【七色食堂】Reverse blue(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「青っつったら海だろう! 常夏の楽園、マリン&スカイブルーで決まりだろ!」
「いーや、青と言えば氷だね。クール&アイスブルー!」
「冷たいメニューでクールもアイスもカバーできるだろ!」
「ばっか、極寒の中で暖かいメニュー食べるのが良いんだろ!」

 どっちもやればいいじゃん。

「「 そ れ だ 」」

 と、言うわけで。
 仲は良いが譲らない、おまけに料理の腕も揃って一流の双子シェフの論争の末に、はらり、タブロス市内に一つの広告が舞った。

 『虹色食堂』のチェーン店、『青』の店舗がオープンいたしました!
 終わる夏を名残惜しむ方、来たる冬を待ちわびる方、どうぞ『青』の世界にお越しくださいませ!

 広告に釣られて訪れた場所には、2階建ての建物。
 ベルを鳴らして入口から入ってみるが、カウンターが一つあるだけ。
 ホテルの受付のようなその場所へ歩み寄れば、スタッフがにこりと微笑み。
「いらっしゃいませ、『Reverse blue』へようこそ。当店は一階にて夏のフロア、二階にて冬のフロアをお楽しみいただけます」
 夏のフロアでは足元を除く全面が硝子張りの空間で、海中の映像が流されている。
 水族館の中に備えられたようなフロア内は夏の外気温。海の家さながらだ。
 冷製メニューやトロピカルなドリンク、デザートを楽しめる空間である。

 一方の冬のフロアでは、同じく硝子で出来た壁とテーブル、床が出迎える。
 ひんやりと冷たい氷を敷き詰めたような店内は、吐き出す息も白くなる程。
 暖かなメニューを中心に、ほっと一息つける飲食物をそろえた空間だ。

「フロアに非常に激しい温度差がありますので、一度に2フロアでのお食事はできません。メニューをこちらにご用意させて頂きましたので、予めお選びいただきますようお願い申し上げます」
 夏のフロアで冷たいメニューか。
 冬のフロアで暖かいメニューか。
「お決まりになりましたら、貸衣装がございますので、宜しければご利用ください」
 水着に薄いパーカー、あるいはコートなど、フロアに合わせた衣類は無料で貸し出しているそう。
 ドレスコードの類ではないので、利用しなくとも構わないとスタッフは笑顔柄で説明し、二種類のメニュー表を差し出した。
「どうぞごゆっくり」

 誰が呼んだか『虹色食堂』。
 決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
 その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
 誰が呼んだか、『七色食堂』。
 目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。

解説

各フロアのメニューは以下の通りになります

常夏フロア【アズール・ブルー】

・冷製パスタセット 200jr
 冷製スープに選べる冷製パスタ、お好みのアイスドリンクの付いたセット
 A:生ハム、バジル、フレッシュトマトのパスタ
 B:エビ、アボカドのクリームパスタ
 C:梅、大根おろしの和風パスタ

・ドリンク(アイスメニューのみ)
 アイスコーヒー、アイスティー、ウーロン茶、ジンジャーエール、フレッシュジュース
 50jr追加でノンアルコールカクテル
 100jr追加でビールやカクテルなどのアルコールメニュー

・デザート 50jr
 シャーベット、カキ氷、アイスケーキ

極寒のフロア【オリエント・ブルー】

A:鍋焼きうどんセット(鍋焼きうどん、味噌汁、茶わん蒸し)
B:煮込みハンバーグセット(煮込みハンバーグ、スープ、パンorライス)
C:ビーフorクリームシチューセット(シチュー、付け合わせ、パンorライス)
 (各200jr 味噌汁、スープはお替り自由)

・ドリンク(ホットメニューのみ)
 コーヒー、紅茶、緑茶
 50jr追加でホットワイン

・デザート50jr
 各種果実のコンポート、フォンダンショコラ


コートや水着など、夏と冬に合いそうな貸衣装が無料でご利用いただけます
お食事後、受付フロアにてお休みいただけます
極端な気温に慣れた体をゆっくりと外気温になじませるためのお飲み物もご用意しております

