驚かすのもいいんじゃない?(草壁楓 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●最恐お化け屋敷

 気だるい熱さがここ数日続いている。
 あなたは少しでも涼むためと気分転換も兼ねて精霊と大型ショッピングモールを訪れていた。
 本を物色したり、夏物のセール品を物色してみたりと楽しんでいる最中……ある一角に行列を見つけた。
 老若男女入り乱れている列。
 それはなんの列なのかと精霊と様子を見にいった。

「さっきから進まないわね」
「怖いって噂だからきたのに……混み過ぎじゃね?」
 
 いろいろな話し声がする。
 近寄ってみると……

 『最恐☆お化け屋敷―あなたは今夜眠れないー』

 と大きな看板。
 どうやらこの列はお化け屋敷に入るための列だったようだ。
 本格的な古い屋敷を模造した入り口、BGMに叫び声、入り口付近には雑草や蜘蛛の巣が多く雰囲気も良いものだ。
 精霊に入りたいのか聞かれたが、あなたはその意思は無いことを伝えた。
 丁度そのお化け屋敷の裏にテラスに繋がる道をみつけたあなたは、休憩をしようとそちらへと進んだ。
 
 テラスに出ると心地良い風が通り過ぎる。
 あと買い物は何かないか……なんて考えてベンチに2人で腰掛けていた。
「あーーーいたーーー」
 突如あなたたちの耳に飛び込んできた声に顔を向けると猛スピードで中年の男性が走り寄ってきた。
 その勢いに驚きながらその男性を見ているとあなたたちの前でピタッと立ち止まり2人の手を取る。
「よかったよかった」
 なんて満面の笑みだ。
 こんな男性知らない……誰?
 同時に思う。
「いきなりすまんね、今困っていてね」
 はぁ――とだけ返事をする。
「唐突ですまないが、お化け屋敷でお化けになってくれんかね?」
 ???いきなり何?
「そこのお化け屋敷の責任者なんだが、盛況でね……それは有難いんだが……スタッフがこの忙しさに倒れられて困っているんだ」
 そんなこと言われても……困り顔の2人。
「無償でとは言わんよ……あ!そうだ、このモールの人気ビュッフェの招待券をあげるから、ね、頼むよ」
 目の前にビュッフェの招待券。
 このビュッフェは今入るのも困難な人気店、雰囲気も良く味も良い。
 前からあなたは精霊と行きたいと考えていた。
「ほんの数時間だから、頼むよ」
 行きたい、と考えたあなたは精霊を見る。
 精霊は「任せる」と笑顔を向けてくる。

 かくしてあなたはお化けに扮し、お客を怖がらせることとなった。
 もちろんその後においしいビュッフェも待っている。

解説

●目的と出来ること
  ・お化けに扮して人々を怖がらせる。
  ・そのあとビュッフェでお食事。

 ●お化け屋敷について
  ・古い日本の屋敷を模した建物。
  ・呪いの人形を浄化させるというコンセプトで日本古来の幽霊や妖怪が出ると噂。
  ・お客は人形を持っているので落としたらそっと渡したり持たせるように誘導してください。
  ・最恐と謳っていますのでとにかく怖がらせてください。
  ・真っ暗闇です、軽くイチャイチャしてもばれませんが、お客は忘れないでください。
  ・扮するのは約2時間程度。

 ●書いて頂きたいもの
  ・どんなお化け又は妖怪になるか。
  ・どうやって驚かせるか、怖がらせるか。
  ・ビュッフェでどう過ごすか。
  ・その他ご自由にお書きください。

 ●注意
  ・危険な行為(怪我を負う、負わせる等)は更にお客を待たせることになるのでお止めください。
  ・不適切なもの等がプランに合った場合描写できない恐れがあります。
  ・アドリブが入る場合がございます。不可の場合はプランに「×」とお書きください。

・夏物のセールを買いましたので300ジェール頂戴します。

ゲームマスターより

草壁 楓でございます。
 ご閲覧誠にありがとうございます。
 毎日暑い日々が続きますね……溶けそうです。
 暑い夏に納涼でお化け屋敷に入ることがあるかと思いますが、逆にお化けになって涼んではいかがでしょうか?
 
