穏やかな光満ちる森(蒼鷹 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

復興の進むタブロスの町並みに、そより、秋風が吹き抜けて、過ごしやすい季節の訪れを告げる。
きらきらと、木の葉が光り輝き、森はピクニックやデートにちょうどいい季節だ。

長い戦いが、終わった。

森の奥には清らかな泉が湧いている。
水の音が耳に心地よい。散策するにはもってこいだ。
まだ少し蒸し暑いから、足まで水につかってはしゃぐのもいいかもしれない。

森の小路では、リスや鳥、キツネなどの動物たちも、穏やかな季節を楽しんでいるようだ。
動物に関する知識があれば、近づいてきて、ともに遊んでくれるかもしれない。

少し離れた広場では、旅の音楽家たちが、賑やかな音を奏でている。
クラシック、ジャズ、民謡、ロック、サンバ。
彼らは流行り歌から、少しマニアックな歌まで、なんでも知っている。
リクエストをすれば、思い出の曲を奏でてくれるかもしれない。
一緒に歌う、弾くのも大歓迎だ。

森の出口まで歩くと、レンガ造りのおしゃれなカフェが一軒。
ケーキにアイスクリーム、紅茶、コーヒー、軽食と、カフェにありそうなものは一通りそろっている。
テイクアウトも可能だ。

木漏れ日の降り注ぐ森は、全てを受け入れるようにざわめく。

愛を語るのもいいだろう。

秘密を打ち明けるのもいいだろう。

喧嘩するのも、ただなんとなく過ごすのもいいだろう。

二人のいつもの日常が、そこにはある。

解説

いつもの日常、なんとなくデートをして、のんびり終わりたいな~という方向けに。
自由性が高いエピソードなので、この世界での日常をお好きな形で締めくくって下さい。
ほのぼのでもシリアスでもギャグでも、ご自由にどうぞ。

森の奥、森の小路、広場、カフェと色々設備をご用意しましたが、ご利用は自由です。
寄らなくてもよし、一か所だけ寄ってもよし、複数個所回って頂いてもかまいません。
随所にベンチがありますし、ピクニックシートを広げてくつろぐこともできます。

森の場所としては、タブロスからそう遠くない、破壊されなかった場所をイメージしていますが、
「故郷の森にしてほしい」等リクエストありましたらお書き下さい。対応します。

森の美化と環境保全にご協力下さい。
300Jrいただきます。

ゲームマスターより

ええと、なんとかかろうじてエピソード出せました。蒼鷹です。
需要あるか分かりませんが、最後にのんびり過ごして頂けたらと。

らぶてぃめではじめてゲームマスターをやらせて頂き、宝物のような経験を沢山させていただきました。
プレイヤーの皆様、ゲームマスターの皆様、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。
この場を借りて、心からの感謝を申しあげます。
またどこかで皆様と逢える日を祈っております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  花流鏑馬の時の桜の山の麓の森

やっぱり花の時期とは雰囲気が違いますね
紅葉の頃にはきっとまた違う様子が見れそうです

泉に手を浸し
傍らでお弁当食べた小川に繋がっていたりするでしょうか?
あ、思ったよりも水が冷たいです
天藍?何か見つけました?

少し離れた所にリスが居るという天藍
指さす方向をじっと見つめて
あ、いました!思った以上の声の大きさに慌てて口を塞ぐ
驚かせずにすんだことにほっとしながら観察
リスさんやっぱり可愛いです

飲み物を買うのにカフェに寄ったけれど
いつの間に買っていたのだろうとびっくり
上に敷き詰められた林檎がお花みたいですね
ありがとうございます、天藍
一緒に食べましょう?半分こした方がきっとおいしいです


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  今日は戦いが終わった後に行こうと約束していたお出かけ
この辺りは綺麗なままで良かったね
よし、ここら辺にレジャーシートを敷こうか
◆森の奥
んーっ!気持ちが良いねぇ
改めて…お疲れ様でした、弓弦さん
ふふふ、今日はゆっくりしようね

