プロローグ
大神祭『フェスタ・ラ・ジェンマ』が開催された。
何処の地域も華やかな祭りで盛り上がっている。勿論、ここ『紅月ノ神社』でも様々な屋台や出し物が催され……。
「打ち上げ花火、下から見るか『上』から見るか―――!!」
「うわあぁ―――――?!?!」
上から降ってくる花火、花火、花火!!
頭上数十センチのところで爆音と共にはじける光の花に、祭りに訪れた人達は慌てふためき逃げ惑う。
「いやー……もうほんっと……」
空高く、沢山の花火を抱えて爽やかな笑顔を浮べているのは、妖怪の風神達である。彼らは人の生活に害を出す妖怪で、何者にも囚われず、瞬間を楽しむ快楽主義者で……。
「「「「「たーのし―――い!!」」」」」
端的に説明すると、くそ迷惑な馬鹿である。
こちらに、特製鉄砲が二種類用意されている。
紅月ノ神社の祭りを取り仕切る妖狐が、その特製水鉄砲の使い方を説明する。
「特製水鉄砲で落ちてくる花火を撃っていただければ、本物の花火じゃなくて狐火での花火に変わってくれます。そうすればすぐ頭上で破裂しても火傷とか負わなくて済む筈です」
そして、もう一つ。
大分目の据わった妖狐が説明する。
「こちらの特製火鉄砲で空にいる風神を撃っていただければ、奴ら火が嫌いですから慌てふためいて逃げ惑って墜落どーんッ! ですよ、ざまぁみろですよ、ホントあいつらいつも邪魔しやがってホントもう、もう……ッ! 撃墜王に、俺は、なるッ!」
ふふふふふ、と壊れたように笑いだした妖狐を誰が止められよう。ウィンクルムは涙した。必ず、かの風神共を除かなければならぬと決意した。
「平和な……平和な祭りを、取り戻して下さい……!」
胃の辺りを押さえている妖狐に、縋りつかれるように頼まれた。
解説
●目的と成功条件
A花火を一つ以上撃ち落す
B風神を一人以上撃ち落す
どちらかだけでも達成できれば成功です
●状況
・神社内の広場で風神が尺玉花火に火をつけて落としている
・風神は頭上五メートル以上十メートル以下の辺りを飛んでいる
・観光客は一時避難していて、現在はウィンクルムと妖狐のみ
●特製水、火鉄砲
・当たるかどうかプランだけでなく、ステータスのとあるの数値を参考します
・玉(水、火)が尽きる事は無いので、数撃ちゃ当たる戦法もありです
●プラン
・AかB、どちらをやるかプランの頭に書いて下さい
●その他
・ぶっちゃけ『撃たない』とかいうプランにしなければどうにかなるよ! 求めているのはノリと勢いと笑いだよ!!
ゲームマスターより
取り戻せ平和な祭り!
多分、逃げた観光客は周りでこの戦いを見て盛り上がってるぞ!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
水田 茉莉花(八月一日 智)
B 事前に連絡用のインカムを申請し、皆さんに配っておきます インカムは風神に見つからないように着けてくださいね 確かにはた迷惑ですものね、バシッと叩き落としちゃいましょ! まずはトランスしてほづみさんにCD そして、あたしも微力ながら火鉄砲で応戦します 出石さんの方に一匹行きました、お願いします!(風神に聞こえない程度の声) 次はあっち、よろしくねほづみさん ほづみさんってば!(脳天チョップ) 彼等を縛り上げて説教するんですから、アホなことしないでください で、なんでやったのか説明なさい(子どものいたずらを叱るように) 理由がどうあれ、やったことはダメなんだから 正しい祭りの楽しみ方を妖狐さんと一緒に叩き込みましょう |
