プロローグ
●
「ん……あれれっ?」
夢の中。
これは夢だという感覚が、あなたにはあります。
「私、どうなっちゃったんだろ……?」
あなたは赤頭巾を被った少女に変身していました。
「赤頭巾ちゃん、これをおばあさんの家に持って行ってちょうだい」
そうして、お母さんがあなたにワインとお菓子の入ったバスケットを渡します。
(おばあちゃんの家……? うーん、何か森の中にある気がする……)
夢の中でぼんやりとそう感じ、あなたはバスケットを持ってとことこと森の中を歩いて行きました。赤頭巾ちゃんそのもののディアンドル姿で。
森をしばらく行くと、泉がありました。
あなたはふと、喉が乾いて水が飲みたくなって、泉の方へ道草しました。
泉をのぞき込むと、あなたは本当に、赤頭巾の似合うそれはそれは可愛らしい女の子です。
(夢の中で自分が可愛くなってるって、なんだか複雑な気持ちね……)
あなたはしげしげと水面を見つめ、そのあと手ですくって水を飲みました。
「グヘヘヘ……可愛いお嬢ちゃん~!」
そのとき、あやしい声が聞こえて、振り返るとそこには、狼男がいました!
「はぁはぁ……お前を食べてやるっ!!」
びっくり仰天しているあなたに襲いかかってくる狼男。あなたはバスケットを持って逃げます。ですが、かぎ爪で赤頭巾のマントを引っかかれ、破かれてしまいました!
なんて鋭い爪なのでしょう!
「来ないでー!」
武器も持っていない丸腰のあなたは逃げ惑います。
狼男は平気であなたの赤頭巾や服を引っ掻いて破いていきます。
「はあはあはあはあ……いやよいやよも好きのうち!」
どういう意味なのでしょうか。
「来るな!」
こうなったらと、あなたは、ワインやお菓子を投げつけたりバスケットで殴ったりしますが、まったくなけなしの抵抗。
ついに服を引き裂かれて押し倒されてしまいました。
「その子に触るなっ!!」
そこに、雄々しい青年の声が響き渡ります。
びっくりしていると、若い男が、あなたを助けに来たのが分かりました。
それは精霊です!
あなたの精霊が、なんだか猟師の姿で狼男に戦いを挑んだのです。
精霊もまた、同じ夢の中に入っていたのでした。彼は気がついたら猟師の格好で森の中を歩いていたんですが、目の前が開けて泉がある……と思ったら、神人のあなたが狼男に襲われていたので、咄嗟に助けに来たのです!
さすが精霊! あなたの精霊!
だけど、その手にあるのはオモチャのハリセン!!!!
ハリセンでピシピシ殴ってあなたを救い出そうとする精霊。なんだかうるさそうな狼男。
ピシピシピチピチ……いや、それぐらいなら普通に殴るか蹴るかしたら? 猟師なのに、銃はどうしたの?
(私って心の奥底で、精霊の事、どう思っているんだろう……)
精神分析的にどんな意味があるんだろう……あなたは夢の中で悩むのでした。
解説
フィヨルネイジャの夢、童話風です。
あなたは夢の中で赤頭巾ちゃんになって、いやらしい狼男に襲われます。
そこに颯爽と現れるのがあなたの精霊。
精霊は狼男と戦ってあなたを救い出そうとしますが……成功するでしょうか?