お昼はお弁当を作って来たんだ良い時間だし食べようか?
◆穏やかな午後
ふう、満腹だね。弓弦さんのお口には合った?
少し眠気が…え、良いの?じゃあ…お邪魔します
弓弦さんの膝に頭を預けるね
なんだかちょっと、照れちゃうね

弓弦さんから旅行のお誘い…契約したての頃には考えられなかった、そう思うと…嬉しいな
ねぇ…思い切って、違う国まで行くのはどう?
言葉も案外なんとかなっちゃうよ
弓弦さんなら、大丈夫


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  どちらともなく手を繋いで歩く

静かだね…
手に伝わる緊張感に握り返しながら
…大丈夫。もうオーガはいない…と思うよ?

…だね(苦笑
まだ心のどこかでオーガがいるんじゃないかって思っちゃうのはもう職業病に近いね…

…?どうし…あ(足元の切れたミサンガ見つけ

申し訳なさそうな精霊にふふっと笑い
良いんだよガルヴァンさん
ミサンガは切れた時に込められた願いが叶うんだから…
言いながらミサンガを持つ手を包み込み
『あなたとこの先切れない絆で結ばれますように』
…うん。願い、叶ってる
叶ったと思うと同時に、いつの間にか危機感の最後の残滓が消えていた


…アイス、食べようか?

…10月になったらタルト作ってあげようか?

出会った秋が始まる


●新たなる旅立ち
抜けるような秋空に、薄い三日月がかかっていた。
降矢 弓弦の自宅の庭には今、鮮やかな朱色の千日香が咲き乱れている。縁側の猫はまるまって、にゃぁん、と鳴き、出かけていく二人を目を細めて見送った。

日向 悠夜の耳にはきらりと光る、月の形のイヤリング。そして右手小指には青白いムーンストーンがはめ込まれた銀色のピンキーリング。
あの日、激戦のさなかに無くすまいと、置いて行ったもの。
一方、今日は置いて行くものもあった。
セイントの栄誉勲章。
人々が感謝を込めて二人に贈った品は、今は弓弦の家の床の間に鎮座している。

今日は、全ての戦いが終わった後に行こうと約束していたお出かけだ。
タブロスからさほど遠くないその森は、ざわざわと騒ぎ、泉は澄み切った水を湛えている。
「この辺りは綺麗なままで良かったね」
ほうっ、と息を吐いて、安心したように神人が呟く。精霊は頷き、
「日差しも柔らかくなって、一気に秋めいてきたね」
「今年は特に暑かったものね」
弓弦は梢を見上げ、
「植物もほっとしているみたいだ。そんな風に見える」
「もしかしたら、戦いが終わったことも関係してるのかな?」
悠夜の問いに、悠夜は思慮深げに、
「そうだね。植物もデミ化する危険性が無くなったんだ。人間と同じように安堵しているのかもしれないね」
「……よかった」
ぽつり、つぶやいた悠夜の声に、弓弦も小さく頷く。

もう、あの時の親友のような悲劇が起こることはない。
弓弦はまだ、どこか信じられないような気持ちであの戦いを回想する。
かつて「立ち止まった男」だった自分が、悲劇の根本を食い止める戦いに貢献できたこと。
それは、肩を並べて戦った仲間たちがいたから……そして、何よりも、今、慣れた手つきで木陰にレジャーシートを敷いている、青い髪の女性がいたから。
彼女が彼の人生に現れ、こうして一緒にいてくれるから……自分に前を向かせてくれたから、できたことだ。
柔らかな弧を描く彼女の背中を眺め、彼は無性に胸が熱くなった。

