艱難汝を玉にす~追想~(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ゚・*:.。. ふと 思い出す …… 『 あの日 』 の事を .。.:*・゚

 雨あがり、傘を閉じてふと見上げた空に虹がかかったとき。
 お昼ご飯何にしようかと話ながら立ち寄った、見覚えのあるお店の前に立ったとき。
 眠れない、と電話越しに語り合っているその最中に……。

 パートナーとなってから、どれくらいの月日が過ぎただろう。
 長いような短いような。
 いまだ隣りにいるのが新鮮で、ついその横顔を眺めてしまう時もあるだろうか。
 空気のように、在ることが当たり前になっていて、その温もりが近くにいないと落ち着かなかったりするだろうか。
 どちらからともなく、口にする。

 「そういえばあの時……――」

 今だから言えるあの日の心の内。
 今だから紡げる遠慮なくした言の葉。
 語らい合えば、知らなかった思いもあるかもしれない。
 初めて見る相手の表情もあるかもしれない。
 もしかしたら、初喧嘩に発展してしまったりも……

 ウィンクルムとして、パートナーとして、お互いが認める関係として、
 どんな思い出が強く残っているだろうか。
 あの頃と今、歩んできた道でどのように自分たちは変化してきたのだろうか。
 思い立ったが吉日。
 目と目が合えば、蘇った思い出が言葉にされて。
 
 さぁ、『あの日』を包み隠さず振り返ってみましょうか ――

解説

◆唐突に出来た語らいの時間。二人にとっての『あの日』とは?

 『あの日』のアフターエピソードもどき、な完全個別描写になります☆
 以下、どちらの描写の仕方がご希望か、プラン冒頭に数字をご記載下さい。
 選択された描写に合わせて、プランをお書き頂けると幸いです。

 1.喫茶店で向かい合って、公園の芝生で寝転びながら、等、今いる場所(ご自由に設定可)で
   「あの時はああだったね」と、過去を振り返りながら【現在】語らっている。

 2.振り返る『あの日』のその後(数時間~数日後)、【過去】当日の描写として。


◆過去エピソード名を【1つ】、ご記載下さい☆

 キャラクター様「依頼履歴」にある、Noの数字で書いて頂いてもOKです。
 そのエピソードを当方が拝読し、プランに沿って参照させて頂きながら描写する形になります。

 「1」の場合、育まれたご関係を保ったまま、懐かしむ感じでしょうか、
 「2」の場合、初々しい反応同士で『くっ……成長したんだなぁ……っ』とPL様が噛み締める形でしょうか(メタ)、
 個性豊かなキャラ様たちの数だけ、色々な雰囲気がありそうですね!
 プランの書き方次第で、「1」「2」が混合になる場合もありますが、基本的には選択された数字の方を、主体で描写させて頂きます。

◆語らい合ったらお腹がすいた……食事または間食買いに。【一律300Jr】消費。
 ※「食事」までは描写に入りません。ご了承下さい(ペコペコッ)

ゲームマスターより

 こちらでもお久しぶりですううううう!! または初めまして!
 暴走文房具こと蒼色クレヨンでございます!

 プロローグは前菜の前菜なのでっ。
 メインはキャラクター皆様の物語ですっ☆
 (男性側で出した内容をほぼ丸々持ってくる図太さを誤魔化すクレヨン氏)

 ピュアウィンクルム様からベテランウィンクルム様まで、まとめていらっしゃいませ!
 個性溢れる『あの日』を語らう皆様を、今か今かとソワソワお待ちしております!
 蒼色クレヨンでした♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  2、履歴219
この日のために咲かせた薔薇を両手に抱えて家の中へ
ブーケと髪飾りとブートニア作り