※精霊は以下のいずれかの武器を持って狼男と戦います。
1ピコピコハンマー
2オモチャのハリセン
3ミルクの瓶
4猟銃(これだけはまともです)
お好きなものを選んで下さい。
※赤頭巾ちゃんは普通の女の子ぐらいの腕力しかありません。ですが、精霊と連携して戦う事も可能です。例えば土を狼男の目に投げる、下から股間を蹴るなどして、精霊の援護射撃をしてもOKです。勿論、守られるだけでもOKです。
※夢の中の出来事ですのでトランスは出来ません。
※二人で狼男を撃退して下さい。撃退出来なくとも精霊に手を取られて二人で逃げる、などのプランもOKです。
※登場人物はいやらしい狼男ですが、大勢の人が見るプランです。公序良俗は守ってください。
※無事、神人が助けられたらどんなやりとりをするか、書いてください。
※その後、夢分析の本や赤頭巾ちゃんのシンボルの本などを買いあさり、300Jrかかりました。
ゲームマスターより
フィヨルネイジャの夢は悲しいものが多いですが、こんなのもありかなと思いました。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
桜倉 歌菜(月成 羽純)
羽純くん、助けて…! 狼男さんに押し倒され、そう叫んだ瞬間、羽純くんの声…! 嬉しさで胸がいっぱい 羽純くんの元へ行く為、土を掴んで狼男さんの顔に投げ夢中で抵抗 羽純くんの手を掴んで うん、走れるよ! そう頷いて走り出すけど、押し倒された時の怖さが残っているせいもあって、足がガクガク 羽純くん…有難う…! 成るべく彼の負担にならないよう、ぎゅっとしがみ付く 私は大丈夫! 怖くて足が縺れただけで… 羽純くんこそ、怪我とかしてない? あ…(上着を渡されて、自分の格好に赤面 あのね…羽純くんが助けに来てくれた時、王子様みたいに素敵で… 涙が出るくらい嬉しかったんだ 格好とか武器とか関係ないよ! 羽純くんは何時だって私の王子様だもの |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
泉を覗き込み わー赤ずきんになってる そういえばおばあさんの家ってどこだろ…? 考えていると不意に話し掛けられ え…? いやらしい狼男が迫ってきた っ?!…やっ…こ、こないでっ 咄嗟に水を掬い狼男にひっかけて逃げるも追い付かれ 必死に抵抗するも押し倒されると同時に片手で両手を封じられてなす術無しに や…やだ…っ 脳裏にEP3の事が過るがそれよりももっとまずい 反応を楽しむようにじっくり服を裂かれ肌が露わになり震える あ… 精霊の姿に安心し涙が ガルヴァンさ… 外套を被せられ驚いている間に行ってしまう 初めて見る勢いに慄く 同情はできないけど… 怖かった… 服裂かれたけど、他は大丈夫… うん 強く抱き締められ 私…只の人に戻りたいのかな… |
夢路 希望(モーリエ・コート)
夢なら楽しもうと思いながら、おばあさんの家へ向かう途中 狼さんに声をかけられておずおずと 「こんにちは、狼さん。…そんなに息を切らしてどうしたんですか?」 いい匂い?「これはおばあさんへの…」 私から、って…「ひっ」 舐められ思わず突き飛ばし、涙目 声に振り向き目を丸くして 「コートさん…?」 どうしよう…腰が抜けて立てません… 「え…わわっ」 抱えられて反射的につかまる 追ってくるようなら籠の中身を投げつけ 助かればホッとし 「コートさんのおかげで助かりました」 渡された上着に自分の恰好を思い出して頬を染めながら借りる 「あ、ありがとうごさいます」 怖い時もあるけど、本当は優しい人…なのかも 「う…返す言葉もありません…」 |
西島 紫織(新藤 恭一郎)
狼男の声と口調が元彼に酷似、胃痛で精霊の援護も出来ず座り込む。 精霊の極悪非道ぶりに最初こそドン引きするが、彼の言葉に奮起。 私の涙を見ていいのは自分だけって… 他人が私を泣かせるのは許さないって事…? 裂かれた服や頭巾で手早く縄を綯い、狼男の首を背後から締め上げる。 貧相な紫織の体型に狼男もげんなり。 上着を貸してくれる精霊に初めてときめく。 恭一郎さんにもしもの事があったらと思うと無我夢中で… 今まで何度も変わらなきゃって思ったのに、行動に出来たのはこれが初めてです。 帰り道、初めて自分の意志で恭一郎と手を繋ぐが、なぜそうしたくなったのかはよく分からない。 あれ、振り払われると思ったけど、繋いでくれるんだ… |
