プロローグ
『くすくす……っふ、あは、あははははあはっははははははは!』
鎮守の森に響く不気味な笑い声。それが、ずっと続いている物だから、テンコはついに泣き出してしまった。
「ふええぇぇっ、もう、毎晩毎晩なんなのじゃぁあああ!」
「どうしたのです?」
妖狐たちが尋ねる。テンコはぷりぷりと頬を膨らませて答えた。
「どうって、皆は聞こえぬのか!? この不気味な笑い声が!」
「え?」
なんと、その声はテンコにしか聞こえていなかったのだそうだ。
納得いかん、とばかりに、鎮守の森の近くに住む者に聞き込みに回ると、ある事実が浮かび上がってきた。
なんでも、その笑い声は『笑っている者が狙ったもの1人』にのみ聞こえているらしい。村に住む娘が笑い声を聞いたが、周囲の者に聞こえていなかったせいで嘘つき呼ばわりされてしまったのだそうだ。同じような経験をした者の話を聞いたところ、小心者の男はその笑い声を聞いて失神してしまったらしい。立ち込める瘴気も相まって、これは放置できるものではないとすぐにわかった。
「というわけで、鎮守の森の『笑い女』達を討伐してほしいとのことです」
A.R.O.A.職員は、神妙な面持ちで告げた。
「元は悪戯好きなただの妖怪だったのですが、さきの炎龍王の件で憎悪を溜めこみ、デミ・オーガ化してしまったようなのです」
笑い女は、不気味な笑い声で人々の不安を煽り、最悪の場合失神してしまうらしい。そのうえ、一緒にいる人には笑い声が聞こえないため、1人だけがその笑い声に寄る不快感や不安を煽られてしまうのだという。そのうえ、その笑い声には混乱させたり足を竦ませる効果があるらしい。
「向こうから積極的に物理的な攻撃をしてくることは無いと思われますが、厄介な相手です。どうか、お気をつけて」
笑い声の恐怖に打ち勝つと笑い女が実体を表すので、そこを攻撃すれば勝てるだろうとの事だ。
ウィンクルム達は頷き合うと、たちあがり、鎮守の森へ向かうのであった。
解説
成功条件:笑い女たちの討伐。
笑い女は、参加したウィンクルム数現れます。
今回は戦闘ではなく、笑い声にどう打ち勝つか、というのがメインになります。
個別戦となりますので、ご了承ください。
●笑い女
不気味な笑い声で恐怖心をあおってくる。
なお、耳栓などの使用は無効。聴覚に訴えかけるのではなく、
脳内に直に笑い声を届けてくる。
笑い声と共に、
『必死だなぁ!』『愛を信じる等愚かな!』『裏切られるだろうよ!』
などの、パートナーとの関係を馬鹿にするような言葉を吐いてきます。
それらの言葉は、普段強固な信頼関係で結ばれているウィンクルムでも
少し不安になるような揺さぶりの効果を孕んでいます。
パートナーの不安を払しょくし、笑い声の恐怖感から解放してあげれば
笑い女は己の力を打ち破られたことで姿を現します。
その時に倒してしまいましょう。
パートナーを恐怖心から解放できなかった場合失神してしまい、敗北となります。
●プランへ記載すること
精霊、神人のどちらに笑い声が聞こえて、どんな反応をするのか。
その反応を受け、パートナーはどんな対応をするのか。
それでは、よろしくお願いいたします。
ゲームマスターより
今回は、ステータスの強さよりも、プランによるところがかなり大きくなってきます。
(私のエピはプラン重視が多いのはいつもの事ではありますが)
ただでさえ木々が鬱蒼と茂って薄暗く、不気味な雰囲気の中で
妖怪の笑い声が聞こえるという最悪のシチュエーション。
パートナーを助けてあげてください。
よろしくお願いいたします。
!相談期間が短めです。ご注意ください!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
狙った相手にしか聞こえないなんて陰湿です 天藍大丈夫ですか? 脂汗を浮かべ足を止めた彼の頬に手を伸ばす こんなに辛そうな表情の天藍を見た事がありません 笑い女に何か嫌な事を聞かされているのでしょうか …俺が精霊としての役目を果たせなくなるような事になったら… 絞り出すように呟かれた言葉 精霊の役目、きっとウィンクルムとしての勤めの事 傍にいる切っ掛けは契約を交わした神人と精霊だったからですけれど 今は天藍という1人の人と一緒に生きていけたらと思うから その時は2人で静かに暮らしましょう? タブロスが居づらければ人の少ない静かな所に移っても良いでしょうし 大丈夫、天藍と私の得意なこと合わせればどこででも生きていけます |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
