愛する者、憎む者(草壁楓 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●戻らぬ仲間
 タブロスから5時間ほど離れた森深くにある洞窟。
 この森の近隣に住む住民から最近洞窟周辺と洞窟内でオーガを目撃したとの情報が入り2組のウィンクルムが出向いていた。
 しかし1週間、2週間過ぎても戻ってくる気配がないとA.R.O.A.の職員は困惑していた。
 住民からはオーガの目撃情報が続々と寄せられ、討伐が難航を示していることも報告がない中でも見て取れる。
 戻らないウィンクルムはけして経験が少ないわけではなく、何かあったのは確かだ。
 このまま放っておくわけにもいかずもう一度ウィンクルムを派遣することを決断する。

 そして今数組のウィンクルムがその問題の洞窟の前に集まっていた。
 先に派遣されたウィンクルムの手掛かりがないかと入り口付近の探索を試みるが、何も手がかりは見付けられない。
 洞窟に来る前にA.R.O.A.の職員と住民から行方不明のウィンクルムとオーガについての情報は少しばかりではあるが集めた。
 行方不明のウィンクルムは2組、
 神人『アイル』と精霊『エドガー』
 神人『マルタイユ』と精霊『フレール』
 である。
 2組は多少の情報を収集したあと、「直ぐに戻る」と村人に言い残し洞窟に向かったこと、そして特に変わった様子も無かったと聞く。
 また、オーガは1体で無黒目がちの眼球が2つあり頭髪などはないとの情報から『ヤックルロア』の可能性が高いと憶測できた。
 さほど強敵でもないオーガの情報を聞き、再度派遣されたウィンクルム達は疑問を持つ。
 経験の少なくないウィンクルム2組がなぜ戻らないのか……と。

 洞窟まで案内してくれた村人の老人は、ここまでしか案内できないと村に戻ろうとしている。
 老人は去る間際に一言こう言った。
「この洞窟は昔から、何かと噂のある洞窟でね……人がそうそう寄り付かないんだよ」
 噂と言われ戻ろうとする老人を引き止める数人のウィンクルム。
 村で情報収集をした際にはそのような情報はなかったからだ。
「人の心を見透かす洞窟……青透光の窟と言われておるよ」
 心を見透かす?
 そこにいた全員が疑問に思うが、それ以上は分からないと老人は首を横に振って足早に去っていった。
 老人の話したことが気に掛かるがこのままここで話していても空が暗くなってしまう、と全員が洞窟の中へと入っていく。
 洞窟はそう狭くなく、動物やオーガの気配はしない……行方不明のウィンクルムの気配もない。
 少しどんよりとした雰囲気が漂う中、懐中電灯を照らし警戒しながら洞窟の奥へと進んでいく。
 入り口から数百メール進んだところで複数に道別れしている広い空間へと辿り着く。
 このどれかの道に行方不明になったウィンクルムがいるかもしれない、そしてオーガも。
 しかし、ここで黙っていてもしょうがないと分岐している道へと進むことを決め、別行動し、何かあれば合流しようと話し合いそれぞれの道へと進んで行った。

●対峙するウィンクルム
 それは数日前……それなりに広い空間へと出た1組のウィンクルムがいる。
 アイルとエドガーだ。
 辺りを見回すがどうやらここにはオーガの気配はないようだ。
 その空間には小さな天使を模した古めかしい石像がある。
 アイルは天使の翼部分をそっと優しく触れてみる。
 すると突如2人の周りに青白い光が差す、どこから差しているのだろうと天を見上げるがどうにもどこからか分からない。
 視線を戻し洞窟内を見ているとアイルが奥を静かに指差した。
 エドガーもその方向を警戒しながら凝視した。
 いないと思っていた空間に人が現れる……その姿を見た瞬間アイルはその人物へと駆け寄った。
「お父さん!」
 そう叫びながら。
 しかし、エドガーの対応は違う。
 剣を抜き、険しい表情を浮かべながら少しずつ近付いていく。
「お前は!!近付いちゃダメだ!離れろ!!」
 アイルをこちらへと戻ってくるように手招きするが、アイルは首を横に振る。
「何を言っているの?お父さんよ、貴方も昔会ったじゃない!」
「お前こそ何言ってるんだよ!そいつは俺らの村を滅ぼした奴じゃないか!」
 2人の押し問答は続く。お互いに一歩も引く気はないようだ。

 どれぐらい経っただろうか……睨み合ってから。
 2人の顔に疲弊の色が見て取れる。
 そんな2人の下へゆっくりと、そうゆっくりとヤックルロアが近付いてくる。
 2人はその姿に全く気付かないようだ。
 そしてその場に鮮血が広がった。
「エ……ドガー……」
 胸を貫かれた精霊エドガーの姿にアイルは呆然と立ち尽くす。
「お父さん!逃げよう!」
 振り返り父の手を取ろうとするアイルだったが後ろには誰もいない。居たはずの父の姿がどこにもないのだ。
「誰を探してるんだい?」
「誰!?」
 後ずさりをしながら声を掛けてきた人物を見る、ヤックルロアの後方がゆっくりと一人の人物が現れる。
「お嬢さん、そんなに怖がらないで」
 優しい微笑みを浮べながら1歩1歩と近付いていく長い銀髪で黒い瞳、黒い燕尾服のような物を着ている者。
 男のようでもあるが声は少し高い声でアイルに優しく声を掛ける。
「ボクは男は嫌いだけど女性は好きなんだ。大丈夫、怖いことはしないからこちらへおいで」
「ダメ……だ。逃げろア……イ……ル」
「男は黙れ!!目障りだ!」
 そうその者が叫んだ瞬間エドガーに刺さったヤックルロアの爪が更に深く突き刺さり、口から鮮血がこぼれ出る。
「いやーーーーーー!」
 アイルはそう言うとその場で気絶した。
 するとその者はアイルを抱き止める。
「アイルちゃんか……大丈夫、マルタイユちゃんも一緒だよ」
 片方の口角を上げて静かに笑ったのだった。

