雨物語(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 しとり。雨の滴る音が柔らかに響く。
 紫陽花色のふかふかカーペットを敷いたそこは、正方形の簡素な小部屋。
 部屋の中にあるのはとてもとても簡素なもの。
 大き目のクッションが数個と、七本のクレヨン。それから、スケッチブック。
 見上げた天井には、青空に煌めく虹の円環が描かれて。

 しとり、しとり。雨の日にだけ開く扉は、ささやかに告げる。

「雨宿りをしにいきませんか?」
 A.R.O.A.の職員が、唐突に誘う言葉を紡いだ。
 小首を傾げ、興味を持った幾人かの顔を見渡して、にこり。微笑んだ職員は説明を始める。
「タブロス市内のとある路地に、雨の日だけオープンするお店があるそうなんです」
 店と言っても、売るものはない。
 そこにあるのは、雨音だけを響かせる、個室。
 広さは大体四畳半。綺麗な正方形の部屋には、雨に似合う情景が描かれている。
 天井だけは、一面に晴れ空が描かれているのだけれど。
「飲食は可能ですが、持ち込んでも良いのは手に持って食べられるものと、紙パックの飲み物だけです」
 椅子は無い。机もない。基本的には寝転んで過ごすための場所だ。
 口にするのに起き上がる必要の無い物だけが、持ち込みを許されている。
 寝転びながら食べなければならないというルールはないが、そう言う雰囲気を大事にする場所なのだ。

 ――で、そんな場所で何をするの?

 至極真っ当な質問に、職員はこくりと笑顔で頷いた。
「絵を、描いてください」
 それは、義務ではない。
 だけれど、店の主人がこういうのだ。
 『雨の降る中に、ぜひ、貴方の描く晴れ空を』と。
「雨の季節になってきましたからね、晴れ空を願いながら、親しい人とのんびり過ごすのも、いいんじゃないでしょうか」
 雨にまつわる思い出話なんかを語っても良いかもしれない。
 時間に特に規定はないのだ。心行くまで、雨の世界を楽しめばいい。
 如何だろうか。職員はそう締めくくって、小首を傾げた。

解説

入店は200jr。時間は無制限です
寝てても構いません。部屋の中にブランケットも有ります
手で摘まめるお菓子(クッキーやスナック等)とストロー付きのパック飲料が各50jrで販売されております

晴れ空の絵は義務ではありませんが、店主に渡すととても喜ばれます
なお、絵を持ち帰る事は出来ませんので予めご了承ください

ゲームマスターより

のんびり、ごろごろ、だらだら。
リアルにしたいものです。
雨音をBGMに、ゆっくりとした時間を過ごしてみてください

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)

  目的
のんびりごろごろなじゃれ合い

行動
生れも育ちもタブロスだけど、A.R.O.A.に所属してからそこにある事も知らなかった事が
色々見られて楽しい

一頻り部屋や置かれているものを観察してから、しのつく雨の音に眠気を誘われ
クッションを枕代わりに向い合せに寝転び

壁の絵を見ていたマギと目が合うのに、じっと観察するように見つめる
少し勢いを削がれた雨が、しとしと、ぽたり、ぽたり。と音で部屋を埋めていく気配

お洒落や見目に気を配る同じ年頃の娘達と違い、まじまじと姿見に映る自分を見る事も無いし
並べて比較できる周りほど、マギと自分がそっくりだという感覚は薄い

ふと、目の前の唇にキスをしてみる


雨の季節が終われば、夏だな。


信城いつき(レーゲン)
  入店 200jr

あ、気が付いたら眠ってた。
隣みたらレーゲンも眠ってる。

普段トランスするときに顔近付けるけど
落ち着いてレーゲンの顔近くで見る機会なんてないから
ちょっと顔近付けて観察なんかしたりして(笑)

部屋は何もなく、雨の音しかしなくて、小さな世界に二人っきり。なんだかレーゲンを独り占めしてるみたい。

起こさないように、レーゲンの描いた絵の続きを描きながら待ってよう。
そのうちレーゲンが目を覚ます気配がしたけど
この空気を壊したくないから、気がつかないふり


想像してたより楽しかったよ
ねえ、レーゲン。またこんな風にしようよ
何もしないで、ただずっと一緒にいるんだ。
合言葉は「雨やどり」で。


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  物好きな店主さんも居たもんだね
いいよいいよ、そーゆーの好きだよ
くるくる傘をまわしながら店までの道筋をゼクと辿り。

