【薫】あなたの香り、つくります(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 あなたがふと立ち寄ったお店に掲げられた看板
『あなたの香り つくります』
 なんだか気になって、精霊と一緒に入ることにした。
「いらっしゃい!」
 ふわりとした優しい笑顔の女性が出迎えてくれる。
「あの、香りを作ってくれると書いてあったので」
 どうやってつくるんですか? 問うあなたに、女性は笑いかける。
「貴方たち、ウィンクルムさんなのね? もしよかったら、こんなのはどうかしら」
 精霊と顔を見合わせると女性は説明を始める。
「お互いの事を、私に説明してほしいの。
 優しい、とか、厳しい、とか……こんな香りが似合いそう、とか
 なんでも良いのよ。
 イメージ、似合いそうな香り、色……なんでも。
 それを聞いて、私がぴったりな香りを作ってあげる」
 ことん、とテーブルにおいたのは、小さな香料のビーズが入ったボトル。
 ボトルはコルクで栓がしてあり、その上には愛らしい造花がついている。
 ぽん、とコルクを外すと、甘く優しい香りが辺りに広がった。
「もし、彼に聞かれるのが恥ずかしかったら少し外に居てもらうんでもいいし、
 奥の間で休んでてもらうのも良いわよ」
 どう? やってみる?
 そう問われ、あなたは静かに頷くのだった。
 
 ――私だけの香り。
 ――あなただけの香り。

解説

●相手をイメージしたアロマボトルを作ろう。
 神人のものを作る場合は、精霊が神人について店長に話します。
 精霊のものを作る場合は、神人が精霊について店長に話します。
 お互いに作り合うのも、OK! アロマボトルはおひとつにつき400Jr頂きます。

●お話してほしい事
 相手の事をどう思っているか。
 相手の性格をどう思うか、相手に似合いそうなイメージ……等々。
 もちろん、似合いそうな香りもご提案頂ければ参考にいたします。
 その内容をお相手に聞かせるかどうかもプランにお書きください。
 聞いて、どんな反応をするか、聞かないで、ボトルを貰った時にどんな反応をするか。
 なども想像していただくと楽しいと思います。
 
*ご注意
 アロマボトルはこのエピソードでのみのアイテムとなります。
 持ち歩いたりは出来ませんのでご注意を。
(実際にアイテム配布されますのは、【薫】エピソードの8種の香水のうちランダムで二つです)

ゲームマスターより

 良いにおいのもの、だいすき!
 最近は良い匂いのリップとかハンドクリームとかたくさんあって困っちゃうね。
 そんなときは私の母の名言行きましょうか。
「そんなにリップかってどーすんの、口は一つしかないんだよ」
 うい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  さあっ、エスト外へ出て頂戴!ここで退かなければプライバシーの枯渇にかかわるわっ!

あら? 珍しい
エストもアロマボトルを作るのね
せっかくだから交換を──
交換しない!? 香りの確認のみ?!
何てこと! ならば、こちらも確認だけしてもらって、実物は渡さないのだからっ!

そうね──エストは、厳しくて、最近頓に小うるさくて、それでいて……ええ、優しい、とても
色ならば、少し青が掛かった緑色、かしら

部屋でエストをモチーフにしたアロマボトルを開けてみた
本人確認済みの、部屋に広がるエストのの香り
──そこで、やっとエストが香りの交換に応じなかった心情を理解した

一人の時、自分を包みたいと思うのは、自分ではなく相手の香りだから…


夢路 希望(スノー・ラビット)
  お互い作ってみることに
相談は交代で、終わるまでは外か奥の間で待ちます
どんな香りになるか楽しみです

相談:
彼のことは…その…す、好き…です…
とても優しくて、温かくて
一緒にいると、ドキドキもするけど落ち着くんです
他には…えっと、笑顔が好き、です
見ると幸せな気持ちになります