ゲームマスターより

GM主催のプチ連動エピソード【七色食堂】、青の店舗でございます。

雪花菜 凛GM、あごGM、青色クレヨンGM、叶エイジャGM、寿ゆかりGM、あき缶GM、
連動企画にご協力いただきありがとうございました。

七色の特色を持った食堂、お楽しみいただけましたらば幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  一寸贅沢な気もするけど冬を先取りしにいくのも悪くないよな(笑

◆極寒の部屋で
2人共鍋焼きうどんを頼むよ
熱燗はないのか聞き、あればそれも頼む
なければホットワインだ

流石に寒いな…
もう少し厚着したら良かったかも知れない

体を温めようとうどんが待ち遠しい
が、思いっきり湯気たってるし(爆
熱くて食べられないじゃないか(俺ははふはふ食べよう

え?ランスって猫舌なのか?(テイルズって皆そうなのかな?
猫耳じゃないのに猫舌とか(ぷぷっ←
あ、ごめんごめん(ははは

ネギそのまま食べたぁ!?
見せてみろよ(コップの水を含ませて暫く冷やしてから
あーんして、あーん

少し赤くなってるな
待ってろよ今…(店員さんに氷を貰おう

ほら、氷。あーん



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  常夏フロアにダイブ

1:ゼク、水着は男物女物どっちを僕に着て欲しい?
3:露出高い方が好み、と
5:ゼクだってパシオン・シーで全裸になってたじゃん

めんそーれ。ご注文は
セットA+ジンジャーエール+かき氷(ブルーハワイ)

8:ん?
10:うん。だから注文しといたよ
12:僕も一口貰いたかったし青いカクテル見たいし

パスタを器用にくるくる
トマトの一部はゼクの皿にテレポート

14:食べてるよー、でもこんなに赤いの要らない
16:ゼクが卑怯な手を使ってくるからね
18:冬に向けて煮込みや鍋が多くなるから要注意だ
20:これから嫌でも寒くなるんだからそれからでいいや
22:というと?
24:うそつき。

25:うーん。舌、青くなった?


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  常夏フロア【アズール・ブルー】へ。
寒さはこれから堪能できるから、暑いトコで冷たい料理を味わいたいんだ。
メニュー選びに大いに悩み。
どれも美味そう。全部食べたい。
しかしそんな訳にはいかないジレンマ。
メニュー睨んで熟考しパスタセットAに決定!
ドリンクはジンジャーエールで。

パスタが美味しいので喜んで食べる。
料理をより美味しく楽しむコツはアレコレ考えない事さ。
「食っている時はこの美味さの流れに身を委ねるんだ」とラキアを元気づけよう。食事が美味しいのは良い事だぜ。

デザートはかき氷。
先日依頼後に皆で食べたかき氷も超美味だったなあ。
あれは人生最高のかき氷だった。
うん、これも美味い。
美味しくて幸せだ。と笑顔。



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  (珊瑚を遠くで見つめながら)
あいつ、暇さえあれば海ばかり見てたくせに何度海を見れば気が済むんだ?
普段外食はほとんどしないけれど、今日はのんびり過ごそう

アズール・ブルーに行く前に、スタジアムジャンパーは脱いで腰に巻いておこう
注文はパスタのAセットとウーロン茶
試しにヤックルロア討伐や流星群を観た事を話すか。
だが、珊瑚。食事中は喋るか食べるかハッキリしてくれ

(話題が尽きたので、沈黙を破るように海の映像を見上げる)
それにしても、お前本当に海が好きだな
(珊瑚の話を聞きながら)
わからない
けれども、名前で呼ぶぐらいだ
その人にとって、お前は特別な存在かもしれない

別にいい
お前が楽しんでくれたら、それで十分だから



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  【オリエント・ブルー】
クリームシチューセット+紅茶

色違いのファー付きコートを二着レンタル

寒…!
で、何だよ話って
まさか早めの冬気分味わうためだけに来たわけじゃねえだろ

話を聞いて思わず紅茶を吹き出す
すぐに冗談半分の言葉と分かり、本来の目的を聞いて安堵の溜息

ウィンクルムになる前もAROAの調査員として結構危ない橋も渡ってきたつもりだったんだが
でもやっぱり実際戦うってなると…
今も思い出したら手が震える、俺が直接戦ったわけじゃないのにな
大人しく撫でられながら感謝を伝える

話を戻すけど…婚約の件前向きに検討する
ばーか、こっちも冗談半分だ
あーなんか暑くなってきたな、この料理あったけーからな

…ん?何か言ったか?



