プロローグ
彼の地には、雨の降る季節に行う儀式があった。
豊作を願い、村の若い娘が雨の降る日に泉へ身を投げると言う、儀式。
生贄とは、また異なるそれは、娘が泉の底から一掴み分の土を手に、無事に岸辺へと戻る事を要求される。
そして、手にした土は畑へと撒かれ、今年の収穫の時まで乾く事の無いように、祈られる。
それが、今年はまだ行われていない。
なぜなら、見てしまったからだ。娘が飛び込むはずの泉の畔で、若い娘が泣いているのを。
慰めようと一歩を踏み出した村の男は、その下半身が禍々しい蛇の姿である事を見とめ、慌てて踵を返し、今に至る。
「ラミア、ですね。今のところ被害はありませんが、儀式の事もありますから、放っては置けません」
それに、と。A.R.O.A.の職員は続ける。
そのラミアは、デミ・オーガである可能性が高い、と。そうなると、ますます放っては置けない。
異性を魅了する歌声がラミアの最大の特徴である。
また、水中戦に持ち込まれれば、その脅威は極端に増す。
「何故、ラミアが泣いているのかは、判りません。若い男を誘うための罠とも考えられますが……」
ちら、と。一度視線を外した職員が、少しの間を置いてから、告げる。
――曰く。
彼の地には、雨の降る季節に行う儀式が、あった。
豊作を願い、村の若い娘が雨の降る日に泉へ身を沈めると言う、儀式。
娘の身は、泉へと捧げられ、二度と戻る事はない。
娘たちの祈りの涙が注がれた泉。
ゆえに、涙滴の泉と呼ばれる事も、あるという。
それがいつから土を持ち帰るだけに変わったのかは、判らない。
ただの、言い伝えかも知れない。
だけれど、村の年寄りは水底に沈んだ土には古の娘達の魂が込められていると、言う。
だからこそ、その土を撒く事で村の畑が潤うことができるのだ、と。
「村のお年寄りには、娘の魂に中てられて泣いているのだと言う方もいますね」
そんな言い伝えがあるからか。出来るだけ泉には入らないようにお願いしたいと、言っていた。
どちらにしろ、水中のラミアが脅威であることを踏まえれば、地上で決着をつけるのが良いだろう。
「時期的に、小雨が降っているかと思います。足元は滑りやすくなっていますので、皆さんが泉に落ちないようにも、気を付けて下さいね」
ぺこりと礼をして、職員はそう締めくくった。
解説
デミ・オーガ・ラミアとの戦闘シナリオとなります。
数は一体。討伐が成功条件となります。
小雨の降る中の戦闘となるため、皆々様、お足もとには十分お気をつけくださいませ。
●ラミア
美しい女性の上半身を持った蛇のモンスターです。
美しい歌声に魅了されると、1Tの間身動きが取れなくなります
また、水中での移動速度は地上の二倍となりますので、水中に逃がさないようにする工夫が必要でしょう。
●泉について
出来るだけ人が入る事を避けて欲しいと村人は言っていますが、
仮に泉に落ちたりしても成否には影響ありません。
飛び込み用のプール程度の深さがあるため、泳げない方は溺れ無いようにご注意ください。
●
戦闘後には村人が暖かな物を用意してくれているようです。
着替えや汚れ等もご心配なく。
ゲームマスターより
雨なお話、第三弾。
今回は戦闘物です。
ラミアにメロメロになったパートナーを引っぱたくプランとか、あっても良いんですよ?