 皆様のご参加お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルキア・スー(クラウス)

  打合せ入念
黒子衣装
「サポート任せて!

庭の通路外待機(特等席!
スイッチ操作係り
送風機で一陣の風
障子がスパーンと開く
複数蒼白ライトが彼を一斉に下から照らす
斬るに合わせ竹がズバッ
気を放つに合わせ彼の背後に人魂+映像で沢山の人魂に取り囲まれた演出
渦巻く効果音
赤ライトで流血演出 ガガーンッ
暗転

合間に彼に水分補給
容器持ち「ストローで飲んでるの可愛い(笑
触れられ「ここにいるよ(照

落し人形対策
エコーマイクで『本当に…置いてくのかえ? ひひひ
吊るした籠に人形入れお客の方へするり滑らせる

ビュッフェ
どれもおいしくて幸せ
「あなたに化粧したのが一番楽しかった
 のっぺらさん御苦労様

「これから別腹お化けになるわよ~ さ デザート(笑


ファルファッラ(レオナルド・グリム)
  お化け屋敷のお化け役、面白そうね。
お化け屋敷って入ったことはないけれどようは入ってきた人を怖がらせたらいいのよね。まかせてちょうだい。

私は屋敷に住んでる少女の幽霊。でいいんじゃないかしら。
ホラーでよくあるじゃない。着物の女の子。
もう、この髪型はおかっぱじゃなくてボブカットなの…!
それにその言い方ちょっとおじさんくさいわよ。
・・・なんだかんだ言ってシチュエーションを考えるのは好きみたいね。物書きの血が騒ぐのかしら。
そうね驚かせ方はレオに任せるわ。

ビュッフェ。もちろんデザートもあるわよね?
甘いものが沢山あるのなら幸せよ。
・・・こういうところが子供っぽいのは理解してるんだけどな…。


かのん(朽葉)
  快諾する朽葉に巻き込まれお化け役になる事に

髪を下ろし顔半分隠し白い着物
典型的な幽霊
しーんとした所でお客さんの背後にそっと立つ
囁き声で途切れ途切れに、招かざる客はお帰りなさい
この屋敷に取り込まれないうちにと

…おじ様、それ、やり過ぎといいませんか?
準備からそれは楽しそうな朽葉
暗がりの中でおじ様見たら、絶対怖いと思うんです

朽葉がお客さんを怖がらせすぎたらフォローするつもり
朽葉から逃れて一息つくお客の落とした人形を渡すのに背後からそっと近づいて更に驚かせてしまう事に

今日は面白い経験ができました
おじ様が楽しかったのなら良かったです…けど
おじ様、本当に怖かったですよ
お化け役終了後、気を抜いた所で驚かされた


●女幽霊と半骸骨陰陽師

 朽葉はノリノリでお化けの衣装の身支度をしている。
 精霊のそんな姿を見たかのんは彼を見ながら微笑んでいた。
 それというのも、責任者に頼まれたとき朽葉は二つ返事で快諾したのである。
 かのんの意見も聞かず……しかしかのんは彼が楽しめるならと思い幽霊になることをすぐに快諾した。
「……おじ様、それ、やり過ぎといいませんか?」
 メイクも衣装もほぼ終った朽葉はその声に振り向く。
 その本格的な怖さに少し後ずさるかのん。
 朽葉は本格的な陰陽師の少しボロがある衣装に、左半身が骸骨になっている幽霊に扮していた。
「そうかのぉ、これぐらいしなくては驚かんだろうて」
 なんといっても『最恐☆お化け屋敷』なのだからと朽葉は笑っている。
「暗がりの中でおじ様見たら、絶対怖いと思うんです」
 それぐらいがいいと
 笑っていても怖いと半笑い気味にかのんは笑う。
「ほう、かのんは正統派の幽霊じゃの」
 そんなかのんの姿に「ほう」と関心したように頷く。
 かのんは白装束に身を包み長い髪で顔の半分を隠している。
 髪の隙間からちらりと見える顔には特殊メイクで額から頬にかけて大きな傷、そして血が滴っている。
「特殊メイクって凄いですね……」
 鏡に映る自分を見て関心するようにその傷に触れ、フフっと笑う。
「さて次は小道具じゃな、いろいろあるのぉ」
 小道具が置いてある棚に行くとまたまた関心したようにいろいろと物色し始める朽葉。
 またそんな様子の朽葉を見てかのんは嬉しそうに笑う。
 彼が今の状況をとても楽しんでいることにかのん自身も喜んでいた。
(良かったです)
 かのんはそう思いながら朽葉と共に小道具をみる。
「これは使えそうじゃな」
 と言いながら陰陽師に使えそうな札や装飾品などを手に取る。
「おじ様、そろそろ出番のようですよ」
「行くとするか」
 特殊メイクをしている男性に朽葉は一つ道具を渡されるとニコニコと笑顔を浮べながら担当場所へと向かう。
 かのんもかのんで楽しもうと朽葉と共に足を向けた。

