プロローグ
「汝、健やかなる時も、病める時も――」
イベリン郊外に位置する、伝統ある大聖堂の一角で。
今まさに夫婦の契りを交わし、互いを生涯の伴侶とする、神聖な儀式が執り行われていた。
花嫁は幸せそうに微笑み、新郎と指輪を交換し合う。
式も終盤に差し掛かり、いざ誓いのキスを、という段階になったその時。
――ガシャーンッッ!
突然、ホールのシャンデリアが派手に音を立てて落下した。
幸い落下地点に人は居なかったものの、同時にテラスを割り乱入してきた無粋者達の存在により、式会場は一瞬にしてパニックに陥った。
「きゃあぁっ! ば、化け物よ!」
「なんだ、こいつらは!?」
招待客達が次々に悲鳴を上げる。縦横無尽に駆け回る野犬に、トドのような出で立ちをした奇怪なモンスター。
いずれもツノが生えており、その姿を一目でも見た事がある者には、一瞬でそれの正体が理解できた。
「どうしてここに、オーガが……!?」
新婦を庇い立ちながら、新郎が愕然と目を見開く。
その疑問に答えるように、散り散りになった招待客の中の一人が、鬱蒼と翳る瞳をぎらつかせ、立ち上がった。
「……それはね、結婚式をめちゃくちゃにしてやるためよ」
「あ、あなた……サラ!?」
歪に微笑む女性は、新婦と新郎、両方が古くから知る友人だった。
結婚の知らせを一番に喜び、式には呼んで、と微笑んだ明るい笑顔はどこにもない。
「ジュリア、アンソニー。あなた達には話した事なかったけれど……私ね、マントゥール教団の信者なの。崇高なるオーガ様に対抗する力を高めるべく、憎っくきウィンクルム達が絆を深め合う今、その働きを阻害する役目を仰せつかっている」
「あ、あなたが、何かに傾倒しているのは知って居たけど。でも、何故私たちの結婚式を……!?」
「あなた達が妬ましかったからに決まっているでしょう!?」
サラが手にした水晶玉が、彼女の怒号に呼応するかのように一際強く輝いた。
バラバラに動いて居た野犬の一匹――大きな固体が一鳴きすると、統率を取るように他の野犬達が陣形を組み、角で震えて居た女性客らを威嚇した。
「いやあっ、来ないでよぉ!」
「サラ、やめてくれ! 一体何が気に入らないんだ!?」
新郎――アンソニーが果敢にも、野犬達の前へ駆け出てサラに問いかけた。
「……言ったでしょう。妬ましくて堪らないと。少し、知り合ったのが遅かったというだけで、置いてけぼりにされて……わたしだって、アンソニー。あなたのことが好きだったのに」
「……!? そんなっ……サラ!」
「ジュリアと同じくらい、大好きだったのに……笑い合う二人が嫌い。わたしの気持ちに気付いてくれない二人なんて大嫌い! わたしに優しくない世界なら、壊れてしまえばいいのよッッ!!」
泣き声のような怒号が一際強くホールに響き、野犬達は一斉に新郎新婦へ向け吠えた。
サラの背後にそびえるオーガも、彼女の視線が二階席のテラスへ向けられたのを皮切りに、ぬるりと行動を開始した。
解説
▼目的
・敵NPCの討伐
・教団信者の捕獲・オーブ破壊
▼フィールド
挙式向けに装飾された伝統ある大聖堂
招待客や式場スタッフはまだ散り散りで取り残されており、物陰に隠れたりしつつ、いつ我が身に襲いかかるかわからない敵の存在に怯えています
ホールを見下ろせる二階席に招待客は存在しないはずですが、サラはオーガたちを使役する際、しきりにそちらも気にします。二階席への移動は左右にある階段から行えます
サラの持っている水晶玉は一つ、オーガは二種類。邪眼のオーブは一つにつき一種類しか使役出来ません
メダ・ガルオも何者かに使役されていると見ていいので、どこかにもう一人は水晶玉を持つ信者が隠れています
伝統ある大聖堂ですので、極力破壊しないように、かつ素早くオーガ達を掃討し、招待客と新郎新婦、式場スタッフを安心させてあげてください
▼敵NPC
・メダ・ガルオ(1体)
二足歩行するトドの様なCスケールオーガ
喉仏を超音波状に増幅し鳴らすことで肉や骨を割く『ハウリング』が主な攻撃スキル
攻撃範囲は正面前方30%・最大20M。範囲内全ての回避失敗対象に襲い掛かる
接近し過ぎた敵には頭突き
・デミ・ワイルドドッグ(参加PC×1体=最低で4体~最高で10体)
野犬が凶暴化したDスケールオーガ
群れを統率する、ボス固体である一体はレベルが少し高め
・サラ&???