香りなら、バニラや綿菓子のような甘い系
イメージや色は…雪や兎、月が、彼みたいだなって

…な、何だか惚気話みたいになってしまいました
店長さんやスノーくんと顔を合わせるの、何だか恥ずかしいです

完成後:
出来上がった物を交換
スノーくんがイメージする私は、こんな香りなんですね
…この香りのような素敵な女性になれるように、私、頑張ります


リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  ※話を振る前に銀雪トーク開始

(…精度上がってないか?)
私いるのに凄いな、これは※慣れてはいる
「銀雪、落ち着け」
お前の知性は私の前で行方不明になるようだな
とりあえず宥めて、と
「申し訳ない。これは私が絡むとどうにも螺子が緩んでしまってね。私に免じて、私用のアロマボトル頼むよ」
そうだな、頼む振りをして女性にこそりと耳打ちしよう
「本当は明け方に音もなく降る六花みたいな奴なんだが。…あれ用にも静寂の香りを頼む」

銀雪から貰えば、礼を言う
しかし凄い語りだった
「その前に語り過ぎだろう」
足らない、ねぇ
「これで少しは落ち着けよ?」
ま、精々頑張れ
恋愛的にではないが可愛いとは思うから、チャンスは全くないとかでもないし


シルキア・スー(クラウス)
  以前ヘアオイルを贈られ香りが私のイメージと言われ自分も彼の香りに興味が湧いた

同席判断任せる
聞かれて困る事ないから、クラウスの香り、調合お願いします

どう思うか
気を落ち着け
初めて出会った契約の日、見た事も無い美人で驚いて…それは彼を讃える青い薔薇の幻を見る程でした…
彼が驚いている様な気配感じる

彼はウィンクルムの使命を忠実に努め、私の意思を尊重し静かに見守っていてくれる忍耐と誠実の人です

今は心から信頼し出逢えた事、感謝しています

香について
青…安堵…居場所…が感じられる香なら…
(言い切った…ふぅ

静かに香り堪能
この香り覚えとく

聞かれて
あなたがいつもくれるもの、だよ、感謝…してるの
笑む


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  お互いに作り合う
内容を相手に聞かせる

恥ずかしいけど…羽純くんが何て言ってくれるか気になるし…
勇気を出して
あ、でも先に言わせて!(後からの方が恥ずかしい気がした

羽純くんは…私の大好きで大切な人
とても言葉で言い表せないくらい…好きが溢れる人

凄く優しくて、強い人
クールで気紛れな所があって、時々ちょっと意地悪だけど…意地悪も優しいって言ったら変かな…
彼が笑ってくれるだけで、私は凄く幸せになるんです

羽純くんに似合うイメージは…月
月光みたいに綺麗で、私を照らしてくれる

羽純くんが笑ってくれて安堵
でも、彼の言葉の数々に…私の心臓の危険がヤバイ!
嬉し過ぎて、顔が熱くて
幸せ過ぎて倒れそう

私だけの香り、大切にするね



「では、お作りしましょうか」
 店主がニコッと微笑むと、アリシエンテはびしりと出入り口を指さした。
「さあっ、エスト外へ出て頂戴! ここで退かなければプライバシーの枯渇にかかわるわっ!」
 エストがわかりましたと短く答えると、店主は大体15分くらいもあれば終わると教えてくれた。
「では、その頃に戻りましょう」
「それまでは、絶対絶対覗いては駄目よ」
 ふ、と微笑んでエストが店を後にしたのを確認し、アリシエンテは小さく息をつく。
「さあ、彼はどんな人なのかしら」
 見ている限りだととても優しい人なのね、と店主は笑う。
「そうね――エストは、厳しくて」
