【薫/祝祭】君を包む香り(寿ゆかり マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ショコランドのとある村では、ホワイトデーになると祈りの儀式を執り行うらしい。
 村に伝わる昔話を聞いた貴方たちは、互いに顔を見合わせた。

 ――むかしむかし。
 オーガの脅威に怯え暮らす人々は、愛の女神ジェンマに祈りを捧げました。
 ジェンマは祈りに答え、祝福の金平糖を降らせます。
 喜びを伝えるため、愛の力の偉大さを後世に残すために、
 村人たちは村の中心にあるマシュマロフラワーの花園で祈りの儀式をするのでした。
 するとどうでしょう。
 その様子を天から見ていた女神ジェンマが喜びに溢れ
 更なる加護を与えんと、あたりを自愛の光で包んだのです。
 甘く柔らかな香りと光に包まれた人々は、
 ジェンマに永久の加護を約束されたのでした――。

 なんでも、今日はその祈りの記念の日。
 遠い昔に儀式をした若者たちに倣い、人々がマシュマロフラワーの花園で
 次々とその『儀式』を行うのだそうだ。
 参加人数は多ければ多いほど盛り上がる。それに、祈りがジェンマに届くだろうと
 村の人々は言う。
「で、どんな儀式なんでしょう」
 村の娘はにっこりと笑って答えた。
「簡単よ。相手の事を心から思いながら、マシュマロフラワーの園の真ん中でぎゅっと抱き合うだけなの」
 そうすると、不思議な事に二人を包む温かな光が現れるのだという。
「不思議でしょう? 良い思い出になると思うわ。是非、参加していって」
 そう言って彼女が指さす先で、白いマシュマロフラワーがふわりと揺れた。
 


 

解説

●祝福の儀式に参加し、祈りを捧げましょう。
 交通費などで一律300Jr消費致します。

●マシュマロフラワー(綿花の綿の部分が色とりどりのパステルカラーのマシュマロになっています)の花園の真ん中に、小さなあずまやが有ります。
 そこで、お互いの事を想いながら(何か言いながらでも結構です)
 ギュッと抱き合うと、祝福の光があたりを包み、二人をイメージした香りが
 二人をふわりと包みます。(香りはプラン内で指定してください。何もなければアドリブでイメージします)
 温かな光と心地よい香りの中で、二人の想い(もちろん、恋愛感情じゃなくても、決意でもなんでもOKです)を確認し合いましょう。
 抱き合った瞬間の温かな光の効果か、
 相手の心、思っていることがいつもよりも伝わって来やすくなります。
 秘めた思いがある人は相手に伝わってしまうかもしれません。お気をつけて。
 光が二人を包む間(離れてからも数分続きます)は心が伝わりやすくなる、と
 考えてください。
 
 神聖な儀式なので、ギャラリーなどはいません。
 花園への立ち入りはこの日は順番になっているので、他のウィンクルムや
 住人に会うこともありません。



ゲームマスターより

 マシュマロフラワーがほんとに有ったらいいのになー
 マシュマロをBBQの時に炙って食べるのが好きです。ぷーって膨らんで美味しいです。
 おなか空いてきた。あかん。

 みなさんの想いを伝える、深めるエピソードになれたら幸いです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)

  銀雪が何故儀式の参加申込をしたかよく判る

来なさい、銀雪
抱きしめてやる

※最中思考
予想通りの心が伝わってくる
妄想凄いが、年頃の男だな
銀雪は精霊でなければ戦う道にはいないだろう
本来向いてない銀雪が戦うのに抵抗を感じる程度には情もあるが、恋愛感情ではない
私は自分の行動の全てを恋愛感情に結びつけられるのが嫌いだ
ウィンクルム=恋人という風潮も好きではない
女神は義務恋愛しろと仰る方ではないだろう
共に歩む者は自分で決めたい
私の上にも下にも前にも後ろにもいない者、私より大きくも小さくもない、尊敬し合える者がいい
本番を迎える事が出来るような成長をするのだろうか※EP38
明日の事は誰にも判らんが

