【愛慕】花が知らせる秘密の欲望(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 蜂蜜専門店『スウィーティ』は、イベリンの片隅にできたばかりのお店である。
 店内では、蜂蜜をふんだんに使ったスウィーツが食べられる……と思いきや。

「え? これだけですか?」
 あなたはメニューリストを手に、ついそう口にしてしまった。
 そこに書かれていたのは、たった一品。
『蜂蜜入りの紅茶、スウィーティ』だけだったのだから。
「しかもこれで300jrって……」
「高くないよ、お嬢さん」
 蜂蜜色の髪をした店主が、にこりと笑う。
「これは僕が長年研究してきた、不思議な蜂蜜を使っているんだもの」
「不思議な蜂蜜?」
 首を傾げるあなたの襟もとに、店主は花のコサージュをつけた。
「そう、この蜂蜜紅茶を飲むと、その白いコサージュの色がだんだん変わっていくことがあるんだ」

 店主の説明は、こうだ。
 蜂蜜紅茶を飲んだ人が、特別な花飾りをつけた場合。
 その花の色は、最初、純白。
 次第に、桜のようなピンク色に変わっていって。
 最後には、血に染まった薔薇よりも赤い色になる。

「それは、あなたの欲望の強さをあらわしているんだ」
「欲望……!」
 隣で黙ったきりのパートナーをちらと見やる。
 店主は、ははは、と声を立てて笑った。
「安心して。別に危険なものは入っていない。あなたが本来持っている欲望を、明確に示してくれるだけだよ。……ああでも、ちょっと体が熱くなるかもしれないから、念のため部屋に案内しようか」

 さあ、あなたは不思議な蜂蜜紅茶、スウィーティを飲んだ。
 花のコサージュもつけていて、パートナーには気持ちがばればれだ。
 どうなる?

解説

蜂蜜入りの紅茶、スウィーティは、おひとり分300jrです。
神人と精霊、どちらが飲んでも、両方飲んでも構いません。
飲んだ方のプランの頭に 飲 と記載してください。

二人が案内されたのは、四畳半ほどの広さの個室で、二人掛けのソファとテーブルがあります。普段は店主が休憩に使っている、シンプルなお部屋です。

花は今回コサージュになっていますが、花を使った飾りならなんでも大丈夫です。
なんなら、花一輪持っている設定でもOKです。
各ウィンクルムにあわせて、お好きな形を選んでください。

花が示す欲望は、体がどれだけ相手を求めているかということ。
触れたい、触れられたいという思いが強ければ強いほど、色は赤に近くなるでしょう。
触れられたい、けれど、緊張する。こわい。などの場合は、赤白まだらになるかもしれません。
まったく興味がないのなら、白のままです。
一応、ピンクでキスくらいをイメージしています。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
普段は見えない相手の気持ちが、視覚化してしまったらどうなるでしょう?
花の色が変わらず落ち込むもよし、変わって動揺するもよし。
もしご希望でしたら、皆さまのプランにお砂糖をたっぷりかけさせていただきます。
プランより一歩進んだアドリブ希望の方は、プランの頭に ☆ をつけてください。

ご縁がありますよう、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

鞘奈(ミラドアルド)

 

(心の色がでるなんて困る)
(まずはミラに味見させて様子を見ましょう)

じーっとミラの持つ花を見つめる
あ、染まってきたわ
(ミラも目を閉じてじっと考えてる。そういうのに反応するのね)
(まつ毛、長い)
(黙ってれば王子様、なのよね)

狼狽えるミラにくすっと笑って
何を考えてたのか知らないけど、私のことじゃないわよね

(自分のことと言われ)
な、ば、……っ!
そ、そんなにはっきり言わなくても
(顔真っ赤にして)
ああ、もう変なことじゃなければいい
…変なことじゃないわよね?

…やっぱり一つ、教えて
私と、何したいの?

