【愛慕】くっついちゃうのは、どことどこ?(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 イベリンの大通り、ボディケアショップの前で、女性に呼び止められた。

「肌にいい、蜂蜜クリームはいかが? 全身どこにでも使えるわよ」
 彼女が持っているのは、甘い香りがするクリームだ。
 小さな花の形をした容器に入っており、色は鮮やかな黄色をしている。
「あー、俺そういうの興味ないんで」
 あなたはそう言って、立ち去ろうとした。
 しかし女性が、思いのほか強い力で、がしりと手首を掴んでくる。
「何を言うの。今は男性だって、美容を気遣う時代よ。せめて試してから断って」
 まさか女性の手を振り払うわけにもいかず、あなたは小さくため息をついた。
「じゃあ、少しだけ……」

 指でクリームをとり、手の甲に塗る。
 隣では相棒が、蜂の形の容器に入った白いクリームを、日焼けをした腕に塗っていた。
 たしかに甘い香りには心が安らぐし、肌に栄養が染みこむような気もしない、ではない。
 と、思ったところで。

「うわっ!」
 あなたの手の甲と。
「えっ?」
 相棒の腕が、そう、クリームを塗ったところが、ぺったりとくっついた。
「なんだこれ!」

 二人が揃って叫ぶと、女性がふふふ、と笑う。
「蜂は花の香りに惹かれるの。要は、一緒に使うと、くっついちゃうのよ」
「先に言えよ、そういうことは!」
 あなたが叫ぶも、女性はまた、ふふふ、と。
「想いあっているウィンクルムなら、いいかなって思って。大丈夫、力づくではぎ取って、クリームをとれば、くっつかなくなるから」

 さあ、不思議なクリームを手に入れたあなたたちは、どうなる?

解説

蜂型容器に入った白いクリームと、花型容器に入った黄色のクリーム、セットで300jrです。参加者はこれを購入したことになります。

●クリームの効果
甘い香り、クリームとしての効果は同じです。
蜂型・花型、両方使った場合だけくっつきます。蜂型同士、花型同士はくっつきません。
ただ、くっつくということを、ウィンクルムは知らない設定です。
全身どこでも使えますが、らぶてぃめは全年齢対象ということを考慮したうえで、場所の設定をお願いします。

●くっついたところをはがすときに感じる痛みについて
少しの場所なら、絆創膏をはがすときくらい。
広範囲の場合は、ガムテープを肌にはって、べりってするくらい。
もしお腹全部とかに塗ったら、その後数分動けなくなるくらいです。
でも、不思議と肌に傷はつきません。



ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
今度はちゃんと着衣ネタです。
エピソードジャンルはコメディですが、もちろんほかの方向性でも大丈夫!

二人がくっついちゃうクリーム、さあどこに塗りますか?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  オレとしては、蜂容器に入ったクリームが気になったワケさ。
ロイヤルゼリーっぽい成分入ってたら体に良さそうじゃん?
左腕にたっぷり塗って。
腕を惚れ惚れと眺め。
「オレの筋肉、素晴らしい」と内心褒め讃えてたトコへ。
ラキアが変な声出したと思ったら、オレの腕へラキアの腕がびたっと!

ブンブン腕振ってみたらラキアが慌ててるし。取れないじゃん。
あ、ゴメン、腕振り過ぎたかも。
「うっは、ぴったりくっついてるじゃん」
これはこれで面白いと思うけど、このままじゃ今日の食事にも困るな。
ご飯作ってもらえないじゃん。
「腕力なら任せろー!」
めりめりめり。強制的に剥がすぜ。
これを我慢したら、今日はラキアの好きなもの作って良いから!


李月(ゼノアス・グールン)
  うわっ
くっついたのは左腕
イベリンの池の畔でまったり中
途中買わされた花型のクリームを試してた

クリームが原因と気付く
店員の意味深な笑みが思い出される
いたた おいー
べりっと剥がし痛みに震える
は? まて

ぎゃー
シャツをひん剥かれクリーム繰出してきやがった
手を払い横腹を掠め全力で回避…したつもりだった
よく分らない体勢で身動きもままならなくなってしまった
どーすんだよ アホー!
しゃべるなくすぐったい