●海と、呼ぶ声
 常夏のフロア、アズール・ブルー。
 少し足早に進む瑪瑙 珊瑚の背をゆっくりと追いながら、いつも着ているスタジアムジャンパーを腰に巻き、瑪瑙 瑠璃は扉を開く。
 迎えたのはからっと爽やかな、けれどじわりと汗を呼ぶ熱気。
 それから、一面の青。
 ゆったりと泳ぐ魚の映像を視線で追いながら、案内された席へと座る。
 そうして、一頻り海の画像を眺めた後、瑠璃は腑に落ちない顔をした珊瑚を、見やった。
(暇さえあれば海ばかり見てたくせに……)
 何度海を見れば気が済むのだろうと思っていたほどだが、今日は、何か少し様子が違う。
 けれど、特に触れる事もしないままでいると、急に珊瑚が大声を上げた。
「ああ! やめたやめた! 瑠璃! パスタかむんぞ、パスタ!」
「……最初から、その目的だったはずだが」
 おかしなやつだと言うように首を傾げて、瑠璃はAセット、珊瑚はCセットを頼んだ。
 飲み物のウーロン茶とフレッシュジュースに口をつけながら、瑠璃はメニューを待つ間、珊瑚と共に向かった仕事や催しごとの話を振ってみる。
「お待たせいたしましたー」
「注文来た! いよっしゃああかむんぜー!」
 努めて、明るく。目当てのパスタに向かう珊瑚を、瑠璃は少し首を傾げて見つめたが、やはり、何を言うでもなく自分もまたパスタに向かう。
「瑠璃ぬ分ぬカキ氷も頼んよったー」
「……食いすぎだ」
 メニューが来るまでの繋ぎと思っていたが、意外と話に花は咲くもの。パスタを口に運びながらも話を続けようとする珊瑚に、瑠璃は小さくため息をついた。
「珊瑚。食事中は喋るか食べるかハッキリしてくれ」
「話振ってきたぬやそっちやさにー」
 ふくれっ面をしながらも食べることに集中した珊瑚の、どことなく塞いだ様子の表情に、そう言えばヤックルロアと対峙したのも、海だった、と。瑠璃は思い出して。
「それにしても、お前は本当に海が好きだな」
 独り言のように零せば。
「くぬ海もちゅらさんっていゆか、もうでーじなよ」
 会話とは少し違う、独り言が返る。
 ほんの少しの沈黙は、食事を終えるまでの間。
 綺麗に片付いた皿にフォークを置いて、海の映像を見上げた珊瑚は淡々と零した。
「海んかいいちゅんとかんなじさ、たーがらさんがわんぬ名ーあびとーん」
 いつも、いつも、呼ぶ声は、誰のものかは、知らないけれど。
「けれども、うぬ時限って声が出ねーんだ。返事できねーんだよ、うんぐとぅ近くんいるのんかい!」
 後に残るのはもどかしさだけ。何度も何度も海に向かっているのに、何度行っても、変わらない。
「なぁ、瑠璃教えてくれ。うんぐとぅとぅち、ちゃーすんばー?」
 どこか、悲痛に。尋ねてくる珊瑚に、瑠璃は真っ直ぐ見つめる視線を返しながら、呟く。
「わからない。けれども、名前で呼ぶくらいだ。その人にとって、お前は特別な存在かもしれない」
「あんくとぅ……」
「今度は、本物の海に行けばいい」
 もう一度、何度でも。
(……その『今度』は。二人で……?)
「お待たせいたしましたー」
 沈黙のまま、運ばれてきたカキ氷を掻きこんで。
 きん、とする感覚に、珊瑚は眉を寄せていた。