出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
B 話によるとその風神かなりのクズね これにはさすがに温厚なあたしもブチ切れるわ 任せて(笑顔) 基本は一体ずつ確実に、の方針で 可能なら他の仲間と協力し挟み撃ちに 他の仲間の方に向かった風神の中からまずは一体 その中で一番ムカつく面構えの奴に集中攻撃 貴方を見てると、ろくに働きもせずしょっちゅうお金借りて 全部ギャンブルと浮気につぎ込んだ元カレを思い出して腹が立つのよ! くたばれぇ! 怒りで乱射 いつのまにか数うちゃ当たるスタイルになっている 確実に潰…撃退を確認したら他の奴へ 銃口を向けにっこり 貴方達もああなりたいのかしら? レムも人のこと言えないと思うわ… 嫌なこと思い出しちゃったから、終わったらぱーっとお祭り回りたい |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
最初にトランスします。 私達はB花火を撃ち落としますね。 理由は、以下の通り。 風神達が手っ取り早くウィンクルムに攻撃・嫌がらせするには花火を落としてくる事だと思います。 味方の約半数が風神への直接攻撃を選んでいるので、花火を防ぐのに2ユニットはあった方が良いとの判断からです。 私達、射撃は専門外ですし。 射線が線になる水鉄砲の方が当たりそう。 当たると信じれば当たる、いい言葉ですねフェルンさん。 私も今日はそれを信じることにします。 風神の動きを良く見て、火を着けたものから素早く水鉄砲を当てて狐火にしますね。狐火の花火は幻想的で綺麗そうです。 フェルンさんのMPが不足する時はディスペンサで補充します。 |
ひろの(ケネス・リード)
「?」何だろう。 「え」……え? 風神が悪いのはわかるけど。(撃つのに抵抗がある でも、このままじゃお祭りがダメになるし。(自分に言い訳 私も射撃とか得意じゃないのに。なんで直前に言うかな。 当たるかはともかく。ケーネが狙った風神が、避けそうな方に撃てばいいのかな。 風神を狙ってる他の人の動きを偶に確認。 位置関係と射線に問題なければ、ケーネにも声をかけて、はさみ撃ちとか協力できそうならする。 ※撃って風神に危険が無いのが理解できたら、段々撃つのに遠慮が無くなる 「ケーネ! そこから左上の狙って!」 花火には当たらないように避けたい。(ずっと上を見るのに疲れて、下を向く回数が多い 「!? あ、ありがとう」(ケーネにお礼 |
西島 紫織(新藤 恭一郎)
プランAです 本当は他の皆さんと風神を…でも黒豹恭一郎さんに睨まれたらガゼル紫織は従う他ないんです… 胃が痛い妖狐さんの心中お察しします(私も胃が痛いです) お互い平和を取り戻しましょう! と、気持ち切り替えCD CD掛ける瞬間だけは幸福感を感じるんですよ、ええ こうなったらノリです 皆さんが風神退治をして下さる間に水鉄砲撃ちまくりです 妖狐さん私にも水鉄砲下さいっ! もう歌だって歌っちゃう! 花火全々々部消しちゃう…音痴とか言わないで! 私の運動神経ではまず当たらないので頭上ラインに水平にひたすら撃ちます 落下防止ネットじゃないけど被害の水際阻止イメージで 風神に睨まれても…し、知りません(怖いから目を合わせない) |
■準備万端?