教団信者二名
普通の人間と変わらないステータス
サラは前衛のドッグ達、ガルオ一体から守られる様にホールの中心へ位置
オーブは破壊してください
ゲームマスターより
過去に男性側で出した『【禁獄】混迷の祝賀会』での敵構成とほぼ同じです。アイテムは全然違うものです
上手く役目を分担しつつ、被害を最小限に抑えて目的達成を目指していただければと思います
相談期間が短めですのでご留意ください
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
終わったら皆で片付けですねぇ… いつ戦闘になっても大丈夫なようにHTGを使ってから 見当たらないもう一人の教団員をグレンと一緒に探しに行きます。 もし見つけたら逃げられないように気をつけないといけないですよね、 階段が左右二箇所にあったりしますし。 これでいなかったら1階探しましょうか… 教団員とオーブを確保できたら真っ先に皆さんに声かけしましょう。 合流したらまずデミ・ワイルドドッグから減らしていきたいですね。 あ、あとメダ・ガルオ正面から直線状に立たないようにしないと… もし合流の途中で逃げ切れなかった一般の方を見つけたら 魔守のオーブや椅子などで身を隠しながら クラウスさんのところまで案内しようと思います。 |
シルキア・スー(クラウス)
拘束用ロープ準備 突入前トランス+HTG 突入したらサラの姿認識(オーブ所持で判別 一般人の誘導に動く ガルオの正面付近や近い等 危険な位置にいる人は守りながらl8へ連れて行く 「これは強固なバリアです 中に居て下さい ドッグが来たら攻撃でスタン その間に移動 超音波来るなら正面から退避 物陰で身を屈め凌ぐ 誘導できたらサラの取押えに向う 「観念しなさい 呪符で体を拘束しフライパンで最大限手加減して打ちスタン入れたい 倒れたらロープでしっかり拘束しクラウスへ託す オーブは叩き割る その後はガルオ戦に加勢したい スタンを入れ超音波阻止と隙を作りたい 攻撃後は正面避け距離を取り頭突き警戒 戦後 彼の元へ 心配させたろうから大丈夫アピール |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
現場に着いたら即トランス。 先ず敵の数を減らさねば。 デミワイルドドッグを杖で攻撃し数を減らします。 「私達が居るから大丈夫です!」と人々を安心させます。 ドッグの数が5匹以下になったら他の人に任せて、 私はメダ・ガルオ対応をしているフェルンさんの側で補佐を。 ガルオの死角から杖で攻撃すれば敵の気が散り、敵攻撃の精度を落とせます。 フェルンさんの攻撃力は杖の特殊効果で上がっているので、彼がガルオに攻撃しやすい隙を作るのです。 白外套の閃光で敵の視界を遮ったり、デコイを放ち、敵の注意を更に分散させます。 フェルンさんのMP不足時は彼の近くへ行ってDI。使用後はガルオの背中側へ回って敵攻撃を受けないようにします。 |
かのん(朽葉)
聖堂突入前にトランス 調律剣掲げ朽葉おじ様の攻撃回数を+1 突入時、招待客等に自分達がウィンクルムである事 メダ・ガルオから距離を取るように、できればオーガの背後に向かうよう声かけ 朽葉おじ様とデミ・ワイルドドッグ討伐 目標を確認しながら攻撃を集中して1匹ずつ確実に減らす 招待客の方に攻撃が向かわないよう、敵と招待客等の間に自分達が入る位置取りに気を付ける オーガが多いので、伏兵の存在を懸念 戦いながらサラの動向を注視 視線の動きが不自然ならその方向に伏兵の存在を類推、仲間に注意喚起 メダ・ガルオはおじ様が正面から攻撃を行う隙に側面からヒットアンドアウェイで攻撃 2人の身柄確保に必要あれば招待客等からネクタイ借りる |
水田 茉莉花(聖)
|
●
「……ご無理なさいませんように」
聖堂への突入を前に、神人かのんと精霊朽葉のインスパイアスペルが静かに紡がれる。
空へ掲げられた調律剣は、朽葉の攻撃回数を加えるものだ。
「光と風、交わり紡ぐ先へ」
「皆を、護って」
「持てる力の全てを託す」
続くように、シルキア・スーとその精霊クラウス、及びニーナ・ルアルディとグレン・カーヴェルはハイトランス・ジェミニを。
瀬谷 瑞希とフェルン・ミュラーはトランスを行使する。
水田 茉莉花と精霊の聖も続き、シルキアは拘束用にと用意したロープを構え、それぞれの役割を再確認するように皆で頷きあうと、総勢10名のウィンクルム達は制圧された聖堂の奪還へと赴いた。
