つまらないものですが(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ―――さて、どうすればいいだろうか。
 貴方は猛スピードで考える。全脳細胞をフル稼働でコンマ一秒以下の短い時間であらゆる反応を想定し仮定を重ね可能性を探っていく。
 目の前には、一口食べられたとてもとても美味しそうな料理、もしくはお菓子。
 それはパートナーが買ってきたものだった。もしくはパートナーが作ってくれたものだった。どうあれ、パートナーから貰ったのだ。どうぞ食べてください、と。
 本当に、本当に美味しそうだったのだ。
 見た目は完璧、香りも完璧、食べればきっと完璧な味が口の中に広がるだろうと、考えるまでもなく信じきるほどに、美味しそうだったのだ。
 ところがどっこい、現実はそんな甘くなかった。
 なんだこれは。
 口の中に広がるのは、何とも形容しがたい味と感触。見た目と香りの詐欺だ。ていうかホントこれ何だ? 食べ物? 有機物? この世のものなの?
「どう? 美味しい?」
 笑顔で尋ねてくるパートナーに向かって何か言いたいが、まずその前にこの口の中の謎の物体Xを飲み込むか吐き出すかしなければならないが、何度でも言う、これは笑顔を振りまくパートナーが自分の為にと用意したものだ。
 そもそもこいつ、不味いのわかってて用意したのか? いや、そんな筈はない。でももしかしたら。くそ、どっちだ?!
「ねぇ、どう?」
 さらに尋ねてくる笑顔のパートナー。口の中には謎の物体X。
 さぁ、どうする、どうすればいい?!

解説

パートナーからのプレゼントのクソ不味い食べ物に対して対応してください。

●食べた方
神人でも精霊でもどちらでも構いません。
ただし、どちらか一方だけです。
神人ならアクションプランに、精霊ならウィッシュプランの頭に『食』の字を入れてください。

●用意した方
買ったのか作ったか貰ったのか、何故プレゼントしたのかは自由です。
お好きにどうぞ。
作った場合、どんなに料理が上手という設定でもスキルを持っていても、必ずクッソ不味いものが出来上がります。
実は美味しいものというのはありえません。

●場所
食べるのに相応しい場所なら何処でも構いません。

●このプレゼントを用意するのに結構お金使っちゃった☆
300Jrいただきます

ゲームマスターより

口の中の異物をどうにかしてから返答してあげてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柳 大樹(クラウディオ)

  クロちゃん家に上がって、トリュフを渡す。
「妹が作ったヤツだけど食べきれなくてさ」
俺は食べたから。(右手を振り断る
前置いてったインスタント珈琲でも淹れるかな。(自分の分も用意
口直しは必要だろうし。

さすがに怒るかなー。……おお、飲み込んだよ。すげぇ。
第一声がそれなの。(苦笑
「ひどいの味だけだから、大丈夫だよ」
普段はまともなもの作るんだけど。「偶にアレンジに挑戦して失敗するんだよね」(妹の事
兄貴は逃げるから、もっぱら俺が味見役。

「まずいもの食わせたのに、怒んないのな」ほら、珈琲。
うん。今まで何食べてたのか、すごく気になる発言をどうも。
あんたの反応見たかっただけだから、もう食べなくていいって。(止める


エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
 
精霊の住居はA.R.O.A.の息の掛かったマンション
ディナスのがそちらに呼んで下さるという事は、何かよほどうれしい事があったのでしょうねぇ

おや、手料理ですか?わざわざこちらの為に? 有難う御座いますよ。
(一口含んで、シチューなのに脳が覚醒する刺激物の気配)

……………
内心は七転八倒の心持ちですが、初めて作ったのでしたら、もどしてしまってはディナスは衝撃を受けるでしょう。ひとまずは硬直した口と喉を無理やり動かして、意地で飲み込みまして

ディナス……味見は……?
返ってきた輝く瞳に

……ディナス、せっかくですから私の屋敷に、住み込みで料理の勉強をしてみませんか?
……毒見──もとい味見は私が行いますから……


レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
  なにが私との時間は有意義よ、そこまで言うんなら試してやるわ
このわざと塩と砂糖を取り替えた重曹入りマフィンでね!