お手伝いをした時の方が青みが強かった気がして少し残念
天藍の言葉を飲み込むまで1拍置いて少し困ったように笑う

天藍こそ、お父様とお母様と…皆を呼んで…
途中でいいんだと断言される
私の事を気遣ってくれての事だと解るから、彼の家族に申し訳ない気持

漠然と希望を話したけれど、結婚の儀もあったので一緒に暮らす方を優先
式はしなくても良いかもと思ってみたりも
でも、やっぱりドレスを着れるのは嬉しいです

幸せに…幾度もくれる天藍からの誓いの言葉
対象に私だけではなく天藍自身も含めてくれている事、それが嬉しい
私も誓います、天藍貴方に


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
 
No.52

同棲を始めて早半年以上
いつもは朝の鍛錬から帰ってくるレムのために朝食を作っているけど今朝は寝坊
慌てて起きると玄関へ
おかえりなさい!実は変な夢見ちゃって…あのクソ親父が死ぬ夢
また予知夢かしら

記事を読み
何だか呆気ない幕切れね
でも不思議と気分は悪くないわ
自分でぶちのめしたかったのは本当だけど、今レムがここにいてくれる幸せの方があたしにとって重要になってしまったというか
牙が抜けたというか…
ねえレム、これで一応の決着はついたわけだけど
これからもあたしと一緒にいてくれる?

そうだ、寝坊してまだ朝ご飯できてないの
すぐ作るから…え?
そういえばそうだったわね
おはよう、レム
素直に抱き締められ目を閉じる


水田 茉莉花(聖)
  【3】「1」

(お代わりのカレー皿を出しつつ)
ひーくん、いっぱい食べるようになったね
キャロットラペもどきも、結構食べられるようになったもんねぇ、感心感心♪
そろりこっそりと人参をシンクに追いやろうとしてた時とは違うわねぇ(くすくす

でも、刺激のあるルーを使うのはまだにしようね
…ホントかなぁ?試しにあたしのひと口食べてみる?

ほら言わんこっちゃない
ラペもどきではマヨネーズ和えにしてるから、辛くないのよ
それに、刺激物は美味しさがわかる舌の部分を壊しちゃうから危険なのよ


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  2
95

ささやかな誕生日の後
少しだけ寂しい気持ちの中誰もいない夜の道を手を繋いで歩く

…今日は、本当にありがとう
ここまででいいから、と手を離そうとしても離れず
…?ガルヴァンさん?

いいの?

…ありがとう


街灯の灯る公園に二人
何?

いつから…って…(EP23
ぎゅっと手を握る
…最初から、だよ
聞き返されて恥ずかしくなり
わ、私はっ初めてあなたと出会ってからっずぅーーっとっす、好き、だったのっ
羞恥でいたたまれず思わず抱き付き


 カレーの香ばしい匂い広がる食卓。
 休日出勤(だが稼ぐぞぉっと嬉々として出て行った)一人を除いて、この家で共に暮らす『水田 茉莉花』と『聖』は現在昼食の真っ最中。
 空っぽになったお皿をおかわり! と渡されればハイハイと立ち上がりながらも、茉莉花はどことなく嬉しそうである。

「ひーくん、いっぱい食べるようになったね」
「ふふ~ん。すぐにパパをぬかしてやるのです」
「うんうんその調子ならすぐ大きくなるよー」

 再びカレー盛られたお皿を受け取って、得意げに食べ始める聖を茉莉花は感慨深げに見つめていた。
 今や何度となくお手伝いと称して台所に一緒に立ってくれる聖。包丁の使い方も上手くなってきたわけだが、当然最初の頃はすったもんだあったもので。

「キャロットラペもどきも、結構食べられるようになったもんねぇ、感心感心♪」
「当然です! ニンジンなんてもうへっちゃらなのですよ!」
「そろりこっそりと人参をシンクに追いやろうとしてた時とは違うわねぇ」
「うっ……ご、ごっほん! ぼくもそれだけ大人になったということです」

 くすくすと笑う茉莉花の口から、イタイ思い出のことが飛び出せばわざとらしく咳なんぞして、聖は背筋伸ばしてすましてみせる。
 聖が初めて作った料理がまさにカレーだった。
 教えてくれる茉莉花の横で、とにかく隙あらばニンジンを葬り去ろうと画策しては、あえなく見つかってお尻ペンペンされていた、そんな甘苦い思い出。
 
