想い、せんこうはなび(寿ゆかり マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 任務の合間に訪れた小さな村。そこには、『線香花火職人』が住んでいるのだという。
 今では線香花火を作る技術はごく一部の者にしか伝わっておらず、
 大半の物が工場での大量生産。
 そのことを知っていたあなたは、一本一本を手作業で仕上げる線香花火に自然と興味が沸いた。
 工房に隣接する販売店を覗き込むと、小さな老婆がいるではないか。
「いらっしゃい、よく来たねェ」
 ゆっくり見て行っておくれ、という老婆に頷き、あなたは
 桐の箱に入った線香花火を見つめる。
「それが気になるのかい? それはね、うちでしか作っていない、想い花火だよ」
 変わった名前の花火に、あなたはひとつ、瞬きをする。
「その人の想いに反応して、燃え方が変わる不思議な線香花火なんだ」
 別に特別な作り方をしているわけじゃあないのだけれどねぇ、と老婆は笑う。
「でも、じいさんが私の事を考えながら作ったなんて言うからさぁ、はは」
 お一つどうだね、と問われ、あなたは桐の箱に手を伸ばす。
 たった一本しか入っていない線香花火の柄は虹色。
 解説の紙には線香花火の燃え方が記されていた。
「今夜は月の無い夜だ。暗闇に良く映えるだろうね」
 どうしようか、パートナーと顔を見合わせて、あなたは少し考えるのであった。

解説

●想い花火を楽しもう。
 一本につき、300Jr消費致します。神人、精霊で一本ずつ購入してもいいですし、
 二人で一つを一緒に持って楽しむのも良いです。
 購入したら、夜にこの村の公園で楽しむことができます。バケツやろうそくなどは
 村が貸し出してくれます。

●想い花火について
 一般的な線香花火のように、
 牡丹=「玉」ができる。
松葉=玉が激しく火花を発する。
柳=火花が低調になる。
散り菊=消える直前。
 の順で燃えます。もちろん、松葉の時点でぼとっと落ちるかもしれません。
 想いに反応して燃え方が変わる花火なので、
 強い恋心や嫉妬心など、激しい思いがある方は松葉の燃え方が激しくなります。
 逆に、穏やかな愛情や友情、優しさをもってパートナーと接している方は
 ちりちりと優しい燃え方になるでしょう。
 二人で持って火をつける場合、どちらの気持ちが反映されるかわからないので
 予想外の燃え方をしてびっくり、なんていうこともあるかもしれないですね。
 それぞれ持って楽しむ場合は互いの気持ちを見ることができるので面白いかもしれないです。



ゲームマスターより

一番好きな手持ち花火は線香花火です。
打ち上げならスターマイン、しだれ柳が好きです。
仕掛け花火とかキャラ物の花火でさかさまになるのも風流風流。
(猫のキャラ花火を豚だと思ってた私を許してくれ)

それでは、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)

  想い花火か
それぞれ購入してみるか
どうなるか見物だな

※銀雪のを見て
相変わらずブレないな
いや、正直なのはいい事だな

※自分のを見る
(ほう…。激しくはないが、弱くはない。松葉が銀雪より複雑だ。そして、柳は長い、か)
…なるほどな(喉を鳴らして笑う)
何がおかしい?
いや、同じ線香花火でも本当に違うものだと感心していただけだ
短い中に世界があって、良い時間だったと思わないか?
……まぁ、お前はそう言うだろうな
いやいや、褒めてる(言いながら笑ってる

さて、線香花火も終わったし、戻るか

※就寝前
しかし、世の中解らない
案外普通に好きだったとはな
弟達よりヘタレ過ぎるのが勝因か
が、面白いので、まだ教えない
せいぜい頑張れ、くくく


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
想いが反映される花火ですか……。
少し緊張しますね。


行動
花火を二本購入、水などを準備して夜の公園へ。

私が持つ想い花火は、玉がすぐに落下しました。地面の上でくすぶりながら、のたうち回るように弾けて火花を散らす。もがいているように見えます。
見るに耐えず、黙って水をかけて消火します。

すみません。こんな風に燃えるとは思わなくて。
どう見ても、想い花火の正しい燃え方から逸脱していました。
これもアッシェン家の女の業なのでしょうか。

精霊の言葉で気づく。
私は病的な愛を避けようとするあまり、愛の負の面を無意識に完全排除しようとしていました。清濁併せ呑むことも必要です。想い花火は忠告してくれたのかもしれませんね。