二人肩を並べて座れば、湧き出る水の音と、木々を揺らす風の音、清水の冷気と森の香り。何もかもが溶け合って二人のもとに流れ込んでくる。
「んーっ!気持ちが良いねぇ」
悠夜はうーんと背伸びをすると、ふと改まった口調で、
「改めて……お疲れ様でした、弓弦さん」
悠夜の言葉に弓弦は居住まいを正す。そして心からの感謝をこめて、
「悠夜さんこそ、お疲れ様でした」
互いに正座して、かしこまって深々と頭を下げ合う。
やがて夢想花色の瞳と月光の色の瞳がかち合えば、どちらともなく思わず笑い合った。

「お昼はお弁当を作って来たんだ。良い時間だし、食べようか?」
サンドイッチにからあげ、玉子焼き。サラダには赤いプチトマトが添えられ、きんぴらにデザートのりんごもある。ポットに入った野菜スープの味は、あの夜の星空を思い出させる。
「うわぁ、美味しい!悠夜さん、腕が上がったね」
悠夜、ちょっと恥ずかしそうに、
「また張り切って作りすぎちゃった」
「大丈夫。あのときだって二人で食べきれたじゃないか」
彼の言う通り、二人で食べると丁度満腹になった。
「弓弦さんのお口には合った?」
「うん、もちろん」
「よかった……」
そう呟いた悠夜の目がとろ~んとしているのに、弓弦は気がついた。
いつもの休日が、いつもの弓弦が、美味しいご飯が。
命がけの戦いの後、身体のどこかに残っていた緊張を解いたのかもしれない。

決戦の前にも静かな決意を口にし、動揺を見せることのなかった悠夜。
だが、心の奥には、恐怖や不安も抱えていたはずだ。
弓弦は悠夜の心の陰の側面、繊細さや弱さも知っている。
……だからこそ、彼女が好きなのだ。

「悠夜さん。ここ、空いているよ。……何時ぞやとは立場が逆転だね」
自分の膝を柔らかく叩くと、
「……え、良いの?じゃあ……お邪魔します」
弓弦からの誘いに悠夜は少し驚き、ちょっと頬を染め、ふわり、笑って、弓弦の膝に頭を預けた。
――弓弦さんの膝枕……温かくて、安心する……
悠夜は子供のような笑みを浮かべ、そのぬくもりの中にしばしまどろむ。
弓弦は彼女を起こさぬようにじっとしていた。
柔らかい髪、肌、触れていたいけど、今は寝かせてあげたいから。
瞳で彼女を抱くように、心の手で彼女を愛撫するように、その無防備な寝顔をそっと見守る。

突然、賑やかなカケスの鳴き声が響いて、ふと、弓弦は面を上げた。
森は少し日が傾いてきただろうか。
悠夜をみると、薄眼を開けていた。
「起きてしまったか」
少し残念そうに弓弦が言うと、悠夜は、ううん、と寝返りを打ち、青い瞳で精霊を見上げた。
「ちょうど良かった。あんまり気持ちいいから、このままじゃ夜まで寝ちゃう」
精霊は微笑し、
「それなら、星や月を見ながら帰ればいい」
「弓弦さん、膝が痛くなっちゃうよ」
彼女が笑う。彼は彼女の青い髪を優しく撫でながら、
「ねぇ、悠夜さん。次は何処に行こうか?」
「何処に?」
思わず意図を確かめた彼女に、弓弦の月の色の瞳が柔らかく輝く。
「悠夜さんの行きたい場所に旅をしよう。一緒に見たいものを見て、共に楽しもう」
悠夜は目を見開いた。無意識に頭が少し動いて、耳飾りが微かな音を立てた。
『僕の代わりに、悠夜さんの旅に連れて行ってほしいんだ』
かつて、そんな風に言っていた彼。契約したての頃には、とても考えられなかった言葉だ。
悠夜の口元が我知らず、ほころんだ。
――……嬉しい
「……ねぇ……思い切って、違う国まで行くのはどう?今まで行ったことのない国に行こうよ」
「えっ」
さすがに動揺する弓弦。これまで依頼で行った場所よりさらに遠くまで行くというのは、考えていなかった。彼女はクスクス笑って、
「知らない文化、知らない言語ってワクワクしない?言葉も案外なんとかなっちゃうよ」
「そうかな……」
「弓弦さんなら、大丈夫」
最初は躊躇った弓弦だったが、彼女の瞳を眺めるうちに、それも面白いかなと思えてきた。
道に迷ったり、トラブルにぶつかったり、習慣の違いに戸惑ったり。
そんな経験も、悠夜とならば、きっと楽しめる。
彼はやがて微笑して、頷いた。
「悠夜さんと一緒ならば、どこまでも」