「このニンジン千切りとカラカラポテチのマヨネーズあえサラダは、ピリッとしていてぼく好みですね」
「最初に作った時は、細さの限界値に挑まされたけどね」

 少しでも人参を克服できるよう、茉莉花が工夫を凝らした料理の一つ。
 細くすれば人参の味も分からないと説得する茉莉花へ、まだニンジンの味しますぅ! と半べそで訴える聖と、ヤケな戦いをしたのも今や懐かしい記憶である。
 そのおかげか、聖のために茉莉花が作る人参入りメニューは、聖の口に日ごとに合うようになっていった。

「でも、刺激のあるルーを使うのはまだにしようね」

 具材を炒めるまでは一つのフライパンで調理した後。
 まだ最後のルーを入れる時には、聖用の小鍋へ分けられ甘口にて作られていることに
 背伸びしたいお年頃の聖は最近やや御不満だったようで、茉莉花から漏れた言葉へ『今こそお伝えするべし!』とばかりに言葉が飛んだ。

「ぼく、からいの大じょうぶですよ!」
「えー? ……ホントかなぁ? 試しにあたしのひと口食べてみる?」
「わーい、ママの『あーん』だ♪ いっただっきまーっ……(ぱっくんちょ)」

 やっとみとめてもらえるチャンスと、差し出されたスプーンにキラキラした瞳を向けて。
 勢いよく聖は茉莉花用のカレーがのったスプーンへとかぶりついた。
 その瞬間、満面笑顔な愛らしい表情のまま聖が固まった。

「……ひーくん?」

 スプーン咥えた状態で離れない様に、おそるおそる茉莉花が声をかけてみる。

「うわぁああああああん!」

 数秒後、爆弾破裂したかのような唐突音量で聖が喚いたと思えば、そばにあった牛乳を一気飲み。
 あちゃ~……と、しかしどこか案の定だった的な生温かい色をその瞳に浮かべる茉莉花。

「何ですかこれ、何なんですかこれ、したがいたいですこれ」
「ほら言わんこっちゃない。ラペもどきではマヨネーズ和えにしてるから、辛くないのよ」
「さいしょからかったですもん!」
「うん、ひーくんの味覚に合わせてマヨネーズ増やしたからね」
「そ、そんな」
「それに、刺激物は美味しさがわかる舌の部分を壊しちゃうから危険なのよ」

 成長途中な今の内はそんなに辛いのに慣れなくていいの、と優しくなだめてくれる茉莉花へ、まだ涙目で見つめながら落ち込む聖。

「うー、ぼくも大人になったと思ったのにー」
「よしよし。嫌いな物頑張って食べれるようになったんだから、充分えらいよ」

 頭をなでなでとされれば、不満な気持ちもほぐれていく。
 施設にいた頃はあまりに捻くれていて経験出来なかったことが、こうして自然と成される場所。してくれる人の存在。
 厳しくも優しいその手の温もりに思わず大人しくなれば、どうかした? と茉莉花が頭を下げ覗き込んできた。
 聖は大好きなママへ、にっこりと微笑む。

「なんでもないです。お口なおしに、あまいもの食べたくなりました」
「も~しょうがないなぁ。食べ終わったら、まだ早いけどおやつ作りしよっか?」
「わーい!」

 年相応に素直に喜ぶ姿を、溜息つきつつも嬉しそうに見守る茉莉花がいるのだった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 淡い青みがかった薔薇のブーケが、ドライフラワーとなってガーデンへ向かう扉に飾られている。
 花の手入れをする『かのん』と、すっかり手慣れてきた動作でそれを手伝う『天藍』。
 お揃いの色違いのエプロンを時折翻し、そのドライフラワーを視界に入れてはどちらからともなく微笑み合う。
 互いの瞳に、あの日の光景を未だ鮮やかに蘇らせながら ――

 * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ *

 それは、とある結婚式場の手伝いをした際に何気なくした会話だった。
 『お天気の良い日にこぢんまりと』『ブーケやブートニアは私が育てた花で作れたらって』
 相変わらず謙虚な姿勢で、式へのささやかな希望がかのんの口から紡がれたことがあった。
 それをどうにか叶えてやりたい天藍と、夫婦として一緒に過ごし始めて満足しているかのんとの間で、それから暫しの日々意見を摺り合わせていたのだが。
 
「かのん。支度はどう、……どうかしたか?」
「あ、いいえ。大丈夫です、無事完成しましたよ」

 外へ出ていた天藍が顔を出してきたのへ、取り繕っては笑顔で立ち上がるかのん。
 その手の中には、ブーケとブートニア。艶やかな髪へは、いつもの髪飾りより少し大きめのものが。
 今日は摺り合わせた意見を決行する日。
 この日のために、かのんが丹精込めて咲かせた青い薔薇たちで形作られたものである。
 あの結婚式場を手伝った時から、使おうと決めていた青薔薇たち。
 それを見つめるかのんの、どこか浮かぬ視線を見れば天藍はかのんの気持ちにすぐに気付いた。

「色を濃くして花が目立ち過ぎないよう、薔薇の方が気を利かしたんだろ」

 まだ何も言っていなかったのに、突如優しくかけられた言葉にハッと顔をあげたかのん。
 1拍置いてから、少し困ったように笑顔を向けた。
 ―― どうして分かってしまうのでしょうね……お手伝いをした時の方が青みが強かった気がして、少々残念に思っていたのを。
 差し出された大きな掌へ、かのんは素直に手を添え立ち上がる。

「ああ、やはりな。その位の淡い色合いの方がドレスに映えて綺麗だと思うが」
「……ありがとうございます、天藍」

 凛と背を伸ばしたかのんは今、シンプルな純白のドレスに身を包んでいた。
 事実天藍が述べた通り、手を取り合って外に出れば陽射し受け一層白を際立たせたドレスに、そのブーケの淡い碧は程よく解けこみ輝き過ぎそうになるのを中和するかのよう。
 眩しそうにかのんを見つめる天藍のタキシードの胸元へ、かのんはブートニアをそっと付けてやる。
 そんな二人の前方には固定されたカメラが。

「……結局、写真撮影だけになって本当に良かったのか」
「ええ。結婚の儀もありましたし。こうしてドレスを着れるだけでも嬉しいです」
「しかし……」
「天藍こそ、お父様とお母様と……皆を呼ばなくて本当に、」
「いいんだ」

 そう。式はしなくとも良い、とかのんから満ち足りた笑顔で言われ、せめてと天藍から提案された衣装を着ての記念撮影となったわけであった。
 望みを叶えてやれない己に不甲斐なさを感じて眉をしかめる天藍へ、真っ直ぐな笑顔でかのんは伝える。
 そうして次にはかのんが申し訳なさそうに表情を陰らせると、今度は天藍から間髪入れずに断言が返って来た。
 式をやらないまでも、こうした晴れの日にはけじめとして家族にも見てもらうべきだと、かのんとしては思っていたのだが。
 それは天藍なりの優しさ。
 すでに両親を亡くしている彼女が、どんなに気にしないと言ったとて無意識に寂しく思う瞬間があるだろうから。
 ―― すぐに強がるからな、かのんは。
 そういう時の横顔すらとても美しいとも思うけれど。伴侶となった今はより一層、どんな小さな憂いからも護ってやりたくなるのがサガであり。
 かのんも、そんな天藍の気遣いには全て気付いていた。だからこそ申し訳なさが募るのだと、長い睫毛の下の瞳がそう暗に伝えてくる。
 愛しさを互いに募らせて。
 手入れの行き届いたガーデンの中央、花たちに囲まれた中で、どちらからともなく両の手を握り合った。