ルード宅訪問
ねぇ、お菓子作ったんだけどうちで食べなぁい?
焼きたてを食べて欲しくってぇ…(ぶりっこ全開
(へっ、まんまとかかりやがったぜ

招き入れマフィン3個と紅茶を出す
さ、遠慮なく食べて♪(そして無様に醜態を晒しやがれクソ猫耳!
どう?ルードの為に作ったんだけど(ニヤニヤ
(ふん、澄ました顏しても口の中は大惨事だろ?吐くなり悶絶なりしちま…え、ちょ、2個目?確かに塩と砂糖は替えたハズだぞ!?

お、お粗末様(ありえねぇ…
ぐぅ…(クールにドヤ顔しやがってぇ…
硬直)こ…子供扱いすんなっての!(払い除け


テオドア・バークリー(ハルト)
  母さんが急遽仕事とは…適当に昼飯買っていけって言ってたけど、
たまたま早起きしてやることなかったし本見ながら作ってみた。
本の通りに作ったし…大丈夫だろう、多分。
思ったより多く出来たからハル用に別に包んで持っていくか…

自然に俺の分つまもうとするなって!ハルのはこっち!
料理なんて初めてだけどなかなかうまく出来ただろ?

…うわ、本当だ何これ
本の通りに作ったはずなんだけどな…
一応こんな時のために登校途中でパンを買ってきておいたから
ハルの今持ってる弁当は回収してこっちと交換しよう。
ちょっと!無理すんなって!
ほんと無茶するよ…はい、お茶

何かあったら即保健室送りにするからな
休み時間終わる頃には起こすよ。


■塩味お菓子の関係性
 マフィン。調理初心者にも簡単に作れるし、慣れている者には色々なアレンジが楽しめるお菓子だ。
『レオ・スタッド』もまた、とあるアレンジをしたマフィンを作っていた。
 レオの頭には、自身の精霊『ルードヴィッヒ』に言われた事が浮かんでいる。
『俺は無関心な相手に時間を使わない主義だ』
 美しく咲くヨミツキがしっとりと雨にぬらされた日に言われた、その内容。
(なにが私との時間は有意義よ、そこまで言うんなら試してやるわ)
 ルードヴィッヒの言ったことを素直に受け止められないでいるレオが作っているマフィン。それは。
「このわざと塩と砂糖を取り替えた重曹入りマフィンでね!」
 今ここに、何とも可哀想なマフィンが完成した。

「ねぇ、お菓子作ったんだけどうちで食べなぁい? 焼きたてを食べて欲しくってぇ……」
 きゃるん、という効果音でも聞こえそうなほど、ぶりっこ全開で誘うレオ。
 筋骨隆々とした男がやる演出ではないが、なまじ顔が美しいだけに妙に可愛らしく完成してしまうから不思議だ。
 しかし、自宅のドアを開けて迎え入れたルードヴィッヒにそんな可愛らしさは通じない。
 それどころか、今まで何度も入室を拒まれていたスタッドの家に招かれたのだ。あからさまな怪しさしか感じない。
(猫なで声も滑稽だが置いておこう。さてどうするか……)
 思考時間は数秒にも満たない。返事は決まった。
「構わない、丁度暇にしていたしな」
「よかったぁ! じゃあ来て頂戴」
 笑顔で隣の自宅へと案内というまでも無い案内を始めるレオ。
(へっ、まんまとかかりやがったぜ)
 内心ではルードヴィッヒを嘲りながら。

