過去の姿? 未来の姿?(寿ゆかり マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●なんかすごい飴
「えーとね」
 神人は、いきなり年をとってしまった精霊を見つめてため息を一つ。
「何がどうなって君はその姿になってしまったの」
 精霊は悪びれる様子もなく短く答えた。
「飴を食べた」
「飴?」
「そう」
 なんでも、たまたま貰った飴を食べたら15歳年をとってしまったというのだ。
「年をとるって不思議な感じだね。なんか思うように体がついてこないしさ」
 20代半ばの彼は、40代くらいになったようだ。
 感覚と肉体の変化にずれがあるようで、苦笑して見せる。
「いや、あのさ」
「というわけで、今は僕は君よりちょっと年上なわけだ」
「あ、ああ、見た目はそうだね」
「どうする? ちょっと大人なデートでもする?」
「なにそれ」
 そんなこと言ってる時点でだいぶ発想が子供なんですが。
 普段は神人のほうが年上。もちろん、中身は今だって神人のほうが年上だ。
 でも、見た目が年をとるとちょっと調子にも乗りたくなる。精霊はふふんと鼻を鳴らし、神人に顔を近づけた。
「どう、この姿の僕とデート。ちょっとドキドキしない?」
「しない」
 だって中身は自分より年下のいつもの彼なわけだし。
「えー」
 そっか、残念。そう言ってふと視線をそらした彼の横顔が、妙に素敵で。
 不覚にも神人は胸を高鳴らせた。
 ほんの少し白髪が混ざる髪。目元と口元の小じわ。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
 笑って、ごまかす。

解説

●年齢操作の飴ちゃんを貰ったよ!
(なんやかんやデート代とかで300Jr消費いたします)

●年齢操作の飴ちゃん
 若返ったり、年を取ったりします。食べた人により効果はまちまち。
 おじいちゃんになっちゃう人もいれば、若返って10代のころ、幼稚園の頃まで
 年齢が遡っちゃう人もいます。数年後の姿になる人もいます。
 精神状態(中身)は本来の年齢のままです。体とのギャップがあるので、
 年をとった体で動こうとしたら少し動きが悪い、とか、逆に若くなりすぎて
 足がもつれちゃうとかいうこともあるかもしれないです。
(例:十代の彼が20代に・20代の彼が30代に・40代の彼が十代に)
 何歳くらいに化けるかは自由です。(本人の意思でなったわけではありませんが、便宜上)
 飴を食べるのは、精霊でも神人でもどちらでもOK。どちらかのみが変化し、
 その反応を楽しんでください。
(飴を食べるのは、飴の効果を知っていても知らなくてもOKです。
 パートナーに騙されて食べるのもいいですね。
 飴の効能はおおよそ半日~丸一日です。個人差がありますので、長さも指定してOKですし、変化が解けた後のことも描写可能です。
 八割強が化けている間のお話になると思ってください。
 
 年をとったパートナーにドキドキするもよし。
 若返ってパートナーに甘えるもよし。
 楽しみ方はあなた次第。

ゲームマスターより

年をとったり若返ったり
ウィンクルムもいそがしいね!(!?!?)

というわけで、どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  (リディオに指摘され自分の姿を確認すると小学校低学年位の年齢に)
…あー、何かオレ若返っちゃったみたい?
…どうせだったらもう少し年齢が上になればよかったのに。
それだったら、大人なリディと釣り合いが取れる感じになったかもしれないのに…むぅー。

何か、悔しいから一緒に出掛けよ?遊園地が良いなぁ。
…絶叫マシーンとか乗りたいけど、身長的に大丈夫かなぁ…。
観覧車とか、メリーゴーランドとかなら気にせず乗れるかな。
…並んじゃうと、リディが何時もより大きく感じるね。
歩くのにも、普段より時間が掛かる様な気がする。