「また、寝台列車でいこうか。それとも船に乗る?」
「今度は、緊張せずに乗れるかな」
「たくさん写真を撮ろうね」
「猫へのお土産も忘れないようにしないとね」

月は、夜空に抱かれ、夜空を照らしながら旅をする。

歩みを止め、縁側で猫を抱いていた青年は、希望と愛する女性を胸に、新たな世界へと飛びたとうとしていた。

●始まりの秋
ふと我にかえると、ガルヴァン・ヴァールンガルドは闇の中を歩いていた。洞窟の中だろうか。湿った、生温かい、いやな空気。
「なんだ、ここは」
唐突に、狂気に満ちた哄笑が轟いた。
イシスの声。
「はははははっ!愚か者どもよ、騙されたな!」
精霊は驚愕に目を見開いた。
「貴様達が戦いの末に見た眺めなど、全て幻想だ。本当の地獄はこれから始まる」
「なん、だと」
精霊の背中に戦慄が走る。気がつくと、周囲にはずらり、ギルティやオーガの群れ。
「まずは、貴様の一番大切な存在を弄び、葬ってやろう」
恐怖に竦みかけたガルヴァンの心が、それを聞いた瞬間、怒りで沸騰した。
「アラノアをどうする気だ!」
すると、神人が両手をオーガに掴まれ、蒼白な顔でこちらを見ている。
「ガルヴァンさん、逃げて!あなた一人じゃ手に負えない」
「馬鹿を言うな」
精霊が剣をその手にかける。
「彼女を離せ!たとえ貴様が神だろうが、絶対にアラノアを殺させるものか!」

「ガルヴァンさん?」
控えめに肩を揺すられて、精霊ははっと目を覚ました。
優しい秋の日差し。タブロス郊外に向かうバスの中。
朱殷の瞳がいつも通りの静かな光を湛えているのを見て、ガルヴァンの脳内のアドレナリン濃度が下がっていく。
「寝ていたから、起こしたくなかったんだけど……うなされていたみたいだったから」
「ああ……そうか。起こしてくれてよかった」
A.R.O.A.の依頼では、現地に向かうのにバスを使うこともあった。車両の単調な振動が、戦いの記憶を蘇らせたのかもしれない。

バスを降りると、ガルヴァンがその手を差し出し、アラノアが握り返す。
秋の透き通る空、木の葉のざわめく音。掌から伝わる愛しい人の体温。
「穏やかだな……」
ガルヴァンは少し安堵して呟きつつも、心のどこかがまだ、そわついていた。
一方、アラノアは、彼の手に、わずかな硬さを感じていた。
――緊張してる?
「ガルヴァンさん、さっきはどんな夢を見ていたの?」
問われて、精霊はぽつり、ぽつりと打ち明けた。
「それは……」
アラノアはため息をついた。確かに悪夢だ。
「……大丈夫。もうオーガはいない……と思うよ?」
そう言いながらも、神人の声の末尾は疑問形で。精霊はクスッと笑った。
「……だね」
アラノアも苦笑する。
「まだ心のどこかでオーガがいるんじゃないかって思っちゃうのは、もう職業病に近いね……」
「……まだ実感を得るには時が必要……だな」
ガルヴァンは騒ぐ木の葉を眺めた。木陰に敵の姿はないかと、半ば無意識に視線を走らせながら。
「俺もお前も、もう気を張る必要性は無くなったというのにな……」
アラノアは、うん、と頷き、
「……私も、まだ時々、オーガに襲われる夢を見るよ」
ガルヴァンは少し目を見開き、
「そうなのか?」
「だから、枕元に、あなたのブレスレットと指輪を置くようにしてる。……これも」
アラノアはその瞳の色に似た、蝶の髪飾りを指して、
「夜中に目が覚めたときに、すぐに手にとって、心を落ち着かせられるように。そしたら、安心してまた眠れるから」
「そうか」
お守りみたいなものか、ガルヴァンは納得する。
ならば自分も、もし彼女がいないときに悪夢を見たら、このミサンガを……。

