宴もたけなわ(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ウィンクルム達は実のところ、横の繋がりも縦の繋がりもしっかりとしていない。
 何しろ基本的に任務でしか知り合えないのだが、その任務も不定期で、決まったウィンクルムが必ず集まるわけでもなく、そして任務内容によっては単独行動の事もあるからだ。
 とはいえ、それこそ任務によっては協力しなければいけない事もある。
 まったくの他人よりも人となりを知っている方が、協力するにも都合や効率がいいだろう。
「そんな目的の下にこの交流会は開催されてます! 皆さん計画した支部長に拍手ー!!」
 ある地域のA.R.O.A.支部で恒例となった、地域のイベントホールを貸切っての交流会という名の飲み会。最初の挨拶をした司会の言葉に、集まったウィンクルム達は素直に拍手をした。
「えー、というわけで、本日は無礼講といいますか、友人を作るもよし、パートナーとの仲を深めるもよし、先輩後輩入り乱れてるから何か相談したり面倒見たりするもよし。まぁ、好きに楽しんで下さい」
 司会にマイクを渡されたこの辺りのA.R.O.A.支部の長は、ニコニコ笑いながらそこまで言うと、手に持っていたビールジョッキを高く掲げた。
「それじゃ、乾杯!!」
 宴会が開始された。広間のいたるところでグラスをぶつける音が鳴り響く。

「っかー! うめぇ!」
「やっぱ暑くなるとビールだよなー!」
 樽毎飲み干す勢いで飲んでいるのは、中堅のウィンクルム二人だ。
 とある事情からこの二人はA.R.O.A.職員に目をつけられている。
「飲みすぎるなよ」
 職員がじと目で二人を見るが、二人は職員から思い切り顔を逸らしてごっきゅごっきゅとビールを飲み続ける。
「飲ーみーすーぎーるーなーよー」
「わーかってるっつーの!」
「何だよもー、支部長が無礼講って言ってんのによー!」
「黙れ飲兵衛二人!! 毎回毎回馬鹿騒ぎしやがって!!」
 そう、二人は非常によく飲む上に、非常に性質の悪い酔い方をするのだ。
 この神人と精霊はいつも、他のウィンクルム、特に後輩ウィンクルムに絡んで大騒ぎをする。それはもう会場が滅茶苦茶になって人間関係も滅茶苦茶になる位に。
『交流会はいいけどあの馬鹿二人を黙らせろ』と、そんな苦情が来るほどだ。
 しかし、逆に『ああいう馬鹿がいると場が動いていい』と、そんな意見も出ているから、職員は「飲みすぎるな」と釘をさす位しか出来ない。
「す、すんませーん! コップ割っちゃったんすけどー!」
「あ、片付けます! そのままにして下さい! ……いいか、分かってると思うが、くれぐれも! 後輩を! 苛めるなよ!」
 コップを割ってしまったらしいウィンクルム達の方へ向かおうとする職員は、その前に既に酔い始めているウィンクルムそれぞれの腹に軽くパンチを叩き込んで睨みつける。
「ふぁーい」
「うぃーす」
 ウィンクルム達は笑顔で返事をし、手を振って職員を見送る。
 そのいい笑顔のまま、見送った姿勢のまま。
「別に俺たち、苛めてるつもりはないよな」
「おう、勿論」
 酔った二人は会話を始めた。
 止める者のいなくなった、ただひたすら暴走するだけの会話を。
「酒ガッツリ飲ませてリラックスさせてやるのはいい事だよな」
 アルコールハラスメントはやめましょう。
「後輩の悩みとか愚痴とか聞きだしてやるのは先輩の務めだよな」
 パワーハラスメントもやめましょう。
「大人になっていきなり飲むよりガキの時から慣れさせなきゃなぁ!」
 未成年者の飲酒は法律で禁止されています。
「飲めねぇって奴もここらでちょっと慣れさせなきゃなぁ!」
 下戸の人が無理に飲むと命に関わります。
「よっしゃ行くぞ相棒! 後輩ウィンクルムと絡む、じゃねぇ、話すぞぉ!!」
「おうよ相棒! さーて、最初の餌食、じゃねぇ、カワイイ後輩は誰だぁ?!」
 良い子も悪い子も真似をしないで下さい。
 良い大人も悪い大人もルールとマナーを守るよう心掛けて下さい。