解説

●目的
 
  目的は行方不明のウィンクルムの捜索、もし無事であれば救出とヤックルロアの討伐、と謎の人物の調査です。

●大幅な流れ

  洞窟に入り分かれ道で他のウィンクルムと別れたところから開始となります。
  少し大きな空間に出ると神人と精霊で別々の幻を見て対峙することにになるでしょう。
  幻を打破することを念頭にしなくては、大怪我を負うことになるかもしれません。(死には至りません)
  打破かその他の方法で抜け出した後にヤックルロアの討伐と謎の人物の調査となります。
  後に行方不明のウィンクルムの捜索と救出します。

●謎の人物について

    長い銀髪で黒い瞳、黒い燕尾服のような物を着ている。
    女性には優しいようだがどうやら男性は嫌いなようだ。
    性別は不明。

●行方不明のウィンクルムについて

  ・神人『アイル』Lv.25
   精霊『エドガー』Lv.40、テイルス、ハードグレイカー

  ・神人『マルタイユ』Lv.35
   精霊『フレール』Lv.38、ファータ、ライフビショップ

●洞窟について

  大きな洞窟で道別れが激しく広い空間がいくつも存在している。
  広い空間には一筋の青い光が差し込むようだ。いくつかのとても古い小さな天使の石像がそこここに置いてある。

●プランに書いてほしいもの

  ・神人と精霊どちらが守りたい者や愛している(いた)者、会いたい者を見ているのか。その者との関係性や心情や行動等。
   又は憎い者や恨んでいる者、顔も見たくない者をみているのか。こちらにもその者との関係性と心情や行動等。
  ・幻を打破する方法(洞窟内にある物や、お互いの信頼関係、愛情などで打破できるかもしれません)
  ・謎の人物に問いたい事、又は調査したい箇所。
  ・行方不明のウィンクルムの捜索方法やもし見つけた場合の対応。

  上記4点は必ずお書きください。
  文字数が厳しい場合は掲示板をご活用いただいて構いません。
  アドリブが多々入る場合がございますので、もしNGな方はプランにお書きくださると助かります。

ゲームマスターより

 草壁 楓です。ご訪問ありがとうございます!
シリアスでちょっとダークなものが書きたくなり書いてみました。描写が多いためEXとなります。
プランに書いていただくことが多々ありますが、どうぞ宜しくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  記録用のメモ用紙、筆記具持参
探索前にトランス
分かれる際はそれぞれどの分岐に入ったかメモ

愛している者
死別したはずの両親、十数年前の生きていた頃のままの姿に思わず現状忘れて駆け寄る

天藍に、俺には見えない、死別した両親が何故そこにいるんだの声と共に手を引かれ思い出す
出先で事故に遭い帰ってきた遺体を確認したのは私
そう、ここにいるはずがないと思い至る→打破

天藍が言う精霊も自分には見えない事をそのまま伝える
2人で違う人を見てたのでしょうか

報告用に洞窟の構造をマッピング
人の手が加わった痕跡の有無

オーガと共にいるので教団の者か
先の4人をどうしたのか

マップにチェックしながら各分岐を捜索
可能なら薬草持参し応急処置


豊村 刹那(逆月)
  幻:
会社上司の部長(男)。
仕事は出来るが嫌味で、勝手に仕事増やすから現在一番嫌い。
「今日は大事な会議だと伺いましたが。何故ここに」と冷めた敬語で対応。
顕現後にすぐ保護されたのはこの上司のおかげ。

打破:
「私は、会社の上司に見える」
「逆月に忘れろとは、言わない」
見てるものが違うのは怖いけど。「私は逆月を信じる」

逆月の怪我が酷ければトランス後、サクリファイス。

戦闘:後衛
洞窟内が暗い場合、マグナライトで敵を照らし味方の補助。
明るい場合、弓で敵の目を狙い行動妨害。

調査:
天使像を調べる。形の種類や、配置等。

捜索:
マグナライトで周囲を照らし、名前を呼んで探す。
発見後は状態を確認し、外へ連れ出す。(肩を貸す等


●探索~消えたウィンクルム

 薄暗い洞窟の中、A.R.O.A.の職員から渡されたマグナライトを照らしながら2組のウィンクルムが分岐点に辿り着き歩みを止める。
「共に最善を尽くしましょう」
 分岐点に着くと同時にかのんは天藍の頬に口付ける。
 2人の周りに水面が広がると翠雨の雫が落ち波紋が広がりトランスを済ませる。
「ここが分岐点のようだな」
 豊村 刹那が数箇所ある分岐点を一つ一つ覗き込みながら逆月を見やる。
「このどれかに行方不明の者がいるということだな」
「しかし、やけに静かじゃないか?」
 この中に確実に4名のウィンクルムが居るのは確か、それにしては静かだと天藍は顎に手を当てる。
 確かに洞窟の中はやけに静かだ……この中に誰かがいるとは思えないほどに。
「2週間も帰ってこないと聞いていますので探索をはじめましょう」
 かのんはそう言うとメモ用紙と筆記用具を取り出した。
「手分けし一つずつ見るのが良いかもしれませんね」
 かのんがそう言うと他の3人は頷く。
「何処に入ったのかメモをしながらいきませんか?」
 刹那はそれは良いとかのんからメモ用紙と筆記用具を貸してもらう。
「ありがとう」
 刹那達が左奥から探索し、かのん達は右奥から探索してはどうかと提案する。
「私達が探索をした箇所にはメモ用紙を目印に貼ってから探索を開始します。
 そうすれば重複することもないですし」
 それがいいようだ、と刹那が頷いた。
「それとマッピングもしてA.R.O.A.にこの洞窟の構造を報告しようと思います」
 そうか、と刹那は呼応する。刹那達も簡単にメモに記し後でかのんに渡すことを話す。
「では、かのんさんたちも気をつけて」
 刹那が軽く手を振るとそれにかのんは頷き、探索が終り次第ここで集合することを話すとそれぞれが進んで行った。


