【愛慕】音と花に愛を誓って(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「こんにちわ、ウィンクルムの皆様! 花と音楽の街、イベリン・ウェディング事業部です!」

 ウェディングプランナーの女性が声高々に、歌い上げるように、大きく言葉を紡いだ。
 彼女の後ろに建つのは、由緒正しく歴史ある教会。
 今もモデルの新郎新婦――否、新郎二人が、手と手を取り合い幸せそうに微笑んで、多くの観客からフラワーシャワーを浴びている。

「日頃から、苛烈な戦いに身を投じ我々を守ってくださっているウィンクルム様に特別なキャンペーン! 当事業部イチオシのプラン『擬似挙式』を、今回だけの特別価格でご提供いたしますっ!」

 イベリン・ウェディング事業部の所有するこの大聖堂で行われる『擬似挙式』は、以前からデートスポットの一つとして賑わっている。
 男女、または同性同士、関わらず『擬似挙式』が行える。
 要するに子供同士のごっこ遊びのようなものだが、プランナーが指揮を取るというだけあって、内容は本格的な結婚式そのものだ。

「花畑での愛の契り、大聖堂を使った本格的な結婚式、更にはハルモニアホールを使った音楽に祝福され愛を交わす挙式など、形はお客様次第! お二人の愛を育むお手伝いができるよう、スタッフ一同尽力いたしますっ!」

 今だけの特別なキャンペーン、是非ともお見逃しなく!
 プランナーの女性は満面の笑顔でそう締めくくった。

解説

▼概要
イベリン・ウェディング事業部主催の擬似結婚式を楽しんでください。
形式は基本的に自由ですが、幾つかプラン例として。

1.芝桜に囲まれた花畑での挙式
・花をあしらったタキシードを着用し、中央の台座で神父に愛を誓い合う
・観光地を利用するので、大勢の観客に見守られての挙式となります

2.ハルモニアホールで音楽に祝福される挙式
・黒と白のタキシードを着用し、レッドカーペットを通り舞台上の台座で神父に愛を誓い合う
・入場や指輪交換などの際のBGMを、事業部所有の楽団がその場で奏で、盛り上げてくれます

3.大聖堂での本格的な挙式
・ベーシックな結婚式です
・愛の誓いから指輪交換などの流れを事業部のスタッフがサポートします

サポート対象は挙式のみなので披露宴は行いませんが、式中の流れで手紙を読むだとか、家族や兄弟など見て欲しい人が居る場合は招待しても構いません
タキシードや式の流れに関しても希望があれば添えますので、プランへどうぞ

式の流れは入場→台座で誓いの言葉→指輪交換→キスになりますが、キスまではちょっと…とか、誓いの言葉だけで…という場合も沿います。足りない部分はアドリブになることご了承くださいませ
指輪は、お客様側でご用意いただいても、こちらで貸し出しても構いません

▼参加費用として500jrいただきますが、指輪やタキシードなどの追加徴収はありません

ゲームマスターより

花畑での結婚式をやったことがあるんですが、天候が神頼みだとか強風がすごくてヴェールが顔にかかるとか足場が悪いとか存外ロマンがなかったです
そのあたりはきれいに描写しますんでどなたでもお気軽にどうぞ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  1.芝桜花畑で挙式にするぜ。
テーマは『ウィンクルムらしく!』
観光客への公開イベント的に行くつもり。
挙式衣装はあえてのバトルコーダィネートで。
挙式に相応しい白系装備で揃えたぜ。
軍礼装っぽくていい感じだろ。
すごくウィンクルムっぽくて見てる人も喜ぶんじゃね?
と言う事でこれも広報活動のひとつと思って。
つきあってくれるよな、ラキア(超笑顔

式進行は標準的に進めよう。挙式前にトランスしとく。
病める時も健やかなる時も、生命ある限りラキアを愛し共に歩いて行くと誓うのだ。
指輪交換して、耳元でインスパイアスベル囁いて、キス。
LT発動させて衣装を神々しく変化しクライマックスだ!
戦う以外にスキル使っても良いじゃん!