イザベラ(ディノ)
【夢】 我ながら奇妙な夢を見るものだ。 まぁ、他にする事も無いし一つ乗ってやろう。 【狼】 (応戦する気満々) 下衆が。 オーガ足らずとも滅ぶべき人類の敵め。 軍式体術でその首へし折ってくれるわ。 毛皮は…ふん、祖母上の土産にする価値もないか。 (攻撃が効かず)…なん…だと…? (敗れた服からチラチラ覗く立派な筋肉…もとい白い肌) 【精霊】 貴様ァアア!! 初心者故の失敗ならまだ許す、だが無駄撃ちとは何事だ! 戦闘を舐めているのか!?ふざけるな! 男なら初弾できっちり急所にぶち込まんか! 【共同戦闘】 全身で組み付いて逃走を妨げ、あれには発砲を促す。 【戦闘後】 助けは感謝する、だがその後は説教と特訓だ。 私もまた鍛え直さねば。 |
●西島 紫織(新藤 恭一郎)編
その日、西島 紫織と精霊の新藤 恭一郎は、フィヨルネイジャの夢の中に紛れ込んでしまいました。
紫織は可愛い赤頭巾ちゃんになって森の小径を歩いて行きます。そして、泉のところでいやらしい狼男に襲われてしまいました。
「グヘヘヘ……食べてやるぜぇ~」
狼男の声と口調が、紫織の元彼にそっくりです。紫織は胃痛で何も出来ず、そこに座り込んでしまいました。
そこに現れたのが猟師の姿の恭一郎です。普段の外面の良さはどこへやら、人格が豹変して、往年の刑事ドラマのように猟銃を構えて狼男に迫りました。
思いつく限りの罵詈雑言を浴びせ、猟銃を鈍器代わりにして狼男を殴ります。
「汚ぇ手で俺の紫織に触んなゲス野郎がぁ!」
もう言いたい放題でタコ殴り。
その脇で、紫織は服を破かれた格好でガタガタ震えています。
「どうした紫織っ!?」
恭一郎は紫織の様子がおかしいことに気がつきました。
「も、元彼……に似ていて……」
紫織は、狼男の方を見た後、目を閉じてそう言いました。
(益々許せん!)
恭一郎はヒートアップしてしまいます。
「紫織の涙を見ていいのは俺だけだ!」
恭一郎は銃口を狼男の額に押し当てました。
紫織は、彼の極悪非道ぶりにどん引きしていましたが、その言葉に奮起します。
(私の涙を見ていいのは自分だけって……他人が私を泣かせるのは許さないって事……?)
そう思い、裂かれた服や頭巾で手早く縄を作り、狼男の首を背後から締め上げました。
貧相な紫織の体型には、狼男もげんなりです。
紫織からのまさかの援護に、恭一郎はさらにヒートアップ。
狼男をボコボコにしてしまいました。
(いくら下着を着ていてもその姿は……目のやり場に困る!)
そして恭一郎は紫織の姿に赤面しつつ、自分の上着を羽織らせました。
紫織は、上着を貸してくれる恭一郎に初めてのときめきを感じます。
「恭一郎さんにもしもの事があったらと思うと無我夢中で……今まで何度も変わらなきゃって思ったのに、行動に出来たのはこれが初めてです」
紫織はそう言って恭一郎に手を差し出します。帰り道、紫織は初めて恭一郎と手を繋ぎました。何故そうしたくなったのかはよく分かりません。
(あれ、振り払われると思ったけど、繋いでくれるんだ……)
ですが、その手はとても冷たかったのでした。
(そうか……余程怖かったのだな)
恭一郎は内心ではそう思ったのですが、口から出たのは全く別の言葉でした。
「俺の手をカイロ代わりにするとはいい度胸だな」
言ってしまってから恭一郎は後悔します。
(……何故本心とは裏腹にこうも毒舌をばら蒔いてしまうのか)
ときめきを堪能していた紫織でしたが、そこで相手はドSの恭一郎だという事を思い出し、そこで手を引っ込めてしまいました。
上着を掴んだまま恭一郎から距離を取り、後ろの方でコソコソと歩き始めます。
「逃げるなーっ!」
恭一郎は鬼のような顔で怒鳴り、紫織の手をひったくると、無理矢理掴んで一緒に歩き始めました。
紫織はこれから一体、何をされるのかと、顔を青くしてがくがく震え、声も出せずに恭一郎と一緒に歩いて行きます。
帰り道と言っても--そこはフィヨルネイジャの夢の中。
二人とも、夢から醒めるまで、森の中を手を繋いで延々と歩き続ける事になるのでした。
紫織にとってはとんだ悪夢ですが……一部にときめきも混じっています。そして恭一郎は恭一郎で、夢の中の事とはいえ、初めて、紫織を悪漢から救う事が出来たという夢になるのでした。
ゆっくりですが、二人の歩み寄りは始まっています。次は現実の中で、どんなときめきが待っているのでしょうか--?
