【夏祭り・月花紅火】落花流水(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 落ちるならば流水へ。
 流れるならば落花を。
 見事想いを通わせたなら、お好きな甘味をお一つどうぞ。

「いらっしゃいませー! 『花当て』どうですかー?」
 元気のいい妖狐が道行く者へ声をかける。
『花当て』とは、この祭り独自の遊びだ。
 妖狐が狐火で作った陽炎のような宙に浮かぶ川、そこへ屋台に並んだ花を一つ選んで浮かべる。選んだ花が本物の花なら、花は地面へ落ちて終わり。けれど、選んだ花が川と同じ狐火で出来たものなら、幻の花は幻の川を流れて爆ぜ消える。
 小さな幻の花火を出す事が出来たなら、当たりとして甘味が貰える。
 林檎飴、葡萄飴、苺飴、綿菓子、チョコバナナ、クレープ、かき氷、冷やし飴。この中から好きなものを一つ選べるようだ。
 ただそれだけの簡単な遊び。祭りの片隅で行われる小さな遊び。
 子供騙しの様な遊びとはいえ、当たれば普通に甘味を買うより安くつくし、当てた時の掌大の花火は綺麗だ。それゆえに、毎年かなりの数の大人と子供が、ふらりとこの屋台へ立ち寄っている。
「当たっても外れても、何度でもどうぞー! 一回20Jr、一回20Jrでございまーす!」
 声に誘われ屋台を覗けば、色とりどりの花が並べられている。
 どれも本物の花にしか見えない。妖狐が店主でなければとても狐火で作られたものが混ざっているとは思えないほどの出来だ。
「お客さん、どうです? 一回だけでも!」

 落ちるならば流水へ。
 流れるならば落花を。
 見事想いを通わせたなら、お好きな甘味をお一つどうぞ。
 どうかどうか、離れる事のありませんよう。

解説

屋台で花当てを楽しんでください。
一回20Jrです。何度でも出来ます。
川に浮かべる花は以下の中から選んでください。狐火で出来た花が紛れ込んでます。

・赤い桜 ・白い桜 ・緑の桜 ・青い桜 ・紫の桜 ・黄色の桜
・赤い朝顔 ・白い朝顔 ・黒い朝顔 ・青い朝顔 ・紫の朝顔 ・黄色の朝顔
・赤い麝香撫子 ・白い麝香撫子 ・緑の麝香撫子 ・黒い麝香撫子 ・紫の麝香撫子 ・黄色の麝香撫子
・赤い立葵 ・白い立葵 ・緑の立葵 ・黒い立葵 ・紫の立葵 ・黄色の立葵

ありえない花や滅多に見れない花が狐火で作られてるとか……。

何回やるか、どの花を選ぶかプランに書いて下さい。
毎回同じ花を選んでも、毎回違う花を選んでも、お好きなようにどうぞ。
回数と花が書かれていない時は、こちらでくじで決めさせて頂きます。
当たった場合にどの甘味を選ぶかも書いて下さい。
どの甘味を選ぶか書かれていない時は、こちらで決めさせて頂きます。


ゲームマスターより

夏祭りです。
依頼の合間に、仲良く花当てを楽しんで祭りを満喫してください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  おっさんもイルドも紅月祭り初参加!
普通のお祭りとはちょっと違ってて面白いわね~
(楽しそうにきょろきょろ)
あ、花当てだって!ちょっとやってみましょ!
(イルドの袖を引っ張り)
まずはおっさんね!う~ん、見た目じゃ全然分かんないわ…

■当たり
ちっちゃくて可愛い花火!綺麗ね~♪

(イルドにお菓子を貰ったらきらきらした目で)
イルド…ッ!ありがと!