(叶えるかは秘密。
ミラとそういう関係になってもいいって思える日がくるなら)
(ほっぺにキスくらいなら)


ロア・ディヒラー(クレドリック)
  ☆飲
最近学校とかで忙しくて、こうしてクレちゃんとゆっくりしていなかったから久々に。…ちょっとクレちゃんに友だちとは違う変なドキドキを感じるから、無意識に避けてたのかも。でも会えないのも寂しいし一緒にお店に来たんだけど
(え、ちょっとそんな効果のあるお茶だったなんて聞いてない!)
薔薇のコサージュ。花の色は赤白まだらになる
「これには多分深い意味は!…?クレちゃんの赤い…」
「そ、そんなことぜんっぜんないから…だからそんな悲しそうな顔しないでよ。私の気持ちの問題だから…変に意識して緊張しちゃってたけど、こうやって久しぶりに一緒にいると、なんか心が温かくなって、楽しいし!」
抱きしめられて驚きつつ頭を撫でる


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
 


花は髪飾りに

婚約指輪のサイズ直しの帰りに寄ってみた

欲望を示す、との説明聞いても不思議と嫌じゃない
ちょっと恥ずかしいけど、レムになら知られても構わないと思う
…以前のあたしなら、媚びたり甘えたりはしても相手に本音は見せなかったかも
というわけで、レムとなら飲めるわ
飲むと濃いピンク色に変わり

で、レムは飲まないの?
すごく美味しいわよ
あたしにだけ恥をかかせるつもり?
ふふ、あなたも同じ気持ちでいてくれたのね

唇に指を当てて遮り
確かに最初の頃は堅物のあなたをからかうのが楽しくて煽ったこともあったけど、今は違うわ
つられるように真っ赤になっていた自分の花に触れ
あたしだって、同じくらいあなたと触れ合いたいんだから


イザベラ(ディノ)
  飲☆
共にコサージュ

【背景】
甘味好きの精霊(熊だから蜂蜜が好物だろうという安易且つ勝手な考え)の為に連れてきた。

【紅茶】
説明を受けても特に思う事は無いらしく躊躇なく飲む。

【自分の色】
純白。
自らの色に悪びれる事も無く、堂々としたもの。

【相手の色】
(成程、これならば今後は身体的接触を増やせば効率的に愛を深められるな)
(中々便利な道具だ)
恥じて落ち込む相手の様子に、その心情は全く理解出来ないが、落ち込んでいるのならば何か言ってやるのが礼義、と。
「意欲的で大変宜しい」
「………まぐわ」

【行動】
手を繋ぐ。
「嫌だったか」
微妙な反応に(触れて欲しいのでは無いのか?)
(………こいつの手は温かいのだな)


●染まるもの、花、頬、唇 ~鞘奈とミラドアルド
「サヤナは飲まないのかい? ……いい香りなのに」
 ミラドアルドはそう言って、紅茶が入った白いカップに唇をつけた。
(どうしてそんな平気な顔をして飲めるの)
 彼の喉がごくりと動くのを、鞘奈はじっと見つめる。
 甘い香りの紅茶に、興味がないわけではない。
 でも、心の色が出るなんて困るのだ。

「あ……おいしい」
 ミラドアルドが呟くと、鞘奈の黒い目が、ぱちりと一度、瞬いた。
 胸のポケットにさしていた白い花を抜きとり、手に握る。
(僕の心はどんな色だろう、なんてちょっと半信半疑だけど)
 そう、半分信じていないから、あっさり紅茶を飲むことができたのだ。
 でも、もし聞いたことが本当だったならという気持ちを込めて。
 ミラドアルドは、目を閉じる。

 花は、まるで赤い絵の具を吸ったように、じわじわ色を変えていった。
「あ、染まってきたわ」
 呟いた鞘奈の視線は、自然と花からミラドアルドの顔へ。
 白い肌、柔和な表情、滑らかな唇。
 目を閉じているため、若葉の瞳は隠れているが、それを縁どる金の輝きは、よく見えた。
(まつ毛、長い……黙ってれば王子様、なのよね)

 ミラドアルドは目を閉じて、ただ自分の想いに耳を傾けている。
(サヤナに触れてみたい……艶やかな黒髪に、いつも固く結ばれた唇に)
 どこかから、もう一人の自分の声が、聞こえてきた。