儀式は終わりか
帰るぞ


豊村 刹那(逆月)
  マシュマロが花になってる……。
相変わらず不思議なところだな。(瞬き
中央って言うと、あそこか。(あずまやを見る

相手のことを想いながら、抱き締める。(動揺して手順を反芻
「よ、よし。逆月、いいか?」
既に心臓早いけど、がんばれ私。(ぎゅうっと抱きしめる

背中に回る手の温かさが、余計に恥ずかしい。
(逆月が好きだ。好きだと、思う)

「へ?」逆月の、声?
え?「な、なんで」言ってないのに!
なんで、伝わるのかわかんないけど。これだけは言わないと。
「など、とか。さっきから言ってるけど」
知られたんなら腹括る。
「私が好きな相手を卑下するのは、逆月でも止めろ」

答えになってないというか。
恥ずかしいから、離して欲しいんだけど。


アンダンテ(サフィール)
  綺麗な場所よね
神聖な儀式の舞台にはぴったり

腰が引けているようだけど儀式よ儀式
恥ずかしがる事なんてないわ
だから、さあ!と腕広げ受け止める構え

香りおまかせ
心地よい温かさと香りにうっとり

相手の事を思うなんてわざわざ意識しなくても
この状況じゃサフィールさんの事しか考えられないわ
サフィールさんも、きっとそうよね
だから、この優しい気持ちも私へのもの…よね?
少なくとも、今は全部私のものだわ

あら、まだだめよと抱きつき腕に力込め引きとめ
光が消えても効果は少し続くって言っていたじゃない
それに私、まだ離れたくないわ
それはサフィールさんも一緒じゃない?と心臓あたりに頭を寄せ

心は正直よね
こういうの一回言ってみたかったの


エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  心情
二人目の精霊。最初は単に仲間が増えると喜んでいましたが……。
私の好きな人はラダさん、一人目の精霊です。愛の女神に感謝ですね。
でもそれならモルさんと私の適合はどんな意味があるのか、つい考えてしまいます。

行動
そうやって神人や精霊を道具みたいに言うのは、賛同できません。

そんな物騒な愛がありますか。
言いかけ精霊の真剣さに黙る。

わかりました。
そういうことなら協力は惜しみません。
ただ、私から一つお願いがあります。
戦いの中で死に急ぐことがないように。約束ですよ。

決意と闘志を胸に抱き合えば安息香。戦いとは無縁そうな優しく甘い香り。
愛の抱擁ではなく仲間の結束を示すハグですが、ジェンマのお気に召しますように。


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  神聖な儀式と聞きそれに相応しい衣装を
以前描いてもらった香水と自分をイメージしたドレスの画
それを仕立てた衣装を思い出す
「背筋を伸ばして自信を持って着るだけで、ドレスはソラに寄り添うはずです」
そう言った精霊の言葉を信じて、自信を持って着ることに決める