折角だから一緒に食べましょ♪(一口食べたお菓子差し出し)

■外れ
あ、花が落ちちゃった…ちょっと悲しいわね。残念

それを言うならイルドだって緑ばっかり…
(理由に気付いてくすぐったそうに笑いイルドに理由は話さず)
あ~…何でかしらね?ふふ
さ、他にも色々見てまわりましょ♪


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  お狐さんお狐さん、狐火見せて頂戴な。

緑の立葵を試しに浮かべつつ。
これ一回ずつじゃなきゃ駄目なの?
一度にぶわーっと舞わせたら楽しいんじゃないかなーと
いくつかの花火があがるだろうし本物の花もひらひら綺麗だ

一回ずつでも当たるまでは適当にぽいぽいっと
花の種類も色もこだわりなく、目についたものを手に取るよ。
間近で狐火のはじけるところ見てみたい

甘味は林檎飴を選択だい
昔食べたような気がするけどどんな味だったかもう覚えてないや
あのときは小さすぎてほとんど父親が食べてたっけ
……しかしもう僕もだいぶ大きくなりましたので。
何が言いたいかというと、ゼクの分はないよ
ちゃんと後で(ゼクの財布で)買ってあげるから安心しなよ


栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  ほら、アル見て。頭の上に川が流れてるよ。不思議だね。
ふふ。やっぱり狐さんの出す出店だけあって面白い物が沢山あるね

・言いながら笑うが特に不思議がっている様子もなく
紫の麝香撫子
白い朝顔
青い桜
赤い立葵の順で選ぶ
当りが出たらそこで止める
特に吟味せず直感で選ぶ
当ったら綿菓子
当らなくとも特に落ち込む事無く残念だと笑う


本物が外れで偽物が当り…か

…なんでもないよ…
本物の花が落ちて行くのは仕方がないのかな…
偽物でも…ちゃんと…


…僕には姉さんが居たんだ
僕が生まれる前に亡くなったらしいけど…

『雨花(うか)』本物の花に、敵う訳ないのに…

…もう必要無いのにね
未だ囚われたままだ…

折角のお祭りなのにごめんね
…ありがとう




セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアが花好きなので誘ったんだ。
け、決してオレが甘い物に釣られたとかそういう事では。
でもクレープいいよな。冷やし飴も捨て難い。
目移りするよな!
え?どの花にしようかな、って事だぜ!

麝香撫子って何かと思ったらカーネーションなのか。
赤色のをラキアに渡そう。髪に刺してあげて「似合う」と写真撮った後に水面へ。
母親だけじゃなくて大切な人に贈る花だと聞いたから。
緑の桜もラキアの赤い髪に映えるから良いよな。
飾ってみてから水面へ。
それと白い立葵は夜に目立つから水に浮かべたい。
大輪が花火に負けず、綺麗じゃん!

ラキアの園芸蘊蓄は楽しく聞こう。
本当に花が好きなんだな、って思う。
花が水面に浮かぶ様子も写真に撮ろうぜ。



ウィーテス=アカーテース(パラサ=パック)
  夏祭りかぁ。何だかワクワクするね
お祭り会場でパラサを見失わないようについていきます

パラサの花当ての様子を応援しながら眺めつつ
落ちついた辺りで選んでみよう
えっと、僕は緑色の立葵にしようかな

うまく当てる事が出来たら、葡萄飴の甘味を選んで
パラサと分けて食べようかなって
拗ねてしまうと困るから
「パラサが頑張ってくれたからだよ」
と言っておだてつつ

外れてもそんなに気にしない、かな
色んな色の花が見る事が出来るだけで、僕は楽しいよ
うん、葡萄も花も、とても好きだからね

花当てが終わったら、川を流れる花を眺めながらのんびり
え?緑色の花を選んだ理由かい?
パラサに似合いそうだなって
あと、何だか緑色って落ち着くんだよねぇ


■分け合う甘い葡萄飴
「夏祭りかぁ。何だかワクワクするね」
 紅月ノ神社夏祭りは初参加となる『ウィーテス=アカーテース』が呟けば、隣にいる『パラサ=パック』が何故か得意気に胸を張る。
「お祭りと聞けばパラサ=パックの血がたぎるのさ」
 言って、案内は任せろとばかりに一歩先に出た。
「お祭りと言えばやっぱり美味しい食べ物と面白い遊びさっ! ほら、ごらんよとなりの。ちょうどそこで『花当て』をやっているよ。オイラ達も行ってみるんだぎゃー」
「あ、待って!」
 先を進むパラサを見失わないよう、ウィーテスは慌てて後を追った。