「よぉ後輩!! 飲もうぜ!!」

解説

●会費 300ジェール

酔っぱらった先輩ウィンクルムが絡みに来ます。
飲めるなら飲みたいものを言えば注いでもらえるようです。
飲めないなら頑張って逃げるか、パートナーや仲間に庇ってもらいましょう。
ただし、上手く躱さないと無理やり飲まされるかもしれません。
普段飲まない人の酔った姿が見たいなら、パートナーや仲間を裏切ってみるのも一興。
酔っても酔わなくても「どうよ最近?!」「どうよパートナーは?!」と訊かれるようです。
訊きたい事があるなら逆に訊いてみるのもいいかもしれません。

ちなみに、何を言っても真っ当な答えなんて返ってきません。
この先輩ウィンクルムは、どう転んでもシリアスブレイカーです。

ゲームマスターより

ルールとマナーを守って楽しい宴会にしましょう。(棒読み)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  交流会としか聞いて無かったんだけれどお酒か……
うん、まあ。飲まなきゃ大丈夫、かな?

部屋の端の方でお茶を片手にのんびり
こうやってウィンクルムの方達を見ると壮観だよね
こんなにいらっしゃるんだ、と言うか

同輩方や先輩方がいらっしゃったらお話を
ん?アクアは頑張り屋さんだね。いい子だよ
最近は、何と言うか毎日が目まぐるしいよね

でも皆さんの話しの方が気になるな、なーんて
ああ、宜しければどうぞ。はい、アクアにも
(成人方にはお酌、未成年の方にはジュースかお茶を片手に)

お酒を勧められたらじりじり逃げるよ
いや、学生時代に若気の至りで飲んだことがあるんだけれど
何故か意識が次の日の朝まで途切れてるんだよ……不思議だよね



高原 晃司(アイン=ストレイフ)
  宴会って楽しそうだよな!!
目一杯楽しむ!
先輩の質問には
「ちょっとづつっすがウィンクルムの戦い方っていうのが分かってきた所っすね」

折角の機会だしちょっと先輩に質問でもしてみっかな
あ、ちなみに酒はアインが引き受けてくれるらしい!
「そういやぁ先輩達って付き合ってたり恋人だったりするんスか?」
それとも戦友とかそんな感じなんかな?
他のウィンクルムの関係ってあんまり聞けねぇからちょっち聞いてみてぇな

あとは絶対に酒でぶっ倒れる奴もいるし倒れた人の介護でもしておくかな
「大丈夫かー今濡れタオル持ってきてやるから」
濡れタオルと水を用意しておくぜ
この手の事は土木の方でもやってるから慣れてるしな


ラヤ(ウルリヒ=フリーゼ)
  うわーい人いっぱいいるねー!
とにかくはしゃぐ

ラヤはお酒飲んじゃだめなの?
みんなすごく楽しそうに飲んでるからラヤも飲みたーい
ちょっとだけ!だめ?…ちぇー(・3・)
いーもんラヤ遊んでくるー

いじけてウルを置いて歩き回るうちにアルコールの香りでちょっとふわふわルンルン
食べ物をつまんだりジュース飲んだり
誰かに話しかけられたら喜ぶ
しばらくしてふと周りを見回して寂しくなって戻る
ラヤ、ひとりだ…ふえぇウルー!

そのおにーちゃんたちだぁれ?
お、お酒くしゃい(ウルの後ろに隠れる

気付いたら先輩ウィンクルムのテンションにノってる
一緒になってウルに絡む
おにーちゃんたち楽しいねー♪
ウルおでこ抑えてどーしたの?痛いの?



アルクトゥルス(ベテルギウス)
  仕事柄、ついお酌に回ってしまいますねぇ…。あ、私などまだまだ若輩者ですのでこれから先輩を見習い精進いたします。
パートナーですか?素敵な筋肉ですよ。それより先輩、グラスが空ですね。
さ、どうぞ…では、私はパートナーの所へ行きますので…

あ、ベルたんのグラスは空いたかなぁ?ベルたんのビールはボクが注ぐよぉv
あぁ~飲み干す時の胸鎖骨乳突筋が素敵だよぉ…

って絡まれてますね。
ベルたんは無口でシャイだから先輩達が調子に乗るでしょうね……。ただ飲ませているだけでしたらベルたんが受ける内は我慢しますが、……ベルたんに暴言を吐かれたら、手にしたボトルをスイングさせてしまうかもしれませんね(ニコニコ)