「神の御前じゃないが、改めてかのんに誓う。
 かのんと俺と、これからの2人の時間を幸せに過ごすための努力は惜しまずに続けていく」
「私も誓います、天藍貴方に」

 幸せに……。
 それはこれまで、幾度も贈られた誓いの言の葉。
 今、かのんだけが、天藍が紡ぐその言葉の中に変化を感じ取っていた。
 『幸せにする』
 以前までの彼ならそう言っていただろう。実際そうもらったこともある。
 それはかのんを大切に想うあまりに、己を二の次にしていた天藍の、自分でも気づかぬ不器用な愛の形の表れ。
 かのんにとってはとても愛しく、そして切ない想いの形。だからかのんは少しずつ、少しずつ、愛を育むのと同時に伝えていった。
 『二人で』だから意味があるのだと。

 今やっと、天藍自身も幸せになる対象に含めてくれるようになった。彼の口から聞けた事。
 かのんにとってこれほど嬉しいことは無かった。
 天藍がかのんに誓う。
 かのんが天藍に誓う。
 見つめ合い距離がゼロになった唇が重なった瞬間、カメラがその刻を切り取った音がした。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 それは『アラノア』の誕生日が祝われた日。
(実はこっそりアラノアも横たわった)自身のベッドへ体を預け、満ち足りた気持ちを『ガルヴァン・ヴァールンガルド』が反芻する、数十分前の出来事……――

 いつかの半月から幾度も満ち欠けを繰り返した、微かに雲に隠れた満月がこっそり覗くかのようにして、闇夜を歩く二つのシルエットを照らし出す。
 慣れぬブーツやファー帽子にいつも以上に遅くなるアラノアの歩行速度に、その先で手を繋ぐガルヴァンはしっかりと合わせる。
 着飾ったアラノアと暫し過ごし、夜も更けてくれば自然な流れで帰路に同行する道すがら。

「や、やっぱり、着替え直した方が良かったんじゃ……」
「まだ言うか。この時間なればそう人目に触れんだろう。お前はもっと自信を持つといい」
「うぅ……」

 ささやかな会話から、贈られた服から帰り間際元の服に着替えたがったアラノアと、送るから最後までそのままで良いとするガルヴァンとの微々たる攻防があったのが窺えたり。
 元々口数のそう多くない2人だったが、今夜はより静寂の中に響く声はごくわずか。
 寂しい。
 互いに口にしないけれど、その胸には同じ想いが歩くごとに満ちていったから。

「……今日は、本当にありがとう」
「……ああ」
「ここまででいいから」

 この曲がり角を行けばすぐだからと、とうとうアラノアの方から今日の終わりへ向かう言葉が呟かれた。
 頷くガルヴァン。しかしどうしてかその手は未だ、小さな掌を掴んだまま動く気配が無い。
 ―― 愛しさが募る分、こうまで心締め付けられるものだったとは、な……。
 帰したくない。その気持ちが今ガルヴァンの胸に強く溢れ出ていたのだ。

「……? ガルヴァンさん?」
「……もう少し、歩かないか?」

 我儘に付き合わせたいわけではない。
 どこまでが許されるだろう。
 不思議そうに見上げてくる瞳へ、気付けば控えめにそう紡いでいた。
 しかしアラノアから戸惑う表情は見えず、むしろどこかパッと一瞬綻んだような頬。つまりアラノアも同じ気持ちだったのだ。

「いいの?」
「お前がいいなら」
「……ありがとう」

 今度はガルヴァンが不思議そうにアラノアを見つめた。
 自らの我儘だと思っていた事へ、どうしてか彼女の口からお礼が述べられたから。
 恋人となっても、まだまだお互いの想いへ鈍い者同士のようで。
 それでもちゃんと言葉を伝え合ったことで、小さな幸せをまた一つ増やしては灯りに誘われるようにして街灯見える公園へと足を向けた。