子供が なにしてるのー?
ぷ プロレスだよー あはは
母親が怪訝な視線向け連れてった くそう

とにかく 撤収だ
痛いし解けず 焦ってきた
もしかして このまま一生

わー! ゴロゴロドボン
遅れてザバっと顔出し
…助かった
お前と遊ぶのは命がけだ
疲れた笑み


セラフィム・ロイス(トキワ)
  イベリンは花の町だしトキワに色々報告したくて今日は一緒

でも・・・(受けってしまったのを見せ)
ごめん。すぐ済ませるから

ああ、蜜蜂に思い出があって、こっちに惹かれたんだ(前にタイガの模様が蜜蜂みたい、と言った)
嫌ならいいって
(文句いってもしてくれるトキワって本当あまのじゃくというか優しい)
■蜂型を手の甲に広範囲

わ!?

びっくりした
磁石みたいだ。離そうとしても離れない。離してもくっついて
え?このままで

・・・そうだね
(なんだか僕らみたい。昔から一緒にいるのが自然で離れても戻って)


それでね。タイガとの交際を両親に認めてもらって同棲をはじめたんだ
トキワ聞いてる?
本当に気が気じゃなかったんだよ!?あの時は

むう


ルゥ・ラーン(コーディ)
  イベリンのホテルへ帰り窓辺の椅子でひと心地
容器指でなぞり 可愛らしいじゃないですか
試してみませんか と蜂型渡す
踊り子さんはお肌には気をつかいますよね ふふ

花型の香り楽しんでから両頬にぬりぬり
大丈夫みたいですよ? あっ
目にゴミが 目をシパシパ
涙と一緒に落ちたようです
目を開いたらまだ彼が覗いてるから うふふ もう 大丈ふ…ふ?
ほっぺた伸ばされ なんれふ(何です?
手を彼の手に添えたらこれもくっついた
ほや 本当れふね

この形ロマンチックですね
はうっ そんなにしたら…ああっ
だって痛気持ちいです…
どうぞ構わず剥がして下さい
…ん…あっ…
頬も唇も離れて はぁ と彼にもたれ余韻に震える

このクリーム気に入りました
暫く手はくっついたまま


歩隆 翠雨(王生 那音)
  那音からクリームを渡されて驚く
いや、誕生日は覚えてる…雨の季節に生まれたから『翠雨』…それだけは忘れなかった
誕生日を祝われると思ってなかったから…
那音は?誕生日だよ、何時だ?…過ぎてるじゃないか!
なんてこった。本当に俺は気が利かない…!

あ、あのさ、那音も塗ってみないか?
だって一人で二つ塗ると香りとか混じるし…まずはじっくり試してみたいからさ
お互い塗ってみようぜ

手に塗ってみる
ああ、良い香りだ
那音はどんな感じ?

どれどれ…って
くっついた!これどうなって…
また俺のせいか!また那音に迷惑を…(動揺

那音が力を入れ…嘘みたいに剥がれ
本当に何とかなった
有難う、那音
…いつもさ、その…感謝してる
なあ、飯食ってけよ


●それが君! ~セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバイン
「オレとしては、蜂容器に入ったクリームが気になったワケさ。ロイヤルゼリーっぽい成分入ってたら体に良さそうじゃん?」
 言いながら、セイリュー・グラシアは、蜂容器に入ったクリームを、左腕にたっぷり塗っている。
 家には守るべき家族もいるし、オーガとの戦いは続いている。今後のためにも自分のためにも、体を鍛えていきたいところだ。
 そんな相棒に、ラキア・ジェイドバインは苦笑した。
「セイリューって筋肉強化とかそれっぽいものに弱いと言うか」
(ショップのお姉さんの言う事、コロリと真に受けちゃって。ロイヤルゼリーの事なんて、彼女一言も言っていないのに)
 まったく都合の良いようにしか聞かないんだから、なんて思うけれども、このまっすぐさが、セイリューのいいところでもある。
 それに正直に言えば、クリームが気になるのはラキアも同じなのだ。
「俺は、この花の容器のほうを使ってみようかな」
 ラキアは小さな蓋を開けて、指先で甘い香りのクリームをすくいとった。
(庭の手入れすると手が荒れるし、保湿や日焼け対策に効果あるかな)
 お試しを兼ねて、右腕にクリームを伸ばしたところで……。

