【月見・ラパン】Spicy Spicy!(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「バイトがガンガン減っちゃって人手が足りないんすよー。だからちょっと、農作物の収穫、手伝ってくれないっすかねー?」
「……どうして半裸なんですか」
 上半身裸で溜息をつきながら頼みに来たのは、とある畑の持ち主であるLove-Bit(ラビット)の青年だ。
 ルーメンには『赤味豆(あかみまめ)』という豆がある。
 見た目は枝豆のよう。けれどその莢の中には、真っ赤で艶やかな豆が入っている。ところが、莢を採ってからだと中の豆が黒くなってしまう為、直接中の豆を収穫しなければならないのだが。
「いやー、ちょっと豆が特殊で……」
「ああ、バイトの方が減ったって仰いましたね、危険なものなんですか?」
「危険っつーか何っつーか……これ、なんすけど……」
 青年は懐から透明な小袋を取り出し、紐を解いて口を開ける。
「へぇ、本当に真っ赤ですね、果物みたいで美味しそうだし何かいい香りがというか何ですかこの香り、あの、その……え、何、これ……!」
 小袋から漂う独特の香ばしさに、何故か顔を赤くして上着を脱ぎ始めてしまうA.R.O.A.職員。
 それもその筈。実は『赤味豆』とは、生き物の中枢神経系の活動を増加させるうんたらかんたらがかくかくしかじかで、要するにもっと熱くなれよぉ!! な気持ちになってしまうという―――。
 興奮剤、なのだ。
「収穫祭の準備だ後片付けだ何だで皆疲れるっすからねー、何つーか、祭りの必需品じゃなくて、祭りの為の必需品なんすよ。日常でもここ一番! って時に人気なんすよー」
「ま、まぁ確かにこれは何か効き目が凄そうな」
「香りもそうなんすけどー、うっかり口に入れちゃったり服の中に入れちゃったりすると、もう熱くて興奮して服脱いで暴れ回りたくなるんすよねー」
「わ、分かりましたから、ちょっと、あの……あー! 脱ぎたい! 周りの目なんて気にせず脱いでしまいたい!!」
「そうやって我に返った時にバイトが恥ずかしがってガンガン辞めちゃうんすよー、いや、マジ頼みますわー」
 服を全部脱ごうとして必死に周りから止められているA.R.O.A.の女性職員を、ラビットの青年はガン見しながら依頼した。

解説

『赤味豆』の収穫を手伝ってください。

ただし『赤味豆』の香りを直接嗅ぐと、身体が熱くなって服を脱ぎたくなってしまいます。
もしもうっかり服の中に入れちゃったりすると、身体が熱くなって服を脱ぎたくなって動き回りたくなります。
もしもうっかり食べちゃったりすると、身体が熱くなって服を脱ぎたくなって動き回りたくなって超前向きの全能感が湧いてきて普段出来ない事にもチャレンジしたくてたまらなくてなります。
その点だけお気をつけください。
ちなみに一時間はそんな状態です。
すぐに戻したかったら、水の入ったバケツがそこかしこに用意されてますから、それをぶっ掛けてあげてください。たちまち正気に戻ります。
え? びしょぬれになったら水も滴るいい男? エロくていいですね。
鋼の意思を持ってるんで何も問題ないです、という方はそのままでも構いませんが、不安な方は専用道具をどうぞ。

・専用対策マスク 50Jr
・専用対策業務ビニール手袋 100Jr
・専用完全防護服 500Jr

プランに関しては皆様のチャレンジと同時に良識を信じております。良識を! 信じております!!