■宴の前
「うわーい人いっぱいいるねー!」
 交流会が始まる前、会場に入った時点で興奮したのは『ラヤ』だ。
「そんなにはしゃがない! まだ始まってないんだから」
 今にも走り出しそうなラヤに『ウルリヒ=フリーゼ』は冷や冷やする。交友があるに越した事はないと参加を決めたが、どんな一日になるのか。

「交流会としか聞いて無かったんだけれどお酒か……うん、まあ。飲まなきゃ大丈夫、かな?」
 並んでいる飲み物を見て呟くのは『木之下若葉』。隣にいる『アクア・グレイ』が首を傾げる。
「お酒、ですか。弱いんですか?」
「いや、学生時代に若気の至りで飲んだ事があるんだけれど、何故か意識が次の日の朝まで途切れてるんだよ……不思議だよね」
「記憶が途切れるタイプなんですね。僕は一度口にした事がありますがあまり変わりは無かったですね」
 恥ずかしそうに「昔ちょっと間違えて飲んじゃって」と弁解する。そんなアクアに若葉は驚く。
「昔って、赤ちゃんの頃?」
 あれ、何かちょっと微妙にすれ違ってる気がする。
「いえ、五年位前の話ですけど……あの、僕もう十六ですよ……ワカバさん、たまに僕の事十二位だと思っていませんか?」
 じとりと上目遣いで訴えても、若葉は「そうだったね」と気にした様子を見せない。

「宴会って楽しそうだよな!! 目一杯楽しむ!」
 目に見えてわくわくしているのは『高原 晃司』で、その隣にいる『アイン=ストレイフ』も並んでいる酒の豊富さに「折角ですし酒を飲みましょうかね」とやはり少し笑顔を零して呟く。
「無理に酒を注がれそうになったらこちらへまわして下さい。こう見えてウワバミですので」
「へへ、ありがとな!」
 ニカッと笑う晃司にアインもふっと笑う。
 仕事の土木関連の仲間のおかげで飲み会自体には慣れている。それでも、アインのさりげない気遣いに嬉しくなった。

「まぁ、適当にお酌して回れば交流も出来ますね」
 会場を見渡して今日の予定を決めたのは『アルクトゥルス』。女性受けしそうな見目麗しい彼の横には、筋骨隆々としたパートナーの精霊『ベテルギウス』。
 その精霊が同意するように「……ッス」と言えば、アルクトゥルスの顔面がでれりと崩れる。
「ベルたんはお酌しなくていいから寛いでてね! あ、でもベルたんのビールはボクが注ぐよぉ! 安心してねぇ!」
 緩みきった笑顔で喋る青年が、先ほどまでの好青年と同一人物など誰が信じるだろう。