もう一個飴をもらえたらなぁ…。
今度はもっと大人になって、リディをエスコートとかできるのに。
何か残念。



柳 大樹(クラウディオ)
  若返り:6歳(眼帯無し

やっぱ来るの早いね。
そうそう、あんたの神人だよ。(左手の甲を見せる
おかしなあめでこうなった。

おそわれてから、母さんも妹もおおげさでさ。
おれがもどるまで家にいるといいよ。
そのほうが安心だろうし?(家族もクラウも

そうだ。そこすわって。あぐらで。
うごくなよ?(クラウの上に座る
あんていかんばっちりだわ。(凭れて見上げる
どうよ。

うん、見えてる。
どうせ一時的だろうけど。(自嘲
いたくて、あわてて取り出した。今はしまってある。
だいじょうぶだって。
ほら、なんともないだろ?(前髪を片手で抑えて見せる
(にっ、っと笑う

(最初、兄貴と重なって余計こいつが嫌だったけど)
(兄貴とはやっぱ違うんだよな)


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  頭を抱えつつ)
知らない人から物を貰っちゃいけないって教わらなかったんですか
出かけるならお供しますが(この状態で一人は不安だし
…手、ですか?
なるほど…つまり介護ってことですね!
見た目は十分そんなお歳ですよ

ゆっくりした足取りに合わせつつ
段差や階段などはさりげなく支えるようにして散歩
体はいつもより小さく感じるし、手だって力が弱いし
歳を取るってこういうことなのか
これが毎日続くとなると…生半可な気持ちじゃ支えていけないな

そうですね…老人介護がいかに大変か理解しました
先生が先に歳を取るのは明白ですし、今後に備え
介護の勉強をしようかと思います
そう思うなら、今後は勝手に怪しい物を食べないでください
……はぁ


レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
  呼び鈴聞いて出てみると見知らぬ男

誰?
…は? はぁぁぁ!?(いやいやいや変わり過ぎでしょ!
なに勝手に決めてんのよ、行く訳ないでしょ
んだとテメェ…絶対負かす!

ぐぬぬ…!(自棄で一気飲みして突っ伏し
気安く触んないで!…どうせあんたと違って、全然出来ないわよ(ぷい
だ…誰が根性なしだクソ猫耳!?

テメェの助言通りってのが気に食わねぇけど、それでいいぜ
…はぁ?!(そんな早く出来ると思ってんのかコイツ!?過大評価し過ぎじゃ…いや、これはオレの根性の問題だ、少し練習すりゃ出来るってぇの!

投げ始め徐々に中心に近づき…30投目
…っしゃあ!どうよ!?(どやぁ
硬直)…ど、どこがご褒美…っ!?
(ヤバ…あんな顔、反則だろ…!


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  飴どうぞって言うんで舐めた

3歳児かよ…
イェル楽しそうだなー、尻尾とか凄ぇ活き活きしてら
頬つついたり、3歳の手に喜んだり

公園のベンチでイェルの膝に乗ってたら、休日らしいAROAの職員に声掛けられた
やっぱ俺と判ら…止めろ
契約直後のイェルがやば過ぎたのもあって、イェルの両親に定期的に近況連絡してるとか職場とも連携したとか時効とか言って内緒で暴露すんな(AROAに実家電話番号聞いた
流石に恥ずかしいから止せ、俺いるぞ
止めようとしたらイェルが口塞ぐし
俺みてぇな子が欲しいってのは可愛い惚気だが

職員が去った後戻った
「…そういう訳だ」
居た堪れねぇ
ま、イェルにはいい1日だったみてぇだからいいか
可愛い嫁だ(角キス



 ――ピン、ポーン。
 レオ・スタッドの家の呼び鈴が高らかに響いた。
「はいはーい……」
 ガチャ、と扉を開き、レオは眉を顰める。
「誰?」
 そこに立っていたのは、自分と同い年くらいの痩身の男。猫耳に猫の尾、その瞳の色は何処かで見たことがあるような気はしたが。
「俺だ」
 その声色にもしかして、と思う。けれど、普段の彼よりもだいぶ気だるげで。少し雰囲気が違うような……。
「……は?」
 レオは耳を疑う。目の前の彼は、ルードヴィッヒその人であるというのだから。
「これが証拠だ」
 弁護士バッジを提示して事情を説明する彼にレオは驚くばかり。
「はぁぁぁ!?」
(いやいやいや変わり過ぎでしょ!)
 小じわは消え、肌には20代の艶。40代の彼の面影は有るにはあるが、若くなりすぎだ。
「見た目は同い年か……そうだ、ダーツバーに行くか」
 突然の提案。そうと決まれば行くぞ、とばかりにルードヴィッヒは扉を開け、出かけようとする。
「なに勝手に決めてんのよ、行く訳ないでしょ」
 ふい、とそっぽを向くレオに向き直り、ルードヴィッヒは首をかしげた。
「普段は歳の差で目立つが、今なら気にせず楽しめると……」
 別にぃ。と気の無い返事をするレオに、追い打ちをかける。
「ああ、俺に負けるのが嫌か」
 レオの何かがぴしっと音を立てた。
「んだとテメェ……絶対負かす!」
 ガッと傍らに置いていたタバコの箱を引っ掴み、財布をポケットに突っ込んで靴に足をねじ込む。――計画通り。ルードヴィッヒはもう一度ほくそえんだ。