 刹那と逆月は1番左端の道を進む。
「アイルさん!エドガーさん!」
 行方不明のウィンクルムの名を呼びながら進んでいるが、返事はない。
「そんなに深い洞窟には見えないのだがな」
 マグナライトで照らされた道を進みながら逆月言う。
 確かに分岐は数箇所あったがそんなに深そうには見えない構造だ。
 分岐点が数箇所あることからお互いが繋がっていることも考えられる。
「迷い道にもなっていなさそうだな」
 刹那が辺りを照らし道がさらに分岐していないことを確認する。そしてそれをメモ用紙にマッピングするように記す。
「何かあったのだろうな……」
 逆月の考えに同意するように刹那が頷いた頃に少し広い空間へと出た2人。
「痕跡がないか調べてみよう」
 そう言って空間を調べ始める2人。
 洞窟はやはりやけに静かで、少し薄気味悪いぐらいだ。
「刹那……壊れた像がある」
 逆月に呼ばれて駆け寄るとそこには綺麗に縦に割られた天使の像がある。
「これは自然的に壊れたものではないな」
「俺もそう思う、しかも最近壊されたようだな」
 像の切り口をそっと指で確かめると鋭利な刃物で切られたような新しいもので、人為的だ。
「ということはここに最近人が居た可能性があるということだな」
 刹那は推理を始める。
 最近ここに人がいたということはウィンクルムの可能性が高く、そして刃物を持っていること。
 刃物所持を考えると神人よりは精霊がいた可能性があること。
 そして天使の像を破壊していることを考えると何かしら秘密があるのではないかと。
「ここは行き止まりだ……他の道を探索してみるか」
 逆月は辺りを見回し他に怪しい点が無いことを確認しつつ刹那にそう告げる。
 そうだな、と刹那は呼応し来た道を戻りだした。


 かのんと天藍は道の入り口にメモ用紙を石の隙間に挟むと右端の道を進みだす。
「ここまで静かだと不気味だな」
「本当ですね……あっ天藍」
 かのんは足元を照らすと天藍を呼ぶ。
「血の痕か……」
 進んで数分のことだった。微かな血の痕跡を見つける。
「微かではありますが、誰かが居たのは間違いないですね」
「日数は結構経っているようだな」
 血の乾き具合を確認するために膝を付いて天藍は言う。
「この奥にウィンクルムが居るんでしょうか」
「奥にに行こう」
 立ち上がるとかのんを守るようにして天藍は前に出て歩き出す。
 その間かのんはメモ用紙にマッピングするのを忘れない。そのマッピングに血の痕跡があったことも記す。
 その後は特に怪しい箇所も無く広い空間に出た2人は一瞬息を呑む。
「これは……」
 2人の前には血の痕が広がる。
「ここで何かあったんですね」
 そう言いながら2人はその血痕へと近付いていく。
「相当な血の量ではあるが……死体が無いということは生きている可能性はあるな」
 天藍の見立てでは相当量の出血があるのは見て取れるが、先ほどの血痕と同じだけの時間が過ぎている渇き方だということだ。
 さらに死体が無いことを考えると移動したかされたかのどちらかが考えられる。
「天藍……これはなんでしょうか」
 血痕を調べている天藍にかのんは近くにあった石の破片を指差す。
「何かの塊が粉々になったような塊ですね」
「関係性があるのかもしれないな」
 かのんはマッピングににその内容を記す。
 2人はこの空間を隈なく調べたがこれ以上の情報はないと来た道を敵の気配に気を配りながら戻ることにした。