 数組を驚かすことに成功し、朽葉は満面の笑みを浮かべていた。
「朽葉おじ様……やり過ぎでは……」
「臨場感があってよいだろうて」
 客には聞こえない程度にフォフォと笑う。
「次が来た様じゃな」
 探るように入ってきたのは男性の2人組。
 この部屋は真っ暗で何も見えない。
 手にしている提灯の明かりのみ、それを活かし朽葉はそっと近付く。
「我の首を切り落とした……」
 その声に提灯の明かりを向ける男達。
 そこには自身の生首を持って、半身骸骨で口から血を流した陰陽師の老人が現れる。
「ひーーーー」
 そのまま近付く。
「侍がどこにいるか知らぬか?」
「し、知らない……知らない」
 足早に朽葉扮する陰陽師幽霊から後ずさりながら距離を取る。
 そこに気配もなく男性達の背後を取るかのん。
「招かざる客はお帰りなさい」
 囁くように男性達に悟らせるように言う。
「この屋敷に取り込まれないうちに」
 顔を上げて少し傷を見せるように先ほどよりは強い口調でいう。
「ぎゃーーーーー」
 男性達は猛スピードで部屋から出て行った。
「やり過ぎたでしょうか……」
「丁度良いとおもうがのぉ」
 2人は顔を見合わせて笑う。
 また次の客が現れる。
 男性と女性のカップルのようだ。
 見た感じ、男性が女性より怖がっているように思う……とかのんは苦笑いを浮かべつつ感じていた。
「我の首を切り落とした、侍がどこにいるか知らぬか?」
 素晴らしい幽霊陰陽師の演技をする朽葉。
 手品の首が落ちるマジックも交えて更に臨場感が際立つ。
「知らぬか?」
 声も出ないほどの恐怖をカップルは味わっている。
「隠しておらぬか?」
「わぁーーー」
 走り出す男性を追いかけるように朽葉は追いかける。
「知らぬかーーー!」
「待ってよー」
 朽葉の後ろから女性も追いかける。
 かのんはふと床を見ると人形が落ちていることに気付く。
(渡してあげなくては)
 人形を掴むと裏から周り次の部屋へと行く途中の廊下へと先回りする。
「もう居ないな……」
「置いてくなんてひどくなーい?」
「あれ怖すぎだろ!」
 カップルの会話が聞こえる。
 気配を消しそっと2人の背後へと立つ。
「招かざる客はお帰りなさい」
「「ひ!!」」
 同時に振り向くとかのんの姿を捉えるカップル。
「この人形を収め、呪いから、この屋敷から逃れなさい」
 人形をそっと渡すとかのんは横にある隠し扉へと消えていく。
(なんとかなりましたね)
 朽葉はやり過ぎではあるが、こうやって自分がサポートすることで楽しめているのならと微笑を浮かべた。
 そこから人形を落とす客が続出する。
 朽葉自身もこれでは、とこっそり鞄にのせたり、パーカーのフードや上着のポケットに入れてみたりとちゃんとフォローを忘れはしなかった。
 たまにほかの幽霊役が驚かせすぎたり、かのんが先に驚かせたりとバラエティーに富む部屋となった。

