プロローグ
これはとある寒村に古くから伝わる話である。
その村から星が一等美しく見える夜、村の片隅にある小川にあるものを乗せた笹舟を流すのだ。
それがどこかで阻まれることなく村を抜け、小さな滝壺へと飲み込まれて行くのを見届けたならば、それは滝に住む女神によって恒久の絆として昇華されるのだという。
そう、乗せるのは好意。これは想い合う者達の背を押すささやかなおまじないなのである。
「というお話を、ミラクルトラベルカンパニーさんから伺いましてね」
A.R.O.A.の受付がのんびりとした調子で語る。
曰く、そんな村の言い伝えを聞いた旅行会社が、ツアーとして企画し村の活性化を持ちかけたらしいのだが、村人はさほど現状を変えることに興味はなく、断られたらしい。
しかし、ウィンクルムの絆を深める手伝いができるというのなら話は別であるという。
「ですので、旅行会社経由ではなく、A.R.O.A.から直接お話ししてくださいとのことでして」
特に祭りのような催しがあるわけではなく、元々観光的な面は薄い村。
文様を見せ、ウィンクルムであることを伝えれば宿泊施設を優遇してくれるそうだが、おもてなしは出来ませんよと少し困った顔をされた。
「それでもいいという方に限りますね。普段通りの村で、少しだけ特別なことをして、お泊りして帰ってくる。そんな感じです」
興味があれば案内しますがどうですか? と、首を傾げて伺われ、貴方達はパートナーと顔を見合わせるのであった。
解説
ささやかなおまじない
貴方は笹舟にどんな思いを乗せて送りますか?
★プランについて
笹船は二人で一つです
プランには『相手に伝えたい好意』、あるいは『相手の好ましい部分』を明記してください
無事に滝壺に呑まれて行ったら伝える!という願掛けをしていただいても結構です
★リザルトについて
基本的に笹舟を流して星を見ながら語らうような外でのシーンのみの描写になる予定です
お泊りシーンも希望あれば描写しますが内容次第ではばっさりカットしますので予めご了承ください
★その他
村の方々は他人行儀というわけでも、歓迎モードというわけでもありません。
「あらウィンクルムの方なんですか、おまじないを?そうですか、遠いところにわざわざようこそ。
こちらの民宿でお部屋が取れますよ、お話しておきますね。
特に何もない村ですけど、自然は豊かなのでのんびりするのにはいいかと思いますよ」
といった感じで応対してもらえると思います。
飲食店はありますがスーパー・コンビニはなさそうです。
交通費等で500jr頂戴いたします
ゲームマスターより
笹舟の行方については、プランで指定していただいても構いませんし、
会議室のダイスで運試ししていただいても構いません
ゆるりとした時間をお楽しみ頂ければ幸いです
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ひろの(ルシエロ=ザガン)
いつもより少し早く歩いて、笹舟を追いかける。 どうせなら最後まで行って欲しい。でも、運任せ。 ルシェは何を乗せたんだろう。(ちらりと見上げる 「あ」少し離れてた。 笹舟に追いついても、隣にいる。歩幅が違うからかな。 !(見上げる ルシェは何か楽しそう。何でだろう。 ルシェの手があったかくて。周りは静かで。 ちょっとどきどきする。 笹舟は、もうちょっとで止まった。少し残念。 (見上げ、恥ずかしくて笹舟に視線を戻す 「『ルシェが一緒にいてくれて嬉しい』って、ちゃんと。言おうって」思って。 「このままが、いいなって」 先……? 「ルシェも、乗せたの?」 どきどきする好きって、そういうことなのかな。(薄々と、けどまだ判断がつかない |
上巳 桃(斑雪)
静かで涼しくてのんびりしていいところだね、はーちゃん お昼寝が捗りそう、いや、わりかし毎度毎度捗ってるけど よし、一休みしてから(=昼寝してから)小川に出掛けよう おお、はーちゃん、お土産ありがとう でも可哀想だから、小川に到着するまでに放してあげようね はーちゃんのいいところか いっぱいあるなー、毎朝ちゃんと早起きして私を起こしてくれるとことか おかげで学校に遅刻しないですんでるし 地道なトレーニングも毎日続けられるところとか 私には絶対無理だもんね、尊敬する 成り行きみたいな感じでウィンクルムになったけど、はーちゃんのいない生活って考えられないな 帰りの道に蛍が飛んでたりしないかな? こっちも見るだけにしとこうね |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