紅茶のパック飲料を一つ購入して部屋へ。
狭いなと思ったけど隣の誰かさんのせいで更に狭く感じる

絵を描くよー
七本のクレヨンって虹の色かな
とりあえず一面を青色でぐりぐり塗りつぶし。
懐かしい匂いするよね。……ん、クレヨンの独特の匂いもだけど、
雨の日のさ。なんか、思い出しそうな、不思議な感じ。
べつに雨に特別な思い出もないけど。……たぶんね。

よしできたー
どこからどう見ても青空である
というか塗りつぶすの意外と大変だったため飽きたよ?
あとはゼクに任せよう

ごろごろにゃーにゃー
やることないと眠くなるよねー


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  雨でも晴れてる場所へ行かない?

気分転換にいいだろ。芸術作品だね
どうも(画材をうけとり、立ち尽くし)椅子ないからどうしよう…って
(正座や体育座りしたり)
うるさい(クッション投げ)描いてる間みないで

…雨の日は、嫌?
そう。…
初めて僕の家に上がったこと覚えてる?
ずぶ濡れになったタイガを無理やりお風呂にいれて暖炉にあたった。驚いたな
(君は怯えていて…笑って強がって。今みたいに別人のように静かで。明るいだけじゃないのを知った)


ほっとける訳ないだろ
鬱陶しいぐらいが丁度いいのに違ったから

ハマった…?何?
できたけど上手くないよ

虹がかかった公園と二人の絵◆小学生レベル
(僕らとは言わないけれど)
晴れたら遠出しようか



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  じっとしてるのって、あまり得意じゃないんだよなー。
でも雨降ってるし、クレミーがくつろいでるからいいか。

俯せに寝転がってクレヨンでお絵描きなんて、いつ以来だろうなあ……。
青のクレヨンでほとんど塗りつぶして、地面は茶色。柵を描いて……うん?ああ、これ俺の実家。牧場なんだ。
神人は一人で町の外を出歩けないし、里帰りもなかなかできないのが難点だよな

そういえばクレミーって、連絡先住所が私書箱だけど、どこに住んでるんだ?
知られたくないなら無理には聞かないけどさ、一度遊びに行きたいなーって

(その後爆睡)
うわっ、ごめん兄ちゃん寝ちゃって……ってごめん!兄ちゃんじゃないし!

笑われてもいいか、笑顔見られるのは嬉しい



 雨の音が響く外の景色を、眺め見て。
 店主は小さな息を吐く。
 溜息とは違ったそれは、けれど物憂げに響いて。
 けれど、穏やかに響いて。
 ぱしゃり、水溜まりの跳ねる音を聞き留めるや顔を上げた店主の視界に映ったのは、興味を灯した、幾つもの人の顔。
 ようこそいらっしゃい。
 どうぞ温かな雨宿りを。

