不変の愛など(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 今日はたまたま二人の休日が重なった。
 いつも通り、もしくは珍しく、あなた方は一緒に出かける事にした。
 必要な用事も済ませ、後は気の向くままに街をふらついていると、なにやら人だかりが見えた。興味を覚えてそちらに向かうと、どうやら期間限定で『石』のミュージアムが開かれているようだ。
 あらゆる鉱石、それを加工したもの、磨き上げられたもの。様々な石が様々な形で展示され、購入する事もできるようだ。
「ちょっと入ってみないか?」
 誘いをかけてみれば、相手も気になったのか頷きと共に「ああ」と返事が来た。

「わぁ……」
 中に入れば、芸術的に飾られた大きな結晶や、触る事のできる奇石等、見て回るだけでも退屈しない作りになっている。
 楽しみながら進んでいくと、ショーケースに飾られた宝石が並ぶコーナーに来た。
 そこには宝石だけでなく、産地や研磨方法等が書かれた解説文と共に、宝石言葉も紹介されている。
 あなたは、一つの宝石の前で立ち止まる。
 目の前にあるのは金剛石。ダイヤモンド。
 宝石言葉は『不変の愛』。
 愛、とは、何だろう。
 あなたは考える。
 ウィンクルムとして、愛とは切っても離せない感情だ。だが、自分はその感情の事をよくわかっているのだろうか。恋の愛と、情の愛と、友の愛と、すべて同じ感情とは言えない筈だ。それでも、すべてを愛と呼ぶのか。
 不変とはどういう事だ。この今の気持ちが変わらないという事か。減る事も増える事も無いのか。そんな事などあるのだろうか。
「どうした?」
 動かなくなったあなたに気付いた相手が声をかける。
 愛を深めるべき相手に顔を向ける。

 彼は『不変の愛』が何なのか知っているだろうか。
 そして、あなたは?

解説

『不変の愛』について話し合ってみて下さい

●話す内容
・『不変の愛』について話すならギャグでもシリアスでもロマンスでも何でも構いません
・肯定的な内容でも否定的な内容でもどちらでも構いません
・話さない、考えているだけ、という場合は失敗となります

●石の購入
・ショップにて以下の物を買う事ができます
 ○パワーストーンブレスレット …… 300Jr
 ○ストーンナイフ …… 500Jr
 ○石のランプ …… 700Jr
 ○指輪 …… 5000Jr
・これらは買っても買わなくてもどちらでもいいです
・買った場合でも所有アイテムには追加されません、あくまでエピソードの思い出です

●ミュージアム入場料
・300Jrいただきます


ゲームマスターより

愛とはなんぞと話してみてください

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柊崎 直香(ゼク=ファル)

  「ゼクの想像する『不変の愛』は無いと思う」

どうせ王子様お姫様の“いつまでも幸せに暮らしました”が
キミの考えるソレだろう
「意味? キミ、僕より語学堪能でしょ」
辞書は持ってないよ
「何を指すかって、そうだにゃあ。たとえば」
あ。そんなことより僕はひらめく
数刻前から悩んでいたが結論が出た
「僕たちの関係」
今日の夕飯はカレーにしよう

カレー宣言のためゼクを見上げれば
――これは説明が必要か
「ゼク。『不変』と『愛』を切り離して考えたまえ」
不変はまあいい
「愛とは多種多様。ある日突然形状変化さえ起こる」
でもね
「どんな形であれ変わらず存在するものだよ」
あとカレーね、と言ったらまた変な顔してる

不変の愛など、あるに決まってる


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  「『不変の』って言うんだから、ずっと変わらないってことじゃん?」
と、ラキアに答えて。少し引っかかる点があるぞ。
「うーん。でも『永遠の』とは違うんだよな?」
しばし考え込んで。うーん、なんて言えば、良いんだ?
「生きてると色々と変わるじゃん。環境が変わったり、体が衰えたりとかあるじゃん。『不変の』だと変化した状況に即さなくなるかも知れね、と」首ひねり。

そそ、そーいうこと。

「誰もが少しずつ変化していくから、それに合わせて少しずつ変わって行く方が、実はずっと続いて行くんじゃね?オレは、ラキアと、少しずつ変わって行く部分もありながら、ずっと一緒に心地よく過ごしていくのがイイな。オレの愛はそれが理想だ」




信城いつき(ミカ)
  もうっ…でも、変わらず愛情くれるって言ったらミカもだよ

嬉しい…ねぇ本当に嬉しいと思ってる?
ずっと小さくもやもやしてた事が思わず口にでた。
こうなったら全部言っちゃえ

ミカは俺『みたいな』とか俺『なんか』とか口にするよね
俺はミカとレーゲンを比較した事なんてないよ
ダイヤじゃなくても、俺にはミカも大事な宝石なんだよ。

俺はミカの事好きだよ、大大大好き。
ずっと見守ってくれたし、時には叱って、何より未来を教えてくれた
レーゲンとは違う意味で、俺のいちばん
俺だって絶対ミカを幸せにしたい。ずっと変わらない。
これだって「不変の愛」っていっちゃダメ?