●夢路 希望(モーリエ・コート)編
その日、夢路 希望は、精霊のモーリエ・コートと、フィヨルネイジャの夢の中に紛れ込んでしまいました。
希望は、赤頭巾ちゃんの格好で、夢なら楽しもうとおばあさんの家へ向かいます。
途中で狼男に声をかけられました。
「こんにちは、狼さん。……そんなに息を切らしてどうしたんですか?」
――いい匂いがするなァ
「これはおばあさんへの……」
――いや、お前からするんだよ
「私から、って……ひっ」
狼男に顔を舐められ、希望は思わず相手を突き飛ばして涙目です。
そのとき、森の方から猟師の姿のモーリエが歩いてきました。
モーリエは、狼男と彼女の姿に自分の役を理解して、ため息をつきます。
「どうして夢の中でまで彼女を守らなきゃならないの。別にどうなろうと知ったことじゃない……けど寝覚めが悪くなるのは困る」
小声でそう呟きますが、結局、希望の事を放っておけないのです。
「お腹が空いているならボクがご馳走しようか」
――銃弾を!
狼男に銃口を向け……、脅しながら近づいて行き、彼女の上からどかしてしまいます。
希望は彼の声に振り向き目を丸くしています。
「コートさん……?」
助けられた事を理解しました。
(どうしよう……腰が抜けて立てません……)
しかし、希望は、体に力が入りませんでした。
「何ぼーっとしてるの」
モーリエは、立てないらしい希望に聞かせるようにため息をつきました。
そうして、狼男の足をハンティングで射撃します。
狼男はたちまち飛び退きます。
モーリエは銃をしまいます。
「落ちたら置いて行くから」
そうして、モーリエは希望を抱えて逃げ出しました。
「え……わわっ」
抱え上げられて、希望は反射的にモーリエに掴まります。
狼男が追いかけて来ます。
希望は咄嗟に、籠の中身のワインの瓶を狼男に投げつけました。
モーリエは森の大きな樹の影に隠れます。
狼男が気づかずに通り過ぎて行くのを確認すると、またため息をつきます。
希望は助かったとほっとしました。
「コートさんのおかげで助かりました」
その言葉を聞くと、モーリエはなんだか不機嫌そうになります。照れくさいのです。
「まったく……とんだ悪夢だよ」
顔を背けたまま、モーリエは上着を脱いで彼女へ押しつけました。
渡された上着に自分の格好を思い出し、希望は頬を染めながら上着を借ります。
「あ、ありがとうごさいます」
お礼を言います。
(怖い時もあるけど、本当は優しい人……なのかも)
希望は彼の事をそういうふうに見直しました。
「もっとしっかりしなよ。いつでも誰かが助けてくれるとは限らないんだから」
モーリエは冷たい口調で突き放すようにそう言いました。でも、本心はとても心配しているのです。
「う……返す言葉もありません……」
そう言われてしまうとうなだれる希望でした。
そのあと、夢から醒めるまで、二人は森の木陰で一緒に座っていました。
夢の中の森は、青空も木々の緑も、揺れる風も、全て素晴らしく、本当におとぎの森のようでした。
その中で、鳥のさえずりを聞きながら、じっと二人きりでいるのです。
(コートさんはこうして……私が危なくないように……見張っていてくれている……?)