ユズリノ(シャーマイン)
  この擬似結婚式もイベリンをウィンクルムの愛と絆の力で満たす為の催しなんだね
彼に誘われ(これはウィンクルムの役目だから)と自分に言い聞かせ了承

うん 大聖堂なんて本格的だね
(あ…でもキスはどうするのかな…
先日交わしたキスを思い出し変に意識
聞きそびれてしまった
※白タキシード

場違いな気がして(田舎者気質)式の間ずっとふわふわした心境
シャミィが力強く誓いの宣言するからびくり
疑似体験だと思ってもなんだか本当みたいで嬉しくなってくる
僕だって誓えるよ「誓います

指輪交換
本物だったらいいのに…

誓いのキス
え?
無理しないで 僕は
何で謝るの 僕は嬉しかったし幸せだったよ?
だからもっと…キスしたい

キスを受ける

…僕も


ルゥ・ラーン(コーディ)
  他結婚式見学してほっこり
私達も参加して恋人の指輪を交換しませんか?

プランナーと相談し気楽なフリースタイルで
観光客ギャラリーがいても気にしない
場所 芝桜に囲まれた花畑「美しいですね あなたの様です

衣装
白のシャルワニ
青のシャルワール
ロングベール

先に誓いの言葉
「私の部屋に巣食う『問題』の解決に努める時 事前にあなたの許しを請い行います
彼の宣誓に目を見張る コーディ 
嬉しい顔 ええ 私はあなたのモノです

指輪交換※二人で用意したもの

誓いのキス
緊張で小さく震え 意地悪に焦らされて切ない顔

式終了
あなたのモノである証しですね
指輪にうっとり頬ずり ふふ…
視線流し 愛していますコーディ
不意に おいで と手を引かれる
! 頬染め無言でもたれる


歩隆 翠雨(王生 那音)
  3
白のタキシード
指輪レンタル

可能ならカメラ持参で花嫁目線で写真を撮る
那音の提案、ナイス!こういう目線で撮影できるのって新鮮だ
先に入場する那音の姿をパシャリ(人を撮るには苦手だが那音だけは何故か平気)
絵になるな、アイツ…
バージンロードを歩きながらパシャリ
聖堂の空気までも綺麗で、撮り甲斐アリアリだ

台座も撮影した所で誓いの言葉…って、本当に言うのか?
まあ…うん、疑似だしな
はい、誓います…何だか背中がこそばゆい

指輪交換
緊張で手が震える…余計に恥ずかしいぜ

って、ちょ、そこまではしなくても…

硬直していたら、那音の奴…
そう言われたら何も言えないじゃないか
そして気付く
これって恋人みたいじゃないか…そんなまさか



「……撮影したいなぁ」
 擬似結婚式のお知らせ、と記されたパンフレットを見て。
 神人、歩隆 翠雨がぽつりと言葉をこぼしたのを、精霊、王生 那音は聞き逃さなかった。
「ならば、参加してみよう」
「えっ?」
「花嫁目線で、思う存分写真を撮るといい」
「……付き合ってくれんの?」
 そもそも、一緒に参加するという選択肢が閃かなかったらしい翠雨の意外そうな問いかけに「ああ」と答えれば、ぱあっと瞳に花が咲いた。
 参加したいかどうかではなく、すぐに撮る方向へ思考が向かうのが彼らしい。やる! とはしゃぎたてる相方を複雑な思いで見つめた。
(……擬似とは言え結婚式。俺が内心どんな気持ちで居るのか、翠雨さんには伝わっていないのだろう)
 だが今はそれでいい、と、心の中だけで那音は苦く笑った。