●ふたりだけのものがたり
 雨の音が響く。少し、強く。
 その中に、静かで規則的な寝息が、響く。二人分の、吐息。
 不意に、一つが途切れた。ぱちりと目を開けた信城いつきは、いつの間にか眠っていたと体を起こし、そうして、パートナーのレーゲンも眠っている事に、気が付いた。
「……レーゲン?」
 確かめるように、問う。けれど、穏やかな寝息が返るだけ。
 そぅ、と、やっぱり確かめるように、顔を覗き込む。普段はまじまじと見る事なんて無い、彼の顔。
 トランスする時には顔を近づけざるを得ないけれど、ぱ、と触れて、ぱ、と離れるだけの儀式だから。こうやって観察することも、無い。
(綺麗な顔……)
 精霊が皆イケメンだとは、周知の所だけれど。改まって見てみると、整った顔立ちである。
 その瞳に見つめられて。その唇に囁かれて。その指先に抱き締められて。
 その頬に、当たり前を装ってキスをする。
 ほんのり、と。頬が染まったのを自覚して、そろり、顔を背けて。
 視線の先に見つけたクレヨンに手を伸ばしたのは、半分、誤魔化すための行動。
 だけれど、いつきが寝ている間にレーゲンが描いたらしい、上半分だけの青を見つけて、思わずまじまじと見つめた。
(何、描こう……)
 青空の下に、何が映えるだろう。思案して、思案して。思いついたように、足元の絨毯と同じ、紫陽花を描いてみた。
 見様見真似に、幾つも幾つも。
 そうしている内に、隣で眠っていたレーゲンが目を覚ましたらしい。
 それは気配で判ったけれど、気の付かない振りをした。
 雨音だけが響く部屋の中で、二人だけの時間。
 小さな部屋に二人っきり。
(レーゲンを独り占めしたみたい……)
 それが、何だかとても幸福だと、自覚をしたから。
 その空気を壊したくなくて、いつきはスケッチブックに夢中になる素振りで、小さく小さく微笑んだ。

 そんな、いつきを。レーゲンもまた、眠った素振りで見つめていた。
(何だか、楽しそうだね)
 眠っていたいつきは穏やかな顔をしていた。それだけで、ほっとしたのを思い起こす。
(もう少し、だけ……)
 この時間が続けばいいと、願いながら。雨音に耳を傾けながらいつきを見つめるレーゲンの表情もまた、穏やかだった。

「想像してたより、楽しかったよ」
 帰り際、自信満々で店主に絵を差し出したいつきは、レーゲンを見上げて告げる。
 うん、と頷いて。満たされた心地に浸ったレーゲンが雨降りの空を見上げるのにつられて、いつきもまた、空を見上げる。
「ねえ、レーゲン。またこんな風にしようよ。何もしないで、ただずっと一緒にいるんだ」
 しとしと。降る雨の中に、また、小さく頷く声が響く。
「合言葉は「雨やどり」で」
 雨音だけが響く屋根の下で、その時だけは、また君を独り占めするんだ。

●しずかすぎるものがたり
 物好きな店主もいたものだ。そう呟く柊崎 直香は、くるりと傘を回した。少し後ろについていたゼク=ファルに、水が飛ぶ、と渋い顔をされれば、けらり、笑って。
 紙パックの紅茶を一つ受け取って、狭い部屋に、ぽふりと座り込む。
「誰かさんのせいで余計に狭く感じる」
「誰かさんは小さいからプラマイゼロくらいで丁度良いだろ」
 皮肉を含んだ返答は華麗にスルーして、スケッチブックに青いクレヨンをぐりぐり。
 クレヨンを握るのも久しぶりで。独特の油っぽい匂いに、直香はぼんやりとした笑みを浮かべた。
 懐かしい匂いだ。クレヨンのそれもだけれど、雨の日の独特な空気感。
 何かを思い出しそうな。
 何かを、忘れているような。
 心の内側が、薄い靄に擽られるような、不思議な心地。
 ぐりぐり。
 ぐりぐり。
「あーきた」
 ぽい、と。クレヨンを放りだした直香の前には、すっかり短くなったクレヨンと、紙一面の青。
 塗りつぶすのも大変だったんだよ、と。得意げに渡せば、ゼクはまた、渋い顔をする。
「これ、絵なのか」
「絵だよ」
「渡してきたのは良いけど、俺が描くスペースないだろうが」
「塗りつぶした上から描けばいいんじゃない?」
「……虹、とかか」
「虹はねー、既に出てるのですー」
 ごろり。転がって天井を指さした直香の視界には、綺麗な虹が描かれている。
 同じように見上げて、なる程と言うような顔をしたゼクの横顔へと視線を戻した直香は、そのままゆるり、瞳を伏せた。
「そして僕は離脱するのですー」
「おい、せめて指示してから寝ろ」
 聞こえない振りで、ころり。背を向ける。
 けれどすぐにまた、ゼクを振り返って、見つめた。
 絵を前に、渋い顔。何か足すべきだろうかと、悩んでいるような。
 律儀な物だと、たまに思う。
「ねえゼク、退屈?」
 問いかけには、視線が返ってくる。一瞬だけの、一瞥。
 見ての通りだと肯定するようで、別にそうでもないと否定するようで。
 曖昧な態度だと、たまに思う。
 構わずに、直香は続ける。二人きりのこんな時間は、実は初めてなのだと。知っている? と、問うように。
「静かだね」
 賑やか成分は、当社比、50%カット。
 静かの過ぎる空間は、ぼんやりと微笑んでいた直香の表情に、少しの影を落とす。
「ゼク、なにか喋っててよ」
 きっと、話続けるなんてのは得意じゃないと、知っているけれど。
「名前を呼ぶだけでも、なんでもいい」
 ただ、雨音以外の音が欲しい。
 それ、だけだと。まるでひとりぼっちみたいで――。
「直香」
 響いた音は、ふうわりと優しくて。
 淀んだ思考に、風を通された心地がした。
「……うん」
 雨音のどこか冷たい響きが、緩やかに掻き消え多様な、そんな気がした。

