たこ焼きにたこを入れる必要性(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ミラクル・トラベル・カンパニーのとある支部の企画課の昼休み。先輩社員と後輩社員で、ごく平和な会話が交わされていた。
「昨日居酒屋で食べたたこ焼きがさぁ、たこすっごく小さくてよぉ」
「先輩でかいの好きですもんね。まぁオレはたこのでかさより生地が気になりますけど」
「アホか、居酒屋のたこ焼きにそこまで求めんな」
 皆大好きたこ焼き、人それぞれに拘りのあるたこ焼き、お祭とかでとりあえず腹に入れておこうかお土産にしようかと悩ませるたこ焼き。
 平和な昼休みを彩るたこ焼き談義。
 これが後のたこ焼き戦争の引き金になることを、まだ誰も知らない。
「たこ焼きなんだからたこが主役だろ、生地の美味さとかソースでどうとでもなるわ」
「いやいや、本当に美味い生地は何もかけなくてもそのままでいけるし、その上でソースやネギをかける事でまた違う味を楽しめるし」
「あ、そういう面倒臭いのどうでもいい。たこがでかけりゃいい」
「……だから、たこの美味さを引き出すのも結局は生地で」
「だからぁ、生地の美味さとかどうでもいいんだよ! いかにたこがでかいかだろたこ焼きは!」
「違いますよ! 全てを内包する生地重要! たこのでかさだけじゃないんですよたこ焼きは!」
「はぁ?! でかさだろ重要なのは!!」
「生地ですよ!!」
 さっきまでの和やかさは何処へやら。
 対立する二人の男性社員に、下っ端の女性社員が「お、お二人とも、お茶でも飲みませんか?」と気を遣う。
 しかし、それは藪蛇だった。
 ギッと二人同時に下っ端を振り返ると、矢継ぎ早に問いただす。
「どう思うよ?! やっぱたこのでかさだよな?!」
「でかさより生地による全体的な味だよな?! 正直に言え!」
「お前プレッシャー与えんなよ!」
「それは先輩でしょう?!」
「こいつは気にすんな! たこのでかさだよな? でかさって言え!!」
「違うよな? 生地こそ! 全体的な味こそ!!」
 迫り来る二人に、涙目になりながらも下っ端は叫ぶ。
「わ、私はたこの大きさより生地の美味しさより外側カリッと軽く揚げてるみたいのがいいですぅ!!」
 第三勢力誕生。焼き方が大事。
「いや、それはお前……なんか違うだろ」
「そこじゃないだろたこ焼きの重要さは、ていうかふわとろが基本だろたこ焼きは」
「な、何でですか! 焼き方は重要でしょう?! ふわとろが基本なんて誰が決めたんです?! 焼き方でたこ焼き頼むか頼まないか決めるんですよ私は!!」
 否定された下っ端が噛み付く。しかし二人は取り合わない。そこへ。
 バンッ!!
 強く机を叩きつけて立ち上がったのは、姐さんと皆から頼られ恐れられる女性社員。
「……ア=カシ焼き、いえ、玉子焼きこそ、至高」
 第四勢力、たこ焼きのルーツとも言われるア=カシ地方の郷土料理を愛する者。
 ちなみにたこ焼きは粉を出汁で溶いた生地なのに対し、玉子焼きはその名の通り卵が主となる生地である。さらに、たこ焼きは紅生姜や葱を入れるが、玉子焼きはたこのみである。さらにさらに、たこ焼きは基本ソースで食べるが、玉子焼きは出汁に付けて食べるという違いもある。
 訪れる沈黙。睨み合う四人。全員が自分の意見こそがたこ焼き+αの常識であり正義であると信じて疑わない。
 その空気を壊すように部屋へ入ってきたのは、この企画課の課長。
「あー食った食った、あの屋台面白いわ、たこ焼きにたこじゃなくてえびとかウィンナーいれるなんて最高だな」
「邪道です!!」
 四人が一斉に切れた。
「あ゛ぁ?!」
 課長も切れた。

 こうしてたこ焼き戦争は幕を開けた。
 もしも彼らが普通の会社の社員だったら、きっと戦争までは発展しなかっただろう。
 しかし、彼らはミラクル・トラベル・カンパニーの社員だった。よりにもよって、気軽なデートからお金をかけたゴージャスツアーまで、欲望願望入り混じった大抵の企画は実行できてしまう、ミラクル・トラベル・カンパニーの企画課所属の社員だったのだ。
 そして、ミラクル・トラベル・カンパニーと提携しているところと言えば……。

「はい、どうもこんにちはー! 毎度おなじみミラクル・トラベル・カンパニーです!!」
 とあるA.R.O.A.支部。
 入り口のドアを勢いよく開けて入ってきたミラクル・トラベル・カンパニーの社員は、よほど急いでいるのか、ポスターやツアー簡易パンフレットをA.R.O.A.職員に渡し「祭の主役はたこ焼きだ!! という内容ですすみませんそれ掲示と配布お願いします! 今日中に他も回らないといけないんで!」と早口で言って出て行った。
 残されたのは、ぽかんとしているA.R.O.A.職員と、ポスターと簡易パンフレット。
「……たこ焼き?」
 A.R.O.A.職員はポツリと呟いて、渡されたポスターと簡易パンフレットに目を落とした。


『祭の主役はたこ焼きだ!!
 究極のたこ焼き(?!)決定戦 たこ焼きグランプリ!!