「ひゃん」
「えっ!?」
 セイリューは目を見開いた。
 つい瞬間前までは、自分の見つめるところには、自分の左腕しかなかったはずだ。
(オレも逞しくなったよな~、ほんとこの筋肉、素晴らしい)
 なんて自画自賛もしていた。
 それなのに、今はそこに、ラキアの腕がくっついている。

 彼以上に驚いたのは、ラキアである。
「なんでこんな……ぜんぜんとれないんだけど、これっ」
 腕を曲げればセイリューの腕もついてくるし、セイリューが腕を動かせば、引っ張られてちりちり痛い。
「オレがやってみる」
 セイリューは腕を高く上げた。
 ラキアは手の振り方が優しいからな、とばかり、勢いをつけてぶんぶん振ると。
「待って、やめて、セイリュー! 目が廻りそう!」
「……ゴメン、振りすぎた。ってかこれ、ほんと、ぴったりくっついてるじゃん」
 どうしてこんな状況になっているのかと思ったら、だんだん面白くなってきた。
 けれど、ラキアはすっかり困った顔をしているし、なにより。
「このままじゃ、今日の食事にも困るな……。ご飯作ってもらえないじゃん」
 ふと呟いたセイリューの言葉に、ラキアがうんうんと深く頷く。
「そうだよ、今日はセイリューの好きなお肉にしようと思ってたのに」
 本当はまだメニューなんて決めてなかった。
 でも、セイリューのやる気を出すために言ってみれば、彼は「ふえっ!?」と変な声を出した。
「それならとらないと! よし、腕力なら任せろー! ラキア、動くなよ!」
「あっ、やっ、これ……」
 くっついた腕を、強引に引きはがそうとするセイリューに、ラキアは思い切り顔をしかめる。
 めりめり音がする気がするし、肌がはがれそうだ。
 セイリューはそんなラキアを気の毒に思ったのだろう。
「これを我慢したら、今日はラキアの好きなもの作って良いから! 肉じゃなくても!」
 いつも美味しいものを食べさせてもらっているのだからたまには、と思って提案すると、ラキアがすぐに笑顔になる。
「よし、じゃ今夜はセイリューの奢りで美味しい物を食べに行こう。それなら痛いの我慢するよ!」
「じゃあいっきにいくぜ!」
 宣言とともに、思い切りよくべりべりべり!

「あいたたた」
「ほんっとこれ……あ、ラキアの肌、大丈夫か? 傷ついてないか?」
「うん、それは平気みたい……。心配してくれてありがとう」
 ラキアは腕をさすりながら微笑み返した。
 さっきのご飯のことも、今の気遣いも。
(やっぱり、セイリューのまっすぐさはいいなあ)
 だから家で待つ家族も自分も、セイリューのことが好きなんだ、とラキアは再確認した。

●寄るな触るなくっつくな! ~李月とゼノアス・グールン
 イベリンの湖畔でのんびり過ごすはずが、どうしてこうなった。
 李月が見つめる先には、ぴったりくっついた左腕が二人分。
 ゼノアス・グールンはにやりと笑い、くっついたままの腕を持ち上げる。
 びよん、と李月の腕も一緒に動いて、これがなかなか面白い。
 だが、李月もこんな所業に黙ってはいない。
 べりりと無理やり、腕をはがした。

「うおっ、イデー」
「いたた、おいー」

 これは絶対クリームのせいだ。
 李月は、店員の意味深な笑顔を思い出した。
(このクリーム、絶対危険だ……。もうしまっておこう)
 そう思ったのに、ゼノアスが、それをすいっと奪い去る。
「ちょ、なにするんだよっ!」
 憤慨し、顔を上げると、裸の上半身をクリームででらりと輝かせている相棒の姿が目に映った。
 にやり、ゼノアスの口角が上がる。
「遊ぼうぜリツキ」

「いくぜー 躱してみろリツキー」
「なんでいつも、こうなるんだっ」

「おらっ」と腹をめがけて、手を突きだしてくるゼノアス。
「そのくらいならっ」
 逃げられる、と、李月は体を反転した。だが。
「甘い!」
 背中にべっとり、温かい感触。ゼノアスがぺったりとのりかかっているのだ。
 李月は、首の前で揺れる手を握って持ち上げ、彼の腕の内からごそごそ這いだした。
 もし自分の背中に、クリームがついていたらやばかった。
 しかし、李月がほっと息をついた一瞬を、ゼノアスは見逃さない。
「まだまだこれからだぜ?」
「ぎゃあああーっ」
 ぬうっと伸びてきた腕に、シャツをはがされ、花型クリームをべたべた塗られる。
「待て待て待てっ、やめろっ」
 李月は、近付く頬に平手を押し付けた。
「触るな塗るなっ」
「何を言う、塗るためにクリームはある!」
「このクリームはごめんだっ!」

