暖かな温もり(草壁楓 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●どうなってるの?
 初夏の日差しが眩しい空の下、買い物を終え帰路につく。
 帰宅し目に留まったのは椅子の上に丁寧に置いてあるぬいぐるみ。
(今までうちにあっただろうか……)
 と思案するが、記憶にない。
 パートナーが置いていったのかと手に取って抱きかかえてみるが、わからない。
 よくよく観察していると、なんだかパートナーに似ているようにも見えてくる。
 そういえば、家で一緒に食事をしようと思って買い物をしてきたのだが、居るはずのパートナーの姿が見えない。
 どこに行ってしまったのだろうか。

 その数分前、家で買い物に行ったパートナーを待っていた。
 そう待っていたのだが……少し喉が渇いてきたので昨日試供品として配られていた清流飲料水を飲んだ。
 とても軽率、そう、こんな展開今まであったはずだと誰かにつっこまれてもいいほどに。
 するとやはり突如眠気が襲ってきてほんの少しだけ眠ってしまった。
 ほんの1分……起きなければと身を起こそうとしたが、なぜか体がいうことを利かない。
(おかしいな……)
 なんだか視線もおかしい気がして辺りを見回そうとしたがそれもできない。
(なんだ?)
 回りの風景といえば大きな木の板があること。
 たぶん机。
 それしか見えない。
(どうなってるんだ!!!!)

解説

 パートナーがぬいぐるみになっちゃったってお話です。
 ぬいぐるみになってしまった方はその効果が切れるまで何もできません。
 出来るといえば、考えることや思うことだけです。

 はたまた、なっていないほうはそのぬいぐるみを好きに扱ってかまいませんが、破いたり
 どこかのパーツを取るなどの壊す行為は禁止とします。
 人でやったら大惨事どころか大事件の勃発ですので。

 解けた後も描写もしますのでその後どうなったかも記載してくださいませ。

 ●書いていただきたいこと
  ・どちらがぬいぐるみになったか
  ・ぬいぐるみに何かをしたり話したりするか。
  ・ぬいぐるみになった方はどんなぬいぐるみで、パートナーに何かされたことで何を感じたり思ったり考えるか。
  ・ぬいぐるみの効果が解けた後お互いどうしているかどんな会話をするか等
  ・アドリブがNGな場合はそのことも記載ください。
 
 買い物してきていますので300ジェールいただきます。

ゲームマスターより

 男性側二度目となります、草壁 楓でございます。
ご閲覧誠にありがとうございます。
寝てもよし、抱っこするもよし、愚痴吐いてもよしです。
プラン次第ではコメディーにもなったり切なくもなったりとさまざまになりそうですので楽しみです。
それでは宜しくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  遊びに行く孤児院の子供達を見送り、ほっと一息
一人になるからと彼に連絡を入れたあと飲み物を口にする

体が動かないし、声も出せない
もうすぐラセルタさんが来るのにどうしよう?
いつもの数倍大きく見える彼を驚いて見上げる
うさぎ?俺の事を言ってるの?
触れる指先、撫でる掌が優しくて恥ずかしい
裏声に思わず吹き出す
…いつもぬいぐるみに独り言、言ってるのかな(ちょっと心配

席を離れた際、元に戻る
とても顔が熱い
でも、それよりも今は早く言わなくちゃ(追いかけ

ラセルタさん!
返事なんだけれど。同棲の。
…不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします(頭を下げ

ケーキに合う紅茶も淹れないとね
ふふ。口の軽い3号が教えてくれたんだよ、なんて


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  *ならない方

ワラビモチを買ってきたからランスを呼ぶ
返事が無い…??