ゲームマスターより

お月見収穫祭です。
健全な農作業のお手伝いですから頑張って下さいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  専用対策用の手袋とマスクを購入して収穫のお手伝い
豆を持ったままだと不安だから収穫した物は足元に入れ物を置いて、その中にどんどん入れて行くよ
何かが起きた時用に水が入ったバケツの位置も確認して、っと
後はタオルぐらいは持って行こうかな

おや、本当に真っ赤で綺麗な色
興奮剤の豆とかあるんだね。初めて見たや

本当に真っ赤で、夕陽色みたいなそんな。ん、そんな…アクア。俺さ、夕日に向かって走ってくるから。大丈夫だから。ちょっと脱いでからそこまで走ってくるだけだから青春的な感じでさ

あー…有難う
そうだね。まだ夕日は早かったね。日中だもの
そしてアクアも水かぶっておこうか
目が据わってるからね。あと、脱げてるよ(水ザバー)



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ◆PL意図
真面目に頑張るセイジ、後の役得を考えちゃうちゃっかりランス
2人の掛け合いにも期待です

◆PC目的
誰よりも沢山の収穫を!

◆行動
専用の手袋とマスクを借りてランスにも渡す

夏に実感した相棒との筋肉の差
俺はもっと筋肉をつけたい
腹筋が一寸でも割れるよう頑張ろう(ランスをチラリ)←悔しいらしい

全力で収穫を頑張る
効率のために腰に袋を提げてサッサと入れていこう

動きすぎたのか暑いな
脱いだ方が涼しくて収穫も捗ると思うんだが
って、豆の作用か!
PL:我慢できるか不明です

うひゃ
ランス、くすぐったい
「豆!…じゃなくって、ヤメーっ」ぢたぢた←

服の中から豆を出されたら礼を言う
「あ…有難う」

★収穫は意地でも頑張る!(必死



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  服を着ているから、脱ぎたくなるんじゃね?
最初から脱いどけば、問題ない!
作業開始と同時に着ているTシャツを脱ぐぜ!
あえて半裸で作業だ!
畑主さんもそうしてるしさ。
全裸じゃないからいいだろ!
下はトレーニングハーフパンツはいてるし。
下着は海パンにしたから濡れても問題ない。
なのにいきなりバケツ水攻撃とは。
「今日のラキア、怒りっぽい?豆のせい?」と笑顔。

半裸で動き易くなったオレは収穫に勤しむぜ。
畑仕事を手伝うと変な形の屑野菜がもらえたりするよな。
美味しそうだな、この豆。
貰ったら、食べてもいい。
勝手に食べちゃ駄目。
畑主さんの許可があったら、食べてもいい。
畑主さんを、じーっと見つめる。
(期待の眼差し)
じーっ。



シグマ(オルガ)
  ・心情
今回は平和に収穫出来れば良いな。(遠い目)

・行動
☆黙々と収穫作業に勤しむが疲労感を感じ始める
ふへー疲れたぁ。結構あるんだね、皆凄いなー。

☆服の中に入り、それを興味本位で食べてしまう。
☆パンツまで脱ぎそうになる。
☆いつも災難ね目に遭うとタラタラ
あれ、服に入ってた。良い匂いだなー1つくらい。
わあぁぁなんだコレ身体超熱い!わぁあぁ!?
い、今ならオルちんを一括出来るような気がする!
って、ぎゃあぁあぁああ!たんまたんま!蹴らないで!冗談だってば!!
もーずぶ濡れー。俺が悪いけど、なんかなんか!いっつも蹴られてばっかりだよー!
わぁありがとうオルちんー!

・道具
専用対策業務ビニール手袋(認識が甘く軽装備)