●
「――誰!?」
バン! 勢いよく開かれた扉に、気付いたサラが振り返る。
瞬間、けたたましい音量の『ファンファーレ』――朽葉が行使したスキルによる軽やかな音楽が、聖堂中に鳴り響いた。
「祝宴を荒らす無粋者どもには、正義の鉄槌を下さねばのう!」
流れるような手さばきで『スノーテンタクル』のページをめくると、スポットライトがヒーロー達を照らした。
刹那の眩しさに人々は手のひらを掲げ、一般人を威嚇していたオーガ達も、突如ホールへ流れ込んだ一陣の風に意識を奪われた。
「私達はウィンクルムです。安心してください、気を強く持って!」
光を浴びたアメジストを煌々と輝かせ、大きく叫び掛けたのはかのん。
招待客らへ助けが来た事を伝え、勇気付ける事が狙いだった。
人質に光明を思わせる事は助ける側にとっても有利な戦況に繋がる。
オーガに対抗し得る力が集結した事に、招待客ほかスタッフ、新郎新婦も一時安堵の笑みを浮かべた。
「メダ・ガルオ――化け物からは距離を取って、射線上からは退いてください。なるべく、オーガの後ろへ下がって!」
かのんの指示に、勇気付けられた招待客らは移動を開始し、サラが忌々しげにひとつ舌を打った。
「話に聞いていた教団員――サラは、あれね」
真っ先に標的の姿を確認したのはシルキア。オーブを所持しているため、他の招待客らとの判別は容易だ。
何より、その表情に浮かぶ憎しみの感情。本来なら祝宴だと言うのに、ぶつけようのない怒りをその身にやつした彼女一人だけが、荒れ果てた聖堂の中で存在を際立たせていた。
「まあ派手に八つ当たりしてくれたもんだ。ニーナ、シャンデリアの破片を踏むなよ」
カシャ、と足元に散らばる照明具の残骸を蹴り、パートナーに注意を促すグレン。
「終わったら、みんなで片付けですねぇ……」
気遣いに頷きつつニーナがぼやけば、瑞希が苦笑まじりに笑いかけた。
「全員でやれば、きっと早く終わりますよ。……そのためにも」
まず、敵の数を減らさねば。
普段の温和な瞳の色が、真剣な眼差しに変わり、瑞希は静かに杖を構えた。
「貴方達も、私の悲願を邪魔をするのね……! 行け、野犬どもッ!!」
サラの怒号が響き、ドッグ達の爪が一斉に地を蹴る。
敵の行動開始とほぼ同じタイミングで、クラウスのスキル『シャインスパーク』が発動された!
「目くらましっ……!? 小癪な真似をして!」
聖なる光の強い輝きにサラは目を覆う。ドッグやメダ・ガルオも目を眩ませる閃光に狼狽し、攻撃の命中低下に成功する。
その隙に、ウィンクルム達が攻勢に打って出た。
「ママ、いきましょう!」
「ええ!」
後衛からは聖の『流桜』が、ドッグ目掛けて次々に射られる。
「目には目を、ワイルドドッグ、とやらには――ほれっ」
前衛に出た朽葉が飄々とした動きで敵を翻弄し、スキルを行使する。
かわいらしいワンコのぬいぐるみが突如ドッグたちの眼前に現れ、ニィ、と歪に笑って破裂し、野犬たちにダメージを与えた。
「ギャウン!」
背後から来た敵は外套で避ける。敵の目を翻弄しつつ確実に数を減らしていく朽葉を見送り、かのんも己の目標を見据え、一匹ずつ確実にダメージを蓄積させていく。
「きゃあっ! け、獣がこっちに!」
「下がって!」
招待客らにドッグが向かえば、間髪いれずかのんが間に割って入り防いだ。
彼女らの安全が第一だ。位置取りには十分に注意を払いつつ戦闘を継続した。
「私たちがついてるから、大丈夫ですよっ」
続いて瑞希も招待客らの守りに着いた。
杖でドッグの攻撃をいなしつつ、つとめて気丈に振る舞う神人の姿に、震えていた者達は奮い立たされ、次々に立ち上がった。
一方、前線目指し仲間が駈けたのと同時に、シルキアとクラウスは一般人たちの誘導を最優先に動き始めていた。
「見つけた、あれか!」
クラウスが真っ先に駆け寄ったのは新郎新婦だ。サラの狙いを鑑みれば、一番に攻撃される可能性が高いと踏んでいた。
適切な位置に二人を誘導し、安全圏である『チャーチ』を作ると、パートナーであるシルキアが逃げ遅れた招待客を連れて行く。
ガルオの直線上に居る者は勿論最速に。途中襲いかかってくるドッグは武器でスタンをかけ、その場をしのいだ。
「これは強固なバリアです。中に居てください」
不安がる招待客に一つ声をかけてから、クラウスに「お願いね」と伝えて引き渡し、引き続き逃げ遅れた人々を救助すべく、フィールドを縦横無尽に駆け回った。