 自宅へと招き入れ、焼きたてのマフィン三個と紅茶を出す。
 見た目だけで判断するならば、少し堅焼きな気がするマフィン。
(素人に製菓技術を求める方が酷か)
 指摘するまでも無いと考えたルードヴィッヒに気付いているのかいないのか、レオは笑顔で勧める。
「さ、遠慮なく食べて♪」
(そして無様に醜態を晒しやがれクソ猫耳!)
 そんなレオの心の声など聞こえる筈もないルードヴィッヒは、ついに問題のマフィンを手に取り、頬張る。
「…………」
 そして無表情になった。
(バターの香りに反し実体はマフィンの皮を被った岩塩、苦味も含み吐き気を催す……)
 口の中の異物を冷静に分析するが、分析したところで消えるわけもない。不味い。何度分析しても不味い。このままでは舌が馬鹿になる。
「どう? ルードの為に作ったんだけど」
 先程までのぶりっこは何処へやら。今はニヤニヤと笑うレオを一瞥し、ルードヴィッヒはすべてを悟る。この可哀想なマフィンはわざと作られたものである、と。
(俺を試すとはイイ度胸だ、最も屈辱的な手段で報復してやる)
 決めてしまえばルードヴィッヒは行動に出るまでだ。
(ふん、澄ました顏しても口の中は大惨事だろ? 吐くなり悶絶なりしちま……え、ちょ)
 無表情で静止したルードヴィッヒをニヤニヤと眺めていたレオは驚く。ルードヴィッヒはその口を動かし、そのまま残りも頬張り始めたではないか。
(二個目? 確かに塩と砂糖は替えたハズだぞ!?)
 思わず自分のやった行動を振り返る。間違いなく塩を入れた。いや、マフィンの作り方としては盛大に間違っているのだが、今回は塩であっている。あっているのに。
 あっていないのはルードヴィッヒの行動だ。吐き出す事も文句を言う事も無く、ごく普通のマフィンを食べているかのように黙々と食べ、皿を空にして、優雅に紅茶を飲み干した。
「ごちそう様」
「お、お粗末様」
 ありえねぇ……。
 心の中でそうつぶやいても、レオの目の前にはしれっとしたルードヴィッヒがいるだけだ。
 いいや、それどころではない。
「塩味の焼き菓子をどうも……それと、重曹は膨らし粉の代わりになる。嫌がらせとして使うには材料を間違えたのではないか?」
 ルードヴィッヒは勝利の微笑でレオにそう突きつけた。お前のやったことなどお見通しだ、と。その上で自分には何の被害も無い、と。
「ぐぅ……」
(クールにドヤ顔しやがってぇ……)
 こんな筈ではなかった。しかし、もはやレオは何も言えない。悔しげに呻くだけだ。
 そんなレオを見て、ルードヴィッヒは最後の仕上げとばかりに『最も屈辱的な報復』を完成させる。
「お前もこういう悪戯をするのだな、有意義な発見だった」
 ルードヴィッヒは幼子を褒めるように、よしよしとレオの頭を撫でる。
 思いもよらぬその行動に、レオは一瞬思考が停止し、硬直する。
 けれどすぐに現状を把握し、顔を赤くしながら叫ぶ。
「こ……子供扱いすんなっての!」
 余裕綽々のルードヴィッヒの手をバシッと払い除ける、それが今のレオに出来る精一杯だった。



■刺激的なお誘い
 コトコトと食材が煮込まれている鍋の前に立つのは『ディナス・フォーシス』で、作っているのはシチュー。
(……まだ、母が生きて料理を作ってくれていた頃を思い出します)
 ディナスの一際のお気に入りがシチューだった。それを、今日は自身の神人である『エルド・Y・ルーク』の為に作ってみたのだ。
「出来ました」
 とろりと出来上がったシチューはとても美味しそうだ。記憶の中の母が作ってくれたものとそっくりだ。しかし。
(これだけ綺麗に出来ているのですから、味見はしなくてもきっと美味しく食べてもらえるに違いないです!)
 どうしてその発想になったのか。
 ここで誰かが「ちょっと待て味見しろ」と止めていたら、この後の悲喜劇は起こらなかったのだろうが、残念ながら今ここにはディナスしかいなかったのだ。