ミカは?好きでも嫌いでもいい
でも俺の思いをなかった事にしないで


ユズリノ(シャーマイン)
  ペアリングにも使ってるターコイズやラピスラズリ その他の石を興味深く2人で鑑賞する
ダイヤモンド綺麗だねなんて言ってたら彼が凄く神妙な顔だ

彼の吐露を聞きこれまで彼が僕との関係に慎重な理由の深部がわかった気がした(一線を越えてこない理由も
彼に寄り掛かり
…シャミィは自由でいてほしい だから気負わないで 僕は大丈夫だから

いいよと首を振る
変わらない心で愛し続けられたら素敵だけど…心は変化する…(自分の決別した初恋を思う

言ってくれたよね
僕と生涯愛情を築いていきたいって
愛は深まる方にだって変化するよ?
愛の深度は山あり谷あり、それでも死の間際まで愛してるって言えたらそれも一つの不変の愛…かな?

極意だね(胸に刻む


■育て上げるもの
 ミュージアムに入った『ユズリノ』と『シャーマイン』は、様々な石を興味深く観賞していた。中でも、ペアリングにも使ってるターコイズやラピスラズリは少し頬を緩ませながら。
 そうしてたどり着いた展示品は、ダイヤモンド。
「ダイヤモンド綺麗だね」
 ユズリノは素直な感想を述べながらシャーマインの方を振り向く。と、そこにいたのは、ひどく神妙な顔をしたシャーマインだった。
「不変の愛……俺のテーマだ」
 どこか自嘲気味な笑みを浮かべてぽつりと呟く。
「いつだって愛し続けられる人を求めていたのに俺の愛は長続きしない。リノを愛してるこの気持ちもどうしたら保ち続けられるのか」
 過去の恋愛を思い出す。その時にはずっとずっと続く事を願うのに、それなのに気がつけば終わっている。
 それでは、ユズリノへのこの想いは?
 この狂おしいほどの想いも、今までのようにいつか終わるのだろうか。
「自分が信用ならなくて怖い」
 呟いて、そっと目を伏せる。その伏せられた睫が震えて見えて、ユズリノはこれまでシャーマインが自分との関係に慎重な理由が、その深部がわかった気がした。
 きっと、一線を越えてこない理由も、同じなのだろう。
 シャーマインは自分の体にかかった温かな重さに気付き、閉じていた目を開ける。そこには優しく寄りかかるユズリノがいた。
「……シャミィは自由でいてほしい。だから気負わないで、僕は大丈夫だから」
「大丈夫って何だ?!」
 思わず突っ込んでしまった。すぐに頭を軽く振って謝罪をする。
「……いやすまん。俺がつまらん事を言った」
 言って、そのまま頭を抱き寄せる。その緩やかな拘束を愛おしく思いながら、ユズリノは「いいよ」と軽く首を振る。
「変わらない心で愛し続けられたら素敵だけど……心は変化する……」
 ユズリノの脳裏に浮かぶのは自身の決別した初恋だ。シャーマインの両親の親友で、シャーマインにとっては一時期生活を共にした存在、ロディ。
 ロディへの想いを過去にしたのは、シャーマインへの恋心だ。
「俺は変わりたくない」
 心は変わってしまう。ユズリノもシャーマインもその事を知っている。だからこそ、シャーマインはそれを恐れる。
「リノを生涯愛し続けたい」
 縋るようなその願いに、ユズリノは苦笑して口を開く。
「言ってくれたよね。僕と生涯愛情を築いていきたいって」
 揺れるボートの上、美しく舞う花びらの中で言った、シャーマインの言葉。
 生涯とは、長い時間だ。何事もなく健やかに過ごせれば、とてもとても長い時間だ。その間、心が変わらない?
 いいや、きっと変わる。けれどその変わり方は。
「愛は深まる方にだって変化するよ? 愛の深度は山あり谷あり、それでも死の間際まで愛してるって言えたらそれも一つの不変の愛……かな?」
 消えて終わるばかりではない。より深く大きくなる事だってある。きっとある。変化してもいいのだ。同じ愛の深度でいる事なんてない。恐れる事は無い。
 ユズリノが言っているのはそういう事だ。心は変わる。それでも、たどり着く不変の愛はある。
 大切なのは2人で愛を深めていく事。
「そうだな」
 大切にしたい、愛し続けたい。そう自分で言っておいて分かっていなかった。『不変の愛』のその意味を。
「そういう不変なら目指したいな」
 シャーマインはそう言って、柔らかく微笑んだ。

