あなたと永久に(草壁楓 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●老いても

 長き戦いが終わり、平穏が訪れてどれぐらい経ったのだろう。
 長い長い人生の中、さまざまなことを経験し、その中で幸せや苦労、いろいろなことを体験してきた。
 神人としてパートナーとなる精霊と契約。
 ウィンクルムとなりオーガと戦う。
 精霊との絆。
 心を許せる存在との出会い。
 思い返せば多くのことが貴女の頭の中を走馬灯のように駆け巡る思い出。

「どうかしたの?」
「いいえ、何も……」
 老齢となった貴女とパートナー。
 ウィンクルムとして戦ったのはもう遠い昔の思い出。
 
 暑さも弱まった秋空を眺めながら2人は和菓子とお茶を楽しみつつ思い出話を話し出す。
 初めて会った時。
 心にある想いを打ち明けたあの日。
 初めて交わした大事な約束。
 手を重ね、唇を重ねたくすぐったい思い出。

 どんなに話しても話したりない……。

 あと……何年一緒に過せるのか……。
 お互いの顔を見れば髪は白くなり、顔には皺も刻まれている。
 でも、少しも変わっていない。
 あなたと出会えてどんなに幸せだったのか……ちゃんと伝わっているのか……。
 本当に愛しい人。

 あなたのその背中に守られた……その変わらぬ笑顔を一生忘れることはない。
 お互いの命の灯火が消えようとも……パートナーとは永久に。

解説

【目的】
 ●老齢となった2人、現在どうしているのかをお見せください。


【場所や状況について】
 ●場所はどこでも構いません。お好きな場所でお過ごしください。
  (自宅、どこかのカフェ、想い出の場所等)


 ●どのような状況で老齢の2人が過しているのか等。

  例:・自宅でのんびりとお茶をすすりながら会話。
    ・自宅に子供や孫などが遊びに来ていて楽しく過している。
    ・どちらかが病気や怪我をして病院にいる。
    ・悲しいですが、そろそろ永遠の別れが近そうな状態。

    上記例以外でも、お好きな設定をしてください。
  

【書いていただきたいこと】
 ・お互い何歳ぐらいになっているのか
 ・どのような場面でどのような話しをするか
 ・現在の2人の関係等(家族になっていて子供がいる、親友になった等)
 ・今後の2人について


【注意・その他】
  ・プランに準ずる描写をいたします。
  ・公序良俗に違反する内容は描写できかねますのでご注意ください。
  ・アドリブが入る場合がございます、NGな方はプランに『×』とお書きください。

 お茶代等として300jrいただきます。

ゲームマスターより

 ご閲覧誠にありがとうございます。
草壁 楓です。

 老齢になったウィンクルムはどうなるのか、と思い今回のエピソードを思いつきました。
幸せな大家族になって良い老後を、はたまた肉体はなくなってもウィンクルムは永久に共に……ではと考えてはいます。

 草壁の女性側最後のエピソードとなります。
今までご参加いただいた皆様大変ありがとうございました!
どこかでまたお会いできたら、今後もよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)

  歳:共に70代程

場所
閑静な住宅街にある元精霊宅現自宅

夜、二人寄り添って二つの月を眺める事が多くなった
ウィンクルムにしか見えないテネブラをぼんやりと、まったりと
精霊…夫の努力が認められて小さいながらも自分のお店を持ったのは何時の話だったか

月光の中話題は決まって子供達の話
あなたあなた。ノイアね、また子供を授かったそうなのよ
先生によると双子かもしれないですって
最近の検査技術は凄いわよねぇ

また賑やかになるのね…会うのが楽しみだわぁ

あの子達私達があるって言っても半信半疑だものねぇ…
テネブラもウィンクルムも…オーガも、こうして本でしか見れない存在になってしまうのねぇ…


…ねぇ、“ガルヴァンさん”?
今、幸せ?