夢の中の事なのに。
希望はその事に気がついて、おずおずとモーリエの方を振り返りました。
するとモーリエの目とばっちり合ってしまって、二人は同時に顔を背けます。モーリエはいかにも希望になんか興味が無いというような態度を取ります。
一方、希望は、間近で目が合ってしまった事が衝撃で、大慌てで下を向いてしまいました。
(どうしよう……冷たいようで悪い人じゃないかもしれない……)
だけど何も言い出せず、木々の木陰で、希望は彼の上着を着たままこれまでの事を色々考えていました。彼だって精霊なのです。意地悪な事を言っても、心では希望の事を認めてくれているのかも。
夢から醒めるまで。夢から醒めるまで。守ってくれる彼と、二人っきりなのです。
●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編
その日、アラノアと精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドは、フィヨルネイジャの夢の中に紛れ込んでしまいました。
アラノアは可愛い赤頭巾ちゃんになって森の小径を歩いて行きます。そして泉で道草しました。
アラノアは泉をのぞきこみます。
(わー赤ずきんになってる。そういえばおばあさんの家ってどこだろ……?)
何しろ夢の中の事でよく分かりません。彼女が考え込んでいると、不意に背後から話しかけられました。
「グヘヘ、可愛いお嬢ちゃん~」
「え……?」
いやらしい狼男が迫ってきたのです。
「っ?! ……やっ……こ、こないでっ」
咄嗟に水をすくって狼男にひっかけて逃げますが、追いつかれてしまいます。
必死に抵抗するのですが押し倒されると同時に片手で両手を封じられ、なす術がなくなってしまいました。
「や……やだ……っ」
脳裏に、かつていやらしい男にカラオケの個室で襲われた記憶が甦ります。そのときよりも、もっと危ない状態です。
狼男はアラノアの反応を楽しむようにじっくりと服を裂き、肌を露わにしてしまいました。アラノアは震えます。
その頃、ガルヴァンは森の中を歩いていました。猟師のような格好をしています。そして腰には銃……ではなくて、ミルクの瓶が差してありました。
「何故だ?」
反対側にもミルクの瓶が差してありました。
「新手の嫌がらせか?」
呟きながら歩いて行くと、泉に出ました。
そこでは少女が不埒者に襲われています。
ガルヴァンは瓶を見ました。
「……無いよりはましか」
瓶を逆手に持つと背後から不埒者の脳天に、瓶底を思い切り振り下ろしました。
狼男が怯んだ隙に、横に蹴り飛ばします。
「あ……」
アラノアはガルヴァンの姿に安心して涙が出て来ました。
「おい、大丈――」
ガルヴァンが見れば、あられもない姿で泣くアラノアの姿です。
「ガルヴァンさ……」
ガルヴァンが外套をかぶせてくれて、アラノアは驚きます。その間にガルヴァンは行ってしまいます。
「……殺す」
ガルヴァンは狼男を振り返ると、瓶の角をこめかみにぶち当て、みぞおちに膝蹴りを入れます。
(瓶は割れても刃物になるだけだ。問題ない)
割と本気で狼男を殺しにいきましたが、逃げられてしまい、舌打ちをします。
アラノアは初めて見るガルヴァンの勢いに慄きます。
(同情は出来ないけど……)
自分の感じた恐怖を思えば当然の報いとは思いますが……。
「大丈夫か」
ガルヴァンがアラノアを振り返りました。
「怖かった……」
「何をされた」
「服裂かれたけど、他は大丈夫……」
「本当か?」
「うん」
「……良かった……」
ガルヴァンは先程、瞬間的に沸き上がった黒い感情を想います。
(守りたい気持ちに偽りはないが……)
ガルヴァンはアラノアを抱き締めました。
強く抱き締められながら、アラノアは想います。
(私……ただの人に戻りたいのかな……)
アラノアはガルヴァンの腕の中で不安な思いに駆られました。
普通の家に生まれ、何故顕現したのか自分でも分からないアラノアです。ただの人間に戻って、普通の女の子として平穏な生活を送りたい……そんな気持ちが夢に反映されているのかもしれません。
そこで、アラノアはガルヴァンの真剣な表情を見上げました。
(でも、そうだとしたら……ガルヴァンさんと巡り会えなかった。ガルヴァンさんとオーガと戦ったり……色々な場所に出かける事もなかった……)
もしも、彼と出会う事がなかったら――?
もしも、自分が神人でなかったら――?
