さとりのしょ。(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 鎮守の森、奥深く。火龍王の不穏な動きは、紅月ノ神社の妖狐達だけではなく、森に居る妖怪達にも様々な影響を与えているようだ。
 意識の端でその動きだけは度々捉えながらも、差し当たった興味もない顔で、蛇御子はそこにいた。
「全く、これからだという時に……」
 溜息、一つ。呆れを孕んだ呟きを聞き留めて、ふらり、どこからともなく現れた遊火は、宥めるように声をかけた。
「まぁまぁ。蛇チャンもお疲れみたいだしさぁ、一息つく機会だと思えばいいじゃない」
「ふらふらしすぎな貴方にこそ働いて欲しいくらいですがねぇ」
「あははー。そんな蛇チャンのために面白いもの拾ってきてあげたんだから怒らなーいで♪」
 はい。と遊火が手渡したのは、一冊の本。薄いそれは、随分古びているが、タイトルらしいものもなく。
 不思議そうに、ぱらり、開いて。

 ばんっ。勢いをつけて、閉じた。

「な、な、な……」
「あーあ、勿体ないなー」
「なんです、これ……」
 わなわなと震えながら問いただす蛇御子に、遊火は楽しげに説明した。
 聞けば、人間に化けて訪れた祭の一角にあった古本屋の少女に勧められたものらしい。
 どうぞお手に取ってと勧められたが、開いてみても中身は真っ白。訝るように瞳を細めたところで、少女が笑顔で告げたのだ。
『それを好きな人に渡してみてください。自分と相手だけの物語が展開されます』
『好きな人?』
『ご友人でも構いませんよ。イケメンのご友人とか居るならぜひ』
『ふーん?』
 誰でもいいのなら、と。興味本位で持ち帰ったそれが、今しがた手渡されたそれらしい。
 つまりほんの一瞬蛇御子が垣間見たのは、遊火と蛇御子だけの物語。
「で? どんな内容だったの?」
「言いたくありません」
「えー、折角お金出して買ってきたのにー。一回閉じちゃうと消えちゃうんだよそれー」
「それは最高に好都合ですね」
 手の中でさらさらと砂のように崩れていく本を、パン、パン、と払って。一層げんなりとした顔で、蛇御子は踵を返した。
 くすくす、楽しげに見送りながら、あーあ、と遊火はもう一度、勿体無いと呟いた。
「結局よく判らなかった、『渡す方が左で渡された方が右ですからね』ってのの意味も、判ると思ったのになー」

 その頃、噂の古本屋の少女は、通りすがる男子諸氏に、しきりに本を勧めていたそうな。
 その本が、付喪神の一種で、『イケメンとイケメンがきゃっきゃうふふしてたらいーなー!』とか言う願望に捉われた代物であるということは、多分、知ってても知らなくても問題の無い事である。

解説

【R18、駄目絶対】
アクションプランに抵触する内容が書かれていた場合は白紙扱いにいたします
ウィッシュプランに書かれていても一切描写は致しません
もう一度言います。【R18、駄目絶対】です
厳守お願い致します
(R18な本になってしまって思わず「ぎゃー!」って反応する、とかは可です)

薄くて高い本なので一冊300jr頂戴いたします
一度本を閉じてしまうと砂のようにさらさらと崩れて消えてしまいます
見て貰いたい気持ちはあるけど黒歴史は残すものじゃないそうです

ゲームマスターより

CPとシチュエーションだけ書いて頂ければ錘里がとてもカオスに捏造します
重ねて言いますが特に公開されるアクションプランへの記載事項にはくれぐれもご注意ください

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  なに、この本くれるの?
イルドが本なんて珍しいわね~
今は真っ白だけど渡したら物語が展開?何それ?
文字が浮かび上がってくるって事?へ~、不思議ねぇ
どんな物語が出てくるのかしら?どれどれ……へ?
(思わず間抜けな声が出る
まんま自分達な登場人物とストーリーにうろたえ
見るのをやめたいが何故か目が離せない
イルドに見せろと言われ挙動不審になりながら
どうにかして見せないよう努力)
イ、イルドには難しい内容だと思うわ…
あ、おっさんちょっと用事思い出したわ~…(逃げようと)
(本と似た体勢に過剰反応しみるみる顔が赤くなり
叫びながら本を開いた状態でイルドの顔面に叩きつけ
ローブの袖で顔を隠しながら走り去る)
わあぁぁぁ~ッ!