瑞希のパートナーであるフェルンは、途中数匹のドッグを倒しつつ、まっすぐメダ・ガルオへと向かっていた。
トランス後にすぐさま行使した『プロテクション』の効果で、彼の防具は青白く発光し、主を守る性能を底上げしている。
「瑞希たちに、攻撃はさせないよ!」
力強い言葉と共に発動されたのは『アプローチII』だ。対象の意識を自分に向けさせる効果は、メダ・ガルオだけでなくサラにも発揮する。
「ちっ……! ガルオ、やってしまいなさい!」
慌てたサラが攻撃を命じるが、彼女の視線がオーガ本体ではなく二階へ向けられている事に、ドッグと応戦していたかのんが注視していた。
(同時にこれだけのオーガを一人で操っているとは考え難い。……もしかしたら、伏兵が?)
「来ます、射線上から避けて!」
瑞希の叫びにガルオのハウリングが重なった!
――グオオオオッ!!
先ほどのファンファーレにも劣らない程の大音量が、地響きと質量を帯びて一直線上に空気を切り裂いた!
「なんて攻撃なの……っ!」
「鼓膜が、破れそうだ……!」
距離を取ったスタッフらが両耳を抑えた。ビリビリと空気が震え、ホールのガラス窓が片っ端から大破する。
地は直線状に隆起しガラスの破片を降り注がせたが、フェルンがメダ・ガルオの攻撃を一手に引き付けていたおかげで、一般人たちにも仲間にも被害は及ばなかった。
「さあ、君の相手は僕だよ!」
フェルンは引き続きメダ・ガルオを相手取る。瑞希の杖が持つ特殊効果で、彼の武器はその威力を増している。
Cスケールオーガの皮膚をも切り裂ける攻撃力は充分に期待出来た。
「やっぱり二階席が怪しい……! 引き続き、伏兵に警戒を!」
メダ・ガルオの攻撃が落ち着き、振り仰いだかのんが、再び仲間たちに注意を促した。
「一人で来たのか?」
「え……?」
チャーチ内から優しく声をかけたのはクラウス。
相手はサラだ。場の戦況やオーガ使役から、少しでも意識をそらすことが狙いだった。
とはいえ共に身を潜めている新郎新婦に刺激を与えては元も子もない。最大限、互いに気を遣い、言葉を選ぶ。
「この二人に、どうして欲しかったのだ?」
「……」
サラの視線が戸惑うように二人へ向けられる。新郎新婦の二人も、心配そうな眼差しでサラを見ていた。
祝宴をぶち壊されても、ジュリアとアンソニーにとって、サラは大切な友人だったから。
「――……こんなやり方でしか、意思を伝えられなかった私に、今更言える事なんてないわ」
「サラ……っ! まだやり直せるわ、話をしましょう!?」
「うるさい、邪魔しないで!」
涙を零しながら、怒りに顔を歪めるサラに、ジュリアの声はもう届かなかった。
「人目のある一階でオーブを使うとは考え難い、と踏んでこちらへ回ったが――」
二階席へいち早く駆け上がっていたグレンとニーナが、暗いフロアを見渡す。
一階からは見えない死角となる位置。奥へ行くほど、使われていないテーブルや椅子が乱雑に並べられているが、オーブを行使出来る距離には限りがあるため、対象からそれほど離れるとは考えられない。
身を潜める場所は充分にある。二人の気配を察知しどこかに隠れているかもしれない。
「もし見つけても、逃げられないようにしないと、ですね……」
ニーナが小さな声で告げる。階段は左右に二箇所あり、追いかけっこにでもなれば教団員が逃げ果せる可能性は考えられる。
「ホール全体を見渡せそうな位置取りなら……この辺りだが。――どこに隠れやがった?」
手すりをひと撫でし、しん、と不気味に静まり返った二階席を見回して、未だ姿を見せないもう一人の教団員を待ち伏せた。
「とにかく、オーブをなんとかしないと……!」
行使されたスキルは聖の『スナイピング』だ。
精度を上げた一撃がサラのオーブを狙い、一度は命中するものの、忌々しげに舌打ちした彼女は再度大事そうに水晶玉を抱えなおした。
「おおっと! 間違えたわい!」
彼女の体制が崩れたところへ、不意にパペットマペットの一体――鳥の形をしたぬいぐるみが間抜けな声で一鳴きし、空へ飛んでいく。
突如自分へ向かってきた朽葉に思わず身構えたサラは、しかし寸前で消えたぬいぐるみに拍子抜けし、一歩下がった。
「何よ。見掛け倒しね!」
「そうとも。当たればラッキー、じゃ」
「何っ……!?」
上空へ舞い上がったパペットが、誰もいないはずの二階席で破裂したのだ!