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイヤ・ツァーリス(エリクシア)
ラミアさんが泣いてるのはなんで、だろ。 もしラミアさんが悲しくて泣いているなら、ぼくはお話をききたいって、思うんだ。 デミ・オーガになってるのか、なってないのかはわからないけど……それでも……。 水中へ逃がさない方法……やっぱりシンプルだけど罠としての投網かなって思うの。たかいとこから、こう、ばさっと! でも女の人だし、ちょっとだけ、かわいそう、でしょうか。 なるべく戦闘中は自分の身を守るようにするです。 戦闘が終わったらお墓を作れたらいいなって思う、です。泉の傍は儀式の場所だからお墓は立てられないと思う、です、が、見えない場所にひっそりと、なら出来ない、でしょうか? |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
オーガでなければ倒さずに説得もできるだろうに オーガ化した生き物を戻す方法はないのだろうか… ◆概要 ラミア退治⇒湖底探査 ◆詳細 安全のためトランス ランスを残し、俺は耳栓を片方だけしてもう片方は手に持ってラミアに接近 攻撃範囲の外から泣いてる理由を聞く ”会話術”も生かして気持ちや情報を引き出しつつ、ラミアを出来るだけ湖から遠ざける 1人で接近するのは油断させるためだ 人を襲わず山奥に行く等が不可能なら戦うしかない 魅了の歌は反射的に耳栓 俺も剣で攻撃し、湖に逃げるのを阻止 ★戦闘後 亡骸を埋葬 湖の底に潜って何があるか確認してくるよ ラミアが泣く原因があるのだろうか、それとも意外にも美しい光景が広がっているのだろうか… |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
泉にラミアを逃がさぬよう、投網(ネット)を用意して行く。逃げようとしたらネットで進路を遮り邪魔をする。 ラミアの所へ行く前にトランス。 歌声は聞かないように耳栓で防御。 ラミアの事情も気になる。 でも儀式が出来ず村の畑が旱魃被害になったら村全員の生活に関わるからな。 それにラミアがデミ化する要因がこの近くにあるはずだ。放置しておけないぜ。 ラミアの歌声を聞たセイジさんが自失状態になった場合 彼の頬を軽く叩いたり「お前の相手はアイツだろ」 とランスさんの方に無理に顔を向けてさせ正気に戻す。 ラミアが泉に逃げないよう網投げや剣で攻撃し彼女の気を引くぜ。 泉を泥や血で汚さないよう注意して戦う。ラミアにも大事な泉なのか? |
しとしとと降る雨は、柔らかく体を濡らす。
足元が少し滑りやすくなっているのを靴底で感じながら、セイリュー・グラシアは己の耳に耳栓を装備しかけて。
「そうだ、その前に……」
くるり、振り返ると、パートナーのラキア・ジェイドバインへ歩み寄り、頬に口付けた。
「――滅せよ」
囁くような小さな声が、言葉通りを成し得る力をラキアに与える。
灰色の雲に覆われ、仄暗い雰囲気の中で、トランス化による光は少しだけ、眩しく見えて。ゆるり、セイリューは瞳を細めて見つめた。
何かを確かめるようにも感じる視線に、ラキアは頷きながら耳栓を取り出して。やはり己の耳に装着する前に、ぽつりと漏らす。
「……ラミアは、どんな事情で、泣いているのだろうね」
「それは、聞いてみないと判らないだろうけど……」
泉へ向かう前に横切ってきた村を、思い起こす。
長閑で平穏な村には、畑を耕す以外に何もないのだろう。儀式によってそれが潤うという科学的な根拠は何一つなくとも、「儀式が出来ない」という現状その物が、彼らにとっては死活問題なのだ。
「村の畑が旱魃被害になったら村全員の生活に関わるからな。放っては置けないぜ」
決意と共に耳栓をしっかり装備して、泉を目指した。
若い女性の啜り泣く声。
雨の中、泉の畔で響くそれは、情緒のようなものを感じさせもするが、遠巻きに見ても判るその下半身は、大きな蛇のそれ。
泣き続けるラミアの姿を、じ、と見据えて、アキ・セイジは眉を顰めた。
「間違いなく、デミ・オーガ……だな」
件のラミアがデミ・オーガ化している可能性があるゆえにA.R.O.A.へと依頼が飛び込んできたわけだが、もしも可能なのであれば、殺さずに済ませたかった。