 参加当日――。
 翠雨は白のタキシードに、藍色のアスコットタイ。
 那音は黒のタキシードに、翠雨と同色のタイをチョイスした。
「では、新郎の入場です」
 アナウンスと共に、バージンロードを那音が先導して歩く。
「こういう目線で撮影出来るのって、新鮮だ」
 那音の提案にナイス! と内心ガッツポーズしながら、後ろから一枚シャッターを切る。
 そもそも人を被写体とするのは苦手なのだけれど、何故か那音だけは平気で――というか。
(……絵になるな、アイツ)
 赤い敷き布を歩く姿を横から一枚、膝を突いて見上げる様にまた一枚と、次々シャッターを切っていく。
 聖堂の空気は神聖で美しく、いつもとは違う着飾ったパートナーの姿は撮り甲斐もひとしおだ。
「歩隆さま。誓いの儀式です。カメラは一度、下げて頂いて」
「え」
 台座の撮影を済ませた所で、スタッフがひそりと声をかける。
 撮影に夢中で、これが擬似結婚式であり、彼の相方が自分であるという事をうっかり忘れていた。
「本当に言うのか?」
 躊躇う様に視線を泳がせた翠雨に那音が小さく笑う。
「擬似とは言え、結婚式だ。誓わないと進まないぞ」
「まぁ……うん、そうだな」
 なんとなく腰が引けて居ると、一度、台座前まで進んだ那音が、花嫁をエスコートする様に手を差し出して。
「おいで、翠雨さん」
 後光を浴びた穏やかな微笑みに、一瞬心臓を鷲掴まれた気がした。

「健やかなる時も、病める時も――」
 神父の言葉に、粛々と儀式は進む。
「互いを愛することを誓うか」という問いかけに、例え仮初めだとしても肯定を返すのには、なんだか背中がムズムズとこそばゆい。
「汝は、伴侶、歩隆翠雨を生涯愛すると誓うか」
「……はい、誓います」
 終始躊躇いがちな翠雨とは真逆に。
 隣に立つ翠雨の視線を捉えて、那音ははっきりと言葉を紡ぐ。
 指輪交換を、と神父に告げられ、互い向き合った。
「翠雨さん、左手を」
「……お、おう」
 緊張で指先が震えて、余計に恥ずかしい、と早まる鼓動を必死に抑え込んでいると。
 動揺を落ち着けるように、那音の手が、翠雨の指先をすくいあげた。
(……借り物の、指輪だが)
 互いの指にはめられるのを見ると、不思議と独占欲が満たされる。
 彼は自分のものであるという証。
「では、誓いのキスを」
 淡々と放たれた言葉に、えっ、と翠雨の肩が跳ねた。
「そ、そこまでは、しなくても……」
「初めてじゃないんだ。構わないだろう?」
「っ……」
 顎をくい、と持ち上げられ、なんでもないように言われてしまえば返せる言葉が見つからない。
 顔が近づいて――唇が触れ合う直前、翠雨がぼそりと言葉を落とした。
「……そう言われたら、何も返せないじゃないか」
「ああ。分かってて言ったんだ」
 瞠目した翠雨の反論は、キスの中に吸い込まれた。
 先日のように、情熱的なそれではなく、触れてすぐに離れるだけの、形式だけのキス。
 まるで恋人同士みたいだ、と気づいてしまえばどうしようもなく、顔を離した時、翠雨の頰は茹でダコのように紅潮しきっていて。
「っぷ、くくくっ……!」
「っな、なおと! おまえなっ!」
「っはは……! いや、すまない」
 この間の、仕返しだよ。そう告げる那音に、意識していたのが自分だけではなかったと思い至り、余計にいたたまれない。
「~~っ! も、もういいだろ!? これで終わりだよな、俺はもう少し写真撮ってくるから!」
 こらえきれないといった様子で声を立てて笑う那音からは、逃げるように背を向けて、撮り残した風景にレンズを向け始めた。
「お疲れ様でした。お二人とも様になってましたよ。こちら、記念のお写真のプレゼントです」
 まとめて手渡された写真を、那音はぺらぺらとめくって。
 その中の一枚に、ふと手が止まった。
「良い顔をされていますね、歩隆さま」
 スタッフの声に、思わず那音は口元を抑える。
 被写体として映されている時は翠雨の事は見えていなかったから、何も意識していなかったけれど。
 バージンロードを歩く那音を、レンズ越しに見つめる翠雨の表情が、あまりにも。

(……なんて顔だ。まるで)

