【夏祭り・月花紅火】神に捧げる音色(あご マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

目の前に現れたその男は、筋骨隆々とした体躯に赤銅色の肌をしていた。
短く刈られた髪はまるで烏の羽根のように真っ黒で、
鋭いながらも気の良い光を宿した瞳の上にも、
黒々とした太い眉が存在を強く主張している。
まさに、漢の中の漢と言った風貌の彼だが、問題はその格好にあった。

そのきりりとした眉の上、額には輝くように真っ白なねじり鉢巻が巻かれ、
鍛え上げられた上半身は、素肌に紺の法被(はっぴ)一枚で
筋肉美をこれでもかと言わんばかりに見せつけるスタイル。
惜しげも無く晒された、逞しく引き締まった脚元にはこれまた真っ白な足袋。
そしてそこから視線をあげた下腹部には真っ白な褌(ふんどし)のみが輝いている……。

褌の男はこちらに気付くと、
その白い歯を爽やかに輝かせながら気さくに話しかけて来た。

「おう、君らも祭りを見に来たのかい?
…そうかそうか、良い祭りだろう。
じっくり楽しんで欲しいところだが、今日は特に混雑していてな。
なかなか落ち着いて見るのは難しいかもしれない。
もし良ければ、【紅月ノ神社】境内の森の外れで行う、女人禁制の秘祭に参加してみないか。」

そういって男は、森の中の背の高い木の陰にちらりと見える櫓(やぐら)を指差した。

「女人禁制って言っても、別に深い意味はなくてね。
女性を差別するつもりは全くないんだ。
ただ、ふたつだけ、女性には厳しい参加条件があってね。
ひとつは、この祭り、神に捧げるために赤と青、ふたつの和太鼓を同時に演奏するんだけど、
この撥(ばち)が普通のより重たくて、非力な女性には可哀想だからね。一応女人禁制になってる。
見たところ、君ら、ウィンクルムだろ?
神人と精霊が叩く太鼓の音色なんて、神に捧げるには最高だと思うんだ。
特に、この祭りの太鼓は、色から想像してもらえるようにテネブラを模していてね。
ウィンクルムの方にぜひ演奏して行ってくれないかと思っていたんだ。
なんでも、ウィンクルムの方が上手く演奏できると、
夜空に花火が上がるらしい。俺はまだ見たこと無いんだけどね。
…まあ、残念ながらタダにはならないんだけどね。
参加費が400jrほどかかるんだ。
神前だからね、まあ、高めのお賽銭とでも思ってくれよ。衣装代も込みなんだ」

これを持って行ってくれ、と男が渡してくれたのは、
一枚の紙切れと折りたたまれた数枚の布、鉢巻、足袋、
それから男が着ているのと同じような法被だ。先程の衣装代とはこれのことだろう。

「紙の方を受付に渡せば話はわかるから大丈夫。参加券みたいな物さ。
布の方、これが女人禁制のふたつ目の条件。
参加時の服装は、上着は法被一枚、下は褌一枚。頭には鉢巻、足には足袋!
これが絶対条件!
……な、女性に褌一枚は酷だろ?」

褌の着け方と会場の場所をざっくりと説明し、
じゃ、会場で会えるのを楽しみにしてるからな!と
大きく手を振って男は先に行ってしまった。
鬱蒼とした森の小道を颯爽と歩き去っていく彼の引き締まった尻に褌の純白が映える。

どうやらその小道が祭り会場へと続く道のようだ。
さて、どうする?