空には星の海、地には星の川…素敵ですね 詩人になんてなりませんよ。ただの受け売りです 昔、姉様が読んでくれた異世界の絵本にあったんですよ いいえ、あの虹の女神の本とは別です 星の話です 年に一度、空に星の海がかかるときに願いごとをすれば叶うという内容でした …大丈夫です、決まってます 川辺に咲いていた小さな花を一輪 …また何故それを 舟は…積み荷が重ければ転覆してしまいます なら人は、許容できないほど想いが溢れてしまったらどうなるのでしょうね 好ましい部分『いつでも私を捨てられるところ』 …女神に託すには物騒な気もしますけれど でも、そうじゃなかったら私はこうやってこの人と一緒にいようとは思わなかったでしょうね |
シルキア・スー(クラウス)
彼の手綱で馬に乗り訪問 ウィンクルムになる前お婆様と暮したのはこんな佇まいの村 懐古で胸熱 それを伝え笑顔 笹舟 彼をちらり 乗せる想いは 『彼の懐は安らぎ これからも帰りたい場所』 そっと流した舟は順調に進んだと思いきや渦に巻込まれ石に当り無惨に沈没 私達は駄目だって事? あ…泣きそう 肩を抱かれたけど心遣いと分るから身を任せる ごめん泣くなんて 子供じゃないのに 伝わる手の仕草が気にするなと言ってくれてる 精進? ふふそうかも 手厳しいね女神さま 私 こんな浮遊的な夜は少し気が弱くなるみたいで 気も張り過ぎてたみたい…あ だから誘ってくれたの? 頷く彼に心から感謝 星は眩む程綺麗で 彼の懐は幸福そのもので 囁く声と緩やかな時が心地いい |
和泉 羽海(セララ)
珍しく真面目に悩む精霊に戸惑うも、理由を聞いて脱力 らぶらぶ…は、してないし…これ…そういうおまじないじゃ…ないし… そんな事…されても…女神さま…困る…と、思う… それって結局…いつも通り、なんじゃ… でも伝えたい事…ちゃんと言えるのって…結構…すごい事だよ、ね… あたしは…いつも…何も…伝えて…ない、から… 少しだけ…おまじない…頼りたい… 好き、とか愛、は…まだ、分からないけど…義務、じゃなくて… もっと…一緒に、いたいって思えるように、なったから… 【もっと仲良くになりたい】(精霊には内緒 告白に対して、癖で首を横に振りかけて止まる が、がんばれ…あたし…(紙で顔を隠しつつ筆談 『お友達からお願いします』 |
●君と語らう
二人がその村を訪れたのは、精霊の計らいだった。
精霊クラウスの目から見て、神人であるシルキア・スーはひどく張り詰めていた。
休息が必要である。その判断のままに訪れた村は、シルキアの暮らしていた場所と雰囲気が似ていた。
「ウィンクルムになる前、お婆様と暮したのがこんな佇まいの村だったわ」
懐かしさに熱くなる胸が自然とシルキアを微笑ませる。
笑顔が見られただけでも、誘った甲斐は充分だと嬉しくなりつつ、クラウスは一客として騒がしくすまいと申し合わせ、一夜の滞在を村人に申し出た。
その晩、二人は笹舟を手に小川の前に来ていた。
それぞれに、それぞれの顔をちらりと見てから、そっと笹舟を流す。
(彼の懐は安らぎ。これからも帰りたい場所)
シルキアの想いは、少しの願いと祈りを添えて、笹舟を送り出す。
(其の笑顔が煌き、我生かす源)
クラウスの想いもまた、笹舟に乗せられてゆるりと小川を流れていく。
二人でのんびりと小川の脇を歩きながら笹舟の行方を追って。
ああ、もうすぐ滝だと言うところで、笹舟はくるりと渦を巻いた流れに攫われる。
「あっ」
そう言う間に、石に激突した笹舟は水の流れに飲まれるようにして、沈んでしまった。
「……残念だったな」
いいところまで行ったのにな、と。クラウスは肩を竦めてシルキアを見る。
だけれど、その顔は視線を合わせることなく背けられた。
一瞬不思議に思ったが、シルキアの肩が小さく震えているのが、暗がりでも見て取れて。
はっとしたように、クラウスは彼女を窺った。
(泣いて……いるのか?)