その可能性についてアラノアは思いを馳せ、やがて自分に対して一つ頷いて、ガルヴァンの胸に顔を埋めていきました。
既に、彼のいない人生なんて、考えられないのです。それは、ガルヴァンも同じでしょう。
●桜倉 歌菜(月成 羽純)編
桜倉 歌菜と精霊の月成 羽純は、フィヨルネイジャの夢の中に紛れ込んでしまいました。
歌菜は可愛い赤頭巾ちゃんになって森の小径を歩いて行きます。そうして、泉のところで狼男に襲われてしまいました。
「羽純くん、助けて……!」
狼男に押し倒されて、そう叫んだ瞬間、羽純の声が響きます。
「歌菜に触るなっ!」
羽純は押し倒された歌菜を発見した瞬間、すぐに駆け出して、狼男を歌菜から引きはがそうと体当たりをかましました。
歌菜は嬉しさで胸がいっぱいになります。
羽純の元へ行くため、土を掴んで狼男の顔に投げつけ、無我夢中で抵抗します。
羽純は持っている武器を確認――ピコピコハンマー?
歌菜を守るために、羽純は冷静に分析します。
(これでは狼男を倒せない。ならば、逃げなければ)
羽純はピコピコハンマーを逆手に持って、柄の部分で狼のこめかみを強打し、足止めします。
足下をよろめかせる狼男。
その隙に、羽純は歌菜の手を引いて逃げ出しました。
「歌菜、走れるか?」
「うん、走れるよ!」
歌菜はそう頷いて走り出しますが、押し倒された時の怖さが残っているために、足がガクガクするのでした。
羽純は歌菜が走れないと判断すると、体の前に彼女を抱き上げました。お姫様抱っこで走り出します。
「羽純くん……ありがとう……!」
歌菜はなるべく彼の負担にならないように、ぎゅっとしがみつきます。
森の中、かなりの距離を走りました。羽純は狼男が追ってこない事を確認して、歌菜を下ろします。
「怪我はないか?」
「私は大丈夫! 怖くて足が縺れただけで……羽純くんこそ、怪我とかしてない?」
羽純は歌菜の無事を確認し、それから彼女の格好に慌てて視線をそらしました。
「ほら、これを着ろ」
そう言って、上着を渡します。
「あ……」
上着を渡されて、歌菜は自分の格好に気がついて赤面しました。
「あのね……羽純くんが助けに来てくれた時、王子様みたいに素敵で……涙が出るくらい嬉しかったんだ」
羽純は歌菜に王子様と言われて、思わずおどけて笑ってしまいました。
「こんな格好でピコピコハンマーしか持ってなかったのに?」
すると歌菜はむきになったように言います。
「格好とか武器とか関係ないよ! 羽純くんは何時だって私の王子様だもの」
歌菜は羽純を信頼しきっている笑顔を見せたのでした。
その笑顔に羽純は揺さぶられます。
(歌菜を助けられて本当によかった……)
羽純は歌菜をしっかりと抱き締めました。
そう、どんな時も。歌菜の王子様は羽純一人。初めて見た時から、そう決まっていたのですから。
羽純は自分の腕の中にすっぽりと埋まっている歌菜の髪の毛をポンポンと撫でつけます。
「夢の中の事とは言え、怖かっただろう。夢から醒めたら、すぐに歌菜のところへ行くよ。一緒にいる」
「羽純くん……」
「そして、夢から醒めるまでの間も、二人一緒だ。俺が歌菜を守る」
羽純がそう言ってくれたので、歌菜は満面の笑みを見せると、彼の背中をぎゅっと抱き返しました。
「うん。いつだって私は、羽純くんと一緒にいるよ。私だって、羽純くんを守る。だってウィンクルムだもの」
それから二人は、森の木陰で並んで座って、夢から帰る時を待ちました。夢の中でも、現実の中でも、二人一緒。将来を誓い合った二人なのですから。どんな奇妙な夢の中であっても……どんな現実が訪れてきても……二人、力を合わせて、勇気を合わせて、乗り越えていくのです。
●イザベラ(ディノ)編
その日、イザベラは精霊のディノとともに、フィヨルネイジャの夢の中に紛れ込んでしまいました。
イザベラは可愛らしい赤頭巾ちゃんの格好で、おばあさんの家にお使いをするために、森の小径を歩いて行きます。
(我ながら奇妙な夢を見るものだ。まぁ、他にする事も無いし一つ乗ってやろう)
そして彼女は途中で喉が渇いたので近くの泉の水を飲もうと寄り道しました。そこで、いやらしい狼男に襲われてしまいました。
「グヘヘ、可愛らしいお嬢ちゃん~」
イザベラは応戦する気満々です。
「下衆が。オーガ足らずとも滅ぶべき人類の敵め。軍式体術でその首へし折ってくれるわ。毛皮は……ふん、祖母上の土産にする価値もないか」
そう言い放つと、イザベラは見事な体術で狼男に連続攻撃!