解説

●場所
【紅月ノ神社】の境内の奥にある森の中、
土を踏み固めただけの地面の広場の中心に、がっしりとした櫓が立っています。
その櫓の上に、赤と青、二色の和太鼓が、
奏者が向かい意思の疎通が図れるように互い違いに向かい合って置かれています。

●目的
この二色の和太鼓を叩き、神に音色を捧げるのが今回の目的です。
太鼓の撥は普通の物よりもやや重く、ずっしりとしています。
力が強い方が良い音が鳴りやすいでしょう。
うまくお互いの音が重なり合うと、夜空に花火が上がるといわれています。
受付の際にはどなたが何色の太鼓を叩くのかをお教えください。

●服装
この祭りでは、白い鉢巻、褌、足袋に、紺の法被が正装のようです。
参加券と一緒に貸してもらえるので、着用して参加しましょう。
正装ではない場合は、神に失礼であるとして祭りに参加させてもらえないようです。

●費用
・衣装代含み参加費 400jr をいただきます。

そのほか、周囲には屋台も出ているようです。
・ふんどし焼きそば 70jr
 …ふんどし型の薄焼き卵がチャーミング!
・フランクフルト 50jr
 …屋台の定番!太くてジューシー!
・チョコバナナ 50jr
 …チョコレートがたっぷり!デザートに。
・鈴カステラ 50jr
 …優しい甘さでほっと一息。一口サイズ5個入り。
・お茶、アイスコーヒー、オレンジジュース 各50jr

力いっぱい太鼓を叩いて、二人の思い出を作っちゃいましょう!


ゲームマスターより

プロローグをご覧いただきありがとうございます。
男性神人側では初めまして、あごともうします。

女性側ではできない事を、と考えた結果、
何とも暑苦しいエピソードになってしまいました。
はたしてウィンクルムたちは上手く太鼓を鳴らし、
夜空に大輪の花を咲かせることが出来るのか!?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  男の祭り!上等じゃねぇか!!
太鼓演奏はちょっとだけやった事あるんで
多少はできるはずだ
あと体力はあるほうだと思うから任せろ!

まずジェールを払ってからさっさと着替えるぜ
「うし!そんじゃあ着替えちまうか!」
こういう祭り衣装は着慣れてるからすぐ着れるだろうし
着終わったらアインと一緒に最初は屋台をまわるぜ
焼きそばとフランクフルトで腹ごしらえをしねぇとな
がっつり食って体力つけておかねぇとバテちまうし

太鼓の演奏の時は俺は赤の方を叩くぜ
力一杯思いっきり叩く!
多分アインが音色をあわせてくれるだろうしな
ちらっとアインを見る
そういえばアインって…こういう衣装はあんまきねぇよな
少し見惚れ…何を思ってるんだよ!俺は!


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  賑やかな事に目が無いランスに連れられて祭にやってきた
和太鼓の音の迫力とか、打ち手の力量に感嘆して見学していたら

…え?褌!?
聞いてないぞ
確かにかっこいいとは言ったが俺もやるかと言うと別問題で
…って、ちょ、待(ギャー

という訳で俺が青太鼓でランスが赤太鼓だ
着替えさせられる過程で”色々”あったが、俺は多くを語らないorz

どーせ貧相だよ
俺はアスリートじゃないんだから、そんなにならなくてもいいんだよっ(べしべし

気を取り直して挑戦だ
やるからには、呼吸を合わせて花火まで出すぞ
合いの手でリズムを取り易くするから遅れるなよ(←ヤケが高じて超ヤルキ

叩いてる時のランスの姿とか汗とか一寸男として嫉妬するくらいだけどな…



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ……はやまったかな
でもいい機会だし今日は叶えてあげたいし(渡せるといいんだけど)
子袋を抱え、呼び声に隠し

タイガ
大丈夫じゃない。重いし、スースーして視線痛いし…僕だけ貧相で明らかに浮いてて居心地悪い
…参加したそうな顔してただろ

『やらなきゃ始まらない。最初から出来る奴なんて居ない』
言ったよね。限界、みてみたいんだ
海で泳げたり、スポーツして『楽しい』を知った。だからタイガと一緒に奏でてみたい

■太鼓:赤・タイガ 青・セラ
息をあげ
合わせる所で視線を交差させ
笑みを交わし


◆木陰
いい風…もう動けない

誕生日おめでとう
安全祈願にお守り。好きな物にしようと思ったけど悩んで

渡しがいあるなぁ(微笑)他にもいいよ。お願い



アルクトゥルス(ベテルギウス)
  説明して頂いた方の筋肉といい、この祭りといい、ここは桃源郷でしょうか

私もベルたんもふんどしは始めてなので受付の方にやり方を伺って…
ンハァ!べ、ベルたんの!ぎゅぅっとしまったお尻が見えるよぉっ!