●遠くはない、未来
「ゼク、水着は男物女物どっちを僕に来てほしい?」
「男物で良いだろ」
「露出高い方が好み、と」
「お前は曲解しかしないな」
 柊崎 直香は本日もフルスロットルででゼク=ファルのツッコミを引き出す。
「ゼクだってパシオン・シーで全裸になってたじゃん」
 そして必殺の『トラウマ抉り』が炸裂する。
 思い出したくない悪夢であり悲劇であり一部の同情の種である記憶に額を抑えながら、ゼクはなんとか「未遂だ」と否定した。
 話は振るだけ振って、聞き流して。カウンターのメニューを受付に返し、代わりに男物の水着を受け取った直香はさくさくと着替えを済ませてフロアへ向かった。
「ゼク、水着は?」
「着てほしいわけでもないだろ」
「女物だったら面白半分に見てみたいとは思うかもしれないよ? 注文お願いしまーす」
「思うな……直香」
「ん?」
 軽やかに注文を済ませてアロハシャツのお兄さんを見送った直香に、ゼクは困惑を半分混ぜた顔で尋ねる。
「俺、メニュー見てないんだが?」
「うん。だから注文しといたよ」
「会話をしろ会話を」
 カキ氷を頼んだのは直香のはずなのに、こめかみに響く痛みはゼクにばかり生じる。
「いいじゃない、和風パスタ。僕も一口貰いたかったし、青いカクテル見たいし」
 どこもかしこも真っ青な店内で、テーブルの上にも青と青。
 パスタの中身は、赤と赤だけど。
 楽しげな様子の直香に、ゼクが返すのは溜息一つ。
 諦めと、呆れ。
 ゼクは、いつもそう。
 そうやって、直香の手綱をあっさりと手放す。
「……お前基本野菜嫌いだよな」
 くるくるとパスタを巻きながら、至極さりげなくトマトの一部をゼクの皿に押しつける直香に、皮肉を混ぜて言ってやれば、皮肉が返る。
「こんなに赤いの要らないし。家ではゼクに卑怯な手を使って食べさせられてるし」
「昨日のカレーの人参は謝っただろ」
「冬に向けて煮込みや鍋が多くなるから要注意だ」
 ぷい、とそっぽを向く直香に、ゼクは一度天井を見上げる。
「二階に行けば中身の判る温かい物が食べられたぞ」
「これから嫌でも寒くなるんだからそれでいいや」
「そんな先のことまで考えて俺は料理してない」
 あっさりと返されたゼクの台詞に。
 くるくる。直香はパスタをただ巻き続けた。
 食べるでもなく、ただ、くるくると。
「……その頃には、野菜食わせる計画なんて忘れてる。黙って食え」
 促しに、ゼクが告げれば。
「うそつき」
 口元だけで、小さく零した。
 ずいぶん遠い未来のように語るけれど。
 ――ゼク、知ってるかい? 冬なんて、あっという間なんだよ
 ぺろり、カキ氷で青くなった舌を零して、直香は氷に冷えた体を、小さく縮こまらせていた。