 さて、ディナスは現在A.R.O.A.から提供されたマンションの一室を住まいとしている。
(ディナスがそちらに呼んで下さるという事は、何かよほどうれしい事があったのでしょうねぇ)
 エルドは精霊の招待を微笑ましく思いながら、ディナスの部屋へと向かっていた。
「ミスター、どうぞ入ってください」
「お邪魔しますよ」
 迎え入れられてみれば、部屋の中に広がるあたたかな香り。テーブルの上には既に盛り付けられたシチューが待っていた。
「おや、手料理ですか? わざわざこちらの為に?」
「ミスターに食べてもらいたくて。どうぞ」
「それはそれは、有難う御座いますよ」
 精霊の気持ちと行動を嬉しく思いながら、さっそく椅子に座ってスプーンを握る。
 そうして美味しそうなシチューを一口ふくんで。
 何故かエルドの脳天にピシャーンッ! と雷が落ちた。
「……………」
 シチューを、食べた筈だ。なのに脳が覚醒するこの刺激物の気配は何なのか。
 隠し味? いや、そんな可愛いものじゃない。何も隠れていない。思い切りこちらの味覚を鋭利攻撃してきている。味覚? いや、舌? もうこれは物理的攻撃のレベルじゃないか?
 エルドは七転八倒の内心をぐっと堪えて考える。
(初めて作ったのでしたら、もどしてしまってはディナスは衝撃を受けるでしょう)
 目の前の期待に満ちた笑顔が曇っていくのを見て、自分の取るべき行動を決める。硬直した口と喉を無理やり動かし、意地で飲み込んだ。
「ディナス……味見は……?」
 攻撃に耐えた口を動かして責めるのではなくただ質問をする。けれどそれでディナスは気付いてしまった。自分の料理は失敗したのだと。
「……やはり……味見は……しておくべきでしたでしょうか……」
 見た目は本当に美味しそうだったのだ。思い出の中のシチューと同じだった。だからこそ嬉しくて、自信があって、失敗したなど思わなかった。
 間違っていたのだ。何事も、確かめる事が必要だ。
 じわりと涙が滲みそうになる。それを誤魔化すように、ディナスは今更ながらスプーンを手に取り自分もシチューを一口食べようとする。一体どんな代物をパートナーに食べさせてしまったのか確認する為に。
 そんなディナスに、エルドは声をかけた。
 ディナスはエルドの声を聞きながらスプーンを口に運ぶ。
「……ディナス、せっかくですから私の屋敷に、住み込みで料理の勉強をしてみませんか?……毒見──もとい味見は私が行いますから……」
「――――ッ」
(今は、A.R.O.A.にお世話になっている身ですが……ミスター、それは……一緒に暮らしても良いという事でしょうか……?)
 言われた内容を噛み締めるのと、シチューの口内攻撃は同時だった。
「ぅぶッ?!」
「ディナス!」
 思考を無視して体が口の中の異物に拒絶反応を起こした。つまり、軽くふきだしかけた。
 むせるディナスにエルドが慌てて背中をさする。
(二つ返事で、はい、と……!! 答える筈が……!!)
 心の中では全力で是と叫んでいるが、現実は残念なシチューが残念な状況を作り出している。
 少し落ち着いてきたディナスに、エルドは苦笑しながら水をさし出す。感謝よりも先にディナスはそれを飲み干した。
「返事は急いでいませんからね」
 エルドは、急すぎたか、と考え、ディナスに猶予を与える。
「その気になったら、いつでも声をかけて下さい」
 ゴクリと飲み込んだ水で、口の中も思考も少し落ち着いた。
 微笑んで待ち受けている神人に、ディナスはまだ軽く咳き込みながらも苦笑して頷いた。
 まだ上手く喋れない。そんな状態でする返事でもないだろう。
 もっと、ちゃんと。
(心から喜んでもらえるような料理を作りたい、と、野望も伝えましょう)
「待っていますよ」
 まるでディナスの心の中を読んだかのようなエルドの声に、ディナスは苦笑ではなく純粋な笑顔で返した。