 ――それから。何ゲームか経過して、そこにはやけ酒を煽るレオの姿があった。
「ぐぬぬ……!」
 飲み干したグラスをテーブルに置いて、突っ伏すレオ。
「力み過ぎだ」
 モヒートのグラスに口を付け、カランと氷を鳴らしたルードヴィッヒはその冷えた指先で労わるようにレオの手首を撫でる。
「緩く構えろ、手首も痛いだろう」
「気安く触んないで!」
 ぱんっ、と乾いた音を立ててレオはルードヴィッヒの手を払う。
「……どうせあんたと違って、全然出来ないわよ」
 テーブルにだらしなく突っ伏したまま、レオはぷいとルードヴィッヒとは反対の方向を向く。
「俺が最初から出来たような言い草だな」
 ふん、とルードヴィッヒが呆れたように鼻を鳴らした。
「今から練習して見返してやろうという気概もない、根性なしめ」
「だ……誰が根性なしだクソ猫耳!?」
 ガタン! と音を立てて一気にレオは立ち上がる。――想像通りの反応に内心笑ってしまうが、ルードヴィッヒはそれを面には出さない。
「では賭けをしよう」
「は?」
「俺の助言通りに投げて何投以内で中心に当たるか。的中したらお前に褒美を、外れたら店で一番強い酒を一気飲みしてやる」
 レオは手首を軽く振りながら答える。
「テメェの助言通りってのが気に食わねぇけど、それでいいぜ」
「俺の予想では30投以内だな」
 サラッと予想を口にするルードヴィッヒ。レオは目を剥く。
「……はぁ?!」
(そんな早く出来ると思ってんのかコイツ!?)
 ニヤ、と笑った彼の顔に、何故だか冷や汗が伝う。
(過大評価し過ぎじゃ……いや、これはオレの根性の問題だ、少し練習すりゃ出来るってぇの!)
「どうする、やめるのか?」
「やるっての」
 一投、一投投げるにつれてだんだんと中心に近づいていく。悔しいけれど、ルードヴィッヒの助言は的確だった。そしてついに30回目。ノーコンとも思われたレオがついに当てたのだ。
「……っしゃあ! どうよ!?」
 満足そうな顔で振り返ったレオに、ルードヴィッヒはつかつかと歩み寄る。
「うむ、見事だな」
 ふふん、としたり顔のレオの頬にそっと近づく。
「……褒美だ」
 柔らかな、唇の感触。
「!?」
 硬直する、レオ。
「……ど、どこがご褒美……っ!?」
 あたふたするレオに、ルードヴィッヒは艶っぽく笑む。が、それは40代の笑みに比べて爽やかさが残っていて。
「……ふふ、お前はいつも変な顏をするな」
(ヤバ……あんな顔、反則だろ……!)
 不覚にも、胸が高鳴ったなんて、言えない。