ぬいぐるみ?
代りに置いてったんだな
持ち上げて眺める
ランスに似ているな(和む
ワザワザ探してきたのか
家ではズボラなのに外ではマメで外交的なんだよなあ(ふふ

服に感心し関心
縫製を確かめる
脱がしてみる
可愛いな(頭撫で

ランスが帰るのを待ちつつ
鶏肉が安かったとか今夜は何が食べたいんだとか話しかける

帰ってこなくて一寸寂しい内心
ぬいぐるみを抱きしめる
*口ではあのバカとか悪態

表で物音
事故かと一寸慌てて見に外に出る

どこに行ってたんだ?!(安堵
積極的な行動に反射的に自然に手を背中に回す
それに気付いて慌てて離れようとするけど
真剣な様子にぎゅっと受け入れる


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  帰ってきたらラキア居ないし。
お出迎えしてくれた猫達にせかされるままリビングに入ったら「猫が増えてる!?」とビックリしちまったぜ。
撫でてみたらぬいぐるみじゃん?
長毛ゴージャスなラグドールじゃん。
クロとトラが「みゃー」とぬいぐるみにふみふみ。
バロンは毛づくろい?ぬいぐるみに乗ってすりすりしているし。毛のふわふわぶりについ持ちあげて毛の中に顔をうずめた(猫飼いあるある)。
「ん?ラキアの香りがする?」くびかしげ。
「ラキアがドコ行ったか知らない?」
ぬいぐるみ抱きしめて、ナデナデして聞いてみよう。
「ウマいケーキ買ってきたのになー」

ってなんでラキアが俺の腕の中に!?(喜
まあいいか。
ケーキ一緒に食おうぜ?(笑


セラフィム・ロイス(トキワ)
  ■チャイムを鳴らし裏手から
トキワ…?戻ったよ
画家だからって買出し頼まないで運動もしなよ
…?出掛けたのかな

(絵増えたな。画材も増えててタッチも多彩になって)
椅子に緑の…なんだろう…蛇のぬいぐいみ?
ぷっ)趣味?モデルに買ったのかな?
可愛い(首に巻き)本物は触れないけどこれなら。今度買おうかな
トキワっぽいし

■時間があれば作り。または調理済みを置き(メモ「肉じゃが食べて」
タイガに食べさせたくて料理はじめたけど
トキワにも栄養とってもらわないと


トキワから離れた方がいいのかな。母さんに似てる事で傷つけてるのなら(依頼2
年配になるまでは

!?トキワがぬいぐるみだったの


…帰る、ね
■呆然。一人になったら知らず涙


楼城 簾(白王 紅竜)
  (眉を顰め)
紅竜さんがいない?
明日を考えれば帰宅はない。
彼は自分の仕事とその心に忠実、そして真面目な男だ。
僕に傅く事しか考えない者とは違う。
傅く者は勉学と世渡りには長けるが賢くない。
そういう連中は利用する価値にもよるが必要以上に接近させては危険だね。
彼は僕に利用されないからいい。
(ぬいぐるみに気づく)
紅竜さんに似ているな。
(頭を優しく撫でる)
今の言葉は彼には内緒にしててくれ。

(目の前で戻った)
本人だったとはね。
精霊相手に油断は禁物って所かな。
ま、君の職務に影響はないよ。
利用しないのか?
されないからいいんだよ。
跪いて僕の靴を舐める奴は僕の契約精霊になるに値しない。
君はそうじゃないからいい(微笑)