「特製火鉄砲!」
「こっちもよ」
「おれたちも!」
上から順に『ケネス・リード』、『出石 香奈』、『八月一日 智』の言だ。
随分と殺る気……じゃなくて、やる気に溢れた三人のパートナーである『ひろの』、『レムレース・エーヴィヒカイト』、『水田 茉莉花』は、呆れのような義憤のような気持ちから軽く息を吐き、妖狐達から特製火鉄砲を受け取った。
「わ、私も……!」
「問答無用で特製水鉄砲だ」
「はい……」
仲間達に続けと身を乗り出した『西島 紫織』だったが、パートナーの『新藤 恭一郎』の一睨みでしゅんと縮まった。
縮こまった紫織へ、妖狐は特製水鉄砲を渡す。
「本当は他の皆さんと風神を……でも黒豹恭一郎さんに睨まれたらガゼル紫織は従う他ないんです……」
「こっちの人手も欲しかったんで助かります」
笑いながらの妖狐のフォローに、紫織は若干涙目で「頑張ります……」と返す。
そんな紫織を見ながら、恭一郎は何故わからないのかと溜息をつく。
(俺も紫織も属性的に火鉄砲より水鉄砲の方が相性もいい筈だからな。彼女はどうもそれが理解出来ていないらしいが……)
だが、恭一郎はそれを優しく教えてやるような性分ではない。ちょっぴり落ち込みながらも意識を切り替えようと頑張っている紫織を見ているだけだ。
そもそも紫織は本来知性的な女性なのだ。ただ、度々顔を出すあの空回り癖がどうにも問題だ。
(……それすら俺には可愛いから参るよな……くそっ)
そっと吐き出された二度目の溜息は、先程とは違う意味を持っていた。
「それにしても、話によるとその風神かなりのクズね。これにはさすがに温厚なあたしもブチ切れるわ」
火鉄砲の準備をしながら香奈が言うと、妖狐達は「ええ、かなりのクズです」と頷く。
「過去にも祭りの邪魔したり面倒事起こしたりウィンクルムの皆さんにご迷惑かけたりしてるのに、何も反省せず……うぅぅ……!」
胃の辺りを押さえだした妖狐に、智が慌てて「よーしわかった、アイツらは迷惑なふれんずなんだな!」と空気を変える。
「ならば遠慮は全くしない、全力で叩き潰してやんぞオラァ! 風神、出て来いやぁ!」
「何してんの!」
煽る様に火鉄砲を発射しだした智を、茉莉花が慌ててバシッと頭を叩いて止める。「試し撃ちだって!」という声は無視した。
「確かにはた迷惑ですものね、バシッと叩き落としちゃいましょ!」
たった今バシッと智の頭を叩き落したスイングを思い出し、妖狐は頼もしさを覚える。
「胃が痛い妖狐さんの心中お察しします。お互い平和を取り戻しましょう!」
胃を押さえる妖狐を慰めるように紫織が言う。合間の「私も胃が痛いです」という囁きは聞かなかったことにして、妖狐は「皆さん……!」と感涙する。
「任せて」
香奈も鉄砲を抱えてにっこり微笑む。何故か背筋に冷たいものが走る笑顔。そんな笑顔すら頼もしい。
(温厚とは一体……)
レムレースはつい考え込む。
「だが確かに祭りの邪魔をするとなれば捨て置けないな」
幸い祭りに来ていた人々の避難は終わっている。広場にいるのは先に鉄砲合戦を始めている妖狐達だけなので、心置きなく風神を撃退できるだろう。
「トランスは……」
言いながら改めて香奈を見て止まる。殺る気……じゃなくて、やる気、いやもうこれ殺る気だ、殺る気に溢れてる。やめよう、スキルを使わずとも気を引くことはできる筈だ。
「妖狐特製インカムです! もー、今回だけですよ!」
「ありがとうございます! 皆さん、風神に見つからないように着けてくださいね」
茉莉花が申請したインカムを受け取り配っていると、オーラを纏っている『瀬谷 瑞希』と『フェルン・ミュラー』がやってきた。二人は皆が鉄砲を受け取っている間、先にトランスをしていたようだ。
「風神達が手っ取り早くウィンクルムに攻撃・嫌がらせするには、花火を落としてくる事だと思います。ウィンクルムの約半数が風神への直接攻撃を選んでいるので、花火を防ぐのに2ユニットはあった方が良いと思います。なので、私達は花火を撃ち落とすということで」
「うん、わかった」
どうやら他のウィンクルムの判断を待ってから自分達の行動を決めたようだ。
「それに私達、射撃は専門外ですし。射線が線になる水鉄砲の方が当たりそうかと」
瑞希とフェルンが話しながら妖狐の前へと来て、「お二人はどちらを?」という妖狐の問いに、「こちらを」と鉄砲を二つ取った。
鉄砲を受け取った二人に茉莉花がインカムも渡す。これで全員に行き渡っただろう。
「じゃあ、あたし達もトランスして行きますか」
茉莉花がそう言うと、紫織も「あ、私達も」と動き出した。
囁かれるインスパイアスペルと頬へのキス。二組はオーラに包まれ、そのままスキル『コンフェイト・ドライブ』も発動させる。
茉莉花は智へ、紫織から恭一郎へ。
(コンフェイト・ドライブ掛ける瞬間だけは幸福感を感じるんですよ、ええ)
さらりとした髪が手にくすぐったい。紫織は目を閉じて頭を撫でられている恭一郎を見ながら、むず痒いような心地良さを味わった。
「……これでいいか、まりか? じゃ、次行くぜ」
さっきまでより纏っているオーラが強くなった智が声をあげると、全員それに続き広場へと向かう。走り出す。
「ひろの! 最初に言っておくわ」
ケネスが楽しそうな声で隣を走るひろのに声をかける。
「?」
何だろう、と、ケネスの方を向ければ、飛び出るまさかの発言。
「あたし射的苦手だからサポートよろしく!」
パチン、とウィンクのおまけ付き。
「え」
思わず声が出る。
(……え?)
