昼間とは別の顔(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ちょっと出掛けないか、という、別に珍しくも無い誘い。
 それに頷けば、相手は慣れた様子で夜の街を歩き出した。
「何処に行くんだよ」
「いい店があるんだ」
 そう言ってたどり着いたところは、静かだが雰囲気のある落ち着いたバー。やはり慣れた様子でドアを開ければ、カラン、とドアベルが鳴り、「いらっしゃいませ」という少し掠れたバーテンの声が響く。
 バーテンの案内よりも先にカウンターの席に腰掛ければ、メニューも見ずに注文をする。
「いつもの。それとこいつには……」
「あんまり強くないのを。甘くないヤツで適当に」
「かしこまりました」
 意外だ、と思った。普段は体を動かす事が好きで、賑やかな場所が好きで、大声で笑うのが好きで。つまり、このように静かに酒を飲んで空間を楽しむところとは無縁のようなイメージだったのだ。
「意外だと思ってるだろう」
 頭の中をそのまま読まれたような問いかけに、思わずグッと言葉に詰まる。
「お前とは飲みに行ったことがなかったもんな。まぁ、飯は賑やかに食いたいけど、酒は静かに飲みたいんだよ、俺は」
 少し恥ずかしそうな、照れたような言い方に、恐らく自分との仲を深めようと努力しているのだと気付く。
「……じゃあ今日は、お前の夜の顔を見せてもらおうか」
「おー、見とけ見とけ」
「それで次は、オレの夜の顔を見せてやる」
「ふん? どんな一面があるんだ?」
「朝までゲーセン入りびたり」
「え?!」
 目を丸くする相手に喉を震わせて笑った。

 ……こんな風に、夜のひと時には相手の意外な一面が見られることもある。
 貴方の夜の顔はどんなものだろうか。相手の夜の顔はどんなものだろうか。
 それを知った時、貴方は、相手は、どんな反応をするだろうか。

解説

昼間とは違う一面を見せる夜を過ごしてください

●意外な一面を見せる人
・神人でも精霊でもどちらが意外な一面を見せても構いません
・二人共意外な一面を見せても構いません
・意外な一面を見せない場合は失敗となります

●意外な一面
・どんな場所でどんな事でも構いません(例:普段は強気だけど実はぬいぐるみを抱いてないと寝れない、明るくしてるけど不眠症、リア充っぽいけど深夜アニメ全制覇してる、等)
・全年齢のゲームって事だけ覚えていてください

●良い夜を過ごす為に色々投資してしまったようだ
・300Jrいただきます


ゲームマスターより

夜の顔を知って、また一つ仲を深めてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  静かな夜は交響曲とか聞きたくなるじゃん。
色々と頭の中いっぱいになってる時に、デジタル音源でもいいから(本当は生音が一番いいけど!)聞くとスッキリするんだ。
集中して聞きたいから、もっぱらヘッドフォン使って聞くんだけど。
今夜もそんな気分でさ。
とある交響曲を内心盛り上がりつつ聴いていたら、ラキアが
「お茶飲む?」って身振りで伝えてきた。
「飲む!」ってヘッドフォン外したら、
それを耳に当てたラキアが意外そうな顔をするんだぜ。
「真剣な顔して交響曲聞いてるとは思わなかった」ってさ。
確かに普段はもっと軽い音楽聞いてるからな。
でも交響曲って音楽の世界に引き込まれて気持ちいいじゃん。
気分リフレッシュするよな?