 静かなはずの湖畔で何をやっているのか。
「やめろ動くな」
「ほうまだ遊び足りないか」
「目がマジだゼノ!」
 そんなやりとりをして、数分後。
 気付けばゼノアスの顔が、李月の脇腹に張り付くという、不可思議な状況になっていた。

「どーすんだよ アホー!」
「しゃべるなくすぐったい」
 李月ははあ、と深く嘆息した。
 一方のゼノアスは思い切り舌を打ち。
「剥がしゃいーだろ、剥がしゃ」
 だが、なにせ顔と脇腹がくっついて、手足も絡まりまくった体勢だ。
 一か所がはがれても、バランス崩して手足をつけば、またそこがくっついてしまう。

「なにしてるのー?」と問う、通りすがりの子供の声が痛い。
「ぷ、プロレスだよー、あはは」
 爽やかな笑顔で応えてみたけれど、母親の怪訝な視線が刺さるよう。
(くそう、いったいなんだと思われてるんだ)
「とにかく撤収だ!」

 ただ、正直な話、撤収と言ったところで、ろくに歩けぬことになっている。
 ウゴウゴうにうに蠢いて、またも通りすがりに白い目で見られ……。
 李月はうつむき、唇を噛みしめた。
「もしかして僕たち、このまま一生……」
「それもいんじゃねーか……」
 ゼノアスは、いつもと同じ調子で言いかけた。
 だが、李月の体が、ふるりと震えたことに気付く。
 この状況は、もとい、李月の心情は、いただけない。
「ま、確かにヤバイな」
 ゼノアスは呟いて、周囲に目をやった。
 ここは、子供も遊ぶ、穏やかな湖のすぐそばだ。
(そうだ、水に濡れればクリームだって……)
「リツキ、大人しくしてろよ」
 一応そう断って。
「おらあっ!」
 ゼノアスは、李月ごと、地面の上を転がっていった。
 もちろん、湖に向かって。

 ――ゴロゴロ、ドボン!

「げほげほ、ぐっ」
「ぶ、がはっ」
 水中で、あれやこれやとばたばたもがいて、李月の腕をつかんで、ざばっと湖面に顔を出す。
「やった、解けたぞ!」
 叫ぶゼノアスの隣では、同じように水面に顔を出した李月が「……助かった」と。
「お前と遊ぶのは命がけだ……」
「でも、オレは楽しいぜ。リツキと遊ぶの」
 ゼノアスがにっこりと笑顔で言えば、李月は呆れた顔をする。
 それでも最後には、疲れた笑顔を見せてくれるのだけれども。

●あなたの過去をひとつだけ ~歩隆 翠雨と王生 那音
 道行く途中渡されたクリームを、王生 那音はまじまじと見つめた。
 店員がなにやら効果を説明していたけれど、ほとんど耳に入ってはいない。
 なにせ彼の頭の中は、相棒の歩隆 翠雨のことでいっぱいだったのだ。
 散々探し求めて歩きまわったけれど、これなら。
(翠雨さんの誕生日プレゼントに、ちょうどいい)
 値段も手ごろな日常品。気負わず渡せるし、使って貰えるだろう。

 クリームを買って、翠雨が店番をしている骨董店へ向かう。
 客のいない店内は、骨董店独特の香りと、穏やかな時に満ちていた。
「翠雨さん」
 丁寧に商品の埃を払っている背に声をかける。
「那音……どうしたんだ?」
 翠雨は振り向きざまに言い、壁にかかる時計を見上げた。
「そろそろ休憩でもしようと思っていたところだ。客もいないし、奥へ行かないか」