●かがみうつしのものがたり
 ふらりと狭い部屋を観察する視線が一頻りを見つめ終えれば、後は自然と、変わる表情を持つパートナーに向くだけ。
 シルヴァ・アルネヴとマギウス・マグスはクッションを枕に互いに向かい合って横になっていた。
「生まれも育ちもタブロスだけど、こんな所があるなんて知らなかったな」
「僕もです」
 A.R.O.A.に所属してから、知らない事を知る機会が増えた。それを一つ一つ知っていくのは楽しいと、シルヴァは思う。
 マギウスと一緒だから、というのも、あるだろうけれど。
 ふと、マギウスと視線が合った。じっ、と。少し乏しい表情と目を合わせながら、観察するように見つめる。
 シルヴァとマギウスは、瓜二つだ。……と、周りは良く言う。
 実際のところ、年頃の娘のように姿見で自分を見る機会なんてそうそうないシルヴァにとって、似てるという評価は、さらりと聞き流せてしまう程度には印象の薄いものだった。
 出会ったのは、もう随分と昔の話。こんな風に、雨の音が聞こえる日。
 しと、しと、しと――。
 静かな部屋に響き渡る雨音が、柔らかな気配を滲ませる。
 ぱちり、と。マギウスが瞬きをするのが、妙に目に付いて。
 シルヴァは思わず、その刹那を狙うように身を乗り出して、相手の唇に――。
 触れ、ようとして、顔面が鷲掴まれた。
「……マ、マギさん? 何するのさ」
「それはこっちの台詞です、いま、何を?」
「いや、そういうタイミングかなーと思って」
 ぎりぎりとアイアンクローをかましてくるマギウスに、ぎゃぁ、と喚きながらクッションをぼすぼす叩くシルヴァ。
 良い雰囲気だと思ったのだ。ちょっと触れるくらいいいじゃないかと、思ったのだ。
 そう、したくなったのだから仕方がないと、シルヴァは胸中だけで拗ねる。
 表面では、まだ掴まれている感じのする顔をさすりながら、ちぇ、と小さく呟くだけ。
「……雨の季節が終われば、夏だな」
 しっとりとした雨の雰囲気も、良いけれど。夏祭りや花火などの賑やかなイベントも、これからは増えてくるのだろう。
 あれこれと告げるシルヴァが、一緒に、と誘っているようにも、聞こえて。
 そっと伸ばした手のひらを、口に重ねて。
「……?」
 なに、と訴える目がマギウスへと向けられたのを確かめて、手のひら越しに口付けた。
 ぱちくりと瞬いた瞳。手の下で、かすかに唇が戦慄いて、動揺に頬が染まるのを見つけた。
「悪戯が、過ぎるからですよ」
 動揺っぷりに思わず笑えば、してやられたと言った顔をしたシルヴァもまた、笑う。
 雨音の中に笑い声を響かせて。それから、思いついたというように、クレヨンを握るシルヴァ。
「マギの笑い顔って、むっつり曇り空が晴れたみたいだよな」
 上機嫌でスケッチブックに描き始めるのを、覗き込めば。
 言葉から察するに、それは人の……正確にはマギウスの顔のようだが、なかなかに前衛的だった。
「ペカソ……」
「うるさいなー」
 率直な評価には、拗ねた口ぶりが返るけれど。
 見合わせた顔は、楽しげに、笑っていた。