咲祈(ティミラ)
  意外な一面を見せる側/精霊宅

……てぃ、ティミラ…
急に声をかけられびっくり
料理本と言われ、思わず本を閉じた。頬がほんのり赤に染まっている

……サフィニア(もう一人の精霊)
兄のオウム返しに頷く
…掃除とかよく分からない。かといって洗濯もしたことないし
料理とか、彼の代わりにできたら少しでも良くしてくれた恩を返せるような気がして

……サフィニアの家だとまずいけど、兄さん家で夜中なら良いと思った。…だがここでも読むんじゃなかった…(溜息
減る。あんた相手だと、減る。僕の平穏が
もうそれ、いいよ……
!? ちょ、止めてくれ……っ
……うざい、そういうの……
聞こえるようにぽそっと呟く。けれど、嫌ではなくて――


ルゥ・ラーン(コーディ)
  深夜に目が覚めた
隣に彼がいない
居間の気配に気が付きそっと覗いたら彼がテレビを見ていた
音の配慮だろうかイヤホンしている
様子を伺う
どうやら動物の出て来るアニメを見ている、それもちょっと昔のものの様だ

彼が動物のアニメを見て泣いている姿が意外で
彼の様子が気になりそっと声を掛けてみる
コーディ 泣いているのですか?
びっくりした彼がこちらを向いた
どうして泣いているんですか?

思い出のアニメで
この後とても辛い展開が待っているのだという
それを思って涙を…

私も一緒に見ていいですか?
あなたをそこまで泣かせるお話に興味が湧きました

涙もろくなってる彼が可愛いなんて思っていたら
私もお話に引き込まれ泣いてしまいました


歩隆 翠雨(王生 那音)
  仕事の打ち合わせにと連れて来られたバー
こういう場所に来るのは実は初めてで、しかも酒は飲める(強い)が好きではないときた
騒がしい雰囲気が苦手かも
仕事の話は直ぐに終わり、正直帰りたいと思っていたら
あれは那音?
話を合わせろと囁く彼に頷き

サンキューな
助かった

那音はここに良く来るのか?
さっきの店と違って、静かで落ち着いた雰囲気
那音が頼んでくれたカクテルも美味しい
那音も…心なしかいつもより砕けているというか…酔ってる?