はらり、と。シルキアの頬を伝うのは、まさしく悲しみの涙だった。
(私達は駄目だって事?)
滝壺の女神の下に届かなければ、恒久の絆として昇華されないのであれば。沈んでしまった想いは、報われないのだろうか。
寄り添うことを願ってはいけないのだと言われてしまった心地が、シルキアに涙を零させていた。
そんな彼女の手を取り、クラウスは少し道を逸れて、星の綺麗に見える場所へと連れた。
ゆっくりと腰を下ろして、優しく労るようにシルキアの肩に手を回せば、すとん、と身を預けてもらえて。安堵に、微笑んだ。
クラウスの所作を気遣いと認識するからこそ、シルキアは暫しその身の暖かさに浸ってから、小さく零す。
「ごめん、泣くなんて。子供じゃないのに」
小さな声に、クラウスは緩く首を振った。
それから、思案するような素振りで、口を開く。
「舟の暗示する所を考えたのだが」
二人分の想いを積みながら、なんの意味もなく沈むわけもあるまいと、言うように。
言葉を探すようにして、クラウスは続ける。
「願いを成すにはまだ精進が足りぬ、という事ではないだろうか」
想いは確かでも。まだ、まだ、重ねる時間が必要なのだと。
そういうことではなかろうかと、そっと握る手に力を込めて告げるクラウスに、シルキアはその顔を見つめてから、ふ、と笑みを零した。
「精進? ふふそうかも 手厳しいね女神さま」
笑ってくれた。そのことが、クラウスを安堵させると同時に、満たす。
「私、こんな浮遊的な夜は少し気が弱くなるみたいで。気も張り過ぎてたみたい……あ、だから誘ってくれたの?」
小さく語るシルキアの言葉に、クラウスはふと、過去の夜の出来事を思い起こし、納得する。
それと同時に、今回の旅の意図を察してもらえたことを、素直に喜び頷いた。
「……ありがとう」
感謝の声に、また、頷いて。
「時はある。ゆっくり話をしようシルキア」
話せば、理解できることばかりだ。
そうして知っていこう。お互いを。
微笑み合って、星を見ながら他愛もないことを話す時間は、ささやかで、それでいて幸福で。
寄り添わせた体は、抱き寄せることがなくとも、少しずつ深く、互いの内側に。
●君と寄り添う
その村にたどり着いた上巳 桃は、おー、と声を上げた。
「静かで涼しくてのんびりしていいところだね、はーちゃん」
「タブロスみたいな都会も楽しいですけど、こういう田舎は生まれ故郷みたいでおちつきます」
同意した斑雪と連れ立って民宿へ。
「よし、一休みしてから小川に出掛けよう」
長閑な雰囲気も相まってか、すぐさまごろりと横になり昼寝を始めた桃。
それを見て、斑雪は彼女が起きるまでの間、外へ虫採りに向かう。
村をてってく虫を探して歩き回る斑雪の姿に、村人はほっこりとしていたとか。
暫くして、桃がまだ眠たいながらも目をこすって起き上がると、丁度斑雪が戦利品を持って帰還したところだった。
「主様、おはようございますおみやげです。シオカラトンボですよ」
捕まえたトンボを見せて満面の笑みを浮かべる斑雪とトンボとを見比べて。
「おお、はーちゃん、お土産ありがとう。でも可哀想だから、小川に到着するまでに放してあげようね」
そう言って、桃はやっとこ立ち上がりお出かけの準備を始めた。
そんな桃を、斑雪はきらきらとした目で見つめる。
「わー主様はやっぱり優しい人です」
忠誠心がワンランクアップした。
今度は二人で連れ立って。小川へ辿り着いた二人の手には、一艘の笹舟。
さらさらと流れる小川を前に、んー、と桃は首を傾げる。
「はーちゃんのいいところか……」
一口に『いいところ』と言われても、なかなか悩ましいものである。
というのも。
「いっぱいあるなー」
そこに落ち着くからである。
毎朝ちゃんと早起きして私を起こしてくれるとことか。
地道なトレーニングを毎日続けられるところとか。
斑雪のお陰で遅刻することもないし、自分には到底出来ないことを続けている姿は素直に尊敬する。