「知らない人から物を貰っちゃいけないって教わらなかったんですか」
 暁 千尋は眼前のおじいちゃ……おばあちゃんに頭を抱えた。何を隠そう、そのたっぷりとした美しい白髪の老女は彼の精霊、ジルヴェール・シフォンなのだ。
「不思議な飴だとは聞いたけど……ふふ、確かに不思議なことになったわねぇ」
 のんきにおっとりとした微笑みを浮かべる彼は、さほど気にしていないらしい。
「そんな事より良いお天気だし、散歩に行きたいわ」
「出かけるならお供しますが」
 こんなに年を取ってしまった姿で1人で歩くのは色々大変だろう。ましてや、徐々に加齢したわけでなく、突然この姿だ。普段とのギャップを理解せずに動いて骨折でもしては大変だ。
「チヒロちゃん、手を貸してくれないかしら」
「……手、ですか?」
 問うと、ジルヴェールはこくんと頷く。
「体が動かしにくいっていうか、心なしか節々も痛いし……歩くだけでも一苦労なのよねぇ」
 よいしょ、と重たい腰を持ち上げる彼に、千尋はぽんと手を打つ。
「なるほど……つまり介護ってことですね!」
 単語が重く響く。
「失礼ね、まだそんな歳じゃないわよ」
「見た目は十分そんなお歳ですよ」
 間髪入れずに切り返された言葉にジルヴェールは自分の皺が刻まれた手の甲を見て言葉を詰まらせる。
(うっ……そうだった……)
 二人で、近所の公園へと出かける。千尋は、いつもよりもゆっくりとしたジルヴェールの足取りに合わせてゆっくりゆっくり歩いた。段差のあるところには特に注意を払い、階段を上るときはそっと体を支えるようにして寄り添い歩く。
(体はいつもより小さく感じるし、手だって力が弱いし、歳を取るってこういうことなのか……)
 それは、切なくて。胸の奥がきゅうと締め付けられるような感覚さえ覚えた。
(これが毎日続くとなると……生半可な気持ちじゃ支えていけないな)
 千尋はふと自分よりも背が低くなってしまったジルヴェールの顔を覗き込む。すると、彼はとても満足そうな顔で笑って見せた。
「これはこれで嬉しい事態ね」
 ぽつり、小さな声で呟いた――それは千尋には聞こえていなかったようだが。この不便な体で一つだけ良い事があった。それは、――千尋がいつもより近いこと。
 ベンチに腰掛けた時、ぽんっ、といきなりジルヴェールの姿が元の物に戻った。
「あら、戻っちゃったわ」
 千尋は安堵に軽く息を吐く。――ちゃった、って戻らなかったらどうするつもりだったんですか。
「なかなか新鮮な体験だったけれど、やっぱり年相応なのが一番ねぇ」
 手をぐーぱーさせてジルヴェールはそんなことを言うものだから。
「そうですね……老人介護がいかに大変か理解しました」
 え、と千尋を振り返る。
「先生が先に歳を取るのは明白ですし、今後に備え、介護の勉強をしようかと思います」
「気持ちは嬉しいけれど、軽い気持ちでやった悪戯でそんな真面目に考え込まれると複雑な気分だわ……」
 ふふふ、と苦笑いを浮かべてジルヴェールは千尋の顔を覗き込む。つまり、今後に備えるという事は……これからも一緒に居る、という事で。
「そう思うなら、今後は勝手に怪しい物を食べないでください」
「ふふ、善処するわ」
 楽しそうに、嬉しそうに笑う。
「でも楽しかったでしょう?」
 そんな屈託のない笑顔で言われてしまっては……。
「……はぁ」
 逆らえない。
 どうにも、敵わない。そう思わざるを得ないのだった。


