【月見・ラパン】Sweet Sweet!(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「バイトがガンガン減っちゃって人手が足りないんです。なので、その、ちょっと花の蜜を集めるの、手伝ってくれないですかね……?」
「……どうしてこちらを見ないんですか」
 何故か目を逸らしながら頼みに来たのは、とある花の畑の持ち主であるLove-Bit(ラビット)の青年だ。
 ルーメンには『夢蜜房(ゆめみつふさ)』という花がある。
 身の丈ほどの高さの苗の様々なところに花は生る。見た目は薄桃色の牡丹のよう。その中心には、おしべとめしべ以外に、スプーン一杯ほどの、透明な蜜。
「いやその、ちょっと蜜が特殊で……」
「ああ、バイトの方が減ったって仰いましたね、危険なものなんですか?」
「危険というか何というかあの……これ、なんですけど……」
 青年は懐から透明な小瓶を取り出し、キュポンと音を立てて蓋を取る。
「うわぁ、いい香りですねぇというか何ですかこの香り、あの、その……え、何、これ……!」
 小瓶から漂う妖しい甘い香りに、何故か顔を赤くしてもじもじし始めてしまうA.R.O.A.職員。
 それもその筈。実は『夢蜜房』の蜜は、生き物の生殖機能部分を活性化させるうんたらかんたらがかくかくしかじかで、要するにあはんうふんな気持ちになってしまうという―――。
 媚薬、なのだ。
「一応これも収穫祭で奉納するんですよ! だって家畜の繁殖によく使うから! あと大人にはやっぱり、あの、ほら、その……人気なんですよ!」
「ま、まぁ分かるような分かりたくないような、いや分かりますが」
「マスクをすれば影響は無いから! ただ、うっかり舐めちゃったり肌につけたりしたらちょっと肉食系男子や肉食系女子になっちゃうかもしれないネーっていうだけで!」
「わ、分かりましたから、手伝ってくれる人いないか聞いてみますから……そ、その……ちょっと、二人っきりになりませんか……!」
「こうやってバイトが二人ずつ減ってったんですよ! チクショウ、あんたが美人なおねえちゃんだったら喜んでその誘いに乗ったのに!!」
 迫ってくるA.R.O.A.の男性職員に対して、ラビットの青年は涙目で叫んだ。

解説

『夢蜜房』の蜜の収集を手伝ってください。

ただし『夢蜜房』の蜜の香りを直接嗅ぐと、気持ちよく酩酊してムラムラした気分になります。
もしもうっかり肌につけたりすると、つけた部分から体が熱くなって敏感になります。
もしもうっかり舐めちゃったりすると、近くにいる人とベタベタイチャイチャあはんうふんしたくてたまらなくてなります。
その点だけお気をつけください。
ちなみに一時間はそんな状態です。
すぐに戻したかったら、水の入ったバケツがそこかしこに用意されてますから、それをぶっ掛けてあげてください。たちまち正気に戻ります。
え? びしょぬれになったら服が透ける? 人前で襲われるのとどっちがマシなんですか!
鋼の意思を持ってるんで何も問題ないです、という方はそのままでも構いませんが、不安な方は専用道具をどうぞ。

・専用対策マスク 50Jr
・専用対策業務ビニール手袋 100Jr
・専用採取棒 10Jr
・専用完全防護服 500Jr

プランに関しては皆様のチャレンジと同時に良識を信じております。良識を! 信じております!!

ゲームマスターより

お月見収穫祭です。
健全な農作業のお手伝いですから頑張って下さいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  困ってるって聞いたら断れなくて…引き受けてしまいました
…あ、あの
もし、私が変になってしまった時は、躊躇わずに水をかけて下さい
一応下に水着を着てきたので大丈夫ですから

マスクと採取棒を借りて、慎重に採取(お財布事情で他は断念
「…あっ(て、手に蜜が」
心配そうな声に大丈夫です、と返しかけて
「…んっ」
伸ばされた手に思わず変な声が出て赤面
撫でられ、また出そうになるのを必死に我慢しながら
熱さと恥ずかしさとで涙目になりつつ
「…ユキ…っ、…もう…お願い、だから…」
早く水をかけて下さいっ

…うぅ
た、助かりました
ごめんなさい
…ユキ?
何だか顔が赤いです
…えっと
水、かけましょうか?