ほとんど、成り行きみたいな契約だったけれど。
桃にとって、斑雪のいない生活というのは、もはや考えられないものであった。
一方の斑雪も、桃のいいところ、もとい凄い所を揚げ出したらきりはない。
「いつも慌てず、冷静で、それでいてドライなわけでもなくてっ」
やや興奮気味に語るそれは、斑雪の目にはそう映っているというだけでもある。
実際は眠たさゆえに緩慢でゆるりとしか思案せず、基本的には深くを考えないという状態である。
それでも、斑雪にとってはそんな桃の姿が眩しくすら映るのだ。
「そんな主様を守れるよう、拙者もクールなマキナになりたいのです」
ありったけの好意と、ささやかな目標を載せて。笹舟は、揚々と小川を発つ。
その行方を見届けようと小川に添って歩き出した二人だが、半ばほどまでたどり着いたところで、笹舟が小さな渦に巻き込まれてくるくると回り始めてしまった。
「……ずっとくるくるしてますね」
しゃがみこんでじーっと見つめていたが、幾ら眺めても舟が渦を抜ける様子はなくて。
うーん、と斑雪は考えこんだ。
「これはきっと、主様と拙者はずっと一緒にいられるってことですよ!」
「そうかな」
「そうに決まってるんです。だから拙者、これからも修業に励みます」
こてん、と小首を傾げた桃に、力一杯訴えると、ぐぐっ、と手を握りしめて決意を新たにする斑雪。
首を傾げた姿勢のまま、そんな斑雪を見上げていた桃は、ふ、と笑みを作った。
「そっかー」
やっぱり斑雪はすごい。
胸中でだけ呟いて、桃はよいしょと立ち上がる。
「帰りの道に蛍が飛んでたりしないかな?」
長閑な村は、綺麗な小川の流れる静かな村だ。月明かりも美しいが、蛍の一匹や二匹、いてもおかしくはあるまい。
「見つけても、こっちも見るだけにしとこうね」
「はーい、蛍といっしょに帰りましょう」
二人並んで、連れ立って。
地上に瞬く蛍の光が、小さな二人の帰り道を、優しく照らしているのであった。
●君を捉える
歩く歩調はいつもより早く。小川の流れに沿いながら、ひろのは笹舟を追っていた。
この小さな舟は、滝壺にたどり着くことができるのだろうか。
(どうせなら最後まで行って欲しい……)
でも、運任せ。その方が、本当の絆になる気がするから。
ちらり、傍らを見る。ひろのと同じペースで、ルシエロ=ザガンが歩いている。
(ルシェは何を乗せたんだろう)
見上げた瞬間、目が合った気がして。ぱちりと、瞳が瞬いた。
「笹舟は良いのか?」
「あ」
歩調がいつものに戻ってしまって、ひろのは少し距離の空いた笹舟に追いつくために小走りになった。
そんなひろのの背を見つめるのは一瞬のこと。すぐに隣に並んで、ルシエロは先程は少し意地悪げに喉を鳴らした笑みを、柔らかくする。
ひろのは人の視線すら苦手な少女だ。人がごった返すイベントよりも、こういった場所の方が合っているのだろう。
そこに加えて愛らしいおまじないときた。空気が浮ついて、楽しげに見える。
静かにひろのを見守るルシエロへ、ひろのはまた、ちらりと視線を向ける。
今度は、足元に。
(ずっと隣りにいる……)
ひろのは、いつもより早く歩いて、さっきは少し駆けたのに。
それでもルシエロは隣りにいる。当たり前のように。
(歩幅が違うからかな)
そんなふうに思案していると、不意に、手を繋がれた。
驚いて顔を上げたひろのに、ルシエロは楽しげな笑みを返すだけ。
微笑んで、ただ同じように、同じ歩調で歩くだけ。
(ルシェは何か楽しそう。何でだろう)
笹舟は、さらさらと静かな音を立てて流れていく。
水辺だからか、夜だからか、少し風が涼しくて心地いい。
そんな静かな時間の中で、繋いだ手だけは、暖かくて。
胸がどきどきするのを自覚した。
そっと胸元に手を添えるひろのの所作を横目に、ルシエロは一度、ゆっくりと瞳を瞬かせる。
繋いだ手は小さくて、暖かくて、このまま引き寄せて腕の中に抱え込み、そのまま閉じ込めてしまいたい衝動さえ覚えるのだ。