しかし、狼男は余裕の笑みです。効いていません。
「なん……だと……」
だって、フィヨルネイジャの夢の中の事ですから。常識が通用しないのです。
ああ、破れた服からチラチラ覗く立派な筋肉……もとい白い肌。
みるみるうちに追い詰められていくイザベラ。
そのとき、威嚇射撃の発砲音が響き渡りました。びっくりして森の方を振り返る狼男です。
ディノの登場でした。
彼は上方へ威嚇射撃の後、狼男へ銃口を向けました。
「離れろ! 今すぐその人から離れるんだ!!」
それから、震えている(であろう)イザベラに声を掛けようとします。
「大丈夫……」
「貴様ァアア!! 初心者故の失敗ならまだ許す、だが無駄撃ちとは何事だ! 戦闘を舐めているのか!? ふざけるな! 男なら初弾できっちり急所にぶち込まんか!」
物凄い勢いで激怒され、ディノは色々怖くて狼男に対してではなく、イザベラに腰が引けてしまいました。
何はともあれ、発砲された事で、狼男が逃げようとします。
ですが、イザベラは全身で組み付いて闘争を妨げ、ディノにさらなる発砲を促しました。
「今だ、撃てッ! 見事、仕留めてみせろッ!」
しかし、ディノは簡単に狙撃できません。
殺害する事にも抵抗がありますし、間違ってイザベラに当たったら大変な事です。
何よりイザベラと狼男が密着しているのを見ると、何だか納得がいかないような、面白くないような気持ちになりました。
そして、この後、さらに叱られる事を覚悟して、銃を捨てて、二人を強引に引きはがし、狼男を逃がす事にしたのでした。
それから、ディノはイザベラに向き合い……あまりの似合わなさに言葉を飲み込みます。
「その赤い頭巾は返り血ですか?」
しかし、その一言を言ってしまったのでした。だってイザベラですから。
何しろイザベラは軍人家系に生まれた生粋の軍人。冷静に見えて脳筋。女性らしい丸みの一切ない筋肉質の体を持っているのです。
その彼女が、赤頭巾を被ってディアンドルを着て、バスケット持っているんですから、なんと言葉に表していいのやら分かりません。
ですが、ディノは失礼だと想って、破れた服に対しては出来るだけ見ないようにして、自分の猟師のマントをかけてあげました。
「助けは感謝する、だがその後は説教と特訓だ。私もまた鍛え直さねば」
イザベラはそう言って、ディノに説教。
何故、弱者をいたぶる悪漢である狼男を倒さなかったのかと、ひととおりの軍隊式説教を行ったのでした。
何しろ、ディノはイザベラの正義漢の強さは尊敬していますので、そこは口答え出来ませんでした。
その後、イザベラとディノは夢の森の中で、腕立て伏せと腹筋をそれぞれ一千回ずつ行いました。
「667、668、669……貴様ァア! 腰が下がっているぞ、ふざけるなッ!」
……フィヨルネイジャの夢の中で腹筋したって、筋肉がつく訳ではないのですが……精神力が鍛えられたかもしれません。
そしてディノはそんな無茶苦茶に熱いイザベラに胸キュンし、イザベラはついてくるディノをより幸せにしてやりたいと想ったのでしょう……。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月02日 |
出発日 | 03月13日 00:00 |
予定納品日 | 03月23日 |