「まずはとなりのにオイラが手本を見せてあげよう」
 辿り着いた花当ての屋台で、パラサは選ぶ花を覗き込んで決める。
 一つ目は黄色の桜だ。
「この嘘っこの川、ここに選んだ花を落とすんだぎゃー」
 屋台の横にある宙に浮かんだ透けた小川。地面にはゴザが敷いてある。狐火で作られてるだけあって高さの調整がきくらしく、今は丁度パラサの胸の高さ辺りに浮いていた。
「さーて、当たったら花は流れて爆ぜるんだけど……」
「頑張ってー」
 ウィーテスが声援を飛ばす。しかし。
 ぽとり。
 花は川をすり抜け落ちた。
「こ、これが外れた時なのさ。次! 黄色の麝香撫子!」
 二つ目に手を出すが、しかし。
 ぽとり。
 またも花は川をすり抜けた。
「こ、今度こそ!」
 そうして黄色の立葵を選ぶが、しかし。
 ぽとり。
 どうしても花は川をすり抜け落ちた。
「きょ、今日は調子が悪かったのさ。ほら、となりのもやってみるといい」
 調子が悪かったから仕方がない、うん。と、パラサは無理矢理誤魔化す。それを見てウィーテスは苦笑する。
「えっと、僕は緑色の立葵にしようかな」
 選んだ花をウィ―テスが川へ落とす。すると。
「あ!」
 パラサとウィーテスが同時に叫ぶ。
 花が、川に乗って流れ出した。流れて、そして破裂音と主に緑の光を撒き散らしながら爆ぜる。手のひら大の幻の花火。
「当たり~」
 屋台の妖狐の掛け声に、花火に見とれていた二人は我に返る。そしてパッと目を逸らす。主にパラサが。
「……パラサ=パックは大人だからね。べ、別に悔しくなんてないのさっ」
 その発言自体が悔しがってる結果だ。ウィーテスはまた苦笑する。
「はい」
 ウィーテスは団子のように飴がけの三つの葡萄が刺さった葡萄飴をパラサに差し出す。
「パラサと分けて食べようかなって思ってたんだ」
 拗ねてしまうと困るから、なんて本当の本音は黙ったまま。
「パラサが頑張ってくれたからだよ」
 だって僕やり方も知らなかったんだよ。教えてくれてありがとう。
 そう言えば、パラサがちょっと擽ったそうに、得意げに「そ、そうか!」と葡萄飴を受け取り一粒ぱくり。
 美味しそうに笑うから、ウィーテスもつられて笑う。
「そう言えばとなりのはどうして緑色を選んだんだい?」
 葡萄飴を食べながら他の人の花当てを眺めていると、パラサが不思議そうに尋ねてきた。
「え? 緑色の花を選んだ理由かい? ……パラサに似合いそうだなって。あと、何だか緑色って落ち着くんだよねぇ」
 似合うかなぁ? と照れ臭そうにパラサが笑う。
 そんなパラサへ、ウィーテスはお返しとばかりに「パラサは何で黄色ばっかりだったの?」と尋ねた。
「オイラは黄色って財宝みたいで好きなんだぎゃー」
 そうか、だからか。
 あまりにも『らしすぎる』理由に、ウィ―テスは声に出して笑った。


■非日常の高揚
「普通のお祭りとはちょっと違ってて面白いわね~」
 初参加の『スウィン』と『イルド』は楽しそうにきょろきょろと祭り全体を見回している。いや、正確にはスウィンがきょろきょろとはしゃいでいる。
 とはいえ、二人とも浴衣での参戦だ。普段とは違う場所、普段とは違う装い。それだけで二人の気分は高揚していた。
「あ、花当てだって! ちょっとやってみましょ!」
「ちょ、分かった! 分かったから引っ張るな!」
 子供のように目についたものへと駆け出している。
 二人が向かったのは、この祭り独自の遊び、花当ての屋台。