「……気になっていた事がある」
「何?」

 延長された二人の時間と手の温もりに暫し浸った後、おもむろにガルヴァンが口を開く。
 改まってなんだろう、と少し緊張はらんだアラノアが向けてきた顔へ、向き合うようにしてガルヴァンは言葉を続けた。

「お前は……いつから俺の事が好きになっていたんだ?」
「いつから……って……」

 条件反射的にオウム返しに呟くも、聞かれた問いかけの答えを胸に浮かべれば次第にその顔が上気していくアラノア。
 そういえば……想いを伝えはした、けれど、いつからだったかなんて言ってなかった。
 無意識に言わないでいたのかもしれない。
 だってそれは ――
 繋がれていた手が、きつく握られた事にガルヴァンは気付くも、急がせることせずただ黙ってアラノアの言葉を待つ。

「……最初から、だよ」
「最初? ……とは?」

 やっと振り絞られて出て来た言葉。
 に、心底疑問符浮かべたガルヴァンが無垢な聞き返しをする。アラノアにとっては大変追い打ちである。
 増々恥ずかしさでいっぱいになっては、半ばヤケの如くアラノアは息を吸って、一気に吐き出した。

「わ、私はっ初めてあなたと出会ってからっずぅーーっとっす、好き、だったのっ」

 これ以上は勘弁して! とばかりに顔を隠すようにしてアラノアはガルヴァンへと抱き付いた。

「―――――」

 硬直。
 ガルヴァン、一見クールフェイスのまま華奢な体を抱き留めているテイだが、その内心はピシャーンッと雷に打たれたような衝撃が走っていたのである。
 出会った頃の、つまりは最初の最初から、だと。
 挙句、滅多にないアラノアからの抱擁に衝撃は二重となり思考が止まるのも無理はない。
 ようやく視界を動かし、腕の中にいるアラノアを見やれば、もはや何とも言えない苦笑いをその口元に浮かべていた。
 ただでさえ告白は先を越されたのだ。
 どこかで、想いを寄せるようになったのはせめて自分が先だと自負していたのかもしれない。
 それがよもや出会った時から自分を想ってくれており、更にはずっとそれを隠していたのだと。
 ………
 むぎゅぅぅぅ

「えっ、ちょ、……ガ、ガルヴァンさんなんか力強いんだけ、ど……!?」
「いや……嬉しいような、悔しいような、仕返しをしたくなったような」
「なんで!?」

 腕の中で決して拒絶するでもなく、もごもごと動く温かな温度。
 手放すまいと誓うようにまた力が籠められる様子を、満ちた月が微笑ましく覗いていたとか。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 とある家屋内にパタパタ慌てたような足音が響く。
 その足取りはいつもならば台所へと向かうところを、真っ直ぐに玄関へと駆けていく。
 辿り着いた先、目の前で丁度玄関が開かれれば飛び込むようにして声が放たれた。

「おかえりなさい!」
「ただい……血相を変えてどうした」

 日課たる朝の鍛錬を終え帰宅してきた『レムレース・エーヴィヒカイト』が、取った新聞をやや不自然な方向に折って持ったまま、出迎えてくれた相手の姿捉えると少々目を丸くする。
 『出石 香奈』のその出で立ちは明らかに今起きたばかり、といったふうで。
 自分の家へ彼女を住まわせるようになってから早半年以上。
 早朝の鍛錬に出る己を気遣い、『惚れた相手には尽くす女だって言ったでしょ♪』と張り切って朝食を作るようになった香奈と、朝の挨拶をするのは朝食準備整った居間であるのがすっかりお決まりになっていた。
 それ故、今このような彼女の姿はややイレギュラーで。
 心配そうな色を浮かべた瞳で覗き込んできたレムレースに、どこかその顔を見てホッと安堵の息をついてから、香奈は気まずそうに一度視線を落とした。