シェリー・アトリール(柳楽 源)
  どう燃えるのでしょうか、楽しみですね
1人1本ずつ購入
どうなるのかわくわく

では順番に?それとも一緒に?
私は1人ずつじっと見守りつつの進行でも構いませんが
では一緒に
苦笑する様がなんだかおかしくてくすくすと笑い

隣り合ってしゃがみ火をつける
牡丹、松葉ときて予想外に激しく燃え、驚いて思わず手を離す

あら?
首を傾げつつ完全に地面に落ちた花火をしばし見つめ
その後は精霊の花火を微笑ましく思いながら眺める
柳楽の方は優しい燃え方ですね

後片付けをしながらとりとめなく喋る
正直、予想外でした
何事もなく燃え尽きるのだろうなと
驚きはしましたがいい収穫となりましたね
最有力なのは好奇心だと思うのですが、どう思います?


マユリ(ザシャ)
  一本ずつ
なんだか楽しそうですねっ
えーと、確か線香花火って動いちゃダメなんですよね
動かずじっと花火を見る
え、そうですかね?

ザシャとはもう少し仲良くなれたらな、と考えており、
パートナーとして大切な存在であり本来の性格もあって、優しい燃え方―だが、松葉の時点でぽとりと落ちる
動かなくても消える時は消えちゃうんですね
おおう…ザシャの方はなんだか激しいです…?
…僕、なにか忘れてます、かね?

それはまた難しい質問ですね…
困ってるから助けた、とか…? かなり単純で僕だったらそうするかなぁくらいなんですけど
やっと、笑ってくれましたね。ずっと浮かない顔してるから心配だったんです
え? それは勿論、大切なパートナーですから


Acorn168(Huang710)
  花火を3本買い、1本をファンに手渡し
村の公園を歩きながら、風が無くて暗い所を探す

周りに人がいないのを確かめ、ファンに先を譲った後、
片手で花火を2本持ち、燃えるまで点火させる
左右1本ずつ花火を持ち、燃え方や色の様子を交互に見つめる
ファンとお互いに、松葉の様子を眺めていたけど、
火が消えない内に声をかけた

「一緒に持ちましょう」
想い花火だからこそ、出来る事じゃない?
だから、片方の花火を差し出す

その花火を持ったまま、三角形の点を描くように全体を見渡す
自分の手で持った1本、ファンが持っとる1本、
そして、お互いの手で持っている1本がどんな色をしているのか覗き込む