 司会の話が始まる。そして乾杯の音頭を取ろうと支部長が出てくる。
 それぞれの思いを胸に、A.R.O.A.支部長の「それじゃ、乾杯!!」という声を聞いた。



■飲めや歌えや暴れろ騒げ!!
「ラヤはお酒飲んじゃだめなの? みんなすごく楽しそうに飲んでるからラヤも飲みたーい! ちょっとだけ! だめ?」
「絶対だめ。だめったらだめ。大きくなってからな」
「……ちぇー」
 口を尖らせるラヤに気付いてないのか、ウルリヒはなおも続ける。
「俺はラヤの事を思って……ちょ、どこ行くのラヤ!」
「いーもんラヤ遊んでくるー」
 てててっと人ごみの中に入っていくラヤを追いかけようとした。
 しかし、それを邪魔する者が現れる。
「よぉ後輩!! 飲もうぜ!!」
 大分酒が入ったウィンクルムが二人、がっしりとウルリヒの肩を組んで動きを妨げた。
 うわお酒くさ。思わず頭の中で叫ぶ。逃げられないと感じてウルリヒは溜息を一つ。
(……まぁ、意外としっかりした子だから大丈夫か?)
 ラヤを信じようと決め、絡んできた相手へと意識を切り替えた。
「まぁ飲めよ、まさか飲めないとか言わねぇよな?」
「何でも飲めますよ。そうですね、じゃあウンダーベルグを」
 あるならな! とあまり見かけない薬草酒の名前を挙げる。
 だって酔っ払いうざい。まともな人と交流したい。
 しかし恐るべきはA.R.O.A.だ。金髪の精霊が「任せろ」と酒を取りに行く。あるのか。ウルリヒは若干顔が引きつる。
 酒は強い方で潰されるなんて事はない。
 なのに嫌な予感しかしない。肩にのしかかって「ウルリヒ? じゃあウルりんな!」と語る黒髪の神人の存在が不吉でしかない。
「んで、神人はどうよ?」
「どうってまぁ、良い子ですよ、時折やんちゃが過ぎますが」
「子? ちっこいの?」
「はい。俺は……あの子をしっかり育てなきゃいけないんです」
 ぎしりと胸がきしむ。よぎるのは自分が逃げ出した日。ただの精霊であった時の過ち。
 罪悪感と責任感の先にある、ラヤという存在。
「事情があるんだな?」
「いや、その……」
「無理に話さなくていい」
 うつむいてしまったウルリヒに、黒髪の神人が真面目な顔で首を横に振る。
 労わるように、そっと。
「ていうか興味ねぇし今そんな話いらねぇから酒飲め酒!!」
 そっと回り込んで羽交い絞めにしてきた。
「お待たせ!」
「うごッ?!」
 帰ってきた金髪の精霊に掌程の大きさの瓶、ウンダーベルグを口に突っ込まれる。
「っ……ぶは! 何するんですか?!」
「はい、ご馳走様がー?!」
「聞こえなーい!!」
「ちょまッ無理ぶふッ?!」
 目の前の金髪の精霊の腕の中を見ると、瓶がまだまだ用意されている。
 嫌な予感が当たった……!
 喉を焼く酒を味わいながら、拘束から抜け出すべく力任せに暴れだした。

 周りのアルコールの香りと飲み会特有の空気に酔わされ、ラヤはだんだんと機嫌がよくなってきた。
 ふわふわルンルン。食べ物は美味しいし、ジュースも美味しい。話しかけてくる人達も優しくて気分は最高。
 最高だけど、周りは二人で行動している人が多い。
 いつも一緒にいる人が、今、いない。
「ラヤ、ひとりだ……ふえぇウルー!」
 わぁん、と泣きながらラヤはウルリヒの姿を探し出した。
 そして見つけ出したのは、知らない二人と対峙し、肩で呼吸をしているウルリヒ。
「そのおにーちゃんたちだぁれ?」
「ん、ラヤ? おかえり」
 袖を引いて尋ねると、ウルリヒはほっとした笑顔になった。それを見てラヤも涙を拭いて笑顔になる。
「かっわいー!! ウルりんの神人可愛い!!」
「お、お酒くしゃい」
 顔を覗き込んできた先輩ウィンクルムから逃げるようにラヤはウルリヒの後ろに隠れる。
「おいでー、チョコあげるよー」
「ホント? ちょうだい!」
 しかしすぐ釣れた。
「マジかわッ……さて、そろそろ他に行くか」
「そうだな、それじゃあな、ウルりん!」
 チョコを食べるラヤを小脇に抱え、爽やかな笑顔で立ち去ろうとする二人。
 あ、だめだこいつら。
 悟ったウルリヒはやはり爽やかな笑顔で「警備会社員の実力を見せる時が来ましたね」と言いながらラヤ奪還に乗り出す。
「邪魔すんな可愛いものは老若男女問わずオレのものなんだよ!!」
「何処の王様ですか!!」
「ウルかっこいー! がんばれー!」
「ラヤも抵抗しろ!!」
 楽しんでいるラヤをようやく奪還した時には、迷惑な馬鹿二人は走り去っていた。
「おにーちゃんたち楽しいねー♪ あれ? ウルおでこ押さえてどーしたの? 痛いの?」
 見送る無邪気な声が、ウルリヒの頭痛を酷くした。