あ、太鼓の色は私は赤、ベルたんは青で

さぁベルたん!一緒に神様に筋肉の音色を届けようねえ!
ボクがベルたんにあわせるから、自信持って思いっきり太鼓を叩いてね

演奏後はハイタッチ!
流石に疲れたのでフランクフルトとお茶で休憩です

お祭りは何度か行きましたが…
ベルたんとは初めてだから、楽しいなぁ…ベルたんはどう?
…そっか、良かったぁ!
実は、ウンザリされてたら…って怖かったたんだ
これからも沢山思い出作ろうね!


「男の祭り!上等じゃねぇか!行こうぜアイン!」
 そう叫ぶと高原 晃司は渡された衣装を抱えて
案内人が向かった森の小道へと駆けだした。

「やれやれ……」
 体を動かす事が好きな晃司がこの祭りの誘いを断るはずはないとわかってはいたが……
アイン=ストレイフは手に持った衣装にしばらく目を落とし、観念して晃司の後を追った。


鳥居を潜ると、広場には屋台が並び、活気のある呼び声や笑い声が聞こえ、気分が高揚してくる。
アインが受付前に到着すると、晃司が既に参加書類の提出と支払いを終えており
広場のはずれにある掘立小屋を指差した。どうやら、更衣室らしい。

「うし!そんじゃあ着替えちまうか!」
 意気揚々と更衣室へ向かう晃司にアインも覚悟を決め、
‶メンタルヘルス‶の力と共に更衣室へ足を踏み入れた。

晃司は祭りの衣装を着慣れており、アインは周囲の目を意識しないよう急いだので
着替えにそれほど時間はかからず二人はすぐにお手本のようなお祭り男へと変身し、
晃司の気持ちが赴くままに、屋台の方へと向かうことにした。


さすがに女人禁制の祭りだけあって、会場は見事に男性しかいない。
しかも、全員が正装である褌姿のため、圧倒的な迫力がある。

「まずは腹ごしらえをしねぇとな。がっつり食って体力つけておかねぇとバテちまうし」

 客が男性のみのためか食べ物、特に肉類が充実している。心なしか量も多めのようだ。
肉や野菜の焼けるいい匂いが漂っているため、晃司は目移りしていた。

「アインは何が食いたい?」

 そう尋ねる晃司は思い切り食べる気でいるようだが、
アインはそのつもりはない。
いざとなった時に動けなくなる事を危惧したのだ。

「私はそこそこな量で十分です。晃司が食べてください」

「いいのか?じゃあ、焼きそばとフランクフルトだな!」

 嬉しそうに屋台に駆けていく晃司の姿は、どこか犬を彷彿とさせ、
アインには褌が締められた尻に揺れる尻尾が見えるような気さえした。



「っあー!食った食った!」

 買った物を食べ終え、晃司は満足げに腹をさする。
アインは晃司の焼きそばを横から少しつついただけだが、それでも満足できるボリュームの食事に、
お節介ながら屋台の経営状況が少し心配になる。
……規模が小さいから、出店料が安いのだろうか。



時計を見ると、受付で指示された時間はもう間もなくだ。

「晃司、そろそろ時間です」

 そう告げるとアインは晃司の返事を待たずに歩きだす。

「もうそんな時間か。……よし!」

 晃司は額の鉢巻きを締め直し気合いを入れ、アインの背を追って歩き出した。



「晃司は太鼓は叩けるんですか?」

 やけに自信たっぷりな晃司にアインが尋ねると、晃司は胸を張って答える。

「太鼓演奏はちょっとだけやった事あるんで、プロまでとはいかねぇが多少はできるはずだ。
あと体力はあるほうだと思うから任せろ!」

「それは頼もしいですね」

 拳を握って力説する晃司に、アインがふ、と笑う。
長年隣にいた晃司にしかわからない、薄い、短い笑みに
晃司はなぜか誇らしさの入り混じった嬉しさを感じた。
それが他の誰も知らないアインの表情を知っている優越感だと、晃司は気づいていない。