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  高くて薄い本を手に入れたので有効活用
極一部の人のHP・MP全回復アイテムかな
人によっては会心の一撃になる気もする

左右の意味を理解した上で装備
好きな人でも友人でもない、お誂え向きに顔だけは良く
ダメージもいい感じに入りそうな敵……じゃなかった、
はぐれ精霊がいたので手渡すよ。
ゼク、本を買ったんだけど読めない文字があるんだ
これなんて書いてあるの?
すぐに閉じられないようページをガードだ!
早く教えて。声に出してくれないとわからないなー

直ゼク。いつから僕が右側だと錯覚していた?
シチュは新婚物
帰宅する僕におかえりと応じるエプロンの新妻ゼク
風呂にするか?から始まる新婚三択を見てみたい
容赦なく切り捨てるだろうけど


城 紅月(レオン・ラーセレナ)
  夕飯を軽く済ませ、縁日を楽しもうと二人でお出かけするよ。
デートみたい…
最近、ちょっとレオンが気になる。
ううん…すごく、気になる。声とか…
好きってこういうことかな?
でも、まだ出会って間もないし。自分の気持ちが知りたい…

ふと、恋人同士の関わり方とか絆とか…営みとか。
考えてたら恥ずかしくなってくる。夜道で良かった(溜息
あ、チョコバナナ食べよ(もぐもぐ←買った

「え?面白い本買ったの?」
喜んで本を受け取るけど…18禁BL本!!
「…ぁ、だ、だめッ!」
慌てて閉じようとしたところをレオンが腕を掴んでくるっ

「や、やだ…もう…」
さっきまで考えてたなんて言えない。
囁く声に力が入らない
どうしよう(涙

※カオス、弄りOK



ティート(梟)
  これ?いや、なんか歩いてたら女の人が勧めてきて…。
えーっと、二人だけの物語が展開されるとか言ってたよ
思い出しながら、疲れたという顔で押し付けるように本を渡す
渡す方が左で渡された方が右で、とかも言…おっさん?

えっなにあの顔。初めて見た。真顔とも顰め面とも何とも言えない微妙な顔してる
すごい近寄り難い。けど、本の内容が気になってしょうがない
横から覗き込もうとしてスパァンと閉じられる

ちょ、あー…一回閉じると消えちゃうって言ってたな…
おっさんさっきの本なに書いてあったの?
え?こうじょりょうじょ…なに?
変なの。まぁいいや。

じゃあもう一冊買ってくるから今度はおっさんが俺に渡せばいいんだな
…わ、分かったよ



月岡 尊(アルフレド=リィン)
  「成る程。本当に真っ白なんだな」
パラパラ捲って、嘆息一つ。
本は、実用書なら中身で買うが、他は専ら表紙買い。
殊、装丁や趣向に惹かれる身からすれば、非常に興味深い本なわけだが…
「……で。どんな話だ?」と、好奇心に任せてツレに渡し――

閉じられる前に、しっかり取り返す。
開かれたままの頁に目を落とせば、
「『渡す方が左で渡された方が右』と……そういうことか」
折角買った本だからと、一応最後まで目を通して。
…何で平然としてるかって?
最近、この手の押収品が多くてな。この時期…夏と、年末は特に。
閉じる…前に、ライターを取り出し、火を着ける。
ツレが安堵してたなら、ちったあ微笑って。

…動揺、恥は、炎に隠したまま、な。



●俺様×飄々
 その本に対してのイルドの認識はいたってシンプル。『友達に渡す変な本』だった。
 だから素直に、友人――というには些か特別な相手ではあるが――であるスウィンに手渡した。
「なに、この本くれるの? イルドが本なんて珍しいわね~」
 茶化すような台詞ながらも、楽しげで嬉しげなスウィンに、本の説明をすれば、興味津々な顔をした。
「今は真っ白だけど渡したら物語が展開? へ~、不思議ねぇ。どんな物語が出てくるのかしら」
 どれどれ、と本を開いてみたスウィンは、ぱらりと数ページ捲った時点で、目を丸くした。
「……へ?」
 物語に登場していたのはどう解釈しても自分とイルドだった。