「そこかっ!」
間髪入れずグレンが駆け出した。破裂したのは左側の階段近くに積み上げられたテーブルの奥。
パペットの破裂と共に、小さく人の声で悲鳴が上がったのを聞き逃さなかった。
「――クソッ!」
「!」
テーブルバリケードのあちら側から、積み上がった道具一式にオーブを所持した教団員が体当たりする。
ガラガラと崩れた椅子の山を避けるようにグレンが一歩引いた。
「捕まってたまるか……サラの為だっっ!」
その隙を見逃さず脱兎のごとく、右側の階段へ向かい駆け出した男の前へ、ニーナが両手を広げ立ちはだかった!
「行かせません!」
「ひょろっこい女が、何をッ!」
男が拳を振り上げた――瞬間、背後から襟首をガッ! と強く掴まれ強引に引き戻された。
「――人のオンナが、なんだって?」
「ッ!」
――ゴッ!!!
男が目を見張った瞬間、グレンの右ストレートが炸裂した。
「ぐはっ……!」
目を回しながら、男はゆっくりと倒れ伏せる。
コロコロと転がったオーブのもとへ、誤って下の階へ落としたりしないようニーナが急ぎ駆け寄った。
「えいっ」
しゃがんで、片手剣の柄を水晶にコン、と打ち付ければ容易くオーブはひび割れ、満ちていた黒いオーラは見る見る間に消え去った。
完全に効果が消えた事を見届けてから立ち上がり、グレンを仰ぎ見る。
「これで、こちらは大丈夫そうですね。その男性の方は、どうしましょう?」
「あー……。引き渡しまでその辺に転がしときゃあいいだろ」
どうせ、もう戦えそうにねーし。
足元ですっかり目を回している教団員を一瞥し、ニーナに目配せすると、彼女は手すりから身を乗り出し一階へ向け叫びかけた。
「皆さん、教団員を確保しました! オーブも破壊済みです!」
ニーナの声にウィンクルムたちは頷き、サラは一度目を見開き、舌打ちした。
「ふむ、こちらもしぶとそうじゃな」
「はい。ハウリングも厄介ですけど、油断していると頭突きを繰り出してきます。気をつけて」
序盤から終始メダ・ガルオを相手取って居たフェルンが、駆けつけた朽葉の加勢に感謝し、態勢をととのえるよう肩を並べる。
何発かは攻撃を加えているものの、一人でCスケールを相手取るのはやはり骨が折れる作業だ。
「フェルンさん、大丈夫ですか!?」
「ああ。問題ないよ」
ドッグの半数を減らしたところで瑞希も加勢に加わった。
指示を失ったガルオは、しかしまだ攻撃の意思を緩めない。操る者が消えたというだけでオーガには違いない。
だが、厄介な統制さえ失ったのなら此方のものである!
「これだけ居れば……倒せるっ!」
フェルンのスキル『チャージフィールド』が、メダ・ガルオの巨体を弾き飛ばした。
体勢を崩したところへ、朽葉のパペット攻撃が炸裂する。
横合いからは瑞希も、白外套の閃光効果を上手く利用しつつ、杖を使っての攻撃を加えている。
四方八方から意識を乱されては、オーガとはいえひとたまりもない。
「グオォ……!」
攻撃に耐えながら、大きく口を開こうとする。ハウリングの事前動作だ。
「今じゃ!」
すかさず、朽葉の鳥型パペットがメダ・ガルオの口内へ自ら飛び込んだ!