笑い声に怖気が走り、耳を塞ぐ。(無駄と知りつつ 陰口も、笑われるのも慣れてた、のに。(タブロスに来る前 「声、が」(見上げ、目を逸らす 『釣り合わない』知ってる。 『遊ばれてる』そうかも知れない。 『捨てられる』(嫌で、首を振り俯く そういう妖怪って知ってても、不安になる。聞きたくない。 最近慣れて来た体温に、少し安心する。 笑い声が頭にこびり付く。 目を瞑っても、笑い声が邪魔して難しい。 (言葉に見上げようとする 「言っても、いいの?」 「嫌じゃ、ない?」 (意を決して言う 「ルシェにいらないって、言われたくない」(ルシェの服を掴もうとして、止める ルシェは、当たり前みたいに言う。(安心する 笑い女が出たら、一応トランス。 |
シルキア・スー(クラウス)
トランス済 告げられ彼の背中守る形で周囲警戒 敵発見時は知らせる 苦悶の表情の彼に 「1人で耐えないで 話してクラウス! こんなに取り乱す彼を見た事が無い 「あなたに落ち度なんてないよ 「あなたのおかげで私笑っていられるよ 彼の言葉に胸が苦しい そこまで想ってくれて そんな事を恐れる彼が愛しい 自分の中の一番純粋な想いをちゃんと伝えなければ 彼を引き寄せ口付をし抱締める 「私の居場所はクラウスのいる場所 一緒に居たい人なの 戻る兆しがあれば体を支え頬を撫で瞳を見つめて彼の闘志の復活を確認する 「戦う時も一緒 姿現せば戦闘 攻撃あるのみ 成功なら 抱擁に応え「…おかえり (…必死とはいえ た 大変な事を(赤面 落ち着いたら ちゃんと話さなきゃね |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
笑い声が聞こえ ――ッ わ…笑い、声…が こ、この世にこんな不気味な笑い声って、あるんだねっ はは…は… 虚勢を張ってみるも勢いゼロ …聞こえてないの?ほんとに? 私…だけ… それ、でも…私にしか聞こえないのは…怖い… 職員さんの話が無かったら多分、私だけおかしくなっちゃったのかなって錯覚しそうで…怖い …この不安感と怖さの共感を得られないのって、共有できないのって、なんか…一人ぼっちになったみたいで寂しい…かも …っ う…ん 握り返す どんな事を言われても精霊が傍にいると思えば心を強く保てる どんなに不安でも傍に寄り添ってくれるという安心 心配してくれる それだけでいい この人が裏切りなんて卑劣な事はしないから …だから、大丈夫 |
鬼灯・千翡露(スマラグド)
【対】 ▼事前 (性格もあり、また聞こえてないので基本冷静) ……ラグ君? ラグ君、どうし―― ああ、ラグ君は聞こえてるんだね…… ラグ君、抱え込むタイプだから、早く何とかしないと 嫌なとこ突いてくる相手らしいし、尚更だね ねえラグ君、私には声は聞こえないけど 何となく、何言われてるのか解るよ 私ね、お姉さんだししっかりしないとって思ってる でもね、最近気付かされるんだよ 頼もしいって思った 優しいって思った ああ、ラグ君も、どんどん大人になってるんだって だから、自信持って? ラグ君は、強くなってるよ これからも、強くなるよ! ▼戦闘 ラグ君の頭ぽふぽふしてぱわーあっぷ! 絶対君に近付かせないから、よーく狙ってね!(敵を杖で威嚇) |
件の笑い声が聞こえるというエリアに足を踏み入れた時、天藍はぴたりとその歩みを止めた。
「狙った相手にしか聞こえないなんて陰湿ですね」
かのんは職員から聞いた話を思い出し、天藍を振り返る。
『ふっ、あはは、はははは! 滑稽だなぁ……!』
天藍の耳だけに聞こえた不気味な笑い声。天藍は不快感に眉を顰める。
「……天藍?」
『いつまでも傍にいると思っているなら大間違いだ』
じくり、と天藍のうちに嘲りの声が広がる。
「天藍……っ」
かのんは、ぐっと歯を食いしばる。
『お前の代わりならいるだろう……! 彼女に適合する精霊ならば、お前以外にも!』
確かに、神人には契約済みの2人目の精霊はいる。
(……それでも俺と朽葉は違う、代わりにはならない……)
天藍は、爪が食い込むほどに手を強く握りこんだ。
「天藍っ……天藍、大丈夫ですか……?」