 思いを寄せ合いながらも歳の差を気にする男が、年若い青年に苦笑がちに語る。
 『イルドはおっさんには勿体無いわ』
 相応しくない。釣り合わない。
 だからどうか、この思いはそのまま蓋をして、お互い有意義に生きましょう、と。
 微笑んだ男が半歩引いた時点で、青年は激昂する。
 『うるせえ! そんなのは理由にならねえ!』
 真っ正直な青年の思いは、行動にも反映される。
 男を壁に押し付け、見つめる顔はどこか悲痛。
 『くだらねー事言うくらいだったら、黙ってろ!』
 「でも」や「だって」は、聞きたくないとばかりに、青年は――。

「おっさん?」
「へ!? あ、な、なぁに?」
「いや、やけに集中してるけど、どんな話だったんだ?」
 尋ねられて、びくりとしたスウィンは、視線をあっちにこっちにやりながら、しどろもどろになる。
「イ、イルドには難しい内容だと思うわ……」
「読んでみねーと判らないだろ」
「そ、そうかしら~。哲学みたいで、結構複雑よ? あ、おっさんちょっと用事思い出したわ~……」
 覗き込む視線を避けて、伸ばされる手をひらりとよけて。
 どうしても本を見せたくない様子のスウィンに、イルドはむっとして、スウィンの肩を押し、逃がすまいと捕まえて背後の壁に押し付けた。
「怪しすぎるぞおっさん……何で見せられねーんだ?」
 間近に迫ったイルドの顔が、先ほどの物語と重なる。

 ――青年は、男の口を、己の口で塞ごうと――。

「わああぁぁ~ッ!」
 すっぱぁん!
 勢いよく本をイルドの顔面に叩きつけたスウィンは、そのままローブの袖で顔を隠しながら走り去った。
 突然の反撃に動揺し、訳が分からないと言う顔でその背を見送ったイルドは、何なんだと若干憤慨しながら、手元の本に視線を落とした。
「なっ……」
 羅列される文章に、自分たちそっくりの登場人物によるキスシーンの挿絵。
 見る見るうちに赤くなる顔。先ほどの状況を思い出して、沸点的な何かが臨界突破したような気がした。
「何だこりゃぁあッ!?」
 イルドの絶叫は、祭の夜に轟いて、木霊するのであった。

●小悪魔×不運属性
 まさか夏祭りで高くて薄い本を手に入れるなんて。柊崎 直香が真顔になったのは一度だけ。
 ごく一部の人間のHP・MP全回復アイテムであると同時に、人によっては会心の一撃も与えられる刃でもある。
 これは有効活用せなばなるまい。
 きらりと瞳を光らせた直香のターゲットは、好きな人でも友人でもない、おあつらえ向きに顔だけは良く、なおかつダメージも良い感じに入りそうな対象。
 イコール、ゼク=ファルである。
「魔法使いって運がなさそう」
「藪から棒になんだ」
「はぐれ精霊なゼクも、幸薄そうだもんね」
「ウィンクルムになってからな。つまり俺ははぐれてないぞ」
 唐突な台詞はいつも通りと言わんばかりにさらりと流したゼクへ、直香は究極兵器「薄い本」を差し出した。
「所でゼク、本を買ったんだけど読めない文字があるんだ」
 いたって自然で判りやすい理由である。
 ここでゼク視点からお届けしよう。
 さてここに取り出したりますはどこにでもある普通の冊子。種も仕掛けもございません!
 な感じに見えてしまっては訝しむのはいたって自然な行為であった。
 企み事があるようにしか見えないが、純粋な疑問ゆえに大人のゼクを頼っている可能性もある。
「教えてくれる?」
 小首を傾げる直香に、後者の可能性を信じたゼクは頷いて。
 開かれた本の内容を流し読んで、賭けに負けた事を察した。
「ねぇ、この字。なんて読むの?」
 スパン、と閉じられる前にすかさず手を添え指を添えてガードした直香。
「教えてくれるんだよね。読んでくれるんだよね? 早く教えて。声に出してくれないとわからないなー」
 にっこにこの直香が意外と力強かった。
「キミが約束を守ってくれるひとなの僕知ってる」
 止めの一言がこれだ。
 観念したゼクは、溜息を一つ零して、棒読み加減が半端ない朗読を始めた。