「ガッ……アアァッ……!!」
体内からパペットが暴発を起こし、要である喉を焼かれたガルオが苦しみのたうった。
「ちっ、まだ残党が残ってやがるな……」
階段を駆け下りたグレンが、戦況を一通り把握する。
ハウリングによりごっそりと物が無くなった一帯で、数匹のドッグたちが未だかのんと交戦しながら、けたたましく吠えている。
は、と戦況を見やれば、逃げ遅れた招待客の少女が一人、野犬たちの鳴き声に震えていた。
「こちらへ、グレン!」
「ああ。おあつらえ向けだ、丁度いい!」
ニーナが素早く少女を確保し、魔守のオーブの効果で守りを固めると、グレンの『トルネードクラッシュII』がドッグたちを切り裂いた!
「ギャアアァウッ……!」
既にかのんや瑞希らが蓄積させていたダメージにより、ほぼ全てのデミ・ワイルドドッグにはこれがとどめの一撃となった。
力付きた野犬たちを一瞥し、クラウスの守る『チャーチ』へと、三人は少女を誘導した。
「……投降する気はないのか?」
クラウスの問いに、サラは首を激しく横に振った。
「いやよ、これだけは譲らないわ!」
此の期に及んでもサラは諦めない。オーブを抱きしめるようにして、最早数を失った少ない敵勢で、それでもウィンクルムたちに抵抗する。
メダ・ガルオを相手取りつつ、サラの言葉を小耳に気にかけていた朽葉が、不意に仲間たちへ目配せする。片手本をバラバラとなびかせたのが合図。
すかさず、突入時に鳴り響いたのと同じ音量のファンファーレがまたホールへ響き渡り、想定外の場所から放たれた大音量にサラはびくりと肩を震わせオーブを取りこぼしそうになる――その隙を、シルキアが見逃さなかった!
「観念しなさい!」
素早く呪符を放つ。真っ直ぐ飛んでサラの手に当たり、ついに彼女はオーブを取り落としてしまった。
ドッグ達はすでに掃討されており、メダ・ガルオは指示を失っている。彼女の身を守るものは最早何もない。
「ごめんなさい、我慢してっ」
「ッ……!」
目の前でぱちん! と手を合わせて謝罪したかと思えば、最大限まで力を加減したバトルフライパンによる一撃を、シルキアが少女に打ち込んだ!
「うあっ……!」
サラの頭上に星が飛んだ。ぐら、と傾いで倒れそうになった体を、シルキアが支えた。
あまり手荒には扱わないよう、後ろ手にロープで縛り、拘束する。
転がり落ちたオーブは、シルキア自らの手で即座に叩き壊した。
「だ、大丈夫なのか? もう暴れたりは……」
「問題ない。大丈夫だ、もう……」
「……」
不安げな招待客に、クラウスは気遣う様な言葉をかける。
同時に、落胆し、憔悴しきった悲恋の少女にも。
「……一度きりの人生だ。無駄にするな」
「あとはこいつだけか」
助けた少女を預けた後、グレンとニーナ、かのんもメダ・ガルオの元へ辿り着く。
「おじ様、加勢しますっ」
「おお、助かるわい」
鳥型パペットが執拗に敵を追撃する中、ヒットアンドアウェイ戦法で横合いから攻撃を加えていくかのん。
二組のウィンクルムから攻撃を叩き込まれていた化物が倒れるのはもはや時間の問題だったが、しぶとく防御を続けるメダ・ガルオへと、駄目押しの様にグレンのスキルが放たれた。
「とっとと終わらせちまおう。――『グラビティブレイク』ッッ!」
「グアアアァッ……!」
守りを崩されたメダ・ガルオの脳天めがけ、高く飛んだフェルンの『アーススパイク・アックス』が振り下ろされた!
「これで……最後だっ!」
――ドゴオォンッ!