●おもいでのものがたり
「雨でも晴れてる場所へ行かない?」
「へ?」
 セラフィム・ロイスの誘いは、比較的唐突だった。ゆえに、火山 タイガが素っ頓狂な声を返すのも、当然の事だった。
 けれど、頭に疑問符を浮かべながらも訪れたその場所に、タイガは合点が要ったように頷く。
 店主と短い言葉を交わし、画材を受け取ったセラフィムは、狭い部屋に入って、立ち尽くした。
 どうした、と。タイガが覗き込めば、きょろり、椅子を探すセラフィムの視線。
 比較的裕福な家庭に育ったセラフィムには、座るべく場所が指定されていない空間は、戸惑うものなのだろう。
 壁に近い位置に正座してみたり、かと思えば居心地が悪いのか、体育座りをしてみたり。
 試行錯誤をしている姿を横目に、タイガはにやにやと笑う。
「机もないから、そのままじゃ描けないし、休むには寝そべるしかねぇじゃん」
 ごろん、と。早々に横になったタイガが、「できるかな~」と含んだ笑みを向けてくるから。
 うるさい。クッションを投げつけて、背を向けた。
「描いてる間見ないで」
「ちぇー」
 ゆらり。虎の尻尾を揺らして催促をしながらも、タイガは緩やかなまどろみに浸る。
 しとしと。雨の音が耳につく。
 ほんの一瞬だけ会話の無くなった時間の静寂は、けれどすぐに、掻き消えた。
「……雨の日は、嫌?」
「おう」
 すぐさま返る、応え。
 ゆらりと揺れる尻尾は、枕にした腕の中に埋もれた顔と同じく、不安のような不満を表す。
 雨は、土砂を崩し、川を氾濫させる。
 そうやって大切な命を、奪ったものだ。
 残されたのは、悲しみばかり。それが、辛くて。帰るのを厭い、タイガは雨の中をセラフィムの庭へ向かった。
 それを、セラフィムが見つけた。
「初めて僕の家に上がったこと、覚えてる?」
 ずぶ濡れの君。無理やりお風呂に入れて、一緒に暖炉にあたった。
「驚いたな」
 二人の邂逅は、顕現より前。病弱なセラフィムの体調が良い時に、晴れた庭でほんの少し話す程度。
 明るいタイガと、物憂げなセラフィム。
 それが決まりきった二人の構図だと思っていたのに、そうじゃなかった。
 怯えながらも、笑って強がっていたタイガは、今と同じように、普段からは想像できないほど静かで。
 ただ明るいだけじゃないのを、初めて知った。
 だから、放っておけなかった。底抜けの明るさが鬱陶しいぐらいで、それが丁度いいと思っていたのに、違ったから。
「覚えてる。ベッドでかいわ豪華だわタオル柔らかすぎるわ……衝撃的だった」
 驚いたのはこちらだと言わんばかりに指折り数えて告げたタイガは、ひょいと肩を竦めて起き上がると、そっとセラフィムの背に背を合わせた。
「オレだって落ち込むの」
 伏せた瞳の奥には、当時自分を引き止めたセラフィムの姿が浮かぶ。
 一方通行だと、思っていた。セラフィムにとっては新鮮なだけで、いつかは飽きるのではと、ほんの少し思っていた、のに。
「本気のセラ初めてみてさ。ハマったんだ」
「ハマった……?」
 きょとん、とした目で、セラフィムが振り返る。
 視線が合った瞬間に見えた手元には、実に残念感の漂う絵。
 虹と太陽と、二人。
「……雨は嫌だけど、ここは悪くねぇよ」
 そうやって心配してくれるセラフィムが、一緒に居てくれるから。