 沢山の人を部屋の端でのんびりと眺めている若葉。その周りをお茶を持ちながら元気に動き回るアクア。
「こんなに人が……! なんだか壮観ですねっ」
「うん、こうやってウィンクルムの方達を見ると壮観だよね。こんなにいらっしゃるんだ、と言うか」
「お話ししたいです! 色んな方と話せる機会ってこんな場所じゃないとあまり無いですしっ」
 瞳をキラキラさせるアクアに、若葉は微笑みながら「そうだね」と答える。
 話しやすそうな人は、と探し始めた時。
「可愛い子発見!!」
「綺麗な人も発見!!」
 馬鹿二人が現れてしまった。
「後輩か? よし、語ろうぜ!」
「ぶっちゃけ相方どう思ってるよ?!」
 けれど話し相手が来たと、二人は会話を始めてしまった。
「えぇと、相方? アクアは頑張り屋さんだね。いい子だよ」
 本人がいる前で平然と答えれば、アクアが顔を真っ赤にして、けれど嬉しそうに笑う。
「カワイイ!!」
 そんなアクアを見て、金髪の精霊が両手で顔を押さえて悶えた。わぁ変な人。若葉はそう思ったけど笑って流した。
「それで麗しい神人さん、最近どうよ? 俺みたいな彼氏欲しくない?」
 わぁこっちも変な人。若葉はまたそう思ったけどやはり笑って流した。
「最近は、何と言うか毎日が目まぐるしいよね」
 顕現し、アクアと契約を結んでウィンクルムになり、幾つかの依頼もこなし。
 こんな日々が来るなんて思いもよらなかった。
「でも皆さんの話の方が気になるな、なーんて。ああ、宜しければどうぞ」
 今更の様に気付いて近くにあったビール瓶で酌をすると、馬鹿二人は大喜びですぐ飲み干した。
「はい、アクアにも。こっちのお茶も変わってるよ、どうぞ」
 若葉がアクアにお茶を渡す。
「はい、若葉ちゃんにも。ロングアイランドアイスティー美味しいよ、どうぞ」
 黒髪の神人が若葉に飲み物を渡す。
「あの、お酒はちょっと……」
 甘い香りに警戒して断るが、黒髪の神人は引かない。
「違ウヨ、アイスティーダヨ」
 何故棒読みなんだ。そう思いながら後ずさる。アクアが「ワカバさんお酒弱いんです! 無理です!」と訴えるが、金髪の精霊が「庇うアクアたんも可愛いッ」と見当違いの事を言う。本当にだめだこいつら。
「……一口、だけ」
 壁際に追い詰められ、逃げられないと思った若葉は口をつける。それに「よっしゃグイッといこう!!」と二人が腕を振り上げ囃し立てる。
 と、その腕が近くにいた誰かにぶつかる。
「あ、わりぃ……?!」
 そこには、新人ウィンクルムにしては貫禄と筋肉がありすぎるアインがいた。
「いえ、大丈夫ですよ」
「アイン、どうした?」
 見た目に反して紳士的なアイン。その後ろから顔を出す元気印な少年の晃司。
 やだ、こっちも弄ったら面白そう!!
「よしせっかくだから飲もうぜ後輩!!」
「二人の名前なんてーの?!」
 標的を変えた二人は、若葉とアクアの頭をわしゃわしゃと撫でて「元気でな!」と言って晃司達に絡みに行った。
 嵐が去った。
 そんな心地でアクアが息を吐くと、隣の若葉がずるずると沈み込む。
「あれ? ワカバさんどうしたんですかしゃがみ込んで」
 自分もしゃがんで尋ねると、若葉はとろんとした目で「眠い」と言った。
「眠いって、わあ! 此処で寝ちゃ駄目ですよっ! ……って、もう寝てます」
 止める間もなく床に寝転がった若葉は寝息を立て始めた。
「意識が途切れるって、即行で寝ていたんですねワカバさん……」
 弱いにも程がある。アクアは若干遠い目をしながら若葉の頭を撫でた。撫でられてる事など知らない若葉が、それでもうっとりと微笑んだ。