アデリア・ルーツ(シギ)
  54歳になったアデリアと52歳になったシギ。
結婚して、子供も出来て。2歳になる孫もいる。

シギは実家の骨董店を継いで。
アデリアは嫁に入った。
裏庭で家庭菜園して。実家からは野菜を送られる。

子供は3人いて。2番目の息子がアデリアの実家の農業を継ぐと勉強中。
1番目の長女は既に嫁いで、実家に顔を見せに来ていた。
3番目は就職活動中。

そんな経緯。


●平穏な日常

 あれからどれぐらいの月日が流れたのだろう。
 オーガが消え、街や村の復興も終わり、ウィンクルムは存在しても今は名だけとなった。
 骨董店を営む家の長男として産まれたシギはその後家業を継ぎ、アデリア・ルーツはそこへ嫁入りした。
 ウィンクルムとして戦った日々、悲鳴やオーガの声が聞こえた日々なども今は遠い昔。
 穏やかな日常を繰り返したアデリアとシギのある夏の日の話である。

 アデリア54歳。
 シギ52歳。
 骨董店を営んで数年。経営も問題なく生活に困ることはない。
 子供は3人いる。
 1番目の長女は既に嫁いで、幸せな日々を暮らし、2番目の息子がアデリアの実家の農業を継ぐと勉強中。
 3番目は忙しく就職活動をしている。
 そして長女の娘である2歳の孫が1人。

 裏庭ではアデリアは家庭菜園をし赤く熟したトマトを収穫していた。
「お母さん!ただいま!」
 アデリアの長女が2人に顔を見せに来たようだ。
「お帰り」
 トマトを片手にアデリアが振り返ると長女とその足元にいる2歳の孫。
「ばぁーば!」
 そう言うと孫はアデリアにしっかりと抱き付いた。
 まだ2歳、歩きもままならなく、言葉も舌足らず。
「あらあら」
 そんな様子にアデリアの顔が綻ぶ。
「いらっしゃい!トマト獲れたわよ」
 そう言うとエプロンで軽くトマトを拭き孫の目の前へと差し出す。
 それを嬉しそうに受け取ると、大きな口を開けてガブリとそれを食べる。
「ばぁーばのトマトおいちい!」
 その笑顔を見ればアデリアの心に暖かい灯が宿る。
「あれ?お父さんは?」
 いつもなら店先に居る父シギの姿がなかったと言われ、アデリアも不思議顔。
「おかしいね……今日は居るはずよ……」
 トマトを収穫していた手を止めると、アデリアは骨董店へと足を運ぶ。
 それと同時に娘と孫は居間へと移動する。
「シギー?いないの?」
 店裏から声を掛けても返答はない。
 店先を見ればドアは空いているし、居ないはずはない……いったいどこへ。
「あの子たちがきてるよ!」
 そう言いながら店中を探すが気配もない。
「どこかに行くなら言ってよ……」
 少しため息混じりにそういえば……
「おい!」
 後方から声がする。
「?」
「ここだ!」
 声のする方へと顔を向ければそこはガレージ。
 どうやらシギはバイクプラモの組み立てをしていたようだ。
「どこ行ったのかと思ったよ!あの子たちが来てるから……」
「お!きたのか!今行くぜ」
 そのシギの顔は昔とそんな変わらない。
 瑠璃色の瞳に猫っ毛のミディアムヘア……少しは老けた気がするけども……。
「じぃーじ!」
 シギを呼ぶ孫の声。
「今行くぜーー」
 そう言いながらシギは笑顔で居間へと足を向ける。
「シギ!お店は?」
「誰か来たらわかるだろ」
 シギは早く孫の顔を見たいのか軽い足取りで去っていく。
 
