【愛慕】ドレス迷走ちゅう(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ジューンブライド。
 いつから伝わったかは知れないが、ここイベリンでも6月に入ってから教会やハルモニアホールなどで、幸せのメロディが日頃より多く聞こえてくる。
 町の仕立て屋などはまさにかき入れ時。芸術の町たる所以か、ドレスを手作業で作る職人たちの技は衰える事無く、繊細にして上品。
 オーダーメイドが流行り出してからは、各職人の個性も光るようになって主役たる花嫁様たちは、自分に合った職人探しも楽しみと一つとなっているとか。
 そんな仕立て屋たちがとりわけ密集するここ、イベリンのとある路地の中から突如悲鳴が上がった。

「アーーーーーーーーーーーッ!???」

 ビクリッ、と振り向く通りがかりたちの中にウィンクルムの姿も。
 オーガによる事件だったらば大変、とばかりに条件反射で悲鳴のした店を探し当てる者もいた。
 バターンッと飛び込んできた客もといウィンクルムの姿を視界に捉えれば、悲鳴主たる店主が『ああああ聞いて下さい!』とばかりに縋ってくる。
 大丈夫だ。このテの事態には慣れている。さぁ話してみるがよい。
 至って冷静なウィンクルムたちを見て少し落ち着きを取り戻した、店主たるドレス職人が語り始めたことによると。

『 この店では、オーダーメイドが主流な昨今の中、ご先祖が生み出し創り出したドレスたちを代々の店主が手入れをして、お客様に貸し出しという形で着てもらっている。
  常に命をかけて手入れを行う職人たちの、血の通った手を受けてきたドレスたちは今では命が吹き込まれている。
  そう、この店のドレスたちはどれも自力で動くのだ。
  そうしてウエディングプランナーなどがいないこの店で、迷う花嫁様にドレスたちが自ら前に進み出たり、似合う小物などを選んでくれる。

  そんな生きるドレスたち自体が人気であるわけだが、とりわけこの店の目玉と言えるのが、「星々のドレスシリーズ」。
  遠い地からやってきたらしいご先祖が、夜空の星を様々な形に喩え、更にそれをイメージしたドレスたちを仕立て上げた。
  特に花嫁様には、自分の誕生月から選べる「十二星座」のドレスたちが人気を誇っているわけであった。

  ……が。その十二星座ドレスたちの他にも、星の形をイメージしたドレスたちは居るわけで。
  今までは何とか宥めていたのが、この日、とうとうそのドレスたちが「自分たちを必要としてくれる花嫁様がいない!」と
  嘆き逃走してしまった……。
  決して軽んじられているわけでは無く、たまたまここ暫く選んでくれる花嫁様に出会えなかっただけ。
  命宿る縫製で仕立てられたドレスたちは全てにおいて、どれ程年月を経ようとも新作と同じ輝きを放っている。
  どうか、逃げてしまったドレスたちを説得し戻してほしい……っ 』

 自分が不甲斐ないばかりに、と悲観する店主から逃走したドレスたちの特徴や性格を聞いて
 早速探索に乗り出すウィンクルムがいるのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 【以下、店主からの脱走ドレスたちについての、説明&情報】

1☆うみへび座のドレス:
 幾重にも重なったフレアが見事な、プリンセスラインドレス。
 背中には9つの長いレースがリボンから垂れ、風が吹けば蝶のように舞うシルエットが売り。
 どうやら、着てもらえない事より陽射しの中で踊りたかった模様。
 イベリン片隅の小さな花畑で、花を袖でツンツンしながらいじけている。

2☆ゴブレット座のドレス:
 腰から下へ徐々に広がり、裾で微か足を覆うよう引き締められたAラインドレス。
 くびれ部分が光沢ある生地でキュッと締められ、パフスリーブな肩部分。逆さにするとその名の由来が見える。
 誰でもいいから着て欲しい……子供でも、老人でも、男性でもいいの……男性でもいいの……(二回言ry)
 そんな思いいっぱいに、イベリン中央広場の噴水に腰かけている。

3☆竜骨座のドレス:
 全体的にシンプルに、その分長く仕立てられたバックトレーンが花のように広がっているマーメイドラインドレス。
 凛と立つ姿が一際際立つシルエット。
 着ても欲しい、けれどドレスを着る時の花嫁様はいつもどんな気持ちなのか、すごく気になっている様子。
 店の屋根の上で、聞き耳を立てるように星座もとい正座している。

4☆店内で:
 ドレスを探す、着るなどどうしても抵抗がある方。
 探しにいった人たちを待ちながら、店内を見たり店主を慰めたり、そもそも結婚って……ドレスって嬉しいものかな??などなど
 パートナーと結婚とはなんぞや談義をしていても可。

解説

◆町のどこかに居るドレスを見つけ店に戻そう!

 基本は上記な主旨となります。
 逃走ドレスたちの中から【一着を選び】、各々のやり方で気持ちを汲んだり説得したりしてあげてください。
 ※プランには、本文中の数字にてご記載でOK。

 ドレスたちは言葉は話せません。こちらの言葉は通じます。
 身振り手振り袖振りなどで、意思疎通を図ってくるでしょう。
 また、ドレスたちは意思で伸縮するので、体型気にせず着れば必ずぴったりフィット。
 着る場合、近くの店が試着室を貸してくれたり、店主のとこへ戻ってそこで着てもOK。

 ドレス選択が他参加者様と被っても勿論OK!
 1点モノではないようで、同じ星座のが2~3着きっと逃げているのでしょう。
 選択されなかったドレスは、店主が頑張って連れ戻すと思われます。

◆はー……やれやれ。一段落後、お茶や食事などで【一律500Jr】消費
 ※描写は、ドレスを見つけてから説得、店に連れて戻るまで。
  「解決後」の行動は含まれませんのでご了承下さい。

ゲームマスターより

休止とはなんなのか、問われたら何も言い訳出来ないお久しぶりですコンニチハ!
初めましての方は初めまして!
自由勝手気まますぎるGM、蒼色クレヨンでございます!

ジューンブライド、いいですね大好物イベントですふへへっ、と飛び込んでしまいました。
け、決して、12個分のドレスイメージ考えるのが面倒だったわけじゃ、無いです、よっ。

プラン次第で、ハートフルからシリアス、コメディなどお好きに転がして頂いて構いません☆
また、久しぶりでウキウキとEXにしてしまった為
アドリブ魔が暴走する可能性高し。
絶対、ではありませんが、他参加者様と絡む可能性もありますので
絡みNGの方は、お手数ですがプランに【絡×】の記載だけお願い致します。

それでは! リザルトでお会い出来るのを楽しみにお待ちしております☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)

 

アスカ君すごくやる気みたい
一緒に来てくれてよかった、頑張ろ…行っちゃった
早く追いかけないと

合流
アスカ君、もうドレスを見つけてたんだね
それにすごく気に入られてるみたい
せっかくだから、着てあげたら?私も見たいな

嫌がられたら
…アスカ君、乙女座だったよね
どっちのドレスがいい?
すぐに見たいから早速近くのお店へ

ドレス姿のアスカ君に思わず見とれる
か、かわいい…!
それにもしかしてウエスト私より細い…?(微妙に悔しい
どうですかドレスさん
十二星座よりあなたの方がいいという人も、このとおりいるんです
どうか戻ってきてくれませんか?
本人もこう言っていますし、満足したなら帰りましょう

あれ?アスカ君その格好のまま帰るの?