 厳しい、と聞いて店主は目を丸くする。あの彼が厳しいの? と言いたげな顔に、アリシエンテは頷く。
「……そうなのよ。最近頓に小うるさくて、それでいて」
 ぴたり、と言葉を止めた。
「優しい」
「優しいのね」
「……ええ、優しい、とても」
 アリシエンテの表情が、和らいだ。
「色ならば、少し青が掛かった緑色、かしら」
 孔雀色と青竹色のビーズ、そして、透明なビーズがコロコロとボトルの中で揺れる。キャップに付けられたのは、真っ白なイワカガミの花を模した造花。――その花言葉は、『忠実』アリシエンテを守るためにその身を危険にさらすとしても、それを恐れない強さを感じさせる色に、アリシエンテは小さく頷いた。
 アロマボトルの完成ぴったりに、エストが戻ってくる。そして。
「アリシエンテ、少し奥で休んでいてもらって構いませんか?」
「あら? 珍しい。エストもアロマボトルを作るのね」
「はい」
「せっかくだから交換を」
 言いかけたところで、エストは首を横に振った。
「え?」
「交換は、致しません。出来上がりましたら香りの確認のみお願いします」
 どうして? ふつう、こういうときってお互いに贈りあわないかしら。アリシエンテはむっと眉間にしわを寄せ、切り返す。
「何てこと! ならば、こちらも確認だけしてもらって、実物は渡さないのだからっ!」
 じゃあ、15分後にね! とアリシエンテは店の奥で休むことにした。
 姿が見えなくなったのを確認し、エストは静かに告げる。
「アリシエンテは……白百合の様な方です」
「そうね、佇まいも凛としたお嬢さんだったわ」
 店主が頷くと、エストは続ける。
「花言葉と云うものがあると知りました。『純粋』『無垢』『威厳』――全てが、的確であるかの様な私の主です」
 店主は頷きながら瓶の中にアロマビーズを詰めていく。白、金、そして、透明のビーズ。
「白と金がとても良く似合う、私のある――」
 主。
 そう言いかけて、エストは小さく首を横に振る。
「いえ……女性です」
 主従だけではなく。
 一人の女性として気高い存在であることを強調するかのように。
 そして、ボトルの上に飾られた美しい白百合のモチーフに納得したように頷いた。
「できた?」
 アリシエンテが顔を覗かせる。
「ええ。香りを確認して頂けますか?」
 もちろん、と頷き、アリシエンテも自分が持っているボトルを差し出す。
 エストをイメージしたボトルからは、ふわりと優しいグリーン系のハーブの香りが広がった。柔らかく、刺激を抑えたミントの香りが心地よい。
「これが、私……ですか」
 良い香りですね。そう言われて、アリシエンテは首をかしげる。なら、あげるのに。
 アリシエンテをイメージしたボトルはというと、甘く、そしてわずかに苦みのある百合の香り。彼女の無垢な心、何者にも屈さない威厳を表すかのような香りにアリシエンテも頷く。
「良い香りね。……白百合も綺麗」

 帰宅後、アリシエンテはエストをイメージしたボトルを自室で開けてみる。
 ――ふわり、と彼も認めた『彼の香り』が部屋中に優しく広がっていく。
(あ……)
 そこで、ようやく彼がどうして交換に応じなかったかわかったのだ。
(……そういうことね)
 一人の時、自分を包みたいと思うのは、自分ではなく相手の香りだから……。
 時を同じくして、エストも自分の執務室でアロマボトルを開ける。
 ふわり、と彼女の香りに包まれる。
(アリシエンテがイメージして下さった自分の香りを交換してしまっては、その香りを傍に置くことは出来ませんから)
 ――彼女も、私の香りを感じていてほしい。
(一応、交渉を受ければ交換には応じるつもりですが)
 エストは、静かに瞳を閉じた。
(……今は…ほんの少しでしたら……良いですよね)