●幻惑~お互いに見える者

 その頃刹那と逆月は右から3つ目の道を進んでいた。
 どうやらここは途中で道分かれをしているようでどちらに進むか話し合う。
「どちらからも音は聞こえないようだ」
 逆月は耳を澄まして見るが特にどちらからも変化が見られない。
「奥から行って戻ってきた時に調べるのはどうだろうか」
 刹那の提案に逆月は頷き共に歩き出す。
「この一つ前の空洞にも天使の像があったが、壊されていたな……どうして前に居たウィンクルムは壊したのだろうか」
「それは分からない……何か仕掛けでもあるのだろうか」
 2人が気になっているのは2つの道の奥にあった壊された天使の像のことだった。
 両方共綺麗に真っ二つに切られていて、人為的なものであること、そしてそれを行ったのはウィンクルムである可能性が高いと推理していた。
 それぞれの推理を話しながら先へと進む2人は再び広い空間へと出た。
 今までの2つの空間の2倍はあるだろうという広さがある。
「ここは広そうだな……何か手がかりがあるかもしれない」
「そうだな隈なく調べなくてはな」
 そう行って2人は調べを進めていく。
 進めていくとふと天使の像が隠れるように祈るような形で鎮座している。
「ここは壊されていないのか……他の場所にあった物は隠れていないように見えたが」
「配置も少し違うようだ」
 今まで見てきた天使の像とは形もある場所も違うと話す。
「刹那こちらにも像があるようだが……こちらの物は上を指差しているようだ」
 逆月の言葉に刹那が振り返ろうとした瞬間、周囲を青い光が差し込みだす。
「これはなんだ?」
 逆月もその青い光が差し込むと異変を感じ刹那を守ろうと傍に駆け寄ろうとした。
 しかし、歩みを止める。
「何故、いる」
 逆月は刹那と自分の間に話しかける。
 彼の目には護るべき村にいた世話役の一人女性が映っていた。
 大人しく御淑やかで世話役の中でも若く、当時一番気に入っていた相手だ。
 居るはずの無い相手に逆月は暫く言葉を失う。
 そんな様子の逆月を見ながら刹那は少し驚き見ると、
「今日は大事な会議だと伺いましたが。何故ここに」
 刹那の目には会社の上司、男性の部長が見える。
「会議ではなかったのですか?」
 冷たい口調で刹那は逆月と自分の間の空間に話しかける。
 この部長のお蔭で顕現後にすぐ保護された相手ではあるが、刹那の嫌いな人物がここに居るはずはない。
 どういうことだと考える刹那。
 逆月はというとそこにいる女性を見つめ続けている。
 護れなかったという負い目もある……そこにいるのかと触れようと逆月は少しずつ近付いていく。
「なぜここにいるのだ……お前を護ることができなかった」
 その逆月の様子に刹那は自分とは違う者を見ていることに気付き声を張り上げた。
「逆月!!私は、会社の上司に見える」
 力強い黒い瞳を見開き伝える。
「何を。あれは、俺が村で護れなかった女だ」
 逆月はその言葉に半ば信じられないと言葉を返すが、
「いいや、私の上司にしか見えない……男だ」
「俺には……」
 お互い見えている者が違うのだと刹那が言っている。
(見えているものが違うらしい。ならば、既に亡き者であるあれは。一体)
 自分の目には確かに見えている護れなかった女性を見る。そう、彼女はもうこの世にはいない存在。
(人の心を見透かす……と言っていたか。忘れようがない)
 物心ついた時には、僻地の村で蛇神様の化身と崇められていた逆月。
 しかし村がオーガに襲われ応戦したもののトランス状態に無い為に倒せずに村は全滅した。
 護りたいものがたくさんあった……忘れられるわけがない。
「逆月に忘れろとは、言わない」
 刹那の声が空間に広がる。
 心に残っている思い出や想いが忘れることができない、それは神人や精霊も同じ事。
 その思いも受け止めると刹那は言うように再び言葉を発する。
「私は逆月を信じる!だから逆月も私を信じてくれ!」
 言葉に逆月は女性の奥に見える刹那に目線をずらす。
 その力強い黒色の瞳に吸い込まれそうになる。
「刹那が俺を信じるように、俺も刹那を信じよう」
 真っ直ぐと刹那の瞳を見つめ逆月がそう言い放つと同時に青い光が消えていく。
 それと同時に天使の像が粉々に砕け散った。
「これは……この像が幻を見せていたというのか」
 刹那はそう言いながら天使の像があった場所に近付く。
 消えた幻の跡を逆月は見やる。
(今は刹那を護りたい)
 女性が居た場所を見ながら今は護るべき神人刹那がいると思う。
 忘れなくていいと言ってくれた刹那、その存在が逆月の中で日に日に大きくなっているのは確かなことだった。
「どういうことなんだ?」
 刹那は天使の像を調べるが粉々になってしまったので、詳しく調べようにもできない。
「何か仕掛けがあるはずなのだが」
 唯一残った破片に鼻を近付けると微かな甘い香りがするように感じる。
「この像の中に何か入っていたのか?」
 調べている刹那に少しずつ近付きながら逆月も一緒に調べ始める。
「石とは違う者が破片に混ざっているようだ」
 逆月が少し目を細めて言うと刹那は粉々になった破片を集め石とは違う、何か輝いているような破片を見つける。
「鏡?」
 そう刹那が言った時だった。
「あーあ、つまらないなぁ」
 2人の後方から突如として声がした。
 咄嗟に逆月は刹那を護ろうと庇うように前に出る。
「お前は誰だ」
 逆月の質問に冷たい視線を送る現れた人物。
「男は話しかけないでくれるかな……存在も嫌いなんでね」
 嫌そうに手を振りながら逆月から目線を逸らす。
「ここは惑わされなかったかぁ、つまらないな……じゃあもう1つのとこに行かなきゃね」
 もう1つと言われて刹那と逆月は目を見開く。
「それじゃーね、お嬢さん」
 刹那だけに手を振りその者は消えるようにその場から居なくなる。
「待て!」
 刹那が制止しようと声を掛けるがもうその者は居ない。
「逆月、かのんさんと天藍さんが危ないかもしれない!戻るぞ」
「もちろんだ」
 そう言って2人は集合場所へと走りだした。