 小気味良い音が響くキッチンに、ただいま、届く声。リビングの写真立てには結婚式の写真。
 エプロン姿のまま玄関へと向かったゼクは、帰宅した直香に「おかえり」と告げて。
「風呂にするか? 飯にするか? それとも……」
「じゃあお風呂から」
「せめて最後まで聞いてやれ」
「お風呂の後にご飯食べるね。ゼクは要らない」
「聞く前に否定するな」
 柊崎家は今日も賑やかである。

「……」
「……思ったよりギャグだったね」
「これは、どう言う本なんだ」
「なんか未来を映し出すんだって」
 直香の適当な嘘を真に受けて、ゼクは願い下げたいような気がしたが、ふと、思い至って真面目な顔をした。
「思ったんだが」
「なに?」
「俺、今も飯と風呂は用意してるよな」
 現在進行形で同居中の直香とゼク。同棲ではない。ここ大事。主な家事はゼクの担当である現実は、読まされた内容とはたいして変化もなく。
「ゼク自身は要らないよ?」
「やるか」
「でも明日の朝はお味噌汁が飲みたいな」
 ばさりと切って捨てる互いのやり取りも少しずつ日常になる中で、受け取った要望にゼクは小さく息を吐いて。
「毎朝作ってるだろ」
 意外と、今がこのまま続くと言う天啓かも知れないと、密かに思っていた。

●ヤンデレ×おっさん
 あっちの方見てくる。告げたティートが梟の元へ戻ってきた頃には、すっかり疲れ切った様子で。
 お疲れ、と軽く微笑んで迎えた梟は、ティートが手にしているものに気が付き、尋ねた。
「これ? いや、なんか歩いたら女の人が勧めてきて……」
 思い起こして疲れの増したような顔をしたティートの様子から察するに、その女の人の勢いに負けたのだろう。
「二人だけの物語が展開されるとか言ってたよ……あんまり覚えてないけど」
 くく、と控えめな笑みを零す梟に、ティートは本を押し付けて、肩の荷が下りたと言わんばかりに溜息をついた。
「坊やもなかなか草食系というかなんというか……」
 楽しげに眺めて、梟は流れのままに渡された本をぱらり、捲ってみる。
「あー、なんか、渡す方が左で渡された方が右で、とかも言……おっさん?」
 つい先ほどまで楽しげに笑っていたはずの梟が絶句して真顔になっている。
 微妙に引き攣った様子の顔は、ティートの見た事の無い顔だった。
 物凄く近寄りがたい空気を醸し出していたが、物凄く、その視線の先が気になって仕方が無かった。
(なに、書いてあるのかな……)
 ちらり、横から覗き込もうと、こっそり近づいたところで、スパァン、と勢いよく本を閉じられた。
 あまりの勢いに顔を引っ込めてから、さらさらと梟の手の中で消えていく本を見つめながら、「あー」と残念そうな声を上げるティート。
「そう言えば、一回閉じると消えちゃうって言ってたな……おっさん、さっきの本、何書いてあったの?」
 至極素直な興味本位で尋ねるティートに、梟は色の無い顔で振り返ると、深く深く頷いた。
「渡す方が左で、渡される方が右ね、オーケー把握した。一回閉じると消える、ね。なる程よくやった」
「おっさん?」
「ああいうのは公序良俗に反するって言うか然るべき場所に安置補完の上厳重に封印しても良いくらいの代物だな。つまりそう、坊やにはまだ早いんだ」
「え? こうじょりょじょ……なに?」
 早口でまくしたてた梟が明後日の方向を見たまま視線を合わさない。
 やや不満を残しながらも、何を言っているのかよく判らなかったティートは、その勢いに負けたというように肩を竦めて、から、名案を思いついたようにぽんと手を打った。
「じゃあもう一冊買ってくるから、今度はおっさんが俺に渡せばいいんだな」
 そうすれば中身が判る。と一人頷くティートの肩を、梟が掴む。
「やめるんだ」
「え、だって……」
「やめるんだ。いいな?」
「わ、分かったよ……」
 据わった目で言う梟に、変なの。唇を尖らせて、ティートは今度こそ、興味を手放した。
 つぃと前を歩くティートの背を、梟は半ば魂の抜けた顔で見つめる。