「リーヴェをイメージしたアロマボトル……! 是非お願いしたいですっ!」
 銀雪・レクアイアは傍らにいるリーヴェ・アレクシアが何か言う前にずいっと店主の前に歩み出た。そして、店主が何か返事をするよりも早く、語り始める。
「盛大にバレてますけど、リーヴェが大好きなんです」
「まぁ」
 店主は微笑ましい、と頬を緩める。
「綺麗でかっこよくて、あ、これは外見も中身もです。……塩対応? リーヴェ初心者はそう言うんですが、違うんです」
「しお」
 頷きながら店主はボトルにメタルカラーのアロマビーズを入れる。
 傍らのリーヴェはこういった銀雪のマシンガントークに慣れていると言えば慣れているのだが、その精度が更に上がっているのではと冷静に分析していた。
「こう、例えるなら凄烈な流星とも言うんでしょうかね、リーヴェ以上に綺麗でかっこいい人いないと思うんですよ」
 流星をイメージしたかのような金色のアロマビーズが、紺色のアロマビーズの中に浮かぶ。
「もう大好き過ぎて語るのが大変ですリーヴェに似合う香り……夏生まれだし、爽やかな朝って感じの香りで!」
 息継ぎも無しにリーヴェへの愛をぶちまける銀雪の肩を叩き、リーヴェはハァとため息をつく。
「銀雪、落ち着け」
「へ?」
 店主は少しぽかーんとしている。
「お前の知性は私の前で行方不明になるようだな」
「……あ」
 店主にすみません、と銀雪は頭を下げる。
「いえいえ、良いんですよ……というか、ふふ、本当に彼女が大好きなのね」
「大好きです!」
 即答する銀雪。
「銀雪」
 放っておくとまた語りだしそうな銀雪の首根っこを掴むようにして座らせる。
「申し訳ない。これは私が絡むとどうにも螺子が緩んでしまってね。私に免じて、私用のアロマボトル頼むよ」
「気にしなくていいのよ。私も楽しいから」
 ふふふ、と店主は笑う。リーヴェは椅子から腰を浮かせ、テーブル越しに店主に耳打ちした。
「本当は明け方に音もなく降る六花みたいな奴なんだが。……あれ用にも静寂の香りを頼む」
 店主は少し驚いたような顔をしたが、すぐににっこりと笑い、一度だけ頷いた。

 店主からボトルを受け取り、礼を言って二人は店を出る。
 出来上がったリーヴェをイメージしたボトルを、銀雪はリーヴェに手渡した。
「はい、ボトル」
 ふたを開けると、すっきりとしたシトラスの香りが香る。そして、そこにすぅっと胸がすくようなペパーミントの香りが追うようにして香ってきた。
「ありがとう」
「リーヴェに合う?」
 リーヴェは微笑んでそれを受け取り、頷く。
「しかし凄い語りだった」
 付け加えるように呟くと、銀雪は首をかしげる。
「……リーヴェを語るにはまだまだ足りなかったんだけど」
(足らない、ねぇ……)
 はは、と苦笑いするリーヴェ。そして、自分が作ったボトルを銀雪に手渡す。
「これで少しは落ち着けよ?」
「え? これ、リーヴェから?」
 開いてみると、ゼラニウムとラベンダーの甘く仄かで優しい香りがした。薄紫のビーズが、コロン、と揺れる。
「ま、精々頑張れ」
 鎮静作用のあるアロマだから落ち着けるだろう、と選んだ香りに、銀雪は感動して何度も頷いている。
「家宝に……違った、大切に使うよっ!」
 そうしてくれ、と頷くリーヴェに、銀雪は目尻を下げる。
(……リーヴェが俺の事を考えて頼んでくれた香り、だよね)
 そう思うと、嬉しくて。
 そんな無邪気な顔を見て、リーヴェはフッとほほえんだ。
(恋愛的にではないが、可愛いものだな)
 チャンスは全くないというわけでもない。そんな風に思ったのは、銀雪には秘めて。