脂汗を浮かべて苦し気に眉を寄せる天藍の頬に、かのんは優しく手を伸ばす。
(あ……)
その手のぬくもりに、天藍は少しの安堵を覚える。
(こんなに辛そうな表情の天藍を見た事がありません……、笑い女に何か嫌な事を聞かされているのでしょうか)
かのんは彼の苦痛を少しでも取り除きたくて、優しくその手を滑らせる。
――天藍、大丈夫、私はここにいます。
(俺たちには、誓いがある。幾度も交わした『約束』が……)
声を振り払うように、天藍は顔を上げた。
『約束!? ふふ、あははははは! 本気で信じているのか! 約束などかりそめに過ぎない!』
何を言っている、というように天藍はかぶりを振った。次に声が紡いだ言葉が、天藍を追い詰める。
『お前が戦えなくなったら? 精霊として、役立たずになったなら?』
彼女はお前など捨てるだろうなぁ!
高笑いが、響く。
天藍は、足がすくんでしまって動けなくなった。
一番恐れていること、それは『自分が動けなくなること』だ。
「……俺が精霊としての役目を果たせなくなるような事になったら……」
天藍は絞り出すようにつぶやく。その言葉を、かのんが聞き逃すことはなかった。
……戦えなくなること、かのんを守れなくなること。
そうなったときに……。
――俺に、存在意義はあるのか?
震える天藍を見つめて、かのんはそっとその手を握る。
(精霊の役目、きっとウィンクルムとしての勤めの事……)
そして、静かに口を開いた。
「傍にいる切っ掛けは契約を交わした神人と精霊だったからですけれど、今は天藍という1人の人と一緒に生きていけたらと思うから……」
再度、かのんの手のひらが優しく天藍の頬を包んだ。
――あなたが必要なのは『精霊だから』ではない。
それを、伝えるために。
何よりも求めていた答え、欲していたぬくもりが天藍を満たす。そのとき、白い衣の笑い女が姿を現した。
『くそっ……!』
悔しそうに歯ぎしりをする笑い女をまっすぐ見据え、天藍は告げる。
「……そっちにも事情と理由があるのかもしれないが、こちらが折れる理由もない」
「共に最善を尽くしましょう」
かのんの口づけを頬に受け、天藍はその身にトランスのオーラをまとわせた。渾身の一撃が、笑い女を切り裂く。
『ギャアァァァッ!』
断末魔とともに笑い女が消えうせると、大きく息をついて天藍はかのんを振り返った。
「……ありがとう」
笑いから、解き放ってくれて。
でも、もし本当に俺が精霊として戦えなくなったとしたら、かのんはどうする? その問いに、かのんはにっこりとほほ笑む。
「その時は2人で静かに暮らしましょう?」
天藍は少し驚いたような顔をしたが、すぐに、かのんらしいな、と思った。
「タブロスが居づらければ人の少ない静かな所に移っても良いでしょうし。大丈夫、天藍と私の得意なこと合わせればどこででも生きていけます」
ね、とかのんは天藍の手を握る。
「あぁ」
そうだな。
もし、そんな時が来るとしても。
己が持てる全力で守らせてほしい。
天藍は、一回り小さなかのんの手をそっと握り返すのだった。
『アハハハハハハ! ふふっ、ははははは!』
嘲りの笑いが、ひろのの耳に響いた。
「っ!」
――怖い。
咄嗟に、ひろのはりょうてで耳を塞ぐ。塞いだとて、脳内に直接届く声だと知ってはいたが、すっかり怖気づいてしまってその判断に至るまでにならなかった。
怖い。
怖い。
怖い。
(陰口も、笑われるのも慣れてた、のに……)
タブロスに来る前の忌まわしい記憶を呼び起こすかのような笑い声に、ひろのはふるりと震えた。
ルシエロ=ザガンは、ひろのの片手を掴み、強引に耳から離させる。
「笑い女か」
こうでもしないと、声が届かない。ひろのはハッとして傍らの精霊を見上げた。
「声、が」
そして、ひろのは目を逸らした。
ルシエロは、気に入らない、というように眉を顰める。
『お前はねェ! その精霊には釣り合わないんだよ!!』
――知ってる。
夕日を溶かしたようなタンジャリンオレンジの瞳、美しいワインレッドの髪、引き締まった身体。そのすべてに、自分が釣り合わない。ひろのはそう思った。
『もう気づいてるんだろ!? お前は遊ばれてるんだ! あははははは! かわいそうな子!』
――そうかも知れない。
言いようのない、不安。
『くすくすくす……もうじき捨てられるよぉ……? 捨てられる……ふふふふふふ』
――嫌……!