櫓前に到着するや否や係員の指示で梯子を昇り、晃司は赤、アインは青の太鼓の前に立つ。
通常の太鼓の撥と比べ、係員に手渡された撥はずっしりと重かったが、
晃司もアインもすぐに慣れ、太鼓を叩くのには一切支障はない。

係員の合図と共に、情熱の赤だぜ!と、撥で力いっぱい叩く晃司と、
晃司の自由な太鼓の音に合うよう調整しながら、冷静に叩くアインの音が重なり
力強いが落ち着いた音が紡ぎだされた。

二人の音が広場に広がると、色とりどりの花火が上がり始める。
初めは小さかった花火が、太鼓の音が大きくなるのに呼応したかのように大きくなっていき、
最後の大きな一音と同時に、夜空には今まで見たこともないような大きな花火を上げる事ができた。

力いっぱい二人で一つのことをやり遂げた充実感に満ちた表情で大輪の花を眺めていた晃司は、
ふと気になってちらりと隣に立つアインを見た。
法被から覗く厚い胸板と、がっしりと地に立つ脚。
太鼓を叩いていたためだろう、滝のように流れる汗が花火の光を反射する様が妙に艶めかしい。

(そういえばアインって……こういう衣装はあんま着ねぇよな。
少し見惚れ……何を思ってるんだよ!俺は!)

 普段見慣れたスーツにYシャツのアインとはまた違う新鮮な姿に、晃司の鼓動は早まっていった。




「晃司、お茶です。沢山汗をかいたので水分補給をしてください」

「ああ悪ぃ、さんきゅ」

 櫓の足元に座って休憩する晃司にアインが屋台でペットボトルのお茶を買って渡し
そのまま晃司に向かって口を開く。

「晃司、何も考えずに太鼓を叩いていたでしょう。私が合せなかったらどうするんです」

 そんなアインの言葉に晃司はニヤリと笑って答える。

「合わせてくれるって信じてたぜ」

 やれやれ、と溜息をついてアインは晃司の隣に腰を下ろした。











「すごいな」

 広場の向こうに、櫓の上で太鼓を叩く男たちが見えた。
遠くとも腹の底に響く音、二本の撥だけで多彩な表現を行う技量。

「かっこいい」

 アキ・セイジの口から零れた言葉を、隣のヴェルトール・ランスが拾う。

「な、かっこいいだろ!だから……」

 二人はまだ、会場内に入ってすらいないのだ。
祭りに乗り気なランスとは裏腹にセイジは参加を渋っていた。
決して祭りが嫌いなわけではない。彼の躊躇は、例のあれが原因だった。