対策マスク×2
採取棒×2



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
・マスク(50Jr)とビニール手袋(100Jr)を装着
・服装…薄いワンピース

と、とにかく直接触らないように採取、ですよね…きゃっ!
(弾みで蜜を飛ばしてしまい、自分の顔にかけてしまう)
きゃ、嫌、顔が何だか熱い…じんじんします…っ
(蜜を取ろうと慌てすぎてマスクを地面に落とし、蜜が口の中に入ってしまう)

い、嫌…助けてロジェ様、あぁ、はぁっ…! 貴方が好き、愛してるの…っ!
(近くにいたロジェに抱き付き、もじもじと体を揺らしつつ口づけをする)

…はっ!? ロジェ様、私は何を…?
えっ、えっ、この蜜はロジェ様の前でだけ…? ロジェ様、それって…(真っ赤になって慌てる)



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  (…どんな味なのか気になる。蜜っていうぐらいだから甘いのかな)

専用マスク、採取棒装備

黙々と蜜集め。花の蜜集めってミツバチみたいでメルヘンチック。メルヘンな割に危険みたいだけど
だいぶ集まってくると、蜜を試しになめてみたくて仕方なくなってきた。ほんの一滴、気持ちさえ強く持ってたら大丈夫かな、何よりそんな気分なるわけがない
そっと一滴舐めてしまう
頭がふわふわして体が熱い、な、にこれ…
体が勝手にクレちゃんに抱きつく
…助けて今私、クレちゃんが欲しくてたまらない

(こんなに冷たい目で見られるの初めてだ)
痛っ!?
(水で正気に戻って)ご、めんね危ないことして
クレちゃんまで何で水!?
キスの意味?(後で調べようっと)



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
ラダさんは以前、巨乳ラミアの魅了にわざとかかったことがあります。あの時は作戦上問題なかったのですが、今回は事情が違いますよね。過ちを正すのも友の役目。私が用心しておきましょう。

装備
マスク、手袋(精霊も同様)

行動
淡々と蜜の収集を手伝いつつ精霊の行動を監視。案の定、自分から蜜を摂取しようとするおバカさんを発見。止めに入ります。
ドタバタしている内にアクシデントで私の頭に蜜が滴り落ちてきました。
……うふふ。ラダさん、こうなった責任をとっていただきますよ。
さあっ、お脱ぎなさい! (靴シュポーン) こっちも! (靴下ズリズリ)
恍惚の笑みを浮かべ、サディスティックでフェティッシュな足ツボマッサージ開始。



■悶える痛みは、甘さに比例
 あなたは知っているだろうか。いや、覚えているだろうか。
 オーガ絡みの様々な依頼が舞い込んでくるA.R.O.A.に、浜の一角の水面にぷかぷか浮かぶふわふわメロン、じゃなくて浜の一角に出没する巨乳ラミアを追い払う依頼があった事を。
(あの時は作戦上、巨乳ラミアの魅了にわざとかかるのは問題なかったのですが、今回は事情が違いますよね)
『エリー・アッシェン』は、わくわくそわそわしているパートナーの『ラダ・ブッチャー』を見る。明らかに何か企んでいる、というか何かやらかす気まんまんである。
(過ちを正すのも友の役目。私が用心しておきましょう)
 敢えて釘を刺すこともせず、生温い笑みを浮かべながらエリーは一人頷いた。