 恋を、しているかのような。


「いいですねえ……皆、幸せそうで」
 他のホールで行われている結婚式や、受付の大きなモニターに流れるスライドショーを見遣っては、ほっこりと表情をほころばせるのは神人、ルゥ・ラーン。
 対し、隣を歩く精霊コーディはさして興味もなさげに「結婚なんてピンと来ないよ」とぼやき、待合の上質そうなソファへどかりと腰掛けた。
「私達も参加して、指輪を交換しませんか?」
「ええー……、面倒臭いなぁ」
「まぁそう言わずに。……折角」
 恋人にして、頂けたんですから。
 少しだけ頬を染めてそう告げ、指先を胸の前でもじ、と絡み合わせるルゥ。
「指輪があっても、いいと思うんです。あなたの服飾にも、似合いそうですし……」
「……そうまで言うなら」
 気は進まないが恋人が積極的なのは悪い事じゃない。
 渋々ながら、パートナーの申し出をコーディは了承した。

 プランナーに相談し、とんとん拍子に話は進んだ。
 場所は一例にと提案された芝桜の花畑に、気軽なフリースタイルで。
 観光客ギャラリーが居ても気にしない。開放的なディアボロであるコーディも「むしろ多い方がいい」と賛成した。
「コーディには、そういった配色がよく似合っていますね」
 互い選んだ衣装に身を包み、迎えた擬似挙式の開始地点で。
 初夏の風が吹く快晴の下、緩く巻かれたターバンの巻き端がなびく。
 正装である白のジョードプリに紫のシャルワール、シャラリと輝く金色の装飾品に身を包んだコーディは、普段の奔放さとはまた違った一面をルゥに見せてくれる。
「君も、よく似合ってる」
「ふふ、ありがとうございます」
 白のシャルワニと青のシャルワールに身を包んだルゥが、口元に手を当てて微笑む。
 梳ける空色のロングベールが風になびいて揺れた。
「ママー! あのひとたちきれい!」
「まあまあ。モデルさんかしら」
 ギャラリーの声を受けて、ルゥの腕を引いて組み「みんな君を見てるんだよ」とコーディが耳打ちすれば「あなたのことでしょう」とくすくす笑って、仲睦まじい二人を見た女性客たちがまた頬を赤らめてはきゃあきゃあと騒いでいた。

 花のあしらわれたアーチはバージンロードのかわり。
 花畑の中心へ設置された台座へと、観光客らが見守る中で、足並みを揃えゆっくりと進んだ。
「では、誓いの言葉を」
 神父が問う。病める時も……等と言った堅苦しい宣誓を二人は選ばなかった。
「私は、私の部屋に巣食う『問題』の解決に努める時、事前にあなたの許しを請い行います」
 先制して誓ったルゥの言葉。それは先日、二人が恋人となったあの日の事を示している。
 それに気付いたコーディが「そう来たか」と言って、小さく笑う。
「是非そうしてよ。そうそう死に掛けられてたら僕の心臓が足りない」
「ええ、反省しました。だから今日、あなたに誓います」
「いい心がけだね。……それじゃあ、僕も」
 一人で抱え込ませず、解決に向け協力する事を惜しみません。
 誓いに対する返し言葉。ルゥがは、と目を瞠った。
「……幽霊とはいえ、よその精霊に知らない所でちょっかいだされるのは嫌なんでね!」
 ふん、と鼻を鳴らす音まで聞こえそうな勢いで言い放った精霊に、ルゥは表情を綻ばせた。
「君は、僕の神人だ」
「……ええ。私は、あなたのモノです」
 向かい合って、コーディの指先がルゥの左手を捉える。
 薬指に、二人が自前で用意した結婚指輪がそっとはめられた。
 誓いのキスをという進行に従い、躊躇いなくコーディが顔を寄せると、ルゥの腰が僅かに引けた。
 恥じらい、いつもの余裕がなくなる様は妙に可愛らしく、興奮する。
 逃げる腰を引き寄せて、伏せた睫毛で、じぃっと恥じ入る表情を観察して。
 いつそれが降りてくるのかと、焦らされて切なげな顔をした瞬間、不意打ちの様に唇を重ねた。
「ん、……コー、ディ」
「まだだよ」
「えっ……!」
 形式上のキスだと言うなら、一度唇を触れ合わせるだけで構わないのに、角度を変えて逃げる唇をコーディは奪う。
 逃げ腰を引き寄せ密着した体、合間に漏れ出る吐息――やがてルゥの体が完全に弛緩した所で、解放してやった。
「どうだった? 誓いのキスは」
「……身が持ちませんね。徐霊とは、別の意味で」
 腰が砕けて脱力したルゥを、したり顔で支えてやり。
 ギャラリーの冷やかしと歓声に、コーディは手を上げる事で応えた。