重く力強い一撃を受け、声もなくゆっくりと、メダ・ガルオは地に倒れこんだ。
ズシンッ……と地に伏せた巨体が完全に動かなくなった事を確認し、ようやく戦闘は終了した。
●
「朽葉おじ様。休んでいてもいいんですよ」
式場の後片付けにせっせと勤しんでいた精霊を気遣い、かのんが声をかけた。
「若いモンにばかり任せていられんわい」
「そんなことは。充分頼もしかったです」
「ほほ。そうじゃな……後で腰でも揉んでもらおうかの」
天藍に、と付け足された言葉が「朽葉おじさまったら」と相棒を笑わせて、二人仲良く肩を並べ、散らばった残骸やガラスを引き続き片付けて回った。
「ニーナ、お前あのとき武器を構えなかっただろ」
「え? え、あ。あー……」
不服そうなグレンが不意に異議を唱え始め、後片付けの手を止めたニーナが唇に指先を当て考え、思い至る。
二階席で男の前に立ちはだかったとき。両手を広げて、ただ教団員を逃がさないようにと、それだけが頭を占めていた。
「俺が間に合わなかったらどうするつもりだったんだよ」
「えへへー。考えてませんでした。グレンが絶対来てくれるって、分かってましたから」
「ったく……まあいいや。でも」
気をつけてくれよ。頭をくしゃりと掻いた手の平に感謝して、はい、と素直に微笑みを返した。
「フェルンさん、こっちは終わりました」
「うん。おつかれさま」
ガラスの破片を綺麗にはいて回っていた瑞希も、フェルンと合流する。
序盤からずっと、Cスケールを相手取っていたフェルンを気遣い、瑞希は忙しなく働いて回った。
「あ、瑞希。頭に」
埃が。
頭にかかっていた塵をフェルンの手がすくう。
綺麗になったよ、と笑いかける笑顔に照れつつ、細やかな気遣いを欠かさないその指先が、戦闘においては力強く振るわれることを頼もしく思う。
「フェルンさんも、おつかれさまです。……良かったですね、被害もあまり出なかったから」
ようやく落ち着き始めた式場と、肩を抱き合い喜ぶ招待客らを見遣る瑞希に、そうだね、とフェルンも小さく微笑んだ。
「――結婚式にオーガを乱入させ、一般市民をも危険に晒した教団信者二人。確かに捕獲しました」
二階席で捕まった教団員――マイケルと、サラ。
二人の信者は無事御用となり、警察へと引き渡された。
「クラウスー!」
役所の人間に二人を任せたクラウスのもとへ、式場の片づけを終えたシルキアが駆けつけた。
戦闘中はほとんど隣に居なかった相方。互いの役割を思えば仕方ない事だったけれど、心配させただろう、という思いはずっとシルキアの胸にあって。
「お疲れ様。怪我もなくて安心した」
「クラウスもね。……あの二人は少し、可哀相だったけれど」
「……ああ、そうだな」
そっとパートナーの肩に触れ、静かに笑いかける。
マイケル――サラの相棒として式場を襲った男は、捕まった後もしきりにサラの様子を気にかけていた。
新郎新婦のように、相応の衣装に着飾られなくても、傍から見れば彼がサラにどんな感情を抱いていたかなんて、すぐわかるのに。
こんな形でなければ、良きパートナー同士になれていたのかもしれない――二人の小さな背中を、一行は神妙な眼差しで見届けた。
皆と同様に片づけを終えて、無事任務が一段落した事に安堵した茉莉花と聖も、皆に続くように肩を並べ、踵を返した。
依頼結果:成功
MVP:
名前:かのん 呼び名:かのん |
名前:朽葉 呼び名:朽葉おじ様 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 06月18日 |
出発日 | 06月23日 00:00 |
予定納品日 | 07月03日 |
参加者
会議室
-
2017/06/22-23:56
プラン提出済みです。
うまく行きますように。 -
2017/06/22-23:43
プラン提出しました。
うまく行く事を祈ります。 -
2017/06/22-23:42
-
2017/06/22-23:41
-
2017/06/22-17:19
埋まりましたね。
改めてよろしくお願いします!
瀬谷さん
サラが被ってましたね、失礼しました。
サラ対応させて頂きますね。ありがとうございます。
クラウスは
l5(敵には目眩ましと命中下げ効果、一般人は眩まない)で突入したら
まず新郎新婦の保護に向いたいと思います。
l8内に二人を保護出来ましたら新郎新婦に手伝ってもらってサラに投降を促してみます。
(通路にというのは特定しない方がよさげ?な気もしてきたので特定はしないでおきます)
私はちりじりの招待客や式場スタッフに向いl8への避難を手伝います。
全員回収できればいいですが、かのんさんの呼び掛けもある様ですから、危なそうな位置にいる人を拾っていく感じかも。
それからサラに向い取押えます。オーブ破壊してサラはクラウスに託してガルオ戦に加勢予定です。
武器はバトルフライパンを…。場違いな形状ですがスタンがあるのでガルオを一瞬でも止められたらと。
超音波阻止にもなればいいな。
こんな感じで動ければと思います。 -
2017/06/22-12:38
すべりこみでお世話になります、PGのひじりです。
ママといっしょにさんかします。
人数がひつようなのは、デミ・ワイルドドッグの所でしょうか?