 注がれる酒の種類の確認もせず飲んでいくアインに、馬鹿二人は「アイン先輩カッケー!!」とゲラゲラ笑う。完全に酔っている。
「晃ちゃんどうよウィンクルムは?」
 金髪の精霊がアインに色々な酒を注いでいる横で、黒髪の神人が晃司に絡む。
「んー、ちょっとずつっすがウィンクルムの戦い方っていうのが分かってきた所っすね」
 答えて、逆に晃司が質問をする。折角のこの機会、聞いてみたい事があったのだ。
「そういやぁ先輩達って付き合ってたり恋人だったりするんスか? 他のウィンクルムの関係ってあんまり聞けねぇからちょっち聞いてみてぇなって思って」
 黒髪の神人は鼻で笑う。
「それはないわー」
「え、そうなんすか? じゃあ二人は戦友とかそんな感じなんかな?」
「戦友ってか親友? オレが思うに、ウィンクルムの愛って、それが友愛でも家族愛でも恋愛でも愛なら何でもいいんだよ。多分」
 その答えにほっとする。今の晃司とアインは家族が一番しっくりくる。家族愛ならば自信を持ってあると言える。
 けれど、心の何処かががっかりしたような。
「?」
 感情の微かな揺れに首を捻る。それを誤魔化すように近くのお茶を飲んだ、瞬間。
「まぁオレはあいつのケツ狙ってますが!!」
 ぶふぅッ!!
 爆弾発言に思わず噴いた。そして咽た。
「おや? グラスが空いてますね? 注ぎましょう」
「アイン先輩ジョッキでワインはちょっと無理!!」
 咽ている晃司を庇うように、アインが馬鹿二人にビールジョッキを持たせてワインを注ぐ。
 どうやら馬鹿二人は潰すべきと判断したらしい。正しい判断だ。
 ようやく呼吸が出来るようになった晃司は、少し離れたところで潰れている若葉に気付き介護に向かう。別に変な先輩から逃げたわけではない。断じてない。
「大丈夫かー、今濡れタオル持ってきてやるから」
 仕事仲間との間でもよくある慣れたやり取りを始めた晃司。その様子を横目で確認してからアインは口を開く。
「冗談が上手いですね」
「あらら、アイン先輩騙せねぇか」
「うん、ケツ狙ってねぇよ。こいつの為なら死ねるけどそういう感情は持てなくてさぁ」
 軽口の間に挟まれた言葉は重さがあり、確かにそう思っているのだという事が伝わる。
 そういう愛もあるのか。
 アインが口の端をあげ目を伏せる。
「…………溢れてますが」
 そしてワインと焼酎が自分のジョッキに注がれ続けてるのにようやく気付く。
「気にすんなって!!」
「はい、一気! 一気!!」
「はぁ、いいでしょう」
 これも交流。焼酎ワイン割りを一気に飲む。何だこれ不味い。酒が可哀想。しかし、馬鹿二人は「ひゃっはー!!」「イッケメーン!!」と盛り上がる。
「晃ちゃんも飲めってあれ? 意外とゴツい身体して……」
 肩をたたいた相手はさっきまでの相手ではない。
 肌は浅黒いし、耳はファータ特有のとがった耳だし。
 偶然歩いていてその位置に来てしまっただけの、まったくの別人。
 ただし、アインと同じように。
「マッチョが増えたーッ?!」
 そう、そこにいたベテルギウスもマッチョだった。