それを、宥めて沈めるように。静かに伏せていた瞳を開けば、丁度、笹舟が長い草に捕まっているところが目に止まった。
もう、流れていかない。それを見て、ひろのは少しだけ肩を落とす。
残念そうだけれど、それも少しだけ。
それが気になってか、或いはただの興味本位か。ルシエロは、笹舟に何を乗せたのかを、尋ねた。
問いに、ひろのは一度ルシエロを見上げるが、恥ずかしそうに背け、笹舟に視線を戻す。
「『ルシェが一緒にいてくれて嬉しい』って、ちゃんと。言おうって」
そう、言おうと思って。託した舟は止まってしまったけれど、ひろのの思いは変わらない。
嬉しいのだ。共にいられることが。それが滲み出ている彼女のその言葉は、聞いたことがないわけでもない。
何度も告げるほど、大切な言葉。
微笑ましげに瞳を細めたルシエロに、ひろのはもう一言、小さく零した。
「このままが、いいなって」
「このまま、か」
判ってはいたつもりだが、改めて聞くと物寂しささえ覚える願い。
「オレは、より先を望んでいるんだがな」
現状維持より、より濃く、深く。内側へ入り込める関係性を。
「先……?」
首を傾げたひろのは、その意味を理解していないようで。
いまはまだ、させるつもりもなくて、ルシエロはただ繋いだ手にほんの少しの力を込めて、帰路を促した。
帰り道はゆっくりと。それでも変わらず並び歩きながら、ひろのはちらりと笹舟の方を振り返ってから、ルシエロを見上げる。
「ルシェも、乗せたの?」
「ああ、『一人で立とうとする強さが好ましい』とな」
ひろのの頑なな部分さえ、愛おしい。
芯があって真っ直ぐで、そうありたいと願う彼女が、例えば、自分には身も心も委ねてくれるのなら。
「オレに依存させたくもある」
小さな声は、ひろのの瞳を再び瞬かせる。
その意味も、今はまだ薄っすらとしかわからないけれど。
(どきどきする好きって、そういうことなのかな)
認識は、少しずつ、芽吹くように、育っていく。
その水を与えているのは誰なのかを、刻まれながら。
●君を揺さぶる
見上げる空には満天の星。
その星を映す川が、さらさらと音を立てている。
「空には星の海、地には星の川……素敵ですね」
感嘆したようなアイリス・ケリーの呟きに、ラルク・ラエビガータは緩く首を傾げていた。
「アンタ最近そういう発言増えてないか? 詩人にでもなる気じゃないだろうな」
「詩人になんてなりませんよ。ただの受け売りです」
笹の舟を作りながら、アイリスは返す。ラルクは眺めているばかり。ふぅん、と興味を示すような声で、先を促すだけ。
「昔、姉様が読んでくれた異世界の絵本にあったんですよ」
「異世界の本……前にアンタの部屋で見た本のことか?」
かつてを思い起こし、心当たりを尋ねるが、アイリスは首をふる。
「いいえ、あの虹の女神の本とは別です」
それは、見上げる瞳に映るもの。
「星の話です」
頭の中で絵本をめくりながら、アイリスはその物語をゆっくりと思い起こす。読んでくれた、姉の声とともに。
「年に一度、空に星の海がかかるときに願いごとをすれば叶うという内容でした」
「へぇ」
同じものを見上げて、ラルクは視線をアイリスの手元に戻した。
「ちょいとここの笹舟と似てるな。どこの世界でも同じようなこと考えるもんなのかね」
そうかもしれませんね、と。それだけを返して。アイリスは小川の淵にしゃがみこんだ。
隣に並んで同じようにしゃがみ込み、ラルクはちらりとアイリスの顔を見る。
「んで、アンタ何を乗せるのか決めたのか?」
「……大丈夫です、決まってます」
「ならいいが」
乗せるものは好意だ。アイリスが作ったほんの少しの間は、自分たちの関係性を省みてのものだろう。
誰の目に見ても、問題なく良好かと言うと、決してそういうわけではない。
けれど――。
小さな舟を送り出す間際、アイリスは川辺に咲いていた小さな花を一輪乗せた。その横に、ラルクはセミの抜け殻を置く。
「……また何故それを」