 ●お祭りでも日常でもつい食べたくなる、屋台の定番『たこ焼き』
  色々な極上たこ焼き+αを取り揃えました!
  さぁ、たこ焼きグランプリへ参加しよう!! 

 ●メニューはこちら!
  1、たこの大きさが一番!『どでかたこ焼き』
    やっぱりたこ焼きはたこの大きさでしょう! 
    大きなたこをお試しあれ!!
  2、生地の絶妙な配分!『旨味抜群いい生地たこ焼き』
    たこ焼きの美味さとは何か? それは生地にかかってる!
    ソースもマヨネーズも何もいらない! そのままでも完璧な味!
  3、焼いてる? 揚げてる!『カリカリ揚げたこ焼き』
    ふわとろが常識なんて誰が決めた! 表面カリッでいいじゃない!
    もちろん中のとろっは健在ですよ!
  4、たこ焼きのルーツ?!『ア=カシの玉子焼き』
    求めていたのはこの上品さ! これぞ元祖!
    しっとり卵生地に出汁をつけて召し上がれ!
  5、たこ焼きは何にでもなれる?!『たこ焼きバラエティ』
    たこ焼き? いいえ、何でも焼き!!
    海老、ウィンナー、ツナコーンに出会った時、あなたは新しい世界を知る・・・!

 ●一番美味しい究極のたこ焼きはどれ?!
  たこ焼きを食べたら人気投票に参加しよう!
  あなたの一票が究極のたこ焼きを決める・・・?!
 ●一位のたこ焼きを予想しよう!!
  人気投票に参加された方は、一位予想にも参加しよう!
  見事正解された方の中から抽選で1名様を『たこ焼き大使』に任命!!
 ●たこ焼き大使とは?!
  任務その1、任命式の時にステージ上で「たこ焼き大好き!!」と叫んで下さい!
  任務その2、この一年、たこ焼きの魅力を色々な人に伝えて下さい(特に一位のたこ焼き!)
  特典その1、今イベントでの飲み物代がタダに! さらに特製鈴カステラプレゼント!
  特典その2、一位を獲得したお店のたこ焼きをこの一年いつでも食べ放題!
  ☆任命式では写真も撮るよ! スマイル忘れずに!!

 料金:フリーパスチケット(全たこ焼き食べ放題)300Jr
 会場:ハト公園内催事エリア
 主催:ミラクル・トラベル・カンパニー』

解説

プランに食べたいたこ焼きの数字を記入してください。複数でも構いません。
全部食べたい場合は『全』という字を記入してください。
投票するたこ焼きの数字、一位予想のたこ焼きの数字も記入してください。
(例 …… 食:全、投:1、予:1)
飲み物も売ってるようです
・ビール 25Jr
・チューハイ 20Jr
・牛乳 20Jr
・ラムネ 15Jr
・コーラ 15Jr
・オレンジジュース 15Jr
・ウーロン茶 15Jr
・緑茶 15Jr
冷えた水はただで飲めます。

神人と精霊、それぞれ投票・予想できます。
皆さんの投票で一位を決めさせていただきます。
予想が当たった方が複数いたら、こちらでくじを行いたこ焼き大使を決定します。
たこ焼き大使に拒否権はありません。拒否権はありません!!


ゲームマスターより

美味しいたこ焼き+αを楽しんでください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

天原 秋乃(イチカ・ククル)

  食:全、投:3、予:3

とりあえず全部食べてみないことには、投票なんてできないし
・・・・・・全部食べるか
『たこ焼きバラエティ』を食べていたら、イチカが口をあけてなんか言ってる
食わせろってことなんだろうか・・・・・・
少し渋った後、口の中に放り込む
「・・・・・・ほらよ」
俺がそういうことするなんて予想もしてなかったのか、イチカが熱がる様子がおもしろくて思わず笑う

投票も予想も『カリカリ揚げたこ焼き』に
王道に一手間って感じで安心して食べられるし、美味しいもんな

前にカレー大使やってるから、たこ焼き大使は勘弁
任命されたら・・・やるしかないけど・・・・・・
笑顔が引きつりそうになったらイチカの間抜け面思い出すか


李月(ゼノアス・グールン)
  ウーロン茶
全食
投5
予2

「たこ焼きというからにはたこは入っててほしいかなってお前ー!
混ぜていっぺんに食う相棒にいつも通りかと思いつつツッコミ
「好きな味投票するのに混ぜて食うとかありえないだろ

「しっ…ここでそれ禁句な(同意だけど

気を取り直し
「…悩むな

感想
インパクト
味がいいに越した事はない
食感も捨てがたい
基本は大事だ
未知なる世界への探求…

自分では決められない
なら相棒に作るとしたら?と視点切り替え

「決まったか?