「あっ」

何の前触れも無かった。

手首に視線をやるのとほぼ同時に、クリスマスカラーのミサンガは小さな音を立てて切れ、地面に繁茂した、草の葉の上に着地する。
それは、やや不格好な……世界に一つしかない、彼の宝物。
精霊はショックを受けながら、ミサンガを拾い上げだ。
「……すまん。大事にしていたはずが……」
普段クールな彼が、叱られた子犬のようにしょげているのを見て、アラノアは思わずふふっと笑った。
彼女は、彼とは逆に、不思議な感慨が心を満たすのを覚えていた。
――その時が来たんだ
「良いんだよガルヴァンさん。ミサンガは切れた時に込められた願いが叶うんだから……」
神人は、言いながら、ミサンガを持つガルヴァンの手を優しく包み込んだ。

『あなたとこの先切れない絆で結ばれますように』

それは、静かな森に聖句のように清らかに響いた。
まるで、あの日込められた彼女の祈りが、その言葉を契機に、ミサンガから溢れだして、森全体に光となって広がっていくようだった。
ガルヴァンも、あの日胸に満ちた温かさを、再びはっきりと感じていた。
きらきらと、木漏れ陽が舞う。二人の手に、ミサンガに。
「……うん。願い、叶ってる」
アラノアは確信して、頷いた。すると、叶ったと思うと同時に、危機感の最後の残滓が溶け出して、澄んだ風に洗い流され、消えていくのを感じた。
「……ああ。そうだな」
全く同じ思いを、ガルヴァンも味わっていた。温かくも厳かな気分だった。心に感じる不穏な影は、もはや完全に消えていた。
もう二度と、悪夢を見ることはないだろう。

レンガ造りのカフェ。色鮮やかなアイスのポスターに、アラノアの目が思わず吸い寄せられる。
「……アイス、食べようか?」
「アイスか……今の季節、食べられるのは最後になりそうだな」

「すみません、グレープのアイスお願いします。テイクアウトで」
「ストロベリーを」
コーンの上にたっぷりと乗せられたアイスは、口の中まですがすがしくしてくれる。
「……悪くない」
「美味しい?」
「食べてみろ」
彼に差し出されて、神人も一口、ぱくり。
「うん、果肉も入ってるし、ちょうどいい甘さだね。私のもどうぞ」
「……アラノア」
「なに?」
「なぜグレープにした?」
「……あなたの髪の色に似ていたから。ガルヴァンさんはなぜストロベリーにしたの?」
「アラノアの、眼の色に似ていたから」
二人は目を見合わせ、どちらともなく吹き出した。

「……10月になったらタルト作ってあげようか?」
「あのタルトか。それもいいな」
細工の美しさで、彼のタルトに勝てる気はしないけど。
でも、彼なら、毎日でも食べられると言ってくれるだろう。
アラノアは少し躊躇し、やや自信なさげだが、思い切って提案した。
「……あなたのお父さんや、ご家族や、私の家族も呼んで、ハロウィンパーティなんてどうかな」
二つの家族は親戚になるのだから。しかし、その言葉にガルヴァンは少々憮然として、
「お前のタルトは、俺が独占したい」
アラノアは照れて笑った。