水田 茉莉花(八月一日 智)
 

(智のメモ帳を借りてメモ)
わかりました、それでは探しに出掛けますね!
ほづみさん、行きますよ!

まさかそんな単純な話じゃな(屋根見上げ)…くなかったですね
登って近くで話しかけてみましょうか?

ハイ、頼まれま…ええーっ!
うーん、気持ちかぁ…どんな気持ちなんだろう?

これは、想像なんだけどね
デートとかするとき、目一杯お洒落するでしょ?
それと同じで、自分が一番綺麗な姿を
人生の一番大切な日にパートナーとなる人に見て貰いたい
んじゃぁないのかな?

へ?そういう人は居るかって?(屋根下チラリ)
あ、話はあの…き、着させてもらっても、良い?

この際だからってメイクや髪型もいじって貰ったけど…何か別人
ほづみさ…あのえっと…


シルキア・スー(クラウス)
  ドレス1
踊りたいドレスなんて素敵ね
花嫁のドレスなんだから花婿役もいるわね あなたも踊りよろしく
道すがら打合せと準備して向かう

花畑で
あれかな?
物陰から伺う
そっと近づき こんにちは

彼の笛に合わせカスタネット鳴らしステップ踏み始める
ドレスに話しかける
私の育った村では結婚式は村人総出で歌と踊りでお祝いしたの
その時の踊りよ これ どうかな?
良ければ一緒に踊ってくれる?

応じてくれたら近場で着替え陽の当たる花畑で本番
彼の演奏に乗りカスタネット鳴らし
縦横無尽に舞い蝶の様に舞うシルエット再現

舞い終わりギャラリー見て閃く
こちらのうみへび座のドレスをご用命なら≪店名≫へ

ドレス抱しめ 楽しかったありがとう
お店へ戻ってくれる?


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  1のドレスを追います。
フェルンさんと一緒に追いますね。
店員さんからの話を元に、花畑へ。
途中通行人からも目撃情報を募ります。
だって一人歩きするウェディングドレスってかなり目立ちますもの。
見かけたという声をたどって行けば、きっと直ぐに見つかります。
ドレス見つけたら、そっと後ろから声をかけて
「あなたを着てみたいの」と話しかけます。
着て貰えなくて落ち込んでいるのでしょ。
着たい人が居るってこと、先に知ってほしいのね。

踊りたいの?
自信はありませんが、頑張ります!
フェルンさんが手伝ってくれるならきっと大丈夫。
ドレスに着替えて、フェルンさんのエスコートで踊ります。
お姫様気分でぽわぽわ。心臓バクバクです(頬赤い



イザベラ(ディノ)
  2
ドレスの身振り手振りを真剣に解読。誰かに着られたいという思いに対し、己の存在意義に関わる重大な問題だと協力を惜しまない。
「任せろ、その願い叶えてやるぞ。お前が満足するまで付き合おう」

店に戻って試着開始。
「さぁ、存分に着られるが良い」
「このディノに」

「お前程の立派な身体なら服としても着られごたえ(?)が有るというものだ」
「あと私の直感では、こいつは私よりもお前に着られたがっているように見える」

「ふむ。…良いんじゃないか?」※本心

「もしや嫌だったか」
珍しく精霊の真意を察し。胸に込み上げてくる何かに突き動かされ、思わず精霊の頭を撫で頬にキス。
「…うむ、何だ……興奮した。凄く」
但し微妙にズレた自覚。



●ちょっと色々ありつつ、いざ!ドレス探し

 水田 茉莉花は隣りに並んだパートナー、八月一日 智のジーンズの後ろポッケに突っ込まれていたメモ帳を、当たり前のように拝借しては、一通り聞いたドレスの特徴などを書き込んだ。もはや慣れた行為なのか、特に智は何も言わず。
 否、今それどころでは無さそうである。

「なんだよ! おれは着ねぇぞ! ちっこいからって構いに来んな!」
「ちょ、なんで俺にまで!」

 十二星座や他星座のドレス数着が、どうしてか智やアスカ・ベルウィレッジにまとわりついている。
 本当に動くんだぁ、なんて興味深そうに観察する瀬谷 瑞希。『ぁ。ミズキが生き物としての好奇心持った顔だ』とフェルン・ミュラーは隣りで楽し気に見守って居たり。

「い、伊万里っ、助け……」
「この『ドレス』、この『コ』? かな、呼び方。もしかして夏の大三角?」

 アスカにまとわりついている内の1着、アンティークを思わせるクラシカルなラインの正面に、スパンコールによって二等辺三角形が浮かんで見えれば八神 伊万里の瞳が輝いた。
 呼ばれたドレス、嬉しそうに伊万里へ向けて裾を軽くたくし上げぺこっとお辞儀。

「すごい、アスカ君。やっぱり縁がある星ってことなのかな」
「いや……あの………」

 愛しいコの喜ぶ顔を見れば、救助求め伸ばされたアスカの腕が哀愁の下泳いでいった。
 精霊二人がドレスに埋もれそうになるのを、オロオロしながら見つめるディノの横では。

「む……生きているならば、問答無用でコンパクトに畳み込んで連れ戻す、というわけにもいくまいか」
「絶対しちゃダメですよ!? ……ってイザベラさんも懐かれてるようですが」
「おや」

 物騒な呟きにもなんのその。何着ものドレスたちが、イザベラを取り囲んでぴとり、と寄り添っていたり。

「一つ一つの刺繍模様が違ったり、袖や襟が違ったり。ウエディングドレスって、奥が深いね」
「確かに……。奥深い、という点ではシルキアの歌や舞のようだな」

 ドレスたちを眺め感嘆の吐息を吐くシルキアの言葉に、しみじみと真顔で紡ぐクラウス。
 嬉しいやら照れるやら、シルキアは頬やら耳へ急激に熱が巡るのを感じた。
 誰も救いの手を伸ばしてくれない故、智とアスカ、乱暴にならないよう極力手加減してようやくドレスたちの隙間から逃れ出る。
 そんな二人を暫し不思議そうに観察していた店主、ここで納得がいったように、ああと手を打った。
 智がしている銀の腕輪、アスカが付けている星空のようなイヤリング、それがドレスたちに気に入られたのだと。それに合わせるなら自分たちを着て! というアピールだそう。
 いやーいい仕事してますねぇ、なんて職人気質な台詞も聞けば、智とアスカは『へぇ……』と改めて触ってみたり。
 イザベラに至っては、こちら一見分からないことも、ドレスたちは敏感に感じ取ったらしい。
 イザベラの、服の下に隠された気品あるコルセットや、控えめにコート下に見え隠れする蒼白い花のコサージュなどから、同族というか好みというかそんなオーラに誘われたのだろう。
 着て、というより、さながら好みのイケメンを取り合う女たちのようである。
 ディノが隣りで複雑そうな顔を浮かべていたとか。