 ふと、アデリアは辺りを見回した。
 嫁いでここに住み始めて何年経ったのだろう、と。
 夫婦という呼び名の関係になり、数年経過後に第一子が産まれ、そして初めての子育て。
 産まれた時、シギは今までにないほどの笑顔で娘を抱えた。
 宝物のように、優しく、でも少し恐々と。瑠璃色の瞳を見たとき『俺と同じ色だ』とはにかんだ。
 いつもは少し子供のように素直じゃない時があったり、結婚してもアデリアはかわいい弟のような存在である気持ちは残っていた。
 でも2人の子供が産まれればそうではなかった。
 父と母。
 ウィンクルムのパートナーであった2人。
 愛を高めて戦い、絆を深め、そしてパートナー以上の存在にお互いがなった。
 夫婦になり新たな形の親となり、絆はどんどん深くなる。
 第二子は男の子。
 翡翠色の瞳はアデリアにそっくりで姉になった長女は弟の頬を軽く突き、アデリアも一緒に突く。
 そんな様子にまたシギは幸せそうに2人を見つめつつ微笑む。
 第三子ともなれば子供の世話に追われる中で、産まれた子。
 慌しく産まれはしたが、家族に見守られながら幸せな風の中で誕生した。
 アデリアもシギも忙しそうにしながらも子供たちに精一杯の愛情を注ぎ込んだ。
 更にそれから数年、子供たちも巣立ち、あと残るのは第三子のみ。
「早いね……もう孫までいるよ」
 幸せそうな微笑でアデリアが言えば、
「すみませーん」
 と店内に男性の声が響き渡った。
「はーい」
 物思いに耽っていたら、と少しはにかみ店先へと移動する。
 そこには大きな箱を抱えた宅配の男性。
「お届け物です!」
 元気良く差し出された箱を見れば、そこにはアデリアの父の名前。
 品名には『野菜』と書かれている。
 伝票にサインをしお礼をいい受け取ろうとすると横から箱を奪われる。
「お袋、居間でいいの?」
 箱を横から攫っていったのは第三子の次男である。
「え、えぇ……おかえりなさい、もう面接終ったの?」
「うん、終って帰ってきたぜ」
 次男は年々シギに似てきている。
 ウィンクルムとして共にいた、あの頃にシギに。
 そしてシギもまたこうして昔はよく荷物を率先して持ってくれたな、なんてまた顔が綻ぶアデリア。
 もちろん今だって持ってくれるが。
「あれ?姉貴たちきてるの?」
「来てるよ」
 軽い会話をしながら2人は長女と孫、そしてシギのいる居間へと歩む。
 この子も随分背が高くなったな、なんて自分と比べつつ。
「おかえり!」
 孫を膝に座らせてすっかりおじいちゃんの顔をしているシギ。
「ただいまー。お袋ここでいい?」
「ありがとう、ここで大丈夫よ」
 三男に置いてもらった箱を開けると夏野菜が沢山入っている。
 きゅうりにトマト、ナス、カボチャ、そしてとうもろこしなど多くの野菜が入っている。
 箱の中を更に覗けば1通の手紙が入っている。
『元気?』
 の出だしから始まると、そこには第二子である長男の文字。
 今回送った野菜の一部は長男が作ったものであると記載されている。
 長男は現在アデリアの実家の農家で勉強しながら、跡継ぎになるべく野菜を作っている。
 前年より遥かにいい出来栄えにシギは孫と共に箱を覗き嬉しそうにしている。
「おじちゃーのやしゃい、おいしそう!」
 孫が嬉しそうにとうもろこしを手に取ると、
「うまそうだ!食べるか?」
 シギが孫にそう言うと、彼女は大きく頷いた。
「アデリア、頼む」
 シギが言いながらとうもろこしを数本取り出しアデリアに手渡す。
 『アデリア』……今は簡単にそう呼ばれる自分。
 その昔彼はなかなか名で呼んでくれることはなかった。
 『あんた』それが昔自分を呼ぶシギの声だった。
 いつからだろう、こんなに自然に自分の名を呼ぶようになったのは……もう遠い昔で、思い出せそうにない。
「大丈夫か?」
 考え込んでるアデリアにシギは心配そうに顔を覗き込む。
 近くで見れば幾分かはお互い年を取った顔。
 でもお互いアデリアはアデリアで、シギはシギ。
「大丈夫だよ」
 とうもろこしを全て手渡されるとアデリアはキッチンへと向かった。