ぼくとママはそちらへのたいおうに行きます。
p4でのこうげきがメインになりますね。
サラさんがもっているオーブをp5でこうげきできればいいなとも思ってます。 -
2017/06/22-06:57
ふむ
では我とかのんは、まずデミ・ワイルドドッグ、その後メダ・ガルオの対応にまわろうかの
我もガルオは1体かと思うておるが
戦闘では聖堂に突入の際、我はt7鳴らして、サラとオーガ達の視線をこちらに集めようかと思うておるよ
かのんは我等がウィンクルムであることと、メダ・ガルオの前方からはできるだけ離れるように招待客達に伝えたいようじゃな
戦闘はt4とt8のカウンターの活用になろうか
ひとまずデミ・ワイルドドッグはダメージ集中させて、確実に数を減らしていきたい所じゃ
かのんはディスペンサ要員と我の補佐を予定しておるよ
戦闘中サラの動きに不自然なところがあれば、ニーナに伝えられると良いかの -
2017/06/22-01:52
ではサラ対応はシルキアさんにお願いしたいと思います。
私はデミ・ワイルドドッグへの対応とフェルンさんの補佐につきます。
メダ・ガルオのハウリング範囲外から敵の気を引くなどして
ガルオを撹乱出来ると良いのですが。 -
2017/06/22-01:34
挨拶遅くなりました。
シルキアとLBのクラウスです。
よろしくお願いします。
えっと
私はサラの取押えとガルオ戦
クラウスは新郎新婦と招待客や式場スタッフの保護と捕まえたサラの拘束
を希望したいです。
結婚式をしている大聖堂という事は真ん中は通路で両端は椅子だと思うので
通路でl8を張って椅子に隠れながら新郎新婦と招待客や式場スタッフに逃げ込んでもらえないかなと。
避難している時に攻撃されたくないのでサラにこんな事になったいきさつを聞き出して時間稼ぎをできたらと思います。
聞いて貰いたそうだし。
避難完了したら私はサラを取押えてl8内のクラウスにサラを拘束して貰います。
そううまくいくか分りませんが。
その後、私はガルオ戦に加われたら、と考えています。
スキルはジェミニ、クラウスはl5、l8、l9を予定しています。
こんな感じで考えています。
良ければ行動の始まりにl5の目眩ましを使います。
すいません、とりあえず今はこれにて。 -
2017/06/22-01:21
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはRKのフェルンさんです。
挨拶が遅れまして、申し訳ございません。
皆さま、ご指導の程、よろしくお願いします。
メダ・ガルオを自由にさせておくと危険です。
フェルンさんはメダ・ガルオの対応に当たります。
ただし攻撃力はそれほど高くないので、r4で敵の気を引き、
一般の人に被害が出ないようにしながら、敵のHPを少しずつ削る感じになります。
1人だと正直厳しいので、他精霊さま達にも対応をご協力いただきたいです。
私はサラの所持するオーブを速やかに破壊したいと思います。
サラは敵のど真ん中ですね。
かのんさん達にデミ・ワイルドドック対応を頂いている間にサラの近くへ迫れないかと。
『サラは前衛のドッグ達、左右のガルオ二体から守られる様にホールの中心へ位置』
と提示されていますが、ガルオは1体ですよね?
オーブを破壊すればドッグ対応が楽になるかと思いますので。
オーブ破壊後はドッグ対応かフェルンさんの補佐につく予定です。
伏兵になっている教団員対応はニーナさん、お願いします。
-
2017/06/21-22:58
それじゃあ教団員を探しに行こうと思います。
1階は混戦状態ですし、オーガを使役しようにも
他の人に見られる可能性が高そうですよねぇ…
ホールも見えてないと操れなさそうですし、
それを考えると条件に合いそうな場所は二階席…?
ほら、高いところからだと見やすいじゃないですか!
い、いなかったら戻ってきますけど… -
2017/06/21-18:42
神人かのんとトリックスターの朽葉じゃ、よろしゅうに
一般人がおる中でメダ・ガルオの相手だけでも厄介じゃが、デミ・ワイルドドッグに教団員もとはなかなか忙しい案件じゃのう
さてさて
あまり時間はないが、ひとまずフリーになる敵方がおらんように、分担なり方針なり決めておいた方が良さそうかの
「討伐・捕獲の分担」
・メダ・ガルオ
・デミ・ワイルドドッグ(6~10頭)
・サラ
・もう1人の教団員
あとは、この辺もどうするか考えておいた方が良さげかのう?
・戦闘開始時の招待客や式場スタッフへの対応
・もう1人の教団員の見つけ方
今の所、ひとまず我とかのんは、数の多いデミ・ワイルドドッグを1匹づつ確実に仕留めて減らそうかと思うておるよ -
2017/06/21-14:26
ニーナとHBのグレンです。
シルキアさん、かのんさん、よろしくお願いします。
ひとまず挨拶だけ、またあとで来ますね。