セイヤ・ツァーリスも同じ感情で、時折空を見上げて雨を浴びるラミアの額に見えるはっきりとした一角に、きゅ、と胸を抑え、悲しげに表情を歪めた。
「エリクは、耳栓をしていてくださいね」
トランス化するために頬に口付け、念のために耳栓を手渡して。セイヤはパートナーのエリクシアを見上げた。
小雨がエリクシアの金髪を濡らして、しっとりと艶やかな装いに変えている。不安げな表情をしながらも優しく見つめてくれる彼に、セイヤはふんわりと微笑んだ。
「もしも僕が魅了されてしまったら、ごめんなさい、ですが……その時はよろしくおねがいします、です」
セイヤとセイジは、ラミアの話を聞くために、耳栓を持たない。魅了の歌声に惑わされてしまう可能性が高いパートナーに、ヴェルトール・ランスもまた若干の不安を過らせるが、そんな彼の肩をぽんと叩いて、セイジは微笑んだ。
「いざとなったら、ランスが助けてくれると信じているよ」
だからこれをと、耳栓を託して。自分も片方だけ付けてもう片方は手の中に忍ばせておくことを示してから、踵を返した。
「準備が出来たなら、行こうか、セイヤ」
「は、はい、です」
どきどきしながらそっとラミアの元へ歩み寄れば、気配に気づいたらしい彼女は、顔を上げて二人を見比べた。
その顔は濡れているが、涙によるものなのか、雨によるものなのか。判別は、つきにくい。
「そんなところで、何を泣いているんだ?」
蛇の下半身には視線をやらず、努めて穏やかに尋ねるセイジ。心配そうな顔をするセイヤも、おずおずと歩み寄って、少し高い位置に見える彼女の瞳を見上げた。
「困ったことが、あるのなら……教えて欲しい、です」
紳士的で優しく、愛らしい二人の男に、ラミアはほんの少し瞳を細めて笑うと、泉を振り返り、告げた。
「イズミ、ソコ……ダイジのモノ、オトシタ」
片言だけれど、はっきりと。示された泉を、ちら、と見やって。セイジは気取られぬ程度に眉を寄せた。
小さく降る雨が、幾つも幾つも水面に波紋を作っており、上から覗いても水底まで見通すことはできない。
ラミアのいう事が本当かどうかは、潜って確かめるしか、手段は無いだろう。
――だけれど、ラミアはそもそも、水に強い。物を落した程度で、涙する理由は、無い。
「あちらで、待っていると良い」
「イッショニ……」
「いや、貴方まで落ちてしまう。俺が拾ってこよう」
さりげなく、泉から離れるように促すようにセイジが振り返れば、ラミアと視線が合って。
にんまり、笑う、妖艶な口元。
「セイヤ様!」
ラミアの蠱惑的な微笑が、大きく開かれるのを見届けて、エリクシアが飛び出した。
耳栓をしている者たちには、ラミアの声が遠く聞こえる。歌が己の耳朶に響き渡るより早く、エリクシアは握りしめたハンマーを振りぬいた。
「ッ――!」
浅い。不慣れな武器であることと、戦場の足元が滑りやすくなっていることも相まって、踏み込みの足りない感覚が、武器越しにも判った。
それでも、不意に横薙ぎに叩きつけられた衝撃で、ラミアの体は傾いで倒れこむ。それを一瞥だけして、エリクシアはパートナーであり主であるセイヤを覗き込む。
ぼんやり、と。エリクシアを見つめ返した瞳は、どこか遠い。くすくすと微笑んだ主の視線が追いかけるのは、ラミア。
陶酔するような表情が、彼女の歌に魅了されているのを物語っており、きつく眉を寄せ、掻き抱いた。
「セイヤ様、セイヤ様」
繰り返し、耳元で囁くように名を呼んで。ゆっくりと、声を染み込ませていく。
そうして魅了を解こうとしている二人を見やり、ランスは窺うようにセイジの表情を見た。
ラミアが歌いだす直前、セイジがもう片方の耳栓をしようとしたのは見ていたけれど。間近で聞いてしまっては、意味が、無かったかもしれないと。
「セイジ……?」
呼びかけに返った視線は、しっかりとランスを見据えている。
頭が眩むような感覚があるのだろう。指先を添えながらも、ふるりと首を振ったセイジは、魅了されて居るようには見えなかった。
「大丈夫だ。ランス、詠唱を始めてくれ」
ふ、と。短い息で己を諌めたセイジが武器を構えるのを、ちらり、肩ごしに振り返るセイリュー。