『手に触れたのが精いっぱいなのに?』
 そうだ、とミラドアルドは答える。
(手は絹のように滑らかで……ああ、やっぱり触れたいな)

『でもサヤナは我が強いから、もし拒まれたら?』
(立ち直れないかもね)
 答えながら、苦笑する。
 ただ、たとえ鞘奈の想いがどうであれ、彼女を望む気持ちは変わらない。

(いつか、承諾を得ることなく触れることができる日がくるだろうか)
 自問の答えは、もちろん。
(――きてほしい)

 目を開けたミラドアルドの目の前。
 花は、美しく色を変えていた。
 ただし、赤いのは花の中ほどまで。花弁の縁は、真っ白だ。
「はは、けっこう染まった……ね?」
「そうね」
 鞘奈はくすりと笑った。
 ミラドアルドの頬が、一気に花と同じくらいの色になる。
(染まるのが恥ずかしいなら、紅茶を飲まなければよかったのに)

(その余裕の笑顔は、どんな意味なんだろう? 僕がこんな想いを抱えていても、サヤナは……)
 ――と、鞘奈が無邪気に口を開いた。
「何を考えてたのか知らないけど、私のことじゃないわよね」
「あ……」
(そうか、サヤナは、僕がサヤナのことを考えてたって知らないのか……)
 はっきり言えば、ちょっとがっかりしたけれど、それならそれで――。
 ミラドアルドは笑顔を引き締め、真剣な眼差しで、鞘奈を見つめる。
「そうだよ、サヤナのことを考えて花を持った」
「な、ば、……っ!」
 今度頬を染めるのは、鞘奈の番だ。

「そ、そんなにはっきり言わなくても」
 いきなり全身が熱くなり、心臓がばくばくと鳴りだした。
 何をどう考えたのか、とても気になる……けれど、そんなの聞けるわけがない。
(だってなんて聞けばいいの? 私と何をしたいのって? そんなの無理に決まってる!)
 もういっそ、変なことじゃなければ構わないと結論を出しかけたところで……はたと。
「……変なことじゃないわよね?」
 窺うように顔を見られて、ミラドアルドはにこりと微笑んだ。
「もちろん」
(大事な人に触れたいと思うのは、当然のことだよね)
 しかし鞘奈は、納得できない顔のまま「やっぱり」と質問を投げかけてくる。
「一つ、教えて。私と、何したいの?」
「それは――」
 ミラドアルドは鞘奈の耳に唇を寄せた。
 音を耳に届けた途端、鞘奈の目が見開かれる。
(ミラとそういう関係になってもいいって思える日がくるなら……。そうたとえば、ほっぺにキスくらいなら、今だって)
「……しても、いい?」
 問われたところで、答えられるはずもなく。
 鞘奈は一度伏せた瞳を上げて、ミラドアルドが持つ花に、そっと手を添えた。

●触れぬ仲にも愛はある ~イザベラとディノ
「ディノは飲まないのか」
「俺は結構です」
「なんだ、甘い物が好きだから連れてきたのに」
「えっ、でも……」
「熊は蜂蜜が好物だろう?」
「熊……? 俺、熊ですか?」

 面喰らいつつ、ディノはため息をつく。
 目の前にはほこほこと湯気を立てる紅茶のカップ。
 イザベラがせっかく自分のために(そうだ自分のために!)ここを選んでくれたかと思えば、飲まないわけにはいかない。
「ほら」
 ディノは、イザベラが差し出してくるカップを、渋々受け取った。
 邪気も疑いも全くない、いつだってまっすぐなイザベラの瞳を見やる。
(もうどんな色に変わっても知りませんからね! 引かないでくださいね!)
 胸の内で告げて、ディノはカップの紅茶を飲みほした――。