「それでは探しに出掛けますね! ほらほづみさん、遊んでないで行きますよ!」
「遊んでるように見えたんか、おい」

 よしっとメモ帳にまとめ終えれば、きびきびした動きで茉莉花が、やるせなさそうにその後を智が、外へと繰り出したのを切欠に、他のウィンクルムたちも続々とドレス探索へと赴くのだった。

◇ ◇ ◇

 逃げたドレスたちについての特徴を思い浮かべ、伊万里はその性格を分析しどのあたりにいるだろうかと思案しながら、ここイベリンの中央通りを歩いている。
 そんな伊万里を横目で見ているアスカ、どこか落ち着かなそうに、彼女の表情や周辺のドレス工房などへ忙しなく視線移動させていた。
 その心中たるや、先程のドレスたちによるモテ期からしっかり気を持ち直し、やる気に満ち満ちており。
 ―― 星座は蒼龍の方が詳しいのに俺と来たってことは……。
 店主の悲鳴が聞こえた時、3人でイベリン内を回っていたのだ。
 じゃ、行こう! と伊万里に声をかけられた自分へともう一人の精霊はひらひら手を振っていただけで。
 ―― 伊万里がドレスを着て、俺と……? ワンチャンある!
 想いを受け止めてもらえなくとも、その想いにブレーキなどかかるはずなく。むしろ日々どう彼女を振り向かせるか、以前より必死で男らしさを増しすらしているアスカである。
 みなぎる力と募る想いが、アスカを居てもたってもいられなくさせるには数十分で事足りた。

「アスカ君が一緒に来てくれてよかった、頑張ろ…………あれ?」

 まだこの近辺にいるんじゃないかな、と伊万里がパートナーへと顔を上げた時には、すでに黒い尻尾は遠ざかっていた。
 『絶対見つけ出して、伊万里に着てもらうぞ!』と、若干ズレたやる気だが、遠ざかる背中からは真剣にドレスを探し出そうという空気だけ読み取って。
 行っちゃった……まぁでも、頼もしいよね。
 イベリン中をくまなく探すとなれば体力勝負的にアスカの方へと、瞬時に判断して声をかけていた伊万里である。
 早く追いかけないと、と尻尾が見えなくなる前に伊万里も駆け出した。

◇ ◇ ◇

「踊りたいドレスなんて素敵ね」
「お前におあつらえ向きだ」

 ドレスの特徴を聞いた後ウィンクルムたちが各々捜索に出た最後に、他に思い当たることはないですか? と店主に問いかけていたシルキア。
 もしかしたら……推測ですが、と付け足され得た内容を思い出せば、クスリと息が漏れた。
 
「俺はいつもの様に伴奏をしよう」
「花嫁のドレスなんだから花婿役もいるわね。あなたも踊りよろしく」
「え? いや俺は……」

 特等席で彼女の舞をいつも見ていたクラウスにとって、シルキアのために笛を奏でられることは誇らしくまた本望であるものの、踊りの経験値となるとシルキアに見合う自信は無く。
 しかして花のような笑顔に、困惑の声も自然と打ち消された。
 もはや当たり前のように繋がれる手と手。
 すでにクラウスにとってそれは克服されたモノではあったが、2人にとって必要不必要関係なく、今はお互いの体温が伝わるこの位置が心地よい。ただそれだけの、純粋なモノ。
 ドレスを見つけられたらどうするか、打ち合わせや相談を絡みながらも探す足は舞のステップを踏むが如く、導かれるままに花畑の方へと向いていた。 

◇ ◇ ◇

 もう一組、別の情報を得ていたのは、瑞希とフェルン。
 そういえばよく花々を見ていたような、と聞けばそれらしい場所やドレスの目撃情報などを、道行く人へと尋ねながら探して回る。

「一人歩きするウェディングドレスってかなり目立ちますものね」
「ミズキ、こっちの人が見かけたって」
「はい、行きましょう」

 情報を得ながら探すっていう発想はさすがというか、ミズキらしいな、なんて
 効率よく的確にドレスを追うパートナーの姿に瞳を細めながら。フェルンは瑞希の案に従って、歩調を合わせ確実に花畑へと近づくのだった。

●言葉と袖振り紡ぎ合い

「居たーーー!!」

 噴水を取り囲む石造りに、しょんぼり気味に腰かけていたゴブレット座のドレス、突然の大きな声にビクゥッと立ち上がった瞬間アスカのタックルを食らって易々ぺしゃり。アスカと共に地面に敷かれた。

「うわ悪い! こんなに軽いと思わなかった……っ」

 そういや身が入っていない服も同然だった! と思い出し、慌ててドレスを丁寧に立ち上がらせてはあわあわと埃を落としてやりながら。

「そうそう、アンタにぴったりの花嫁だぞ!」

 伊万里を置いてけぼりに駆け出したことにはトンと気付いておらず。すぐ後ろについてきていると思って、紹介とばかりに振り返れば当然そこには誰もおらず。
 ゴブレット座のドレス(以下:ゴブレットさん)、パフスリーブの肩を片方下げてまるで首を傾げるように、アスカをまじっと見つめているふう。
 綺麗な艶のある黒髪に黒耳、大きめのまなこと長めのまつ毛、そこに太陽のように温かそうに浮かぶ赤い瞳。
 ………ぽんっ。
 ゴブレットさん、アスカの肩を自身の肩で鳴らすように叩く。

「ん??」

 ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
 貴方、貴方だよ。そうアナタが着ればいいんだよ。
 アスカ、次第にゴブレットさんの意図が伝わってきた。

「……えっ? いや、俺じゃな……、ハッ、伊万里! ちょうどいい所に……っ」
「足早いんだものアスカ君。あ、もうドレス見つけてたんだね」
「あ、あのな、こいつが、」
「それにすごく気に入られてるみたい。せっかくだから着てあげたら?」
「ええっ!?」
「私も見たいな」

 こくこくっ。
 伊万里とゴブレットさんが、盛大に頷き合い出した。
 アスカにとっては青天の霹靂である。焦りながら当然の物申しを開始する。

「なんで俺がドレス着ないといけないんだよ!」
「ダメ?」
「どう考えても俺じゃないだろ着るの!」
「……アスカ君、乙女座だったよね。どっちのドレスがいい?」
「2択!? 肝心の『着ない』って選択肢は!?」