「まだ見てるのかい、それ」
 式が終わっても、待合のソファへ腰掛けていつまでも指輪を見つめ続けているルゥに、隣へ座ったコーディが声をかけた。
「綺麗だな、と思いまして」
「二人で見立てたんだ。質の低い物である訳がない」
「ええ。あなたの物である証です」
「……そういうことサラッと言うね君」
 うっとりと指輪に頬ずりするルゥが、夢見心地のままそんな事を言うものだから些か気恥ずかしい。
 視線を指輪からパートナーへ移し、更に「愛してます、コーディ」とルゥが告げれば、不意においで、と手を引かれた。
「あいつらは、僕らの絆に怯むんだろ?」
 胸板へ引き寄せられ、見下ろしてくる瞳の色に、心音も体温も跳ね上がった。
「――初夜、してあげる」
「……!」
 低く囁かれた言葉の意味に、ルゥが気付かないわけがない。
 火がついたような揺れる瞳に、芳しい色香を匂わせて。
 ルゥは無言でコーディの肩にもたれかかり、そっと指先を絡めた。


「この擬似結婚式も、イベリンをウィンクルムの愛と絆の力で満たすための催しなんだね」
 神人ユズリノが、プランナーから渡されたパンフレットを見ながらぽつりと呟く。
「そうらしい。三番でいいか?」
「うん、大聖堂なんて本格的だ……あ、でも」
「ん? 何か、気になるか?」
「い、いやっ。なんでもないよ!」
 ユズリノと、その精霊シャーマインが交わす会話に。
 プランナーの女性が、こちらのプランでご用意いたしますね、と笑顔を浮かべた。

 先日、シャーマインは大失敗をした。
 成り行きでユズリノとキスをし、謝らせて、あまつさえ泣かせてしまった。
 何をしているんだ俺は、と自責の念に加え、翌日にはいつもどおり笑ってくれる彼の優しさが余計居た堪れなかった。男として、情けない。
(……今更かもしれないが)
 偶然目に留まった擬似挙式のパンフレット――そこにある『誓いのキス』というフレーズに。
 任務として勧められたからとかなんとか理由を取り繕って、誘ってみたというわけだ。