それはほんの数分前の話。



「え?褌!?聞いてないぞ」

 参加書類を書いたところでセイジは周囲の格好に疑問を感じた。
それはそうだろう。突然現れた案内人の服装に驚いたセイジは、説明の間、固まっていたのだ。

「聞いてなかったのはお兄さんに見惚れてたセイジだけだろ」

「み、見惚れてなどいない!あまりに奇抜な格好だったから驚いたんだ!」

「はいはい、で、どーすんだ。祭り参加するのか?」

 参加はしたい。だが、褌は恥ずかしい。
一旦書類提出の列を抜け広場の入り口である鳥居の傍まで戻り、
セイジが熟考しているところへ、丁度よく太鼓の演奏が始まった。



「だから、セイジもやろう、あれ」

 ランスの言葉にセイジがすかさず反論する。

「確かにかっこいいとは言ったが俺もやるかと言うと別問題で」

 このまま待っていては、せっかくの祭りが終わってしまう。
セイジと一緒に祭りを楽しみたいランスは強硬手段に出た。一寸強引な着替えも駆け引きのうちだ。

「大丈夫だ、誰も笑ったりしないって。俺がいるだろ」

 そう言ってセイジの手を握ると、ランスは受付まで駆けだした。

「な、なんだランス……って、ちょ、待っ」

 引きずられるように連れて行かれ、更衣室へ放り込まれたセイジの悲鳴が広場に響いた。



満足げに笑うランスと対照的に、セイジは疲れ切った表情で櫓の前に立っていた。
更衣室で、セイジはさっさと着替え終えたランスに強引に着替えさせられたのだ。

「時間に間に合ってよかったな。セイジが着替えに抵抗しなければ余裕だったんだけど」

 そう笑うランスをじろりと睨み、セイジはさっさと櫓の梯子を昇って行ってしまう。
どうやら更衣室での事は思い出したくないようだ。

梯子を昇るセイジの尻を追いかけてランスが梯子を昇りきると、
櫓の上では、既にセイジが青い太鼓の前で待機していた。

「やるからには呼吸を合わせて花火まで出すぞ。合いの手でリズムを取り易くするから遅れるなよ」

 何かが吹っ切れたのか、太鼓を叩く気満々で撥の重さを確かめたりしているセイジに近づき、
ランスは手を伸ばして腹筋を触った。

「なっ……!」

 突然の行動に驚きと照れで顔を真っ赤にするセイジに向かって、ランスは勝ち誇った表情で告げた。

「肉体は俺のが筋肉質だな。セイジも鍛えてはいるんだけど、まあ……頑張れ?」

 フン、と鼻を鳴らし、赤い太鼓に向かうランスにセイジは真っ赤な顔で反論する。

「どーせ貧相だよ。俺はアスリートじゃないんだからそんなにならなくてもいいんだよっ」

 べしべしとランスの背を叩く様子は妙な可愛らしさがあり、ランスは笑い出してしまった。


「気を取り直して挑戦だ」

 腹を触られ一旦途切れた集中力が太鼓と向かい合うと自然に戻ってきた。
係員の合図に合わせて、二人は一瞬視線を交わし、撥を振り下ろす。
手に握った撥は通常の物よりも重く、振りかぶるだけで汗が滲み出るが、
そんな事は気にならない程、セイジはリズムを刻むのに夢中になっている。
それがわかったランスは、セイジのテンポに耳を澄ませ、全身で合わせる事に徹した。

(流石のリズム感だな。音の強弱は俺が抑え気味にした方がバランス良さそうだ)

 ランスが撥を振り下ろす力を弱めると、絡まりあった音がより複雑になる。
その音が広場に広がると、夜空に色鮮やかな花火が上がった。

「うっしゃ!」

 喜びで一瞬手が止まったランスだが、どちらかが休むと花火が上がらなくなるらしい。
慌ててセイジの合いの手を聞きながらリズムを刻み、曲の終りに大きく太鼓を鳴らして、
夜空に特大の花火を打ち上げることに成功した。





「あー、疲れた!セイジ、フランクフルト食べよう」

 太鼓を叩き終わると、体力を使ったためか二人は空腹感を感じ、屋台で食事を取ることにした。
この屋台のフランクフルトは通常よりやや太めのようだ。一本ずつ買って、歩きながら口にする。
一口かぶりつくと、口の中に旨味たっぷりの肉汁が広がって……

「美味い!なぁセイジ、これすごく美味い、」

 食事の美味しさを共有しようと隣を歩くセイジの方を見たランスは、言葉を喉の奥に飲み込んだ。
フランクフルトを食べるセイジの姿が、一瞬酷く扇情的に見えたので、思わず顔が赤くなってしまう。
なんだ、と不思議そうな視線を向けてくるセイジに曖昧な笑いを返してごまかし、
代わりに、先程から考えていた言葉を口にした。

「セイジ、祭、付き合ってくれてアリガトな……」

 呟かれたランスの言葉に、セイジはふわりと笑顔を返した。











「ここは桃源郷でしょうか」

 パートナーの着替えを待っている間、広場内を楽しげに歩く褌の男たちを見渡しながら
アルクトゥルスは興奮を隠しきれず呟いた。

「まさに十人十色、色も形も違う筋肉が一堂に会する様は絶景ですね。
みんな違ってみんないい!しかし、一番美しいのはやはり……」

 一人で筋肉品評会を開くアルクの傍にベテルギウスが並ぶ。
着替えが終わったようで、法被の上からもわかる発達した背筋、ちらりとのぞく腹筋
最高の筋肉美を誇るパートナーを、アルクは舐めるような視線で観察し
そのままベテルギウスの周囲を回り始める。