トゥ・ザ・ムーンをイメージした紫の膝丈のエンパイアドレス
細い肩紐、三日月の金具が付いた黒にラメのサッシュベルト
金のピンヒールパンプス、黒のショート手袋

「あなたの言葉が、私に自信を与えてくださったから…」

少しでも近くに感じたい
彼の言葉に恥じらいつつ
真っ直ぐ見つめ
「私は…これからも言葉を重ねて、心を重ねていけたら…そう思います」
精霊に身も心も委ねる



「綺麗な花だなぁ……」
 銀雪・レクアイアは咲き乱れるマシュマロフラワーを眺めてうっとりと呟いた。この儀式に参加申し込みをした彼を見て、リーヴェ・アレクシアは全てを悟った目で彼に近づく。
 そして、スッとその長く整った腕を広げて見せた。
「来なさい、銀雪」
 銀雪は彼女の微笑みにドキリと胸を高鳴らせるが、精いっぱい背筋を伸ばし、出来る限り堂々とした態度で彼女に歩み寄る。ふわっと優しく彼女の背に手を回す。
 その瞬間、白く柔らかい光が二人を包み込んだ。
 まるで、初雪が降る日の朝のような澄んだ香りに、すっきりとしたミントの芳香が優しく広がる。
 リーヴェのやわらかな体温を感じながら、銀雪はふと思う。
(儀式でもリーヴェ抱きしめられるっていいな)
 そんな彼の思考が伝わってきて、リーヴェは『予想通り』と内心笑った。色々妄想されているのも何となく伝わってくる。まあ、年ごろの男らしい、とリーヴェは特に気にするでもなく彼の思考を感じ取った。
(俺はいつも頼りなくてかっこいい所見せられないけど、でもリーヴェは綺麗でかっこよくて……)
 ちょっとしたコンプレックスのようなもの、そして、純粋な憧れ。
「……!」
 その時、銀雪の心にリーヴェの想いが流れ込んできた。
(銀雪は精霊でなければ戦う道にはいないだろう。本来向いてない銀雪が戦うのに抵抗を感じる程度には情もあるが、恋愛感情ではない)
 そうだね、と銀雪は小さく頷く。そうやって、『銀雪』を理解してくれている彼女の心が、温かくて、嬉しい。それが恋愛でなくとも、ただまっすぐに見つめてくれる『情』が、銀雪にはとても嬉しいものだった。
(私は自分の行動の全てを恋愛感情に結びつけられるのが嫌いだ。ウィンクルム=恋人という風潮も好きではない)
 リーヴェの想いに、もう一度銀雪は頷く。
 ――だからこそ、自分をいつの日かウィンクルムだから……ではなく、『銀雪』個人として恋愛対象に見てくれないかな、なんて……もうとっくに見透かされている慕情を、そっと胸に収める。
 スッとリーヴェは空を仰ぎ見た。そして、女神に問うように思いを巡らせる。
(女神は義務恋愛しろと仰る方ではないだろう。共に歩む者は自分で決めたい。私の上にも下にも前にも後ろにもいない者、私より大きくも小さくもない、尊敬し合える者がいい)
 まるでその想いに答えるかのように、清らかな風がマシュマロフラワーをさぁっと揺らした。揺れる彼女の金の髪に、銀雪は視線を奪われる。
(……きっとまだ俺をそう見てないけど。でも、契約精霊ではない『俺』個人を見てくれてる)
 ぽつりと銀雪は呟いた。
「……嬉しいな、そういうの」
「ん、どうした?」
 リーヴェの優しい眼差しが銀雪を捕える。銀雪は、喜びを露わにするように幸せそうに微笑んだ。
「ううん。……リーヴェの思いが、嬉しい。それだけだよ」
 彼女は、何事においても対等を好む。それは、銀雪も良くわかっていた。女だから男だからという括りは、彼女には要らない。
(だから、俺は好き)

 銀雪が気後れせずに、自分と同じ位置に立つことが出来たなら、あるいは?
 ――『本番』を迎えられるほどの成長をしたなら、いつか……?
 ふと過ぎるあの日の出来事。リーヴェは軽く首を横に振った。
(明日の事は誰にも判らん……)
 
 ふたりは、そっと体を離す。そして、リーヴェは銀雪に手を差し出してやった。
「帰るぞ」
「うん」
 かっこいいエスコートはできないけれど。銀雪はそっとリーヴェの横に並ぶ。前でも後ろでもなく、彼女の真横に寄り添って歩む帰り道。
(――でも、いつかは)
 彼女の手を取りスマートにエスコートする自分が、未来にいたらいいのにな。
「銀雪」
「?」
「……全部伝わっているからな?」
「!!!!」
 ――ああ、敵いそうに、ない。