■熱い勝負と時々セクハラ
「どっちが多く獲れるか競争しようぜ」
『アキ・セイジ』から受け取った手袋をつけながら、ニッと笑って『ヴェルトール・ランス』は言う。遊びに誘うような口調に、けれどセイジは少しむっとして「いいだろう!」と答えた。
 この夏に実感したランスとの筋肉の差。
 精霊と人間なのだから、根本的に違うと言われてしまえばそれまでだが、隣にバランスよく綺麗に筋肉をつけた者がいれば、やはり自分の身体も気になってしまう。
(俺はもっと筋肉をつけたい。腹筋が一寸でも割れるように……)
 チラリ、セイジはランスを見る。
 夏祭りで参加した太鼓叩きを思い出す。あの時には褌と法被だけという格好だったから、というか更衣室でむにゃむにゃという事があったから(無理矢理着替えさせられただけだ!byセイジ)、互いの体はバッチリ見たのだ。
 そしてランスは勝ち誇った顔で「まあ……頑張れ?」と侮辱したのだ(カワイイからちょっとからかっただけだ!byランス)。
 悔しい思いをした。それを思い出して、セイジは改めて、頑張ろう! と気合を入れる。目指せ六つに割れた腹筋。ひれ伏すがいい鍛え抜かれた俺の腹筋に。いやまだ割れてないけど。
 さぁ、まずは誰よりも沢山の収穫を!
「勝負だ!」
 マスクをつけた二人の頭の中で、カーン! と高らかに戦いのゴングが鳴り響く。
 セイジは早速夢中だ。効率を考えて腰に袋を提げて、と工夫も凝らし、全力で取り組んでいる。
 そんなセイジの後ろでは。
(意地張って対抗意識燃やしてくるのが可愛いな)
 勝負をふっかけたランスが、耳をピコピコ揺らしながら笑顔でセイジを見ていた。おい、ちゃんとやれそこの精霊。

(動きすぎたのか暑いな)
 どれほどの時間が経っただろうか。セイジは、はぁ、と息を漏らす。
「脱いだ方が涼しくて収穫も捗ると思うんだが……」
 というか、脱ぎたい。
 全部脱ぎたい。生まれたままの姿になりたい。そして筋肉フル稼働の全力で収穫を行いたい。ああ、止められないこの気持ち、高鳴る鼓動、猛る熱!
「って、豆の作用か!」
 上着を脱ぎかけていた自分の思考のおかしさに、セイジは思わず叫んでしまう。
「マスクはちゃんとしてるのに、何で……?」
「あー、あんまり頑張るもんだから鞘から飛び出した豆が服の中に入っちゃったのかもな」
 セイジの異変に気がついたランスが苦笑して近づく。
「そんな馬鹿な!」
「とりあえず確認しようぜ。ほら、豆入ってたら取ってやるから上着だけでも脱ぎなって」
「うひゃ」
 思わず変な声が出た。だって上着を取ろうとしたランスの手がセクハラじゃなくて普通にくすぐったくてというか手の熱が、熱くて。
「ラ、ランス、くすぐったい!」
「暴れたら取れないだろ」
 ランスの手から逃れようとじたばたと暴れるセイジ。本当に純粋に豆を出す為だけに上着を脱がそうと必死のランス。お互いの熱は上がるばかりの攻防戦。
「豆! ……じゃなくって、ヤメーっ」
「何でこんな時に上手いこと言ってるんだ!」
 セイジの天然ボケにランスが突っ込んだところで、ぽろり、セイジの服から赤味豆が一粒地面へ落ちた。
 ランスはそれをひょいと拾い上げると、赤味豆の作用とさっきまでのやり取りで顔を真っ赤にさせているセイジに見せる。
「ほら、やっぱり豆が入ってた。納得したろ?」
「あ……有難う」
 何処か恥ずかしそうに、悔しそうに、上目遣いでお礼を言うセイジに、ランスの尻尾がばっさばっさと振られた。

 その後、水を被る、という簡単な解決法をすっかり忘れていたセイジは、一時間ほど暑さと脱衣欲求とに戦いながら、それでも意地で収穫をやり通した。
 ちなみにランスは水をかけるという解決法を覚えていたが、顔を赤くして服を脱ぎたいけど羞恥で躊躇っているセイジを目に焼き付けておく為に、ずっと黙っていた。だからおい、そこの精霊。