●幸福の、兆し
 寒さはこれから堪能できるのだからと、アズール・ブルーを選んだセイリュー・グラシアは、メニューを穴が開くほど眺めていた。
 どれも美味しそうで、全部食べたいくらい。だけれどそう言うわけにもいかないジレンマ。
 唸るようにメニューを吟味するセイリューを見て、ラキア・ジェイドバインは微笑ましげに笑う。
(セイリュー、未だに食べ盛りだものね)
 ラキアは早々に海の幸が美味しそうなパスタに決めて、悩みに悩んだセイリューと一緒に注文する。
 ジンジャーエールとアイスティーが目の前に並べられれば、少し汗ばんできた体が心地よく水分を享受する。
 まだ暑い日もあるが、やっぱり今年の夏はもう過ぎて行ってしまった物なのだなと、どこか懐かしいような感覚に、ラキアは小さく息を吐く。
 メニューを待つ、ぼんやりとした、間。
 そんな瞬間に零した吐息に、セイリューは向かい合ったラキアに少し身を乗り出して、微笑む。
「美味しいもの食べて、元気出そうぜ」
 人懐っこい笑顔を、見つめて。ラキアは、参ったなというように、苦笑した。
 気取られていたのだろうか。先日赴いた仕事を、引き摺っていることを。
「色々、考えちゃうんだよね」
 頭の端に寄せたつもりでも、ふとした瞬間に過る。
 対峙した相手の事情とか。
 自分たちに出来る事の、少なさとか。
 あの時、あの場所で。もっと何かが出来た、気がする。そんな後悔が、いつまでも燻っている。
「あのな、ラキア」
 ずい、と。一層身を乗り出したセイリューが、ラキアを覗き込む。
 真面目な顔を見つめ返したところで、控えめに声をかけた店員が、パスタの皿を残して行った。
 真っ赤なトマトが鮮やかな己を主張している皿と、ぷりぷりのエビがアボカドのクリームで泳ぐ皿。
 見比べて、やっぱりそっちも美味しそうだな、と零したセイリューは、ラキアにフォークを差し出して、はにかんだ。
「料理を美味しく楽しむコツは、アレコレ考えない事さ」
 有名店の厳選メニューともなれば、美味しいのは食べる前から判っている。
 それを一層引き立てるには、気持ちが大事なのだ。
「食っている時はこの美味さの流れに身を委ねるんだ」
 くるりとフォークでパスタを絡め取り、口に運んだセイリューは、幸せそうに綻んだ。
「うん、美味い!」
 その笑顔を、見つめて。
 ラキアも、ふ、と微笑んでパスタを口にした。
「こっちも美味しい」
 ふんわりと笑った顔を、見合わせて。
 味の感想に、一口分ずつ交換し合ってみたりしながら、あっという間に平らげてしまった。
「こないだ、雪女さんと皆で食べたカキ氷も、超美味だったなあ」
 デザートに頼んだカキ氷をしゃくしゃくとつつきながら思い出すように告げたセイリューに、ラキアはシャーベットに舌鼓を打ちながら頷く。
「あれは人生最高のカキ氷だった」
 比べるわけではないけれど、同じものが並べば自然と思い起こす味。
 アズール・ブルーのカキ氷も、また。セイリューに幸福な笑顔を齎した。
 一生懸命食べるワンコのようなセイリューの食べっぷりに、ほっこり、フロアの熱とは違う温もりがラキアを満たす。
「余計に、美味しく感じるよね」
「ああ、美味しくて幸せだ」
 精一杯、味わおう。
 美味しいものを、美味しく食べる事の出来る、幸福を。

