし始めている。
弓弦は慌ててボウルの中身を猫の顔型のゼリー型に注ぎ込んだ。










モンブラン、パンプキンパイ、ベリームース、コーヒーゼリー。
出来上がったお菓子を、テーブルいっぱいに並べ全員で席に着いた。


「こんなに賑やかなお茶会は初めてだ……」

 所謂深窓の令嬢であり、テーブルマナーも厳しく躾られてきたリオは
あまり経験したことのないお茶会の雰囲気に目を輝かせている。






「どのお菓子も美味しそう、皆がんばったね」

 見渡せば、皆それぞれにお菓子を作り終えた達成感で晴れやかな表情をしている。

悠夜達が作ったコーヒーゼリーも可愛らしい猫型にしっかりと固まっていた。

「メインのコーヒーゼリー!美味しくできたかな?」

 悠夜と弓弦がゼリーにミルクをかける。

「ミルクを掛けると…ともよというよりは白黒ぶちの淳之助みたいだ」

「ふふ、猫に例えてばっかりだよ降矢さん」

 ほろ苦いコーヒーに甘いミルクの味が絡んで
つるりとした食感が心地よい。
弓弦は他のメンバーの様子を見つつ、飲み物にも手を伸ばした。

「この飲み物は緑だけれど…抹茶の様なものなのだろうか」

 不思議な色の飲み物は弓弦の知的好奇心をこの上なく煽った。
見れば、隣でディエゴも緑のドリンクをまじまじと観察していた。

「ディエゴ君も緑なんだね
どんな味かとか、講師さんから聞いてるかな」

「いや、特には何も」

 弓弦の問いかけにディエゴが首を横に振った。

「ハロルドさんは黄色なんだね
私は赤……辛くなければいいんだけれど」

「……悠夜さん、辛いの食べてましたよね?」


 あれは別、と笑う悠夜とハロルドもじっと自分の手元のドリンクを見た。

「まあ、飲んでみれば分かるか
百聞は一見に如かず、いざ!」


 弓弦の声に各々に持ったグラスを恐る恐る傾ける。

「あ、美味しい
ブラッドオレンジジュースかな?」

「私はかぼちゃだ
ディエゴさんたちは」

 悠夜の赤とハロルドの黄色はそれぞれ
ブラッドオレンジジュースとパンプキンジュースだったようだ。

ハロルドが緑のドリンクを持った精霊たちを見ると
意外そうな表情の2人がいた。
そのドリンクの緑色から予想していたよりも味はずっと良かったようだ。

そちらは、ほうれん草とバナナのドリンクになります。美肌効果があるんですよ、と話す講師に
弓弦とディエゴは顔を見合わせ、同時に呟いた。

「美肌だって」

「美肌か……」

 その様子が何となくおかしくて
悠夜とハロルドは声を合わせて笑った。



「皆さん、普段パートナーさんとはどう過ごされているんですか?」

 楓乃の問いに咲が隣のイヴェリアを見ながら応えた。

「イヴェさんは私が行きたいところに一緒に来てくれるので
2人でお出かけしたりしますね」

「サクが楽しめるのが一番だからな
今日のベリームースも甘いものが苦手な俺の為にメニューを選んでくれたんだ
サクは、優しい」

 イヴェリアはマグカップのカフェモカを飲みながら咲の言葉に同意する。
咲とお揃いの飲み物のせいか、心なしか表情が柔らかい。


「私も一緒に出掛けたりはするが……なにせこの調子だからな」

 咲の言葉に続いて、リオがパンプキンパイにフォークを入れながらちらりと隣を見た。
アモンは皿に切り分けられたパンプキンパイを左手で掴んで口に放り込んだ後
空いた左手でブラッドオレンジジュースの入ったグラスを持って流し込むように一気に飲み干した後
右手に持ったモンブランにかぶりついている。
その上品とは言い辛い姿に、リオは溜息をつく。

「悪い奴ではないんだ
重い物を持ってくれたりして何かと頼りになるし
意外に面倒見も良いし
ああほら、アモン、口の端にクリームがついているぞ

……楓乃達はどうだ、普段どう過ごしている?」

 ハンカチでアモンの口元のクリームを拭ってやしながら
楓乃達にも同じ質問を投げかけるリオ。

リオの言葉に楓乃は自身のウォルフとの関わり方を振り返る。

「わ、私は……
ウォルフにお菓子を作ってもらったり、ウォルフに家事をしてもらったり……」

「ウォルフさん、お料理が得意なんですね」

 素敵です、と咲が笑う。

「しかしあれだな、娘の世話を焼く母親みたいだな
おかん、って呼んでやろうか」

「オマエみたいなでかい息子を生んだ覚えはない!」

 冗談めかしてからかうアモンと、それに冗談を重ねるウォルフを見ながら
楓乃は複雑な思いを抱いていた。

(みなさん、それぞれにしっかりパートナーを支えているのね
それに比べて、私はウォルフに頼り切りで……)

パートナーに頼るのは、悪い事ではない。
だが頼った分と同じだけの気持ちを自分はウォルフに返せているのだろうか?