散り菊から消えゆく迄の、時の流れを楽しみながら



 それぞれ一本ずつ想い花火を購入したマユリとザシャは、公園に入るとろうそくに火をつけ、バケツに水を汲んだ。
「なんだか楽しそうですねっ」
 マユリはウキウキした顔でザシャを振り返る。その様子に、ザシャはこくりと一つ頷き、花火を手に持った。
「えーと、確か線香花火って動いちゃダメなんですよね」
 しゃがみ込むと、そーっとそーっとろうそくに花火の先端を近づけ、火をつけるマユリ。動かずにじっと花火を見つめていると、ザシャはかちこちになっているマユリがなんだか不思議でこう言った。
「……動いたら消えやすくなるけど別に、そうやって石像みたいに固まらなくても……」
「え、そうですかね?」
 ひとつ、頷く。
「まあ……どっちにしろ、落ちなかったら良いんだし」
 ザシャも、マユリに続くようにして花火に火をつける。
 どんな燃え方をするか、二人はそれぞれ花火を見つめた。
 マユリの方の花火は、穏やかにパチパチと音を立てて弾け始めた。ザシャとはもう少しなかよくなれたらな、と思っていた彼女の、思いやりの心が反映されたかのような燃え方だ。それは、ザシャをパートナーとして大切に思う気持ちを映した結果でもあるが、それだけではなく元来彼女が持つ優しさもあるのだろう。
「あっ」
 ぽとり。松葉の時点で、火が落ちてしまった。少し残念そうにマユリは笑う。
「動かなくても消える時は消えちゃうんですね」
 そして、ザシャの方へと目を向ける。
(おおう……ザシャの方はなんだか激しいです……?)
 バチバチッ、と激しく音を立て、松葉は四方八方へと火花を散らす。ザシャは顔色を変えずにそれを見つめていたが、その心にはぶすぶすと燻る想いがあった。
 ――何故、自分を思い出してくれないのか。
 ……マユリとは、幼少時に会っている。けれど、こうしてウィンクルムとして再会したときに彼女は自分の事をちっとも覚えていなかったのだ。顔見知り程度だった。仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。それでも、やはり堪えるものがあった。その思いが、そのままこの花火ににじみ出たのだろう。
(……まあ……だろうなとは思ってたけど)
 ザシャは、その異様な燃え方に驚くどころか冷静だった。想定の範囲内だったから。
 ぽつり、問う。
「……なあ。やっぱり……覚えて、ないのか……?」
 きょとんとした顔で、マユリは首をかしげる。
「……僕、なにか忘れてます、かね?」
 その時、ぼとり、と火が落ちた。
 落胆するわけでも、イラつくわけでもなく、ザシャはバケツに燃えカスを突っ込むと不意に切り出した。
「……関係ないけど。子供の頃、尻尾ないから苛められてたことがある」
 シャム猫のテイルスである彼は、何故か生まれつき尾がない。そのことで、からかわれたことがあったのだ。
「その時、オレを助けたヤツが、いる……」
 その助けてくれたヤツ、それは、他でもなくマユリなのだけれど。
顔を上げ、マユリの目を見て、問うた。
「オマエには、分かるか? なんでそいつがオレを助けたのか」
 うーん、とマユリは考え込んでしまった。
「それはまた難しい質問ですね……」
 そして、一つの結論に至る。
「困ってるから助けた、とか……? かなり単純で僕だったらそうするかなぁくらいなんですけど」
 ふ、とザシャの表情が柔らかくなった。
「……オマエだったら……。そっか、そうすんのか……」
 薄く笑んだ彼に、マユリもにこりと微笑む。
「やっと、笑ってくれましたね。ずっと浮かない顔してるから心配だったんです」
「心配? なんでオレなんかを……」
 本当にわからない、と言った顔でザシャは首をかしげる。当然のようにマユリはさらりと切り返した。
「え? それは勿論、大切なパートナーですから」
「大切なパートナー……」
 その言葉を、まるで初めて聞いた言語かのようにザシャは繰り返した。
(コイツにとってオレは、大切?)
 覚えていなくても……。複雑な思いが、胸を占める。
 夏の風が、二人の間をすり抜けて行った。


 花火を三本購入したAcorn168は、一本をHuang710へと手渡した。
 夜の公園を歩き、風が当たらない場所を選ぶ。塀の陰なんてちょうど良さそうだ。周りに人がいないのを確認すると、ろうそくに火をつけ、エイコンはファンに先を譲った。
(想いに応じて燃える花火、か)
 ろうそくへと手を伸ばし、花火に火をつけるとファンははたと思う。
(ばってん、もし、喜怒哀楽の想いがいっちょん無か時は、松葉で終わるの?)
 その疑問に答えることはなく、花火はぱちぱちと静かに燃えはじめる。
 エイコンも自分の片手に二本持った花火に点火すると、それを今度は一本ずつ左右の手に持ち替えた。互いに互いの花火の燃え方をじぃっと見つめていたが、やがてエイコンは火が消えないうちに、弱まらないうちにと両手の花火をこちらへ見せつけるようにして持ち上げる。
 ずい、と左手に持った方の花火を差し出され、ファンは首をかしげた。
「……何ばしとっと?」
 両手に花火を持った状態で微笑んでいるエイコン。何をたくらんでいるのやら。
 やおら差し出された花火に困惑し、ファンは問うた。
「どがんしたらよか?」
「一緒に持ちましょう」
(こい、自分が両手に線香花火ば持っとるの良かこつに、人ばせびらかして楽しんどんじゃなかと……)
 てっきりからかわれていたのかと思っていたが、そういう趣旨ではないらしい。ほら、と促され、ファンはエイコンの手に己の手を重ねるようにして線香花火を一緒に持つ。
「想い花火だからこそ、出来る事じゃない?」
 にこ、と笑った彼女の笑顔がなんだか怖い。
 エイコンは、自分が1人で持っている右手の花火、左手とファンの手が共に持つ花火、ファンが1人で持っている花火をちょうど三角形の頂点をめぐるように順繰りに見渡す。
 お互いの手で持っている花火がどんな燃え方をしているか、覗き込むエイコンは、なんだか楽しそうだった。
 からかわれているのか、そうでないのか。特に疑う余地もなかったので、ファンはただただ火が消えないようにと念じながらエイコンの手に重ねた己の手を揺らさぬよう花火を見つめる。純粋に、花火は綺麗だ。長く楽しみたいというのは嘘じゃない。
「二人で持ったらどうなるか、気にならんかった?」
 ニヤニヤしながら尋ねてくるエイコン。
 ――やっぱりからかわれていたか。
 ため息が出そうになるのを抑え、ファンはなんの気は無いと言うようにサラッと答える。
「別に……どがん燃え方や色になるかは、おいも気になったがと」
 だからこうして乗ってやってるとでも言いたげな口調にエイコンは満足そうに笑った。
「ふふ」
 花火は徐々に勢いを失い、散り菊へ。
 その火の花弁が散りゆく最後の一枚まで、時の流れを楽しむのであった。