「まずはおっさんね! う~ん、見た目じゃ全然分かんないわ……」
 やり方の説明を受けた二人は、川へ浮かべるべき花を選ぶ。
 スウィンが言う通り、見た目だけならば全部本物だ。そうとしか思えない。
 試しに触ってみても? と屋台の妖狐に尋ねると、触感もそっくりだから無駄だと思うよ、と返される。
 判断材料として、あとは、ありえない花や滅多に見れない花が妖しいとのことだが、別に植物に詳しいわけでもない。
 となれば残るは、勘。
「よし、決めた!」
「おー、頑張れよ―」
「わかった! って、この状況で何をどう頑張るのよ!」
 飛んできたイルドの声援に、思わず笑いながらノリツッコミをしてしまえば、イルドもどうやらツボに入ったらしく、弾けたように笑う。
 スウィンはまず、紫の朝顔を選んだ。
 期待と緊張で、自分達の胸の高さに浮かぶホログラムのような川へと花を落とす。
「あ、花が落ちちゃった……」
 結果は、外れ。
 花はただ下へと落ちた。
「ちょっと悲しいわね。残念」
 言いながらイルドとバトンタッチ代わりのハイタッチをする。
「よっし、そしたら~……」
 言いながら屋台の花を覗くが、やはりどれも本物の花にしか見えない。
 というわけで、結局はイルドも勘で選ぶ。
「緑の桜、だな! 桜は普通ピンクだろ!」
 勘で選んだが、それでも少し自信ありげに叫んで川へと持っていき、花を川へと落とす。が。
「マジかよ?!」
 緑の桜は浮かばない。するりと抵抗なく下へと落ちた。
「あー、オッサン知ってるわ、緑色の桜の花ってあるある」
 残念、さぁ交代! とスウィンが笑顔でイルドを押しのけ、もう一度花を選ぶ。
 スウィンが二回目に選んだのは。
「紫の立葵! これならどう?!」
 しかし。
「これも駄目?!」
 無情にも花は落ちてしまう。
「よし、今度こそだ!」
 交代でイルドが張りきって店の前に来る。
「緑の麝香撫子、これは間違いないだろ!」
 そんな自信満々で花を川へ浮かべようとすれば。
「うわぁぁぁぁ!! マジかよ!!」
 やはり花はポトリと落ちる。
 自信喪失の叫びに、スウィンが肩をぽんと叩く。
「……もう、諦めましょう?」
 自分達にはきっと根本的な才能が無い。そう思いながら達観の笑みを浮かべるスウィンに、イルドは「チクショウ!」と叫んで諦めた。


■あなたの得意な、大好きな
 花当てに誘ったのは、意外な事に『ラキア・ジェイドバイン』ではなく『セイリュー・グラシア』だった。
「ラキアが花好きだから誘ったんだ」
「セイリュー……!」
 嬉しくなったラキアがセイリューの方を見ると、セイリューの視線は一つのところに定まっていた。
 セイリューの視線の先にあるのは、当てた人だけ貰う商品である甘味の山。
「セイリュー……」
 さっきとは声の調子が落ちた事に気がついたセイリューが「け、決してオレが甘い物に釣られたとかそういう事では! でもクレープいいよな。冷やし飴も捨て難い。目移りするよな!」
「はいはい、当てたらその辺りと交換しようね」
「え? い、いや違う、どの花にしようかな、って事だぜ!」
「はいはい」
 あやす様な対応でラキアは余裕の笑みを浮かべる。ガーデニングに植物学、これらの知識があるラキアにとっては随分と簡単な遊びだからだ。