いざ戦場へ! そのタイミングで言われた内容に、ひろのの頭は一瞬空っぽになった。
■砲撃用意! 撃てぇ!!
「オラァ、これでも喰らえやーっ!」
「来たな、ウィンクルム!」
戦端を開いたのは智だ。
先程の試し撃ちのように、勢いよく火鉄砲を発射させる。というか乱射させる。
「はっ! 当たるかそんなヘボ弾!」
「んだとぉ!」
花火を落とす手を止め、風神の一人が智をからかうように近寄り、もう一人は逆に遠ざかった。
その遠ざかる風神を、茉莉花は見過ごさなかった。風神が逃げた先には仲間がいる。
「出石さんの方に一匹行きました、お願いします!」
『了解!』
風神に聞こえないように、それでもインカムへとはっきり述べれば、仲間からの力強い声が返ってきた。
基本は一体ずつ確実に、の方針で動きだしていた香奈とレムレースは、レムレースに囮になってもらって一人の風神を狙っていた。
そこへインカムから聞こえてきた仲間の声。視線をチラリと動かすと、確かに一人、乱射する智の方を見ながらこちらへ逃げてきている風神がいた。
まだ智を煽りながら近づいてくる風神。その顔つき、その態度が、香奈の嫌な記憶に引っかかる。
香奈の標的がそこで最初の風神から新たに来た風神へと切り替わる。
(もう一人か、こっちも俺が囮に……ん?)
「うお?! 何でオレ集中狙い?!」
「うるっさい!」
標的を切り替えた香奈は、先程よりも集中的に攻撃を加えていた。他の風神に目もくれずに。
「香奈、なぜ特定の風神ばかり狙っているんだ?」
何が起きているのかと訊ねると、香奈は風神を見据えたまま吐き捨てるように言う。
「貴方を見てると、ろくに働きもせずしょっちゅうお金借りて、全部ギャンブルと浮気につぎ込んだ元カレを思い出して腹が立つのよ!」
香奈さん、それ八つ当た……。
「くたばれぇ!」
更なる乱射をひたすら繰り出す。うん、八つ当たりでもいいじゃない!