 きしりと音を立てる麻縄は、男の頭上で腕の自由を奪う。
 じ、とそれを見つめる人形のように綺麗な顔は、あどけなさの中に狂気を滲ませる。
 肌蹴た胸元に這う指先は、しっとりと優しいのに、獰猛さを宿した瞳に見つめられると、爪を立てて抉られるのではないかという恐怖が、ひやりと背を伝う。
 『どこにも、行かないよね』
 どこかに、行こうと言うのなら。名乗った鳥の名に従うように、この手を離れて飛び立とうと言うのなら。
 手を、足を、翼を、なくしてしまわなければならないよ――?
 冷たい声が、それでも愛しいと。
 男は緩やかに、微笑んでいた。

(いやぁ、草食系だと思ったらがっつり肉食系じゃないかハハハ)
 乾ききった笑いを浮かべる梟の目は、笑っていない。
(まぁ前の相棒には<省略>だし坊やも村でされてた事を考えたらこれくらい軽い……いや違うそう言う問題じゃない)
 一頻りの現実逃避は、正真正銘のあどけなさに見つめられて、断ち切られる。
 ――無垢とは、怖いものだと。梟は何の気ない素振りで、肩をすくめて後を追った。

●堅物×実直
「成る程。本当に真っ白なんだな」
 ぱらぱらぱら。月岡 尊は手に取った本を捲り、一つ頷く。
 専らが表紙買いの尊にとって、薄いながらも古めかしさの漂う、古書さながらのその本は、本の趣向と相まって、興味を覚えるには十分だった。
「……で。どんな話だ?」
 好奇心が動くままに、ツレであるアルフレド=リィンへ手渡せば、彼は一度、渋るように眉を顰める。
「オレ、活字って苦手なんスよね。普段、漫画くらいしか読まねえスし……って言っても、拒否権は無しっスか…ハァ」
 関係性は上司と部下に近い二人。年上で目上である尊の好奇心を満たすべく、アルフレドは本を受け取って、ぱらり、捲った。
「ん? 漫画?」
 視界に映ったのは、絵で。それも謳い文句通り完璧に自分たちがモデルときた。
 不承不承だったアルフレドも、すぐに興味を刺激され、ぱらり、ぱらり。捲っていく。
 名前の呼び方一つ、しっくりきていないような。何処かぎくしゃくした二人。
 どういう言葉を掛ければいいのか互いに把握しあぐねているようなもどかしい雰囲気は、いうなれば初々しい。
(これそのまんま、今のオレとツキオカさんみたいだな……)
 他人事のようにして見て見れば、微笑ましさすら覚える。
 その後二人はウィンクルムとして事件を解決する過程で心を寄せ合っていく。
 ぎこちなかった呼び方も、いつの間にか下の名前で呼んでみたりしているし、自分の内側を少しずつ吐露するシーンは、互いの表情に思わず見入った。
(ちゃんとバディっぽくて熱いし、これ良い話なんじゃね?)
 いつか自分たちにもこんな時が来るのだろうかと、事件の解決を受けて笑顔で手のひらを合わせる二人を見て、アルフレドは思う。
 思うだけで、現実味なんてちっともなかったけれど。
 『一つ区切りがついたら言おうと思ってた事があってな』
 『改まって、何スか?』
 合わせた手を取り、向かい合う二人。
 捲る。
 『今更と、思うかもしれないが』
 『だから、なに……』
 男のかすかな微笑に、対面する男もまた、微笑んで、他愛のない素振りで返そうとして。
 真剣な目に、息を呑んだ。
 捲る。
『アル、お前が好きだ』