 ちょっとアイツに似てきてねぇ!? と更なる抗議を唱えようとしたアスカへ、そのアイツとは似ても似つかぬ可憐な若草色の瞳とかち合った。
 口をつぐみ、じっと熱のこもった視線が注がれる。
 ……あの目でお願いされたら弱い……。
 さらには、店内でまとわりついてきた十二星座のドレスたちの、とりわけファンシーなデザインをした乙女座のドレスが思い出されれば。

「……今回だけだからな」

 がっくりと、四肢を地につけたアスカと、ぱぁっと笑顔を開かせた伊万里がいるのだった。

◇ ◇ ◇

「さぁディノ。お前も体当たりで行ってこい」
「いえあのっ、ドレスさん大人しそうですよ!?」

 アスカの捨て身捕獲っぷりを、後方で目撃していたイザベラとディノ。
 ふと見れば、アスカたちがいる噴水のぐるりと回った向こう側にも、全く同じドレスがちょこんと座っているのを見つけた。
 自分のこの体格でやったら傷んじゃいますとばかりに、ディノ、可哀想で首ぷるぷる。
 仕方ない正攻法でいくか……と噴水の反対側へツカツカと歩いて行けば、そこに座っていたもう1着のゴブレット座のドレス(以下:ゴブレットさん)へ、イザベラは片膝ついて声をかけた。

「我々はお前の主に依頼された者だ。良ければワケを教えてくれないか」

 警戒されぬよう低い視線から、まるでお姫様に王子が語り掛けているようなそんな姿に、『やれば出来たんですね!』と感動ののち見惚れるディノ一名。心なしか、その瞳は若干羨ましそうでもある。
 完璧なまでの紳士対応(※ゴブレットさん視点)に、促されるまま必死にパフスリーブで自身を示したり、立ち上がってAラインのシルエットを強調させたりするゴブレットさん。
 その身振り手振りの、些細な意思も見逃すまいとイザベラは真剣に見つめ解読を試みる。
 少なくとも店主から聞いた限りでは、自らの存在意義に基づいての逃走なのだと感じられた。
 ―― 存在意義の確保。それは生きとし生けるものの、使命も同然だからな。
 正義の蒼い焔宿す瞳が、ゴブレットさんの生命力から何かを直感させた。

「なるほど。よし任せろ、その願い叶えてやるぞ。お前が満足するまで付き合おう」

 ―― ああもう……どこまで俺をときめかせれば気が済むんですか……。
 その一部始終を見守っていたディノ。うっかり立ち尽くしていたのを、移動しようと立ち上がったイザベラからの視線に気づき、慌てて追いかけるのだった。

◇ ◇ ◇

 遅咲きの春の花と、早咲きの夏の花が仲良く混在する、小さな花畑。
 その中央に、2着のドレスが並び合いつつも、全体をこじんまりとさせいじけているふうにして座っていた。

「あれかな?」
「その様だな」
「あ。スーさんとクラウスさん」
「瀬谷さん、ミュラーさんも」

 物陰からどう近づこうか思案していたシルキアの後ろから、瑞希とフェルンが顔を覗かせる。
 『あれ、うみへび座のドレスたちですよね』 『2着いるみたいだし……一緒に行こうか』などと小声で相談した後。
 2組はドレスたちを驚かせないよう、先に姿を見せてからあくまでゆっくり、そっと近づいていく。

「素敵なドレスさん、こんにちは。お花たちが喜びそうな良いお天気ね」
「俺はクラウス。そっちはシルキア。店主から頼まれて来た者だ」
「私は瀬谷瑞希と言います。こちらはフェルンさんです」
「お嬢さんたち、お邪魔するね」

 ウィンクルムが来たのを見て、怯えるどころか待ってたの! とばかりに花々の中から立ち上がると、2着は同時に袖を掲げたり腰のレースを揺らしたり、何やら必死に動き出す。

「わ、わ、待ってください。大丈夫、私、あなたを着てみたいの」
「……うん? ちょっと待ってミズキ。なんだか、着て欲しい以外の理由がありそうだよ」
「うむ。店主もそのような事を言っていた」

 着ても良い? とドレスへ小首傾げる瑞希の姿に、『花とドレスと……妖精?』などと危うく見惚れそうになるのを精神スキルでどうにか堪えたフェルンが、2着のドレスの身振り手振りから何かを読み取る。
 クラウスもその言葉に頷いて、幾年重ねたドレスの命たちから、思念を感じ取れないか試みる。
 真っ先に、着てみたい・着たいと望んでいる人がいる、ということを瑞希が示したことではやる気持ちが落ち着いたのか、2着のドレスは今度は少し丁寧な、ゆっくりとした動きに変えてきた。
 ―― おっと。ミズキの気持ちが伝わったかな。
 嬉しそうな笑みを作りながら、フェルンは段々と理解してくる。横で共に動きを見つめていたクラウスへと、感じた事を相談してみればクラウスもフェルンの言葉に同意した。

「踊りたいようだよ」

 最初にフェルンが口火を切って、聞く姿勢な瑞希とシルキアへ向けクラウスが後に続く。

「結婚式というと、教会や式場が主だろう。このドレスたちは、まだ屋外で式を経験したことがないらしい。
 ずっと憧れていたそうだ。窓の外の、あの陽射しの中で踊ってみたい、と。店主の推測は当たっていたようだな」

 思念を通訳しながら、合っているか? とクラウスがドレスたちへ確認すれば、2着ともコクコクコクッとすごい勢いで頷いた。
 それを聞いて、クラウスと視線を絡ませたシルキアが嬉しそうに立ち上がる。

「彼女は舞踏の心得がある。その望み、叶えてやれる」

 クラウスの言葉に、その場にいる全員の視線がシルキアへと注がれた。
 一度深く息を吸ってからシルキアが姿勢を正すのを合図に、静寂の花畑の中クラウスのオカリナの音色が響き始める。
 準備されていたカスタネット片手に、メロディに合わせタタンッとリズムを刻みながらシルキアが舞い出した。
 花の中を弾む兎のように、時に花と花の間を飛び交う蝶のように、伸び伸びとしたその動きは見ているものを元気にする。
 ―― この舞に、彼女自身に、どれ程救われているだろうか……
 クラウスの胸に、今までの思い出が走馬灯のように過ぎった。
 一度見てもらうつもりで、短くされた舞を終えればシルキアはドレスへと寄って行く。

「私の育った村では結婚式は村人総出で歌と踊りでお祝いしたの。その時の踊りよ、これ。どうかな?」

 途端、2着のドレスがシルキアに抱き付いた。
 覆いかぶさられ前が一瞬見えなくなったシルキアが、わっ、と転びそうになるのをクラウスがしっかり支える。

「あ、ありがとう」
「瀬谷殿も、共にどうだろうか」
「それいい! ね、良ければ一緒に踊ってくれる?」
「ええ!? 今のを、ですかっ?」
「要は楽しめばいいの。ステップとか振りとか、気にしないで」
「やってみようよ、ミズキ。エスコートしてあげるから」