 収穫の結果、より多くの豆を収穫できたのはセイジだった。
 得意気なセイジに、ランスは悔しさよりも、勝ち誇ってるセイジもかわいいなぁ、と喜びを噛み締めていた。もう駄目だこの精霊。
「農家の方に頼んで豆を瓶に分けて貰えないかな」
 ランスは山盛りになった赤味豆を見ながら言う。
「興奮剤がほしいのか?」
「いや、食材として。なぁセイジ、これで豆料理を作ってほしいなぁ」
「む、無理だろう、この豆は! 大体、調理する間も大変、そう、だし……!」
「なんだ? 家の中なら脱いでも誰も見てないから平気だぞ」
「お前が居るだろう!」
 赤味豆の効果は消えたのに、さっきと同じか、それ以上に顔を赤くするセイジに、ランスは楽しそうに笑った。


■熱い暴走には冷たい蹴りを
 赤味豆の説明を受けた『シグマ』が、心の底から思った事は一つ。
「今回は平和に収穫出来れば良いな」
 彼が遠い目になるにはワケがある。ウィンクルムというものになって、気がつけばパートナーの『オルガ』に蹴られている。とにかく気付けば蹴られてる。
 なんか変な性癖持った人の前でも蹴られてた。オルガが何故か女体化した時も蹴られてた。ねぇ待って、俺は別にサンドバッグになったつもりは無いんだよオルちん。
 そんなわけでシグマはひたすら平和に依頼が終わる事を祈るのだ。
 今日の依頼はちょっと変わった豆ではあるが、ただの農作物の収穫だ。危険な事も妖しい事もきっと無い。多分無い。無いと言ってくれ。
「……手袋だけでいいのか」
 完全防護服に身を包んだオルガが、眉根を顰めながら言う。
「えー、大丈夫だよ。触らなきゃいいだけだし」
 オルちん気にしすぎー、とシグマは軽く考えて笑うが、どう考えても今この瞬間フラグが立ちましたおめでとうございます。
 オルガはそのフラグが立ったのを察したのか、この馬鹿が余計な手間を取らせないと良いが、と考えながら仕事に取り掛かった。

 二人は真面目に収穫作業に勤しむ。
「あっつい……!」
「マスクをしないからだ」
 しんどそうなシグマの声に対し、オルガの声は涼しげだ。
 香りだけでも影響がある、そんな説明を甘く捉えていたシグマは、現在進行形で高まる体の熱と脱衣欲求とに戦っていた。ちなみに完全防護服はオルガさんの身の安全をお約束しております。
「ふへー疲れたぁ。結構あるんだね、皆凄いなー」
 実際には疲れよりも熱により零れた愚痴を、気が遠くなるような思いで呟く。
「疲れた? 抜かせ。まだそんなに時間は経っていないぞ」
 オルガが睨みを利かせて口を開けば、シグマは口を尖らせながらも作業に戻る。
 けれど集中力は完全に途切れてしまったらしく。
 作業は大分雑になってきて、そうして本人も気付かぬうちに、赤い豆を収穫袋に入れたつもりが指先で弾いてしまい、おやおや豆さんそんなところへうふふふ。
「なんかさっきよりもあーつーいー!」
 耐え切れなくなったシグマは、襟首を掴んでバタバタと扇ぐ。すると、ころりと赤い豆が一つ零れた。
「あれ、服に入ってた。だからかー……」
 突然ですが、脳みそとは熱に弱いものです。
「……良い匂いだなー」
 風邪をひいた時を思い出してください。思考回路は短絡寸前、今すぐ会いたいような泣きくなるような月の光あれ何言ってるんだこれ、みたいな、そんな判断能力皆無状態になりませんか? ならない? なるんです。なるんだよ!
「一つ、くらい」
 そして現在のシグマ君がその状態です。
「……ッ!」
 ぱくり、食べた豆は美味しかった。
 生なのに青臭さは無く、既に炒ってあるかのように香ばしさ、けれどその食感は柔らかさを残していた。
 美味しい。
 美味しい、が!
「わあぁぁなんだコレ身体超熱い! わぁあぁ!?」
 脱衣欲求が限界破裂したシグマは、わぁわぁ騒ぎながら服を脱いでいく。そんなシグマの異変に気付いたオルガは舌打ちをしながら止めようと近づく。
 その間にシグマはとうとうパンツ一丁になる。しかしやる気に満ち溢れた笑顔で。
「おい、馬鹿面。お前は何を余計な……」
「い、今ならオルちんを一喝出来るような気がする!」
 そしてシグマは叫んだ。叫んでしまった。
「……なんだと?」
 わぁ、空気が二・三度下がったヨ! え、気のせい?
「随分と、威勢がいい!」
 ドガッ! と情け容赦の無い蹴りがシグマを襲う。「へぶっ」と声をあげてシグマは倒れる。そこに更に加えられるオルガの蹴り、蹴り、そしてまた蹴り。
「って、ぎゃあぁあぁああ! たんまたんま! 蹴らないで! 冗談だってば!!」
「聞こえんなぁ」
 黒いオーラを全開にして、実に楽しそうな笑顔で蹴り続ける。
 ごめんなさいー! と泣き喚き始めた頃、スッキリした様子のオルガが「そう言えばバケツをかけてやれとの事だったな。忘れていた」と言ってバケツを持ち上げる。
 嘘だ、絶対覚えてた! そんなシグマの声は無視され、ザバッとまたもや情け容赦なく水をぶっかけられる。
 かくして、シグマの『今回は平和に』という祈りは潰え、見事フラグが回収されたのだった。