 以前精霊クラウスからヘアオイルを贈られ、そのシトラスオレンジの香りが自分のイメージなのだと言われたことからクラウスの香りに興味がわいたシルキア・スーは、早速アロマボトルを作ることにした。
「クラウスの香り、調合お願いします」
「彼はどうする? 一緒に居てもらう?」
 そう問われ、シルキアは即答する。
「聞かれて困る事ないから……どうする?」
「では、共に」
 シルキアが興味を持ったのなら、自分の香りを作ることに特に異論はないとクラウスは静かにシルキアの横に座る。
 彼の事をどう思うか改めて尋ねられ、シルキアはスッと瞼を伏せて気を落ち着けた。
「初めて出会った契約の日、見た事も無い美人で驚いて」
 店主はクラウスの顔を見て納得したような顔をする。
 彼女が『かっこいい』ではなく、『美人』と形容するように、確かに彼は美しかった。
「……それは彼を讃える青い薔薇の幻を見る程でした……」
 クラウスは面喰ったような顔でその話を聞いている。
 ――そんなふうに思っていたのか? と言いたげな顔に、シルキアは静かに頷いた。
 クラウスは、初めて会った日の彼女の事を思い出し、その時に彼女が何を思っていたのかを知ることが出来た喜びにほんのわずか表情を柔らかくする。
「彼はウィンクルムの使命を忠実に努め、私の意思を尊重し静かに見守っていてくれる忍耐と誠実の人です」
 クラウスは口をつぐむ。
(忍耐……そう感じた事はないが、そう思わせていたのか)
 彼女がいう事、思う事を否定することはしたくなかった。尊重するのが当たり前だと思っていたのだ。けれど、ただ待つのではなくこちらから語りかけていく心構えも必要であったのかとクラウスは考え始めた。
「今は心から信頼し出逢えた事、感謝しています」
 シルキアが優しく笑ってそう言ったのを見て、店主は嬉しそうに頷く。
 そういった関係の人がいるのはとても良い事よ、なんて言いながらボトルのふたを開ける。
「どんな香りがお望みかしら……」
「青……安堵……居場所……が感じられる香なら……」
 頷いた店主は夜を思わせる深い藍色のビーズと、クラウスの髪色に似た空色のビーズをグラデーションになるように詰める。そして、そこへアロマオイルを垂らしていった。
「どうかしら」
 そっと差し出されたボトルを香ってみる。
 ネロリの柔らかな香りに、オレンジの精油がふわりと広がり、ゼラニウムが控えめに香る。眠りの導入に良さそうな香りだ。
(いい香り……)
 シルキアの穏やかに香っている横顔見て悪い気はしない、とクラウスは思った。自分の事を『美人』と表現した彼女だが、負けず劣らずだ。
 ――この香り、消えてもずっと覚えておこう、とシルキアはそう心に誓ってボトルをクラウスに渡す。
(これが、俺の……)
 店から出て、クラウスは口を開いた。
「今日、お前の心内を聞けた事は嬉しく思う」
 シルキアはそう思ってくれたことが嬉しくて、頷く。
「……聞いてもよいだろうか」
「?」
「安堵と居場所、それがお前の求めているものなのか?」
 問われ、シルキアは頬を淡く染めて答えた。
「あなたがいつもくれるもの、だよ」
「俺、が?」
「感謝……してるの」
 優しく微笑む彼女のその顔を見ているだけで、この上ない充足感がクラウスを満たしていく。目を閉じて深く呼吸をすれば、香りをすぐに思い返せる。
 ――あの優しい香りが、『俺』なのか。
「……そうか」
 その満ち足りた表情に、シルキアの笑みが一層深まったことは、いう間でもなく。