「ひぇ……」
香奈のバーサークぶりがちょっぴり驚いた妖狐達が、レムレースに助けを求めるように仰ぎ見るが。
「そうか、よし、ぶちのめす」
笑顔で火鉄砲を構え始めたので素早く二人から距離を置いた。妖狐には妖狐の仕事があるのだ、別に怖くて逃げたわけではない。多分。
「香奈、奴の右斜め上を狙え!」
「右斜め上ね!」
風神の動きを見ながら予測を立てて香奈へと伝える。そして自分が狙いやすいように誘導し、レムレースも撃つ。こちらは乱射というよりも一発一発に重みがありそうな感じだ。なんかこう、確実にタマ取ったる、的な。
気がつけば数うちゃ当たるスタイルになっていた香奈だが、それが功を奏して、風神の体に火の弾がかする。
動揺した風神のその背後、後頭部へとドガン! と火の弾が当たる。
「ぎゃあ!!」
風神は回転しながら地面へ落下する。落下した瞬間、周りにいた妖狐が水をぶっかけ、用意していた特製の縄で風神を縛り上げる。ほらね、妖狐には妖狐の仕事があるんですよ、逃げたわけじゃないんですよ。
「容赦なさすぎだろ!」
「恨むなら香奈のトラウマを掘り起こした己を恨むんだな」
「それオレ悪くなくね?!」
「祭りの邪魔した時点で充分悪いわよ。あースッキリした」
「完璧私怨じゃん!!」
喚く風神を無視し、まだ空中に浮かぶ風神達ににっこり微笑みかける。
「貴方達もああなりたいのかしら?」
銃口を向けながら。
広場へ来た直後、ひろのにはまだためらいがあった。
(風神が悪いのはわかるけど)
威嚇射撃ならばともかく、直接狙うとなるとどうしても抵抗がある。
(でも、このままじゃお祭りがダメになるし)
撃つ事への大義名分を掲げて自分の心に言い訳をする。火鉄砲を持つ手に力が入る。
(そもそも、私も射撃とか得意じゃないのに。なんで直前に言うかな)
内心もやもやしたまま、それでもここに来たのだ、ひろのは火鉄砲を構える。
「風神が密集してるところを狙ってー。可能な限り連射!」
そんなひろのとは対照的に、実に楽しそうに撃ちまくっているのがケネスだ。
支給された火鉄砲は一挺のみだったのが、撃っている数だけで見れば二挺で撃っているのと同じくらいだろう。
しかし。
「いえー! ヘッタクソー!」
ケラケラと空中で笑う風神がこちらを煽る。
「……当たらないね」
残念ながらケネスは本人の申告通り射的が苦手のようで、なかなか『命中』させる事が出来ない。
「当たれば楽しいとは思うけど」
うーん、と唸るが、それも一瞬。またすぐ笑顔で。
「ま、慌てる風神見るだけでも楽しいし?」
と言って連射する。
ひろのは何とも言えない。とはいえ、依頼だし、楽しんでるみたいだし、これでいいのかもしれない。
これでいいとしよう。
そもそも自分だって狙ったところで当たらないかもしれない。
(当たるかはともかく。ケーネが狙った風神が、避けそうな方に撃てばいいのかな)
ひろのは撃つ決意を固めた。
「ていうかひどくね? 何でこんな人数集めて撃ってきてんの? オレら恨まれてるの? 悲しいわー」
わざとらしく頬を膨らませる風神は、きっとちっとも傷付いてなんてない。
「今までもやらかしてるみたいだし。因果応報ってやつよねー!」
それが予測できるから、ケネスはイイ笑顔で言いきってまた構える。
「あっぶね! つかそんな危険物持ち込むお前らの方がヤバくね?!」
「花火のが危険物に決まってんでしょー!」
叫びながら遠慮なくファイヤ! ファイヤ! ファイヤ!! ひろのもファイヤ!
(他の人は……)
ひろのは風神を狙っている他の人の動きを偶に確認する。
■爆発させよ!!
広場に来た紫織は、もうこうなったらノリだ、と思っていた。他の仲間達が風神退治をしている間に、水鉄砲撃って撃って撃ちまくるのだ、と。
「もう歌だって歌っちゃう!」
「え」
周囲にいた妖狐達が思わず紫織の方を見て手を止めてしまう。そして聞いてしまう。
「花火全々々部消しちゃう……音痴とか言わないで!」
「言ってません!」
軽快に歌いだした紫織だったが、すぐに見られている事に気付いて顔を赤くして叫んだ。妖狐達は慌てて花火を落とす作業に戻る。
紫織は顔を赤くしたまま、それでもまた歌いながら撃ちまくった。もうこれは自棄になっている。
自分の運動神経ではまず当たらないと思っている紫織は、事前に撃ち方を考えていた。狙いを定めて撃つのではなく、頭上ラインに水平にひたすら撃つ、というものだ。
(落下防止ネットじゃないけど、被害の水際阻止イメージで……!)