 体を動かすよりどちらかというと知性派な瑞希、悩みそうになったところへフェルンが助け舟を出す。
 彼の度胸と自分へ惜しみなく差し伸べられる手の温かさは、これまで何度も見て、受けて来た。
 フェルンさんが一緒なら……きっと大丈夫。確かな信頼がそこに築き上げられているから。
 瑞希はぐっと拳を作って見せて、『自信はありませんが、がっ頑張ります!』と笑顔を作ってみせた。
 (かわ………っ)
 衝動的に抱き締めそうになるのを、フェルンは精神スキルで以下略。
 かくして、そうと決まればとばかりに2着のドレスを伴って、近場の店へ試着室を借りに行く神人2人の姿があった。

◇ ◇ ◇

 真っ先に出発したはずの組は、実はまだ店の裏に居た。
 逃走ドレスたちの特徴や性格からして、あっちじゃない? いや意外と教会に一人ならぬ一着で佇んでいるかも? などなど探し場所を先に作戦会議中のようである。
 メモ帳を睨みながら、う~~~んと唸っている茉莉花へ、ふと智が思いついた事を口にした。

「……ってさ、星座のドレスだから天に帰ったなんてベタな話じゃねぇだろな?」

 まるで登って確かめるがよい、とばかりに店裏の壁には梯子がかかっているのを見つけて、茉莉花も思わず真顔でそれを見つめる。
 そして二人同時に、梯子を辿るように視線を徐々に屋根へと向けていく。

「まさかそんな単純な話じゃな」
「あ、居た」
「……くなかったですね」

 なんと ドレス発見。
 デザインから見て、竜骨座のドレスかな? と首を傾げながら。

「登って近くで話しかけてみましょうか?」
「んだな、まぁ話を聞けるもんなら聞いてやらねぇと」

 順番に屋根まで来れば、正座の上に哀愁まで纏っていそうなドレスが視界に入ってくる。
 茉莉花、驚かさないよういつもの元気なトーンを気持ち抑え気味にして声をかけた。

「良かった見つかって。えっと、私たちはー……」
「店の真上に居たってこたぁ、俺達がウィンクルムで、なんでここに居るかとか全部聞こえてたんじゃね?」

 どう自己紹介しようかと一瞬悩んだ茉莉花へ、智が言葉を繋げると竜骨座のドレス、正座のままこっくりと頷いた。
 警戒されることは無さそうだと安心すれば、ドレスへと近づいて。
 言葉を投げる前に、茉莉花はメモ帳とペンをドレスの前に置いてやってから、どうしたらお店に戻ってくれる? と尋ねてみる。
 するとドレス、刺繍に透ける長い袖でペンを取れば、おもむろに紙へとかきかき。茉莉花と智、じっとその様子を見つめた後、書かれた文字を声に出して読んでみた。

「えーと? ……自分たちを着る時の、花嫁さまの気持ちが、知りたい……?」
「はーん。そゆことか、んじゃおれは出番ねぇな……頼んだ、まりか!」
「ハイ、頼まれま……ええーっ!」

 流れるような会話に思わず返事をした茉莉花から、抗議の台詞が飛び出す前にもう智は屋根からひらりと飛び降り姿を消していた。
 とはいえ、こっそりと、屋根真下の死角になる位置にて聞き耳は立てているわけだが。
 そんなこととは露知らぬまま、あんなばかちびアテになんかしてないもの! と文句の一つも心の中で叫んだ後、真面目にドレスへと向き直る茉莉花(危うくクシャミしそうになったのを堪えた屋根の下なる人物)。
 
「うーん、気持ちかぁ……どんな気持ちなんだろう?」

 まさか直々に花嫁様候補(※ドレス目線)から教えてもらえると思っていなかった竜骨座のドレス、正座したままなものの、ソワソワわくわくしているふうに揺れながら待っている。

「これは、想像なんだけどね。デートとかするとき、目一杯お洒落するでしょ?
 それと同じで、自分が一番綺麗な姿を人生の一番大切な日にパートナーとなる人に見て貰いたい……んじゃぁないのかな?」

 ドレス、一度ふむ……と頷いた後、また紙にさらさら。

「へ? そういう人は居るかって?」

 一般的感想からの自身への問いかけに面食らった茉莉花だが、視線は大変正直に先程のパートナーを追うように屋根の下へチラリと動いていた。
 竜骨座のドレス、察した。また紙にさらりらら~。

「え、え? 今度はなにっ? ……結婚を意識したことはある、か!?」

 ドレスによる質疑応答、またの名を茉莉花への一方的暴露羞恥プレイなる受け答えが、暫くして終了する。
 ややグッタリ気味に梯子を下りた茉莉花、地に足をつけた瞬間そこに立ち尽くしていた智の存在に気付いた。

「あ、話はあの……き、着させてもらっても、良い?」
「お、おう、じゃ、店に戻って着てやってドレスの願い叶えてやれや」

 普段であれば、聞き耳を立てられていたと分かった瞬間、茉莉花の必殺・平手ハリセンが智の頭に炸裂していそうだが、
 人には決して話す機会のない淡い想いやら体験談やらをドレスへ語るハメになった茉莉花、恥ずかしさを必死に堪える事に体力を消耗して、思考回路が回らない。
 かくいう智は、なんの拷問……いやご褒美だこれ? 状態で全てを聞いており、現在気まずさ大爆発。
 頬染め合いもじもじする2人へ、話にはすっかり満足したドレスは、はい行きますよー! と袖で二つの背中を押して店へ戻るのだった。

●さぁ身を委ねて

 善は急げと、アスカを引っ張るようにして近くのお店へ駆け込む伊万里。
 丁寧なお願いにより快く試着室を貸しだしてくれたのを見やれば、アスカの最後の逃げ道は塞がれた。
 微笑んで手を振る伊万里へ、返すようにゴブレットさんの裾部分がふりふり振られて、アスカを押し込む形で試着室の中へ消えていった。

 時折、『ギャーーーーッ絞まるっっ』などの叫び声が響いていた店内に再び静寂が訪れた頃、試着室のカーテンが店員によって開かれた。
 いそいそと寄って行く伊万里の目に、試着室の中で盛大に縮こまっている黒猫もといアスカの姿が映った。
 あまりの恥ずかしさから少しでも背中を向けているアスカであるが、残念かなここは試着室。正面に磨かれた美しい鏡あり。
 程々に引き締まった二の腕はパフスリーブの愛らしさに包まれて、意外と色白な肌が開いた背中から覗き。