 お互いの事を話すときに同席するかと問われ、桜倉 歌菜はうーんと考え込んだ。
(恥ずかしいけど……羽純くんが何て言ってくれるか気になるし……)
 ここは、勇気を出して。
「一緒にお願いします!」
「歌菜が一緒にというなら、構わないが……」
 気恥ずかしいものだな、と月成 羽純は笑う。
 歌菜はそうだね、と頬を淡く染め、じゃあ俺から話そうかという羽純を制止した。
「あ、でも先に言わせて!」
「?」
「あ、後の方が恥ずかしい気がしてきちゃって……ね?」
 少し困ったような顔で頼まれると、断ることは出来ない。
「いいよ、じゃあ歌菜から」
「うん」
 店主に促され、歌菜は話しはじめる。
「羽純くんは……私の大好きで大切な人」
「まぁ」
 嬉しそうに店主は顔をほころばせる。
「とても言葉で言い表せないくらい……好きが溢れる人、なんです」
 切なくなるほどに幸せそうに微笑む歌菜の言葉が、真実味を増している。
 へへ、と少し照れくさそうに言葉を紡ぐ歌菜に、羽純はその隣で平常心を保つのに必死だ。
「凄く優しくて、強い人。クールで気紛れな所があって、時々ちょっと意地悪だけど……」
「そんなところが良かったりする?」
 店主がまるで見透かしたように呟く。頷いて歌菜は笑った。
「意地悪も優しいって言ったら変かな……彼が笑ってくれるだけで、私は凄く幸せになるんです」
(歌菜は自分の発言が、どれくらい威力があるのか……知らないんだろうな)
 そんな風に愛しさを語られては、普段は冷静な羽純だって表情に出てしまう。
(……なら、教えてやろう)
 自分が語るときに、目いっぱい。
「羽純くんに似合うイメージは……月。月光みたいに綺麗で、私を照らしてくれる」
 優しくて、その涼やかな光に照らされると安心する。そんな思いを込めて言うと、瓶の中に藍色のビーズと金色のビーズがころり。香ってみるとふわりとした官能的なジャスミンに、ほのかなカモミールが香った。蓋には真白なジャスミンの花が飾られる。羽純が満足そうに笑ってくれたことで、歌菜はホッと安堵する。
 次は羽純の番だ。
「歌菜は世界で一番大切な、俺の恋人だ」
 かぁっと歌菜の頬が赤くなる。
「一緒に居ると、俺は幸せになれる」
(そんなの、私もだよ)
 じっと彼の横顔を見つめる歌菜。
「元気で明るくて……少し抜けてる所も、掃除が苦手な所も……凄く可愛い」
「ふふ、欠点も愛しいのね」
 店主の言葉に大きく頷く羽純。
「歌菜の手料理は、本当に美味いんだ。幸せの味がある」
 まるで、新婚夫婦の自慢のような言葉に、歌菜はドキドキと張り裂けそうな胸を抑える。
(し、幸せすぎて倒れちゃいそう……)
「歌菜は気付いてないだろうが……俺は、いつもお前にドキドキさせられっぱなしだ」
 ちら、と流し目で歌菜を見遣る羽純に、歌菜は大きく目を見開く。
「私に?」
 そうだ、と頷く羽純に歌菜は嬉しいやら気恥ずかしいやらで目を泳がせている。
「歌菜のイメージは桜。凛と美しく咲く、気高い花」
「そうね、私もそちらのお嬢さんに桜の香りはぴったりだと思うわ」
 店主が瓶に詰めたのは、ペールピンクのビーズとパールビーズ。香ってみれば、甘く優しい桜の香りがふわりと広がった。キャップに付いたソメイヨシノを模した飾りは、歌菜に良く似合う。
 二人で店主に礼を言って店を出ると、歌菜はぷうと頬を膨らせて見せた。
「……う、嬉しいけど心臓が持たないよ」
 そんな歌菜の手を取ると、羽純は艶っぽく微笑む。
「俺もさっき、今の歌菜と同じ気持ちを味わったんだぞ?」
 全く、天然でこれだから困る、なんて嬉しそうな羽純に、歌菜はふふ、と笑みを漏らす。
「……私だけの香り、大切にするね」
 その言葉に、羽純も確かに頷く。
「俺も大切にする」
 ギュッとアロマボトルを優しく手で包んで――。