「仕事柄、ついお酌に回ってしまいますねぇ……あ、私などまだまだ若輩者ですのでこれから先輩を見習い精進致します」
 歌うように周囲のウィンクルムと会話をするのはアルクトゥルス。元執事で現ウェイターの彼にとって何の苦労もなかった。
 そんな神人から少し距離を取りながらついていくベテルギウスは、恥ずかしさから周りと殆ど話せていない。
「どんな精霊なんだい?」
 気遣って話を振る壮年の神人に、アルクトゥルスは変わらぬ笑顔で答える。
「パートナーの事ですか? 素敵な筋肉ですよ」
「筋肉?!」
「それより先輩、グラスが空ですね。さ、どうぞ。では、私はパートナーの所へ行きますので……」
「筋肉……ああうん、まぁいいや、じゃあ」
 壮年の神人は生暖かい目でアルクトゥルスを見送った。
「あ、ベルたんのグラスは空いたかなぁ?」
 さっきまでとは違う甘ったるい声で酌をする。ベテルギウスは「……ッス(ありがとうございます)」とマイペースにビールを飲む。
「あぁ~、飲み干す時の胸鎖骨乳突筋が素敵だよぉ……」
 小さく呟いた時、他のウィンクルムがアルクトゥルスに話しかけた。声をかけやすいのだろう。
 そんな事を何度か繰り返して。
 ベテルギウスは一人でいる時間が多かった。しかし声をかけやすい風貌ではなかった。そして自ら声をかける様な性格でもなかった。けれど別に一人が好きというわけでもなかった。
 だから、それが勘違いから始まったものでも。
「今マッチョ流行ってんの? アイン先輩とベテるんでダブルマッチョじゃん!!」
「ベテるんて呼び方だとベテランみたいじゃね?! ベテるん実はベテランだろ!!」
 わけのわからない事で笑い転げている相手でも、話しかけられた事が嬉しかった。
「で? 最近どうよ?」
「……ッス(まだまだこれからです)」
「パートナーとはどうよ?」
「……ッスね……(面白い人ですね。自分に声をかけてくれたり……)」
「……」
「……」
 沈黙。
「お前ワケわかんねーんだよ! もっと喋れよ!!」
「潤滑油が足りないんだな?! 酒という名の潤滑油が!!」
 そして爆発。暴走。「ベテるんのー! ちょっといいとこ見てみたいー!!」と煽りが始まる。
 ベテルギウスはどんどん飲まされる。注がれるだけ飲んでしまうし、顔に出ないのも災いした。限界が近づいてきても上手く断れない。馬鹿二人の悪乗りは止まらない。
 そこへ現れたのは。
「ベルたんは無口でシャイだから先輩達が調子に乗るんでしょうね……」
 怒気を隠そうとしないアルクトゥルスがゆらりと近づく。
「ただ飲ませているだけでしたらベルたんが受ける内は我慢しましたが……ベルたんに暴言を吐かれたら、手にしたボトルをスイングさせてしまうかもしれませんねぇ」
 言いながら既に空のボトルをぶんぶん振り回している。ニコニコと笑顔で。
「ベテるん声張れよ! とりあえず此処で今すぐ大声で歌ってみろよ!!」
「わぁ、うっかり手が滑っちゃった☆」
「がふッ?!」
「相棒?!」
 アルクトゥルスがまずは金髪の精霊の頭をボトルでぶん殴った。金髪の精霊はぶっ倒れて意識が飛んだ。
「ど、どちら様?」
 後ずさる黒髪の神人は引き攣り笑いで尋ねる。アルクトゥルスは満面の笑みで答える。
「アルクトゥルスといいます。私のパートナーがお世話になったようで、ちょっとご挨拶を肉体言語で」
「それは挨拶とは言わないと思うなぁ!!」
「相互理解にはまず会話ですよ!!」
「ボトル投げんのは会話じゃぐはッ?!」
 投げたボトルが見事黒髪の神人の頭に当たる。
 跳ね返ったボトルがくるくると天井高く飛ぶのを、ベテルギウスは祝砲か何かのように見ていた。

 それが最後だった。



■宴もたけなわではありますが
 アインは密かに心配していた。
 標的にされたベテルギウスはまだ年若く飲み慣れていないのではないか。そろそろ限界ではないか、と。
 アルクトゥルスが馬鹿二人を討ち取った、次の瞬間。
 悲しいかな、アインの心配は的中する。
 ベテルギウスの手からグラスが滑り落ち、硬質な音を立てて割れた。
「ベルたん?!」
 ぐらりと傾くベテルギウスに咄嗟に手が出たアルクトゥルス。
 横から手を出して無理矢理体をねじ込んだ状態では支えきれず、倒れるベテルギウスに巻き込まれて倒れていく。
 そこへ色々予測していたアインが二人を抱きかかえるように受け止めた。
 体格が良く、普段から鍛えているアインだからこそ出来た力業だろう。見事二人を支えて倒れるのを防いだ。
 しかし。
「えと、生きてるか……?」
 若葉の介護から戻った晃司が訊くのも仕方がない。ベテルギウスとアインというダブルマッチョに挟まれたアルクトゥルスは、ピクリとも動かない。
 だが、動かないのはダメージを負ったからではない。
 状況を満喫していたからだ。
「き、筋肉に挟まれた此処はつまりマッスルヘヴンっああ目の前にベルたんの麗しい僧帽筋と芸術的な広・背・筋!! ひゃっはぁぁぁあぁんッがふぅ?!」
 そこへさっき投げたボトルが落ちてきて、神懸り的な確率でアルクトゥルスの頭に直撃した。
「アルクトゥルスさーん?!」
 晃司の叫びをBGMに、アルクトゥルスは涎を垂らしながらの至福の笑みで気絶した。
 完全に脱力した事でアインへの負担が更に増えて流石によろける。それを慌てて支える晃司。
「みんな寝てるの? でもラヤさっきお酒飲めば治るってきいたよ!」
 そこへワインボトル片手に登場したのは、謎の知識を語るラヤ。手始めにと、寝ている若葉にワインを飲ませようとボトルを傾ける。
「ワカバさんが殺されるー!!」
 身を挺して若葉を守るアクア。
「誰に聞いたそんな嘘! あ、でもその馬鹿二人になら試していいよ、うん」
 必死にラヤを止めながらも、さりげなく先輩を切り捨てるウルリヒ。
「ていうか誰か手ぇ貸してくれーッ!!」
 叫ぶ晃司を振り返った瞬間、マッチョ二人と細マッチョ二人のサンドウィッチが、大きな音を立てて雪崩のように倒れこんだ。


