望みの肖像(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 その肖像画家は、以前A.R.O.A.により救われた人物だった。
 謝礼は勿論おこなった。それでも気持ちの上でさらに何かお返しを出来ないかと考えた。
 そこで行き着いたのが自身の仕事である。
 期間限定でウィンクルムの肖像画を無料で作成するサービスをA.R.O.A.に申し出た。
 その申し出にA.R.O.A.は頷き、各支部の掲示板へと通知が出される。
「でも、今は写真も動画もあるじゃないですか。綺麗に残すなら肖像画よりそっちの方がよくないですか?」
 通知を出したとある支部の職員が、純粋に『何がいいのかわからない』と疑問の声をあげた。それに答えたのは上司だ。
「そうだな、写真も動画も綺麗に残るよな、お前のその暴飲暴食夜遊び三昧の結果生まれた吹き出物と隈も綺麗に残るよな」
「こ、これはたまたまです!」
 だが、職員は納得する。要は肖像画ならば色々と『盛ってくれる』という事なのだろう。
「まぁ、そこら辺の都合をつけてくれるだけじゃなくてな」
 納得した職員に、上司はさらに付け加える。
「人の目は感情によるフィルターがかかる。好意の目で見ればより美しく、嫌悪の目で見ればより醜く。この肖像画家はウィンクルムに感謝してるみたいだから、きっと素敵なものに仕上げてくれるんじゃないかな」


「いらっしゃいませ」
 肖像画家はアトリエへ訪れたウィンクルムを笑顔で迎え入れ、肖像画作成の手順を伝える。
「まずはお好きな衣装をお選びいただきます。今お召しのものがよろしいのならそのままで」
「あの~……実は私達先月結婚しまして、その時のドレス姿でお願いしたいんですけど、その時の写真しかないんです……大丈夫ですか?」
「ええ、勿論。写真を拝見させてください」
 ウィンクルムは少し恥ずかしそうに写真を差し出す。綺麗なドレスとタキシードに身を包んでいるものの、緊張のせいか、笑顔がひきつっていたり無表情になっていたり、とても『いい写真』とは言えないものがそこにあった。
「もっと自然に笑いたかったんですけど……」
「わかりました。ではこの御衣裳で、自然な笑顔のお二人を描きましょう」
 任せて下さい、と微笑む肖像画家に、ウィンクルム達も嬉しそうに笑顔を咲かせる。
「よかったぁ、ありがとうございます!」
 どうやら肖像画の作成の流れは

1、衣装を決める
2、ポーズを決める
3、写真撮影
4、特別な要望があれば伝える

 という流れの様だ。
 特別な要望は本当にそれぞれだ。背景を砂浜にしてほしい、とか、顔の傷を薄くしてほしい、とか。もっとも、全くの別人にしてほしい、というような要望は受け付けられないだろう。
「一ヶ月ほどで完成しますので、A.R.O.A.を通じてお住まいへ送らせて頂きます」
 完成した肖像画がどのようなものになるか、楽しみにしながらウィンクルムはアトリエを後にした。

解説

二人の肖像画を描いて貰いましょう

●衣装について
・大概のものは揃ってますので、着たい衣装を具体的にプランに書いてください
・装備そのままがいい方は特に何も書かなくていいです
・過去エピソードで着た衣装の場合はそのエピソード番号を書いてください

●ポーズについて
・描いて貰いたいポーズをざっくりでいいのでプランに書いてください
・写真のモチーフとしてありがちな物(例:椅子、机)は揃ってますので、それらを使っても構いません

●写真撮影について
・描いて貰いたい表情になってください

●特別な要望について
・あくまでもちょっとしたオマケです
・例として「いつも仏頂面の精霊をちょっと微笑んでるように描いて!」「背景は宇宙で!」「顔色を良くして下さい……」「上から花が舞ってる感じで」「ドレスのフリルを三割増でこう、ぶわーっと! ぶわぶわーっと!!」「あの、実際には無理だったけど、お姫様抱っこで……」等々
・無理なのは「子供だけど大人に描いて!」「ぺったんだけどボンッキュッボンに……!」等々