●蛇のようなハリネズミ
 
 あまり眠っていては買出しを頼んだ神人セラフィム・ロイスが帰ってきてしまうとトキワは起き上がろうとしていた。
(夢か?)
 世界が反転し身動きが取れない……自分の部屋なのは間違いない。
 心当たりがあるとすればあの飲み物。
(飲料水のせいか?)
 困ったぁ、とそのまま考えるが答えは出ないだろうと、「ま、その内戻るだろ」と考えた。
 チャイムがなる。
 返事がなかったのでセラフィムは周囲を見回している。
「画家だからって買出し頼まないで運動もしなよ」
 この部屋にトキワが居るはずだとそのまま話している。
(おーい助けてくれー)
 なんだか少し棒読みなそのSOS。
「……?出掛けたのかな」
 もちろんセラフィムには聞こえない。
 部屋の中を見回ると絵画にまつわる数々の物が目に入る。
(絵増えたな。画材も増えててタッチも多彩になって)
 絵を見つけると近寄り青色の瞳が優しくなる。
「椅子に緑の……なんだろう……蛇のぬいぐいみ?」
 その絵の横にある椅子を見ると緑色のニョロンと舌を出しつぶらな瞳の蛇のぬいぐるみを持ち上げる。
(うお?!)
 突如持ち上げられてどうなっているのかと慌てるトキワ。
「趣味?モデルに買ったのかな?」
 セラフィムに笑いが込み上げる。
(また可愛げのないものになっちまったな)
 自分がどうなっているか理解したトキワは内心で呆れる。
「可愛い」
 そう言ってトキワぐるみを首に巻く。
「本物は触れないけどこれなら」
 セラフィムは気に入ったようで、トキワぐるみの顔を覗き込みながら背中を撫でる。
(!?おまっ)
 その行動に焦りを感じつつトキワは笑顔を見せているセラフィムの顔を間近で見つめる。
(顔みれるからいいがな)
「今度買おうかな……トキワっぽいし」
(人の姿になったら抱いてるのか何なのか)
 この首巻きは自分が戻った場合どのような状況なのかと考えてみる。
 たぶん……首に巻かれている、想像しちゃだめだ!?
 キッチンへと移動し買出ししてきたものを要冷蔵は冷蔵庫へ、それと一緒に自宅で調理してきた肉じゃがを出すと一緒にしまう。
「タイガに食べさせたくて料理はじめたけど……トキワにも栄養とってもらわないと」
 近くにあったメモ用紙に「肉じゃが食べて」と書く。
(わかってる。最近取るようにしてる)
 セラフィムの気持ちは理解しているとトキワは心の中で呼応した。
 居間に戻り椅子に腰掛けて暫く待つことにしたセラフィムは蛇のぬいぐるみを隣の椅子にそっと置く。
 少しの間黙っていると、トキワと自分の母との関係を知った時のことを思い出す。
「トキワから離れた方がいいのかな。母さんに似てる事で傷つけてるのなら」
 トキワぐるみがいるとは知らずにそう呟くようにセラフィムは言う。
「年配になるまでは」
 記憶の中ではずっと母は若い姿のまま、年配になれば母には似ていないだろうと考えた。
「そういう問題か!?」
 声と同時にぬいぐるみがトキワへと変化する。
「!?トキワがぬいぐるみだったの」
 トキワぐるみを置いてあった椅子にトキワがいる。
 椅子から立ち上がるとセラフィムと距離を取るトキワ。
「あー……いつからだ?聞いたのか……いやそれはどうでもいい」
 背中を向けながらトキワから少し冷たい声がする。
「分かってるなら話も早い……」
 セラフィムとは一切視線を合わせることない。
「近づくな」
 冷たく、いやどこか悲しげな声色。
 そう告げられたセラフィムは落胆し、手を強く握る。
「ウィンクルムとして変わらず居てやるから」
 トキワの声は少し優しげで、切ない。
「距離をくれ。今は一杯なんだよ」
 セラフィムには悟られぬように、苦虫を噛み潰す。
「……帰る、ね」
 セラフィムは憔悴しきった顔で立ち上がり外へと出る、そしてふと立ち止まる。
 その頬には、涙が伝う。
 呆然とトキワに言われた言葉が頭の中で何度も繰り返される。
 そんな様子のセラフィムを窓越しからトキワは見送っている。
「不器用なもんだ……」
 自分でも戸惑いがある。
「蛇じゃなきゃハリネズミだろうな」
 ハリネズミのように自分も相手も傷つけてしまうと。
 