残念だったな
じゃあ、俺が那音を酔い潰そう…なんてな
と笑った所で、肩に那音の頭が
…本当に酔ってる?
那音は酔うと甘えるんだな
頭を撫でる

意外、というか…嬉しい
俺に甘えていいと思ってるって事だもんな


■夜はひそかに家族の仲を
 夜の帳が下りて何時間か。
 そろそろ寝ようかと寝室へと向かっていた『ティミラ』は、神人であり弟であるツバキ、『咲祈』に貸した部屋の電気がついていることに気付く。
 そっと部屋に入れば、その事に気付かないほど熱心に料理本を読む咲祈がいた。
「ツバキ?」
 弟の珍しい行動に驚きの表情で思わず声をかければ、よほど想定外だったのか集中が途切れたのか、ビクリと肩を震わせて咲祈が振り向いた。
「……てぃ、ティミラ……」
 どことなくばつが悪そうに名前を呼ぶ。責めたいのに責めきれないような、そんなもどかしげな声で。
「料理本なんてどうした? 普段そんなの読まないんじゃないか?」
 咲祈の持つ本を見ながら言えば、すかさず本を閉じられる。どうしたのかと咲祈を見れば、その頬はほんのりと赤に染まっていた。
(おお……頬が赤くなってる……!)
 そういった反応の一つ一つに、咲祈が、弟が記憶を取り戻したという事実を噛み締め、改めてじんわりと感動の波が来ていた。おかえり、弟。ありがとう、弟。
「……サフィニア」
 一人こっそりと感動に浸っていると、咲祈がぽつりと呟いた。
「サフィニア?」
 それは咲祈のもう一人の精霊の名前。記憶をなくした咲祈を保護し、面倒をみてくれていた存在。
 ティミラがオウム返しすれば、咲祈は静かに頷いた。
「……掃除とかよく分からない。かといって洗濯もしたことないし。料理とか、彼の代わりにできたら少しでも良くしてくれた恩を返せるような気がして」
 咲祈はぽつりぽつりと話し始める。
 記憶を取り戻したからこそ、出会いからずっと世話になっていた事がよくわかるし、改めて恩を返したいと思った。
 けれど、それをサフィニアやティミラの前であからさまに主張するというのも出来なくて、こうしてこっそりと調べていたのだった。
「……サフィニアの家だとまずいけど、兄さん家で夜中なら良いと思った……だがここでも読むんじゃなかった……」
 結局気付かれてばれてしまったと、そこまで話して、咲祈は深い溜息をつく。
「えーなんでさなんでさ。良いじゃん、別になにも減らないって」
 溜息をついた咲祈とは対照的に、ティミラは明るく言い募る。それに対して咲祈はじとりと視線を投げる。
「減る。あんた相手だと、減る。僕の平穏が」
「へえ……」
 拗ねたような不貞腐れたような。そんな感情が見て取れる反応に、ティミラは、くす、と笑う。
 確かに記憶は戻っていて、だけど咲祈の部分もそのまま生きていて、それでもここにいるのは間違いなくティミラの弟なのだ。
 急激に目の前にいる弟がかわいく思えてきて、ティミラは腕をがばっと広げる。
「さあ、おいでっ!」
「もうそれ、いいよ……」
 呆れたような咲祈の声。
 予想していた通り、やはり来ないと分かれば話は早い。いつかのようにティミラ自ら咲祈を抱きしめた。
「!? ちょ、止めてくれ……っ」
 その抱擁は、ウィンクルムとしての抱擁ではなく、兄弟としての抱擁。咲祈が記憶を取り戻してから初めての抱擁。だからこそわかる。咲祈が、弟が口先では嫌がっているが、本当はそうではないと悟っている。
「……うざい、そういうの……」
 しっかりと聞き取れるような大きさでぼそっと呟かれた声は、それでも振り払うような音色も突き放すような音色もしていなかった。
 そんな咲祈の様子がかわいくて、嬉しくて、ティミラは抱きしめながら咲祈の頭をぽんぽんと撫でる。くすくすと笑いながら。
 記憶が戻って、戸惑っている様子のある弟。
 それでも彼は進もうとしている。辛い過去も作り上げた今も受け止め、まだ見ぬ未来へと向かおうとしている。そんな弟を、兄として応援しないわけもなく、可愛がらないわけもない。
「何で子ども扱い……」
 撫で続けるティミラに咲祈は呆れたような声で呟くと、ティミラはその反応すら好ましくてそのまま暫く笑い続け撫で続けた。咲祈もそれを受け入れ続けた。
 昼間では訪れなかったであろう兄弟の時間は、明るい部屋の中で穏やかに温かく流れていた。



■夜は静かに酔いしれる
『歩隆 翠雨』は正直、帰りたいと思っていた。
 仕事の打ち合わせに連れて来られたバー。じつのところ、こういう場所に来るのは初めてで。仕事の話はすぐに終わり、そのまま酒を勧められた。
 酒に弱ければそれを理由に帰れたのかもしれないが、幸か不幸か酒には強く、喜劇か悲劇かしかし酒が好きというわけではなかった。
(騒がしい雰囲気が苦手かも)
 程よく酔いの回った周囲の客達は、声がよく通る者が多く賑やかだった。
 翠雨をここへと連れて来た相手も、大分酒臭くなった息でこちらに話しかけては声に出して笑っている。翠雨に出来るのは愛想笑いを向けることだけだった。
 と、その時、視界の端に見慣れた人物が入り込んだ気がした。
(あれは那音?)
 確かめようとそちらに顔を向ければ、間違いなく当人がこちらへ近づいてきた。
「失礼」
 声をかけながら、翠雨と相手の間にさり気なく体を入れ、翠雨の顔を覗き込む。
「翠雨さん、顔色が悪い。悪酔いしたのでは?」
 それはウィンクルムとしてのパートナーであり、先日思いが通じ合ったばかりの『王生 那音』だった。
「え……」
 どうしてここに、という疑問と驚きから声を漏らせば、那音は相手に見えないよう唇に人差し指を立てて添えた。話を合わせろという事だ。
 意図を読み取った翠雨は、口元を片手で多いながら頷いた。
 那音の表情は見えなくとも翠雨が頷いたのは見えた相手が、慌てたように謝罪をしてきた。
「彼は酒に弱くて……私も帰る所だったので、送っていきます」
 相手の方を振り返った那音は、にこやかに断りを入れると翠雨を連れ出した。