「やっぱりベルたんの筋肉が一番美しいよぉ!」

 ベテルギウスは小さく礼を言い、続いて広場の方に視線を向けた。

「……ッス」

「そうだね、行こうか!」

 筋肉の事になると周囲が見えなくなる相方に諦観の色を浮かべながら
ベテルギウスはアルクの後ろをついて行った。



太鼓の時間より少し早いが、係員は快く櫓に昇ることを許可してくれた。
梯子の前でアルクが急に横に避けたため、ベテルギウスは訝しんだ表情で足を止め
アルクの顔を見たが、当のアルクはただただ先に梯子を昇るよう促す。

「ベルたんお先にどうぞ!遠慮せず!」

 この様子では、ベテルギウスが先に行かない限り、アルクも梯子を昇らないであろう。

「シャス……?」


 意図の見えないアルクの行動に首を傾げながらベテルギウスは梯子を昇り始め、
中程まで進んだ頃、下からアルクの興奮した声が耳に届いた。

「ンハァ!べ、ベルたんの!ぎゅぅっとしまったお尻が見えるよぉっ!
ピクピク動く太腿もたまらないよぉ!ベルたん!もっと昇って!ゆっくりね!」

 そういうことか、と熱い視線を全身(主に尻)に感じながら、
ベテルギウスが梯子を昇りきり、梯子からその姿が見えなくなった途端に
アルクも物凄い速度で櫓の上へと上がってきた。





「さぁベルたん!一緒に神様に筋肉の音色を届けようねえ!」

 赤い太鼓の前に立ったアルクは、相方にも青い太鼓の前に立つように促す。
今まで他者とペースを合わせる事が少なかったベテルギウスは、他者との合奏に緊張が隠せず
通常より重さのある撥を握り、恐る恐る叩くと、トン、と弱々しい太鼓の音が聞こえた。
そっと叩いているベテルギウスの様子を見て、アルクが優しく微笑んだ。

「ボクがベルたんにあわせるから、何も心配しなくていいんだよ。
自信持って思いっきり叩いてね」

「……シャス」

 相方の言葉を信じ力一杯叩くと
ドォン、と腹の底に響くような轟音が響く。
この深い音を自分が鳴らしているのだと思うと
感動と満足感が入り混じった複雑な感情がベテルギウスの心を満たした。

ベテルギウスが叩く太鼓の音にアルクが自分の音を合わせる。
二つの音色はより深く複雑に絡み合い、より大きく、より遠くまで響く。
巧みに音色を合わせてくるアルクとの合奏が徐々に楽しくなってきて
ベテルギウスは思わずアルクの方を見た。

アルクはその瞳の奥に、普段気持ちを口にすることは少ない彼の
楽しい、嬉しい、という感情を読み取り嬉しくなる。

アルクと目が合うと
親愛の情を向けられることに慣れていないベテルギウスはふい、と目を逸らす。
その瞬間、アルクにはベテルギウスの首の筋肉が撥を振り下ろすのに合わせて脈動しているのが見え
強すぎる喜びが電撃となって全身を駆け抜けた。

(ベルたんが太鼓を叩く時の筋肉!ぴくんぴくんしてるよぉ!
汗で輝く筋肉をもっと近くで眺めたい!
ベルたんのためにも、私もしっかりと太鼓を演奏しなければ……
あっあっ、ベルたんが足を踏ん張ると法被から覗く脚に力が入って……
美しすぎて集中できない!)