●前足ふみふみ

 コロン、そんな効果音が付きそうな雰囲気でラキア・ジェイドバインは床の上に転がった。
 ラキアというよりはラキアぐるみ。
 転がった目の前には鏡があり、ラグドールのぬいぐるみになっている自身が見える。
 同居している神人のセイリュー・グラシアは買い物へと出かけている。
 どうしたものかと考えていると、飼い猫の黒猫のクロウリーと茶虎のトラヴァース、そして白手袋黒タキシード猫のバロンが不思議そうにラキアぐるみを見つめる。
 そっと近寄りちょちょいと突っつき危険がないことが分かると、鼻をピクピクと動かしながらラキアぐるみの匂いを嗅ぐ。
(匂いで何か判るのかな?)
 その猫達の行動を微笑ましく感じているラキアぐるみは、最初おもちゃにされるかもと内心ドキドキしていた。
 3匹の猫は匂いで分かるのか、ラキアぐるみにすりすりと頬ずりをすると前足を使ってふみふみを開始する。
(あ、幸せだね)
 胸、足、腕とあらゆるところをふみふみとしている猫達はラキアだと理解しているのだろう。
(まだ甘えたい年頃なんだね君達)
 3匹の前足ふみふみの心地良さに至福の時を感じている時、部屋の中にセイリューが入ってきた。
「ただいまー」
 セイリューの登場に前足ふみふみをやめて彼の元へとお出迎えに行く猫達。
「あれ?ラキアは?」
 辺りを見回すが、どうやらラキアはいないようだと買い物してきた物をキッチンの机へと置く。
 足元を見ると猫達が促すようにすりすりと寄ってくるのでセイリューはそのままリビングへと猫達の案内を受けてみる。
「猫が増えてる!?」
 リビングにコロンと横たわっているラグドールの猫に驚きを隠せずに近寄ってみる。
 フワッとした良い毛並みにセイリューは触れると、
「ぬいぐるみじゃん?」
 とその手触りを楽しむように数回撫でる。
「長毛ゴージャスなラグドールじゃん」
 嬉しそうにそのラキアぐるみをまた撫でる。
 クロウリーとトラヴァースが「みゃー」とラキアぐるみにふみふみを再開する。
「バロンは毛づくろい?」
 バロンはラキアぐるみに乗って今度はすりすりしている。
 毛のふわふわぶりに猫達にごめんな、と断りを入れて持ちあげる。
(セ、セイリュー!?)
 持ち上げられたことに驚くラキア。
 猫達もすりすりしたくなる毛並みだとセイリューは毛の中に顔をうずめた。猫を飼っている者にはよくある話。
(ちょ、セイリューまでくんかくんかしてくるの?)
 くんくんとセイリューはなんとなくラキアぐるみの匂いを嗅いでみる。
(動物か君は)
「ん?ラキアの香りがする?」
 首を傾げながらなんでだろうとラキアぐるみを見つめる。
(しかも匂いで何か判断しようとしないで!第一、そこ、お腹だし……)
 大汗をかく勢いでラキアぐるみは焦るが、ぬいぐるみになっている状態ではそれを表す手段はない。
「ラキアがドコ行ったか知らない?」
 優しくラキアぐるみを抱き締めるとそのフワッと心地良い毛並みを撫でながら、ラキアの匂いのするぬいぐるみに尋ねてみる。
(ギューって抱きしめられちゃって)
 とセイリューの香りを感じながら身動きが取れないしと焦りを内心抱えるラキアぐるみ。
「ウマいケーキ買ってきたのになー」
 ラキアが居ないことにしょぼんな顔をするセイリュー。
 その時ポンっと音がしそうな程にラキアぐるみはラキアへと戻る。
(このタイミングで元に戻るなんて)
 セイリューで抱き締められた状態で元に戻ってしまったラキア。
(ケーキ食べたいがために戻ったみたいな)
「ってなんでラキアが俺の腕の中に!?」
 さっきまでラグドールの猫のぬいぐるみを抱き締めていたはずだと、それがラキアに?と首を左右に何度も傾げる。
「まあいいか」
 少し考えたが、ラキアが目の前にいるのだからと笑顔を向ける。
「ケーキ一緒に食おうぜ?」
 嬉しそうな顔をしているとラキアも一緒に嬉しくなる。
 状態が状態のままなのでラキアはそっとセイリューから体を離していく。
「食べたいの?」
 もちろん!と満面の笑顔を向けるセイリューに、ラキアはクスクスと笑いながら、
「美味しい紅茶を淹れてあげるよ」
 とキッチンへと仲良く入っていった。
 猫達が「みゃー」と一鳴きするともう一眠りと体を丸くした。
 