「白のタキシード、様になってるな」
 黒のタキシードに身を包んだシャーマインが素直に賛辞を口にすると、着慣れない正装にユズリノは照れて頬を掻いた。
 なにぶん田舎者気質。場違いな気がして、式が始まってもどこか自分事ではない様な、ふわふわとした心地で居たのだが、式が進むにつれてふと頭の片隅に引っかかっていた事を思い出した。
(……キス、どうするのかな)
 打ち合わせの時に言おうとして、聞きそびれてしまった。
 先日、喫茶店で交わしたキスを変に意識してしまう。
 擬似挙式の誘いを受けたとき、ウィンクルムの役目だから、と自分に言い聞かせることで了承した。
 形だけでも愛を誓えることが、素直に嬉しかったから。
「汝、病める時も健やかなる時も――」
 誓いの言葉は神父への返答式。
 問いかけに、ユズリノをじっと見つめたシャーマインが「誓います」と、力強い口調で言うものだから、一瞬呆けたように目を丸くしてしまった。
(ああ、誓えるとも……俺は本当に、リノを愛しているんだ)
 声を大きく宣言した事で――シャーマインの中でも、その事実を再認識することが出来た。
 真摯な瞳に見入るほど、じわじわとその言葉が胸に染みるようで。擬似体験なのに、真実の言葉に思えて、ユズリノは嬉しくなる。
「汝、ユズリノは、伴侶に尽くし生涯添い遂げると誓えるか」
「……誓います」
 穏やかな微笑みと共に告げられた言葉を、シャーマインは噛みしめるように聞き届ける。
「では、指輪交換を」
 結婚指輪は借り物だ。いつか本物を、と心に誓い合い、互いの指にそっとはめる。
 粛々と式は進行し、ついに誓いのキス、という場面になって。
「……しても、いいか?」
「え?」
 シャーマインの問いかけに、ユズリノがきょとりと目を丸くする。
 お互い確認を取り合ってはいなかったけれど、擬似結婚式というからには、形式だけでも当然するものかと思ってもいた。
 この期に及んで、あえて確認してくるという事は――もしかしたら。
「……む、無理、しなくていいよ? 僕は、なくても別に……」
 問う言葉を、後ろ向きに捉えたユズリノがごまかし笑いを浮かべるが、シャーマインはゆっくり首を横に振る。
「無理なんかしてない。この前も、この間も」
「……!」
 先日の一件を、意識していたのが自分だけではなかったと知って、ほんのり胸の奥が熱くなる。
「リノが健気で、可愛くて……俺の理性が崩壊したんだ。俺が、したくてした事だ」
 ちゃんと謝れなくて、すまなかった。
 その言葉に、今度はユズリノがぷるぷると慌てて首を振った。
「なんで謝るの。僕は嬉しかったし。幸せだったよ?」
「無理して、応えてくれたんじゃ」
「そんなこと! 僕だって……したくて、シャミィにキス、したんだ」
 だから――もっと、キスしたい。
 躊躇いがちに、けれども意を決した様な、必死な眼差し。
 シャーマインの指先が、ユズリノの頰に添えられた。
「……それなら、良かった。安心して、リノに触れられる」
 緊張の面持ちが解けて、ふわりと微笑んだシャーマインに見惚れた瞬間、唇同士がそっと重なる。
 優しく触れただけの口づけはすぐに離れて、代わりにコツンと額を合わせて。
 間近にあるユズリノの表情が、あまりに幸せそうで、つられたようにシャーマインも頰を染めた。
「……もう一度、して、いい?」
 ユズリノの言葉に、え、と答えた時には、ほんの少し背伸びをした彼からのキスを受けていた。
 それもまた、すぐに離れて。けれども先日の様ないたたまれなさや緊張より、新しく芽生えた気持ちがシャーマインの心を埋めていた。
(リノとのキスは気持ちいい。……やばいな、これは)
 口元を抑え、何かをこらえる様なシャーマインとは対照的に、ユズリノは照れたように、けれども嬉しそうにはにかんでいた。


「お似合いですよ、ラキアさま!」
「……ど、どうも」
 プランナースタッフの賛辞にも、気恥ずかしそうに頰を掻くのは精霊、ラキア・ジェイドバイン。
 身を包んでいるのは聖鎧、見た目は聖ローブのような出で立ちだ。
「……確かに、かっこいいとは思うけど」
 似合ってるかな、と躊躇いがちに姿を見せたラキアを、パートナーである神人、セイリュー・グラシアが視界に認めて、満足そうに笑った。

 おおよそ結婚式の服飾とは思えない装備を提案したのはセイリューだった。
 テーマは何より『ウィンクルムらしく』! 観光地として有名な芝桜畑を選んだのもその一環で、一般人たちへのイベント的な意味合いで行う想定には、芝桜畑の管理人も宣伝になると言って大いに喜んだ。
 挙式衣装はあえてのバトルコーディネイトでと、結婚式に相応しい白系装備を、互い自前で仕上げてきた。
「軍礼装みたいでいい感じだろ。ウィンクルムっぽくて、見てる人も喜ぶんじゃね?」
「た、確かに、セイリューすごくかっこいい……けど」
「いいじゃん、広報活動の一つだと思って」
 付き合ってくれるよな、ラキア?
 超がつくほど満面の笑顔で爽やかに言ってのけるセイリューに、この期に及んでは駄目押しの如く、ラキアも乗せられてしまった。