 店を出て数歩進んだところで、那音は少し強引だっただろうかと省みる。
 翠雨が愛想笑いで困っている顔になっていると判断したからこその行動だったが、それに自分も仕事の付き合いで来ていたのだ、もし仕事の関係だったら多少困っても話を続けなければいけないところだったかもしれない。
(余計な事をしたかな?)
 少し不安に思って振り返ったその瞬間に、翠雨がホッとしたような声を吐き出した。
「サンキューな、助かった」
 その声に那音も気が抜ける。
 そうなってしまえば、家に帰ってしまうのも勿体無いと思える位にはまだ早いこの時間。
「お礼代わりに一杯付き合ってくれないか。飲み直したいんだ」
 誘いをかければ、翠雨は笑顔で頷いた。

 訪れたバーは先程と違い、静かでしっとりと落ち着いた空気が流れていた。
「那音はここに良く来るのか?」
 翠雨用に飲みやすいカクテルを、自分用にブランデーを注文する那音に訊ねると、「まぁ、行きつけかな」との答えが返ってきた。慣れた雰囲気にそれが事実なのだろうとすぐにわかる。
 出されたカクテルは紅茶を思わせる爽やかな味で美味しかった。ゆっくり味わうのが正しいのだろうが、美味しくてついペースが上がってしまう。
「飲みやすいからといって、ぐいぐい飲むと酔うぞ?」
 言いながら、那音もクイッとブランデーをあおる。そして満足気に頬を緩める。
「那音も……心なしかいつもより砕けているというか……酔ってる?」
「まぁね。翠雨さんは酒に強いのか」
 ペースを抑えようとしない翠雨は、その顔色を少しも変えない。好き嫌いと得意不得意は別なのだろう。
「残念」
 言いながらも、那音は相変わらず楽しそうにブランデーグラスを回す。
「酔い潰してみたかった」
「残念だったな」
 つられるように翠雨も頬が緩む。
「じゃあ、俺が那音を酔い潰そう……なんてな」
 からかうように笑った所で、肩に温かな重みを感じる。那音が寄りかかるように頭を置いたのだ。
「……本当に酔ってる?」
「酔う為に飲んでるんだから、当たり前だよ」
「那音は酔うと甘えるんだな」
 翠雨はくすくすと笑いながら、楽しそうに那音の頭を撫でる。
 温かい時間だ。何処かくすぐったくて、楽しくて、ふわふわして。ああ、これが酔っているという事だろうか。夜に、酒に、好きな人に、酔っている。
「また一緒に飲もう」
 こういう雰囲気ならば、バーというものもいいのかもしれない、そう思って口に出せば、那音が一度目を丸くしてから「喜んで」と返した。
(意外、というか……嬉しい)
 翠雨の肩に頭を乗せ、たゆたう様な心地良さを感じながら、那音は幸福に酔いしれる。
 酒が好きではない翠雨が、那音には「また一緒に」と言ってくれるその意味。
(俺に甘えていいと思ってるって事だもんな)