「もーずぶ濡れー。俺が悪いけど、なんかなんか! いっつも蹴られてばっかりだよー!」
 もそもそと濡れた身体に服を着ていくシグマ。その顔が濡れているのはバケツの水か未だ枯れぬ涙か。
 そんなシグマの訴えに対して冷静に、ウィンクルムである以上、これ以上泣かれても困るな、と判断したオルガは、完全防護服をいったん脱ぎ、自分の上着を脱いでシグマに差し出す。
「おい俺の上着だ。これでも着ろ」
 くるとは思っていなかった助け舟に、シグマは目をぱちくりと瞬かせる。
「いつまでもみっともな……濡れた姿では風邪を引くだろ?」
「え、今みっともないって」
「そうか、いらないか」
「着ます着ます! わぁありがとうオルちんー!」
 引っ込められそうになった上着に飛びつく。
 熱が引いた身体にその上着は温かく、シグマは珍しいものを見たと笑顔になって、もう一度「ありがとう」と声に出した。


■熱い青春の夕日に向かえ!
「豆を持ったままだと不安だから収穫した物は足元に大きい収穫袋を置いて、その中にどんどん入れて行こうね」
 手袋とマスクをしながら『木之下若葉』が言えば、同じように手袋とマスクをしながら『アクア・グレイ』が元気よく「ハイ!」と答えた。
 若葉は念の為、とバケツの位置も確認し、持ってきたタオルを収穫袋の淵にかけた。
「おや、本当に真っ赤で綺麗な色」
 早速一つ莢を摘まんで豆を出せば、柔らかな緑色の莢とは対照的な鮮やかな赤。
「わあ! 本当に綺麗な色のお豆ですね」
 目を輝かせながら、初めて見ました、とアクアは笑顔で言う。
「興奮剤の豆とかあるんだね。初めて見たや」
 見た目だけならそんな物騒なものには見えない。太陽の光を受けて赤く輝く豆は、収穫作業を始める二人の目を楽しませた。
 綺麗ですね、面白いね、たくさん取れるといいですね、頑張ろうねぇ。
 そんな平和な会話を交わしながら、二人は平和に豆を収穫していく。ああ、なんと平和な光景でしょう。まるで絵画のよう。
 しかし残念。平和は崩れるものである。ああ、残念。