 モル・グルーミーは、ウィンクルムとしての役目を果たすべく儀式の場に歩み出た。その後ろを、エリー・アッシェンは静かについていく。あずまやで二人は静かに抱き合った。瞬間、淡い光が二人を包み込む。
(二人目の精霊。最初は単に仲間が増えると喜んでいましたが……)
 ちらとモルの顔を見やるエリー。
(私の好きな人はラダさん。愛の女神に感謝ですね。……でもそれならモルさんと私の適合はどんな意味があるのでしょう……)
 ふと胸によぎった疑問が、モルにそのまま伝わった。
「……くだらん」
 スッとモルの体が離れる。
「え?」
「我は前に、神人は精霊が力を発揮する鍵にすぎんと言い捨てた覚えがある。逆も然り。精霊は、神人が振るう剣や盾とも言えよう」
 自分はあくまで道具に過ぎぬ、といった意味の言葉を吐くモルに、エリーは眉を顰めた。
「そうやって神人や精霊を道具みたいに言うのは、賛同できません」
 その言葉を聞いているのかいないのか、モルは自分の言葉を続ける。
「オーガを滅することが、我が愛に他ならない」
 ざわざわと、マシュマロフラワーがざわめく。
「そんな物騒な愛がありま……」
 言いかけて、エリーは口をつぐんだ。
 モルの、真剣な表情。
 過去に失った愛おしい光を見つめるような、切なく、けれど、強く揺れる瞳の色。
(我の最愛の者はオーガの牙にかかり天へと昇った)
 モルの眉間に深いしわが刻まれる。そして、決意と覚悟を秘めた瞳が強く光った。
(神人。我を戦わせてくれ)
 声に出さず、瞳から伝わったその言葉。
 エリーは、胸の奥をがっしりと掴まれたような感覚をおぼえながら、しっかりと頷いた。
「わかりました。そういうことなら協力は惜しみません」
 少しホッとしたような、何かを掴んだような表情を浮かべるモル。そこへ、エリーは付け足す。
「ただ、私から一つお願いがあります」
「願い?」
「戦いの中で死に急ぐことがないように。約束ですよ」
 ――約束。
 二人を、沈黙が包む。
 思いつめた空気、聞こえるのは、ただ風の音だけ。
 ややあって、モルがようやく口を開いた。
「オーガの屍は、我にとってはさしずめ愛する者に送る赤い薔薇」
 それは、強がりに似た――皮肉。
「豪華絢爛な薔薇の花束を作るとなれば長期戦になろう。簡単に死ぬわけにはいくまい?」
 その顔を見て、エリーは安心したように頷く。
「……約束、ですよ」
 彼女の銀色の瞳が強く輝く。モルは、ぐっと己の拳を握り、真剣な眼差しでその瞳を見つめ返した。
「……約束しよう」
 決意を込め、二人はどちらからともなく歩み寄る。
 二人が共有する『決意』と『闘志』は、二人が抱き合うとまるで戦いとは無縁そうな甘く優しい安息香の香りになり、二人を優しく包み込んだ。
(愛の抱擁ではなく仲間の結束を示すハグですが、ジェンマのお気に召しますように)
 ――私たちは、決して屈しない。
 その思いは、祝福の光となって温かく二人を照らす。
 つかの間、癒すように。
 そして、明日への力を漲らせるように。