「……アラノア」
「うん?」
「……名を呼びたかっただけだ」
「なに、それ」
二人ともクスクス笑った。精霊の胸にも、神人の胸にも、同じ想いが浮かんでいた。
――……ああ、なんて穏やかなのだろう

それは、物語の終わりではなく、始まり。

二人が初めて出会った秋が、また始まろうとしていた。

●サプライズは何時でも
木の葉ずれの音に、天藍は我知らず梢を見上げていた。
「天藍?」
「森の気配が変わってる」
ここは、かつて二人が乗馬を楽しんだ、桜の山の麓の森。

最終決戦の後、天藍は多忙な日々を送っていた。
オーガの消失は、長期的に見れば良いことでも、短期的には環境のバランスが崩れ、生物の生態を狂わせるおそれがあった。
だから、経験豊富なレンジャーに、森の生物の調査依頼が殺到したのである。
また、オーガの消失が植物に与える影響も調査したいという依頼や、残ったオーガに怯える調査員の安心の為に、かのんも一緒に来てほしいとの依頼が多く、二人は忙しく飛び回っていた。
そんな中でも、息抜きの場所として森を選ぶのは、この夫婦らしかった。

「前来たときも、雰囲気のいい森だったが……何かが違ってる」
かのんは僅かに首を傾げる。
確かに、花の時期とは雰囲気が違うけれど、そういうことではなさそうだ。
「動物も、植物も、土の中の微生物もみな、喜びに満ちている感じだ……。戦いが終わって、他の森も喜んでいる感じだったが、これほど嬉しそうな森は、はじめてだ」
天藍の言葉に、かのんは納得した。
植物たちの喜びは、家の植物の世話の際にも感じていたからだ。
「かのん?」
かのんは近くにあった、桜の大樹を抱きしめた。樹肌に顔を埋める。
「……多分、ですけれど」
やがて精霊を見て、
「この森は、すごく繊細な森で……そこに在る生き物の心に反応するんです。動物や、ここに来る人たちの心に反応して、喜びを増幅させている……そんな風に思えます。好きな人が喜んでいたら、思わず自分も嬉しくなってしまう、そんな心を持った森……心の優しい森なんです」
それは、天藍の印象にも一致していた。
「俺もそう思う」
そして木に抱きついているかのんに近づき、
「……ほら、頬に樹皮がついてるぞ」
と、掌で顔に触れ、それから指先でそっと払ってやった。
「ありがとう」
愛しげに樹を撫でるかのんに、天藍は一瞬、
『いや、違うぞ。いくらなんでも俺は桜の樹に妬いたりはしないぞ。あの胸の柔らかさを樹が感じるはずが……何を考えてる、俺』
思考がおかしな方向にいった自分を律していた。

乗馬体験で乗りこんだ山の奥は、軽装で歩いて行くには少し遠かった。オモイガワ立ち並ぶ小川に心惹かれるものもあったが、かのんと天藍は手をつないで、かわりに森の奥の泉に向かった。
賑やかに鳴き交わす何種類もの野鳥の声を、天藍は聞き分け、かのんに特徴を教える。
「天藍、昔の東の国の太子様みたいです」
くすくす笑うと、
「人の声はこうはいかないけどな」
精霊は微苦笑する。
気温は快適で、日差しもさして強くなく、二人の足取りは歩くうちに、いつしか仕事の疲れから解放され、軽やかになっていった。

神人が泉に手を浸してみると、きりっと冷えて心地よかった。
「あ、思ったよりも水が冷たいです。この泉、お弁当食べたときの小川に繋がっていたりするでしょうか?」
「かもしれないな。また、桜の季節に行こうな」
精霊は慣れた目を走らせ、木陰に生き物の影を捉えようとする。
「小動物が水を飲みに来ても良さそうなものだけどな。……少し待ってみようか」
唇の前に指立てて、静かに、と天藍。
静寂の時間は心地がいい。言葉がなくても、隣の愛おしい人の体温は伝わるから。