 一方かのんと天藍は右から4つ目の道を進み、その後は血痕などがないことに違和感を感じているところだった。
「あれからは何もありませんね」
「出血しているのならばどこかにまた血痕があってもいいんだが」
 マグナライトで天藍は足元を照らしながら、かのんは何かないかと周辺を照らし進む。
「天藍……ここに」
 かのんの言葉に照らされた箇所を天藍は見る。
「これは剣か何かで傷がついているようだ」
 その事をかのんはしっかりとマッピングに書き込む。
「やはりここにウィンクルムがいるようですね、先を急ぎましょう」
 少し足早に2人は先に進んだ。
 特に分岐はなく道は真っ直ぐの一本道。
 道すがらその後も何箇所か刃物の痕を見つけてはいる者の、その他には何もみつけることができない。
 しばらくすると今までよりは広い空間へと出る。
「ここが最奥のようだな」
 何箇所か痕跡を見つけてきた2人はここに何かあると踏んで隈なく調べ始める。
「天藍これは今まで見てきた粉々になった破片と材質が同じではないでしょうか?」
 かのんの言葉に天藍は近寄る。
「そのようだな……天使の像のようだが」
 2人は天を見上げている天使の像を見る。
「あちらにもありますね」
 対角線上にあるもう一つの天使の像を見つけかのんは調べようと近付いていく。
「こちらのは自分の体を抱きかかえています」
 更に調べようとした時だった。
 空間に青い光が眩く差し込む。
「なんだ?」
 天藍は辺りを見回しながらかのんへと駆け寄る。
 不意打ちに備えユニゾンの用意をする天藍。
 かのんは不安な表情を浮かべながら天藍の袖をそっと掴む。
 少しずつ青い光が強くなっていく中、かのんは掴んでいた天藍の袖を離すと強い光の中へと駆け出す。
 駆け出しているかのんを制止しようと手を伸ばすが一歩遅かったようだ。
 しかしその手を引くことができない……天藍はかのんの駆け寄って行った場所を怪訝な顔で凝視しだす。
(なぜあいつがここにいるんだ)
 天藍は田舎にいる知人の精霊が目に映っていた。
 早くに神人と契約し契約相手が見つからずにいた自分に上から目線で見下してきた者に。
 神人がいてこそと精霊の存在意義を説いていた。
 過去、契約相手がいない事に焦れていたので神経逆撫でられていた天藍の記憶が蘇る。
(正直、二度と関わり合いたくない)
 怒りにも満ちた表情になる天藍とは弱に、かのんは駆け出した先で涙を流していた。
 かのんには事故で死別した両親が目に映っているのだ。
 死別したということも忘れ、目の前に今会いたかった両親がいるという事実。
 寂しかった、一人で耐えて生きてきた、でも今は天藍が傍にいるという幸せもある。
「お父さん!お母さん!」
 それでも今、もう一度会えたという現実から目を逸らすことが出来ないでいる。
 そのかのんの言葉により天藍はふと我に返る。
(今かのんは何と言った?お父さん、お母さん?)
 自分には今顔も見たくない精霊が見えている……しかしかのんには両親が見えている。
(かのんから両親とは死別したと聞いている)
 かのんの瞳から止めどなく零れ落ちる涙を見ればそれが真実であることは確かだ。
「かのん!」
 天藍はかのんを強い口調で呼ぶ。
 その声にかのんは涙を流しながら天藍の方へと振り向いた。
「天……藍?」
「かのん、俺はお前から両親は死別したと以前に聞いている。それに俺には俺の顔も見たくない精霊が目の前にいる!」
 その言葉にふと我に返るかのん。
 そう両親は死別した……そうここに居るはずはない。
 かのんは涙を軽く拭うと目の前にいる両親をもう一度見る。
「そうです……両親は居ません。出先で事故に遭い帰ってきた遺体を確認したのは私です」
 かのんの前で優しい微笑みを浮かべている両親はかのんが死を確認した。
 あの悲しく辛かった過去。
「天藍、私には天藍の言っている精霊は見えません」
 お互い違う者を見ていると聞いた天藍は幻を見ていると憶測し自分自身の頬を叩き出す。
 その瞬間天使の像が粉々に砕け散る。
 青く差し込んだ光も消え失せていた。
「2人で違う者をみていたのでしょうか」
 かのんには死別した両親が見え、天藍には関わりたくもない精霊が見えた。
 2人の絆がもたらし幻は消え失せた。
 かのんは思う、両親が居なくなったとき寂しくて辛くて、一人耐えてきた昔。でも今は、
(天藍がいるから大丈夫です)
 心の中で両親に伝え、紫色の瞳に力強い光が戻る。
 そして天藍に駆け寄ろうとした時だった。
 天藍の後ろに人影が見えた。
「天藍!後ろ!」
 と同時に天藍の首筋に刃物が向かっていた。
 しかし天藍はユニゾンの準備をしていた。
 その人影に向かって発動され、防御を行うとカウンター攻撃へと転向された。
「くそっ!」
 現れた人物は舌打ちをし後退する。
「準備をしていたとはね……危ない危ない」
「かのん」
 天藍はかのんを護るように後ろに隠す。
 トランスをしていた天藍は現れた人物に多少の傷を負わせたようだ。
 相手のこめかみから血が滴り落ちている。
「こっちもダメかぁ~つまらないなぁ~」
 そう言いながらその者は口端を上げて微かに笑った。
「こっち?」
「刹那さんと逆月に何かしたんですか?」
「お嬢さん?そんな怖い顔しないでよ……綺麗な顔が台無しだよ」
 天藍には目もくれずにかのんに微笑みを浮かべながら答える。
「何かしたのかと聞いている」
 天藍は鋭い目線で睨みつけながらその者に質問をする。
「話しかけないでくれるかな……虫唾が走る!」
 が、天藍を冷たい視線を送ると怒りに満ちた表情へと変わる。
「あ~あつまらない、今回は綺麗なお嬢さん2人も来てくれると思ったのにな」
「今回って……」
「前回のウィンクルムは容易かったからね」
 微笑を浮けべながら言われたが、かのんと天藍は微かに冷や汗を流す。
「じゃあそいうことで!」
 スッとその場でその者は消えように居なくなる。
「待ってください!」
 かのんの制止の聞くことなく忽然と居なくなった場所を2人は見つめる。
「とちあえず集合場所へ行こう」
 天藍はかのんの手を取り駆け出した。
 こっちもダメということは刹那と逆月が無事なのは確か、そして行方不明のウィンクルムが居たことも確かだ。
 生死までは分からないが。