 店に続いた部屋に通されてから、那音は先ほど購入したクリームを取り出した。
「誕生日の贈り物だよ。……もしかして、誕生日も覚えてない?」
 あえて二言目を付け加えたのは、小さな贈り物を見るなり、翠雨が驚いた顔をしたからだ。
 翠雨は「いや」と呟いた。
「誕生日は覚えてる……雨の季節に生まれたから『翠雨』……それだけは忘れなかった」
「そう、ならよかった」
「でも、誕生日を祝われると思ってなかったから……」
 照れたような顔を見れたことと、思いがけず名の由来を聞けたこと。
 その両方が嬉しくて、那音はひっそりと微笑んだ。
 そんな彼を、翠雨がはっと見上げる。
「那音は?」
「私?」
「誕生日だよ、何時だ?」
「5月19日、だが」
「……過ぎてるじゃないか!」
 翠雨は、小さなテーブルの上に、どんと両手をついた。
「なんてこった。本当に俺は気が利かない……!」
「別にお返しを期待してるわけじゃないよ、気にしないでくれ」
 言えば翠雨は、申し訳なさそうに、視線を上げた。
「……それならせめて、那音もこれを一緒に塗ってみないか?」
「私も?」
「ああ。一人で二つ塗ると香りとか混じるし……まずはじっくり試してみたいからさ
お互い塗ってみようぜ」
 翠雨はそう言って、花型のクリームを手に塗り広げていった。
 周囲に満ちる甘い香りに、翠雨がうっとりと目を細める。
「ああ、良い香りだ。那音はどんな感じ?」
「こちらも良い香りだ。肌なじみも良い」
 蜂型のクリームをつけた那音は、翠雨が香りを感じやすいようにと、彼の前に手を差し出した。
 そのとき偶然、二人の手のひらが触れ――。

「くっついた!これどうなって……」
 翠雨が、合わさった手をじいと見る。
(そうか、あの店員が、大切な人への贈り物かと聞いたのは、こういう事か)
 那音は納得し、不思議そうに手を見つめている翠雨を見つめた。
 しかし、翠雨が驚き目を瞬いていたのは、ほんの一瞬だけ。
 彼はすぐに、苦しそうに言葉を吐きだした。
「また俺のせいか! また那音に迷惑を……」
「翠雨さん、落ち着いてくれ。大丈夫、何とかなる」
 那音が、クリームのついていない手で、翠雨の肩をとんと叩く。
「くっついたなら剥がせばいいんだ。……少々痛むかもしれないが」
 言いながら、那音はゆっくりと、くっついた手に力を込めていった。
 べり、と小さな痛みを感じたけれど、手は、驚くほどすんなりと離れていった。
「ほら、何とかなった」
「……本当だ。ありがとう、那音」
 離れた手を握ったり閉じたりしつつ、翠雨が那音を見やる。
 ――が。その目はすぐに、逸らされた。
 ただ、唇はゆっくり動く。
「……いつもさ、その……感謝してる」
 ちょっと照れくさそうに言う姿に、那音は口の端を上げようとし……やめた。
 そんな表情を見れば、翠雨はいい想いをしないだろう。
 ああ、と頷くだけに留めると、翠雨が彼の手を取る。
「なあ、飯食ってけよ……暇なら、でいいからさ」
 クリームのついていない手からは、翠雨の体温がじんわりと伝わってきた。

●未知なるあなた ~ルゥ・ラーンとコーディ
 ホテルの窓際にある椅子に腰かけて、ルゥ・ラーンは息をついた。
 音楽と花に溢れた街は美しくて楽しくて、ここに来てよかったと思う。
 そして、手に入れたこのボディクリームも。

「あ、それ買ったんだ」
 コーディが、アクセサリーを揺らしながら、窓の傍まで歩いてきた。
 しなやかな姿を横目で見つつ、ルゥは小さな容器を指先でなぞる。
「だって、可愛らしいじゃないですか。これ」
「まあ、似合うよね、ルゥに」
「あなたにも同じ言葉をお返ししますよ」
 綺麗と評されるルゥに対し、コーディは可愛いタイプである。
 二人黙して、なんとなく互いを観察し合うも、ルゥが先に口を開いた。
「試してみませんか。踊り子さんはお肌には気をつかいますよね」
「まあ……そうだね」
 コーディは小さな蜂型容器を受け取るなり、すぐに裏面の成分表を確認する。
「蜂蜜成分は保湿効果あるし、まあいいか……」