 大惨事となったその場に、A.R.O.A.職員達が慌ててやってきた。
 まずは問題の中堅ウィンクルム達が「お前らホント大概にしろよ!!」と怒鳴られながら引き摺られ、意識が戻らないまま何処か謎の場所へと放り投げられる。
 そして物理的に潰れた者や酒で潰れた者を助け出したその後は。
 疲れたからと引き上げるのか、また楽しく笑いながら飲んで交流するのか。
 すべては参加者次第。
 宴の終わりは、まだ見えない。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 06月17日
出発日 06月23日 00:00
予定納品日 07月03日

参加者

会議室

  • [7]ラヤ

    2014/06/22-21:41 

    ウルリヒ:
    おお、参加者の方が増えてますね、よかった。
    改めて初めまして、ラヤの精霊のウルリヒ=フリーゼです。よろしくお願いしますね。

    ラヤは酒を飲みたがると思いますが、ジュースで我慢してもらいましょう。
    拗ねてどこかへ行かないといいのですが…(フラグ

  • [6]アルクトゥルス

    2014/06/22-13:13 

    ラヤさん
    こんばんは。
    交流会の席ではどうぞよろしくお願いしますね。
    可愛らしい神人さんをお連れですと、先輩方からお護りしなくてはなりませんね。ウルリヒさんの健闘を祈ります。

    木之下さん 高原さん
    こんばんは。私も酌をしに方々伺う予定なので未成年の方々に進めない様に気を付けますね。
    お互い飲み過ぎた酔っ払いには気をつけましょう。

  • [5]高原 晃司

    2014/06/22-01:01 

    滑り込みその2!!高原晃司だ
    アインは酒を飲むみたいだが俺は未成年なんでソフトドリンクでも飲むかなー
    よろしくな!

  • [4]木之下若葉

    2014/06/22-00:56 

    おっとっと、滑りこみ参加で申し訳ない。
    今晩は。木之下とパートナーのアクアだよ。
    宜しくお願い致します、だね。

    俺達は未成年だから、お茶でも飲みながらのんびりしている予定だよ。
    交流会、無事に過ごせればいいんだけれどね……(

  • [3]ラヤ

    2014/06/21-20:26 

    わぁい!人が来たよウルー!

    ウルリヒ:はしゃいでないで挨拶。

    うぇい…はじめまして、ラヤです(ぺこっ
    二人とも背たかいねー(見上げてぴょんぴょん

    交流会で会ったらよろしくだよー♪

  • [2]アルクトゥルス

    2014/06/21-19:10 

    こんにちは、最近ウィンクルムになったアルクトゥルスといいます。
    こちらは精霊のベルたんv

    交流会との事で先ずは皆様と親睦を深められたらと思い参加しました。
    私達はどちらも成人しているので楽しく飲もうと思います。

    ベルたんに絡んできてベルたんの筋肉に触られたら……
    ボクはこのワインの瓶を振り抜きそうだよぉ……

    「……ッス……自分……飲み会慣れてるんで……」

  • [1]ラヤ

    2014/06/20-19:57 

    まだ誰も居ないけどとりあえず挨拶。
    ラヤの精霊のウルリヒ=フリーゼです、よろしくお願いします。

    新米ウィンクルムということで交流会に参加しようかと。
    ラヤには絶対飲ませませんので安心してください
    先輩方も子供には飲ませようと迫ってこないでしょう。……大丈夫ですよね?(不安


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