 豊村 刹那はあたりを見回し、驚きと関心のため息を漏らす。
「マシュマロが花になってる……。相変わらず不思議なところだな」
 ぱちくりと瞬きを繰り返すと、逆月はこくりと頷いた。
「静謐で、良い場だ」
 そよそよと風にそよぐ淡い色合いの不思議な花々は、その柔らかさ、揺れ方をとれば普段見慣れた花と変わらない。ふわ、と甘い香りが漂うのも、なんだか心地いい。
「中央って言うと、あそこか」
 刹那の視線の先には、あずまや。二人であずまやに収まると、刹那は心の中で手順を反芻する。
(相手のことを想いながら、抱き締める……。
 相手のことを想いながら、抱き締める……!?)
 なんだか動揺してきてしまったではないか。
 ばくばくと高鳴る心臓。
「よ、よし。逆月、いいか?」
 指の先が冷たくなる。そんな刹那に、あっさりと逆月は頷いた。
「ああ、何時でも」
(刹那への想い、か)
 そっと腕を広げ、逆月は一歩踏み出す。
(がんばれ私)
 うるさいほどに早鐘をうつ鼓動。刹那は己を奮い立たせるようにしてぎゅうっと逆月を抱きしめた。
 背に回った逆月の手が温かく、なんだか、恥ずかしい。
 緊張で身を強張らせる刹那を抱きしめ、逆月は己の胸の内が騒ぐのを感じた。
(失いたくはない。俺などが烏滸がましいが、刹那を護りたい)
 そう思うと同時に、刹那の声で逆月の中に言葉が響く。
(逆月が好きだ。好きだと、思う)
「へ?」
 刹那は直接響いてきた逆月の声に顔を上げた。
 あっけにとられたような素っ頓狂な声に、逆月はそっと刹那と視線を合わせる。
「刹那は、俺を好いているのか?」
 ストレートな問いかけに、刹那は『え』と声を上げた。
「な、なんで」
 そう、聞こえた気がした。と逆月は小さく首をかしげる。
 ――言ってないのに! なんで!?
 目を白黒させる刹那。
「俺などを」
 逆月のその言葉を聞いた瞬間、刹那はグッと唇を引き結んでしっかりと逆月を見据えた。
 ……なんで、伝わるのかわかんないけど。これだけは言わないと。
「など、とか。さっきから言ってるけど」
 戸惑いをはらんだ声から、強い意志のこもった声に変わり、逆月はひとつ瞬きをする。
 ――ああ、もう知られたのなら腹を括ろう。
 刹那の凛とした声が逆月の胸に、耳に、同時に響く。
「私が好きな相手を卑下するのは、逆月でも止めろ」
(これは、互いの想いが伝わっているのか……)
 逆月はほうっと胸の奥に灯りがついたような温かさを感じ、刹那を引き寄せてしっかりと抱きしめた。
「強いな、刹那は」
「……っ」
 抱きすくめられた刹那は、声も出せずに固まってしまう。
(答えになってないというか……)
 ――腹を括ったとは言ったものの、体は上手く動いてくれない。そんな刹那を腕に抱いたまま、逆月はふと思った。
(初心な事だ)
「……恥ずかしいから、離して欲しいんだけど」
 ぽそ、と聞こえるか聞こえないかの声で呟いた刹那の声を、聞いてか聞かずか逆月は腕を離してくれない。
(……俺のこの想いは、刹那と同じものだろうか)
 ふわ、と白く柔らかな光と共に、甘く優しい洗いたてのシーツのような香りが二人を包み込む。
 ――温かく、柔らかな、この想いは……。