●肖像画家について
・心当たりのある方も、今回初対面の方も、どちらも歓迎します
・話しても話さなくてもどちらでも構いません

●プランについて
・衣装選び、写真撮影、要望を伝えている部分を書くのもありです
・そこら辺飛ばして、完成した肖像画を二人で見てる部分を書くのもありです
・文字数に勝てたら両方を書くのもありです

●アトリエから帰る時にちょっと買い物した
・300Jrいただきます

ゲームマスターより

写真とはちょっと違う、素敵な記念をどうぞ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  レティシアさん!お久しぶりです、お元気でしたか?
シリウスの声に顔を赤くして笑顔
…ごめんなさい 
すごく楽しみにしてきました よろしくお願いします

依頼60で着た水色のドレスに硝子の靴
指には誕生日にもらった指輪をつける
折角絵に描いてもらうんだもの お洒落しているところがいいでしょう?
そういうものなの!
つんと顔を逸らす
だって嬉しかったんだもの シリウスのお姫様にしてもらえて
心の中で呟く

プーケを手に寄り添って撮影
あのね レティシアさん
シリウス …ちょっとだけ笑顔に、なりませんか?
わたし 彼の笑ってる写真とか持っていなくて
たまに笑うんだけど 写真だと表情消しちゃうの
彼にバレないようお願い

できあがった大好きな笑顔に頬を染め 


月野 輝(アルベルト)
  レティシアさん、お久しぶり…!
画家さんの顔を見て思わず駆けよりその手を取って
お元気そうで良かった…描いて頂けるのがとても嬉しいです

そうね、話したいことはたくさんあるけれど
まずは描いて貰う方が先かしら
描き終わったら改めてみんなで集まってお茶会でもしましょうね

どんな衣装にしようか迷っていたら
アルが選んだ衣装を見て目を丸くして
これ…ウェディングドレスじゃ?

選んだ理由を聞いてちょっと笑って
ありがとう、祖父母のことまで考えてくれて

衣装に着替えて髪を結い上げ
アルの隣に立つと、何だか不思議な気分
こんな日が来るなんて2年前は思ってなかったもの

出来上がった肖像画
幸せそうにアルを見つめてる私
こんな表情してたのね…


かのん(天藍)
  レティシアさん、お久し振りです
今は…(彼女の現在に立ち入って良いのか一瞬悩み自分達の近況報告に)
私達は、昨年末から2人で新しく生活を始めました
初めてお会いした頃より少しは成長していると思うのですけれど、私達ができる事はやっぱり限られていて…
それでも誰かの助けになれるようなウィンクルムであり続けたいと思うんです

衣装
白地の丈の長い上着、肘上まで覆う手袋の上に手甲、革のブーツ

ポーズ
椅子に座り背後に立つ天藍と微笑みあい正面を向く

服装に悩んでいたら天藍がいつもどおりで良いんじゃないかと
レティシアさんと出会えたのは私達がウィンクルムだったから
今の私達を描いて頂ければと思って依頼を受けるときの服装で来ました


マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
  彼から恋人の肖像画のお話を受けた

彼の提案した衣装に目を丸く
あわわ 素敵すぎてとんでもございません
前に着た事あるよねと諭され着る事に
嫌いな訳じゃない 自分じゃないみたいで落ち着かないだけ
彼が褒めてくれる
メガネはそのままでいいと言われ安堵
しっかりしなくては

指輪!
拒む理由はないので謹んで右手薬指に嵌めて貰う
お返しに私も彼の指に どきどき
ふふ と笑い合う

画家様との打合せを聞いています
彼にお任せしてばかりだけど2人の為に真剣な姿は頼もしい
時折「彼女の可憐さを」と私についての注文が聞こえて あわわ
薔薇園の話が出て思わず赤面
彼が私の顔を伺って笑む