ひろのは首を振り、俯いた。
(そういう妖怪って知ってても、不安になる。聞きたくない……)
やめて
やめて
ヤメテ
(……コイツはいつも、頼ろうとしない)
何を言われたのか、ひろのはただただ嫌がるように首を横に振るばかり。ルシエロは未だに薄く隔たりがあるのを感じて、悔しさや切なさを感じる。
(……だが)
その逸らされた視線をこちらへ、気持ちを、こちらへ。
――諦めない。
ふわり、とひろのを抱きしめるルシエロ。
「まともに聞くな。聞くならオレの声を聞いていろ」
抱きしめる腕に、力がこもった。
抱きすくめられたひろのは、最近慣れてきたその体温にほんの少しだけ、安心する。
笑い声が頭にこびり付く。
嫌だ、聞きたくないのに。ひろのはぎゅっと目を瞑る。
それでも、笑い声が邪魔して難しい。
「怖いなら言え。不安なら言え。耐えなくて良い」
頭上からルシエロの優しい声が降ってきて、見上げようとひろのはおずおずと視線を上げた。
「オレが受け止めてやる」
彼の真摯な色の瞳が、不思議と心を落ち着かせる。
「言っても、いいの?」
恐る恐る、問う。
その間も、耳障りな笑い声は止まない。
「ああ」
「嫌じゃ、ない?」
「むしろ聞かせろ。オレはオマエに我慢を強いたくはない」
強く促すその声に、ようやくひろのは意を決して告げた。
「……ルシェにいらないって、言われたくない」
彼の服を掴もうとして、ひろのはゆっくりとその指先を下した。
「オマエが望むなら何度でも告げよう。オレにはオマエが必要だ」
ゆっくりと、瞳をみつめながらルシエロは宣言した。
声は出せないが、ひろのは一度だけ、頷く。そして、彼の胸に顔をうずめるようにしてその表情を隠した。
「オレはヒロノだけの精霊だ。オマエから離れはしない」
優しく、ひろのの背を往復する大きな手。そっと、ひろのの頭にやさしい口づけがおりてくる。
(……あぁ)
彼は当たり前のようにそう言う。
それが、ひろのの安堵へと繋がった。
『っく……見せつけやがって……!』
悔し気な表情の笑い女が現れる。
「っ、ルシェ」
「ああ」
二人は瞬時に臨戦態勢へと切り替える。
「誓いをここに」
トランスを済ませると、ルシエロはひろのを背にかばうようにして前に出る。
「……許さんぞ」
ぎらり、と獲物を狩る瞳を光らせ、ルシエロは魂絶と両断を振るう。一合、二合、三合と目にもとまらぬ連撃を叩き込むのだった。
「……ルシェ」
「ん?」
ひろのは、小さく小さく告げる。
――ありがとう。
ルシエロは、思ったことを言ったまでだ、と笑うだけだった。
笑い声が聞こえる森、と聞き、アラノアは少し怖い気もしたがその鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れる。無言でいると余計に怖くなりそうで、傍らのガルヴァン・ヴァールンガルドを見上げ口を開く。
「笑い声が聞こえ――ッ」
笑い声が聞こえる森なんてなんだか怖いね、と言おうとしたところだ。
『っくく、あははは! 足がすくんでいるじゃないか、お嬢さん……! ふふ、あははははは、はっはははははは!』
ぴたり、と硬直するアラノア。
「……どうした」
ガルヴァンは、問う。愕然としてアラノアが答えた。
「わ……笑い、声……が」
「来たか」
身構えるガルヴァンに、明らかに不自然な引き攣った笑顔でアラノアは答える。
「こ、この世にこんな不気味な笑い声って、あるんだねっ。はは……は……」
虚勢を張ってみるも、勢いは無い。ゆるりと首を横に振り、ガルヴァンは落ち着かせるようにゆっくりと言い聞かせた。
「……無理はするな」
「は、はい……うん……、……聞こえてないの? ほんとに?」
ガルヴァンはしっかりと頷く。
「職員も言っていただろう。狙われた1人にしか聞こえないと」
「私……だけ……」
震える声で、アラノアは繰り返す。耳に響く耳障りなけたけたという笑い声。
「だからといって思考を不安に囚われるな」