●はれたえがおのものがたり
 雨の音が聞こえてくるのを、じっ、と聞き入って。アレクサンドル・リシャールはほんのささやかな溜息をついた。
 牧場育ちの野生児は、じっとしているのは、あまり得意ではない。
 だが、苦痛な時間ではなかった。
 元々雨の降っている中でははしゃぎまわるわけにも行かないし、何より、パートナーのクレメンス・ヴァイスがくつろいだ様子でいるのだから、それだけで良かった。
(俯せに寝転がってクレヨンでお絵描きなんて、いつ以来だろうなあ…)
 懐かしい心地で握ったクレヨンは、青が沢山、茶色の地面に、柵を描いて。
「なに、描いてるん?」
 ひょい、と。クレメンスが覗き込んでくるのを、見上げて。あぁ、と再び絵に視線を落とす。
「これ俺の実家。牧場なんだ」
 神人に顕現してから、自分のせいで牧場が襲われぬようにと離れた場所。
 街の外を歩くのもおっかなびっくりで、なかなか帰る事の出来ない郷。
 思い起こしてから、ふと、傍らのクレメンスを再び見上げる。
「そういえばクレミーって、連絡先住所が私書箱だけど、どこに住んでるんだ?」
 知られたくない理由があるなら詮索する気はない。ただ、一度くらい遊びに行きたい。
 告げれば、クレメンスは少しだけ困ったような顔をした。
「んー……うち、相当森の奥やし、住所どころか道もないんよ」
 遭難するかもしれないから、遊びに来るのはお勧めできないと苦笑する彼に、目をぱちくりと瞬かせた。
 森に囲まれた村、程度にしか思っていなかったアレクサンドルの想像を超える秘境っぷり。
「そう、なら……残念だけど無理なのかー……」
 言葉通り、至極残念そうな表情を見せたアレクサンドルに、クレメンスはほんのりと微笑んで、ひょこり、顔を覗いた。
「アレクスの里帰り、なら。つきおうてもええよ」
「え……ついてきて、くれるの?」
「ん。あたしも手紙だけやのうて、直接ご挨拶したい」
 その方が親御さんも安心しはるやろしね。と。穏やかな顔で告げるクレメンスに、アレクサンドルはぱっと表情を輝かせて頷いた。
「じゃぁ、いつか、きっとな」
「ん、約束、ね」
 ふわり、微笑んで交わした一つの約束。
 それから、重ねる他愛もない話。
 ゆったりと胡坐をかいて、クレメンスは足元のスケッチブックに絵を描く。
 木の葉を透かす木洩れ日。空は見えないけれど、きらきらと眩しい、晴れの日だけの光景。
 描き終えて満足げに振り返れば、アレクサンドルが眠っている事に気が付いた。
「アレクス、そろそろ帰らな」
 ゆらゆらと揺り起こせば、はっと気が付いたアレクサンドルと目が合って。
「うわっ、ごめん兄ちゃん寝ちゃって……」
 間。
「って、ごめん! 兄ちゃんじゃないし!」
 恥ずかしさに真っ赤になってわたわたと動揺するアレクサンドルの姿に、瞳を瞬かせたクレメンスが思わず、笑う。
「お子様やねぇ」
 ふふ、と。からかいを含みながらも楚々と笑う、その顔に。
「クレミーの笑顔、やっぱり好きだな」
 真っ直ぐ、返る言葉。
 はたりとしたクレメンスが、長い耳の先まで真っ赤になったのは、言うまでもなく。
 はにかんだ笑みが、互いの瞳に映った。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: えび  )


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月29日
出発日 06月06日 00:00
予定納品日 06月16日

参加者

会議室

  • [3]柊崎 直香

    2014/06/01-19:32 

    どもども。クキザキ・タダカですー。
    クレヨン触るの久し振り。

    おとなしく過ごしてると思われるのでご安心あれー?

  • [2]セラフィム・ロイス

    2014/06/01-01:04 

    どうもセラフィムと相棒のタイガだ
    ・・・面白い場所だと思って浮かないタイガを引っ張って
    ひと時を過ごせたらと参加させてもらった
    少しでも浮上するといいんだけど・・・

  • アレックスだ、よろしくなー。
    相方はまったり絵を描いてると思うが、……うん、まあ。俺は爆睡してると思う。
    じっとしてると眠くなるんだよなー。

    お互いいい雨の日を。


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