 ルゥは、甘い香りのするクリームを、両頬にぺたぺたと塗り広げていた。
「これ、いい匂いですね。良く伸びるし、使いやすいです」
 なるほどと顔を上げた顔を、一瞬にして歪めるコーディ。
「いきなり顔? 無謀だね君は」
 まったく、肌にあわなかったらどうするのと、自分はしっかりパッチテストをしてから、手に塗ってみた。
 一方ルゥは、「大丈夫みたいですよ?」と平気な様子。
 だが……。

「あっ」
「え?」
 コーディが顔を上げると、ルゥはぎゅっと目をつぶっていた。
「目にゴミが入ったみたいで」
「ゴミ? どれ」
 クリームを塗った頬に手を添えて、コーディはルゥの綺麗な顔を覗きこむ。
「頑張って目、開けてみて?」
 ルゥは、涙の目をぱちりと開いた。何度か瞬きをしているうちに。
「涙と一緒に落ちたようです」
「そう? ならいいけど……」
 まだ心配そうにのぞき込んでくるコーディに、ルゥは、大丈夫、と言おうとした。
 それを遮ったのは、コーディの声。
「……あれ? 離れないぞ?」
 ルゥの頬に添えた手が、ぺったりそこにくっついてしまったのだ。

 手を離そうとすると、うにーんとルゥのほっぺの肌が伸びる。
「くっついてる……」
「なんれふ? ははれなひ?」
 ルゥは不思議そうに言って、自らの手を、コーディの手の甲に重ねた。
 離そうとするも、手は確かに、まったく動かない。
「ほや、本当れふね」
「ちょっ君の手まで!? どうなって……クリームか!」
 コーディは、店員の意味深な笑顔を思い出し、すぐに理由に思い至った。
「あんの店員ー!」
 苛立ちあらわにする彼の前で、しかしルゥはにこにこと笑っている。
「何で君楽しそうなの?」
 聞けば彼は。
「この形ロマンチックですね」と。
「ロマンチック? これでも?」
 コーディは、上下互い違いに手を動かした。
 ルゥの頬のお肉が、あっちにいったりこっちにいったり。
「ぷっ 変な顔―!」
 笑いながら、コーディはさらに手をもぞもぞ。
「はうっ そんなにしたら…ああっ」
 吐息にのったルゥの声に、コーディが渋い顔をする。
「その声やめろ」
「だって痛気持ちいです…」
(MかMなのか?)
 思うけれどこんなことはさすがに聞けない。
 だっていかにも「そうなんです~」とか言いそうだ。
(いや、いじめる方も好きなんですとか言われても驚くけど)
「と、とにかく剥がすよ」
 いくらなんでもずっと遊んでいることもできないし、ゆっくり慎重に手をはがしていく。
「……ん……あっ……」
「ちょ、わざとなのそれっ」
「ちが……ふっ、ああっ」
「もうっ、黙ってよ!」
 コーディは大きな声を出し、自らの唇を、ルゥの唇に押し付けた。
 キスというよりは、そこから出る声を止めたかっただけ。
(あんな声聞いてたら、こっちの身がもたない!)
 それなのに、頬も唇も離れた後に、ルゥはうっとりとした口調で言うのだ。
「このクリーム気に入りました」
「僕は苦情入れたいね!」
 ……使えそうな気もするけど、と思ったことは秘密にして。
 コーディはルゥから、顔を背けた。

●愛しい人と、大切な人と ~セラフィム・ロイスとトキワ
「すごい、綺麗な花がいっぱい咲いてる」
 ねえトキワ、と。
 セラフィム・ロイスが見上げると、トキワは周囲をちらと見やった。
「そうだな。だけど夢中になりすぎて、迷子になるんじゃねえぞ。セラ坊」
「ならないよ。もう子供じゃないんだから」
 セラフィムは、トキワの歩調にあわせて足を動かし始める。
(いろいろ報告したいこともあるのに、迷子になんてなっていられないよ)