やがて、天藍がそっと耳元に囁いた。
「リスがいる。あそこ」
少し離れた所を指さす。
「どこ?」
梢が風にざわめく中、簡単に見つける天藍に感心しながら、視線を動かす。
「そこのケヤキ。一部が少し紅葉してる……その近くの太い枝」
その説明に、かのんは無意識に天藍の頬に顔を寄せる。
夫婦になったのに、今でも、こんな接近にときめく天藍がいる。
かのんは葉の奥に、つぶらな黒い瞳を見つけ、思わず、
「あ、いました!」
と、思ったより大きな声になってしまい、慌てて口を塞いだ。天藍は微笑み、
「大丈夫、リスも機嫌がいいみたいだ」
実際、リスはちょろちょろ地面に降りてきて、誰かが種を落としたか、一輪だけ咲いている季節外れの向日葵の元に駆け寄り、こぼれた種を探しているようだった。
かのんは、驚かせずにすんだことにほっとして、見守る。
「リスさん、やっぱり可愛いです」
声も、瞳の輝きも、そうして微笑むその表情も。
「……かのん」
「はい?」
「いや。本当に可愛いな」
「はい!」
『かのんの方がずっと可愛い』なんて言葉は、奥手な天藍には、簡単には言えなくて。

お昼ごろ。天藍が場所を選んでレジャーシートを敷き、かのんが作ってきたお弁当を並べる。
「今日はおいなりさんか」
かのんはふふっと笑って、
「色がちょっと違うでしょう。中身が何種類かあるんですよ。味は食べてのお楽しみです」
天藍の目が輝いて、
「どれも美味しそうだ」
「あとは、ミートボールと、野菜の煮物と……」
「それと、これ」
かのんの目が丸くなった。天藍が取りだした箱を開ける。小さな一人分のケーキ。円形の土台にクリームが塗られ、スライスされた林檎が白い花のように並べられている。
「誕生日、おめでとう」
「あっ……」
神人が息をのんだ。忙しくて忘れていた。
森の入口で、飲み物を買うためにカフェに寄ったのだが、その際買っていたらしい。
「いつの間に」
天藍は、かのんの買い物の時の動き方はよく知ってるから、と笑った。
「天藍には勝てませんね」
嬉しさに頬を染め、ちょん、と精霊の肩に頭を置く。
「本当は、綺麗にデコレーションされてる方が、バースデーケーキには良いのだろうが……持ち歩きを考えるとな」
かのんは首を振り、
「これ、すごく可愛いです。上に敷き詰められた林檎がお花みたいですね」
一目で気にいった様子に、天藍も安堵する。彼女の好みはよく知っているが、サプライズの贈り物というのは、喜んでもらえるか、何時でもドキドキするものだ。
「ありがとうございます、天藍。一緒に食べましょう?半分こした方がきっとおいしいです」
にっこり笑えば、天藍に断る理由などなくて。
「それに、最後の戦いに勝ったのに、よく考えればお祝いもしていませんよね。折角だから乾杯しませんか」
「ああ、そういえば、そうだったな」

お茶を注いだコップが、鈍い音を立てて。
寄り添い、二人だけのパーティの幕が開く。

「……天藍」
「ん?」
食後、かのんが両手を広げて、抱擁を求めてきた。天藍が優しく抱きしめ返す。
「私、今、すごく幸せなんです」
ああ、そうか。
天藍は唐突に、胸が一杯になった。
――俺は、護れたんだ
トラオム・オーガの槍の幻影はもうない。
神すら、二人を引き裂けない。
「かのん、俺もだよ」



森は歓喜にざわめく。愛を貫いた二人の未来を祝福するように。

この何気ない日常こそが、世界に一つだけの、二人の宝物。

【END】



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼鷹
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月30日
出発日 09月06日 00:00
予定納品日 09月16日

参加者

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