こくり、とアラノアは一つうなずく。けれど、耳を支配するのはガルヴァンの声だけではなく、いやらしい笑い声。
「それ、でも……私にしか聞こえないのは……怖い……」
弱弱しく、アラノアは微笑む。ガルヴァンを必要以上に不安にさせないように。
「職員さんの話が無かったら多分、私だけおかしくなっちゃったのかなって錯覚しそうで……怖い」
怖いという、素直な感想だけは吐露しつつ。
「……この不安感と怖さの共感を得られないのって、共有できないのって、なんか……一人ぼっちになったみたいで寂しい……かも」
ふ、と彼女の笑顔が曇ったのを見て、ガルヴァンはいてもたってもいられなくなった。
「アラノア……確かに共感は出来ないが、お前が不安に打ち勝つために傍に寄り添う事は出来る」
ぎゅっと彼の手がアラノアの手を覆い、優しく握る。
「……っ」
弾かれるようにして、アラノアは顔を上げた。そこには、美しい琥珀の瞳。
「俺が傍にいる。だから安心しろ」
「う……ん」
頷いて、アラノアはそっとガルヴァンの手を握り返した。
「俺はお前を見捨てない」
『バカめ! そう言って見捨てる男がどれほどいることか!』
笑い女の声は響き続ける。
けれど、どんな事を言われても精霊が傍にいると思えばアラノアは心を強く保てる。
どんなに不安でも傍に寄り添ってくれるという安心・
(心配してくれる……それだけでいい)
ぽつり、小さな声で、それでも凛とはっきりした声色でアラノアは告げた。
「この人が裏切りなんて卑劣な事はしないから」
『何を……』
ガルヴァンは、先刻アラノアにあのように告げたが、心の中にふつりとわいた感情に戸惑った。
――妖如きに神人の思考を支配させてたまるか。
その思いは、なぜ。
振り払い、こんな思考に陥るのはきっと妖のせいだ、と思うことにした。
アラノアの手を握る手に、力をこめる。
――『俺が傍にいる』と意識させるために。
「……だから、大丈夫」
『く、そ……!』
笑い女の白い影が浮かび上がった。
卑劣なものを見下す視線で、ガルヴァンは告げる。
「神人を不安にさせた代償を支払ってもらおう」
ひゅっと振り上げた紅月一閃が、笑い女を、アラノアの不安とともに両断し、戦いは幕を下ろしたのであった。
その森を歩み始め、しばらくして。
スマラグドが急に足を止めた。
『っふ、ふふふふふ、くす、っふふふふふふ』
「……っ!」
声が、聞こえる。
「……ラグ君?」
『どうせいつまでたってもお前は子ども扱い。気づいているんだろう? お前は子供だ……! 彼女に釣り合うような男じゃない……』
スマラグドは、ぎり、と奥歯を噛む。
「ラグ君、どうし――」
「……るっさいな」
あ、と鬼灯・千翡露は気づいた。彼に、笑い女の声が聞こえているのだ。
(ああ、ラグ君は聞こえてるんだね……)
『ふふ、うるさいと反論するということは、お前も気づいているんだろう? 自分がガキだと……!』
「煩いって言ってるだろ!!」
噛みつくように、スマラグドが吼えるように叫んだ。
(ラグ君、抱え込むタイプだから、早く何とかしないと……)
千翡露は取り乱すスマラグドの様子を見て考え込む。
『ははははは、青いねぇ! そういうところがガキだと言っているんだ、隣にいる彼女には相手にもされないだろうよ……!』
嘲る、声。意識し始めた千翡露から、子供としか思われていないと執拗に言い聞かせるように笑い女は言う。
「アンタに、僕と――俺とちひろの何がわかる!!」
一人称が変わるほどの激昂。握った拳がふるりと震えた。
「俺は、……俺、には、……」
あぁ、嫌なところを突かれているんだ。尚更、安心させてあげなくちゃ。千翡露は優しく語り掛ける。
「ねえラグ君、私には声は聞こえないけど、何となく、何言われてるのか解るよ」
――ああ、もう解らない。
スマラグドは頭を抱え、俯く。
(俺の『好き』がどんな形だとしても、ただ、ちひろに認めて欲しいだけだった筈なのに――)
どうして、こんなにあの声がいうことが悔しいと感じる? 辛いと思う?