 そうやって歩いているときに、ボディショップの店員に声をかけられた。
「放っておけ。暮れる前に噂で聞いた穴場に行くぞ」
「でも……」
 セラフィムは、受け取ってしまったクリームをトキワの眼前に差し出した。
「ごめん。すぐ済ませるから」
「はあ……」
 セラフィムの人の良さに、トキワは嘆息する。
(まあ今に始まったことじゃないか。にしても)
「美容ねぇ……」
 そんなもの必要ない気がするが、と見ていると、セラフィムは蜂型のクリームを選んで、手に塗り始めた。
「セラ坊は花型じゃないのか?」
「ああ、蜜蜂に思い出があって、こっちに惹かれたんだ」
 言いながらセラフィムは、前にタイガの模様が、蜜蜂みたいだと言ったときのことを思い出す。
(このクリームいい匂いがするから、タイガなら、美味そうだ~とか言うかもしれないな)
「ふうん。柄じゃねぇのになぁ」
 トキワは呟いて、こちらもやはり柄ではない花型のクリームを塗り広げていった。
「え、嫌ならいいって」
 セラフィムが言うけれど、トキワは「気にするな」と一言。
(文句言ってもしてくれるトキワって、本当あまのじゃくというか優しい)

 しかし、そのほっこりした気持ちは、長続きはしなかった。
 互いの手の甲がいきなり引き合い、くっついてしまったからだ。
「わ!? ……磁石みたいだ、これ」
 離そうとしても離れない、引きあっているふうにも見える手の甲に、興味津々のセラフィム。
 一方トキワは。
「……聞いてないぞコラ」
 響いた低い声に店員はしどろもどろながらも、無理やり剥がせば剥がれます、と説明する。
 納得したわけではないだろうが、怒っても仕方はないと思ったのだろう。
 トキワはあっさり、店員に背を向けた。
「まあ剥がせるなら支障ないか。行くぞ」
「え?このままで?」
 だがトキワはさらりと。
「昔は手を繋いで歩いてただろ? 人ごみに逸れないし丁度いい。……ついて絵の作業に入ったら構ってやれないしな」
「……そうだね」
 トキワの手の甲はセラフィムのものよりごつごつしていて、彼が自分よりもずっと大人なのだと感じさせる。
 今はぴったりとくっついているけれど、さっきまでは離れていた。
 きっと無理に剥がしても、このクリームがある限り、またくっつくのだろう。
(なんだか僕らみたい。昔から一緒にいるのが自然で離れても戻って)

 二人は、手を繋いだまま、花畑を見渡す丘にやって来た。
 手を剥がして拭ってから、トキワはキャンパスを立て、絵を描き始める。
 セラフィムは、近くに咲く花を覗きこんだり、虫に触れたり、トキワの様子を眺めたり。
 ただ、その間静かにしていたかと言えば、そうではない。
 トキワに報告したいことがあったのだから、当然だ。

「――それでね。タイガとの交際を両親に認めてもらって同棲をはじめたんだ。トキワ聞いてる?」
「聞いてる聞いてる、たいしたもんだ」
「本当に気が気じゃなかったんだよ!? あの時は。絶対反対されると思ったし……」
「わかるわかる。あいつらとの付き合いも長いんだ。信念があるというか我が強いだろ」
(まあ、信念があるという意味ならば、セラフィムも受け継いでいるが)
「子供かと思ったが案外やるな」
 キャンパスから視線を移して、トキワはセラフィムの頭を撫ぜる。
(何だろうな、誇らしい反面無性に……寂しい)
 そんなトキワの心情などいざ知らず、セラフィムはむう、と唇を尖らせた。
(いつになったら子ども扱いされなくなるんだろう)
 そこまで嫌ではないし、落ち付くけれど、それでも。



依頼結果:大成功
MVP
名前:歩隆 翠雨
呼び名:翠雨さん
  名前:王生 那音
呼び名:那音

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月01日
出発日 06月09日 00:00
予定納品日 06月19日

参加者

会議室

  • [5]歩隆 翠雨

    2017/06/08-22:56 

    挨拶がギリギリになった!
    歩隆翠雨だ。パートナーは那音。
    よろしくな!

    クリームか…良い匂いがするぜ(ほっこり)

  • [4]李月

    2017/06/08-18:16 

    李月です、相棒はゼノアス。
    よろしくお願いします。

  • [3]セラフィム・ロイス

    2017/06/08-00:24 

    :トキワ
    まあ、よろしく頼む。トキワとお馴染みのセラフィムだ
    今日は俺の番か。久しぶりすぎるだろ
    ・・・
    またセラ坊は店員に捕まってるし。はあ、まあさっさとすませて目的地に行くか

  • [1]ルゥ・ラーン

    2017/06/05-11:06 

    ルゥとコーディです。
    よろしくお願いしますね。


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