 ラダは浮かれていた。なんせ、事故のフリして美女と戯れるまたとないチャンスが到来したのである。ちなみに美女の中にパートナーであるエリーは含まれていない。
 二、三歩離れたところでは、マスクと手袋をつけたエリーが淡々と蜜の収集をしている。きっと多分自分の方は見ていないし気づいていないだろう。というか気づかないで下さいお願いします。
(よし、こっそり蜜を舐めちゃえ。夢蜜房のせいなんだから、しょうがないよねぇ!)
 はっきりとした自分の意志で舐めるのはしょうがないとは言いません。
 という突っ込みをエリーもしたかはわからないが、ラダの希望もむなしく、エリーはしっかりばっちり気づいていた。というかラダがわからなかっただけでガッツリ監視していたのだ。
「はい、案の定、自分から蜜を摂取しようとするおバカさんを発見」
 採ったばかりの蜜を舐めようと瓶に指を突っ込んでいるラダの肩を、エリーが「うふぅ」と笑いながらがっちり掴んだ。
「ウヒャァ……見つかったよぉ」
「見つけますよ、じゃあ没収です」
「そうはいかないよぉ!」
 エリーが蜜の入った瓶に手を伸ばすと、千載一遇のチャンスを逃してなるものかとラダがさっと持ち上げる。
「あ、何をするんですか!」
「ボクは事故でこれを舐めるんだよぉ!」
「宣言してる時点で事故じゃありません!」
 寄越しなさい、いいや寄越さない、と二人は瓶の取り合いを始める。そしてとうとうラダの望んでいた『事故』が起こる。
 互いの攻撃と防御に夢中になっていた二人は、肝心の瓶が傾いていた事に気がつかない。ようやく気がついたのは。
「あ!」
 エリーの頭に、蜜がとろりぽたりと滴り落ちた時。
 そう、事故はエリーの方に起きてしまったのだ。
「エ、エリー? 大丈夫?」
 俯いていたエリーは、ゆっくりと頭の蜜を拭うと、ゆっくりと顔を上げた。
「……うふふ。ラダさん、こうなった責任をとっていただきますよ」
 顔を赤く上気させ、実に興奮した笑顔で。
「ちょ? 怖いその笑顔! 何するのぉ?」
 じり、と後ずさっとラダを、エリーは思い切り突き飛ばして転ばせる。尻餅をついたラダが起き上がるよりも早く、
「さあっ、お脱ぎなさい!」
 そう言い放って、ラダのウェスタンブーツを掴んでずりずり脱がせて投げ捨てた。
「ギャーッ!? ヤメテーッ!」
 何が起こるのかわからず混乱するラダ。けれどとりあえず多分何か身の危険が迫ってる気がする、だってエリーが怖い。
「こっちも!」
 ブーツに続いて靴下まで飛ぶ。
 このままズボンも取られてしまうのかと咄嗟に腰の辺りを必死で押さえる。
 しかし、エリーの目的はパンツではなかった。
「うふふふふ、溜まってそうですねぇ」
 恍惚の笑みを浮かべそう言うと、エリーはラダの足を抱え込んで、そのままサディスティックでフェティッシュな。

 足ツボマッサージを開始した。

「ひ、あ、いったー!! いたたたたたたた!! やめ、やめてぇ!」
「何を言ってるんですか、私の身体をこんなに熱くさせて」
「いやボクが悪いかもしれないけど熱くなってるのは夢蜜房のせい痛い痛い痛いッ!!」
「ラダさんが少しでも気持ちよくなるのなら、私は犠牲になってもいいんです」
「今まさに犠牲になってるのボクゥぅああああッ! いた、いたぁぁぁぁぁあぁぁ!!」
 妖しい甘い香りの中、勘違いさせそうなエリーの発言と、ラダの悲痛な叫びが響き渡る。ああ、何という悲しい『事故』なのでしょう。

 散々エリーに土踏まずを擽られたり、アキレス腱を摘まれたり、足の指一本ずつぐにぐにされたり、要するに好きなだけ激痛マッサージをされたラダは、大切な何かを奪われた少女のように、地面に寝転んだまま両手で顔を覆って動かなくなっていた。
 その隣にはすっかりいつもの様子に戻ったエリーが座っている。
「本当に一時間ほどで体の火照りもせくしーな気持ちもなくなるんですねぇ。ラダさん、色々とすみませんでした。でも溜まっていた疲れと凝りは消えたと思いますよ」
 あれの何処がせくしーな気持ちの表れだったのか。訴えたかったが、確かにエリーが言うとおり妙に体がスッキリしてる気がするから何とも言えない。
「まぁ、夢蜜房のせいですから、しょうがないですよねぇ?」
 エリーが有無を言わせない迫力の笑顔を作る。
 涙目になったラダに許された返事は一つしかない。
「ゆ、夢蜜房のせいなんだから、しょうがないよねぇ……」