●答えられない温もり

 ワラビ餅を買って帰ってきたアキ・セイジ。
「ランス!ランスー!」
 精霊のヴェルトール・ランスがいる筈なのだがどこを探してもいなければ、返事もない。
 一緒に食べようとお気に入りのワラビ餅の袋を見る。
 そんなランスは今……ぬいぐるみ。
(セイジー、俺ここー!)
 と叫んではいるもののそこはぬいぐるみ、気付いてはもらえない。
 自分を探しているセイジを見たいが身動きは取れない、少しずつこちらに近付いてくる足音がする。
「ぬいぐるみ?」
 椅子の上にちょこんと行儀よく座っているランスぐるみ。
 似ていると笑みを零し
「代りに置いてったんだな」
 そのぬいぐるみをひょいっと持ち上げるとまじまじと見るセイジは優しく微笑んでいる。
(うおっ)
 いきなり持ち上げられた力にちょっと驚くが、セイジの綺麗な顔は目の前。
「ランスに似ているな」
 そう言って和やかに微笑みジーと顔を覗き込んでくるセイジに、
(俺だよ、俺俺)
 自分ではいつもの仕草でセイジにアピールしているつもりらしい、ランスぐるみ。
「ワザワザ探してきたのか……家ではズボラなのに外ではマメで外交的なんだよなあ」
 とふふっと笑いが込み上げてくる。
 マメな性格で明るくて人懐っこい、そんなランスの笑顔が頭に浮ぶ。
(くそう、セイジ……気付いてくれよ)
 気付いてくれないセイジに対して悔しさが心に滲む。
「服はどうなっているんだ?良くできている」
 セイジは自身の好奇心を抑えきれず、ランスぐるみを持ち帰る。
 その時ランスぐるみが鏡に映る。
(え?俺ぬいぐるみ!?)
 ここで漸く自身の身に何が起こっているのかを把握できたランスぐるみは凍りつく。
 縫製を確かめようと一つずつ服を脱がすセイジ。
 やめてくれーともだもだしたいランスぐるみだが、もちろん抵抗なんてできやしない。
「へえ下着まではいてるのか」
 下着以外の服を脱がせ終わると、ランスぐるみはパンツ一丁になっている。
 ちょっと好奇心がでたのか、下着に手を掛けるセイジ。
(パンツ脱がすのは止めてくれぇ)
 心の叫び、お願いだセイジ様それだけは!!??
「いや、いかんだろう」
(た、助かった)
 なんて思いつつその先はどうなっているのか想像するランスぐるみは、いろいろとなっていては困ると考えるのはやめる。
 ショックを受けそうだ、と。
 そんなランスぐるみ遊びをしながらセイジはランスの帰りを待つ。
「今日は何が食べたいんだ?」
 なんていつものランスとの日常的なやり取り。
 ランスに似ているそのランスぐるみを見ていると、寂しさが込み上げそのまま胸の中へとギューと抱き締める。
「バカ……何で帰ってこないんだ……」
 悪態は付いているものの、その声音は寂しさが滲んでいる。
 ランスぐるみはセイジの様子に抱き締め返すことが出来なくて、悲しくなる。
 早く戻りたい、抱き締めたい。戻ったらすぐに抱き締めると。
 突然外から急ブレーキの音が鳴り響いてきた。
「ランスっ!!??」
 ランスぐるみを置いて急いで外へと向かうセイジ。
 セイジの姿が見えなくなった瞬間ランスぐるみはランスへと戻る。
 もちろんパンツ一丁。
「あのバカ!何処……に……」
 言いながら戻ってきたセイジの前にランスがいる。
「セイジ!!」
 笑顔を向けて飛びつくと身動き取れない程の強い力で抱き締めた。
「どこに行ってたんだ?!」
 安堵の息を漏らしながらセイジはランスの背中に手を回すと体を預けた。
 しかしなんで裸?と疑問も出ながら。
 にたぁーと不適な笑みを浮かべるとランスはそのままセイジの服を脱がしていく。
「ラ、ランス??」
「お返しだっ」
 何のことか全くわからないセイジはあたふたする。
 辛くて寂しかった想いをぶつけるように……ランスは服を脱がしていく。
 彼の真剣な様子にその想いを受け止める決意をしてセイジは黙って彼を見守っていた。