 長男の送ってきた夏野菜で夕飯を作り、それを夫のシギ、長女と孫に次男と会話を楽しみつつ食事を済ませた。
 会話は昔の話から現在に至るまで、そしてアデリアとシギがウィンクルムだった話にまで及んだ。
 オーガとの激闘の話になれば、孫は御伽噺を聞いているように聞き入り、そのうち眠りに付いた。
 気持ち良さそうな寝顔をシギは見つつ頭を撫ぜ、穏やかな表情を浮かべている。
 今の若いものからすればオーガとの戦いは少し昔の話。
 平穏で笑顔が溢れている日常。
 アデリアとシギがウィンクルムとして戦ったのだ、そして他ウィンクルムも。
 だからこそ今、この時が訪れている。
 会話が終ると長女は孫を抱きかかえて帰路に付き。
 次男は明日の面接の準備があると自室へと入っていった。
「手紙……あいつ頑張ってんだ……」
 長男の送ってきた手紙を眺めつつシギはそう言った。
「そうね……美味しかったよ」
 夕飯の後始末も終わりアデリアが麦茶の入ったコップを2つ手にシギの隣へと腰を下ろす。
「そうそう、ここに」
 シギは言いながら手紙の一部に指を差す。
 『今年の冬はそちらに帰ります。嫁候補を連れて』
「まぁ……」
 アデリアは両親からそんな話は聞いていない、と驚きつつ何度も手紙を見返す。
 いつの間にそんな……、でも今日の野菜を食べれば分かるのだ、長男も長男で精一杯頑張って成長しているのだと。
 麦茶を一口喉に流し込むと、
「来年も忙しくなるぜ」
 とシギの顔にはまた幸せそうな表情が生まれる。
 それにつられてアデリアも口角を上げてシギを見つめた。

 それからも2人は共にいる。
 アデリアの横にはシギ。
 そしてその後ろには子供たち、そして孫たち。
 多くの人に囲まれて幸せで平穏な日常をずっと過していくことだろう。
 どんなに2人に老齢という皺が刻まれていっても。


●月光の中で

 閑静な住宅街にあるとある屋敷。
 静かに時を過している70代の男女がいる。
 アラノアと彼女の精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドである。
 ウィンクルムとして戦った日々も今では遠く遥か昔の話。
 現在はガルヴァンの住居だった屋敷が自宅になっている。
 老齢となった2人……昔に比べれば皺も増えた。
 ウィンクルムとして契約し、戦いに赴きオーガを倒す。
 今他のウィンクルムだった者たちはどうしているだろうか……。
 そんなことをアラノアは考えつつガルヴァンとともに屋敷のバルコニーから空を眺めている。
 そんな夏の終わりのとあるアラノアとガルヴァンの一時の話である。