楓乃の心の奥には、もやもやとした塊が残った。







「おい」

 小さな声で、アモンがリオを呼ぶ。

「なんだ」

「さっき、なんであんなこと言ったんだ
オレが頼りになるとか、面倒見が良いとか
……褒めるみたいな」

 リオは愚痴のつもりで言っていたが
端から聞けばただの自慢話のような内容に、アモンは面食らったのだ。

「褒めたつもりはなかったが……
アモンにはいつも助けられているし
もしかしたら、キミとのコンビもそう悪くないのかもしれないな」

 そう言ってにっこりと笑うリオ。
しかし、アモンは悪くないという言葉を悔しいと思った。
彼女の最高のパートナーは他の誰でもない自分であってほしい、と
心の奥で首を擡げた思いに、名前は未だ無かった。

「しょうがねぇから、ちょっとは食べ方を改めてやる
ちゃんと教えろ」





「イヴェさん、どうですか?」

「……美味い」

 ベリーの酸味が効いたムースは、甘すぎずさっぱりとしていて
これならばイヴェリアも食べられそうだ。

「良かった!」

 そう言って自分もムースを食べ始める咲は、料理をしている時よりも数段嬉しそうだった。
その表情だけで、イヴェリアはここに来て良かったと感じたのだった。



「ディエゴさん、こっちのモンブラン、食べてみて」

 自分で作ったモンブランを皿には乗せたものの、一切手をつけないディエゴ。
ハロルドはディエゴのために作った甘さ控えめのモンブランとディエゴのモンブランを取り替えた。

「何か、違うのか」

「ディエゴさんのために甘さ控えめになるように、講師さんに相談してみたの
これなら少し食べやすいと思うんだけど……」

 やや俯き加減で、ハロルドの表情はよく見えない。
ディエゴは差し出された皿を受け取り、モンブランを躊躇いなく口へ運んだ。

うむ、と頷いたディエゴに、ハロルドはホッと胸を撫で下ろす。

ディエゴはハロルドが作ったモンブランを一つ取ると、何も言わずに食べ終えた。



依頼結果:普通
MVP
名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月17日
出発日 10月22日 00:00
予定納品日 11月01日

参加者

会議室

  • [6]楓乃

    2014/10/21-22:53 

    ご挨拶が遅れてしまいました…。
    みなさんお久しぶりです!
    一緒にお菓子作り頑張りましょうね♪

    私はモンブランを作ろうと思っています~
    どんな出来になるのかとっても楽しみです!

    お茶会では皆さんに、普段パートナーとどんな生活をしているのか
    伺ってみたいと思います!
    色々気になるわ…!

    どうぞよろしくお願いしますね。

  • [5]日向 悠夜

    2014/10/20-23:50 

    こんにちは。日向 悠夜って言います。
    淡島さん、クラインさん初めまして。よろしくお願いするね!
    ハロルドさん、楓乃さんお久しぶりです。改めてよろしくお願いするね。

    私たちは…そうだなぁ。カフェゼリーを作ろうかな。
    美味しく作れたらいいね。

    お茶会でのお話…うーん、どうしようっか。
    楽しいお茶会にはなってほしいかな?

  • [4]淡島 咲

    2014/10/20-12:07 

    こんにちは、淡島咲とパートナーのイヴェさんでし。
    よろしくお願いしますね(ぺこり)

    私達はベリームースを作ろうかな思っています。
    お菓子作り楽しみですね!

    お茶会での会話ですか?悩んじゃいますね~。
    (PL:気が付いたらパートナー自慢してた~とかできると背後としては美味しいです(ぐっ))

  • [3]リオ・クライン

    2014/10/20-09:23 

    悠夜さん達は初めまして、咲、ハロルド、楓乃達は久しぶりだな。
    リオ・クラインとパートナーのアモンだ。

    ふふ、沢山のお菓子でお茶会か♪
    私達はパンプキンパイを作ろうと思う。

    ところで、皆はお茶会でどんな事を話したい?

  • [2]ハロルド

    2014/10/20-03:18 

    私たちはモンブランを作ろうと思っています
    よろしくお願いしますー

  • [1]ハロルド

    2014/10/20-02:07 


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