「カイン、飴どうぞ」
「おー」
 イェルク・グリューンに差し出された飴を、カイン・モーントズィッヒェルは何の疑いもなく口へと運んだ。カインは、もちろんこの飴の秘密を知らない。イェルクは内心そわそわしながら、その効果を待つ。
「ん!?」
 ぽんっと音をたて、カインが変身した姿は。三 歳 児 。
「!」
 しっぽをピーンとさせてイェルクは喜びを露わにしている。
(かわいい!!)
「なんでこうなった……」
 三歳児かよ、とぽかーんとしているカインににじり寄りながらイェルクは頬を紅潮させている。
「頬つついていいです?」
 許可する前から、その指はカインの柔らかな頬に伸びている。
「わぁ……」
 ぷにぷに。
(イェル楽しそうだなー、尻尾とか凄ぇ活き活きしてら)
 イェルクに自由に頬をぷにぷにさせながら、カインはフッと笑った。
「そうだ、お散歩に行きましょうか」
 きゅっとカインの手を握るイェルク。カインの手のひらはまだ節もはっきりしないもにもにの柔らかさ。
(可愛い……!)
 ぎゅっと抱きしめたくなるのを我慢しながら、イェルクは公園のベンチへと腰かけた。カインは、そのイェルクの膝へとちょこんと座る。
「こんにちはー」
「こんにちは」
 そこへ偶然やってきたのは休日を過ごすA.R.O.A.の職員。イェルクの膝の上のカインを見てニコッと笑う。
「ん? こちらはカインさんのところの御親戚ですか? そっくり。可愛いですね~おいくつです?」
(ああ、やっぱり俺とは判らな……)
 イェルクが三歳なんですよ~なんて答えていると、職員は突然話を切り出す。
「そうそう、そう言えばカインさんは過去にイェルクさんの御実家の電話番号を尋ねていらっしゃったんですよ」
「え?」
「やめろ」
 カインは三歳児の姿のまま職員を制止する。
「職場とも連携して、ご家族に近況報告をしたいとのことで一生懸命色々考えてくださってたんですよ」
「流石に恥ずかしいから止せ、俺いるぞ」
 言いかけたカインの口を、イェルクがふさぐ。
 本当は口止めされていたんだけど、もう時効だからいいですよね、なんて言いながらこの職員ぺらぺら暴露しやがる。そう、契約直後のイェルクが精神的にかなり参っていたこともあって、カインはこっそりとイェルクの家族に近況報告を行っていたのだ。イェルクとて家族を心配させたい訳ではない。だから、当時自分からも家族に近況報告は行っていたわけだが……。病んでいるという自覚がなかったのだ。それで家族に近況などを話しても、家族が本当に知りたい事を話すことなどできてはいなかっただろう。そうなっていたなら、きっと余計に家族に心配をかけていた。
「それをカインが……」
「ふふ、本当に、良いパートナーですね」
 イェルクは泣き出しそうなほど幸せに溢れた顔で頷く。
「立ち直れたのはやはりカインのお陰ですね……」
 ようやっとカインの口から手を離してやると、カインはぷあっと息継ぎをする。
「……」
 次の瞬間、ぽんぽん、と普段より大きく感じるイェルクの手がカインの頭を撫でた。
「彼のような子が欲しいです」
(……可愛い惚気だが……)
 全部バレちまったか。とカインは苦虫をかみつぶしたような顔をした。余計な事を散々話した職員は、すがすがしい顔で晴天の元去ってゆく。
 ぽんっ、とカインの姿が元に戻った。
「……そういう訳だ」
 いたたまれなくて、カインは視線を逸らす。ふふ、とイェルクが微笑んだ。
「だから、愛しています」
 そうやって、私が気付く前から私を支え続けていてくれたんですね。イェルクの瞳はいとおしげに細められる。カインはそんなイェルクを見て、ようやく笑顔になった。今日はとても楽しく素敵な日だった。そうため息をつくイェルクをそっと引き寄せる。大切なイェルクにとって良い一日だったのなら、それに越したことは無い。カインは優しく、イェルクの角に唇を落とした。
「可愛い嫁だ」
「!?!?!?」
 顔を真っ赤にして、イェルクは口をぱくぱくさせている。いつまでたっても、この初心な反応は変わらないのだろう。カインはそんなイェルクを見て、満足そうに笑うのだった。