「珍しい花色があって目移りするね」
「麝香撫子って何かと思ったらカーネーションなのか」
 不意にセイリューがラキアの髪へ赤い麝香撫子をさした。
「うん、似合う」
 セイリューはニッと笑い、持ってきたカメラを取り出してぱしゃりと写真を撮る。
 母親だけじゃなくて大切な人に贈る花だと聞いたから、ラキアに渡したかったのだ。
 その後もセイリューは「ラキアの赤い髪に映えるから良いよな」と緑の桜でも同じ事をした。
 残念ながら赤い麝香撫子も緑の桜もゴザの上へと転がってしまった。
 ただ単純に夜に目立つから水に浮かべたい、大輪が花火に負けず綺麗だ、という理由で選んだ白い立葵も川へ落としたが、結果はやはりゴザの上。
 全然当たらなかったセイリューだったが、とても満足そうだった。
「さて、と」
 ラキアがまず選んだのは紫色の麝香撫子。
「カーネーションは青色色素が自然には無い花だから。まぁ青カーネーションは遺伝子組み換えで造っちゃったけどね。園芸的にそれはどうなの、と思っちゃうんだけど、でもこれは不自然な色」
 やたらと鮮やかな紫色の麝香撫子を川へと落とす。
 麝香撫子が川を流れ、ない。
「……ん?」
 ポトリと落ちた紫の花を見て、ラキアは屋台の妖狐をばっと振り返る。
 そこにはにやにや笑う妖狐。
「自分で言ったじゃん、遺伝子組み換えで造っちゃったって。科学の力バンザーイ!」
「妖怪が科学を語るなー!」
 思わず突っ込んだ。
 確かに自分で言ったけれど、こんな妖狐が主催する祭りに、科学と芸術と執念の結晶が混ざり込んでくるなんて思うだろうか。
「ラキア、ドンマイ!」
「じゃあ青い桜! これは絶対!」
 その言葉通り、今度は川に落とせば花は流れた。
「やった! ラキアすげぇ!」
「ほらね!」
 花は流れ、そして水色の花火となって弾けて消えた。
 美しい青の光に二人が目を輝かせ、ラキアは続けてもう一つ、気になっていた花に手を伸ばす。
「朝顔は突然変異が出やすくて『変化朝顔』って、色々な遺伝的変異の発現をを楽しむ趣味があるんだよ。でも……黒色朝顔は文献に残されてるけど今再現が出来ない幻の色なんだよ。それがこんな所で見れるなんて、感動」
 黒い朝顔を持って電飾の光に透かす。濃い紫や濃い赤ではない、まったくの黒。
「ああ、水面に浮かべるのがもったいなーい! でもこの珍らかな花達との出会いも一夜の夢と割り切るなら、水に浮かべて楽しむのも一興かな? でももったいなーい!」
「あ、そうだ、花が水面に浮かぶ様子も写真に撮ろうぜ」
「写真、撮れるのかな? 撮れたらいいなぁ!」
 そうして二人は楽しむのだ。
 幻の黒色朝顔が幻影の川を流れ、幻影の花火を咲かせるのを。


■雨の囚われ人
「ほら、アル見て。空中に川が流れてるよ。不思議だね」
 藍色の浴衣を着た『栗花落 雨佳』は、海老茶の甚平を着た『アルヴァード=ヴィスナー』に声をかける。
「ふふ。やっぱり狐さんの出す出店だけあって面白い物が沢山あるね」
 言いながら笑うが、けれどその顔はそこまで不思議がっている様子もない。
(……またこいつはそうやって面白気も無い癖に)
 溜息を一つ吐く。雨佳の本心が読めなくとも、現実問題として花当ての屋台へと足が伸びているのなら、それについて行くだけだった。

 どれにしようかな、と特に吟味する素振りも見せずに雨佳は花を選ぶ。
 最初に選んだのは紫の麝香撫子。次に選んだのは白い朝顔。
 どちらも幻影の川を流れる事は無く、ポトリと地面に落ちて終わった。
 そしてその次に選んだのは、青い桜。
「あ、流れた」
「お、本当だ」
 盛大に喜ぶわけでもなく、雨佳とアルヴァードは小さく拍手をしながら流れ、そして青く輝き爆ぜる花火を見ていた。
「綺麗だったねぇ、そしたら綿菓子貰おうかな」
 妖狐に言えば大きな綿菓子を渡された。