 一段落し、ビュッフェの席で食事を楽しみながらかのんと朽葉は談話を楽しんでいた。
「今日は面白い経験ができました」
 それは何よりじゃ、と朽葉は笑う。
「おじ様が楽しかったのなら良かったです……けど」
 先ほどの幽霊陰陽師の朽葉を思い出す。
「おじ様、本当に怖かったですよ」
 怖かった……少し客が気の毒に思えてくる。
「いやいや、かのん、駄目押しに怖がらすとは、やりおるな、と毎回思っておったがの」
 確かにかのんの女幽霊も臨場感があり、多くの客を怖がらせることに成功していた。
「たまにはこういう催しも面白いのう」
 お茶を啜りながら口角を上げて笑みを浮かべる。
「おじ様、あと終わった後のあれは少々心臓に悪かったです」
 そうそれは自分達のお化け役が終った時、着替えをするために衣装室へと戻ったかのんに朽葉が驚かす一幕があった。
 もちろんかのんは絶叫し腰を抜かしてしまい、さすがに朽葉は悪いことをしたと彼女に詫びた。
「すまん、すまん、ついな」
 フォフォっと笑う朽葉の顔に呆れたように息を吐くかのん。
「たまには良いですね」
「そうじゃの」
 そんな和やかな空気を最後に漂わせた2人の笑顔がそこにはあった。


●少女の幽霊

 お化け屋敷の責任者に頼まれてファルファッラと彼女の精霊であるレオナルド・グリムは内部で準備を進めていた。
「お化け屋敷のお化け役、面白そうね」
 ファルファッラは微笑を浮べて言いながら衣装を眺めている。
「お化け屋敷のお化け役、ねぇ」
 そう言うレオナルドは自分はファルファッラの衣装を同じく見ていた。
 彼は今回お化けにはならず彼女の演出を手がけることにしたのだ。
「お化け屋敷って入ったことはないけれどようは入ってきた人を怖がらせたらいいのよね」
「そうなるね……」
「まかせてちょうだい」
 ファルファッラは楽しそうだった。そして自信ありげに更に微笑みを浮かべた。
 お化けや妖怪の衣装は数多くある。
 2人は彼女に似合う以上は何かといくつか見繕うがどうも、と首を傾げている。
「嬢ちゃんに似合う衣装か……」
 レオナルドの手に座敷童の衣装があるが、ファルファッラは首を横に振ると一つの衣装を取る。
 少女に似合いそうな着物。
 全体に赤く所々に桜の花が散らばっており、金色の刺繍が襟元などに施されたとても豪華な着物だった。
「私は屋敷に住んでる少女の幽霊」
 その衣装からファルファッラはイメージを膨らませる。
「でいいんじゃないかしら」
 衣装を見せながらレオナルドに尋ねるように振り返る。
「ファルに似合いそうだな……」
「ホラーでよくあるじゃない。着物の女の子」
 ふむ、とその衣装とファルファッラを見比べる。
「なんていうかおかっぱの女の子の幽霊ってよくあるじゃないか……」
「もう、この髪型はおかっぱじゃなくてボブカットなの……!」
 レオナルドの発言に少し不快な顔をしながら自分の髪に触れながらファルファッラは横を向く。
「ボブカット?今はそう言うのか?」
 そうなのか……と関心したようにファルファッラの髪を観察する。
 ファルファッラは彼に視線を向けず横を向きながら少しむくれている様だ。
「それにその言い方ちょっとおじさんくさいわよ」
 仕返しと言わんばかりにファルファッラはそう言う。
 レオナルドは苦笑いを浮かべながら、機嫌を直してくれるようにとファルファッラに「悪い悪い」と言う。
「これで決まったね……どういうシチュエーションがいいかしら」
 レオナルドはそう問い掛けられ思考を開始する。
 彼女をジッと真剣な瞳で見つめる。
 彼に見つめられ少しなんだか落ち着かないファルファッラ。
「……なんだかんだ言ってシチュエーションを考えるのは好きみたいね」
「シュチュエ―ションを考えたりするのは好きだが……」
 レオナルドの脳内にファルファッラ扮する少女の霊のシナリオが出来上がっていく。
「物書きの血が騒ぐのかしら」
 少し目を丸くしてファルファッラの言葉を聞くが、レオナルドは楽しそうに口角を上げる。
「まぁ確かに物書きだからってのはあるかもしれないな」
「そうね驚かせ方はレオに任せるわ」
 真剣に思考をしているレオナルドに安心したのか、ファルファッラは視線を戻すと彼に微笑みを向ける。
 その微笑を見ながらレオナルドは思う。
(俺が書きたいのは童話のはずなんだがどんどんズレていく……)
 と。
 今回は童話ではない、ホラーです。
 次にファルファッラはメイクを施されていた。
 そんな大事なメイクではない。
「……そうだな。肌の色をもう少し青白くして、それだけで雰囲気はでるな」
 メイクをしているファルファッラにレオナルドが細かく指示を出す。
「レオ……私はどうすればいい?」
「人形に執着している少女」
「お客さんがお人形もっているもんね」
「『その、お人形を頂戴』と迫ればせばいいんじゃないだろうか……」
 メイクが終わり更に2人はシチュエーションについて細かく話し合う。
「最初子供みたく笑うのはどう?」
「いいかもしれないね……そこで『その、お人形を頂戴』と客に近付いていく」
「えぇ、それで誘導しながら追いかければいいんだよね」
 ファルファッラは楽しそうに笑っているが、化粧で肌は青白く、髪も少し顔にかかるようになっているので雰囲気は十分だ。
「……まぁ実際落としたり渡したりしたら俺がフォローするが」
「お願いね」
 気合十分に2人はお化け屋敷の担当場所へと向かった。