贈ると言われ慌てたけどお気遣いが嬉しい
私はお礼状を画家様へしたためます


■月野 輝とアルベルト
 アトリエに訪れた『月野 輝』は、そこにいた肖像画家が予想通り見知った人物である事を確認した。
「レティシアさん、お久しぶり……!」
 ホッとしたように笑みを零して思わず駆け寄りその手を取った。
 肖像画家の名前はレティシア・ハーカー。以前、マントゥール教団に拉致軟禁され、それをウィンクルム達に助けてもらった者だ。そして、輝と『アルベルト』はその救出劇に一役買っていたのだ。
「輝さん、お久しぶりです。あの時は本当にありがとうございました。全然ご挨拶にも行けなくて……」
「いいのよ! お元気そうで良かった……描いて頂けるのがとても嬉しいです」
「こちらこそ、描かせて頂けて光栄です」
 笑顔で会話をする二人を見ながら、アルベルトはやれやれ、と小さく笑う。
 二人が楽しそうに話しているなら、もう少しこのままでもいいかとも思うが、この後にも訪問者がいる事を知っていたアルベルトは声をかける。
「輝、描いて貰うのは私達だけではないのだから」
「そうね、話したいことはたくさんあるけれど、まずは描いて貰う方が先かしら」
「すみません、話し込んでしまって……ではこちらへどうぞ」
「ね、レティシアさん、描き終わったら改めてみんなで集まってお茶会でもしましょうね」
「ええ、喜んで」
 レティシアは笑顔で二人を衣裳部屋へ案内した。

 衣裳部屋には様々な服が揃えられていた。
 輝がどんな衣装にしようかと迷っていると、アルベルトが「これは?」と一つ選んで差し出した。その差し出された衣装に、輝は目を丸くする。
「これ……ウェディングドレスじゃ?」
 真っ白なドレスはエンパイアライン。胸下の切り替え部分からは繊細なレース生地を幾つも重ねていて、シルエット自体はストンとしているのに柔らかく軽やかな印象だ。
「実際の結婚式では師匠達が結婚した時に着た和装を借りて神社で挙げようと思っていたから、洋風のはここで着たらいいんじゃないかと思ってな」
 アルベルトが言う師匠達とは、輝の祖父母の事。このウェディングドレスが選ばれた理由を聞き、輝は驚きの表情から嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、祖父母のことまで考えてくれて」
 微笑みながらドレスを受け取る輝を見てから、アルベルトは再び衣装をぐるりと見回す。
「私の衣装はそれに合わせた白いタキシードにしようか」
 花嫁の横には、花婿こそが相応しいだろうから。

 衣装に着替えて髪を結い上げると、髪飾りの『ピンクプロセルピナヘッド』をサイドに飾る。手はドレスと同じように繊細なレースで作られた『ブランパピヨングローブ』で包まれている。
 咲き誇るような美しい花嫁姿となった輝は、花婿姿になったアルベルトに手を引かれスタジオへと入る。ちなみにアルベルトの胸元は、輝の髪飾りによく似た薄紅の花とビーズで出来たブートニアが飾られている。
(アルの隣に立つと、何だか不思議な気分)
 どういうポーズにしようかと話しながら、輝はふと過去を振り返る。
 ウィンクルムになった時には、こんな感情は無かった。涼しい顔でからかうアルベルトに意地を張ったり怒ったり……いや、それは今もあるのだが。
 それでもそれだけじゃない。強さも、弱さも、優しさも、厳しさも、互いに見せ合って支えあって。そして、想いあって。
(こんな日が来るなんて二年前は思ってなかったもの)
 きっと運命だった。
 それはウィンクルムになった時から動き出したのではなく、三歳のあの頃からの。

■祝福の肖像
 完成された肖像画を見て、二人は驚き、そしてアルベルトは少しだけ顔を赤くする。
 そこは教会。神の御前、大きな青いステンドグラスの前。
 青く清浄な光が満ちた空間の中央に、ドレスとタキシードに身を包んだ輝とアルベルトが向かい合って手を取り、指輪の交換をしている。
 その表情は、とてもとても幸せそうで、優しく甘い眼差しで互いを見つめている。
(こんな表情してたのね……)
 何だかくすぐったいような満足感の輝に対し、アルベルトは思わず片手で自分の口元を隠す。今の表情を確かめるように。
(私はこんな顔で輝のことを見ているのか)
 自分の表情などすべてコントロールできていると思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
(ポーカーフェイスは得意だと思っていたんだが、な……)
 隠し切れない愛情と幸福を、肖像画家は描きとめたようだった。