「か、かわいい……!」

 伊万里の、純粋且つ正直に思った事が声に乗り試着室の中にコダマした。
 絶対伊万里の方が似合うのに……絶対伊万里の方が似合うのに……。
 いじけて丸まるアスカへ、もったいないよ、もっとよく見せて! と男にとっては鬼のような台詞が愛しい人の口から発せられる。
 渋々か半ばヤケか、アスカが立ち上がるとAラインの裾はしわ無く綺麗に広がって、コップのフチのように足元で微かにすぼめられている。
 ―― かわいい、本当にかわいい……それにもしかしてウエスト、私より細い……?
 見とれる視線を、サテン生地で引き締められたアスカの腰元へとやれば、流石にそこは女としての悔しさが顔を覗かせたり。
 そんな女心には気付かずに、不貞腐れた顔でそっぽ向いていたアスカだが、ついチラチラと動かす瞳の中には彼女の満面の笑顔が映り込む。
 めっちゃいい笑顔してるし、まあいいか……いやよくない。
 大好きな相手を笑顔に出来る、これほど男冥利に尽きることはない。無いが、その手段が至って問題である。

「次は伊万里が着ろよ!」

 複雑な男心をやんわり微笑で受け止めながら、伊万里は本来の目的も忘れることなくアスカへ向けていた視線をそのドレス本体へとやって。

「どうですかドレスさん。十二星座よりあなたの方がいいという人も、このとおりいるんです。どうか戻ってきてくれませんか?」

 ほらアスカくんも、という暗に込めた視線を受ければ、クッ……と苦渋の言葉が試行錯誤される。

「お、俺は、十二星座のより、このドレスの方がかわいい、と、思うぞ……特に、乙女座のよりずっと!」
「ね? 本人がこう言ってますし」
「あの店のヤツも心配してた」
「満足したなら帰りましょう」

 アスカの涙ぐましい努力と伊万里の温かい言葉を受けて、ゴブレットさん、風に舞ったように裾をふわりと浮き上がらせた。
 それを見れば、2人から安堵の吐息が同時につかれる。

「よし。すぐ帰るぞ。とっとと帰るぞ」
「あれ? アスカ君その格好のまま帰るの?」

 あの店にこのドレスを連れ戻せばミッション完了!! というはやる心によって迅速に外へ向かおうとするアスカへ、至って冷静な言葉がその開いた背中へとかけられた。

「……! き、着替える!!」
「別に私は構わないけど。ほら、そーちゃんも見たがるかもd」
「ぜっっっったい着替える!!」

 もはや涙目になりながら、一目散に試着室へ戻るアスカの姿に、ちょっと残念……と小さく微笑む伊万里がいるのだった。

◇ ◇ ◇

 ゴブレットさんの腰に背後から手を添えて、護るようにしながら元の店へと戻って来たイザベラとディノ。
 目を輝かせ戻ったドレスを迎えいれようとする店主へ、真剣に何かを説明しているイザベラへと、ディノは再び視線を注ぐ。
 大抵、手や足を出す物理的解決を取りがちな神人が、今日はとてもとても落ち着いて一際格好良く見えて。
 ―― この人のこういう正義感が、本当に好きなんだ……。
 ああいけないっ。惚れ直してる場合じゃない! 自分もイザベラさんの隣りに……!
 微笑ましく且つ魅力に緩む己の表情を、出来るだけ整えていそいそとディノは歩み寄った。
 
「さぁ、存分に着られるが良い」
「俺達、何だって協力しますから!」
「このディノに」
「 こ の デ ィ ノ に ! ? 」

 ここまで来てまさかの展開。
 俺のときめき返して! と心の中でディノの絶叫が響いた。

「イザベラさんが着るんじゃないんですか!?」
「何故だ。このドレスとの話はついているぞ」
「さっきそんな話してたの!?」
「問題ない。お前程の立派な身体なら服としても着られごたえが有るというものだ」

 すでに試着室の中へインしているゴブレットさん、やや気恥ずかしそうにカーテンの隙間から顔もといレースの襟部分を覗かせて、こくこく。
 
「あと私の直感では、こいつは私よりもお前に着られたがっているように見える」
「ソンナ バカナ」

 正当なる抵抗と抗議のはずなのに、ゴブレットさんの望みだと言われたらばイザベラの方がどうしてか真っ当に見えて。
 いやしっかりして俺!
 
「ちょ、待っ……そんな無茶苦茶、アッー!」

 待ちきれなくなったゴブレットさんの、意外と力持ちなパワーによってディノの抵抗は無力化し、試着室の中へと拉致られた。

 暫し手持ち無沙汰そうに店内を歩いていたイザベラの耳に、シャーッと試着室のカーテンが開けられた音がする。
 出来たか、と大股にそちらへ足を進めれば……

「ふむ。……良いんじゃないか?」
「良いわけないでしょうが!」

 筋肉隆起したディノの肉体すら、パッツパツになることなくゆったりとその白い絹で覆われて。
 純白からそこかしこに覗く褐色肌。可憐なパフスリーブからにょきりっと伸びた太い腕。
 心の血涙浮かべ、しかし大事なゴブレットさんを傷めぬよう乙女座りで、よよよ……と項垂れるディノ。
 うむ。みなまで言うまい。隅の方で、店主は黙秘した。
 100人いれば恐らく99人が同じ感想を述べるであろう事柄を、しかして唯一イザベラだけは至極本心にて、まんざらでも無さそうにディノのドレス姿を見つめていた。

「ほら。お前が着て正解だった」
「酷い人だ! 本当に酷い人だ!」
「もしや嫌だったか」
「………」
「………」

 ほぼガチ泣きで盛大に拗ねては「の」の字を書いていた大きな背中を見つめれば、首を傾げ真顔で問うイザベラ。
 その問いへ、たっぷりの間が作られた後。

「……っ………う……嬉しい、に……決まってるじゃ、無いですか……! いきなりで驚いただけです!」

 条件反射で元気にイエス! と答えそうになったのを呑み込み、ゴブレットさんの気持ちを考えた時には、ディノの口からは努力の結晶たる言葉が紡がれた。
 それがヤケと名のつくものだと、だが大変男らしい行動だったと、店主はこっそり察してあげたとか。
 とはいえ、それなりに付き合いも長くなったパートナーの、表情と声色からイザベラも珍しくその真意を察する。
 ドレスを着て丸まって、いじらしくも本音を隠してゴブレットさんを讃えたディノをまじっと見つめていると……何かが胸に込み上げてきた。
 イザベラはその衝動に逆らうことなく身を任せ、気付けば骨ばった両頬を捉えこちらへ向かせると、その片方にキスを落としていた。
 どんより空気纏っていたディノ、一転して熱が巡り顔中を赤く染め上げる。

「!? ……ちょ……な、な、何……!」
「……うむ、何だ…………興奮した。凄く」

 恐らく盛大に選択ミスなボキャブラリー。
 しかし今のイザベラの中では、一番しっくりきた言葉選びである。
(何言ってるんだこの人)
 言われた当人は鳩が豆鉄砲食らったような感想となるわけだが。

「何故そんな顔をしている? お前は笑った方が可愛いと、以前にも言っただろう」
「今! それ!! ずるい!!!」

 俺どうすればいいのっ? 物申せばいいの? いやでも以前の情緒全く無しな勢い任せのキスよりは……。
 青くなったり赤くなったり黄色もとい褐色に戻ったり、信号機のように忙しないディノの様子に、
 どこまでも首を傾げ、真面目に褒め称え続けるイザベラがいるのだった。