「ん? アンタにゃ打ってつけだろ?」
どういう意味だと問うよりも先に、ラルクは立ち上がる。見上げた顔には影が指している。
意味は自分で考えろと笑った顔を、暫く見上げていたアイリスだが、そっと視線をおろして、旅だった笹舟を見つめた。
「舟は……積み荷が重ければ転覆してしまいます」
なら、人は。
「許容できないほど想いが溢れてしまったらどうなるのでしょうね」
「そん時は沈むんだろうよ」
情緒的な雰囲気など無いものとするかのように、ラルクはアイリスの呟きを一蹴する。
そうしてから、にやりと口元を歪めた。
「アンタも精々気をつけな。どんどんアンタの積み荷を重くしてやるから、簡単には沈んでくれるなよ?」
その表情を、アイリスは再び何を言うこともなく見上げて、そうしてから、笑う。
アイリスにとって、ラルクは『こう』であるから好ましいのだ。
(貴方の『いうでも私を捨てられるところ』は、好ましく思いますよ)
女神に託すには物騒だろう。
だが、そうでなければラルクと一緒にいようという選択肢など、ありえなかっただろう。
ラルクとて変わらない。アイリスを好ましく思う部分は、『歪なところ』なのである。
亡くした姉の後を追って死にたいくせに、その姉が望んだから生きている。
どちらにも付けない中途半端な彼女の心は、さぞ疲弊して居ることだろう。
それは哀れなことだとも思うけれど。
それ以上に、アイリスが『そう』だからこそ好ましく思うのだ。
真っ当ではない。知っている。
純粋でもない。分かっている。
だからこそ共に在れるのだ。
二人分の積み荷を乗せた笹舟は、ほろりと荷を落として、諸共に沈む。
そのさまを見つめて、見つめて。二人は何を云うでもなく、ただその事実だけを受け止めて帰路についた。
●君へ近づく
和泉 羽海はとても残念なものを見る目をしていた。
というのも。
「こんなちっぽけな笹舟じゃ、君への想いを乗せきれないよ!!」
珍しく真面目に悩んでいて、「……羽海ちゃん、どうしよう」なんてこの世の終わりのような顔をしていた精霊セララの様子に少しは心配したというのに、その悩みの中身がこれなのだ。
気が抜ける。心配して損した。
大きな溜息を付いている羽海を他所に、セララは地団駄を踏みそうな勢いで嘆く。
「せっかくオレ達のラブラブっぷりを見せつけるチャンスなのに……!」
らぶらぶなんてしてないし。
そもそもこれはそういうおまじないじゃないし。
そんな事されても女神様が困ると思う。
つらつらつらつら、書き連ねては突き付けて、理解してもらえただろうかと小首を傾げて見上げる羽海に、セララはそっかー、と思案顔を作る。
「でも伝えたい事ってオレいつも言ってるしな~」
どうしたものかと笹舟を手持ち無沙汰気味に持っていたセララは、不意に名案が思い浮かんだというような顔をした。
「あ、じゃあ願掛けしようかな。無事に滝壺に辿りついたら、告白するよ!」
(それって結局……いつも通り、なんじゃ……)
なにせ初対面で何もかもをすっ飛ばしてのプロポーズ。
今更女神に何を祈るというのだろう。
そんな風にも思う、けれど。
(伝えたい事……ちゃんと言えるのって……結構……すごい事だよ、ね……)
いつも、何も言えてない。まだ何も、伝えられていない。
声の出せないこと以前に、声に載せる勇気すらないのだと、自分でも解っていた。
だから、羽海はセララに倣うわけではないけれど、笹舟に思いとともに願いを乗せることにした。
『もっと仲良くなりたい』。少しでも、少しずつでも、自分から歩み寄って行きたい。
きゅ、と。重ねた指先を、祈るように握りしめて。羽海は笹舟の行方を見守る。
セララもまた、そんな羽海と共に笹舟を追いかけ、そうして、やがて笹舟はふらふらと蛇行しながらも滝へとたどり着いて。
「あっ」
セララのありったけの愛と、羽海のささやかな願いをのせた笹舟は、するりと滝壺に飲まれていった。