(無事なようで、何よりだな……)
いざとなったらどうやって助けようかと思っていたセイリューが、吹き飛んだラミアに追撃をかけながら肩を竦める。
打ち据えられる攻撃に表情を歪めたラミアは、長い爪で応じながら、不満げに声を荒げた。
「ウタ、ナンデキカナイ……!」
「悪い、何言ってるか判らない」
真剣な目をしながらも軽い調子で告げたセイリューと入れ違いに、光の輪を周囲に称えたラキアがラミアを攻撃する。
振りぬいた杖は、ラミアを打ち据えるには幾分心許ない威力であったけれど。返しざまに振りぬかれた爪を、光輪は弾き返し、攻撃以上のダメージを与えた。
泉から引き離すことは叶わなかったけれど、いざと言う時の為に、投げ網は用意してある。
ほど近い位置にある泉を、ちらりとだけ振り返ってから、ラキアは再びラミアを見据えて。
「――君にとっても、泉が大切なの?」
戦闘の音を拾うべく、片方だけ外した耳栓。そうしてラミアへと問いかけるラキアの言葉に、しかしラミアは秀麗な眉を顰めるだけ。
何を言いたいのかが判らない、と言った顔は、泉への執着を表すでもなく、ただ目の前に敵対している存在を疎ましく思う表情だった。
セイリューと顔を見合わせて、それを確かめ合うと。
「ごめんな」
「こんな方法しか、取れなくて」
心の端に切なさを覚えながらも、剣を、振るった。
しとしとと雨を降らす空は、ほんの少しその勢いを増した。
まるで誰かの心を映して、泣いているかのように――。
綺麗な歌が、セイヤの耳の奥で反響している。
その中に、呼ぶ声が、聞こえる。
それは大好きな声。
呼んでくれる名前に、とくん、とくん、と。穏やかだった心音が早くなるのを、感じた。
ふうわり。どこか遠くへ行っていたような意識が、浮かび上がるのを感じる。
「……エリク……?」
ぱちり、と。瞬いた視界に、急に飛び込んできたパートナーの顔。
その瞳が一瞬見開かれて、すぐに安堵に変わるのを見届けて、セイヤは気が付いた。
「あ……僕、歌を聞いて……」
「はい。でももう、大丈夫ですね」
微笑んだ顔に、どきん、と胸が跳ねた。
恋愛というものに自覚の無いセイヤにとって、この動悸はまだ、ただの「びょうき」だ。
ラミアに魅了された挙句に、「持病」で身動きが取れなくなるなど、在ってはいけない。
「セイヤ様?」
「だ、大丈夫だよ、エリク。助けてくれて、ありがとう」
ぱ、と少し慌てながら離れ、己の武器を握り直したセイヤは、仲間の戦闘をしっかりと見据え、ぐ、と拳を握りしめた。
「もう迷惑かけないよ。僕だって、ちゃぁんとすこしは強くなったんだからっ」
自信を奮い立たせるように告げたセイヤに、エリクシアは優しく微笑んで、準備していた投げ網を手渡した。
「女の人に、かわいそう……でしょうか」
受け取りながらも、ほんの少し躊躇ったセイヤ。だけれど、振り返り見つめたラミアは、セイリューとラキア、さらに戦線に加わったセイジによって、既に息も絶え絶えだが、それでもまだ、逃げ出そうとしている。
泣き真似に獰猛な姿は、彼女が敵であることを明白にしていたし、逃がしてしまっては村の人たちに害を及ぼすのもまた、明らかだったから。
「えいっ!」
ばさ、と思い切って放った投げ網で、セイヤはラミアの動きを制した。
じたばたともがくラミアへ、詠唱を終えたランスが熱線を照射する。
焼けつく熱の痛みと同時に与えられた、体の中心を射抜かれるような感覚。それはラミアの中に燻りと、空虚感を齎して。己が得意とする魅了によく似た心地を、振り切るように、大きく、大きく、息を吸い込んだ。
いつの間にか、一層強くなっていた雨。ざぁざぁと降りしきる音の中にさえ、ラミアの歌声は、響き渡る。
最後の、悪足掻きだと。誰の目にも明らかだったが、最後だからこそ力強い、耳栓をしていても脳髄を浸食してくるような声に、誰もが思わず、耳を塞いでいた。
特に、一度魅了されかけていたセイジはたまらず頭を抑えて、くらり、揺れるような感覚に一歩後ずさった。
見止めて、微笑んだラミアが、網を振り切り、縋るように抱き付こうと、したけれど。
「させ、るか……!」
その指先が、胸を軽く押した時点で、貫く刃に。打ち据える槌に。ラミアの体は縫い止められたように、地を這った。
ばしゃん――!