●変革と、侵食
 ひゅぅ、と開けた扉から吹き出てくる冷たい空気に、俊・ブルックスは小さく息を呑んだ。
「寒……!」
 色違いのファー付きコートを二着。ネカット・グラキエスと揃いでレンタルしたが、それにしたって寒すぎる。
 氷の並ぶような空間が、視覚からも寒さを植え付けてくるかのようだ。
 早々に注文を済ませ、縮こまるようにして紅茶のカップに指を這わせながら、俊はちらりとネカットを見やる。
「で、何だよ話って。まさか早目の冬気分味わうために来たわけじゃねえだろ」
 切り出した俊に、きょろきょろと店の雰囲気を眺めて居たネカットは、ほんの少し目を丸くしてから、微笑んだ。
「勿論です。今日はシュンに大事な話があって……」
「だから、何って」
「式の日取りはいつにします?」
 ぶふっ。
 突拍子もない話に、紅茶を吹きだす俊。あぁ、勿体無いなどと言いながらくすくす笑うネカットをじとりとねめつけるが、当の本人はけろりとしたもので。
「鎮守の森で婚約会見まで開いた仲じゃないですか……なんて、冗談半分で言いました」
 くすくす。ネカットがすぐに明かしたのは、睨むような俊が既に気取っているようだったのと、メニューが運ばれて来たから。
 湯気を立てるクリームシチューは、俊のスプーンに掬われて、とろりと濃厚に、小振りの野菜を包み込む。
 すっ、と柔らかくナイフの通る煮込みハンバーグは、ふんわりと柔らかい口当たりで、ネカットの口の中で蕩けた。
 名店の味を、それぞれに味わって。ほんのりと体の温まった頃に、ネカットは話の続きを紡ぎ出す。
「本当は、前回の任務のお疲れ様会をやろうと思って」
 前回の任務。そう聞いて、俊はかすかに眉を寄せた。
「初めてですよね。本格的なオーガ戦も……目の前で、人が死ぬのを見たのも」
 相手が、教団員とは言え。その衝撃は、決して小さくはないはずだ。
 窺うような顔のネカットを一瞥して、俊はかちゃりと音を立てるスプーンを一度おいて、自身の震える指先を見つめた。
「ウィンクルムになる前も、A.R.O.A.の調査員として結構危ない橋もわたってきたつもりだったんだが……」
 握りしめても、収まらない。今回手に掛けたのは、自分じゃないけれど。
「実際戦うってなると……」
 いつか、そんな日がくるのだろうか。気持ちに、不安が重くのしかかる。
 それでも、俊は泣き言を言わない。
 戦いに赴く事を、拒絶したりは、しない。
 そんな彼を見つめて、ネカットはそっと頭を撫でた。
「良く頑張りました。それでこそ私の……相棒です」
 玩具、とか言いかけたのは飲み込んで。素直に撫でられながら小さく感謝を零す俊に、瞳を細める。
「折角のお疲れ様会ですから、冷めないうちに食べてしまいましょう」
「ん……そうだな」
 暖かい物を、暖かい内に、味わいながら、俊は何の気ない調子で、呟いた。
「話を戻すけど……婚約の件前向きに検討する」
「……ふぇ?」
 ぽろり、と。ネカットのフォークからハンバーグが落ちるのを見て、俊はしてやったりと言うように笑った。
「ばーか、こっちも冗談半分だ。あー、しっかし暑くなってきたな。この料理あったけーからかな」
 寒いフロアで、ぱたぱたと掌で仰ぐ仕草は、少し異様に見えたけれど。
 ファーでそっと隠した俊の頬がほんのりと染まっているのを見つけて、ネカットは「残念です」と口元だけで笑った。
「――冗談なのは半分だけなんですよ」
 僕も、あなたも。
「……ん? なんか言ったか?」
「いえ、何も?」
 ふふっ、と笑ったネカットは、俊にとっては突然に湧いた騒動の種だったけれど。
 その微笑みは、確実に、俊の意識に染み込んでいた。