■手探りで、甘く触れあい
 月の不思議な花の蜜。聞けば聞くほど厄介そうなものなのに、どうしてこの依頼を引き受けたのかと『スノー・ラビット』が『夢路 希望』に訊いてみる。
 すると、答えは実に簡単。
「困ってるって聞いたら断れなくて……引き受けてしまいました」
「ノゾミさんらしいね」
 微笑ましく思ってスノーは笑う。
「……あ、あの。もし、私が変になってしまった時は、躊躇わずに水をかけて下さい。一応下に水着を着てきたので大丈夫ですから」
 何というフラグ、じゃなくて備えの良さだろうか。素晴らしい。
 そんな希望のお願いに、スノーは頷きながら「僕も気をつけるね」と答えた。

 二人は香りを嗅いでしまわないよう、マスクしっかりして花畑に向かう。
「じゃあ、頑張りましょう」
 採取棒を片手に、二人は蜜の採取に取りかかった。
 ひらひらふんわりとした花びらを幾重にも持っている夢蜜房。その花を傾ければ花びらから蜜が垂れてくる。
 花の中に取り残しが無いよう、採取棒で蜜を絡め採り、そっと採取瓶へと入れていく。初めての作業ではあったが、二人とも慎重になった結果、順調にこなしているようだった。
 けれど人間誰しも完璧になんて出来るわけがないのだ。仕方がないですね。
「……あっ」
 慎重にやっていたつもりが、蜜はとろりと垂れ落ちる。採取している希望の手に。
(て、手に蜜が)
 触れた瞬間はひんやりとした。けれどすぐに熱くなる。じんじんと甘く痺れるような熱が、手から一気に全身に広がる。
 慌てて蜜を拭ったが、拭う感触にすら背筋が震える。そのまま体が震えだして反射的に縮こまる。
「どうしたの?」
 異変に気付いたスノーが振り返り、心配そうに希望に尋ねる。
 大丈夫です、そう返そうとした希望の肩に、気遣わしげなスノーの手が置かれる。
「……んっ」
 びくり、身体を震わせて、希望は自身が思いもよらない声を出した。蜜のせいだけではなく、羞恥で顔が更に赤くなり、涙も滲んでくる。
 けれど一瞬零れた声も、その反応も、スノーにとっては思わず見入ってしまうもので。というか青少年の何かのスイッチが入ってしまうもので。
「ノゾミさん……?」
 そっと名前を囁きながら、スノーはするりと頬に撫でた。
「……ッ、ふ……ぅ」
 触れるだけの感触も、伝わってくる温もりも、まるで焦らされているようで、希望は無意識に自らスノーの手に頬を寄せる。潤んだ目で、請うようにスノーを見ながら。
 喉が渇くような欲求に後押しされ、スノーは両手でそっと希望の頬を包む。瞬間、また希望がピクリと身体を震わせ、それでももう声は漏らすまいとマスクの下で口を硬く閉じる。
 声が出ないように耐える希望と、声が聞きたくて手を動かすスノー。両手で頬を撫でながらマスクを外し、するりと耳と首筋へと指を滑らせる。
「や……!」
 腰まで走った甘い痺れに、希望はたまらず声が出てしまう。その甘く柔らかな声に、零れ落ちそうな涙を飾った瞳に、スノーの両手に力が入る。逃げるのも逸らすのも許さないかのように、希望の赤く染まった顔を自分の方に向かせる。
「……ユキ……っ、……もう……お願い、だから……」
 熱い吐息のような声がスノーの目の前で生まれる。

「早く、水をかけて下さいっ!」

 絞り出された必死の言葉を聞いて、ようやくスノーは我に返る。別に我に返らなくてもいいのに。
 弾かれたように希望の顔から手を離し、慌てて近くのバケツを取って「かけるよ!」と言いながら、ばしゃっと頭から水をかけた。
 希望の体から一気に熱が引く。敏感だった肌もすっかり元に戻る。
「……うぅ、た、助かりました。ごめんなさい」
 はぁ、と深い溜息をつく希望の姿を、スノーは直視できない。
(……水着だって分かってるけど)
 夢蜜房の効果が消えた希望はいつもの調子だ。ただ、さっきまで自分の手の中にあった姿をスノーは忘れられない。体のラインに沿って張り付いた衣服が、透けて見える白い肌と水着が、さっきまでの希望と重なって。
 若干目を逸らしながら、スノーは着ていた上着を脱いで希望の肩へかける。
「……ユキ?」
「あとは僕がするから」
 何ともない風を装って言ったけれど、心臓は早鐘のように打っていたし、希望から見てみれば顔が赤かった。
「……えっと。水、かけましょうか?」
 スノーも蜜に触ったのだろうかと首を傾げる希望に、スノーは何とも言えない気持ちでしばし沈黙した後、
「………………うん」
 と、力を無くすように頷いた。
 この熱は蜜のせいなのか、それとも他に理由があるのか。
 果たして冷めたい水で落ち着いても、ただ甘えたいだけではない、胸にくすぶる別の何かがあるのか。
 それはあと数秒後に分かるだろう。