■夜に零す涙は甘く
 眠りについていた『ルゥ・ラーン』は、ふと深夜に目が覚めた。
 まだ外は暗い。そのままもう一度眠りに落ちてしまえばよかったのだが、妙に目がさえてしまった。
 そして気付く。隣に彼が、『コーディ』がいない。
 トイレにでも行ったのだろうか、と思いながら体を起こして部屋から出れば、居間の方に誰かがいる気配がした。
 もしやと思い、そっと近づいて覗いてみれば、想像通りコーディがテレビを見ていた。深夜だという自覚はあるのだろう、音の配慮の為かイヤホンをしている。だからか、まだルゥに気付いていないようだった。
 ルゥはコーディの様子を伺う。イヤホンをしている事を差し引いても、どうやらこのちょっと昔にやった動物の出て来るアニメに集中しているようだった。
 そして気付く。
 コーディは泣いていた。
 ルゥとしては動物のアニメを見て泣いている、というコーディの姿が意外で、気になってそっと声を掛けてみた。
「コーディ、泣いているのですか?」
 静寂を裂くようにはっきりとした声で訊ねれば、コーディはびくっと体を震わせてから振り向いた。よほど驚いたのか、涙に濡れた目を丸くして。
「何だよトイレか?」
 涙をぬぐいながら質問で返すコーディに、ルゥもまた質問で返す。
「どうして泣いているんですか?」
「泣いてないし」
 その答えには説得力がなかった。現に今、拭ってもまだ涙を滲ませているのだから。
「やっぱり泣いているように見えますが」
 重ねて問えば、観念したのか、もう一度乱暴に涙を拭ってからコーディは説明を始めた。
 どうやら今夜は昔のアニメの一挙放送をしていたらしく、子供の頃に見ていたアニメだったからつい見ていたのだと。
 ルゥも確かにそのアニメは知っていた。だが、内容までは詳しく知らず、物珍しそうに流れている映像を見やった。すると、見かねたコーディが言い辛そうに説明をしてくれた。
 登場人物の話、始まりの話、そう言った事を説明する内に、つい熱が入り、気付けばコーディは熱く語り出していた。
「この主人公兎は子供の頃 離れ離れになった母を探して、意地悪なキツネや狼と戦いながら仲間と力を合わせて大冒険をする物語で……!」
 要約すれば。
 コーディにとってこれは思い出のアニメで、見た事があるからこそこの先を知っていて、この後とても辛い展開が待っているという事実に涙が出てしまったという事だった。
「あああ! このシーン!」
 説明している間に話が進んだのか、コーディはルゥからテレビへと視線を戻した。
「くそ、キツネめ~」
 ルゥがいる、という事はわかっていたけれど、もうアニメに釘付けになってしまっていた。思い出補正は強いのである。
 夢中でアニメを見て涙を見せるコーディ。その絵はルゥにとって珍しいものだった。
「私も一緒に見ていいですか?」
 ルゥが希望を口に出せば、コーディがバッと振り返り目を瞬かせた。
「え マジ? 君がアニメ?」
「あなたをそこまで泣かせるお話に興味が湧きました」
 事実である。
 人の感情を揺さぶるものを知るという事は、その人自身を知ることにも通じる。何を見て何を思うか、感じるか。これはアニメへの興味であると同時に、コーディへの興味でもあった。
「いいけど 僕の顔あんまり見るなよ」
 少し恥ずかしそうに言うコーディに、ルゥは笑顔で了承し、二人は並んでアニメを見る事になった。
 コーディはまさかの展開に最初戸惑っていて、ルゥは涙もろくなっている彼が可愛いなどと思っていて、けれど説明を受けながらアニメを見ていれば、やがて二人は物語に引き込まれてしまう。
 もう説明も要らない。二人はアニメの展開にひたすら一喜一憂する。お母さん兎が子供兎を庇って死んでしまう所では二人で号泣した。
「これは泣けます……」
「だろう?」
 深夜に泣きながら二人は会話を交わす。今までからは想像もできない二人の時間の過ごし方は、涙と感動に溢れた温かい時間だった。



■夜はまだ見ぬ貴方の顔を
 静かな夜は交響曲とか聴きたくなる。
『セイリュー・グラシア』は、自室でいそいそと用意をしていた。
 これは何も珍しいことではなく、セイリューにとってよくある事だった。
 色々と頭の中がいっぱいになっている時に、交響曲を聴くとスッキリするのだ。本当は生音が一番いいが、無理は出来ない。デジタル音源でも構わない。デジタル音源ならば、もっぱらヘッドフォンを使って聴く。集中して聞きたいのだ。
 そして今夜も、そんな気分で。
 なので、今はその用意をしていた。
「よし、今日はこの曲!」
 ヘッドフォンをつけて、選んだ曲を流す。
 耳に直接叩き付けるように流れ込んでくる迫力のある音、壮大なメロディ、豊かなハーモニー。
 セイリューは一人静かに、だが内心盛り上がりながら聴いていた。