◇ ◇ ◇

 花畑にて待機中のフェルンとクラウスが、お待たせしましたとの声のする方、戻って来たパートナーたちへ視線を向ける。

「………」
「わ! ミズキとっても素敵だ!」

 そよ風に重なり合うフレアをふわふわと浮かせながら歩み寄ってくるシルキアと瑞希の純白姿に、クラウスが言葉を失った隣りではフェルンが賛辞を発しながら、一目散に瑞希へと駆け寄っていくのが見えた。

「え。だ、だめ? 私だと似合わない?」
「いやっ、違う。すまない……あまりに眩かったもので、つい見入って……」

 不安そうな表情浮かべたシルキアへ、ハッと我に返れば思わず本音がダダ漏れたクラウス氏。
 稀に投げられる直球な言葉、なにせ予期が出来ぬため中々慣れず頬染めながら、シルキアも『ありがとう』の言葉が小声になった。
 こほん、と気を取り直せば、シルキアは瑞希たちへと視線を送り本番の合図。
 彼女の真剣な姿勢に気付き、クラウスも毅然とした仕草でオカリナを構えた。
 フェルンが瑞希の緊張を和らげるように、その細い肩と腰へ手を添えエスコートのポーズを取れば、小鳥の囀りが如くオカリナの音色とカスタネットのリズムが鳴らされ始めた。

 決して広くはないけれど、それでも彩り溢れる花たちに囲まれながら、瑞希とフェルンもメロディに促されるように軽やかにステップを踏む。
 最初はたどたどしかった瑞希の動きも、フェルンのリードとその笑顔により次第に解きほぐされていた。

「そうそう、上手だよ」
「フェルンさんのおかげです」
「以前の紺碧のドレスも綺麗だったけど、これもすごく似合ってるね。真っ白な生地とミズキの肌とが溶け込んでるみたいに」
「の、のぼせて足もつれそうですフェルンさん……っ」

 お姫様気分でただでさえぽわぽわしそうになっているのを必死に抑えているのに、当のフェルンは至って通常運行である。
 真っ赤に染まった瑞希を見れば、ごめんごめんと微笑み浮かべ。フェルンはリズムにのって彼女の手を掲げさせて、お詫びの優雅なターン。
 いやじゃない……決して嫌ではないんですよ?、と心の中で言葉を伝える難しさを噛み締めそうになった瑞希だが、支えてくれる手の温度が温かく心地よくて。気付けば、フェルンと舞い踊るのに夢中になっていた。
 ターンするたびに広がるフレアの動きに合わせ、瑞希の長い艶やかなポニーテールも踊り揺れる。
 その黒髪の根元、結紐の上に飾られた小さなクラウンが、陽射しを反射しチカリッ、チカリッと輝き瑞希の黒髪を、純白のドレス姿をより艶やかに映す。
 あそこの花畑、妖精……いやウィンクルム? がイベントをしている? などと一人、また一人と通りを歩く足が引き寄せられていた。

 縦横無尽に移り行く蝶のように、ドレスのシルエットを意識しては腰のレースたちをひらめかせる。
 初めて纏ったドレスであるのに、まるでずっと昔からの伝統衣装かのようにシンクロし舞うシルキアの姿に、オカリナを奏でながらもクラウスは目を逸らせずにいた。
 僅か、オカリナが途切れカスタネットだけのリズムが紡がれる隙間で、ふいに彼女がターンを刻みながら自らの方へ手を伸ばしてくる。
 導かれるままにその手を取れば懐にクルリと舞い込み、瞬間、緑と金色が絡み合う。
 クラウスの鼓動がドキリと跳ねたのに合わせたかのようにして、またすぐにクルリとシルキアは離れて行った。
 ―― アイドルになったり代理花嫁になったかと思えば、水の精のような姿を見せたり……一体、まだいくつの姿を隠しているのか……。
 その都度披露する舞や歌はまったく異なった雰囲気でいて、しかし違和感なくシルキアの内面から奏でられるものたちで。
 目が離せそうにない……いや、離すつもりもない。
 いつの間にか自分たちへと注がれる視線が増えていくのを感じれば、それをさせる彼女の舞を誇らしく思いながらクラウスは終演へ向けての調べを紡いだ。

 二人の神人たちの舞に身を委ねて暫く……。
 ドレス2着の雰囲気が、見つけた頃より落ち着いたものになっていると悟ったクラウスがアイコンタクトした後、シルキアは演奏に合わせ穏やかに舞を終えた。
 その動きに合わせ、フェルンと瑞希も同時に動きを止める。
 パチパチパチパチッ。
 観衆から盛大な拍手が鳴らされると、クラウスはシルキアの手を取り、知らぬ間にギャラリーに見られていた事にピシッと固まった瑞希の手をフェルンが取り、2組は観衆たちへと一礼した。
 ホッと安堵の息をついたシルキア、ふと閃けば一歩前へ進み出て胸を張る。

「こちらのうみへび座のドレスをご用命なら、是非あちらの路地にあるお店まで」

 しっかりとした宣伝文句と観衆たちから視線を受け、2着のドレスはふわっと裾をなびかせ応えたようだった。
 
「楽しかったありがとう」

 自身の身体を抱き締めるようにしてドレスを抱き込みお礼を言うシルキア。
 お店へ戻ってくれる? と続いた視線の意図に、重なったフレア部分が波打った。

「ドレスたちも、満足したみたいだよ」
「良かったです」

 フェルンが言葉にして伝え、瑞希も嬉しそうに笑みを浮かべる。が、この後続いたフェルンの提案により、もう暫し瑞希の気力が振り絞られることとなる。

「二人とも、折角綺麗に着こなしててもったいないし、宣伝もしていたことだし。折角なら着たまま店に戻ろうか?」
「帰り道も宣伝になるわね」
「ならば、歩きやすいリズムを奏でる手伝いはしよう」

 乗り気なシルキアとクラウス。
 大勢の……目の前で……このドレスのまま……歩く?
 フェルンのエスコートでほぐされたはずの瑞希の緊張ボルテージが、再び一気に駆け上った。

「ミズキ? ……ごめん。無理しなくていいことだから、ね」
「い、い、いいえ! ドレスさんの為ならっ、がんばり、ます!」

 すぐに瑞希のこわばった雰囲気に気付いたフェルンが声をかけるも、任務と思えば、いけます! と、ややまだグルグル思考を巡らしながら答える瑞希。
 ―― 戦う時は冷静なのに、変なところで頑張りすぎちゃうんだよね……そういう所も、たまらないわけだけれど。
 こっそり苦笑いを浮かべながら、全力でお店まで瑞希を守ろうと誓うフェルン。
 シルキアが瑞希を励ましている隙に、最後にそっと瑞希の背後に回って。