――解らない。
『ふふ、かわいそうな子供だ。そうやってずぅっと悩むといい』
高笑いが、邪魔をする。それでも、千翡露が優しくすっと彼の心へ入っていった。
「私ね、お姉さんだししっかりしないとって思ってる。でもね、最近気付かされるんだよ」
「え……?」
顔を上げると、そこには千翡露の顔。どんな言葉が続くのか、待つ。
「頼もしいって思った。優しいって思った……。ああ、ラグ君も、どんどん大人になってるんだって」
驚くほど鮮明に、彼女の声が聞こえる。スマラグドは、目が覚めたような心地がした。
「ちひろ……ごめん。そんな風に思ってくれてたって、気付けなかった……」
ゆるり、と千翡露は首を横に振る。
「だから、自信持って? ラグ君は、強くなってるよ。……これからも、強くなるよ!」
力強く、確信を持った声でそう告げられて、スマラグドは深く、ゆっくりとうなずいた。そして、強い光を宿した瞳で前方をきっと見据える。
「……ちひろがそう言ってくれるなら! 俺は、あんな声に絶対負けない!」
『っく、くくっ、ははははははは! 見事なものだねえ。だけど、ガキに何ができるっていうんだ!』
声は、なおもスマラグドを苛もうとしている。けれど、もうそこで折れるようなスマラグドではなかった。トランスを済ませると、千翡露の手が優しくスマラグドの頭をぽんぽんと撫でた。そして、当然のようにスマラグドの前に出て「ムーン」を掲げ、笑い女を威嚇する。
「絶対近付かせないから、よーく狙ってね!」
スマラグドは一つうなずき、集中した。
(今の俺はこの武器を最大限に使いこなせないって知ってる。だからこそ一撃一撃を、大事にする!)
翳した黄金枝垂は、スマラグドの力を上回る威力を持つ杖。それでも、前に出て自分を守る彼女に答えるため。
「行け……!」
小さな出会いを、発動させた。
超音波のような悲鳴とともに、笑い女が消える。
「ラグ君!」
やったね、と顔を見合わせる。スマラグドは頷いて、静かに答えた。
「ありがとう。……強く、なるから」
トランスを済ませると、森の深くへ足を踏み入れるシルキア・スーとクラウス。
『ふふ、あははっ、ははははははははは!』
笑い声が、どんどん大きくなっていく。クラウスは眉をひそめた。そして、早く知らせるべきと悟りシルキアに告げる。
「……っ、標的は、俺だ……」
うなずくと、シルキアは彼の背中を守るように周囲を警戒し始める。どこにいるか、目を凝らすも、何も見えない。
(戦場で心を乱す等……くっ……)
クラウスは苦悶の表情で歯を食いしばった。
『っははははは! お前は至らぬ点が多すぎる。彼女に見限られ、捨てられるだろうなぁ! いつまでいい気でいられるだろうねぇ!』
「う……」
額に汗が浮かぶクラウスへとシルキアは呼びかける。
「1人で耐えないで、話してクラウス!」
聞こえないのか。
「……至らぬ俺が見限られるは必定か」
ぽつり、とクラウスは声に出して呟いた。
シルキアは首を大きく横に振る。
「あなたに落ち度なんてないよ!」
彼女の言葉は笑い声にかき消され、届いていないのだ。
クラウスは悲しげに瞳を閉じ、続けた。
「……だとしても、それでも笑顔を求め、守りたいと願う俺は愚かか」
「あなたのおかげで私笑っていられるよ」
だから、そんなこと言わないで。
シルキアは必死に呼びかける。邪魔をするように、彼の耳には笑い女の声が響いていた。
『お前は、お前の落ち度で彼女を失う。……はははははは! 滑稽だなぁ! しがみついて、すがって、最終的には捨てられるのか! あはっはははははは!』
「失っては生きていられぬ……」
「え……」
ぽつり、彼がこぼした言葉に、シルキアは目を見開く。
彼の苦しさに、同じように胸を痛めているけれど、それ以上に……。