 神聖な儀式と聞き、秋野 空はふと自分で仕立てた服の事を思い出した。
 神聖な場には、それにふさわしい服を着て臨みたい。そう思った時に、心に浮かんだ声は、ジュニール カステルブランチの声。
「背筋を伸ばして自信を持って着るだけで、ドレスはソラに寄り添うはずです」
 劣等感を取り払い、自己肯定感を教えてくれた彼の優しい声に背中を押され、空はそのドレスを纏い、スウィートファーコートを羽織った。
 ――訪れたマシュマロフラワーの園を、ジュニールと共に歩む。
 あずまやの手前にあるベンチで空は少し待ってくださいね、と後ろを向いた。そして、羽織ってきたコートをするりと肩から滑らせ、ベンチに畳んで置く。
「……!」
 トゥ・ザ・ムーンをイメージした紫色の膝丈のエンパイアドレスが、風に揺れる。細い肩紐、三日月を模した金具が付いた、黒地にラメが光るサッシュベルト。
(本当は金のパンプスが調達できればよかったんだけど)
 スイートホイップステップは愛らしいイメージの靴ではあるが、不思議とこのドレスにも合っている。黒いショートグローブが欲しかった手元は、夜空をうつしたような品の良いアイオライトカラーの手袋がしっくりと馴染んでいた。
 くるりと振り返った彼女の美しさが目に飛び込んできて、ジュニールはどきりと胸を高鳴らせる。
「そのドレス……やはりソラに良く似合いますね」
 そこに、いつものどこか自信なさげな空はいない。背筋をしゃんと伸ばし、美しく微笑む彼女は、眩しくさえ思えた。
「あなたの言葉が、私に自信を与えてくださったから……」
 その言葉に、ジュニールは胸がいっぱいになった。
 彼女が自分を変えてくれたように、自分の言葉が彼女に自信を与えている。
その事実に、得も言われぬ喜びを感じたのだ。
 ……反面、自信にあふれ、輝くばかりの彼女は、誰から見てもきっと魅力的だ。
 ――誰かに奪われはしないだろうか。
 そんな一抹の不安が過ぎる。
(いっそ閉じ込めてしまいたい……などと思うのは、いけないことなのでしょうね)
 まだお互いの心が伝わる儀式をしていないから、この想いは空には知れていないはず。独占欲を胸の奥へ沈め、ジュニールは空の手を取りあずまやへと歩みを進めた。
 そして、マシュマロフラワーがそよぐ園の真ん中で二人は見つめ合う。ジュニールは空の手を優しくすくい上げ、その指先にキスを落とした。
「……何があってもこの手を決して離さないと、愛の女神ジェンマに誓います」
 まるで、婚儀の誓いのようなその言葉。空は彼の声に恥じらいを隠せず、頬を桜色に染める。そして、彼の透き通る碧眼をまっすぐに見つめて頷いた。
「私は……これからも言葉を重ねて、心を重ねていけたら……そう思います」
 少しでも、彼を近くに感じたい。
 空の言葉に喜びでいっぱいになったジュニールに抱き寄せられるままに、その腕にすっぽりと収まる。
 キラキラと星空をちりばめたようなオーラが二人をふわりと包み込んだ。甘い金木犀の香りが、ほのかに漂う。
「……誓いのキスを」
 ジュニールは、蕩けるような甘い微笑みを見せてそっと空の顎をすくい上げた。一瞬触れるだけの優しい口づけに、まるで時が止まったかのようにさえ感じる。
 ――けれど、時は止まらない。
 ずっと、この幸せな時を続けていく、そんな二人になれるように。
 祝福の光は、二人を見守るように温かく輝き続けた。