 ミュージアムからの帰り道、シャーマインの携帯電話が鳴る。それはA.R.O.A.に取次ぎを頼んでいたシャーマインの両親、その二人からのメッセージが届いた音だった。
 シャーマインはメッセージを見て暫し呆然とする。
 まるで今のこの瞬間を見ていたかのようなその内容。
『愛は生き物。がんばれ』
 呆然としながらもそのメッセージをユズリノにも見せ呟く。
「……不変の愛の極意だな」
「極意だね」
 二人は言って、そして目を合わせて笑いあう。その助言を胸に刻み込んで、大切に大切に育てようと思いながら。



■不変への道
 立ち寄ったミュージアムを楽しんでいた『セイリュー・グラシア』と『ラキア・ジェイドバイン』は、ダイヤモンドの展示の前で足を止めた。
 そこに書かれていた宝石言葉の『不変の愛』に興味を持ったラキアは、セイリューの方を振り返って訊ねてみた。
「セイリューは『不変の愛』ってどういうものだと思う?」
 訊きながらも、ラキアの中には漠然としたイメージがあった。不変とはずっと続くもの。ずっと続く愛。ずっと続くとはつまり、永遠と言い換えてもいいものかもしれない。
 そんな事を思い浮べながらの問いに、セイリューは考えながら答えていく。
「『不変の』って言うんだから、ずっと変わらないってことじゃん?」
 そこまで答えて、自分の中に引っかかる点がある事に気づいた。
 不変、というものは。
「うーん。でも『永遠の』とは違うんだよな?」
「エウ?」
 予想外の答えに、ラキアの口から変な声が漏れてしまう。
 慌てて口を押さえて、こほん、と咳払いしてから改めてセイリューに訊ねる。
「え、どういう意味で?」
 自分の中の漠然としたイメージが違うのだと言われて、それがどういう事なのかと分からなくなる。
 だが、問われたセイリューもよくわかっていないのか、しばし考え込み、うーん、と唸る。
 なんて言えば、良いんだ?
 自分の中の引っかかり、その小さな違和感を形にしようとして、セイリューは必死に言葉を手繰る。そしてラキアは、その言葉を一つも聞き逃さないよう、よく耳を傾ける。
「あのさ、生きてると色々と変わるじゃん。環境が変わったり、体が衰えたりとかあるじゃん。『不変の』だと変化した状況に即さなくなるかも知れね、と」
 伝わるかな、と首を捻るセイリューの言葉を、ラキアは正しく受け止める。
 例えば植物。今はラキアが当たり前のように沢山の美しい花々を育てているけれど、それが叶わない土地に引っ越すかもしれない。
 例えば健康。今はラキアが時に心配するほど元気溢れるセイリューだけれど、事故や事件に巻き込まれ治らない大怪我を負うかもしれない。
 今抱いている想いは、今の状況だからこそ抱くものだ。
 ならばその状況が変わった時には。
「セイリューのそれは、相手の変化に気を配りながら、変化に応じた愛情を注いでいきたい、って事でいいのかな?」
 ラキアの整理した言葉に、セイリューはパッと顔を輝かせて「そそ、そーいうこと」
と笑う。
「誰もが少しずつ変化していくから、それに合わせて少しずつ変わって行く方が、実はずっと続いて行くんじゃね? オレは、ラキアと、少しずつ変わって行く部分もありながら、ずっと一緒に心地よく過ごしていくのがイイな。オレの愛はそれが理想だ」
 環境が変わるかもしれない。状況が変わるかもしれない。心境が変わるかもしれない。変化しないものなんてない。
 けれど、ずっと一緒にいたい。
 それだけは変わらなくて、だからその時その時に応じて、二人共が心地よく過ごせるようにしたい。
 ずっと一緒に。その言葉が示す、時の長さ。
(自分が思っていたより、もしかしてずっと長い先々の事まで考えてセイリューは考えていてくれているんだね)
 ラキアは自然と微笑む。
(体が衰えるって、年をとっても一緒ってこと)
 セイリューが当たり前のように思って考えている事に、確かな愛を感じて。
「そうだね、お互い老人になっても一緒ってイイよね。それが不変に繋がってくのかも?」
 お互い笑いあい、そしてそのまま未来への願望を言葉遊びのように口にする。
 やりたい事、欲しいもの、行きたい所、食べたいもの。沢山の未来への願望は、どれも、二人で一緒に受け入れる未来への願望だ。
 その幾つもが叶うように願いながら。
 その時に相応しい愛を抱いて、変わらずに一緒に居られるように願いながら、二人は『不変の愛』へと進んでいく。