 飴をなめていたアルヴィン=ハーヴェイは、ふとリディオ=ファヴァレットの視線を感じて首をかしげる。
「……ねぇ、リディ」
「えっ、あぁ、何?」
「さっきから、ジロジロ見てるけどオレの顔に何か付いてる?」
 リディオは少し困ったように視線を彷徨わせ、そして鏡を差し出す。
「何かついてる、っていうか……ね?」
「え……」
 鏡を覗き込み、アルヴィンは絶句する。
「……あー、何かオレ若返っちゃったみたい?」
 ようやく出てきたのはそんな言葉だ。
「……若返っちゃってるねえ……」
 どうしてそうなっちゃったの? と首をかしげるリディオに、アルヴィンはやや考えて結論を出した。
「貰った飴のせいかな?」
「飴?」
「怪しいなぁとは思ったんだけど、美味しそうだったからつい」
 今度はリディオが絶句する番だ。
「元に戻らなかったらどうするの……」
「……ずっと此の侭だったら色々困るけど、一日くらいたてば元に戻るんじゃないかな」
「そう、かな?」
 二人で顔を見合わせる。
「……多分」
 アルヴィンの自信なさげな付け足しが、なんだか不安を煽る。
「……どうせだったらもう少し年齢が上になればよかったのに」
 アルヴィンは少しむくれた顔をして見せた。
「どうして?」
「それだったら、大人なリディと釣り合いが取れる感じになったかもしれないのに……むぅー」
 ただでさえ若く見られる顔。いつもはギリギリ高校生くらいには見えているが、今日は小学校低学年くらいにしか見えない。ぷっと吹き出したリディオが優しく髪を撫でてくれた。
「はは、大人にならなくても、アルはちゃんと素敵だよ」
 ほら、そうやってするっと口説き文句が出てくるのだ。こういう大人の余裕もなんだか悔しい。
「何か、悔しいから一緒に出掛けよ? 遊園地が良いなぁ」
 たまにはいいかもね、とリディオは快く頷いてくれる。そうして二人は遊園地へと出かけたのだったが。
「……絶叫マシーンとか乗りたいけど、身長的に大丈夫かなぁ……」
 見上げた身長制限のメーターは、あと少しで届かず。二人は観覧車の方へ。
(歩くのにも、普段より時間が掛かる様な気がする)
 とことこと小股で歩くアルヴィンに合わせ、リディオはゆっくり歩いてくれている。
「リディ、手繋いで?」
「ん?」
「エスコートとか、して欲しいなぁ……」
 上目づかいでアルヴィンに頼まれて、断ることができるはずもなく。リディオは頷いて手を差し出す。
「はい、どうぞ。今日はアルの行きたいアトラクション、制限がついているところ以外ぜーんぶ回ろうね?」
「うんっ」
 二人で、観覧車の列に並ぶ。
「……並んじゃうと、リディが何時もより大きく感じるね」
 ただでさえ身長差のある二人。顔が、なんだか遠くて少しだけ寂しい。リディオは、そっと屈みこんで視線を合わせてくれた。何も言っていないのに、すぐ近くでお話をしてくれる。二人で話しながら待てば、順番が回ってくるのなんてあっという間だった。観覧車では子供みたいに久々にはしゃいで。アルヴィンは地上に降り立ちはたと思い立つ。
「……あ、そうだ。リディ」
「うん?」
 振り返ったリディオに、勢いよく抱きつく。
「ぎゅーっ」
「っふふ、くすぐったいよ、どうしたのアルヴィン? 今日は甘えん坊だね?」
 そう言いながら、リディオも満更ではないようで。その表情には嬉しささえうかがえる。
「こういう事、この姿じゃないと中々できない気がして。……元の姿だと気恥ずかしくて出来ない感じがするからさ」
 ぎゅ、とリディオの背に届かない手のひらをリディオの腰の所に回し、縋りつく。とんとん、とあやすようにリディオの手がアルヴィンの背を撫でた。
「そう? 別に普段もやっていいんだよ?」
 ふるふる、と首を横に振るアルヴィンの姿を見て、リディオはニコニコしている。
(もう一個飴をもらえたらなぁ……)
 アルヴィンは、そんなことをぼんやりと思った。
 ――今度はもっと大人になって、リディをエスコートとかできるのに。何か残念。
 そう思ったのは、胸の奥にしまったままで。