 紅茶を飲んだ後も、イザベラの胸についたコサージュは、潔いくらい真っ白だ。
 花びらのどこにも変化はなく、赤い色はまったく見つからない。
「…いや、まぁ、知ってましたけどね」
 ディノはぽつりと呟いた。
 どうせ白だろう、でも最近ちょっと良い感じだし、殆ど白だろうけど良く見たら薄っすらと極僅かに赤みが有るかも……とか何とか思っていたけど、そんなことは全然無かった。
 はあ、と肩を落とすディノに、イザベラが言う。
「お前のコサージュは、見事に染まっているな」
「え?」
 相手のものばかりに夢中になっていた、と、ふと胸元に視線を落とし。
 ディノは、花と同じスピードで頬を染めた。その目には、次第に涙が溜まっていく。
(死にたい……)
 どうしてこんなにはっきり赤く染まるのか。
「ああ、なんて酷い辱めだ」
 思わず声が出た。
 イザベラがどんな反応を見せるだろうと思って様子を窺えば、彼女はなにやら納得したようにうなずいている。
(成程、これならば今後は身体的接触を増やせば効率的に愛を深められるな)
 彼女は、もとから赤かったかと思えるほどに美しく染まった花を見た。
(中々便利な道具だ)
 しかし外見には見せずとも、上機嫌のイザベラに対して、ディノは明らかに落ち込んでいる。
(別に恥じる必要などないというのに)
 どうして彼が思い悩むのか、イザベラには全く理解はできない。
 だが傍らで肩を落としている相手を前にすれば、何かを言ってやりたいと思うもの。
 彼女はディノの肩に、とん、と手を置いた。
「うわっ!」
 はじかれたように飛びのいて、驚きイザベラを見つめる彼に、一言。
「意欲的で大変宜しい」
 イザベラは、ほら、と手を差し出した。
 意味がわからずきょとんとするディノに、一歩近づいて、その大きな手をぎゅっと握る。
 ディノは身を硬くして、息を止めた。
 繋がっている手が、ぶるぶると震え出す。
 イザベラは、ディノの顔を見つめた。
 真っ赤に染まったままのそこに笑顔はなく、ただ潤んだ眼をぱちぱちと瞬いているだけ。
(触れて欲しいのでは無いのか?)
 だったら、離したほうが良いだろうか。
 思うも、実際にそうするのは、少々惜しい気がした。
(………こいつの手は温かいのだな)
 さら、と指先で手の甲をなぞられて、ディノの鼓動は跳ねあがった。
 全身を巡る血液がいっきに、イザベラと繋いでいる手に集まっていく。
 動揺し困惑している自分に対し、落ち着いた様子のイザベラを見て、ディノはふと不安を感じた。
 さっき、イザベラのコサージュは、彼女のまっすぐな精神そのままを表したかのような、純白だった。
 だから自分に望みはないのではないか、とちらっと思ったけれども。
(この人に接触欲求が無いだけで、別に愛されていないなんて事は…無い、…筈)
 握り返せない手のひらに、ひんやりとしたイザベラの体温が伝わってくる。
 固まったままのディノに、イザベラが問いかけた。
「嫌だったか」
「……嫌じゃ、ないです」
 ディノは答え、ゆっくりと指先を曲げて言った。
 その手はまだ震えていたけれど、大丈夫、愛されている、と内心で自分に言い聞かせて。

●染まる花、想いは同じ ~出石 香奈とレムレース・エーヴィヒカイト
「これで、指輪を指にはめられるようになるな」
 レムレース・エーヴィヒカイトはほっと安堵の息をついた。
 出石 香奈が、左手薬指にぴったりとはまった指輪を見て、くすりと笑う。
「でも、仕事中は今のまま首に下げておくわ。汚れてしまわないように」

 婚約指輪の、サイズ直しの帰り道。
 香奈の黒髪を彩るのは、真っ白な花の髪飾りだ。
 そして、レムレースの胸元では、同じ花で作られたコサージュが揺れている。
(お揃いの花の髪飾りとコサージュなんて……これだけ見ると、まるで結婚式みたい)
 香奈はレムレースの胸に視線をやって、ふふ、と笑った。
「香奈はずいぶん楽しそうだ」
「あら、レムは楽しくないの?」
 聞けばレムレースは、ちょっと複雑な顔をする。
 今手に持っている紅茶が、欲望を示すと聞いたからかもしれない。
 だが香奈は、その説明を聞いても、不思議と嫌ではなかった。
(ちょっと恥ずかしいけど、レムになら知られても構わないわ)
 もし、これが以前の香奈ならば、媚びたり甘えたりはしても、相手に本音は見せなかっただろう。
「あたしは、レムとなら飲める」
 香奈は彼の顔をちらと見て、躊躇わずに、カップに口をつけた。