 空には2つの月。見える月『ルーメン』と見えぬ月『テネブラ』が金色とも銀色とも言えぬ色彩を放ち眩く光っている。
 最近こんな日々がたまにある。 
 ガルヴァンがバルコニーに出ればアラノアも自然とそれに付いていき、バルコニーにある椅子へと腰掛ける。
 もちろん2人寄り添って、ゆったりと。
 あれからガルヴァンはジュエルデザイナーとしての努力が認められ小さいながらも自分のお店を持った。
 あれはいつの話だっただろうか……。
 傍らにいるガルヴァンを見つめつつアラノアは思い出そうとしつつ軽く微笑む。
 ここにいるときは決まって同じ話題である。
「あなたあなた。ノイアね、また子供を授かったそうなのよ」
 アラノアがそう言えば、ゆったりとガルヴァンはアラノアに視線を移す。
「ノイアが?そうか……それはめでたいなぁ……」
 そう、子供の話。
 2人は結婚後3人の子宝に恵まれた。
 先ほど出てきたのは次女のノイアである。
 夫、2人にとっては義理の息子と共にアクセサリー業界で働く一児の母。
 その次女が新たに子宝に恵まれたのである。
 長女のルヴィは二児の母で専業主婦。
 子育てに奔走しつつ、孫を見せるために時折2人を訪ねてくる親孝行な娘。
 そして末っ子長男であるヴァレリア。
 今は世界を一人旅する芸術家の卵である。
 アラノアはノイアの話をガルヴァンへと嬉しそうに続ける。
「先生によると双子かもしれないですって」
 その言葉にガルヴァンは驚きを隠せず、瞼を大きめに開きアラノアを見る。
「双子かどうか分かるのか?」
 自分たちの時代を考えればそんな直ぐにはわかることではなかった。
 『大きいから双子かもね』なんて言われるぐらいで……。
「最近の検査技術は凄いわよねぇ」
 ガルヴァンの驚きを納得させるようにアラノアは視線を空に向けそう言った。
 自分たちも70代……オーガも居なくなって50年近く過ぎている。
 今では街並みも変わり人々が平穏な日常を過し、いろいろな技術が日々進化していっている。
「ああ……医療も発展しているのだな……」
 しみじみとガルヴァンは空にある2つの月を見て呟く。
 時が経つのは早いものだとガルヴァンは実感していた。

 あれは遠い昔、アラノアと契約を交わした際である。
 最初はどう接していいのか分からずの日々を過していく中で、アラノアへの恋心を自覚した。
 笑顔を見せてくれる彼女……気を遣ってくれる彼女……どんなことがあろうと彼女は自分の隣にいた。
 ある日から彼女が不安そうに自分を見る日が訪れる。
 戸惑う表情、なぜかおどおどと話したり……後々ではあるがそれはアラノアが自分への恋心に気付いたから。
 でも自分は心の機敏に疎く、その気持ちに応えるのに時間が掛かった。
 アラノアからの告白、返事は待つと言われ、もう自分はとっくに恋心を自覚しているのに……。
 そもそもアラノアが適応していなければ出会わなかった存在だったと今でも思っている。
 今まで周りにいる女性を考えれば、アラノアは会ったことのないタイプの女性だったから。
 返事をするならとガルヴァンはジュエリーデザイナーという職業をしているため、彼女のために一つのブレスレットを作成した。
 銀のブレスレット……それと共に『あの時の返事をしよう』と想いを口にした。
 『俺と……結婚を前提に付き合ってもらえないだろうか?』
 それが今では形となり、伴侶として彼女は傍らに居る。
 変わらないあの笑顔と共に。