「想い花火、何か素敵だね」
 銀雪・レクアイアは、リーヴェ・アレクシアとそれぞれ一本ずつ購入した想い花火を手にニコニコしている。どうなるか見物だ、とリーヴェは小さく頷いた。
 先に火をつけたのは、銀雪。パチパチっと火花がはじけ、やがて松葉へと移り変わる。
 ――バチッ! バチバチバチバチバチバチ……
 力強く広がる火花に銀雪は目を丸くして驚いている。リーヴェはぽつりと呟いた。
「相変わらずブレないな」
「え、俺がブレないってどういう事?」
 首をかしげる銀雪に、リーヴェは『そのままの意味だ』と視線で訴える。
「俺がリーヴェ好きなのは365日24時間変えられないし、無理だけど」
 無駄にキリッとして切り返す銀雪に薄く笑いが零れる。
「いや、正直なのはいい事だな」
 頷いた銀雪の花火は、やがて柳へと移り変わる。優しく燃える光を見つめながら、次はリーヴェが自分の手にある花火へと火をつけた。ジジッと音を立て、牡丹は緩やかに松葉へと変わる。
(ほう……。激しくはないが、弱くはない)
 リーヴェは興味深そうに花火を見つめ、少し不思議に思った。――松葉が銀雪より複雑だ。緩急を付けながら変わった形に弾ける火花が、少しずつ勢いを落としてゆき、あっという間に柳へと移り変わる。銀雪のものより、柳の時間が長いようで、リーヴェはなるほどな、と喉を鳴らして笑った。
(リーヴェが何か納得して笑ってる……)
 銀雪はその様子に、ふわっと笑った。
「何がおかしい?」
「ううん、リーヴェがなんだか楽しそうだったから。どうしたの?」
 散り菊を見届けた後の銀雪は、そっとバケツの水に燃え残りをつけながら問う。
「いや、同じ線香花火でも本当に違うものだと感心していただけだ」
 うん? と銀雪は首をかしげた。
(……本当に、それだけかな)
「短い中に世界があって、良い時間だったと思わないか?」
 薄明りの中淡く笑む彼女に、銀雪は思うまま答える。
「この時間に関係なく、リーヴェが隣にいれば全部良い時間だよ?」
「……まぁ、お前はそう言うだろうな」
 それは、彼にとっては嘘偽りない真実なのだが、リーヴェはクス、と一つ笑う。
「あ、笑った……!」
「いやいや、褒めてる」
 肩を揺らしながらそう言うリーヴェに、褒められている気がしないよと眉を下げる銀雪だが、すぐに彼も笑顔になった。
(リーヴェが笑ってるからいいかな)
 こんなに、穏やかな時間ならば。
 ――二人は、宿へと戻ると寝支度をして布団へ入る。
「それじゃあ、おやすみ」
(線香花火に照らされるリーヴェも綺麗でかっこよかったなぁ)
 銀雪はぽーっとしたままだ。暗がりの中、強弱のある光に照らされる彼女の顔を鮮明に思い出せる。
「銀雪」
「んっ? あ、うん! おやすみなさーい」
 また、何かトリップしていたな。リーヴェはすぐに察して苦笑する。灯りを消し、横になる前に彼の顔を見てリーヴェはまた小さく笑った。
(しかし、世の中解らない。案外普通に好きだったとはな)
 あの優しい花火の燃え方は、意外だった。自分の持っていた花火の燃える様を思い出し、リーヴェは小さくため息をつく。
(弟達よりヘタレ過ぎるのが勝因か)
 ……が、面白いので、まだ教えない。銀雪も、気付いてはいないだろう。
(せいぜい頑張れ)
 どこかあどけない銀雪の寝顔をちらとみやり、リーヴェはまたひとつ、笑いを零すのだった。