●戦闘~発見とヤックアドガの討伐

 かのんと天藍が集合場所に到着すると刹那と逆月は2人が無事な事に安堵していた。
「無事でよかった」
「刹那さん達も無事ですね」
 お互いの無事を確認すると、お互い調査し得た情報を交換する。
 天使の像について、幻を見たこと、そして謎の人物とその者が言っていた言葉を。
「幻を見ることについては天使の像と関係があるように思う」
 刹那はそう言うとかのんを見る。
「像の破片から微かではあるが甘い香りがしたんだ、それと鏡のような破片も混ざっていた」
「甘い香りですか……何かの植物でしょうか」
 かのんは植物学に精通している、甘い香りの植物をいくつか思い浮かべるが幻覚を見せるようなものは今は思いつかない。
「それと先ほど現れた者が言っていたのだが、前回のウィンクルムは、と言っていた」
「この場に居たということか」
 天藍の言葉に逆月が頷き残りの一つの道を見る。
「ここの可能性が高いだろうな」
 残った最後は全員で行くことを決め4人は道を歩みだした。
「天藍ここにありますね」
 かのんが足元を照らすと其処には微かな血痕が残っている。
「この奥に何かしらいるということか」
 血の乾き具合からみて前回とほぼ同じ時に付いたものだと憶測する。
「ここには何か刃物で付いた跡があるようだ」
 刹那も痕跡を見つける。
「刹那……水の音がするようだ」
 逆月が耳を澄ましていると微かに水音が奥から聞こえてくるようだ。
「行ってみよう」
 血痕があること、そして刃物の傷を見て先に何者かが居ると厳戒態勢を崩さずに前へと進む。
 暫くすると洞窟内に川が流れている箇所にたどり着いた。
「アイルさん!エドガーさん!」
 刹那はその場で叫んだ。
「マルタイユさん!フレールさん!いらっしゃいませんか?」
 かのんも続いて叫ぶ。
 すると空間内の川の直ぐそばにある影からこちらを覗く人影が現れた。
「ウィンクルム……ですか?」
「そうだ!助けにきた」
 そっと出てきたのはファータの青年だ。
「私はフレールといいます。マルタイユの精霊です」
「無事だったんだな、よかった」
 刹那はフレールの佇まいをみて傷がないことを確認する。
「はい、私は」
 そう言うと先ほど出てきた影の奥へと皆を案内する。
「こちらはアイルさんの精霊のエドガーさんです」
 そう言われエドガーを見る全員は息を飲む。
「なんとかスキルで傷を塞ぎ出血は止めたのですが……最初の出血量が酷く回復していなくて」
 顔面蒼白のエドガーに駆け寄りかのんが状態を見る。
「薬草を持ってきました」
「病院に急いで連れて行かなくては危ないな」
 刹那はエドガーが危険な状態であることを察知し、かのんの応急手当の手伝いをする。
 応急処置を施すと、エドガーの顔色は幾分か和らいだように感じる。
「しかし、なぜ外に出なかった?」
 逆月が問うとフレール首を横に振りながら答える。
「神人が囚われています、置いてはいけません。それにエドガーさんをこの状態で放って置けるわけでもなく」
「助けが来ると踏んで待っていたということか」
 天藍の言葉にフレールは頷く。
「ウィンクルムが来た場合にと備えて仕掛けはいくつか壊していましたが、奴の目が何処にあるのか分からず」
 仕掛けの言うのは天使の像ということを察した刹那は、綺麗に縦に割られた天使の像を思い浮かべる。
「像を壊したのは」
「私です。トランスも出来ないのでそれぐらいしか」
 悔しそうに唇を噛み締めるフレールに刹那も何ともいえない顔をした。
「助かった、あれ以上幻を見ることはなかったからな」
 天藍は軽くフレールの肩を叩く。
「お願いです……私達の神人を助けて下さい。トランスが出来ない今の私には」
 更に悔しそうに拳を握り締めながらフレールは懇願した。
「ということは、神人達の居場所が分かっているのだな」
 フレールの言葉に逆月は言葉の意味を確認する。
「では詳しく教えてくれ」
 逆月の言葉にフレールは頷くとかのんと刹那が作成したマッピングを見て説明を始めた。

 
 フレールの説明と地図の書き込みから、刹那と逆月が調べていた左から3つめの道の途中にある分岐点の奥に居ることが分かった。
「あの謎の者がこちらに先に来たのも頷ける」
 自分達が敵の近くに居たことでかのん達より先に刹那達の下へと来た。
 フレールの情報によると、この奥はもう一つ分岐が3つあり一番右側を進むと扉のある空洞へと出る。たぶんそこ扉の奥に神人がいるだろうと話していた。
 しかしその扉の前では守るようにヤックルロアが居るという。
 トランスが出来ないフレールはオーガを現在倒すことが出来ないため神人達を救うことは出来なかったと何度も語っていた。
「この奥にいるんですね」
「静かだな」
 かのんと刹那は耳を澄ますと何も聞こえない事を再確認しつつマッピングに書き込むことを忘れない。
「刹那」
 逆月が刹那に近付くと2人はトランスへと以降する。
「打ち払う」
 刹那からの頬への口付けで逆月はトランスを完了させる。
 そしてかのんと天藍はこの先で戦闘が予想されるためハイトランスを行う。
「先を急ごう」
 あまり遅くなっては神人も無事かは分からない、そして大怪我を負っているエドガーの容態もあまり思わしくないことから先を急ぐ。
 直ぐに臨戦態勢に入れるようにかのんと天藍は前を歩きへ、そして刹那と逆月は後方から道を進む。
 3つの分岐点に付いたところで4人は異変を察知する。
「先ほどまでは静かだったのだが」
「居るようだな」
 逆月と天藍はオーガの咆哮が聞こえてくる方向を見る。
「行きましょう、神人達が無事でありますように」
 祈るようにかのんはオーガの居るであろう道を見つめる。
「無事だと私は思っている……神人は女だからな」
 やけに男を嫌っていた、そして女にはとても友好的に『お嬢さん』と呼んでいた事から憶測を立てる。
 4人は顔を見合った後、奥へと進んで行った。
 進むにつれてオーガの、ヤックルロアの咆哮が大きくなってくる。
 近付くに咆哮に4人の顔も引き締まっていく。
「居たな」
「奥に扉もあります」
 ヤックルロアを1体確認すると、他には居ないかと確認を怠らない。
「他には居ないようだ」
 逆月が言うと、
「あの奥にいるんだな」
「守っているぐらいですからいるでしょうね」
「行くぞ」
 天藍の合図と共にヤックルロアへと攻撃を開始する。
 かのんと天藍は前衛で、刹那と逆月は後衛へと。
 突如として現れた敵にヤックルロアは少し狼狽しているようだ。
 刹那が素早く鉱弓「クリアレイン」の弦を引きヤックルロアに攻撃を仕掛ける。
 鉱弓「クリアレイン」は矢尻のクリスタルが光を反射してヤックルロアの視界を奪うことに成功する。
 そして微かにヤックルロアに矢を掠める。
 ヤックルロアが怯んでいることを見逃さず天藍が【双剣】ポトリーダブルナイフを振りかざす。
 それと同時に逆月は長弓「ダークムーン」でダブルシューターを放ちヤックルロアに逃げ場を与えないでいる。
 かのんは愛の女神のワンド「ジェンマ」を翳し天藍の攻撃力を高めていく。
 集中攻撃を受けているヤックルロアは魔法で反撃するが、天藍はテンペストダンサーの華麗な動きで避けていく。
 刹那は相手を怯めさせるために鉱弓「クリアレイン」を放ち続け、逆月も相手に隙を作るためにダブルシュータを放ち援護をする。
 天藍の攻撃力が高まった時だった、ヤックルロアに致命傷を負わせるとその場で倒れたのだった。
「倒したな」
 少し息を切らした天藍にかのんが近寄り笑顔を向ける。
「後は救出だ」
 刹那は扉へと目線を向けるとその場の全員に言う。
「無事であることを願う」
 逆月も同時に扉に向かい見つめていた。