 担当場所は和室の一室。
 所々に蝋燭が立ち、それ以外の明かりはない。
「俺はここで待機しているよ……客が人形を落としたらそっと渡す」
 レオナルドは黒子の衣装に身を包み客のこない襖の奥へと隠れた。
 頷くとその襖の前に人形のようにきちんと正座するファルファッラ。
 足早に進む足音が近付いてくる。
(きた)
 ファルファッラは瞳を閉じる。
「やべーなんだよさっきの半分骸骨みたいなじーさんは!」
「こわいー」
 ファルファッラは瞳をゆっくり開くと小さな声で笑う。
「クスクス……クスクス」
 その声に客はビクっと体を強張らせる。
「な、なに?」
「クスクス……クク」
 少しずつ笑い声を大きくしていき立ち上がる。
「その」
 ゆっくりと一歩ずつ2人組みのカップルへと近付く。
「お人形を頂戴」
 まだ声は小さい。
「なに言ってんだ?」
「人形って」
 客の顔は恐怖の色へと染まっていく。
「その、お人形を頂戴」
 ファルファッラの足取りは徐々に早まる。
「お人形」
 顔を上げて手を伸ばす。
 大きめな声で客に駆け寄る。
「わぁーーーーー」
 客はファルファッラの行動と容姿に驚き次の部屋へと消えていく。
(落とさなかったようだね)
 レオナルドは安心したように一つ息を吐いた。
 それから客はどんどん来る。
 少しファルファッラに疲れの色が見え始める。
「ファル、大丈夫?」
「大丈夫だもん」
 彼女は気丈にそう答えたが声にも疲れが見えていた。
 次の客が来る。
 女性の2人組み。
「クスクス……お人形」
「女の子……」
「頂戴……ねぇ」
 迫力満点の演技、もう板に付いている。
「きゃーーーー」
 女性達は叫ぶと人形を落としてしまう。
 レオナルドは素早く人形を手に取ると、走り去る女性達を追いかけて人形をそっと差し出す。
「どうか呪いを……浮ばれない少女のためにも」
 その優しいレオナルドの声音に安心したのか女性達は直ぐに受け取ってくれた。
 その後数組の客を恐怖へと落とした2人はビュッフェのチケットを責任者から受け取った。

 ビュッフェの招待券を見せると店員は優先的に席へと案内してくれた。
「もちろんデザートもあるわよね?」
「あるんじゃないかね」
「ないことないわね」
「ビュッフェねぇ……落ち着いて食べれればなんでもいいんだよ」
 店内は多くの客で賑わっていた。
 しかし、案外と静かで雰囲気は悪くない。
 見渡せば品数も多く、もちろん甘い菓子の在り処も確認できた。
「甘いものが沢山あるのなら幸せよ」
 お互い顔を見ることができるように着席する。
 甘い物を確認したファルファッラは幸せそうに微笑む。
「ファルの好物ならあるだろうしな」
 その中に好物があるだろうとレオナルドも微笑んでいた。
「お疲れ様」
「お疲れ」
 お互い顔を見ながら労いの言葉をかける。
「うまくいって安心した」
「迫力満点だったよね」
 笑顔でお化け屋敷での事を話す2人。
「甘い物で疲れをとったらどうだい?」
「そうするつもりだよ」
 立ち上がるとファルファッラは甘い物へと一直線に向かう。
 ふと立ち止まるとレオナルドがいる方向へと振り返る。
(……こういうところが子供っぽいのは理解してるんだけどな……)
 いつか一人の女性としてみて欲しいと心に想いを抱きながら、レオナルドをファルファッラは見つめていた。