「~~~~~!!??」
 ばんっ、と閉じようとして、見越した尊に遮られた。
 挙句、奪われた。
「ちょ、ツキオカさん、待った、待っ……!」
「『渡す方が左で渡された方が右』と……そういうことか」
 ぱら、ぱら、ぱら、ぱら。
 冒頭から結末まで、しっかりしっかり目を通していく尊に、アルフレドは本を取り返すタイミングを掴めないまま硬直していた。
 成る程。最初と同じ台詞を呟いてから、ちら、と。青いとも赤いともつかないアルフレドの顔を見れば、不思議そうな顔をされた。
「何で……」
「平然としてるかって? 最近、この手の押収品が多くてな」
 夏と、年末は特に。この手の本に目を通したことぐらいはあるのだと笑いながら、尊はライターを取り出し、本に火をつけた。
「あ……」
 アルフレドから零れたのは、少しだけ残念そうな声だったけれど、燃えるのを見つめる表情は、安堵したようにも見えて。
 尊もまた、かすかに微笑んだ。
 照らし出してくる炎から掠め取った火で紫煙を燻らせた尊の表情に、かすかの動揺と、恥じらいじみたものが滲んでいるように見えたのは――きっと、炎の色と揺らめきのせい。

●ドS×繊細系
 夕飯を軽く済ませ、二人で繰り出した縁日。
 祭囃子や行き交う人の賑やかな声に、はぐれないようにと寄り添って歩けば、デートのようで。
 城 紅月は傍らのパートナー、レオン・ラーセレナをちらりと盗み見ては、耐えかねたように自ら視線を逸らし、ほんのりと紅潮する頬を自覚していた。
 最近、ちょっとだけ。レオンの事が気になる。
(……ううん、すごく、気になる)
 自ら訂正した思考。まだ出会って間もない相手だと言うのに、その美しい容姿や穏やかな表情、何より、声、が。紅月の意識をゆっくりと侵食していた。
(好きって、こう言うことかな?)
 自問に、返る言葉は無い。
 未だ判然としない自身の感情をもどかしくも思うが、明確にせずとも傍に居られる現状が嬉しくもあったから、あまり深くは、考えずにいた。
 いた、けれど。
 もしもこれが、恋愛感情で。
 ゆくゆくは、レオンと恋人になるような未来があるのだとしたら。
 馳せた思いの中では、今日のようなお出かけの時には指を絡めて繋ぎ合ってみたり、揺れる思いを交し合って互いを深く知ってみたり。
 恋人に、こそ、許される営みを思い描いてみたり……。
「うわぁ……」
 ぱたぱた、一気に赤くなった顔を仰いで、ふるりと首を振る。
 夜道で良かったと心から思いながら、気恥ずかしさを紛らわせるため、目についたチョコバナナを購入する紅月。
 甘いもので少し落ち着いた気持ちを、ふぅ、と短い吐息で諌めていると、いつの間にかレオンの姿が無かった。
 おかしなことを考えていたせいで、はぐれたのだろうか。眉を下げつつも、下手には動かず、少しだけ道の端によって、紅月はチョコバナナをもぐもぐと食べながら人ごみの中からレオンを探していた。