「あ……」
 自分が躊躇っている間に、香奈が紅茶を飲んでしまった。
 レムレースは、わずかに目を見開いた。
 この潔さが、香奈だなあと思う。
 染まった花は、淡いピンク。
(嬉しいような、戸惑うような)
 思わず、苦笑する。
 香奈の花は髪についているから、彼女には色が見えないだろう。
 だが、レムレースの表情から、香奈は何かを察したらしい。
「で、レムは飲まないの? すごく美味しいわよ」
 と、紅茶のカップを胸元に押し付けてくる。
「まさか、あたしにだけ恥をかかせるつもり? そんなことしないわよね? 当然レムも飲むわよね?」
(このグイグイ来る感じ…出会って間もない頃のようだ)
 レムレースはカップを受け取り、中で揺れている甘い香りの紅茶を見つめた。
 ちらと視線を上げて香奈を見れば、彼女は平然と、レムレースの挙動を観察している。
 このまま何もせずにいれば、きっと「ほら早く」と声が飛んでくるだろう。
 どんな色に、どれほどのスピードで変わったとしても、これが自分の本心だ。
(ええい……ままよ!)
 レムレースは観念して、カップの紅茶を飲み込んだ。
 と、胸の上で、花はみるみる真紅に染まっていく。
「……だから飲みたくなかったんだ」
(俺は決して安全な男ではない。香奈が思っている以上の欲望を秘めている。だから……)

 しかし香奈は、レムレースのコサージュを見て、ふふ、と嬉しそうに笑った。
「あなたも同じ気持ちでいてくれたのね」
 彼女の細い指が、レムレースの胸元に伸びる。
 それが触れる前、レムレースは一歩、引いた。
「香奈、あまり……」
 煽るな、と言おうとしたところに、香奈の指は、レムレースの口元へ。
 それはとん、と柔らかい唇に触れた後、香奈自身の髪を指さした。
「見て、レム」

 そこにはいつの間にか、レムレースのコサージュと同じくらいに染まった髪飾りがあった。
「確かに最初の頃は堅物のあなたをからかうのが楽しくて煽ったこともあったけど、今は違うわ」
 香奈が、自らの髪から、髪飾りを外す。
 そして見事に赤く染まったそれを、レムレースに差し出した。
「あたしだって、同じくらいあなたと触れ合いたいんだから」
(……先程迫ってきたのはからかいではなく本当に俺に触れたかったということか)
「……ならもう、遠慮はしない」
 レムレースは香奈の手を握り、引き寄せる。
「この手を、離さなくていいんだな」
「……あら、あたしは明日も仕事に行くわよ?」
 言葉の意味などわかっているだろうに、香奈はそう言って……レムレースの手をぎゅっと握った。

●やっぱり隣にいてほしい ~ロア・ディヒラーとクレドリック
 歩くのは、音楽と花の街イベリン。
 普段歩き慣れた町ではないが、隣にいるのがクレドリックであれば、安心だ。
 ただ、会うのは久々。
 だからこそ、ちょっと意識してしまっている。
(最近学校とかで忙しくて、こうしてクレちゃんとゆっくりしていなかったから……)
 緊張していることにそう理由をつけて、ロア・ディヒラーは、ちらちらとクレドリックを見上げていた。
(……ちょっとクレちゃんに友だちとは違う変なドキドキを感じるから、無意識に避けてたのかも)