●救出~その者とは

 無事にヤックルロアを倒した4人は扉の前に立っている。
 中から声がしないかと聞き耳を立ててみるが扉が厚いのか何も聞こえてこない。
「入るしかないようですね」
 かのんが天藍、刹那、逆月を見ると3人は肯定した。
 何かあってはいけないと精霊の2人が扉を開く。
 中は明るく微かに甘い香りが広がっている。
「かのんさん、この香りだ」
「この香り……」
 かのんは考えるが行き当たる植物はない。
「奥に人の気配がある」
 逆月は奥を指差しながら言う。
「行ってみよう」
 天藍は逆月の言葉に頷くと一緒に先行して歩き出す。
 奥に進むにつれて見たこともない花々が咲き誇るようになってくる。
「これはなんの植物でしょうか」
 かのんは興味津々に植物を見るが、牡丹のようで薔薇にも見える植物を触ろうと手を伸ばした。
「かのん!触らない方がいいだろう」
 天藍の言葉にかのんは咄嗟に手を引く。
「危ないかもしれませんね」
 この植物からの甘い香りが前に見た幻の原因かもしれない、と憶測できることから天藍は少し強めの口調で制止した。
 今は微かに香るお蔭か幻をみることはないようだ。
「何かの植物と合わせたものでしょうか」
 訝しげにかのんは見ると幻をみた先ほどのことを思い出す。
 そのまま歩いているとその植物が今まで以上に咲いている場所へとでた。
「助けて!誰か!」
 出たと同時にこちらに助けを求めている女性の姿を確認した。
「アイルさんとマルタイユさんか?」
 そういいながら刹那はその女性へと駆け寄る。
 それに付いていく他3人。
「私はマルタイユ、お願い、アイルをアイルを助けて」
 マルタイユと名乗った神人は奥を指差す。
 そこには虚ろな目をしたもう一人の神人アイルが居る。
「あの子……自分の精霊が死んだって……言って」
 マルタイユは頭を垂れて泣き崩れる。
 アイルは自分の精霊エドガーの大量の出血などを見て死んだと悟ったと、そしてその事実から逃れるために謎の人物に与えられた飲み物を口に含んだそうだ。
 刹那は足早にアイルに近付いていく。
「刹那……」
「安心しろ、エドガーさんは生きている!」
 肩を抱きアイルの体を何度も揺さぶった。
「生きてる?エドガーが!」
 虚ろだった目が少しずつ正気を取り戻していく。
「そうだ、生きている」
 アイルがその場に膝を付き泣き出すとそっと刹那は彼女を抱き締めた。
「つまんないなぁ~」
 その時入り口付近から声がする。
「お前は」
 咄嗟に逆月と天藍は神人達を護る様に前へと出る。
 かのんは天藍の後方からその者を見つめて話し出す。
「オーガと共にいますね……マントゥール教団の者ですか?」
 率直な質問に目を丸くする。
「マントゥール……そこに居たことはあるよ。でも男が多かったから出てきちゃったんだよね、僕」
 教団員ではないとその者は言った。
「まぁ居たときに懐いてくれたオーガが居てね……それでたまーに男から女性を助けるために、ね」
 クスクスと長い銀髪を掻き上げて黒い瞳薄く閉じ、笑う。
「なぜ先の4人にこんなことを?」
 かのんは続けて質問をする。
「だ、か、ら!男から女性を救うためだよ」
 悪気は全くないとその者は微笑みをかのんに向ける。
「女性が男に泣かされるのを見ているのは忍びなくてね、だったら男が居なくなればって思ったんだ」
「泣かされるばかりではない」
「幸せにだってなります」
 刹那が言うとかのんも続けて言う。
「あ~もういいや、面倒だな」
 そう言うとその者は振り返り入り口へと向かい歩き出す。
「お花畑できたのに……また作ればいいし」
「この花はなんですか?」
「お嬢さん?そ・れ・は……内緒♪会う機会があったらまたね!」
「待て!」
 そんな様子の者に天藍と逆月が制止すると、先ほどまでの微笑みが消える。
「男は話すな!」
 怒りにも満ち、そして悲しみをも思わせる表情。
「今日は綺麗なお嬢さん達に免じて見逃してあげるよ。あ、そうそうボクの名前ジュレーヌって言うんだ、覚えといて」
 じゃあ、と手を振るとその場から跡形もなく消えていく。
「何者でしょうか」
「さぁ……人なのか?それとも」
 かのんと刹那はその場で考え出すが当の本人が消えた今では答えが出るわけではなかった。


●脱出~幻の秘密

 アイルに肩を貸しながら刹那は精霊達の居るところへとたどり着いていた。
 無事を喜ぶマルタイユとフレール。
 エドガーの心配そうに見つめるアイルにかのんは優しく大丈夫だと諭していた。
 負傷しているエドガーを逆月は担いで運び出す。
 その時エドガーが何か光る石を持っている。青く光る石だ。
 ライトに当ててみるとその青い光は幻を見た光と同じ色をしていることに気付く。
 逆月は何かの手がかりになるのかもしれないとそれを刹那に渡した。