「綺麗な場所よね。神聖な儀式の舞台にはぴったり」
 ね、とアンダンテはふわふわのマシュマロフラワーが風にそよぐのを見て顔をほころばせる。真っ白なあずまやは、光を受けてキラキラと輝いて見えた。
 綺麗な場所、というのに同意を示すため、サフィールは『そうですね』とだけ返す。
 しかし、儀式の内容があまりに大胆なので、素直に感心ばかりもしていられない。どうしたものかと視線を逸らすサフィールに、アンダンテは微笑みかける。
「腰が引けているようだけど、儀式よ儀式」
「そうですけど……」
「恥ずかしがる事なんてないわ」
「……」
「だから、さあ!」
 バッ と腕を広げ、受け止める構えを見せるアンダンテにサフィールは軽い眩暈を覚える。
「さあ、と言われても……」
 嫌なわけではない。どちらかというと『恥ずかしい』という感情が勝っているのだ。しかしここまでどんとこいな様子の神人を見ていると、そうも言っていられないだろう。
(なんて潔いんだ……)
 こちらとて覚悟を決めねばなるまい。そう思って、サフィールはアンダンテを抱きしめる。
 ふわり。
 柔らかく温かな光と、星の綺麗な夜の澄んだ冬の風のような香りが二人を包み込む。
 アンダンテはうっとりとしながら、サフィールの胸に身を預けた。
(相手の事を思うなんてわざわざ意識しなくてもこの状況じゃサフィールさんの事しか考えられないわ)
 小さく笑いながら、アンダンテは彼の背に回した手から彼の体温を感じる。
(サフィールさんも、きっとそうよね)
 サフィールはというと、身長差があるためお互い顔は見えないことにほんの少し安堵し、アンダンテの事を何か考えねばと思案し始めた。
(振り回されまくっているうちに大分時間が過ぎて、最初は同情心の方が強かったが今はどうだろうか?)
(あら。……)
 ふふ、とアンダンテは口元を緩める。そして、その続きに飛びこんできた彼の感情。
(この感情に名前を付けてしまうと、色々と変わってしまう気が……)
 戸惑いをはらんだ、ハッキリしない気持ち。
 けれど、その想いは確かな『あたたかさ』を持っていた。
(この優しい気持ちも私へのもの……よね?)
 アンダンテは、そっと彼の表情を伺えないか試す。けれど、それは叶わなくて。
(少なくとも、今は全部私のものだわ)
 光が、薄れる。お互いに特に言葉もなく抱き合っていたが、その光が儀式の終わりを示していると思い、サフィールは離れようと彼女の背に回した腕を放した。
「あら、まだだめよ」
 サフィールの腰に回したアンダンテの腕に力がこめられる。ギュッと抱きついて引き止めると、アンダンテは口に出さずに伝えた。
(光が消えても効果は少し続くって言っていたじゃない)
 どうしていいかわからないような感情を、表情には出さずに『心』だけで伝えるサフィール。
(それに私、まだ離れたくないわ)
 その言葉に、何故か胸が跳ねあがる。
 本当に、いつも振り回されてばかりだ。
 すり、と彼女の頭がちょうどサフィールの胸のあたりに寄せられた。
(それはサフィールさんも一緒じゃない?)
 自分よりも小さな彼女の体。
 力づくで振り払おうと思えばそれも可能だ。けれど、サフィールはそれをしない。
 ――少しの間だけですよ。
 思ったことは、すぐにアンダンテに伝わった。
 彼女を抱きしめる腕に、力がこもる。
 腕の中で、彼女が嬉しそうに笑った気がした。
「心は正直よね」
 ややしばらくして彼女が顔を上げて言った言葉。サフィールは『はい?』と首をかしげる。
「こういうの一回言ってみたかったの」
 ふふ、と笑って、彼女は漸く離れる。
 ――心がわかるはずの儀式なのに。
 自分のこころばかりが彼女に明け透けになったようで、なんとなく腑に落ちないサフィールだった。





依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月09日
出発日 03月14日 00:00
予定納品日 03月24日

参加者

会議室

  • [6]秋野 空

    2016/03/13-21:38 

  • [5]豊村 刹那

    2016/03/12-22:18 

    豊村刹那と逆月だ。よろしくな。

    祈りの儀式か。
    抱きしめるだけなら簡単でいいな。
    うん。簡単、のはず。(自分に言い聞かせ

  • リーヴェと銀雪だ。
    よろしく。

    恋人関係ではないな。
    ま、儀式に参加という形だ。
    銀雪はそう思っていないだろうが。

  • [3]エリー・アッシェン

    2016/03/12-00:34 

    うふふ……。エリー・アッシェンと、精霊のモルさんです。
    よろしくお願いします!

    私とモルさんの間には恋愛感情はありません。
    ウィンクルムの一員としてジェンマ神への儀式をとりおこなう、みたいなスタンスで参加予定です。

  • [2]アンダンテ

    2016/03/12-00:28 

  • [1]秋野 空

    2016/03/12-00:21 


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