■かのんと天藍
 アトリエにやってきた『かのん』と『天藍』は、肖像画家の姿を見るとホッとしたように表情を柔らかくした。
「レティシアさん、お久し振りです」
「久し振り、今は無事に暮らせているか?」
「かのんさん、天藍さん……!」
 二人は肖像画家であるレティシア・ハーカーの依頼を、そして救出の任務を引き受けた事があった。どちらの時でもひどく狼狽したレティシアを見た二人にとって、今こうして穏やかな様子で迎えてくれた事に安堵した。
「今は……」
 言いかけて、彼女の現在に立ち入って良いのか一瞬悩んだかのんは、ひとまずは自分達の近況報告をすることにした。
「私達は、昨年末から2人で新しく生活を始めました」
 レティシアに出会った時と今とでの一番の差異。それはかのんと天藍の関係性の変化だろう。
 二人はもう、ウィンクルムというだけの繋がりでもないし恋人でもない。夫婦で家族なのだ。
「まぁ、おめでとうございます!」
 レティシアはパッと笑顔になって祝辞を述べる。
「ウィンクルムは愛の力で強くなるんですよね。じゃあきっと、今は以前よりも更に頼もしくなってますね」
 ふふ、と笑いながら言うレティシアに、かのんは苦笑する。
「初めてお会いした頃より少しは成長していると思うのですけれど、私達ができる事はやっぱり限られていて……」
 何もかもが出来るわけではない。それは強くなった今でも同じ事だ。何かの被害が出てから駆けつける。過去を修正できるわけではない。
 それでも。
「それでも誰かの助けになれるようなウィンクルムであり続けたいと思うんです」
 まっすぐに告げるかのんを、レティシアは眩しそうにみつめる。
「おかげで俺ともう一人の精霊は退屈を覚える暇もない」
 それまで笑みを浮かべながら見守っていた天藍が、冗談交じりに最後に一言と付け加えると、かのんが慌てたように「それは、あの……!」と反応し、フッと空気が緩んで笑い声がこぼれた。
(ま、見て見ぬ振りをできないのはかのんも俺も同じような物か)
 もう一人増えた精霊の事も報告しながら、天藍は口には出さず一人思った。

「服装はどうされますか? 衣裳部屋はこちらですが……」
 レティシアの発言に、二人は一度目を見合わせてから笑顔で「このままで」と言った。
「後に残る肖像画ですから服装はどうしようかと悩んでいたら、天藍が『いつもどおりで良いんじゃないか』と」
 かのんと天藍、そしてレティシア。この三人が会えたのは何故か。
「レティシアさんと出会えたのは私達がウィンクルムだったから、今の私達を描いて頂ければと思って依頼を受けるときの服装で来ました」
 顕現してから、適合者が現れたから、依頼へ赴いたから。だからこそ二人は結ばれ、一人は救われ、そして今、話が出来る。
 その繋がりを、関係性を、今を、そのまま描きとめる。
 かのん達の要望に、レティシアは笑顔で頷いた。

 着ているものはいつもの衣装。
 かのんは白地の丈の長い上着、肘上まで覆う手袋の上に手甲、革のブーツ。
 天藍は黒地の丈の長い上着、手甲・ブーツの上に足甲、そして手に馴染んだ双剣を腰に佩く。
 きっと今すぐにでも助けを求める人のところへ駆け出せる。そんなウィンクルムとしての二人がそこにいた。
 スタジオで、天藍はかのんの手を取り椅子の前まで誘導する。
 かのんが椅子に座ると、天藍はその背後に立ち、椅子の斜め後ろから少し身を屈め、腕をかのんの肩と手へ伸ばし、包み込むように片手は繋いだ。
 そうして二人は一度微笑みあってから正面を向いた。
 二人のポーズが決まったようだ。
 レティシアはその一連のやりとりを、微笑ましく見つめながらカメラを構えていた。