 二人は花当ての屋台の近く、けれど川からは少し離れたところで花当てに興じる人たちを見ていた。
「本物が外れで偽物が当り、か」
 ぽつりと雨佳が呟く。視線の先はゴザの上に散らばる本物の花だ。
「……何言ってるんだお前?」
 語っている内容は恐らく花当てではない。それだけは薄らと分かったのに、何を語っているかは分からない。
「……何でもないよ」
 雨佳は説明しない。分かって欲しくて話しているのではなく、自分の中で溢れるものがあるから零しているのだ。
「本物の花が落ちて行くのは仕方がないのかな……偽物でも……ちゃんと……」
「おい、言ってることが訳わかんねぇぞ?」
 流石に苛立ちを隠さずに雨佳に詰めよれば、ごめん、と言って、ほんの少しだけ過去を説明する。
「……僕には姉さんが居たんだ。僕が生まれる前に亡くなったらしいけど……」
 会った事もない彼女。その彼女の名前は。
「雨の花と書いて『雨花(うか)』。本物の花に、敵う訳ないのに……もう必要無いのにね」
 ―――未だ囚われたままだ……。
 会った事もない人に。遠くなった故郷に。
 沈んでいく雨佳の言動に、事情が分からないままアルヴァードは焦りを感じる。
 初めて聞いた過去の断片。けれど、全て過去の事だ。
 柵はもう無いのだ。だからこそ今ここにいるのに。
 アルヴァードはいたたまれなさを感じながら、どうにか出来ないのかと自問する。


■花と光の乱舞
「海でも思ったけど浴衣って慣れないと歩きにくいんだよ。だからせめて歩調を合わせたまえ……」
 歩きにくさと疲れから『柊崎 直香』の口調が弱くなる。これは相当かと心配した『ゼク=ファル』が立ち止まるが。
「今日はサービスで浴衣の下は何も着てないんだぞ?」
「何に対するサービスだ」
 うん、立ち止まらなくても問題ない。ゼクは止めていた歩みをまた始め出した。
「あと言っておくが、歩調は元から合わな……」
「あ、お狐さんお狐さん、狐火見せて頂戴な!」
 言いきる前に直香が花当ての屋台へと駆け出した。
 お前歩きにくさと疲れは何処行った。そう問い質したかったが、そんな暇さえ与えてくれなかった。

「これかな?」
 緑の立葵を試しに浮かべてみる。すると。
「おおおおお!!」
「当たりか」
 花は川を流れ、破裂音と共に緑の輝きを見せて消えた。
「きれー!」
「良く出来てるな」
「ゼクもやってみたまえー!」
 言われて屋台の前、花の前で考え込む。
「凄く悩んでるけどこういうのは直感だよ」
 まさに直感で当てた直香が助言するが、ゼクは聞いていないのか、ずっと花を見て考えている。
「……いやほんと悩みすぎ」
 実在する花色とか花言葉とか色々考えちゃうタイプか。楽しまなきゃ損なのに。
 そんな事を考えていると、ようやくゼクが動いた。
 選んだのは、白い朝顔。
「それ一択? 確実に外れるじゃん」
 白い朝顔など見た事がある。珍しくもない。そう言ってもゼクは花を変えない。
 そして案の定、白い朝顔は川をすり抜けてゴザへと落ちる。
「あーあ、落ちた花拾うの手伝ってあげたら?」
「……もう拾ってる」
 自分が落とした花を拾うゼクを横目に、直香はまた花を選んで川へ落とすが、ゴザへと落ちた。
「これ一回ずつじゃなきゃ駄目なの? 一度にぶわーっと舞わせたら楽しいんじゃないかなー」
 そんな事を妖狐に訊けば「一気に大量購入すれば構わない」との返事。
 そう言われれば、やらない直香ではないわけで。
 そして直香は大量の花を両手に抱えて川の前へ。
「本当に買うとは……」
「ふふふー、いっくよー! それ!!」
 直香は抱えていた花を一気にばら撒いた。
 その豪快な花の雨、そして川を流れる幾つかの花。
 ぱぱぱぱぱん! と複数の破裂音がして、目の前に様々な光が弾ける。踊る。
 しっとりとした花当てらしからぬ連続した破裂音に、周囲の客のほとんどが直香の方へと注目する。皆ちらちらと散る光の花を見ている。
「よっし! もう一回やるよー!!」
 当たりの花も本物の花も混ぜて、もう一度大量購入。
「えへへー、そーれ!!」
 花が舞う。
 本物の花も、偽物の花も、祭りの夜にひらひらふわりと川へと落ちる。
 そして、色とりどりの小さな花火が。