■もう一つの形
 ダイヤモンドの宝石言葉を目に留めたのは『信城いつき』と『ミカ』の二人で、それについて先に口にしたのはミカだった。
「不変の愛ね……チビちゃんとレーゲンの事か?」
 ひゅーひゅー! と、わざとらしく口で言って囃し立てるのは、自身の神人とここには居ないもう一人の精霊の事。
 からかわれたのが恥ずかしくて、いつきは顔を赤くして若干むくれる。
「もうっ……でも、変わらず愛情くれるって言ったらミカもだよ」
 むくれて、けれどその後に素直な気持ちも添える。
 しかしその気持ちに対してミカは一瞬目を逸らし、そしてへらりと笑っていつきに言う。
「気持ちは嬉しいが、そういうのはレーゲンに言ってやれ」
 笑顔での対応。否定の無い言葉。それでも、いつきにはそれが本心に思えなくて心にもやがかかる。いや、この小さなもやは今生まれたものではない。
「嬉しい……ねぇ本当に嬉しいと思ってる?」
 いつきの中にずっとあった、小さくもやもやしてた事が、思わず口にでた。
 ミカは驚いたように目を見開き、そのままいつきをじっと見ている。
 その視線に追い詰められたような、開き直ったような気分になったいつきは(こうなったら全部言っちゃえ!)ともやもやの全てをぶちまける。
「ミカは俺『みたいな』とか俺『なんか』とか口にするよね。それって誰と比べてるの? 俺はミカとレーゲンを比較した事なんてないよ」
 目を見て告げるいつきの指摘に、ミカは心の内で考える。
「レーゲンは、その、俺にとってダイヤなんだと思う。でも、ダイヤじゃなくても、俺にはミカも大事な宝石なんだよ」
 告げるいつきの言葉に嘘はない。それはわかる。
 だからこそミカは戸惑う。考える。
(……チビへの思いは恋愛ではない)
 ミカはそう思っている。
「俺はミカの事好きだよ、大大大好き。ずっと見守ってくれたし、時には叱って、何より未来を教えてくれた」
 この思いはきっと兄弟愛のような親愛だと。
「レーゲンとは違う意味で、俺のいちばん」
 けれど同時に、弟というには大事すぎて、踏み込めばいつきとレーゲンの仲を壊すのではないかとも思っている。
「俺だって絶対ミカを幸せにしたい。ずっと変わらない。これだって『不変の愛』っていっちゃダメ?」
 ずっと、いつきとレーゲンの二人が互いを想っててくれれば、『不変の愛』を見ていられたらそれでいいと思っていた。
 美しいその形を、家族のように大切に思っている二人が築き上げるそれを、側で見ていられれば、それでいいと。
(でも俺の事もいちばんと言ってくれるのか)
 つい最近、いつきの野望を聞いた。
『あのね、おれアクセサリーのお店を開くの決めたんだ』
 その野望はつまり、レーゲンだけではなく、ミカとの未来だ。ミカと共に歩む未来だ。
 形も意味も違えども、それでも愛と同じと言ってくれるのか。
「ミカは? 好きでも嫌いでもいい。でも俺の思いをなかった事にしないで」
 その真っ直ぐな目を、想いを包むように、ミカはいつきの頭をそっと抱きしめる。
 抱きしめているこの今ですらまだ迷ってる。自分の想いを口に出して良いのかと。
(でもチビが……いつきが俺の事を大事と言ってくれるのならば、ちゃんと返さないと……な)
 腕の中の温かい大切な存在に、しっかりと向き合うよう、自分の想いを正直に返そうと決める。
「俺も、お前が、       。」
 いつきにだけ聞こえるように、耳元へ小さく告げる。
 驚いたように顔を上げるいつきは、それでもどこか嬉しそうで。
「……これが精一杯だ文句いうなよ」
 言って、パッと手を離して距離をとる。
 いつきはその離れた距離に、もうもやもやを感じない。それどころか自然と満面の笑みになる。
「文句なんていわないよ!」
 笑顔で言ういつきに、ミカは負けたように苦笑する。
「あー……さっきの」
「もちろん、レーゲンにも秘密!」
 いたずらっぽくいつきが言えば、そこでようやくミカも砕けた笑顔になる。
 小さく告げられたミカの想い。
 それは、いつきだけが知っている。