 丁寧に、慎重に。
 そうは思っても、同じ作業がずっと続けば疲れも出てきて集中も切れる。
 地面に置いた収穫袋にも大分豆がたまってきた。そんな輝く赤い豆を見ながら、若葉はどこか熱っぽい目で呟く。
「……本当に真っ赤で、夕陽色みたいなそんな、ん、そんな……」
「ワカバさん?」
 どうしたのだろう、と声をかけると、若葉は希望に満ち満ちた顔でマスクをバッと外す。何ですかその外し方、カッコイイです! などとアクアが思ったとか思わなかったとか、いや、それはさておき。
 若葉は語る。上着を脱ぎながら熱く語る。
「アクア。俺さ、夕日に向かって走ってくるから。大丈夫だから。ちょっと脱いでからそこまで走ってくるだけだから青春的な感じでさ」
「走ってくるってワカバさん、今、日中ですよ! 夕日出てません!」
 アクアが突っ込む。けれど若葉はなおも語る。ズボンのボタンを外しながら熱く語る。
「大丈夫だから、この先にきっと夕日は沈むから。とにかく俺は裸で走らなければいけないんだ、だって太陽が呼んでるから」
「そもそもそちらは東ですから夕日沈みませんよ! 脱ぐ必要も解りませんし太陽は呼んでません!」
 これはもう駄目だと判断したアクアが、すぐ側のバケツを掴む。
「落ち着いて頭冷やして下さいっ」
 ざばーっと若葉の頭上から水をかける。
 若葉の動きが止まる。下ろしかけたズボンをゆっくりとあげてゆっくりとジッパーをあげてゆっくりとボタンをしめる。おめでとう、ギリギリでパンツ一丁にはならずにすみました、おめでとう。
「あー……有難う」
 何でこんな事になったんだろうね、と脱いだシャツを拾うと、そこから豆が一粒転がった。
「ああ……」
「これのせいだったんですね」
 いつのまにか服の中に入り込んでいた豆の悪戯に、二人は深い溜息をつく。
「どうかしてたよ。そうだね、まだ夕日は早かったね。日中だもの」
 何であんな事言っちゃったんだろうね、と濡れたまま服を着込めば、アクアが「そこじゃないと思います」と首を振る。
 首を振りながら、アクアが上着を脱ぎ始める。
「……アクア?」
「何ですか?」
 非常に冷静な頭になった若葉が声をかけるが、その間にもアクアはてきぱきと服を脱ぎ捨て、とうとう上半身裸になった。
「……何で脱いでるの?」
「え? 何で僕が上を脱ぎ半裸でいるか、ですか? 熱いので脱ぎましたが、何か?」
 キリッと決め顔で言い切るアクアに、若葉は生温い笑みでバケツを掴む。
「うん、わかった、アクアも水かぶっておこうか」
 目が据わってるからね、と言って、ザバーッとアクアの頭上から水をかける。
「わっぷ! ……ご迷惑をおかけ致しました」
 ぷるるっと頭を振って水を飛ばしてから、アクアは深々と頭を下げた。おめでとう、ギリギリでパンツ一丁にはならずにすみました、おめでとう。
 脱いだ服を拾ってみれば、やはり転がり出る小さな赤い豆。
「赤味豆恐るべしです……!」
 効果の程はよく分かった。あそこまで体が熱くなって脱ぎたくなるとは。
 幸いにも濡れなかった収穫袋に入れられた沢山の豆。さっきまでは宝石のようにすら思えていたのに、今となっては危険物の塊にしか見えない。
 アクアが「この先は先ほど以上に注意して収穫しましょうね」と言えば、若葉も「そうだね」と深く頷く。
 しかし残念。注意は長く続かないものである。ああ、残念。
 その後も何度か「夕日に向かって」「夕日は無いです!」とか「熱いから脱ぎましょう」「うん、落ち着こう」とか、そんな平和な会話と共に水を被る音が聞こえるようになるのだった。
 タオルも間に合わない濡れた半裸、大変ご馳走様です。