●利用されぬ者

 A.R.O.A.で研修を終えた後、楼城 簾と彼の精霊白王 紅竜は簾の家へ到着したばかりだった。
 明日は廉が祖父と共に外出するのだと聞き、そのため紅竜は廉の家のゲストルームに宿泊することになったのだ。
 必要な鍵を受け取ってくると廉はコンシェルジュのもとへ行くため出ていった。
 紅竜は荷物を置くと、喉が渇いたと先程帰路の途中で貰った飲み物を飲んだ。
 研修に疲れたのか、と意識が遠退いていく。
 廉はすぐに戻ってくるのだから眠らないようにと堪えてみたが、ほんの数分眠ってしまう。
(なんだ?)
 起き上がろうにも起き上がれない……自身の足を見ることが出来る体勢だった。
(ぬいぐるみだ)
 自身がぬいぐるみになっていることに、驚いていないわけではないが現実を受け止める。
 ドアが開く音と足音が近付いてくる。
「紅竜さんがいない?」
 眉を顰めつつゲストルームも見てみるがいないようだ。
 しかし、明日の予定を考えれば帰ったとは考えられないと顎に手を当てながら考える。
「彼は自分の仕事とその心に忠実、そして真面目な男だ。」
 そんな彼がどうして突如、
「僕に傅く事しか考えない者とは違う」
 独り言を漏らし始める。
「傅く者は勉学と世渡りには長けるが賢くない、そういう連中は利用する価値にもよるが必要以上に接近させては危険だね」
 独り言を話しながら部屋の中を歩き回る、紅竜を探しているようだ。
(相変わらず金はあっても人間性はな……いや傅くと言ったな)
 廉の独り言は独り言のはずなのに誰かに話しているのではと思うほどの言葉。
(彼ではなく親の金しか見てない連中が多かったという事か)
 独り言から紅竜は今まで廉がどのような状況で生き、生活してきたかが窺えた。
「彼は僕に利用されないからいい」
 少し廉の声音が優しくなるのを感じる。
 紅竜ぐるみを見つけた廉はこんなものあっただろうか、と思いつつ傍に近寄る。
「紅竜さんに似ているな」
 少し彼に似ていると頭を優しく撫でる。
「今の言葉は彼には内緒にしててくれ」
 言っている廉の撫でる手、掛ける声、向ける視線がいつもと違って柔らかく見たことのないような表情を浮かべている。
 するといきなりポンッと紅竜ぐるみは紅竜へと戻る。
「申し訳ないが本人だ」
 まだ廉の手は紅竜の頭の上、間違いなくぬいぐるみは本人だったのだと自嘲気味な笑みを浮かべる廉。
「本人だったとはね」
 さすがにそれは予想できなかったと両手をあげる。
「精霊相手に油断は禁物って所かな、ま、君の職務に影響はないよ」
 独り言を聞かれたこともさることながら、今まで見せたことのない自分を見せたはしたもののそれはそれと話す。
「私を利用しないのか?」
 独り言の内容を紅竜は思い出し、自分を利用しないと言っていた本心を聞き出そうとする。
「利用しないのか?」
 その言葉に廉は驚いたように紅竜を見る。
「されないからいいんだよ」
 微笑を浮かべているが瞳は真剣なようにも見える。
「跪いて僕の靴を舐める奴は僕の契約精霊になるに値しない」
 呆れたような表情に変わると、そんな精霊はいらないのだと右手の人差し指を振る。
(返答はクズで救いようがないが、この男は自覚しているのかもしれない)
 彼の内面に、少し興味を覚える紅竜はそのまま廉の話を聞く。
「君はそうじゃないからいい」
 紅竜にそうだろ?と問い掛けるように微笑を浮かべる。
「何を、見てきたのだろうな?」
 紅竜の返答に廉は、さあ、と微笑は浮かべたまま窓の外を見た。