■あるがままの肖像
 届いた肖像画に二人は目を見合わせる。
 そこには予想と違った肖像画があった。
 かのんが椅子に座っているのはいい、天藍がその後ろに立ち少し身を屈めているのもいい、二人が手を繋いでいるのもいい。
 だが、二人の顔の向き。
 レティシアに写真を撮ってもらった時には確かに正面を向いていた筈だ。だが、今目の前にあるものはどうだ。
 その直前、顔を見合わせて微笑みあったその瞬間。それが描かれていた。
「これが、今の私達なんですね」
 かのんが嬉しそうに言う。
 少し照れくささを感じていた天藍だったが、その言葉に深く笑んで「そうだな」と答える。
 重ねてきた時間が、感情が、絆が、今を形作る。そうして辿り着いた今の自分達というものがこの様子だと思うとうれしく感じる。
 隣で絵を持つかのんと微笑みあう。こんな時間も、今の二人にとってはごく自然な、ありのままの生活の一コマだった。



■マーベリィ・ハートベルとユリシアン・クロスタッド
『マーベリィ・ハートベル』は『ユリシアン・クロスタッド』から、恋人の肖像画を、という話を受け、二人でこのアトリエへとやってきた。
 そこでユリシアンから提案された衣装に目を丸くする。若干眼鏡がずれた気もする。
 笑顔のユリシアンが持っているのは、立ち襟の黒いフリルシャツと銀糸の刺繍が施されたダークグレーのコルセット、そしてたっぷりとパニエで膨らませたダークグレーのフリルスカートは黒のレース生地がふわりふわりと重ねられている。
 所謂ゴスロリドレスだ。
「こ、これを……?」
「そう」
 笑顔で言いきるユリシアンに、マーベリィは動転しながら首を横に振る。
「あわわ、素敵すぎてとんでもございません」
 そう遠慮するけれど、逃げ道はない。
「前にも着た事あるよね」
 ニッコリ笑顔でそう諭してくる恋人兼ご主人様から誰が逃げられようか。確かに何度かドレスを着ているマーベリィは、観念したように「ハイ」と小声で頷いた。

 マーベリィは別にドレスが嫌いな訳ではない。ただ、自分じゃないみたいで落ち着かないだけだ。
「用意できました」
 黒を基調としたドレスに身を包んだ彼女は、緩くウェーブする髪をおろし、ピンクの薔薇の髪飾りをつける。ナチュラルな化粧に、仕上げは唇は髪飾りと同じく花を思わせる可愛らしいピンク。
 ただし、メガネはそのまま。
 綺麗に着飾った小さく華奢なマーベリィは、まるで職人の手によって丁寧に作られた人形のようだった。
「うん、いいね! 可愛らしいよ、マリィ」
 落ち着かないマーベリィを、ユリシアンは満面の笑みで迎え入れ褒める。
 それでもってようやくマーベリィはホッと一息つけた。
「あの、メガネは……」
「そのままでいいよ」
 ユリシアンが笑顔で頷けば、マーベリィは更に安堵したようだった。 
(メガネはバランス的にアレだが彼女のトレードマークだし)
 ユリシアンは心中で一人納得する。それに、何だかアンバランスな様子もいいような気がしてきた。というか衣装を身に纏ったマーベリィが可憐で堪らなく可愛らしいからもうそれで何もかもいい気がしてきた。
(よし、しっかりしなくては)
 ようやく落ち着いてきたマーベリィは、改めてユリシアンを見る。
 濃い臙脂のフロックコートの下は白いシャツ、ダークグレーのアスコットタイを覆い結びし、赤い石のクラバットピンを中央に刺している。黄茶色のチョッキにスリムな黒ズボンに焦げ茶ブーツ。品のある着こなしはユリシアンの美しさを引き立てていた。
「最後の仕上げにこれを嵌めてくれる?」
 そう言って差し出されたのは、シンプルながらも花の彫金が施された、大きさの違うペアリング。
「指輪!」
 恋人であるマーベリィに拒む理由などない。そっと右手を差し出せば、ユリシアンは大切そうにその手をとって薬指に嵌める。
 そして次はお返しにとユリシアンの手をとり同じ指に指輪を嵌める。どきどきと胸を高鳴らせながら。
 互いの指に輝く指輪を嬉しそうに見つめてから、顔を合わせ、ふふ、と幸せそうに笑い合った。