■落花流水
「パラサ=パックの予想通り、黄色の朝顔の花火、財宝みたいで綺麗だったぎゃー」
 少し離れたところで直香が起こした花吹雪と花火を見ていたパラサは、満足気に言った。
「うん、綺麗だった」
 ウィーテスがそれに続けば、さらに付け足す。
「緑の立葵の花火も、中々のものだったけどね」
 パラサ=パックは全部ちゃんと見ているのさ。
 そう言って、もう一度花当てをしようか他の店へ行こうかと、楽しい相談を始めた。


「ちっちゃくて可愛い花火! 綺麗ね~♪」
「つーか、あれは反則じゃないのか」
 沢山見れた花火に感動しているスウィンと、まさかの当て方に苦笑するイルド。
(どうせだったらおっさんに菓子をやりたかったけど、まぁいいか)
 花火を見れた事に喜んでいるのだ。それで良しとしよう。イルドはそう納得した。
「そういえば、他にも色んな色あったのに、何で紫ばっか選んだんだ?」
「それを言うならイルドだって緑ばっかり……」
 言いながらスウィンは理由に気付いて笑う。
「あ~……何でかしらね? ふふ」
「?」
 今、スウィンが来ている浴衣は渋めの緑だ。普段着ている服も緑が多い。
 そしてイルドは鮮やかな紫の髪をしている。
(お互い、無意識に相手のイメージカラーを選んだ、なんて)
 気付いたスウィンだけがくすぐったそうに笑い続ける。
 笑いながら、疑問符で頭の中が埋まりそうなイルドの背を押す。
「さ、他にも色々見てまわりましょ♪」
 祭りはまだまだ、始まったばかりなのだから。


 ラキアはかき氷、セイリューはクレープ。
 お互い甘味を頬張りながら直香の起こした花火を見ていた。
「すげぇ事考えるなぁ」
「びっくりしたね」
 さっき自分達で二回花火を見たせいか、周りの客よりも二人は落ち付いていた。のんびりと見て、のんびりと食べて、のんびりと会話を交わしていた。
「やってよかったな、花当て」
「そうだね、幻とはいえ、いい花が見れたよ」
 まだ黒色朝顔に気持ちが残っているのか、うっとりと屋台の方を見つめる。
(本当に花が好きなんだな)
 より深くラキアを知る事が出来た気がして、セイリューは笑う。


 ぼんやりと見ていた。
 だからこそ、突然の連続破裂音には驚いた。
 雨佳もアルヴァードも少し呆然とし、けれどすぐアルヴァードが我に返り、そして雨佳の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「え、わ、ちょっと……?!」
 さっきまでのいたたまれなさを、そして囚われた心を振り切るようにアルヴァードは言う。
「いつもぼーっと何考えてるか分かんねぇ顔して、そんな難しい事考えてんじゃねぇよ!」
 雨佳はアルヴァードの顔をじっと見る。
「……お前はお前だろ。替わりをする必要もない。少なくとも俺にとって……お前の替わりは居ねぇよ」
 今、ここにいるお前だけが本物だ。俺にとっての、本物だ。
 そう言い切られて、雨佳は力なく笑みの形を作る。
「折角のお祭りなのに、ごめんね」
 解放されたわけではない。そんな簡単に変わるようなものではない。
 それでも、嬉しかった。純粋に嬉しかった。だから。
「……ありがとう」
 まだ聞こえる小さな花火の音にかき消されないよう、はっきりと告げた。
 幻の川からは、水の音は聞こえない。