「実は変な夢見ちゃって……あのクソ親父が死ぬ夢」

 ぽつり。
 零れた言葉から、繊細な心境に陥っている香奈をレムレースは瞬時に理解する。
 彼女の父親。それは香奈がずっと探している復讐すべき張本人。
 自身の閉ざされた過去を知った彼女が、ずっと最優先として調べ続けていた相手。レムレースもそんな香奈の全てを受け入れ協力し続けてきたのだ。
 また予知夢かしら……。そう心細そうに呟かれたのを耳にすれば、レムレースは一瞬躊躇いの間をつくるもすぐに持っていた新聞を香奈へと差し出した。

「予知夢、かどうかは分からない、が……今日の新聞にこんな記事があった」

 すでに何枚か捲られた後の、とある記事が表になるよう折られた新聞を受け取った香奈が、暫く目を走らせる内にその表情を徐々に驚きへと変えていく。
 それは、マントゥール教団のある一派が逮捕されたという報道。
 あくまで一部とはいえ、その一派に関してはほぼ一網打尽となった事が綴られていた。

「おそらくあの時の、香奈の父親が属していた派閥だろう」
「……何だか呆気ない幕切れね」
「悔しいか? 自分で決着をつけることができなくて」

 命をかけて自分を守ってくれた母。その母の仇相手が、他ならぬ実の父親だったこと。
 香奈がどれ程に必死に、どれ程に憎く思ってきたか、ずっと隣りで見ていたレムレースは痛い程に知っていたから。
 彼だから言える言の葉が紡がれれば、落としていた視線を沈黙と共に逡巡させた後、香奈の唇が自然と動いた。

「不思議と気分は悪くないわ。
 自分でぶちのめしたかったのは本当だけど、今レムがここにいてくれる幸せの方があたしにとって重要になってしまったというか」

 牙が抜けたというか……。
 そう素直に伝えられる。なんの見栄も虚勢も張る必要の無い相手の前だから。
 そうか、とだけ返事をするレムレースの胸の内にも、安堵の他に別の感情がひっそりと湧いていた。
 恐らくこれは 歓喜。
 あれ程に固執していた復讐よりも、己の方を重要視してくれたように感じた故の。
 ――……本人にはとても言えない本音だが。
 日を追う毎に増していく想いと、自覚する独占欲に、レムレースは自身へとため息をついたり。
 そんなことは露知らず、くりんとした瞳が香奈から向けられる。

「ねえレム、これで一応の決着はついたわけだけど。……これからもあたしと一緒にいてくれる?」

 心から信じている。
 それでも、自分の因縁に巻き込んだ自覚もあったから、香奈はレムレースへとそう問いかけた。
 胸中を察してかはたまた素か。レムレースは紫水晶の瞳を真っ直ぐ捉えて迷うことなく紡ぐ。

「決着如何によらず、俺は元々香奈と添い遂げるつもりだった。今更もうここまででいいと言われても離せるものか」

 香奈の表情が綻んだ。
 ―― ああ……レムに出会えて、本当に良かった。
 互いが出会えた事、それがきっと全ての始まりだったのだ。
 過去があるから、今の幸せがあるのだと。
 感慨を分け合うようにして笑顔を交わし合っていれば、そのうちに意識は空腹へと向かい。

「そうだ、寝坊してまだ朝ご飯できてないの。すぐ作るから」
「構わないさ、簡単なもので……いや。たまには一緒に作ろう。……それと、」
「え?」

 唐突に細い腰が引き寄せられた。
 瞬きする香奈へ、顔を寄せながら心地よい低音が届けられる。

「おはようの挨拶がまだだったな」

 今度は破顔した。
 素直に抱き締められればそのまま一連の流れの如く、香奈の長い腕がスルリと彼の首へと回る。

「そういえばそうだったわね。―― おはよう、レム」

 長い睫毛が閉じられると同時に、レムレースの後ろ手で扉が閉められる。
 いつからかもう数えることをやめた、唇同士が重なる音が空気に溶けた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:出石 香奈
呼び名:香奈
  名前:レムレース・エーヴィヒカイト
呼び名:レム

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: Q  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月18日
出発日 05月24日 00:00
予定納品日 06月03日

参加者

会議室


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