 二人は背景について肖像画家へと要望を告げる。と言っても、実際に打ち合わせをしているのはユリシアンだけだ。お任せしてばかりで申し訳なく思う反面、二人の肖像画の為に真剣な姿を頼もしく思い、つい見とれてしまう。
「背景は薔薇園をお願いしたいんだ。初キスの思い出の場所なんでね」
「それは素敵な思い出ですね、わかりました」
 不意に出てきた、薔薇園の話。
 あの時の唇の柔らかな温もりを思い出し、マーベリィは思わず赤面してしまう。そんなマーベリィを窺い見てはユリシアンは微笑む。
 打ち合わせはもう少し続く。時折「彼女の可憐さを」とマーベリィについての注文が聞こえては、あわわと止めに入ったが。
 そしてようやく写真撮影だ。
 ポーズは衣装や要望と比べすぐに決まった。
 二人で寄り添えば、ユリシアンが右手でマーベリィを抱き寄せる。マーベリィはそっと前で手を重ねる。
 なんということも無い自然な立ち姿。けれど、幸せに微笑みあう二人。
 そして、輝く指輪がしっかりと見えていた。

■幸福の肖像
 出来上がった肖像は二人で観賞した。
 雨の記憶が強く残る薔薇園は、けれどこの絵の中では晴れやかで柔らかな光に包まれていた。その咲き誇る薔薇の中にいる二人は幸せそうに微笑んでいて、そして揃いの指輪は存在を主張するように輝いてるように描かれていた。
「さて、じゃあこれはマリィのご両親に贈ろう」
「え? わ、私の両親にですか?」
 予想外の事を言われて慌てると、ユリシアンは「大事な娘さんの現状報告だよ」と言い、茶目っ気たっぷりにウインクをした。
 その気遣いが、とても嬉しい。
 ずっと続いている幸せな気持ちに頬を緩ませながら、マーベリィは礼状を肖像画家へしたためた。
 礼状を書くその指にも、勿論、指輪が輝いている。



■リチェルカーレとシリウス
 アトリエに入ってすぐ、『リチェルカーレ』は肖像画家を見つけて「あ」と声をあげた。
「レティシアさん! お久しぶりです、お元気でしたか?」
 抱きつく勢いで肖像画家に駆け寄るリチェルカーレに、『シリウス』は小さく溜息をついてから声をかけた。
「……リチェ、そのくらいに。困っている」
 シリウスの声に顔を赤くして、誤魔化すように笑った。
「……ごめんなさい」
「いいえ、全然困ってませんよ。リチェルカーレさん、シリウスさん、お久しぶりです」
 クスクス笑いながら肖像画家、レティシア・ハーカーは挨拶を返した。
「すごく楽しみにしてきました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、お二人を描かせて貰えるなんて。腕をふるいますよ」
 レティシア・ハーカーはマントゥール教団に、狂った精霊に拉致軟禁された過去がある。しかも拉致軟禁された理由は、狂った精霊が執着していた別の人物の代わりとしてだ。
 リチェルカーレとシリウスはレティシアの護衛や救出の依頼に参加した事があり、その後、狂った精霊を捕まえる依頼にも参加した。
 その一連の事件の結末はあまり後味のいいとは言えないもので、事件の後、しばらくリチェルカーレは沈んでいた。
 だからこそ余計に、レティシアから肖像画のサービスが提供された事にリチェルカーレが喜んでいるのが、シリウスにはよくわかった。
 顔を赤くしながらも嬉しそうにする会話を交わしているリチェルカーレを見て、シリウスは少し表情を和らげた。