●若武者のっぺらぼう

 シルキア・スーと彼女の精霊のクラウスは衣裳部屋の一角を借りて入念な打ち合わせをしている。
 責任者に頼み込まれ、シルキアは半ば強引にクラウスと共にお化けになることを決めた。
 やるとなれば本気モード。
「サポート任せて!」
 シルキアは演出を手掛けることに決めていた。
「俺は若武者ののっぺらぼうだな」
 善は急げと2人は衣装を選ぶ。
 武者の格好になるように和風の鎧や兜を選ぶが、ただの鎧ではない。
 ボロボロになりあちこちに刀傷や刺さった弓矢、兜も割れており、いかにも落ち武者のようなもの。
 中に着ている着物も数箇所破れており、雰囲気はばっちりだ。
 次にメイク。
 シルキアは彼の顔色を悪くするために白粉を塗ると、首元や手、肌が露出している箇所は全てにこれでもかというほどに白粉を塗った。
 また、クラウスはテイルスであるため耳と尻尾が出てはとうまく衣装で隠す。
「シルキア!どうだ?」
「雰囲気バッチリだね!」
 クラウスの準備が整ったのを確認するとシルキアは黒子の衣装に身を包んで現れた。
「私も用意はできたよ!」
「では、行くか」
 もう一度打ち合わせした内容を確認する二人、気合十分なようだ。
 そして説明された担当場所へと移動した。

 彼女達の担当は最後の一歩手前。
 客が最後に恐怖を体験する場所になっていた。
 障子のある和室に縁側、そして日本庭園が広がっている。
 シルキアは見晴らしの良い日本庭園の通路の外に待機する。
(ここなら良く見えるね……特等席!)
 クラウスはというと日本庭園が見える障子の奥へと身を隠していた。
 客はこの庭園を渡り歩く。
 2人とも精神を集中し、恐怖を与えることに全力を注ぐ。
 足音と声が聞こえてくる。
「怖すぎなんだけど」
「でももうそろそろ終るよね」
 現れたのは女性の2人組み。
 丁度庭園の真ん中まで来たところでシルキアはボタンを押す。
 送風機のボタンだったようで一陣の風が部屋全体に吹く。
「な、何!?」
 すると障子がスパーンと開く。
 もちろんそこには若武者ののっぺぼうに扮しているクラウスの姿が現れる。
 そして複数の蒼白ライトが彼を一斉に下から照らす。
 シルキアのボタン操作は的確だ。
「え?」
 少しずつ女性達に近付くと顔を上げのっぺらぼうの顔を晒すと、腰に携えてあった刀を抜き抜刀術を披露する。
 近くにあった竹はシルキアの効果音と共にズバッと切れるとポトリと落ちる。
「ひーーーー」
「きゃーー!!」
 落ちた竹を確認すると禍々しいとも取れるような構えをする。
 そのまま気を放つとクラウスの背後に人魂と人魂に取り囲まれた演出の映像を流す。
 渦巻く効果音が大きくなるにつれてそれまで緩慢な動きをしていたクラウスだが、突如として機敏な動きをして女性達に迫る。
「おいてけぇ~」
 その声は無機質で掠れた低い声だった。
「な、なにを!!!???」
 女性達にもう少しで手が届く距離まで来ると、『ガガーン』という大きな効果音がなる。
 赤いライトにクラウスが照らされると、動きが止まりそのまま暗転する。
「「いやーーー」」
 女性達はそのまま奥へと走り去っていった。
「ふぅー」
 素晴らしい演技と演出に客を怖がらせるには大成功だがいかんせん、疲れたようだ。
 今足音等が聞こえないことを確認すると、シルキアはクラウスへと駆け寄り水の入った器を差し出す。
「助かる」
 謝辞を述べるとクラウスはシルキアから水を受け取る。
 メイクをしているクラウスを思いシルキアはストローの用意を怠らなかった。
 ストローに口をつけると、水を吸い込む。少し冷たい水がクラウスの疲れた体に染み渡る。
「ストローで飲んでるの可愛い」
 薄っすらと見えるクラウスの姿にシルキアは笑いながらそう言う。
 その言葉に少しの気恥ずかしさを感じそうになったが、クラウスはそっと声のした方向へと手を伸ばす。
「顔が見れぬのが心許ない」
 薄っすらと明るいものの彼女の顔が見えないことに残念そうに言った。
「ここにいるよ」
 その声を頼りにクラウスはシルキアの頬を撫でる。
 シルキアは頬が赤くなっている自分を感じる。
 水の器を受け取る時、そっとクラウスの手が当たる。
 そのまま触っていたいとお互いに思う……が。
「次が来たみたいだよ」
 客の足音が聞こえる。
「もう一踏ん張りだ」
 また準備をする2人。
 次から次へと客が来る。
 その度に2人は迫真の演技と演出で客を怖がらせることに成功していた。
「もう勘弁してくれよー」
 男女のカップルが現れた。
「あの女の子怖すぎるー」
 カップルはもうべったりと腕を組み疲れきっていた。
 いつもの演出をし、演技をする。
「もう!やだーーーーー」
 女性が走り出すと、
「置いてくなよー」
 もちろん男性も走り出す。
 ポトリと落ちる人形を確認したシルキアは咄嗟に取ると、吊るした籠に人形を入れ客の下へと下ろす。
「本当に……置いてくのかえ?」
 ヒヒっと笑いながらシルキアはマイク越しに客へと問い掛ける。
 カップルは毟り取るように人形を取るとそのまま走り去っていった。
 2人のこの行動はお化け屋敷のトリを飾るに相応しいものとなった。