■独占欲は、甘い予告
 マスクと手袋を装着した『リヴィエラ』と『ロジェ』は、さっそく花畑に入って蜜の採取に取りかかる。
 ふんわり丸く広がる花を傾けると、中の蜜がとろとろ垂れてくる。それを掻きとって採取瓶に入れる。
「と、とにかく直接触らないように採取、ですよね……」
 蜜を垂らして瓶の中に入れる。花弁についている分も指で掬って全て瓶へ。粘度の低い蜜は指先でも容易く集められる。
「とれました! ロジェ様、見てくださ……きゃっ!」
 が、ここでリヴィエラは神懸かり的なドジを踏んでしまう。
 成功した事に喜ぶあまり、傾けていた花をパッと手放してしまった。たわんでいたものが元に戻る時に、まだ中に残っていた蜜が、飛沫のようにリヴィエラの顔へと飛んだ。
「きゃ、嫌、顔が何だか熱い……じんじんします……っ」
 顔だけではない、体中が熱くなる。今までにない感覚の鳥肌が立つ。
「ふ、拭かなきゃ、顔、まだ蜜がついて……」
 顔についた蜜を拭おうとして手を動かすが、初めての感覚と落ち着かない熱さに動揺して震えてしまい、弾くようにマスクを取ってしまう。何だこの奇跡、ありがとうございます。
 地面に落ちてしまったマスクを取ろうと下を向いた、その時。
 顔についていた蜜がつぅっと垂れ、リヴィエラの口の端に辿り着いてしまった。

 リヴィエラがドジを踏むのは最早いつもの事だ。それをフォローする事にもロジェはもう慣れた。
 だから、地面にへたりと座り込んでいるリヴィエラに気がついたロジェは、またこけたのかとリヴィエラの肩に手を置く。
「リヴィー、大丈夫か? 怪我でもして……」
「やぁッ!」
 リヴィエラは身体を跳ねさせ、ロジェの手を、いや、ロジェ自身を払いのける。その払いのけた手が、近づいていたロジェの顔をかすめ、マスクを引っ掛けて飛ばしてしまう。何だこの奇跡その二、本当にありがとうございます。
「くっ……何だこの匂い……」
 艶かしい甘さに一瞬で酩酊して、ロジェもまた座り込む。体の感覚が浮つく。抑えがたい衝動が湧き上がってくる。
「はぁ、あ……ッこのバカ、また君はドジを……!」
 しかしリヴィエラを見れば、自分よりも明らかに何かの制御が吹き飛んでいた。
(まさか、口にしたのか!)
「い、嫌……助けてロジェ様、あぁ、はぁっ…!」
 言いながら、リヴィエラはさっき払いのけたロジェにしがみ付いてくる。顔を赤くして、目を潤ませて。
「貴方が好き、愛してるの……っ!」
 リヴィエラがロジェに抱きつく。離れたくないと、もっと一つになりたいと。
 この酔いは何だ。夢蜜房の香りのせいか、リヴィエラの香りとぬくもりのせいか。
 抱きしめ返したい。美しい青い髪を掬い、白く華奢な首筋に顔を埋め、細く柔らかな身体を強く抱きしめたい。
 そして、そのまま。
 湧き出る欲求を自覚したのとほぼ同じタイミングで、リヴィエラが薄く唇を開いて顔を寄せてきた。
(駄目だ! このまま、口付けしたら、もう……!)
 自分の限界がそこまで来ていることを悟ったロジェは、咄嗟にリヴィエラの口元を自分の手で覆う。
 一瞬ほっとしたロジェだが、びくりと身体を震わせる。
 何故なら、手袋越しに、温かく柔らかな感触が。
「リ、リヴィー……?」
 見えないけれど分かる。リヴィエラがロジェの掌を、指を、拙くも舐めているのだ。
 リヴィエラに深い意図は無い。深い意図は無いからタチが悪い。
 ただ少しでもロジェに近づきたくて、どうすればいいのか分からなくて、体が求めるがままに動いているのだ。
(こ、このままじゃまずい、これ、は……そ、そうだ! 水……!)
 かろうじて残っていた理性が対処策を思い出す。ロジェは近くにあったバケツを片手で引き寄せ、躊躇せず自分とリヴィエラに水をかけた。
「……はっ!? ロジェ様、私は何を……? ……き、きゃあああああっ!!」
 正気に戻ったリヴィエラが、たった今まで自分がしていた事について混乱する勢いで恥じ入る。立ち上がり逃げようとするリヴィエラだったが、その衣服が水により透けてしまっている事に気付いたロジェが慌てて引き戻す。
 そしてさっきとは逆に、ロジェがリヴィエラを抱きしめる。強く、他の男の目からも、夢蜜房の花からも隠すように。
「この、バカ! そんな痴態を他の男の前で晒して、襲われたらどうするつもりだ!」
「す、すみま、せ……!」
 さっきまでの痴態と今ロジェに力強く抱きしめられているという事実に動揺し、リヴィエラは上手く頭が回らない。
「……お前は俺のものだ、この媚薬を使う時は俺の前でだけにしろ。いいな?」
 耳元で、リヴィエラにだけ聞こえるように囁かれた、ロジェの本心。
「えっ、えっ、この蜜はロジェ様の前でだけ……? ロジェ様、それって……ッ」
 さっきまでと同じ位顔を真っ赤にするリヴィエラと、彼女を離そうとしないロジェ。二人が夢蜜房の蜜の採取を再開させるには、当分時間がかかりそうだった。
 ……別にロジェがとある生理現象のせいで立てない動けないというわけではない。断じてそんな事はきっと多分ない。