(うまく言いくるめられた気がする……)
 擬似挙式とは言えど、心の準備はまるで出来てない。
 バトルコーディネイトでの挙式という案が純粋に面白そうで、つい自分も承諾してしまった以上後には引けない。
 式会場となる芝桜畑へ立つと、観光客らの視線が一斉に二人へ向けられて、う、と尻込みした。空は快晴、花は九割咲。どこを向いても見頃真っ盛りを迎えている。
「行こうぜ、ラキア!」
 いつもと変わらない、無邪気な笑みを浮かべて手を差し出してくれるセイリューに、少しだけ肩の力が抜けて、緊張が和らぐ。
 本番にも全く動じないパートナーの神経がこんな時ばかりは羨ましく、頼もしかった。

 式進行は標準的な結婚式と全く同じ様式で執り行われた。
 ただ他と違った事は、挙式の事前にトランスを済ませておいたということ。
 バージンロードである花のアーチをくぐる合間にも、トランスの光がキラキラと光って薄紅色に美しく映える。
 大勢の視線に固くなっていたラキアの体も、一歩地面を踏みしめるたびにほぐれていくようだった。
「健やかなる時も病める時も、共に歩み、添い遂げると誓うか」
「ああ、命ある限り、ラキアを愛し共に歩いて行くと誓うぜ」
 てらいなく言ってのけるセイリューを横目で見遣り、ラキアも同じ様に神父の言葉へ誓いを返した。
 羞恥心は、イベントだと思う事でなんとかやり過ごした。

 指輪交換を終えて、いざ誓いのキス、となったとき、不意にセイリューがラキアの耳元で囁いたのは、彼が自ら定めたインスパイアスペル。
 その言葉に込められた意味を、ラキアは既に知っている。戦いで汚す手も、責任も、全部セイリューが負うと決めた。
 生物や、何かを傷つける事に躊躇う――戦いには向かないラキアのやさしい心が、壊れてしまわないようにと。
 そしてラキアに出来る事は、きっと。そんなふうに強く、心根の澄んだ彼の往く道を切り開き、守り、隣に寄り添っていくこと。
 今一度、二人の絆を確認するこの場所で、守るべき全ての者達へ誓うように。

『滅せよ』

 口付けの瞬間、ごう、と大きく風が起こり、二人を中心に一際強い光の柱が立ち上がった。
 トランスした状態から行う上位トランス――らぶてぃめっとトランスが発動したのだ。
「すごい! なんてきれいな光なの」
「これが、私たちを守ってくれている輝きなのね……!」
 観光客達から一斉に拍手が起こる。舞上げられた芝桜の花びらがフラワーシャワーのように舞って、ギャラリーもスタッフ達もうっとりとその光景を見上げた。
 視線を主役の二人に戻せば、花の雨を浴びたセイリューとラキアの服装は、更に神々しいものに変化していた。
「すごいな、ラキア! どんな敵が来ても、絶対に負ける気がしない、って気持ちになれる」
「うん、そうだね。戦闘以外でこれを使う日が来るなんて、思ってもみなかったけれど」
 ラキアが苦笑すれば、セイリューは悪戯っ子のような笑みを浮かべて。
「戦い以外で、スキル発動させたっていいじゃん!」
 そう言ってのけるから、つられたようにラキアも笑って「確かにその通りだ」と返した。
(――なんだかほっとする。平和だなぁって、実感出来る)
 戦いの為に生まれた、何者にも屈さない絆の光。心の底からこの光景を素敵だと思い、安堵する自分が確かにいる。
 願わくば、戦いにおいてこの力を使う機会よりも、こんな何気ない光景を目にする事が多くできるようにと願い、そっとパートナーの肩に体を寄り添わせた。



依頼結果:成功
MVP
名前:歩隆 翠雨
呼び名:翠雨さん
  名前:王生 那音
呼び名:那音

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: ジュン  )


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月29日
出発日 06月05日 00:00
予定納品日 06月15日

参加者

会議室

  • [4]ユズリノ

    2017/06/04-22:53 

    ユズリノとシャーマインです。
    よろしくお願いします。

  • [3]歩隆 翠雨

    2017/06/04-00:28 

    歩隆 翠雨だ。パートナーは那音。
    よろしくな!

    俺達は大聖堂の方へ行く予定だ。
    ワクワクするぜ…!(←写真を撮る気満々)

  • [2]ルゥ・ラーン

    2017/06/01-15:09 

    ルゥ・ラーンとパートナーのコーディです。
    よろしくお願いしますね。


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