 リチェルカーレ達は衣装を持ってきていた。
 美しい花と葉の繊細な刺繍が施された淡い水色のロングドレスと硝子の靴。そして、誕生日に貰った指輪。
「……まぁ、今日は歩かないか」
「だ、大丈夫よ」
 以前、豪華客船に乗りこの衣装を纏った時、慣れないヒールにバランスを崩し、シリウスに助けてもらった事があったのだ。それを思い出すと、大丈夫とはっきり言いきれないところが悲しい。
 それでも、この衣装が着たかったのだ。
「折角絵に描いてもらうんだもの お洒落しているところがいいでしょう?」
 お洒落などと言われてもシリウスにはピンと来ない。だから首を傾けながら「さぁ」と呟いてしまう。
「そういうものなの!」
 むーっと頬を膨らませてから、つんと顔を逸らす。
「……そういうものか?」
 膨れる様に小さく苦笑しながら答え、一応の納得をした。
 二人は早速着替える。シリウスの衣装も豪華客船に乗ったときと同じものだ。
 水色のシャツに黒のジェケット、そして首元にループタイ。
 あの時と同じ二人の格好。リチェルカーレは正確にはお洒落というだけでなく、あの時を思い出してこの衣装を着たかったのだ。
(だって嬉しかったんだもの。シリウスのお姫様にしてもらえて……)
 豪華客船での一幕、二人は互いの姫と王子になったのだ。それが嬉しくて、形に残してもらえたらと考えたのだ。

 シリウスもまた、着替えながら豪華客船に乗った時を思い出す。
(あの時は彼女の横にいてもいいのか、わからなかった)
 互いに『自分が神人でいいのか』『自分が精霊でいいのか』と不安を抱え考えていた。
(今でも悩まないといえば嘘になるけれど)
 それでも、互いに互いを選んだ。だから今も共にいる。
 ふと、シリウスの頭の中に豪華客船の時とは違う過去がよぎる。きっとレティシアが傍にいるからだろう。
 それはレティシアも絡んだ一連の事件の最後に、事件関係者でありウィンクルムの先輩でもあるホルムウッド夫妻から言われた言葉。
『どうか貴方達はこれからも離れる事の無いよう、一緒にいられるよう』
 ……今でも、悩まないわけじゃない。それでも互いを選んだ。だから今も共にいる。
 それならば、望んでしまう。願ってしまう。
 これからも離れる事の無い事を。一緒にいられる事を。
 それが今のシリウスの一番の願いだった。

 着替えた二人はスタジオに入り撮影をする。
 淡い紫や桃色や白のオールドロースで出来たブーケを手に、二人は寄り添って撮影をする。リチェルカーレは笑顔で、シリウスはいつものように無表情で。
 無事に終わってまた着替えをする。
「あのね、レティシアさん」
 シリウスがまだ着替えている最中、リチェルカーレはこっそりとレティシアにお願いをした。
「シリウス……ちょっとだけ笑顔に、なりませんか?」
 リチェルカーレがしたのは、なんとも可愛らしい要望だった。
「わたし、彼の笑ってる写真とか持っていなくて……たまに笑うんだけど 写真だと表情消しちゃうの」
「大丈夫ですよ、任せてください」
 レティシアは微笑んで了承した。

■望みの肖像
 出来上がった肖像画を見て、シリウスは絶句する。
 そこには二人の望みどおり、きっと離れる事の無い、ずっと一緒にいられる王子と姫が、微笑みながら寄り添っていた。
 リチェルカーレは大好きな笑顔が形として残され、頬を染めて喜んだ。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月08日
出発日 08月14日 00:00
予定納品日 08月24日

参加者

会議室

  • [6]リチェルカーレ

    2017/08/13-23:38 

  • [5]かのん

    2017/08/13-23:23 

  • [4]かのん

    2017/08/13-14:21 

    こんにちは、かのんとパートナーの天藍です
    ……レティシアさんですよね、またお会いできること、とてもうれしいです
    よろしくお願いします

  • ユリシアン:
    パートナーのマーベリィと参加させてもらうよ。
    よろしく。

  • [2]リチェルカーレ

    2017/08/11-00:28 

    レティシアさんだ!お久しぶりです、また会えて嬉しい!お元気でした?

    …と、失礼しました。リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
    皆さん、よろしくお願いします。

  • [1]月野 輝

    2017/08/11-00:10 

    こんばんは、お久しぶり。月野輝とアルベルトです。
    肖像画家……レティシアさん、お元気なのね、良かった……

    皆さんがどんな肖像描いて貰うのか楽しみにしてるわね。
    よろしくお願いします。


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