 ベテルギウスの太鼓の音に自分の音を重ねはするが気もそぞろなまま
アルク達は太鼓の演奏を終えた。

アルクがベテルギウスに向かって両手をあげハイタッチの姿勢を取るとベテルギウスもそれに応じる。
彼が自分からアルクに触れに来るのはこれが初めてだったため
アルクが少し驚いていると、ベテルギウスもそれに気づき、ふい、と視線を逸らしてしまった。



櫓を下りると、係員が線香花火を2本手渡してくれた。
アルクは筋肉に夢中で気付かなかったが、
アルクの煩悩のためかはたまた二人の腕力の足りなさのためか、
花火が上がらなかったので、参加の記念に、ということだった。

心地よい疲労感と共に、線香花火を眺めながらお茶とフランクフルトで休憩をとる。
ビールが無いのが残念だな、と思うベテルギウスに、
隣で線香花火を眺めるアルクが穏やかな声音で語りかける。

「ベルたんとのお祭りは初めてだったけど、すごく楽しかったなぁ。
ベルたんはどう?」

 尋ねられて、ベテルギウスはここまでの時間を振り返ると、
恥ずかしいことも沢山あったが楽しかったとの気持ちを込めて、

「シャス」

 と返した。

「そっか、良かったぁ!ウンザリされてたらって怖かったんだ。
これからも沢山思い出作ろうね」

 柔らかく笑うアルクの傍で、線香花火の火種がぽとりと落ちた。











……はやまったかな。
でもいい機会だし、今日は叶えてあげたいし。
セラフィム・ロイスは手に持った小さな袋をじっと眺めた。

「セラ!」

 遠くから、喧噪の中でも聞き違えるはずのないパートナーの声がして、
セラは手に持った袋を慌てて法被の内側に隠した。
顔をあげると、火山 タイガがこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「セラ!もうすぐ出番だぞ。大丈夫か」

 そろそろ二人で申し込んだ太鼓の演奏の集合時間だ。
僕が‶別の事‶に気を取られていたからタイガが呼びに来てくれたのだろうとセラは思い、
タイガと一緒に歩きながら、質問に答える。

「大丈夫じゃない。重いし、スースーして視線痛いし……僕だけ貧相で明らかに浮いてて居心地悪い」

「はは、オレもまさかセラが祭りに参加するなんてびっくりした」

 そう笑って見せながら、タイガは周囲の視線からセラを守るように立ち位置を少し変えた。
セラは、決して体格が良い方ではない。
それは本人もわかっているが、
締められた褌と痛々しいほど白い肌の、やや退廃的で儚げな色気にはセラは無頓着だった。

その色気に、引かれない輩もいないとは限らない。
セラはオレが守る!と心の中で拳を握るタイガの気も知らず、セラは言葉を続けた。

「……参加したそうな顔してただろ」

「それでか!?」

「『やらなきゃ始まらない。最初から出来る奴なんて居ないっ』て言ったよね。
限界、みてみたいんだ。
海で泳げたり、スポーツして『楽しい』を知った。
だからタイガと一緒に奏でてみたい」

 セラがタイガのために気の進まない祭りに参加してくれた、
その理由が自分がセラに伝えた言葉にあると知って、
タイガは胸の奥に熱いものがこみあげてくるのを感じ、頑張ろうな、と笑った。


櫓の上に昇ると、セラは青の太鼓の前に、タイガは赤の太鼓の前に立つと、
脇に揃えて置かれた撥を取り上げ、セラはその重さにたじろいだ。
ぎゅっと握って、係員の合図と共に太鼓を叩き始めた。

太鼓の撥は通常の物よりもずしりと重く、扱いがやや難しい。
一生懸命に叩くセラの額には玉の汗が浮いてきており、息が上がっているのがわかる。
ふとタイガの方を見ると、タイガが楽しそうに力いっぱい太鼓を叩いているのが見え、
その姿は明るさに満ちているように見えた。
そんなタイガの姿に、セラも追いつこうと腕の力を振り絞る。

音が重なる箇所では互いに視線を交わし、時に笑みを送りあって叩き続けると、
やがて色彩豊かな炎の花が暗い夜空を華やかに彩った。



力いっぱい太鼓を叩き続けた二人は、
櫓を下りるとそのまま広場のはずれにある木陰の芝生に倒れこんだ。
汗だくになって神へ捧げる音を奏で続けた二人を、夏の涼しい夜風がするりと撫でた。