 クラウディオは、柳 大樹の家族から連絡を受けて大樹の家へと急いでいた。家に着くと、大樹の家族はホッとしたような顔をして迎え入れてくれる。そして、大樹の部屋へとすぐに通してくれた。部屋の扉を開けると、そこには大樹と全く同じ目の色、髪の色を持つ子供が座っていた。
「やっぱ来るの早いね」
「大樹か」
 大樹は頷くと、ひらりと左手の甲を見せる。
「そうそう、あんたの神人だよ」
『あんたの神人』その言葉に、無意識のうちに胸が温かくなるクラウディオだが、いや、まて、と冷静になる。
「何故その姿に?」
「おかしなあめでこうなった」
 飴? なんで飴を食べるとこうなるのか……良くわからないが、とりあえずその不用心さにクラウディオは眉を顰めた。
「何故、そう不用意に口にする」
 はは、と曖昧に笑い、大樹はそのうち戻るでしょ、なんて言っている。
「おそわれてから、母さんも妹もおおげさでさ」
 だからクラウのこと呼んだんでしょ? と尋ねると、確かに呼ばれたが、とクラウディオも頷く。
「おれがもどるまで家にいるといいよ。そのほうが安心だろうし?」
 うちの家族も、クラウもね。大樹の勧めにクラウディオはそれもそうだと頷いた。
「了解した」
「そうだ。そこすわって」
 大樹はミニテーブルから少し離れた位置を指さす。クッションがミニテーブルに近いと、もう少し離れるように指示してきた。
「あぐらで」
 キチンと姿勢を正して座ろうとするクラウディオに体勢まで支持する。
「うごくなよ?」
(何がしたいのか)
 てて、と寄ってきた大樹はクラウディオの胡坐をかいた足の真ん中にすっぽりと収まった。
「あんていかんばっちりだわ」
 そして、頭上にあるクラウディオの顔を見上げる。
「どうよ」
 ――背凭れにしてる。クラウディオは気付き、けれど彼の行動の意図がわからず、ただ視線を合わせた。見つめ合い、ほんの少しの静寂のあと、クラウディオが口を開く。
「左目は見えているのか」
「うん、見えてる」
 いつもは眼帯に覆われている大樹の左目。今は、体が若返ったと同時にその当時の姿になってしまったのか、失われた『瞳』がある。右目と同じ色だ。
「どうせ一時的だろうけど」
 ふっと自嘲的な笑みを浮かべた大樹。クラウディオは続けて尋ねた。
「義眼で目が潰れていた可能性があったということか」
 そうだ、幼い姿になる直前まで義眼をはめていたはずなのだから、急に欠損した部分が現れたら――。
「いたくて、あわてて取り出した。今はしまってある」
 ね、とケースを指さす大樹に、クラウディオは顔を近づける。
「今は痛みは」
 眼球に傷は? と問うクラウディオに、大樹はからっと笑って見せた。
「だいじょうぶだって」
 そして、片手で前髪を上げて瞳を見せる。
「ほら、なんともないだろ?」
 にっと笑った大樹は、六歳児相応の笑顔だった。ほっと安堵したような顔を見せ、クラウディオははたと思う。
(こういった表情は目があるが故だろうか)
 じっと、その瞳を見つめる。――そうか。
(恐らく、私は前からこの色が)
 ――見たかったのだろう。
 初めて、認識した己の願望にクラウディオは少し戸惑う。そして、今しか見ることができないであろうその瞳の色、形、表情を目に焼き付けるべくじっと見つめ続けた。
「ふふ、どうしたのクラウ」
 最初、兄と重なって余計に嫌だったクラウディオに、大樹は屈託のない笑顔を見せる。
(兄貴とはやっぱ違うんだよな)
 ぽすん、と再度その頭を彼の胸に凭れさせた。
 元に戻るまでは、しばらく、このままで……。




依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月18日
出発日 05月23日 00:00
予定納品日 06月02日

参加者

会議室

  • おう、みんなどっちがあめくうのか?
    ……おれはみてのとおり、おれだ。
    える(上手く言えなかった)からもらったあめでこれだ。

    あ? 3さいだよ。わるいか。

  • [3]レオ・スタッド

    2016/05/22-20:19 

    精霊のルードヴィッヒだ、よろしく

    きまぐれに買ってみたら面白い事態になったな
    スタッドで遊ぶ良いスパイスになりそうなので有効に活用させてもらうとしよう

  • [2]柳 大樹

    2016/05/21-21:52 

    おれは柳大樹。よろしくー。(右手をひらひら振る
    まさかあめなめて小さくなるとはおもわなかったよ。

    あれだ。
    しらないひとからもらったものは食べないように、ってことだね。


PAGE TOP