 コトっとアラノアはガルヴァンの肩に頭を置く。
「また賑やかになるのね……会うのが楽しみだわぁ」
 まだ見ぬ双子の孫のことを考えるアラノアは微笑んだ。
 ガルヴァンの耳に届くその声は心の底から楽しみにしているアラノアの声だ。
 子が産まれ、孫が出来、今は良い老後を過している。
 心が温まる日々……彼女を伴侶としてよかったと感じるガルヴァン。
 見上げている月を見つつガルヴァンは呟くように言う。
「今度の孫はテネブラの存在を信じてくれるだろうか?」
 と。
 ガルヴァンの声にアラノアは瞳を大きくして月を見る。
「あの子達私達があるって言っても半信半疑だものねぇ……」
 子供たちや孫たちにいっても全く信じてもらえなかった見えぬ月『テネブラ』。
 契約をしている神人と精霊にしか見えない月。
 そこにあるのに子供たちには見えないのだ。
「……こうしてテネブラを直接見られる者ももう僅かか……」
 70代になった2人。
 契約をしているウィンクルムにしか見えぬものであるため、見える者も少数だろう。
 共に戦った者たちは今どうしているのだろうか……。
 2人の脳裏にはかつて戦った日々が思い出される。
 ギルティにオーガ……最終決戦ののち消えていった……。
 少しずつ依頼も減り、ウィンクルムとしての戦闘はなくなっていく日々。
 老齢となるまでは他ウィンクルムとも交流があったのだが、お互いに家庭ができ、簡単には会うことも少なくなった。
 たまに街に繰り出せば、姿を見る者もいる。
 しかし皆年老いており、昔のような威勢の良さはあまりなく穏やかな表情をしていることが多い。
「テネブラもウィンクルムも……オーガも、こうして本でしか見れない存在になってしまうのねぇ……」
 アラノアはふとサイドテーブルに置いてある1冊の本を手に取って、本の表紙をそっと手で撫ぜた。
 オーガに立ち向かうウィンクルムたちが描かれている表紙の本。
 子供たち、孫たちにも2人で読み聞かせ続けた1冊だ。
 自分たちはここに出てくるウィンクルムで、と聞かせれば、『凄い!』とは言われるもののそこには現実味がない。
 孫たちまでになるとすでに御伽噺のようで……。
 『テネブラ』が見えることが何よりの証拠なのだが、ウィンクルムではない者には見えず、それもまた難しい。
 ウィンクルムのいない世界が平和の証かもしれない……だがこの月が誰にも見られなくなってしまうのは、心にどこか穴が開いたようにも感じる。

 アラノアは肩に乗せていた頭を上げるとガルヴァンへと真っ直ぐに視線を送る。
「……ねぇ、“ガルヴァンさん”?」
 そう優しく問い掛けるアラノア。
 月明かりに照らされてその姿はウィンクルムをしていた嘗ての彼女の姿。
 朱殷色の瞳が真っ直ぐに彼の目を見つめている。
 『ガルヴァンさん』それはかつて自分をそう呼び温かな灯火をくれた。
 『あなた』や『お前』、『お父さん』に『お母さん』そして今では『おじいさん』と『おばあさん』なんて呼んでいて、その呼び名は久しぶりで。
 少し沈黙の後ガルヴァンは驚きと共に……、
「……!なんだ?“アラノア”?」
 それもかつて彼女を呼んでいた言葉。
 ガルヴァンもまた一層強い月明かりに照らされると嘗ての姿。葡萄色の艶やかな髪を靡かせて琥珀色の切れ長の目でアラノアを見る。
 口角が少し上がり、彼らしい微笑へと変わる。
「今、幸せ?」
 ゆっくりと彼女らしく微笑みつつ尋ねてくる。
 その表情に幾度となく救われた。
 結婚後小さな自分の店を持った時。
 子供とどう接してよいのか試行錯誤していた時。
 その微笑に……自然と自分も微笑むようになったのだと。
「……ああ。最高に幸せだ」
 ガルヴァンの返答はその一言に尽きるのだ。
 彼女と出会い、共に戦い、そして愛情を育み、子供を慈しみ育てた。
 アラノアは幸せだろうか……俺と共にいて。
「私も幸せだよ」
 尋ねる前にアラノアはそう言った。
 幸せだと体から滲み出るオーラを放ちつつ。
 胸元で手を組み、若かりし頃のアラノアの姿で……。
 そっとガルヴァンはアラノアの肩を抱き寄せる。
「ありがとう……お前と出会えたことに感謝する……」
 そのまま2人の顔は近付き唇を重ねる……そっと、優しく。

 老齢となった2人。
 これからも子供や孫に囲まれつつ、2人らしく時をゆったりと過していくことだろう。
 時には賑やかに、時には暖かく、そして大切な者を守りながら。
 『テネブラ』は2人を見守っている……どんなことが起きようとも……。
 これからも2人は月明かりに照らされつつ微笑み合うのだ。
 『ガルヴァンさん』そして『アラノア』と嘗ての呼び名と共に。



依頼結果:成功
MVP
名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月01日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

会議室


PAGE TOP