 ラダ・ブッチャーは、興味深そうに桐の箱を覗いた。
「へえ、職人さんの手作り!」
 エリー・アッシェンも頷き、手に取る。
(想いが反映される花火ですか……。少し緊張しますね)
 二人顔を見合わせ、欲しいという意志を確認し合い、二本購入する。
 訪れた月の無い夜に、二人はワクワク半分、緊張半分で公園へと向かった。水道でバケツに水を入れ、エリーはラダと並んで線香花火の桐の箱を開ける。ろうそくを先にラダへと渡すと、ラダは静かにその火を花火の先端につけた。
「派手な花火も好きだけど、こういう落ち着いた花火も良いもんだねぇ」
 ぱちぱちっ、と音を立てて玉がまぁるくなっていく様を、ラダは嬉しそうに見つめている。穏やかに優しく燃えながら松葉に移行する様は、まるでラダの人柄とエリーへの温かい愛情を表しているようだ。
 ばちん、と火の粉が遠くへ飛ぶ。
「あっ、エリー、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
 エリーがやけどしていないのを確認すると、ラダは苦笑する。
「なんだか、今の火の飛び方……浮気症だって指摘されてる気がする!」
 本当はグラマーな体型の美女が好きなラダは、ハッキリ言ってエリーは好みのタイプではない。それでも、彼女の想いに引っ張られるように両想いとなったのだ。
「うふぅ……それは心配ですね」
 そう言いながらも、エリーの顔に不安などは宿っていない。彼を、信じているから。
 エリーも、続いて花火に火をつける。丸く牡丹が出来上がった直後。
「あ」
 ぽとり、とまんまるの火の玉が地に落ちる。石畳の上に落ちた火の玉は、ぶすぶすと燻り、そのままのた打ち回るようにバチバチと音を立てながら地を転げまわって火花をまき散らした。
「……ッ!」
 ――パシャン。
 まるでもがいているかのようなその様に、見るに堪えずエリーは無言で水をかける。
「エ、エリー……?」
「すみません。こんな風に燃えるとは思わなくて」
 ギュッと手を握り、震える声で告げる。
「どう見ても、想い花火の正しい燃え方から逸脱していました」
 これもアッシェン家の女の業なのでしょうか。そう続け、エリーは俯く。
 ――アッシェン家の女の業。それは、病的な愛に身を滅ぼすというもの。ラダは以前それを聞かされていたので、知っていたが、うーんと首をかしげる。
「逸脱ねぇ」
 エリーは俯いたままだ。ラダはそのまま、続ける。
「暴走されても困るけど、想いに正解とかはないんじゃないかなぁ?」
 その言葉に、顔を上げたエリー。ラダは柔らかな表情で告げた。
「ボクはそもそも、愛が綺麗で崇高なものとは思ってないからねぇ」
 あ……、と小さくエリーの口から声が漏れる。
「嫉妬や渇望。二人きりの世界に酔って周りの迷惑を顧みないとか、よくある話だし」
 彼の穏やかな声が、そのままエリーの中にスッと入ってくる。
 そうか、……そうだったのかと、一つの解が浮かび上がった。
「愛に振り回されるのも、正しさにこだわりすぎるのも、考えものじゃない?」
 エリーは、頷き、ようやっと笑顔を取り戻す。
「そう……ですね。私は病的な愛を避けようとするあまり、愛の負の面を無意識に完全排除しようとしていました」
「うん」
 ラダは知っていたとでも言うように頷く。
「エリーは、そのままでいいんじゃない?」
 その言葉に、安心したように頷くとエリーは燃え尽きた火の玉をじっと見つめ、小さく呟いた。
「清濁併せ呑むことも必要です。……想い花火は忠告してくれたのかもしれませんね」
 そっと、自分の想いを振り返る。アッシェン家の女の末路を思うと、不安になるのは否めない。それでも、自分らしく愛することは後ろめたい事でも何でもないと、そう肯定されたようで、ふと胸の内が温かくなった。