■そこにあるもの
 キラキラと煌く石を見ながら『柊崎 直香』と『ゼク=ファル』は場内を歩いている。
 そんな中、ゼクの目に留まったものは一つの石の解説文。そこに添えられた、宝石言葉。
『不変の愛』
 ダイヤモンドの宝石言葉としては有名なそれが、ゼクの中で引っかかる。
 不変の愛、とは。
 きっとそれは、変わらぬ想い。綺麗で可愛らしいお伽噺の中にあるような。
「直香。『不変の愛』とは」
「ゼクの想像する『不変の愛』は無いと思う」
 傍らにいる表情の読めぬパートナーに問えば、すべてを言い終えぬうちの否定が返ってきた。
(どうせ王子様お姫様の“いつまでも幸せに暮らしました”がキミの考えるソレだろう)
 直香は正しくゼクの思考を見通していたが、しかしゼクの問いは正しく見通せていなかった。
「有無ではなく言葉の意味を聞いたんだ」
 聞きたかったのは有無ではなかった。けれど直香の反応は薄い。相変わらず石を眺めながらゼクを軽くいなす。
「意味? キミ、僕より語学堪能でしょ」
 辞書は持ってないよ、と嘯く直香に、ゼクは言い方を間違えたと知る。
 違うのだ。そうだけどそうじゃない。
 本当に聞きたい事は有無ではなく。
「『不変の愛』は何を指す?」
 その言葉が表すものは、何なのかという事。
「何を指すかって、そうだにゃあ。たとえば」
 直香はゼクの視線を感じながら、それでも彼を見ない。目に映るのは綺麗な石。ゼクの問いの答えを頭に浮べながら、直香は、あ、と全然違う悩みの結論がひらめく。数刻前から悩んでいた事。それは。
「僕たちの関係」
 今日の夕飯はカレーにしよう。

 ――『不変の愛』は何を指す?
 ――僕達の関係。
 悩むでもなく、とっておきの告白でもなく、ありふれた事実のようにあっさり言われ、ゼクの思考と時間は一瞬止まる。
 さて今日の夕飯はカレーだと宣言しよう、と、ここでようやく直香はゼクを見上げ、そして小さく息を吐く。
(これは説明が必要か)
 ゼクの様子を見てそう判断した直香は、こほんと小さく咳払いをしてから言葉を紡ぐ。
「ゼク。『不変』と『愛』を切り離して考えたまえ」
 直香の言葉に、止まっていたゼクの思考と時間はまた流れ出す。そして続きを待つように直香をじっと見る。
 不変はまあいい、と直香は説明を続ける。
「愛とは多種多様。ある日突然形状変化さえ起こる」
 きっと『愛』そのものは決して不変ではないのだ。そういう意味では『不変の愛』など、ないに決まってる。
「でもね」
 自ら『不変の愛』を否定して、それでも直香がその先に紡ぐのは。
「どんな形であれ変わらず存在するものだよ」
『不変』の『愛』の肯定。
(……この関係が不変の愛というなら)
 直香が言うように、愛は多種多様だ。直香とゼクが考える愛は同じものではないかもしれない。
 それでも二人の間に、何らかの『愛』はあると。
(この先も変わらずあると、いうことか)
 五年後も、十年後も、ずっとずっと、死ぬまで、もしかしたら死んでも、二人の間には何らかの愛が。
「あと夕飯だけど、カレーね」
 愛が、あるはずなのだ。
 唐突にガクリと話題を変えられ、ゼクは思わず顔を歪める。
「さーて、ショップの方も見てこようかにゃあ」
 ゼクの変になってしまった表情を見てから、直香は一人ショップの方へと軽い足取りで向かう。
 残されたゼクは、大きく溜息を一つ。
(――おい。カレーって。買い物終えたばかりだぞ)
 頭に浮かんだ苦情は、口に出すタイミングを失った。

 ショップにて、いつもと変わらない様子の直香は、柔らかい明かりを灯す石のランプに興味を示す。
「気に入ったなら買うか」
「そうだねぇ、ゼクは?」
「一つでいいだろう」
 そうして二人は一つのランプを購入して帰路につく。ゼクは冷蔵庫の中身を思い出しながら。
 ランプは一つだけでいい。
 二人は同じ家に帰るのだから。
 二人の間にあるのは、一つの明かりでいい。

 ――不変の愛など、あるに決まってる。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 3 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月16日
出発日 05月22日 00:00
予定納品日 06月01日

参加者

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