■首筋に、甘く残る
(……どんな味なのか気になる。蜜っていうぐらいだから甘いのかな)
 一通りの説明を聞いた後、『ロア・ディヒラー』は、頑張ったらちょっとだけ舐めさせてもらえるかな、などと期待しながらマスクをつけて採取棒を握る。
 同じようにマスクをつけ採取棒を手に取る『クレドリック』は、ロアとは違い真面目に考えていた。
(万全を期して採取せねばならぬようだな)
 夢蜜房への心構えの違いがそのまま未来に結びつくなど、この時の二人には分かる筈もなかった。

 慎重に黙々と作業を進める。それでもマスクをして香りを防いでいるせいか、少し余裕もあってたまに会話も交わす。
「花の蜜集めってミツバチみたい。メルヘンチックだよね」
「うむ、実に分析してみたい。今ここで試すにはあまりに危険だが、作業完了後に数滴実験用にもらえないか交渉してみるか」
「ああ、うん、まぁメルヘンな割に危険みたいだけど」
 微妙に噛み合ってないが、二人はそれで良しとしてるのか、そのまままた作業を続ける。
 そうして大分集まってくると、ロアはそわそわし出した。
(どんな、どんな味なんだろう……!)
 頑張ったご褒美に期待するだけでは追いつかなくなってきた欲求。舐めてみたくて仕方なくなってきたのだ。
 しかし『あはんうふんな気持ちになるよ!』という説明が頭の中で声を大きくする。
(駄目駄目! だってつまりもしそんな気持ちになったらクレちゃんにって事で……ん? 逆に考えれば、クレちゃんがどうにかしてくれるなら、試せるんじゃ……)
 理性の天使が欲望の悪魔に負けた瞬間である。そして欲望に負けた人間は都合のよい論理展開をしてしまう。
(……クレちゃんなら、呆れるだろうけどすぐ水をかけてくれるよね。それに夢蜜房を分析してみたいって言ってたから、味の感想とか必要なんじゃないかな。ほんの一滴なら、気持ちさえ強く持ってたら大丈夫かな、大丈夫だよね、うん、そんな気分なるわけがない!)
 そうかなぁぁあぁ?!
 などという謎の突っ込みは当然気付かれる筈もなく、とうとうロアは誰にも見られないように、こっそりと蜜を舐めてしまう。
 一滴だ。
 脳まで溶かされるほどの甘さだったが、それでもたった一滴だった。それなのに、頭がふわふわする。体が熱くなる。
「な、にこれ……」
 思わず声に出せば、クレドリックが振り返る。
 ロアは明らかに様子がおかしくなっていた。頬は赤く染まり、瞳は潤み、紫の光は隠しようのない欲の火が灯る。
「クレちゃん……!」
 助けを求めるようにロアはクレドリックに抱きつく。
 体の奥底から誰かを求めている、いや、クレドリックを求めている。クレドリックが欲しくてたまらない。全部触りたい。全部触れられたい。どうしようもない欲求を少しでも鎮めたくて、ロアはクレドリックの胸に顔をうずめる。
「舐めたのかね……ロア」
 呆れたような声が頭上から降ってくる。
 やっぱり呆れられた。きっとすぐに水をかけてくれる。
 予想が当たった事にほっとしたような、この熱がもうすぐ終わるのが惜しいような、そんな複雑な気持ちで顔を上げれば、冷ややかな眼のクレドリックがいた。
「クレ、ちゃん……?」
 ―――こんなに冷たい目で見られるの、初めてだ。
 ロアは熱の引かない身体に、それでも一瞬心臓が凍ったのを感じた。どうしてクレドリックがここまでの反応を見せるのかが分からない。