その狙いは当たって、紫織の撃った水はすぐに花火に『命中』した。
「わ、綺麗……!」
頭上で破裂する花火は、火で出来た花ではなく不思議な光で出来た花となっていた。
楽しくなってきた紫織は、更に絶好調で「花火全々々部消しちゃうって、私頑張ってるんだー♪」と映画に使われそうなオリジナルの曲を歌いながら撃ち続けていく。さっきから上でポイポイ投げられている花火は、どんどん撃ち落されて光の花が幾つも咲く。
「おー? そこのねーちゃん結構やるじゃん?」
上から声が聞こえて、ぎくりと紫織は体を硬くする。睨まれているのかもと思うと、怖くて目を合わせられない。
「何? オレらに喧嘩売ってんの?」
「……し、知りません」
「喧嘩なら買うぜー!」
言って、風神は振りかぶると、花火を紫織へ投げ落とした。
「売ってませんー!」
剛速球の花火に、紫織の反応は追いつかない。
当たる。そう思って恐怖した瞬間。
パァン!
「……え?」
物凄い勢いで迫ってきていた花火は、スキル『スナイピング』を発動させた恭一郎が見事に撃ち落した。結果、紫織の目の前で優しい光の花が見事に咲いた。
「まったく……」
花火は風神の手元を見れば投下方向とスピードがある程度予測出来る。そうは言っても、間に合わない事や撃ち損じだってあるだろう。そう予測し、そんな時には『スナイピング』を使おうと考えていた恭一郎だからこそ出来た事だった。
これだから目が離せない、と思いながらも、無事な紫織の姿に安堵すると、また花火を撃ち落していく。
「あ、ありがとうございます!」
守ってもらった事、見事に撃ち落した事。光の花の中で、紫織は先程のように顔を赤くするが、先程とは違う原因で赤くなっていた。
広場に着いた瑞希とフェルンは、鉄砲を貰ってから試し撃ちをしていなかった事を思い出し、まずどの位の威力なのかと地面へと撃ってみた。
「え?!」
「瑞希!」
そこで、予想外の事が起きた。飛び出したのは水ではなく火だったのだ。
「な、何で?」
驚きながらも自分達の行動を振り返って、そして失態に気付く。
皆が真っ先にどの鉄砲を使うか宣言してる中、先にトランスしていたのは自分達で、さらに妖狐に対して水なのか火なのかはっきりしない返答をしてしまった。
「戻ろう」
「……はい」
瑞希はフェルンの提案に素直に従い、鉄砲を支給してるところまで戻って水鉄砲を貰ってきた。
失態に落ち込む瑞希を慰めるように、フェルンは心持明るめの声で言う。
「射撃のコツは当たると信じることだと、何処かで聞いたような」
瑞希は顔を上げてフェルンを見ると、フェルンは優しく微笑んだ。
「当たると信じて落ちてくる花火を水鉄砲で撃つよ。ミズキだけじゃなく、他の神人さん達が火傷でもしたら一大事だからね」
頑張ろう、というフェルンに、瑞希は気持ちを切り替える。
「当たると信じれば当たる、いい言葉ですねフェルンさん。私も今日はそれを信じることにします」
そして二人は撃ち合い合戦に参加する。
風神の動きを良く見て、火を着けたものから素早く水鉄砲を当てようと狙っていく。
幸い二人は射的の才能があったのか、それとも遅れを取り戻す為に集中力が増したのか、高い『命中』率でどんどんと花火を落としていく。
「綺麗……」
狐火の花火は幻想的で綺麗そうだと思っていたが、実際に見るとまた違う。
落とせば落とすだけ降ってくる光の花は、雨のように二人に降り注いだ。
■まだまだ! 撃てぇ!!