●穏やかな、温もり
 先取りの冬は、ちょっとした贅沢気分。アキ・セイジはヴェルトール・ランスと共に極寒のフロア、オリエント・ブルーに入り、鍋焼きうどんセットを注文した。
「流石に寒いな……もう少し厚着したら良かったかも知れない」
 アルコールのきっちり飛んだホットワインで体を内側から温めながら、セイジは吐く息の白さに、小さく震えた。
「あんまり震えるようなら、俺の上着貸すからな」
「いや、流石にそれは悪いから」
「なら半分こにでも……あーそう言えば店で借りるって手もあったっけ」
 言われてみればそうだった。思い起こして零した笑い声に、店員の声が重なる。
 次いで運ばれてきた鍋焼きうどんは、くつくつと音を立てて煮込まれている。お決まりの、器は暑いのでお気を付けくださいの台詞を付け加えられたうどんを前に、ランスが少し困ったように眉を寄せる。
「ランス?」
「うん、いや、良い香りだし腹も鳴るけど……流石に、熱そうだなぁって」
「え? ランスって猫舌なのか? ……猫耳じゃないのに?」
 どこから箸を付けた物かと迷う顔をするランスの、髪に紛れる耳をちらりと見て、セイジは小さく噴きだした。
「ちょ、笑うなよな!」
「ははは、ごめんごめん」
 控えめに肩を揺らしながら、改めてうどんに向かったセイジは、頂きますと手を合わせ、はふはふと啜る。
 小気味の良い音を響かせながらうどんを啜るセイジを、少しだけ恨めし気な目で見つめてから、ランスもふぅふぅと良く冷ましてから、口にした。
「あちち……」
 熱いけど、だからこそ美味い。
 ゆっくりとなら食べ進められそうだと思いながら、ざっくりと太めに切られたネギをぱくりと噛めば、熱の塊状態の中の部分が勢いよく飛び出してきた。
 無論、口の中に。
「~~~~~ッッ!?」
 思わず口を押えて悶絶したランスに、ぎょっとしたセイジは、箸に摘ままれたままのネギを見て、察する。
「ちょ、ネギそのまま行ったのか!?」
「ふぁいじょうぶ、ちょっと、ひりひりするだけ」
「上手く喋れてないぞ。ったく、見せてみろよ」
 熱い鍋は避けて、店員に氷の入ったお冷を頼むと、一先ずそれを飲ませてから、確かめるように口腔内を覗く。
「ほら、あーんして、あーん」
「あー……」
「少し赤くなってるな」
 テキパキとしているセイジに、ランスは言われるまま、任せっきり。
「ほら、氷」
 グラスの中の氷を一つ摘まんで、差し出して。
 口に含めば、ころり。ひんやりと冷たい感覚に、赤くなっていた部分がちりりと刺激されては、癒される。
 ころころ、ころころ。口の中で氷を転がして、溶けた頃にはひりひりした感覚も薄れていた。
「ん、もう大丈夫そう」
「そっか、なら良かった」
 ほっとしたようなセイジに差し出されたグラスを再び受け取って、ランスはくすりと笑みを浮かべた。
「意外と世話女房タイプなんだな」
 率直な感想じみた言葉に、瞳を瞬かせたセイジは、む、とかすかに眉を寄せる。
「それは褒められてるのか、微妙なラインだな……」
「褒めてる褒めてる。ありがとうな、ほら、まだ温かいんだし、食おうぜ。これなら火傷せずに済みそう」
 避けた鍋を引き戻して促せば、拗ねたような顔をしていたセイジも、調子がいいなと笑う。
「セイジが火傷したら俺がちゃんと世話するから」
「ランスより確率は低いと思うけどな」
 暖かな食事に、他愛ない会話。
 本当の冬が着た頃にも、また。きっと隣で、こんな風に笑いあっているのだろうと。
 確信めいた思いは、どちらともなく、過っていた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月21日
出発日 09月27日 00:00
予定納品日 10月07日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアだ。ヨロシク。
    どのメニューも美味しそうで、目移りしまくって、
    プラン提出がギリギリになった事は内緒だ。
    パスタの「た・べ・て(はぁと」
    という誘惑に身を委ねることにするぜ。

    それでは皆、良いひと時を!

  • [4]瑪瑙 瑠璃

    2014/09/25-21:55 

    珊瑚:
    めんそーれ!(いらっしゃいませー)、ご注も(口を塞がれる)

    瑠璃:
    瑪瑙瑠璃です。
    俊さん、ネカザイルではお世話になりました。
    アキさん、直香、セイリューさんは、お久しぶりです。

    当日はアズール・ブルーに行って、相方と海の下でパスタを食べていきます。

  • [3]アキ・セイジ

    2014/09/25-10:58 

    アキ・セイジだ。

    極寒のフロアで鍋焼きうどんを食べている予定だよ。
    ホットワインはともかく、「熱燗」はないのかなあ。
    うどんだからワインより日本酒がほしいんだよなあ。
    店員さーん(呼んでる

  • [2]俊・ブルックス

    2014/09/24-23:15 

    俊・ブルックスとパートナーのネカだ。
    俺達は二階の極寒のフロアで、一足早い冬気分を味わうことにする。
    何か話があるって言ってたみたいだが…

  • [1]柊崎 直香

    2014/09/24-01:49 

    どうもどうも。クキザキ・タダカと申します。
    去りゆく夏を追いかけにきた。

    というわけで、僕は一階の常夏フロアに向かう予定。
    ぱーすたー、を食べてくるよー。


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