■熱さ対策(?)は万全です
 赤味豆の効果は説明を受けてよくわかった。そこで『セイリュー・グラシア』は閃いた。
 ―――服を着ているから、脱ぎたくなるんじゃね?
 なんという発想の転換。なんちゃらの卵。そんな発想はいらなかったなんて言いません大歓迎ですハイ。
 そんなわけで、セイリューは(最初から脱いどけば、問題ない! 作業開始と同時に着ているTシャツを脱ぐぜ! あえて半裸で作業だ! 全裸じゃないからいいだろ!)と決めていた。だって畑主もそうしてるし。
 そもそもバイトがガンガン減っているのは、赤味豆にやられてうっかり脱いで暴れた自分が恥ずかしくて辞めるからだ。つまり、脱ぐ事に躊躇いがなく、さらに自分の意志で脱ぐなら何も問題はない。あとは暴れたりしなければいいだけだ。
 しかも用意のいいセイリューは、濡れてもいいようにと下着は海パンにした。素晴らしい。完璧だ。
 万全を期してセイリューは収穫に臨む。
 目の前に広がる赤味豆畑! 渡された収穫袋! 宙を舞うセイリューの上着!
 そしてセイリューに水をぶっかける『ラキア・ジェイドバイン』。
「いきなりバケツ水攻撃とは!」
「何で脱いでるの! 反射的にバケツの水ぶっかけちゃったじゃないか!」
 マスクと手袋を装着したラキアが動揺しながら叫ぶ。驚いた。本気で驚いた。だっていきなり脱ぐなんて誰も思わない。
「脱いだの、絶対豆のせいじゃないよね? 君はどうしてそうホイホイ脱ぐのかな?」
 キッと睨みながら言えば、セイリューは得意気に脱いだ理由を説明する。
 ラキアは頭を抱える。理屈は分かった。だが理解が出来ない。神人が遠い。
「今日のラキア、怒りっぽい? 豆のせい?」
 そんなラキアの苦悩もわからず、熱いなら我慢しないで脱ごうぜ! とセイリューは笑顔で語る。その笑顔に毒気を抜かれて、溜息を一つ。
「……もう、全裸じゃないなら良いよ」
 何だか色々と敵わない、と苦笑した。

 マスクも手袋もしていないセイリューは、まともに赤味豆の影響を受けていた。顔も体も真っ赤、汗はだらだら、半裸とはいえひたすら熱い。けれど、動き回りたい欲求は全力で収穫を行う方向に向けていた。
 ただし、全力で収穫を行えばますます赤味豆の影響を受けるわけで。
「あついーッ!」
「はい水。これ以上脱いだら駄目だよ」
 もはや慣れたものとラキアが手早くセイリューに水をかける。
「ぶわ! 冷たッ! あー、気持ちいい……!」
 濡れた髪をかきあげれば、気持ちのいい風が顔をなでる。さっきまでの熱さが嘘のように引いていく。清々しさに深呼吸をすれば、赤味豆の香ばしい香りが鼻をくすぐり、また体が熱くなる。
「よっし! やるぞ!」
 さらにやる気を出したセイリューが赤味豆に向かう。
「けど、この匂いといい、美味しそうだな、この豆」
「そうだね」
 言いながらもつまみ食いはせず、黙々と収穫を続ける。そんなセイリューにラキアは小さく笑う。
 セイリューは食べ物に釣られて目的を決めたり、頑張ったりと、食べ物に結構弱いけれど、畑の物を勝手につまみ食いなんて事はしない。
 誰かが大事に作ったものだとわかっているから、幾ら沢山あっても勝手に食べるなんて、例えば周りの者が冗談半分でやってても、やったらダメだとわかっているのだ。
 そういう所は案外律儀だよね、とラキアは一人笑う。
 それでもセイリューの赤味豆への興味は尽きないらしく。
「畑仕事を手伝うと変な形の屑野菜がもらえたりするよな」
 そんな事を呟きながら黙々と採り、ちらりちらりと畑主を見る。
 勝手には食べない。けど、貰ったら食べてもいいだろう。
 食べてみたい。勝手に食べちゃ駄目。食べてみたい。畑主さんの許可があったら食べてもいい。食べてみたい。
 食べてみたい!