「素敵なキミを纏ったミズキと踊れて、本当に楽しかったよ。ありがとう」

 本日一番の本音を、うみへび座のドレスへと小声で囁けば、長いレースたちがフェルンへ向けてひらひらと揺れるのだった。


 真っ先に戻ってきたイザベラとディノに続いて、やや疲労気味にドレスと腕を組んだアスカと楽しそうな表情浮かべた伊万里が戻り。
 メロディとリズムを伴って帰ってきたシルキアとクラウス。ドレスを着たまま道行く人々に手を振り行進のような事を終えて、心からホッとした顔でその後ろから入ってくる瑞希。そしてほくほく顔のフェルンも店の中へ。
 涙声で感謝の言葉を告げる店主から、各々労いのお茶を配られ一息ついた暫く後。
 最後の組が店のドアをくぐってくる。
 竜骨座組を迎えいれた店主、両手を広げて茉莉花と智を招き入れた。
 実は一番近いところに居たなんて言えない。
 曖昧に笑ってから、茉莉花は店主へと事情を説明する。これからこのコを着て、要望を叶えてあげるのだと。
 喜んで試着室へと案内されれば、ドレスと共に中へと消える茉莉花を智は見送って。

「俺らが最後だったんか」
「相当に苦労したのだな……少し休んだらいい」
「あ、いや、そそ、そうだな」

 智の紅潮する頬に気付いたクラウスが、大真面目に労ってくれるのがやや心苦しくあるものの、とりあえず示された椅子へと腰かけ一息つく智。
 それぞれがお互いの様子を語り合い報告し合う中。

「イザベラさんが着られたのでしょうか。見てみたかったです」

 鍛えられ引き締まった体に高身長、凛とした佇まいから醸し出される大人の雰囲気、モデルのようにさぞやドレスが映えたことだろうと、シルキアが語り掛けた。
 しかしてイザベラ、一度横に首を振ったのち親指で差して。

「着たのはこれだ」
「え?」

 聞いていたウィンクルム全員が、差されたディノへと一斉に視線を注ぐ。
 向こうでは、うむ、と全てを見ていた店主がただでっかく頷いていた。

「イザベラさん! そこは秘密にしとくとこですよ!」
「なに、可愛かったぞ」
「俺が居たたまれません!!」

 さめざめとするディノの両肩へ、ぽん、ぽん、と二人の精霊の手が置かれた。過去、経験済な智と、まさに本日同じ目に遭ったアスカ。
 男3人、目と目で語り合えば無言で握手を交わす。仲間との絆が深まった瞬間である。

「ほづみさ……あのえっと……」
「おー、まりか出来たか……、……」
「その、待たせてごめん。皆にメイクとか髪とかいじって貰っちゃって……な、なんか別人に」

 雑談に区切りがついた丁度その時、試着室のカーテンが開けられ茉莉花がおずおずと姿を現す。
 襟から胸元までを刺繍浮かぶレースで覆い、ストンとしたくびれから足元までのマーメイドラインが美しく。
 後ろのフロアに広がるトレーンを伊万里や瑞希が笑顔で持ち、歩くのを手伝っている。
 マリアベールまで被せられて、あまりに着慣れない出で立ちに戸惑いの瞳を向けてくる茉莉花の姿が、智の視界に飛び込んできた。
 珍しく絶句する智。
 ―― これ、おれが前にシーシャ吸った時に見た、希望の未来のまりかそっくりじゃね?
 それはいつかの、水煙草に見た願望の姿と瓜二つに重なって。
 その時は、理想の身長となった自分がタキシード姿で並んでいた。実際はまだまだ伸び悩む現実だったが、今、あの茉莉花が目の前に立っているこれも確かに現実だった。
 形容し難い、あまりに込み上げてくる熱い胸を誤魔化すように。

「ああいやまあ、キレイだわ、背が高いと似合うなソレ」

 智はついついそんな、あっさりとした感想しか漏らせなかった。

「水田さん、すっごく似合ってますよ!」
「ミズキが着たデザインとは全く違うタイプだね。背筋が伸びているからとても格好いいと思う」
「お肌も綺麗!」
「!?」

 さらりとした智の言葉に即続かれた、智のそれとは違い大変気の利いた仲間たちの誉め言葉に、茉莉花だけでなく智がビックリ顔を向けた。
 ―― おいまて男共! なんでそんな簡単に言葉出てくんだ!?
 神人たちだけでなく、フェルンやディノも混ざっているのを見れば、何かよく分からない焦りに追い込まれる智一人。
 褒められ赤くなり、それでもまんざらでもなさそうに笑顔を浮かべる茉莉花が視界に入ると、気付けばツカツカとその正面に歩み寄っていた。

「ほずみさん?」
「……これ、も、合うんじゃね?」

 智はどこからか、ユリを一輪取り出してはまとめ結い上げられた茉莉花の髪へ、そっと挿した。テーブルの上の花瓶から花が減っているのは横に置き。
 挿し終えた指を、しばし宙で迷わせると、茉莉花のヴェールを肩の方へ流してやりながらぼそっと、『俺も頑張んねぇとな……』と呟かれた。
 すっかりゆでだこになった茉莉花だが、智から茶化しているような雰囲気は感じず、自然と笑みを返しているのだった。

「またいつでもいらして下さい! どの星座たちもお待ちしておりますので」

 心からのお礼と深いお辞儀を何度も受けて、ウィンクルムたちは無事一日を終える。
 各々の胸には、パートナーの艶やかな姿たちが刻まれるのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:水田 茉莉花
呼び名:みずたまり・まりか
  名前:八月一日 智
呼び名:ほづみさんさとるさん

 

名前:シルキア・スー
呼び名:シルキア
  名前:クラウス
呼び名:クラウス

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月06日
出発日 06月12日 00:00
予定納品日 06月22日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2017/06/11-20:10 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    私達も、1☆うみへび座のドレス を探しに行く事にしました。
    プランは提出済みです。
    素敵な時間を過ごせますように。

  • [4]シルキア・スー

    2017/06/09-11:20 

    シルキアとパートナーのクラウスです。
    よろしくお願いします。
    私達は1番の予定です。

  • [3]八神 伊万里

    2017/06/09-09:55 

    八神伊万里と、パートナーのアスカ君です。
    私達も、ディノさん達と同じく2番のゴブレット座のドレスを探そうと思います。
    道中、会ったりするかもしれませんがよろしくお願いします。
    (絡みは大歓迎です)

  • [2]イザベラ

    2017/06/09-07:54 

    宜しくお願いします、ディノです。
    パートナーはイザベラさんです。

    あー…何だか物凄く寒気がしますね?
    冷房の効き過ぎでしょうか…。

    あ、行き先は2を予定してます。

  • [1]水田 茉莉花

    2017/06/09-07:40 

    水田 茉莉花です。皆さん、ほづみさん共々宜しくお願いします。

    えっと、あたし達は3番の『竜骨座のドレス』を探しに行こうと思っています。


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