周りも見ながら撃っていてわかった事は、火の弾が当たってもすぐに命を落とすなんて怖い結果にはならないという事。
それがわかれば、ひろのの狙いに遠慮がなくなっていく。位置関係と射線に気をつけ、ケネスや仲間の挟み撃ちにも協力をした。どうやらケネスよりもひろのの方が射的の才能があったらしく、どんどん風神達を追い詰めて『命中』させていく。
そんなひろののやる気を感じ取ったケネスは、こっそり笑う。
(うん、いい感じ)
『うっしゃ、ひろのとリード頼むぜー』
インカムから聞こえてきたのは智の声。どうやらこちらへ逃げてくる風神がいるようだ。
「ケーネ! そこから左上の狙って!」
「よしきた!」
ひろのの指示に従って思い切り打てば、見事風神に当たってひょろひょろと落下していく。
一息ついたようにひろのは下を向いた。ずっと上を見ていたから首が疲れたのだ。
「危ない!」
「!?」
突然、ケネスにグイッと肩をつかまれて引き寄せられる。それとほぼ同時に、ひろのの斜め後ろで花火が破裂する。
といっても、その花火は恭一郎に撃たれての破裂だったので、二人に怪我はなかった。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
近すぎる距離のケネスにお礼を言い、そのまま二人共インカムで恭一郎にもお礼を言う。
「さ、次狙うわよ!」
そう言ってケネスはまた楽しそうに駆け出し撃ちまくる。ひろのもそれに続くように水鉄砲を構えた。
「次はあっち、よろしくねほづみさん」
「お、こいつで最後か?」
相変わらず智は風神目掛けて乱射してる。だが、それは実は乱射に見せかけて風神達を分断したり引き付けたりという役割があった。
茉莉花の指示で風神を追い詰めれば、そこは茉莉花と智、香奈とレムレース、ひろのとケネスの全員が綺麗に狙える場所。
「え、ちょ、もうオレだけ?!」
焦る風神に、全員が一斉射撃を行う。
「嘘おぉぉぉ?!」
風神は悲鳴をあげながらひゅるるると落ちていった。
■御用だ御用だ!!
「引っかかったなバーカ! おれ達は陽動係なんだヨーン♪ お尻ぺんぺーんっと♪」
「ほづみさんってば!」
「あいだっ!」
勝ち誇って煽っていた智の脳天に、茉莉花のチョップが落ちる。
妖狐達に水をかけられ確保されている風神の前で始まったやりとりに、捕まっている風神はその事実を無視して「ざまぁ!」と智を笑った。
だが、その笑みもすぐ消える。
「彼等を縛り上げて説教するんですから、アホなことしないでください」
妖狐達の手にある風神の力を封じる縄と、ニッコリと笑う茉莉花を見て。
「で、なんでやったのか説明なさい」
縛り上げられた風神の数は七人ほど。地面に正座させられている風神達に、茉莉花は子供のいたずらを叱るように訊いた。
「「「「「「「遊びたかった」」」」」」」
訊かなければよかった。
「あほくさ、そんな理由でやってたの? お前らフツーに屋台のぞき込むとか、イチャイチャしてるヤツのぞき込むとかすればいいのに……イデェ!」
再び脳天チョップが炸裂する。それを見てゲラゲラ笑う風神達にもチョップだ。
「理由がどうあれ、やったことはダメなんだから。正しい祭りの楽しみ方を妖狐さんと一緒に叩き込みましょう」
茉莉花が言うと、妖狐達が「そうですね!」と言って風神達に詰め寄る。
「あの、妖狐の連中がハリセンとかバットとか持ってるんですけど」
風神の一人が温い笑みで尋ねると、ウィンクルム達は爽やかな笑顔になった。
夏の夜に風神達の悲鳴が響く。同時に、広場の様子を見守っていた客から大歓声が沸いた。
■夏の思い出、思い出すか、今から作るか?