――そこまで想ってくれて
そんな事を恐れる彼が愛しい。
自分の中の一番純粋な想いをちゃんと伝えなければ。
シルキアは背中合わせでいたクラウスの腕を引き、振り返ったその頬へと口づけをして強く抱きしめる。
「……っ!」
クラウスは突然の柔らかな感触と、力強い彼女の抱擁に思考を停止させる。ふわりと、彼女の髪から過去に贈ったヘアオイルの香りが香った。
「私の居場所はクラウスのいる場所。一緒に居たい人なの」
あなたは、一緒にいたい人なの。
その香りから、クラウスは彼女が贈ってくれたアロマボトルの香りも思い出す。
(あの時も、俺は居場所だと言ってくれたのだったな……)
「一緒に居たい」
同意だ。絞り出すように、一言告げて、彼女の身体を抱きしめ返す。シルキアはクラウスの瞳の色が戻ったことを確認すると、ふらついていたその体を支えながら頬を撫でる。
「戦う時も一緒」
でしょう? と瞳を合わせる。
クラウスは、深く、頷いた。
『あぁ! 青臭い愛のやりとりよ! 腹立たしいッ……!』
姿を見せた笑い女が何を言おうと、今のクラウスの耳には戯言だ。
クラウスは笑い女の攻撃に備え、シャイニングアローⅡを展開させる。光の輪が、くるくると回り始めた。笑い女から発せられる衝撃波が、そのまま笑い女へと返っていく。
『ひっ、あああぁあ!!』
ひきつった悲鳴を上げ、笑い女はそのまま消えていった。
安堵にため息をつき、クラウスはシルキアへと歩み寄る。
「……ありがとう」
彼女の体をそっと抱きしめて、心からの感謝を述べる。抱擁にこたえるように、シルキアは彼の背に腕を回した。
「……おかえり」
そこで、ハッと我に返る。
(……必死とはいえ、た……大変な事を)
トランス以外で口づけてしまうなんて。
落ち着いたらちゃんと話さなければ。シルキアはほんのり赤面し、それを見られないように少し俯くのだった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ひろの 呼び名:ヒロノ |
名前:ルシエロ=ザガン 呼び名:ルシェ |
名前:鬼灯・千翡露 呼び名:ちひろ |
名前:スマラグド 呼び名:ラグ君 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 09月01日 |
出発日 | 09月07日 00:00 |
予定納品日 | 09月17日 |
参加者
会議室
-
2016/09/06-14:03
シルキアとパートナーのクラウスです。
どうぞよろしくお願いします。
彼が標的になった様です。
こんなに取乱すなんて…。
出来る事して戻ってもらわなくちゃ。 -
2016/09/06-00:23
と、いうわけで滑り込みだけど、鬼灯千翡露と相棒のラグ君です。
実践経験は初めてだけど、足引っ張らないように頑張るよ。
とは言え、現地で合流する事はないだろうけど……
ともあれ、宜しくお願いします。 -
2016/09/06-00:21
-
2016/09/06-00:11
ギリギリですが失礼します。
アラノアとパートナーのガルヴァンさんです。よろしくお願いします。
不気味な笑い声が聞こえてきますが、克服できるよう頑張りたいです。 -
2016/09/04-19:22
-
2016/09/04-19:22
こんにちは
かのんとパートナーの天藍です
天藍の様子がおかしいので、笑い女の声を聞いているのではないかと思います……
……なんとかしないとですね -
2016/09/04-09:50
ひろの、と。テンペストダンサーのルシエロ=ザガン、です。
これから来る人は、よろしくお願いします。
たぶん、私が。笑い声を聞く方に、なります。
どうなるか、わからないです、けど。がんばりたい、です。