ぱぁっ、と顔を綻ばせて勢い良く羽海を振り返ったセララは、少しびくっとした彼女の前――怯えさせない程度に距離を開けて――に立つと、声を張り上げた。
「好きです! 結っ……付き合ってください!」
それは、いつも通りの好意の主張。
だけれどいつも以上に真剣な台詞が乗せられていた。
「だって思いは言わなきゃ伝わらないでしょ?!」
ぶっちゃけ笹舟が止まったって沈んだって言うつもりだったのだ。そう、言わなければ伝わらない思いを、ただ愛する羽海へ。
この人はどうしてこんなに真っ直ぐなんだろう。羽海は眩しい物を見るような目でセララを見た。
好きとか、愛だなんて、まだわからない。
(けど……義務、じゃなくて……もっと……)
もっと、一緒に、いたい。
そう思えるようになっていることに、とっくに気がついていた。
(もっと、仲良くなりたい……)
いつもの癖で首を横に振ろうとして、踏みとどまる。
(が、がんばれ……あたし……)
紙で顔を隠しながらも、筆を走らせる。
それは普段の羽海とは違う対応で、セララは一瞬きょとんとしたが、やがて差し出された紙に、瞳を丸くして、輝かせた。
(反応、してくれた……!)
拒絶でもあしらいでもない羽海の『答え』を、セララは丁寧に受け取って読む。
『お友達からお願いします』
(友達……! あれ、オレ友達以下だったの!?)
流石にショックは受けた。だが、それ以上に喜びが勝った。
そんなことはどうでもいい。ただただ、一生懸命にセララと向きあおうとする羽海が、可愛かった。
「~~っ羽海ちゃん、大好き!!!」
「ッ……!」
ハグは許してくれませんでした。
だけれどこの日、二人の心は確かに近くなったのだ。
お友達からはじめましょう。少女の踏み出したその一歩は、ほんのささやかで、けれどとても大きな一歩だった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月12日 |
出発日 | 07月19日 00:00 |
予定納品日 | 07月29日 |
参加者
会議室
-
2016/07/18-23:21
アイリスさんの言葉が、曇り硝子越しの「本日のお悩み相談室」的に聞こえるのは、何故でしょうか。
うんうん、そういうことってよくあると思う。
「女装が趣味」が枕詞になることも、わりとよくあると思う。
プラン提出しました -
2016/07/18-22:47
そうなんです…女を磨くことが楽しくなってしまったらしくて、ことあるごとに女装したがるようになってしまって…
私、どうしたらいいか分からないんです、しくしく。
ラルク
「待てええええええ!!しらじらしい泣き真似すんじゃねぇ!!違う、趣味じゃねぇ!!
この女が俺に押し付け(ドゴッ)ぐ、ぐふっ……」
ごめんなさい、ラルクさん、なぜか私の右手がラルクさんのみぞおちを殴りたがってしまって…こんなことって、あるものなんですね -
2016/07/18-13:03
ひろの、です。
よろしく、お願いします。
……?
アイリス、さん。ラルクさん、は。女装が趣味なんですか?
(本人に怖くて聞けず、アイリスさんに聞く -
2016/07/18-11:41
って違う!!
唐突すぎる名誉毀損じゃねぇか!!
趣味じゃねぇ、趣味じゃねぇって!!アブノーマルな趣味の変人だと思われるだろうが!!!?? -
2016/07/18-11:40
-
2016/07/18-07:21
どうも、私です。
はーちゃんと一緒にのんびりーとするつもりだよ、よろしくねー。
あ、女装が趣味(枕詞)のラルクさんだ。 -
2016/07/17-21:55
はろはろ~可愛い羽海ちゃんとセララ君だよ~!
よろしくね! -
2016/07/17-20:53
アイリス・ケリーとラルクです。
笹舟にどんな願い事にするか、考えるのも楽しいですね。
それではどうぞよろしくお願いいたします。 -
2016/07/16-13:07
どうぞ、よろしくお願いします。