 疲れを労うように2人はビュッフェの食事を楽しんでいた。
 シルキアは丁度ローストビーフに舌鼓を打っていた。
「どれもおいしくて幸せ」
 んーーーー!と顔を破顔させながらローストビーフを口いっぱいに頬張る。
 クラウスの前には和食を中心とした食べ物が並んでいた。
「あなたに化粧したのが一番楽しかった」
 フフっと口元に手を当てて笑うシルキア。
「お前の支援あってこそやり遂げられた」
 お互いを支援しあったからこその功績である。
「のっぺらさん御苦労様」
 シルキアはさぞ楽しかったのだろう、クラウスに向けた笑顔は眩しい。
「お疲れ様だ」
 飲み物の入ったグラスを持つとカチンと合わせる。
「お前の扮した物の怪も見てみたいものだな」
 今回お化けになるシルキアを見れなかったことを残念に思うクラウス。
 その言葉に鼻を鳴らしながらシルキアは答える。
「これから別腹お化けになるわよ~!さ!!デザート」
 そう言うとシルキアは立ち上がりデザートのある場所へと歩を進める。
「確かにな」
 そんなシルキアにクラウスは今日一番の笑顔を向ける。
 これからも2人は笑顔の絶えない日々を過ごしていくことだろう。



依頼結果:大成功
MVP
名前:シルキア・スー
呼び名:シルキア
  名前:クラウス
呼び名:クラウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル サスペンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月15日
出発日 08月21日 00:00
予定納品日 08月31日

参加者

会議室

  • [4]ファルファッラ

    2016/08/19-15:40 

    こんにちは、ファルファッラとパートナーのレオよ、よろしくね。
    お化け屋敷のお化け役すごく楽しみ。
    どんなお化けになろうかなぁ。

  • [3]かのん

    2016/08/18-23:12 

  • [2]かのん

    2016/08/18-23:11 

    こんにちは、かのんと朽葉おじ様です

    おじ様がお化け役にやる気十分で楽しそうです
    手品で人を驚かすのと、お化け役になって驚かすのは、かなり方向が違う気がするのですけれど……

  • [1]シルキア・スー

    2016/08/18-21:04 

    シルキアとパートナーのクラウスです。
    どうぞよろしくお願いします。

    ビュッフェにつられました(笑


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