「楽しかったー! いいね、花当て!」
「まさか1000Jrもつぎ込むとは……」
 上機嫌の直香に対して、呆れ顔のゼク。
「林檎飴ってこんな味だったんだね」
 選んだ甘味は林檎飴。
 昔食べたような気がするけど、どんな味だったかもう覚えてない。あの時は小さすぎてほとんど父親が食べていた。家族と行った祭りの思い出の味。
 それが今、ゼクと来た祭りで味わっている。
「……美味しい」
「よかったな」
「昔は食べきれなかったけど、僕もだいぶ大きくなりましたので。何が言いたいかというと、ゼクの分はないよ」
「あれだけ当てて全部自分で食べる気か!」
「ちゃんと後で買ってあげるから安心しなよ。ただしゼクの財布で」
「そこまでして食いたいわけじゃない……!」
 疲れたように吐き出すゼクに、直香は「ゼクは色々真面目に考え過ぎなんだよー」と言う。
 それでふと思い出したかのように、ゼクが直香を見て告げる。
「言っておくが、別に色々考えて選んだわけじゃないからな」
「へ?」
「花」
「ああ、白い朝顔? いや、考えてたでしょ、あれ」
「考えてない。どれにしようかと眺めてて、直感で決めた」
 言いながらゼクは直香の頭に何かを載せる。
 それはさっき拾った、ゼクが落とした白い朝顔。
「何? プレゼント?」
 にんまりと笑う直香に、ゼクはそっぽを向きながら「いらないからな」と答える。
 そう、考えて決めたわけではない。
 誰かの誕生日など、その誕生日の誕生花など、その花言葉など、そんな事は知らない。
 何となく、選んだだけなのだ。
 自分にそう言い聞かせながらも、白い朝顔を髪に飾って遊ぶ直香を見て、静かに笑った。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月05日
出発日 08月12日 00:00
予定納品日 08月22日

参加者

会議室

  • [5]柊崎 直香

    2014/08/10-17:37 

    今宵も良いお花見日和で。
    クキザキ・タダカと申しますよ。よろしくどうぞ!

    当たらなければ当たるまでやればいいじゃない。
    ……を実行に移すかはともかく、
    深く考えずにぽいぽい投げてると思われー。

  • セイリュー・グラシアだ。
    ウィーテスさんは初めまして。ヨロシク!

    花好きなラキアが喜ぶと思って。
    決して甘味に釣られた訳では・・クレープが美味しそう・・はっ。
    花はどれも綺麗で目移りするよな。

  • [3]スウィン

    2014/08/08-23:35 

    こんちは。おっさんはスウィン、パートナーはイルドよ。
    ウィーテスはお初ね!よろしくぅ!

    う~ん、変わるかもしれないけど、今のところ「緑の桜・紫の朝顔・緑の麝香撫子・紫の立葵」予定かねぇ。
    同じの選んでもいいと思うし、好きなの選んで楽しくすごしましょ!

  • [2]栗花落 雨佳

    2014/08/08-21:05 

    こんばんは。とりあえず、挨拶だけでも。

    栗花落雨佳と相方のアルヴァード・ヴィスナーです。

    花には詳しくないから、どれが珍しいとか全然わからないけど、それもまた一興だと思って、気負わず選んでみようと思います。
    顔を合わせることがありましたら、よろしくお願いしますね。

  • えっと、こ、こんにちは。
    ウィーテス=アカーテースと言います。パートナーはファータのパラサ。
    皆さん、どうぞよろしくお願いします。

    花当て、面白そうですね。うまく当てられるといいなぁ……。
    楽しいお祭りが過ごせますように。


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