 夢路 希望は、精霊スノー・ラビットと、互いにアロマボトルを作ることにした。
 ――相談、どうしようか。スノーはそう言いかけて、にこっと微笑む。
「ええと、交代で店主さんに聞いてもらおう?」
「あ、はい……」
 彼女がとても恥ずかしそうに瞳を震わせていたことに気付いていたからだ。
 ノゾミさんがお話している間は奥で待っているね、とスノーは奥の間に歩いていく。
「聞かせてもらっても良い?」
 店主に問われ、希望は高鳴る胸を抑えて話しはじめる。
「彼のことは……その……す、好き……です……」
 思いを改めて口にすると、顔に熱が集まってくる。
「とても優しくて、温かくて。一緒にいると、ドキドキもするけど落ち着くんです」
「素敵な恋をしているのね」
 店主は瓶のふたを開け、薄桃色のビーズを入れる。
「他には……えっと、笑顔が好き、です。見ると幸せな気持ちになります」
 こくん、と頷いた店主は真っ白なビーズを手に取った。
「香りなら、バニラや綿菓子のような甘い……イメージや色は……雪や兎、月が、彼みたいだなって」
 店主はスノーのふわふわの真っ白な耳を思い出す。そして、雪見草のモチーフを蓋に飾った。そこで希望はハッと口を押える。
(……な、何だか惚気話みたいになってしまいました。店長さんやスノーくんと顔を合わせるの、何だか恥ずかしいです)
 かあっと頬を赤らめ、俯いてしまう希望に、店主は優しく笑いかける。
「ふふ、顔を上げて。貴方の彼への優しい思い、たくさん伝わったわ」
 では、次は彼の番ね。そう言って奥の間に声をかけると、スノーが戻ってくる。
「よろしくお願いします、じゃあ、ノゾミさん、楽しみにしてて!」
 希望は頷いて奥の間へ。
「彼女のことは、一人の女性として、好きです。笑顔は可愛くて、温もりは心地よくて
一緒にいるだけで幸せな気持ちになる」
 店主はふわっと微笑んで頷いた。
「二人は、同じ気持ちなのね」
 素敵、と呟きながら、白に近い薄桃色のビーズを瓶に詰めていく。
「彼女の名前、希望さんって言うんです。星がきらきら瞬いてる、そんなイメージがあります。香りは優しいものが似合いそうだなって思います」
「そうね、少し恥ずかしがり屋さんかもしれないけれど、彼女からは芯の強さを感じるわ。自分の望む未来を掴みとる、意志の強さを」
 一際輝く星のような金色のビーズをころん、と入れて完成。蓋にあしらわれたのは、薄桃色のガーベラ。花言葉は『希望』
 完成した瓶を受け取り、二人は店を出る。そして、公園のベンチでそれを交換した。
(これが、ノゾミさんが思う僕の香り)
 そっと蓋を開くと、コットンキャンディーのような甘い香り。優しく包むようなバニラの香りが後からふわりと香ってくる。
「……こんな風に思ってくれてるんだ」
 心地いい香りに、自然とスノーの表情と声が甘さを増していく。
「スノーくんがイメージする私は、こんな香りなんですね」
 希望をイメージしたボトルからは、ベルガモットに淡いクラリセージの香り。優しく背中を押すような、そっと相手を支えるような香りに、希望は顔を上げて誓う。
「……この香りのような素敵な女性になれるように、私、頑張ります」
 その時、スノーと視線が絡み合う。愛しさを込めてじっと見つめてくる彼に、顔を真っ赤にして背けたくなる希望。けれど、それは許されず。そっと手を取られ、更に深く見つめられる。
「これ以上魅力的になったら、嬉しいけど、ちょっと困っちゃうな」
「え?」
 どういうことでしょう? そう言いたげな希望に、スノーは少しだけわがままな思いを隠すことなく囁く。
「やっと僕だけのお姫様になってくれたのに。誰かに攫われちゃったら嫌だもん」
 ギュッと握った手から、その愛おしさと独占欲が伝わってくるようで、希望は耳まで赤く染めてしまう。そんな彼女の顔を見て、スノーは少しだけいたずらな微笑みを浮かべるのであった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月31日
出発日 04月05日 00:00
予定納品日 04月15日

参加者

会議室

  • [6]桜倉 歌菜

    2016/04/04-23:49 

  • [5]桜倉 歌菜

    2016/04/04-23:49 

  • [4]シルキア・スー

    2016/04/04-21:37 

    よろしくお願いします

  • [3]桜倉 歌菜

    2016/04/04-01:22 

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/04/04-01:22 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い申し上げます♪

    私と羽純くんも、お互いに作りあう予定です。
    どんなアロマボトルが出来上がるか、凄く楽しみです!

    よい一時となりますように♪

  • [1]アリシエンテ

    2016/04/03-01:30 

    アリシエンテ:
    お邪魔するわねっ!アリシエンテと精霊のエストと言うわ!

    今回は、お互いに作りあうつもりでいるわ。
    どんなものが出来るかが今からとても楽しみねっ!

    エスト:
    (恐らく相手からは『まともなものは出て来ない』であろうと予測して、今から深いため息)


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