事後処理中、ウィンクルム達は色々と話す。妖狐の一部がテンポのいい歌を口ずさんでいる事とか、周りで見ていた客が射的へ行こうと盛り上がってる事とか。
「しかし、温厚とは何か、考えさせられる依頼になったな」
「レムも人のこと言えないと思うわ……」
レムレースだって容赦ない射撃を見せたのだ。香奈は顔を逸らしながら呟く。
「嫌なこと思い出しちゃったから、終わったらぱーっとお祭り回りたい」
「そうだな、祭りの雰囲気だけでも楽しんでいくか」
香奈はレムレースの顔をじっと見てから満足げに笑う。レムレースはそんなに祭りで元彼の記憶を消したかったのかと首を傾げる。
けれど違うのだ。香奈が嬉しそうにしてる理由は、レムレースの容赦ない射撃を思い出しているからだ。
(あたしを想ってだったんでしょ)
黒歴史を思い出した今日は、きっとキラキラした歴史の一つになる。
依頼結果:成功
MVP:
名前:出石 香奈 呼び名:香奈 |
名前:レムレース・エーヴィヒカイト 呼び名:レム |
名前:西島 紫織 呼び名:紫織 |
名前:新藤 恭一郎 呼び名:恭一郎さん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 08月20日 |
出発日 | 08月28日 00:00 |
予定納品日 | 09月07日 |
参加者
会議室
-
2017/08/27-23:48
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはRKのフェルンさんです。
挨拶が遅れまして、申し訳ございません。
私達は水鉄砲で花火を撃っています。
プランは提出済みです。 -
2017/08/27-21:44
ほづみさんはざっくりし過ぎてるんで、あたしが説明に来ました。
>出石さん
ほづみさんの性格だと、派手に追い回しそうなので
出石さんやひろのさんの潜んでいる方に追いやるように、あたしが説得します。
陽動係、って感じですね。
それと、今回の依頼に効果あるかどうかわからないんですが
一応あたし達は、トランスして追いやることにします。
『コンフェイトドライブもかけといてくれやー。』
あ、ハイハイわかりました。 -
2017/08/27-11:30
>挟み撃ち
ええと、真ん中から撃つ担当やって、外側に散らばろうとする風神をさらにその外から内側に向かって撃つって感じかしら?
それだと、面でやるにはちょっと人数が心もとないかもね…
奴ら飛んでるし、すばしっこそうだし。
もう少し簡単に、「他の人が撃ってるのから逃げてる所を狙って反対側から撃つ」くらいならできそう。
どれだけいるか分からないけど、とりあえずあたし達は一体ずつ確実に潰s…撃っていこうと思ってるわ。 -
2017/08/26-22:46
おっしゃー!はさみ撃ち乗ってくれた二人はサンキューなー♪
ま、おれが今考えてる作戦は
1、おれがまん中で撃つ
2、周りに風神が散る
3、中に押し込むようにどーんと撃ってもらう
ってな感じなんだけd…
「アイデアざっくりし過ぎです、ほづみさん(ハリセンばしぃ」
「でもまあ、挟み撃ちは線でやるか面でやるかに限られちゃいますよね。皆さんはどう思いますか?」 -
2017/08/25-15:21
挨拶遅れてごめんなさい。
出石香奈と、パートナーのレムよ。
風神はかなりのクズみたいね…これにはさすがに温厚なあたしもブチ切れるわ。
というわけで、あたし達も風神狙いで行く予定。
挟み撃ち、いいわね!
ぜひあたし達も乗らせてもらいたいわ。
レムレース:
(温厚とは一体…) -
2017/08/24-21:20
>風神をはさみ撃ち
はい。いいと、思います。
できるだけ、私もがんばります。 -
2017/08/23-14:35
お二組様、初めまして。
西島紫織といいます。
パートナーは恭一郎さんです。
よろしくお願いします!
風神撃退ですか、すごく達成感がありそうですよね。
それじゃ私たちも是非ご一緒に……へぎゃあっ!(←頭を押し下げられる)
……花火を狙います。
「君には水鉄砲でも余りある、と言うか物を持たせるだけでも不安でしょうがない」と言われました……。
……え、「水補給係だけやってろ」と……?あの、弾切れの心配はないそうですけど……
お騒がせしてすみません、とにかく恭一郎さんは水鉄砲が好みらしいので、私たちはひたすら花火狙いで頑張ります。
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2017/08/23-10:45
どうもっ、テンペ…って今回これ言う必要あるんか?
ウッウーン、八月一日智と相方の水田茉莉花だ、よろしくなー♪
んで、おれ達も風神の野郎をぶちかましてやる。
他に狙うヤツと協力してはさみ撃ちとかできるといーなーって考えてんだけど、どうかな?(ФωФ) -
2017/08/23-09:22
ひろの、と。
ケネス・リード、です。よろしくお願い、します。
え、と。
私、は……花火の方がいいんだけど。
ケネス「何言ってるの、風神狙うに決まってるじゃない」
……私たちは、風神を狙おうと。思います。(小さく溜息