■初めての体験
『柳 大樹』は『クラウディオ』の家へあがり、挨拶もそこそこに持ってきた箱を渡す。
「妹が作ったヤツだけど食べきれなくてさ」
 中に入っているのは、トリュフ。
 手作りチョコの代表的な一品だ。クラウディオはそれがトリュフというものだとは知らなかったが、チョコレートの類だとはわかった。
 しかし、分かったからこそ疑問が出る。
(甘いものは大樹が好むものだが)
 それなのに甘いチョコをクラウディオに渡すとは一体どういう事か。
「大樹が食べずとも良いのか」
「俺は食べたから」
 右手を振りながら断り、台所へと向かう。
 クラウディオは大樹の返事に思わず心配する。断るほどに食べたのならば、糖分の過剰摂取になっている筈だ。そういう行為は止めた方が良い。
「体調は問題ないか?」
「ん? 平気平気。さて、珈琲でも淹れるかな」
 前に来た時に置いていったインスタント珈琲を手に取る。クラウディオの分と、ついでに自分の分と。
 そう、自分の分はオマケだ。必要なのはクラウディオの分だ。
 箱を持って移動するクラウディオを見ながら、大樹はぽつりと不吉な事を呟いた。
「口直しは必要だろうし」

 熱い珈琲を置きながら、大樹は「どーぞ」と言う。それを合図にしたように、クラウディオは貰ったチョコを一つまみ。
「……」
 トリュフは、初めて食べる。
 クラウディオの知っている限り、チョコとは基本的に甘い物質の筈で、また熱に弱い筈で、口の中に入れれば大概は溶ける筈で、固かったとしても歯で柔らかく砕ける程度の筈だ。
 筈、なのだが。
 クラウディオは初めて知ったが、チョコとは全くと言っていい程に甘く無く、また熱にも強く、口の中に入れても溶ける気配は無く、さらにはゴムを噛んでいるような弾力をもっているようだ。そんな馬鹿な。しかし全てクラウディオの実体験です。
(さすがに怒るかなー)
 チョコにあるまじきチョコである事を知っていた大樹は、眉を寄せて何度も咀嚼するクラウディオを面白そうに見ている。
「……おお、飲み込んだよ。すげぇ」
 眉を顰めたまま飲み込んだクラウディオに、ぱちぱちと拍手を送ってしまう。
「大樹はこれを食べたと言うが、体に問題は無いのか」
「第一声がそれなの」
 文句ではないのかと、思わず苦笑してしまう。
「ひどいの味だけだから、大丈夫だよ」
 種明かしをするまでもないが、これは大樹の妹の失敗作だった。
 殊更に料理が下手というわけではない。普段はまともなものを作るのだ。しかし。
「偶にアレンジに挑戦して失敗するんだよね」
 兄貴は逃げるから、もっぱら俺が味見役。と大樹が経緯を説明すれば、クラウディオは本来のトリュフチョコはこのような代物ではないのだと覚える。
「だが、偶にだとしても、食べぬ方が良いものに思える」
 いつも大樹が味見役ならば、止めた方がいいのでは。真面目な顔でそう言うクラウディオに、大樹はまた苦笑した。