ふらついた上に、雨によって滑りやすくなっていた足元が災いして。
セイジがそのまま、泉へと落ちるのと、ラミアが息絶えたのは、ほぼ同時の事だった。
「倒したの、でしょうか……」
恐る恐るラミアを覗き込んだセイヤは、その体がピクリともしないのを確かめて、眉尻を下げる。
倒す事しかできなかった結末が、物悲しくて。寄る辺を探すようにエリクシアの服に指を添えた。優しく添え返してくれる手のひらが暖かく感じたのは、雨に打たれて体が冷えたせいだろうか。
剣を収め、雨に濡れた髪を掻き上げて小さく息を吐いたセイリューは、泉に落ちたセイジを振り返る。
すでに駆け寄っていたランスが覗き込めば、やれやれと肩を竦めるセイジが見上げてきた。
最後の歌に晒されてうっかり魅了されてや居まいかと心配したが、水を浴びて正気を保ったのだろうか。ともかく、杞憂で済んだようだ。
「雨で濡れてはいたが、すっかりずぶ濡れだな……」
「セイジ、大丈夫か? 手が要るなら貸すが」
「いや、落ちたついでに、少し探索させて貰う」
言うや、セイジは水の中に消えた。
「ちょ、セイジ……」
慌てて後を追おうとするランスの服を、くい、と引くラキア。ふるりと首を横に振って、苦笑する。
「あまり入らないようにと言われているし……ラミアも倒したから、セイジさんに任せておいたらどうだろう?」
ラミアに仲間の居る様子は無かったし、居たとしても、仕留められる段階まで姿を隠す道理もない。
きっと安全だろう、と、ほんの少しだけ不安な顔をしつつも、セイヤもまた頷いた。
「戻るまでに、ラミアさんのお墓、作り、ませんか?」
振り返れば、雨に晒されるラミアの体に、そっと布を掛けるエリクシア。最後に見えたラミアの伏せた瞳から、雨が滲んで、伝ったような気がした。
水の底へと向かいながら、セイジは五感に感じる情報を確かめる。
気泡が幾つも湧くような、こぽこぽと軽い音は、水面を打ち付ける雨の音だろう。引っ切り無しに降る雨に穿たれながら、なお、泉の中は恐ろしいほどに透明だった。
だけれど、深いばかりの水の底には、何もなかった。
ほんの少し期待した美しい光景も、ラミアが言っていた『大事な物』も、古の伝承を物語るような、亡骸の類も。
ただ淀みなく底まで続く水の世界は、果てしなく広く感じる。儀式という名の持つ厳かな静謐さが、そこにはあった。
泉の底へたどり着くのは、容易で。触れた土は、掬いやすく柔らかかった。
ふわりと軽い土を掬えば、透明な世界に薄い茶色のもやが過って、それだけ。
掴み上げるでもなく戻して。セイジは早々に水面へと戻った。
「セイジ!」
そわそわとした顔のランスが、ぱっと表情を明るくし、手を差し伸べてくる。
一瞬、いつの間にか晴れたのだろうかと錯覚したが、しとしとと顔に当たる雨粒に気付けば小さく笑って、ランスの手を取った。
「ラミアは、埋葬したぜ」
「ここは儀式の場、ですから……あっちの、木の影にこっそり……」
泉からは見えないけれど、泉を見る事は出来る位置。墓標があるわけでもないが、木の葉が雨を遮る位置でもあるのを見とめて、セイジはそっと瞳を細めた。
「泉の中には、何かあったのでしょうか」
尋ねるエリクシアには、首を振る。特に何もなかった事を告げれば、そうですか、と呟きが返った。
「残念ですが、やっぱり、ラミアの涙は罠、だったようですね」
声を掛けた者を泉へと引きずり込むため。あるいは、油断させて魅了するため。
たまたま、彼女が得意な水辺の狩場として、この泉が選ばれて。
たまたま、そこに物悲しい伝承が、存在していただけだった。
「……それでも、デミ・オーガ化してなければ、殺さずには済んだかも、知れないね……」
草を編んだブーケを埋葬跡に捧げながら零すラキアに、各々に頷き、黙して。
一行は村へと戻り、成果を告げるのであった。
「ありがとうございました。これで、儀式を行う事が出来ます」
村長を初めとする村人たちの温かな振る舞いが、冷えた体を癒す。
ラミアの姿を直接見た男性が、そっと窺うように、尋ねてきた。
「ラミアは……どうして、泣いていたんでしょうか」
ウィンクルム達は互いに顔を見合わせて、誰からともなく、答える。
「大事な物を、落したそうだ」
それが何かは、判らない。
それが事実かも、判らない。
罠だった、と。考えるのが一番自然だけれど。もしかしたら、目に見えない、それでも彼女にとって大切な何かが、失われていたのかもしれない。
――例えば、理解し合える心、だとか――。
夢物語のような理想は、ほんの少しの燻りを残したけれど。
感謝し、喜び合う村人を見ながら、彼らは願う。
せめて、この村に涙の滴る事の、無いようにと。
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 06月17日 |
出発日 | 06月24日 00:00 |
予定納品日 | 07月04日 |
参加者
- セイヤ・ツァーリス(エリクシア)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
会議室
-
2014/06/23-23:48
プランは出せた。
後は上手くいくように祈るばかりだ。
相談諸々、お疲れさまでした。 -
2014/06/23-22:10
セイヤさんこんばんは。
耳栓はオレとラキアは使うつもり。
ラミアの歌声と美貌と豊満な胸に惑わされない堅固な意思で抵抗とか、
神人への絶大な愛情とかでラミアの歌声など雑音にすぎない、とか
女に興味全くない、とかなら、耳栓は無くても・・?