『ラキア・ジェイドバイン』は、食後のお茶にしようと思い、セイリューの部屋を覗きにきた。
 セイリューのことだ、おそらく筋トレでもしているのだろう。そう思いながら部屋に入れば予想は大きく外れ、椅子に座ってヘッドフォンをつけ、凄く真剣な顔をして音楽を聴いていた。
(珍しいな)
 そう思いながらも、まぁそんな日もあるだろうとラキアはセイリューの前に回りこんで「お茶飲む?」と言いながら身振りでも伝えた。
 しかし、セイリューはよほど集中しているのか気付かない。
 ラキアが大げさに手を振ったりする事三回目、それでようやく気付いたセイリューは、パッと笑顔になってヘッドフォンを外しながら「飲む!」と答えた。
 セイリューは立ち上がり伸びをする。その傍らで、ラキアは机の上に置かれたヘッドフォンに注目してしまう。
 一体何をそんなに熱中して聴いていたのか。
 普段、セイリューが聴く音楽は知っているが、それは軽くポップな感じで、セイリューならば体を動かしたり何か作業をしながら聴きそうなものなのに。
(何かの新曲とか?)
 興味が湧いたラキアは、まだ微かに音が漏れているヘッドフォンを耳に当てる。
 すると、流れていたのはクラシック音楽の交響曲だった。
 雄大で壮大、世界の広がりを感じる有名どころの交響曲。それがオーケストラで美しく奏でられている。
 これは予想していなかった。
 ラキアは思わず目を丸くしてセイリューを見つめてしまう。
 セイリューはポップな感じの音楽が好きだから、これをそんなに集中して聞いてるって想定外で。
 セイリューはセイリューで、ラキアのその反応に小首を傾げ、どうしたのかと訊ねた。
「真剣な顔して交響曲聞いてるとは思わなかった」
 ラキアが素直に言えば、ああ、とセイリューも納得する。
 確かに普段はもっと軽い音楽を聴いているから、意外と言えば意外なのだろう。
「でも交響曲って音楽の世界に引き込まれて気持ちいいじゃん。気分リフレッシュするよな?」
 実は昔からこんな時は聴いてるんだ、とセイリューは笑って言う。
 ラキアの方は、その発言で知識と実感が結びつく。
(そういえば結構、教養育まれる家庭環境だったよね、彼の実家って)
 セイリューがどんな家庭に生まれ育ったか、という事は知っていた。けれど普段のセイリューからはあまりその背景が見えず、だから今日の一幕は意外なことのように思えた。
(だけど、これもセイリューなんだよね)
 こんなにも一緒にいて、一緒に行動して、一緒に分かち合って、相手の事は誰よりもよく知っているような気になっていたけれど、それでもまだすべてを見たわけではないのだ。
 きっと、まだラキアが見た事の無いセイリューがあるのだろう。
 ラキアももしかしたら気付いてないだけで、セイリューに見せていない一面があるのかもしれない。
 その事実がラキアには何だかくすぐったかった。
 だってきっと、まだ見ぬ一面を知る楽しさが待っているのだ。二人の仲がもっと深まるタイミングが待っているのだ。
「じゃあ、今度コンサートへ一緒に行こうよ」
「おー、いいなそれ!」
 ラキアの提案にセイリューは笑顔で頷く。
「一緒に聞きたいな」
「オレも!」
 未来の約束をしながら二人は部屋を出る。
 そして二人は家族に囲まれながら食後のお茶をする。それは二人にとってはよくあるいつもの行動で、だけど今日、この夜は、ラキアにはセイリューがいつもより輝いて見えた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月14日
出発日 10月20日 00:00
予定納品日 10月30日

参加者

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