「まずいもの食わせたのに、怒んないのな」
 ほら、珈琲。大樹はそう言って、珈琲をクラウディオの目の前へ動かした。
 けれどクラウディオはその発言の意図するところがよく分からなかった。
「この程度であれば食べる事に支障は無い」
 珈琲を飲むまでもないし、怒る必要性がわからない。素直にそう言えば、大樹が何か言いたげに口を開きかけ、けれど何も言わず代わりに脱力したように溜息を一つ。
「うん。今まで何食べてたのか、すごく気になる発言をどうも」
 クラウディオの過去を考えれば、きっと本当に本心からの発言なのだろう。それは分かるが、聞いて愉快な事かと言えばそうではない。そうではないのだ。
 大樹が返しの意味もよく分からないクラウディオは、残っているトリュフをもう一摘まみする。
「いやいや、あんたの反応見たかっただけだから、もう食べなくていいって」
 咄嗟にその手を掴んで止めた大樹に、クラウディオは「だが食べれる」と返し、大樹に「だーかーらー」と更に脱力した声を出させた。
 クラウディオはどうしても食べようとする。例え妹の失敗作だとしても、これは大樹がクラウディオにくれたもので、捨てる気にはなれなかったのだ。
 何故、大樹がくれたという理由で捨てる気にならないのか。そこまでは分からないままに、他愛無い攻防はしばらく続く。
 二人の間に置かれた珈琲は、そろそろ飲みやすい温かさになっている。



■青春の味
『テオドア・バークリー』の昼ごはんは、普段だったら母親が用意する。しかし、今日は別だった。
(母さんが急遽仕事とは……適当に昼飯買っていけって言ってたけど)
 今日はたまたま早起きした。しかも特にやることもなかった。だから、本見ながら自分で作ってみた。
 結果、本の画像とほとんど同じような料理が出来上がった。
 味見をしなかったのは、流石に作っていたら時間がなくなってきたから、そして美味しそうに出来上がっていたから。
(本の通りに作ったし……大丈夫だろう、多分)
 自分の腕を信じてお弁当箱に詰めていけば、思ったより多く出来たのか、おかずが余ってしまった。もう一人分はありそうだ。
 となれば、テオドアの脳裏に一人の顔が浮かぶ。精霊の『ハルト』だ。
(ハル用に別に包んで持っていくか……)
 こうして二つの恐ろしいお弁当が出来上がってしまったのだ。

「弁当作ったんだけど、食べるか?」
「手作り弁当! 食うに決まってんじゃん!」
 天気いいし屋上行こうぜー、と言うハルトに意見に乗って、二人は屋上へ行き弁当を広げる。
「おー、うまそー」
「自然に俺の分つまもうとするなって! ハルのはこっち!」
「よっし、いっただっきまーす!」
 元気な声だった。
 澄み渡る青空の下、鳥がどこかで軽やかに鳴き、爽やかな風が吹く中、ハルトは元気におかずの玉子焼きを食べた。
 食べれなかった。
「料理なんて初めてだけどなかなかうまく出来ただろ?」
 まだ自分の弁当には口をつけていないテオドアは、どこか得意気にハルトに言う。しかしハルトに答える余裕は無かった。
(……斬新なお弁当ネー、感動で涙出てきたワー)
 だって口の中のものは玉子焼きじゃない。少なくともハルトの知っている玉子焼きじゃない。甘い玉子焼きか出汁巻き玉子かとかそういう問題じゃない。そもそもこれは本当に玉子なのか? 何でこんな、その、ブルンッ! って擬音が相応しいような食感なんだ。プルン、じゃない。ブルンッ、だ。おかしい。食材としておかしい。あと味に関してはもうホント勘弁して下さい意識が遠のきそうですなんか酸っぱいのに苦辛い何これ。
(いやいや! 元は食材だ飲み込んでも一切支障はないはずだ、俺の本能がこれ飲み込んだら『もしかしてヤバイんじゃね俺』とか警告してくるけど気のせいだ俺なら出来る頑張れ俺)
 物凄い自己暗示でハルトは謎の物体(多分玉子)を頑張って頑張って飲み込んだ。勝った、俺、本能に打ち勝った!
「お、美味しいヨ?」
 ギシリ、と錆付いた機械のように無理矢理笑顔を作って言えば、そこには色々察したテオドアがいた。
(……我ながらバレバレの嘘ついたー!)
「うん、料理初心者の作る微笑ましい弁当ってゆーか? ただほんのちょっと失敗しちゃったかなーみたいな?」
 フォローしようとすればするほど空回ってる自分には気付いている。それでもハルトは色々とフォローを口にする。
 けれどテオドアはそれらに慰められる事も誤魔化される事もなく、自分の弁当をじっと見て、意を決したようにパクリと野菜の肉巻きを食べた。
「……うわ、本当だ何これ」
 うえぇ、と吐き出しそうになるのを、涙目で何度か咀嚼して無理矢理飲み込んだ。味がしない上に、ぐにゅゴリッて食感だった。泣きたい。
「本の通りに作ったはずなんだけどな……」
 何かが違ったのだろう。やはり何事も練習は必要だ。
 テオドアはお茶を飲んでから、念の為にと登校途中に買ってきたパンを引き寄せる。
「ハルの今持ってる弁当は回収して、こっちと交換しよう」
 そうでなければ昼飯が無しだ。そう思っての提案だったが。
「やだよ返しませーん!」
 ハルトは弁当と取られないように体で庇いながら勢いよく食べ始めた。
「ちょっと! 無理すんなって!」
「うぐ……ッテ、テオ君が愛情とか色んなものこめて作ってくれた弁当だし!」
「あい……?! 自分の余りをつめただけで何もこめてない!」
「え、別にこめてない……? とにかく俺は最後まで食うからな! んん゛……ッ」
「うわー! ハル死ぬなー!」
 澄み渡る青空の下、鳥がどこかで軽やかに鳴き、爽やかな風が吹く中、ハルトはテオドアの制止を振り切り、プルプル震えながらも必死に弁当を食べた。