(……例えば側にいたのが、私以外だったら)
 その先を考えると、クレドリックは酷く腹立たしくなった。
 自分の感情の動きの原因が何なのかはっきりとしないまま、自分にしがみ付くロアの頭を掴んだ。
「甘い物への好奇心で軽率な事を行ったのかね。少々灸をすえねばなるまい」
「え……」
 ロアが何を言われたのか理解しきる前に、クレドリックはマスクを外し、ロアの首筋に思い切り噛み付いた。はっきりと、痕が残るほどの強さで。
「痛っ!?」
 叫んだロアを無理矢理引き剥がし、近場のバケツを掴んで思い切り水をかけた。
 びしょ濡れになったロアは、やっと正気を取り戻す。
「ご、めんね、危ないことして」
 ロアが謝ると、ばさりと白衣を被せられる。
 ありがとう、と言おうとしたロアの目の前で、クレドリックはもう一つバケツを掴んでザバッと頭から水を被った。
「クレちゃんまで何で水!?」
 思わず突っ込む。
「……冷静になるためだ」
 何故冷静でないのか。きっと夢蜜房の香りにあてられたせいだ。それ以外の理由なんて、まだ知らない。
「後は私が採取する。ロアは首筋へのキスの意味でも調べて反省しておきたまえ」
「へ?」
 いや、さっきのは明らかにキスじゃなくて噛み付きだったんだけど。
 そんな返しは何となく出来ず。キスの意味を知らないロアは、帰ったら調べようと思うだけだった。

 何処かの詩人が綴った。
 首へのキスは欲望だと。
 それはクレドリックの気持ちか、欲望に負けたロアへの当て付けか。
 欲望は止める者がいなければ何もかも何処までも求めるだろう。
 狂気の沙汰と言われるほどに。
 そうなる前にどうか、違うキスを―――。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 09月20日
出発日 09月26日 00:00
予定納品日 10月06日

参加者

会議室

  • [4]夢路 希望

    2014/09/24-18:05 

    夢路希望、です。
    よ、宜しくお願いします。

    ……気をつければ、大丈夫、ですよね。
    が、頑張ります。

  • [3]ロア・ディヒラー

    2014/09/23-23:52 

    ロア・ディヒラーです!初めましての方もお久しぶりな方も、どうぞ宜しくお願いいたします!
    夢蜜房の蜜って甘そうですよね。
    …ちょっとぐらいだったらなめても大丈夫かなーとか思っちゃうんですけど…ともかく採取がんばりますね!

  • [2]エリー・アッシェン

    2014/09/23-17:52 

    エリー・アッシェンです。皆さん、どうぞよろしくお願いしますね。

    夢蜜房ですか。
    もしもラダさんにかかったら、彼はところはばからず、魅力的でナイスバディな女性たちにル○ンダイブで熱烈アタックすることでしょう……。
    私が用心しておかなければ。

  • [1]リヴィエラ

    2014/09/23-14:46 

    ロジェ:
    俺の名はロジェ。パートナーはリヴィエラだ。
    希望、ロア、エリーはどうか宜しく頼む(頭を下げながら)

    媚薬効果のある蜜か…気を付けて採取しないとな。


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