「ああ、いい風……もう動けない」

 仰向けに寝転んだセラの表情は太鼓を叩ききった充実感に溢れている。
同じように隣に寝転ぶタイガも、楽しげに笑っていた。

「タイガ」

 急に、セラが改まった口調で名前を呼ぶので、タイガは身を起してセラの方に向き直った。

「誕生日おめでとう。
安全祈願にお守り。好きな物にしようと思ったけど悩んで、タイガが怪我しないようにと思って」

 法被の内側から小さな袋を取り出し、タイガに差し出すと、タイガは目を輝かせて受け取った。

「っ、すっげー嬉しい!大事にする!初めてもらったセラからの誕生日プレゼント!」

 手に持ったお守りは、いままで貰ったどんなプレゼントよりも輝いて見えた。

「ふふ、そんなに喜んでもらえると、渡し甲斐があるなぁ。
他にもいいよ。お願い、ひとつだけ聞いてあげる」

 そう言って笑うセラに、タイガの心臓がどきりと跳ねる。

「お願い事……」

 セラにタイガが願うことはないわけではない。
しかしそれは、今よりももっと先の関係、愛情の先に望むようなことであって、
今のセラがタイガを信頼して望んでいるのは友情であると、タイガはしっかりわかっていた。

「じゃあ、屋台に行こう。二人で過ごしたお祭りの思い出が欲しいんだ」



 立ち並ぶ屋台の間を歩き、二人は迷った末に焼きそばとチョコバナナを購入した。
屋台はどこも忙しそうだったが、タイガがチョコバナナの屋台の店主に無理を言って、
二人で食べている所の写真を撮ってもらえるように頼むと店主は快く引き受けてくれた。

「これが、オレのお願い。お守りに入れたら、頑張れると思うんだ!」

「それでいいの?せっかくの誕生日なのに……」

「いいんだ、オレはこれがいいの!」

 タイガの控えめな願いにセラは少し申し訳ないような気持ちを抱くが、タイガは譲らない。

「でも、タイガがいいならいいかな。写真は苦手だけど、僕もタイガとの思い出、欲しかったし。
あ、でも、褌は見切ってください」

 カメラを持った屋台の店主に向けてセラが言った一言に、タイガが、えー、と唇を尖らせる。
そんなタイガの様子に、ふふ、とほほ笑むセラと、楽しそうなセラに優しい視線を送るタイガの写真は
二人にとって何物にも代えがたい思い出となった。






依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月05日
出発日 08月10日 00:00
予定納品日 08月20日

参加者

会議室

  • [4]アキ・セイジ

    2014/08/09-20:32 

    皆こんばんは。

    成程、スタンプを使うとそういう感じになるのか。イラストおめでとうな。

    賑やかな事にメがない相棒につれられて祭にやってきた俺は…という予定だよ。

    え?褌一枚? 聞いて無いぞ!ランス!(大慌て

  • [3]セラフィム・ロイス

    2014/08/08-21:27 

    スタンプつかってみたかった。よし!

    よっす!オレ、タイガとセラだ!皆よろしくな!
    アルクトゥルスはリザルトでインパクトすごかった・・・と背後から聞いたな~
    って、そんな文化あんのか(驚愕)

    ふんどし祭りだかなんだか、なぜかセラから参加するって言い出して
    オレら参加する事になったよ。やるからには全力サポートするぜ!

    と、〆切10日って・・・やばいな時間無くて。皆きをつけろよー

  • [2]セラフィム・ロイス

    2014/08/08-21:22 

  • [1]アルクトゥルス

    2014/08/08-13:29 

    高原様、ストレイフ様ごきげんよう。
    セイジ様、ランス様とロイス様、火山様ははじめまして。

    私はアルクトゥルスと申します。こちらは夏の日差しに煌めく筋肉天使のベルたんことベテルギウス。
    何卒よろしくお願い致します。

    素敵な筋肉からのお誘いですし、行かない手はございませんね。

    あぁー、ベルたんの肉体美に悩殺されちゃうよぉ…

    私、下着は履かない主義ですので、このふんどしなるアンダーウェアの着方は存じ上げませんが、これは確かに女性には出来ない格好ですね。


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