 無事に洞窟から脱出するとA.R.O.A.の職員が村で待機をしていたためエドガーはアイルに付き添われ病院へと運ばれる。
 また、刹那は逆月に渡された青い石を職員へと渡し調べて貰う事にする。
 かのんも中に見たことのない花が咲いていたことを告げそちらも調べてほしいことを伝えた。
「あの」
 任務が無事に終了した4人にマルタイユが話し掛けてきた。
「ありがとうございました」
 マルタイユがお辞儀をしながら礼をすると同時にフレールも礼をする。
 2人は2週間どのように過ごしたかについて話す。
 神人はジュレーヌが無害な食べ物や飲み物を与えてくれていた。しかしアイルが虚ろな状態になったこととヤックルロアが居たことで逃げるに逃げれなかった。
 また、精霊は川の水を飲んで過ごしていたという。もう少し遅ければ精霊は危なかったかもしれないと。
「暫く休養をとってくれ」
「無理はしてはいけない」
 刹那は軽く笑顔を向け、逆月は少し心配そうに声をかける。
「エドガーさん無事だといいですね」
 かのんは運ばれたエドガーを心配する。
「2週間も生き残ったんだ……それに神人も一緒だ大丈夫だろ」
 天藍はそっとかのんの肩を抱いた。


 それから数日後洞窟にあった花と青く光る石、そしてジュレーヌと名乗った人物についての報告がされた。
 青い石は乱反射が激しく当たりを照らすには小さいものでも数個あれば十分なこと。
 天使の像の2組のウィンクルムの報告を受けたA.R.O.A.は天使の壊れていない像を調べるとその中からその石がでてきたと話す。
 そのために洞窟の内部が青い光が差し込むようになったようだと見解を述べた。
 そして花には幻覚作用があることはわかったが、いくつかの交配をへて作られた花で、それ以上の詳しいことは分からないと。
 洞窟に昔からあるものに似ているが少し違うようだと案内人の老人が話してくれたそうだ。
 何らかの形で天使の像に埋め込まれ散布されるようになっていたことで幻を見たのではと憶測された。
 次のジュレーヌについて調べたが特に目ぼしい情報はなく目下調査中との報告のみにとどまった。
 また最後に、病院に運ばれたエドガーは順調に回復に向かっていることも報告された。



依頼結果:成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 05月03日
出発日 05月10日 00:00
予定納品日 05月20日

参加者

会議室

  • [7]かのん

    2016/05/09-23:18 

  • [6]かのん

    2016/05/09-23:18 

    こちらもプラン提出済みです

    戦闘部分は、天藍と逆月さん初めましてではないので、前衛後衛で連携とって対応出来たら良いなと思います

    洞窟の由来や正体不明な人の事も気になりますけど、行方不明になっているウィンクルムさん達を見つけて、一緒に戻れると良いですよね

    短い時間でしたがお疲れさまです
    うまくいきますように

  • [5]豊村 刹那

    2016/05/09-23:04 

    プランは提出したよ。
    個人的には、何よりも行方不明のウィンクルムを発見したいな。

    上手く行きますように。

  • [4]かのん

    2016/05/09-20:08 

    刹那さん、逆月さんこちらこそお久しぶりです
    よろしくお願いしますね

    私達は

    ・洞窟内のマッピング
    (どこの分岐に入ったとか)

    ・先行したウィンクルムさん達の痕跡探し
    (足跡やあまり考えたくないですけど戦闘時の血痕とか)
    ・可能なら先行したウィンクルムさんへの応急処置

    ・謎の人物には、オーガと共にいるので教団員なのかと、先行したウィンクルムをどうしたのか聞いてみようかと思っています

    戦闘に関してはかなりざっくりになりそうですが、ハイトランス使って前衛に出れるようにしておきますね

  • [3]豊村 刹那

    2016/05/09-19:50 

    かのんさん、天藍さんお久しぶり。
    よろしくな。

    謎の人物に問いたい事は特にないから、天使像について調べたいと思ってる。
    形の種類とか、配置とか。
    また何かあって来た時に、対策立てる足しになるかな、と。
    老人が言ってた『人の心を見透かす洞窟』ってのが気になるのもあるけど。

    戦闘は、逆月と後衛にいる。
    人がいないなら前に出ようかと思ってたけど、私が前衛になったらむしろ邪魔になりそうだ。
    クリアレインを装備して行く。

    行方不明のウィンクルムは。
    見つけたら状態を確認して、外へ連れ出すぐらいかな。
    歩けそうなら歩いて貰えると有難いけど。
    捜索方法はマグナライトで照らしながら、名前呼んで探すくらいしか浮かんでない。

  • [2]かのん

    2016/05/09-19:01 

    ぎりぎりでの参加になるが人手は多い方が良いだろう
    かのんと天藍だ、よろしくな

    とりあえず具体的な事は300の上限との兼ね合い見てから出なおすが、ひとまず幻に関して伝えておく

    かのん:(愛しい者)
    かのんが十代半ばの頃に死別している両親

    天藍:(憎いというよりは顔を見たくない者)
    田舎にいた頃の知人の精霊
    何かと人のコンプレックス逆なでするタイプだったので2度と会いたくなかった

  • [1]豊村 刹那

    2016/05/09-12:31 

    豊村刹那と、プレストガンナーの逆月だ。
    よろしく頼む。

    挨拶に顔だしただけで、具体的にどう行動するかの書き込みは夜になる。
    ああ、幻と対峙するのは個別みたいだから。
    どっちがどっちだけ先に言っておくな。
    私が憎い者で、逆月が愛しい者。

    まあ、私のは憎いってより一番嫌いなやつになるかな。


PAGE TOP