 一方クレドリックもまた、ロアから視線が外せずにいた。
 ロアが彼に会うのが久しぶりなら、当然彼もまた、ロアに会うのは久方ぶり。
(ロアがどこに居るのかは、会えない時も自主的に把握してはいたが……)
 だからといってその間、話をしたわけでも、姿を隠れ見ていたわけでもない。
 それでもロアは今、目が合えば笑顔を見せてくれる。
 その表情に、ほっと安堵の息をついた。
(別に、嫌われては居なかったのだな)

 今回、ロアを誘ったのはクレドリックだった。
 会えない時間を埋めるには、声をかけるしかない。
 それで、イベリンにやって来て、二人で紅茶を飲んだ。

 しかし、だ。
 ロアは紅茶の説明を聞くなり、言葉を失った。
(え、ちょっとそんな効果のあるお茶だったなんて聞いてない!)
 聞いていたら来なかったか……と言われれば、もちろん答えはNOではある。
 が、ロアにも心の準備というものがあるのだ。
 一方クレドリックは、あたふたとしているロアを横目に、カップに残った紅茶をじっと見入っていた。
「ふむ……興味深い仕組みだ。どんな色に変わるか興味がある」

 そのうちに、二人の花はどんどん色を変えていき――。
 クレドリックの花の色は黒にも近い、濃い赤に。
 ロアのコサージュは、赤白のまだらになった。
「これには多分深い意味は! ……? クレちゃんの赤い……」
 慌ててコサージュを隠すようにしながら、ロアは、クレドリックの花に視線を止めた。
 正直に言えば、彼の花が、これほど色に変化を見せるとは思っていなかったのだ。
 クレドリックは冷静に、ふむ、とうなる。
「この花は、なかなか正確な答えを出すようだな」
 それから、ロアを見やり。
「前に言ったが、私はロアに執着している。……ここ最近まともに顔を合わせたのはいつだった。私はきみに嫌われたのでは無いかと、思っていた」
「えっ!?」
 ロアは驚き、ぶんぶんと首を振った。もちろん横に、である。
「そ、そんなことぜんっぜんないから……だからそんな悲しそうな顔しないでよ」
「……私は、悲しそうな顔をしているか」
 クレドリックの言葉に、ロアがうんうんと頷く。
「……私の気持ちの問題だから……変に意識して緊張しちゃってたけど、こうやって久しぶりに一緒にいると、なんか心が温かくなって、楽しいし!」
 ロアは、クレドリックを笑顔で見上げた。
 そうだ、一緒にいると楽しい。これが今の気持ちの、すべてだった。
(花の色が変わったのはちょっと恥ずかしいけれど、クレちゃんだって変わったし……)
 そう思えば、別にどうってこともない気がしてくる。
「ロア……」
 クレドリックは安堵の息にのせて名を呼んで、ゆっくりと手を伸ばした。
 ロアが驚かないように注意しながら、その細い体を抱きしめる。
「きみがそう言ってくれると、安心するな」
「そんなに、心配だったの……? ごめんね、クレちゃん……」
 ロアはクレドリックの頭に手を伸ばした。
 とんとんと、まるで子供にそうするように、髪を撫ぜる。
 クレドリックの腕の力が強くなり、ドキドキと激しく心臓が鳴ったけれど、それはあえて無視の方向で。
(だって変な反応したら、クレちゃんまた悲しそうな顔になっちゃったら困るもの)
 だが、クレドリックはロアの動揺に気付いている。
 しかし彼は、彼女を離すことはできなかった。
 なにせ、久しぶりなのだから。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ロア・ディヒラー
呼び名:ロア
  名前:クレドリック
呼び名:クレちゃん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 浅海雅美  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 3 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月29日
出発日 06月06日 00:00
予定納品日 06月16日

参加者

会議室

  • [2]出石 香奈

    2017/06/05-11:44 

  • [1]ロア・ディヒラー

    2017/06/01-13:14 

    初めましての方は初めましてっお久しぶりな方はお久しぶりです。
    ロア・ディヒラーと精霊のクレドリックです。
    クレちゃんと久しぶりにお出かけでカフェに来てみたんだけど…
    不思議な飲み物が出てきてちょっと驚いてます。どうなるのかな…


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