「か、完食したぞ、俺はやりきったぞテオ君誉めて……」
「ほんと無茶するよ……はい、お茶」
 戦いを終えたかのようにぐったりとしているハルトへ、苦笑しながらお茶をさし出す。
「何かあったら即保健室送りにするからな」
「ん、何かあったら頼んだ」
 一気にお茶を飲み干したハルトは、大きな息を吐き出してからごろりと寝転がって宣言する。
「昼休み終わるまで寝るー!」
 絶対に美味しくなかった。美味しくないというか、不味かった。
 それなのに空っぽになった弁当箱を見て、テオドアは申し訳なさと共にくすぐったい嬉しさを感じ、脱力しきっているハルトの顔を見てから空を仰いだ。
「休み時間終わる頃には起こすよ」
 テオドアの声に、ハルトは親指を立てて答えた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 04月25日
出発日 05月01日 00:00
予定納品日 05月11日

参加者

会議室

  • [3]エルド・Y・ルーク

    2016/04/29-01:06 

    ディナス:
    エルド・Y・ルークの精霊、ディナスと言います。皆さんどうかよろしく。

    ……フフ、今回の料理は完璧に出来ました。見た目がこんなに凄いという事は味見をしなくても大丈夫だと、僕の本能が言っています!
    これだけ上手く作れたんです、初めての手料理ですから、きっとミスターも褒めてくれるに違いありません。

    早速、ミスターを招待しましょう。
    きっと口にしたら、感動で声も出ないに決まっています!(ピュアなまなざし)

  • [2]レオ・スタッド

    2016/04/28-23:04 

    レオ・スタッドよぉ、初めましての人もお久しぶりな人もよろしくぅ♪

    あら偶然ね、私の手元にも見た目だけは完璧なお菓子があるのよぉ
    ルードったら喜んでくれるかしらぁ?(ニヤニヤ

  • [1]柳 大樹

    2016/04/28-22:42 

    柳大樹でーす。よろしく。(右手をひらひら振る

    で、ここに見た目だけなら完璧なお菓子があります。
    ……ということで、クロちゃん家に行って来るわ。


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