●口軽3号

 羽瀬川 千代は孤児院の子供達を見送り一息ついていた。
 今日は孤児院に千代は一人でいるので精霊のラセルタ=ブラドッツに連絡を入れておく。
 少し待っているとラセルタから快い返事がきたので、安心し飲み物を飲んだ。もちろん道で配っていたものを。
「眠いな……」
 彼が来るとは思いつつ少しだけ眠ってしまった。
 ほんの少し眠ってしまった!と驚いて起き上がろうとしたが、できない。
(え?)
 声も出ない。
(もうすぐラセルタさんが来るのにどうしよう?)
 慌てているとケーキを購入し、それを片手に持ったラセルタが中に入ってきた。
「仕事を早く片付けたというのに居ないではないか」
 いつもなら来訪を喜んで「ラセルタさんいらっしゃい」とほんわか笑顔が迎えてくれるのだが、と。
 見回しながら歩いているラセルタが千代ぐるみに近付いてくる。いつもの数倍大きく見える彼に千代は驚く。
 ちょこんと座っている綺麗な緑色の兎に気付く。それが千代ぐるみ。
「千代うさぎ3号か、また増えたのだな」
 そう言って千代ぐるみを抱える。
(うさぎ?俺の事を言ってるの?)
 過去に1号は本人が兎になった時、2号はラセルタが誕生日プレゼントの白兎のことだ。
 千代ぐるみをもふもふ、なでなで。
「えらく撫で心地が良い」
 触り心地の良さにもふもふが止められないともふもふを続けている。
 触れる指先、撫でる掌が優しくて恥ずかしくなってくる千代。
(ラセルタさ……ん)
 更にラセルタは近くにある椅子に腰掛けると膝に乗せ向かい合う形で愛で始めた。
「なぁ3号」
「なーに。ラセルタ」
 突如として1人劇という名の独り言が始まる。
 裏声で千代ぐるみの声を出す。
「千代が帰ってこないぞ3号」
「どこに行っちゃったんだろうね」
 裏声ラセルタ。
 それに千代は内心盛大に噴出していた。こんなラセルタさん見たことない!!と。
「俺様一人で甘味独占もあり得るな!」
 ふふんと買ってきたケーキを見る。
「千代が悲しむよ」
 再び裏声。
(……いつもぬいぐるみに独り言、言ってるのかな)
 そんな様子のラセルタが心配になってきた千代。
 千代ぐるみとやり取りしているラセルタの表情が変わる。
「なぁ3号、貴族は常に誠実であらねばならない」
 その表情は切なげで。
「俺様はよく我慢したと思うのだ……未だ同居の返事が無いのは何故だと思う?!」
 もちろんその答えを自分で言うことはない。
 千代ぐるみは黙ったまま。
「傍にと、求めたのは其方が先なのに」
 先に傍に居たいと願ったのは千代、しかし同居については返事が無くどうしたらよいのか分からなくなっていた。
「だが、腑抜けたあの笑顔を見る度に追及出来んのだ」
 あのほんわか笑顔を見るたびにもう少し、もう少しだけ待とうとなってしまう。
「俺様ばかり空回るようで、上手く言えないが、腹立たしい」
 そのもどかしさや、はっきりとしない返答に苛立ちはするもののどうしていいかわからない。
「……内緒だぞ3号、伝えてくれるなよ」
 さて帰るか、と千代ぐるみに内緒にしてくれ、と念押しし椅子から立ち上がると自身が座っていた椅子へと千代ぐるみを置いて出て行く。
 ラセルタの姿が見えなくなったと同時に千代ぐるみは千代へと戻った。
「ラセルタさん……」
 彼を追わないと、と千代は走る。
 出口から少し離れた外に彼は居た。
「ラセルタさん!!」
「千代、いるではないか」
 千代の顔を見て微笑みを浮かべるラセルタに千代はそのまま駆け寄る。
「返事なんだけれど。同棲の」
 驚いたように目を丸くするラセルタ。
「……不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」
 と丁寧に頭を下げて告げる。
「千代……あぁ共に過ごそう」
 聞けた返事にラセルタは嬉しそうにその綺麗な顔をほころばせる。
「ケーキに合う紅茶も淹れないとね」
 中に入ってっと促すとラセルタは不思議そうにする。
「なぜ、ケーキの事を知っているのだ?」
 その疑問に嬉しそうに千代は笑う。
「ふふ。口の軽い3号が教えてくれたんだよ」
 なんだと!?と驚愕するラセルタ。
「あやつ、口が軽かったのか!」
 それはいいからケーキを食べよう、とラセルタを引っ張りながら「なんてね♪」と笑う千代だった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:羽瀬川 千代
呼び名:千代
  名前:ラセルタ=ブラドッツ
呼び名:ラセルタさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月06日
出発日 06月12日 00:00
予定納品日 06月22日

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