どうだろうな。
悪い事をしている訳じゃないから見逃す、
という選択肢は無さそうだけれど。
ラミア討伐が成功条件だからな。
-
2014/06/23-22:01
カキコミ2の発言の通り、俺は聞く予定。
セイリューにペシペシされるのも了解。まあ、なるべく魅了されないようにするけれど。
セイヤさんはこんばんは。よろしくな。 -
2014/06/23-21:37
お、遅くなりすぎ、ですね。
えと・・・・・・セイヤ、です。よろしくです。
エリクにはエトワールの後に前にいってもらう予定、です。
ある程度なら時間稼ぎは出来る、です、けど……
エリクに耳栓は必須、でしょうか……。
僕はお話を聞いてみたい、です、けど……。悩みます、ね。 -
2014/06/23-19:47
ラミア側の事情は聞いた方がいいと思うのだけれど、
皆がそれを聞くと全員魅了される可能性があるので、
どれだけの人数が話を聞くかも悩みどころかな。
ランスさん魔法詠唱中に
セイジさんが魅了されてぼーっとする事になったら
オレが揺さぶってでも我に返すつもりだけど。
出来るだけ穏便になんとか・・・
でも軽く頬パシパシぐらいは仕方ないよな? -
2014/06/23-19:18
網とアロー了解した。
相棒の魔法は、
・逃げられそうになった場合の10m効果寸いの範囲魔法として「カナリアの囀り」
・乱戦の時に味方を巻き込まないように撃つ「乙女の恋心Ⅱ」
の2種の予定だ。
2発とも打つとMPがカラになって気絶(?)するので、恋心のみでカタがつくと良いな、なんて思っている。
なお、倒した後は埋葬する予定。
なんだか討伐任務のたびに俺は墓穴をほっている気がする… -
2014/06/23-18:58
なるほど。オレも耳栓を持っていこう。
村にとって泉は「旱魃被害を回避するための呪術的な場所」なのか。
このままラミアが居座ると
豊作祈願の祭り(泉の底から土を持ち帰る)にも支障がでそうだな。
あまり泉を荒らすような事は避けたいぜ。
ラミアを水中に逃がさない方法として、
泉との間にネットなどの障害物を張るとか
ラミアを網で捕まえるとかは考えた。
投網は持っていこうと思う。
さすがにラミアを押し倒す等の肉弾戦は危険すぎるよな・・(悩。
戦闘ではシャイニングアローⅡを使う予定。
-
2014/06/21-23:08
アキ・セイジだ。
確かに何故泣いているのかは気になるところだ。
事情を聞く形で水辺から陸地に誘ってみようと思う。
歌に対する対策としてはミミセンを持って行くつもりだが、事情を聞くために俺はミミセンが無い状態だ。
歌い始めたら反射的にセンをするつもりだが、失敗したら1T忘我するハメになる(申し訳ない
戦闘ではランスが「カナリアの囀り」を使うだろう。
さて、どうやってラミアが水に逃げるのを防ごうか。 -
2014/06/20-19:03
セイリュー・グラシアだ。
見知った顔ぶれで心強いぜ。
ラミア側の事情も気になるけど、
依頼内容的に戦わずに何とかする
という選択肢が無さげな雰囲気だよな。
話が出来ても魅入られそうだし。
でも何か悪さしている訳でもない相手と戦うのは気が引ける。
どうしようか、少し悩み中。