「収穫終わりましたー!」
 脱衣欲求を上回る食欲を何とか抑え込んで、セイリュー達は担当場所の収穫を終えた。
「いやー、助かったっすよー、ありがとうございますー」
 収穫された赤味豆を確認しながらへらりと笑う半裸の畑主を、セイリューはキラキラとした目でじーっと見つめる。とある期待を込めて。
 ラキアは呆れながらも苦笑して止めない。実は自分も気になっていたからだ。
「……よかったら、食べてみるっすか? 生でもいけるんで」
 予想以上に収穫された事への感謝も含め、畑主はその熱い眼差しに笑いながら応えた。
「やったー!!」
 差し出された赤味豆をそれぞれ一つずつ摘み、二人は同時に口に入れる。
「! うおおお?!」
「うわ、これ、うわ、えええ?!」
 柔らかいナッツの様な香ばしさが口いっぱいに広がった後、腹の底から全身が熱くなるのがわかった。
「うわやばい! これさっきまでより熱いって!!」
「駄目だ、無理、耐えられない、脱ぐ!!」
 セイリューがズボンを、ラキアが上着を脱ごうとしたところで、畑主が笑いながら二人にばしゃんと水をかけた。
 一気に冷える体と頭。面白いだろ、と笑う畑主に、二人も顔を見合わせてから笑った。
「色んな食べ物があるんだなー、収穫作業も面白かった!」
 セイリューは笑う。
 ―――こんなに喜ぶなら庭で果樹も育ててみようかな。
 変わった果物やミニ野菜を収穫する自分達を想像して、ラキアも笑った。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 09月20日
出発日 09月25日 00:00
予定納品日 10月05日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアだ。
    シグマさんは初めまして。ヨロシク頼むぜ!

    美味しいご飯は農家の皆さんのおかげ。
    そして農作業は重労働。
    しっかりお手伝いするぜ。
    この季節、肉体労働したら普通に暑いよな。
    と、そーいう事で!

    ・・・いやいや、真面目に労働するんだぜ?

  • [3]木之下若葉

    2014/09/23-21:21 

    皆さんお久しぶりですとこんばんは。
    木之下とパートナーのアクアだよ。
    こちらこそ揃って宜しくお願い致します、だね。

    ん。俺達も普通に収穫の手伝いをするつもりだよ。
    ……何となくバケツと水のお世話になりそうな気がするのは何でだろうね……(遠い目

  • [2]シグマ

    2014/09/23-14:08 

    若葉ちん以外は初めましてかな?
    改めて俺はシグマ。精霊はファータのオルちんだよ。
    今度こそ平和に過し……睨まないでよオルちん。……今回も嫌な予感しかしないなー(冷汗)
    俺達はこんな調子だけど、皆よろしくね。

    PL:2人お騒がせしてしまうかもですが、どうかよろしくお願いします。(深々お辞儀)

  • [1]アキ・セイジ

    2014/09/23-13:03 

    アキ・セイジだ。
    体を鍛えるためにも頑張って農作業の手伝いをしようと思う。
    マスクと手袋を借り、腰に袋を提げて、効率的に収穫したい。
    (ランスには負けてやらないっ)

    PL:ランスとセイジは収穫量を競って収穫していると思います。よろしくです。


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