「どう燃えるのでしょうか、楽しみですね」
 シェリー・アトリールは、想い花火を手にわくわくしながら夜の公園を歩く。
 その傍らには、あまり乗り気ではない様子の精霊、柳楽 源が苦笑を浮かべていた。
「楽しそうではあるけど、想いに反応するっていうのは少し恥ずかしいな……」
 風が来ない場所を選んでろうそくに火をつけると、シェリーは源に問う。
「では順番に? それとも一緒に?」
 二人で一本ずつ楽しもう、と買ってきた花火を手渡され、源は答えた。
「どちらでも……」
「私は1人ずつじっと見守りつつの進行でも構いませんが」
 にこ、と笑ったシェリーの顔に、言いかけた言葉を訂正する。
「見られながらは恥ずかしいかな」
 そう苦笑する彼がなんだかおかしくて、シェリーはくすくすと笑いながら了承した。
「では、一緒に」
 源の隣に、シェリーはぴったりとくっついてしゃがみ込む。
「?」
 思っていたよりも近い位置に、源は少し驚いて彼女を見遣る。
「離れていたら、良く見えないかもしれませんから」
 見るならば正面からの方がいいのでは、と思っていると、シェリーに早く早くと急かされた。促されるまま、源もしゃがみ込んでろうそくへと花火を近づける。
 シェリーが火をつけた花火は、綺麗な球型の牡丹となってパチパチと燃えはじめた。が、……松葉への移行が、異常に早い――!
 ――バチッ! バチバチ! と、シェリーに火の粉をかけんという勢いで燃え上がる。
「……ッ!!」
 予想外の激しい燃え方に、シェリーは思わず手を放してしまった。軸ごと、花火は地に落ちて消えてしまう。
 順調に燃えると思っていた傍から激しく火花を散らして燃え上がった花火、そして、それを取り落してしまった神人。源はその一連の流れにぽかんとしてあっけにとられてしまった。
「あら?」
 首を傾げつつ、シェリーは自分が落とした花火をみつめる。やがて、その視線を精霊のほうへと向けてから、その手元の花火へ移した。
 ちりちりと鈴が鳴るかのような優しい燃え方で、安定感がある。非常に長持ちで、柳への移行へも時間がかかっているようだ。そんな燃え方をシェリーは微笑ましく見つめていた。まるで、彼の人柄をそのまま映したかのよう。
「柳楽の方は優しい燃え方ですね」
 不意にそう告げられ、源は黙ってしまう。
 直接そう言われてしまうと、改めてこれは恥ずかしいと感じてしまった。
 ようやっと、彼の花火も終わりを告げる。散り菊の最後のひとひらが地に落ち、火種がぽとりと落ちるのを確認すると、二人は後片付けへと入った。とりとめもない話をしていたシェリーが、いきなり切り出す。
「正直、予想外でした」
「何が……?」
 問うと、シェリーは笑う。
「何事もなく燃え尽きるのだろうなと。……驚きはしましたがいい収穫となりましたね」
「収穫?」
 ゴミを拾って袋の口を結びながら、源は首をかしげる。
「最有力なのは好奇心だと思うのですが、どう思います?」
 えっ、と声を上げそうになった。
(それを俺に直接聞くのか)
 面喰ってしまうが、源はうぬぼれる事も出来ないので、いつも通りの曖昧な苦笑で返す。
「多分そうかな」
 あの燃え方が何を指していたのか、――まだわからないけれど。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月07日
出発日 07月12日 00:00
予定納品日 07月22日

参加者

会議室

  • シェリーと、パートナーの柳楽です。
    よろしくお願いします。

    こういった試してみるまで効果がわからないというものは、とても興味を惹かれます。
    どう燃えるのか楽しみですね。

  • [3]エリー・アッシェン

    2016/07/10-21:40 

    うふふ……。エリー・アッシェンと精霊のラダさんです。よろしくお願いします!

    夏らしい陽気になってきました。線香花火を楽しむのも、風流で良いですね。
    どんな風に燃えるのか、ちょっと不安でもありますが……。

  • [2]Acorn168

    2016/07/10-19:21 

    夏になりましたね、先輩方こんばんは。

    人の想いに反応し、どんな風に燃えるかは私も楽しみです。
    お互い素敵な想い花火が見られると良いですね。

    短くなりましたけど、以上で精霊のファンと私エイコンからでした。

  • [1]マユリ

    2016/07/10-10:46 

    どうも。マユリとザシャです。
    想い花火、どんな燃え方になるか楽しみですね、始める前からわくわくしていますー
    よろしくお願いしますね


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