 当のレオンはと言えば。件の本屋で熱烈な主張を受け、面白そうですね、と薄い笑みを浮かべて本を買っていた。
「紅月には繊細で恥ずかしがり屋な部分がありますからね……ちょっと楽しませていただきましょうか」
 密やかな笑みと共に紅月の元へ戻れば、ぱっ、と表情を明るくした彼は、ふと、レオンの手の中の本に注目した。
「それ、どうしたの?」
「さきほど、あちらで。面白い本があったもので、つい」
「面白い本?」
「ええ、開けると内容が現れる珍しい本ですよ。紅月は絵本などが好きでしたよね?」
 半分は本当で、半分は嘘。
 だけれど純粋な紅月は自分の為にその本を買ってきてくれたのだと信じて疑わず、喜んで本を受け取った。
 腰を落ち着けて、ゆっくりと楽しめる場所で。レオンの誘い文句にも疑問を抱かず、わくわくと本を抱きしめながら移動し、人気の少ない境内の裏手に座り込むと、そろり、本を開いた。
「……え?」
 暗がりの中でも、灯った灯りに照らし出された本の内容は、よく判った。
 波打つシーツの描写とか。
 汗ばんだ肌の艶感とか。
 後は以下略検閲削除、ご想像にお任せしますではあるが、ともかく一言で言うならやまもおちもいみもないべーこんれたすもなか。
 それは、先ほど歩きながら考えていた事と、酷似していて。目の当たりにした紅月は酸素不足の金魚のように口をパクパクさせながら、真っ赤になって涙ぐんでいた。
「……ぁ、だ、だめッ!」
 大慌てで本を閉じようとしたのに、レオンに腕を掴まれて阻まれる。
 羞恥でふるふると腕が震えているのは、レオンにも伝わっているのだろう。
 真っ赤になって俯くその様を、愛おしいと思っているのは、まだレオンの心の中だけの秘密。
 膝の上で開いたままの本に、ちらり、視線を落として。くすり、耳元に吐息と笑みを、落した。
「いつかして欲しいですか?」
 囁かれる台詞の一つ一つが、甘ったるくて。本の台詞にさえ音を付ける。
「や、やだ……もう……」
 やめてよ。冗談で済まそうとしても、零す声は、まるで望むように、弱々しくて。
 腕の引かれる感覚に、びくりとした瞬間、ぱさりと足元から本が落ちて、閉じて。さらさら、崩れてしまった。
 最後まで、見てないのに。紅月のそんな視線に気が付いて、くす、と笑ったレオンは、戯れを示すように手を放し、代わりに掌を差し出した。
「夏でも、夜は冷えますからね」
 帰りましょう。綺麗で穏やかな微笑は、いつでも紅月を翻弄するのだった。

●ところで
 お気付きだろうか。本屋の少女が、何故にああもイケメンを狙い済まして本を売り込んでいたのか。
 イケメンたちがきゃっきゃうふふしてたらいいなな付喪神の情熱に感化されたとかそんなぬるい理由のはずがない。

 『これだから、貴方は信用ならない……ッ』
 『そう言いつつ、結局はこんなことになってるんじゃん?』
 ちりり、炎に焼かれるような感覚に、ひくりと表情を引き攣らせた様は、怯えるようで。
 睨む眼差しも、何処か揺れているように見えるのは、昂揚のせいだろうか。
 『観念しなよ』
 ちろりと唇から覗いた舌の色が、やけに赤く見えた――。

「……ふぅ!」
 満足気に一冊の本を閉じた少女。
 ――そう、詰まる所利害の一致だ。
 付喪神はイケメンパラダイスに次々と浄化されて行くし、その付喪神の『最後の作品』達は全て、少女の手元に収められる仕組みになっている。
「ご馳走様でした」
 少女が満面の笑顔だったことは、いうまでもあるまい。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月29日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

会議室

  • [5]柊崎 直香

    2014/09/01-03:08 

    音読のために発声練習はしとくべきだろうか。
    クキザキ・タダカだよ。どうぞよろしく。

  • [4]ティート

    2014/09/01-01:18 

    ティートだ、精霊はテイルスのフクロウ。

    直接会う事はないだろうけど、よろしく。

  • [3]城 紅月

    2014/09/01-00:37 

    こんばんは、城紅月だよ。精霊はレオンね。
    どうぞよろしくね^^

    皆が一気にダッシュしてきたように見えたのは気のせいかなって顔)

  • [2]月岡 尊

    2014/09/01-00:36 

    ……成る程、多くは語るべからずと、解した。
    初めまして。月岡、尊だ。連れは、アルフレド。
    何かと不調法者だが、何卒よろしく頼む、先輩諸氏。

  • [1]スウィン

    2014/09/01-00:18 


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