たこ焼きバラエティ
同じ物選んで動揺

「…これなら何入れたっていい訳で
家で作るならお前の好物入れてやれるから…

お互い相手視点で考えてるのに気づき微赤面
(なんだこれ…

大使なったら
課された任務に魂抜け顔


カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
  食:2.3.4.5 投:1 予:3
美味であるなら、いっそ中身が入っていなかろうが全く問題無──何か不満でも…!?

【たこ焼きの名前の由来を言ってみろ?】 フッ、食べ物もいつの時代も美味である為に進化していく。『名前など只の飾りだ!!』

こうして、エルディスと【たこ焼き宗教戦争】勃発

喧嘩など面倒なだけだから、適当に同意を取って避ける事も出来た
…ただ、内容はともかく
『嘘をついてまで相手の思考に同意するのは、己に対する相手への裏切り行為』である気がして出来なかった

仲はうやむや
しかし投票は1に。好きな物が1位になれば、相手もそれは嬉しいに決まっている

たこ焼き大使は意地でも御免被りたい
予想は地味そうな3に入れるか


フィリップ(ヴァイス・シュバルツ)
  食:5、2 投:2 予:1 ラムネ
飲み物? 別に決めてない。は? 勝手に決め、…まあ良いか…
なんでも焼きとかそんなの邪道だろ。たこ焼きじゃないし
俺はたこ焼きにソースとかかけない。素材そのままの味が美味いんだ
うるさい、星座オタク言うな。つか、『クセに』はもっと言うな
偉そーな人が素材そのまんまが美味いって言ってた
知らなくて良いんだよアンタは
…んで、全部試すのかよ? ……嘘だろ。チャレンジャーかよ
あー…腹壊すなよ?

2 やっぱり素材そのままが一番良いな
余計な味はない方が良い
5 ……なんか…めちゃくちゃ悔しい。なにがって
美味すぎて悔しい……
おい、これ終わったら速攻で生地と材料買に行くぞ。この際なんでも試してやる…


■素材そのままの味を
「飲み物なんにすんだー?」
 大きな屋台が五つ、それに特設ステージに飲み物限定の売店。
 そんなたこ焼きグランプリ会場で『ヴァイス・シュバルツ』が声をあげた。
「飲み物? 別に決めてない」
 屋台の方を気にしていた『フィリップ』が興味無さそうに答える。それに対してヴァイスは怒るでも問いを重ねるでもなく。
「んじゃラムネで」
 勝手に決めて注文した。
「は? 勝手に決め……まあ良いか……」
 抗議の声をあげかけ、それでも飲み物は欲しいと思っていたところだ。ラムネでも構わないだろう。
 ラムネを手にした二人は、そのまま『旨味抜群いい生地たこ焼き』の屋台へ並ぶ。並びながらも、フィリップの視線の先は少し離れたところで賑わっている『たこ焼きバラエティ』の屋台だ。
「何でも焼き、ねえ……それ初耳。どうなんかねぇ? なあフィリップ」
「何でも焼きとかそんなの邪道だろ。たこ焼きじゃないし」
「あ? なに言ってんだフィリップ?」
 その割には随分と見ていたような。そうツッコめば邪道だからこそ見ていたのだという。
 なんとなく納得いかないが、そんなやり取りをしている間に順番が回ってきて、二人は一つずつ購入する。
 渡されたたこ焼きは、何もかかっていない。
 勿論、すぐ横に鰹節や青海苔、ソースにマヨネーズ等、トッピングは一通り置いてあるのだが、フィリップはそちらには見向きもしない。
 いいのか? と首を傾げるヴァイスに、深く頷く。
「俺はたこ焼きにソースとかかけない。素材そのままの味が美味いんだ」
「ほー……星座オタクのクセに結構男らしいな。なんもかけねぇとか」
 感心してからかえば、フィリップはむっとして答える。
「うるさい、星座オタク言うな。つか、『クセに』はもっと言うな。偉そーな人が素材そのまんまが美味いって言ってた」
「偉い人じゃなくて偉そーな人かよ。誰だよ誰だよそれ?」
「知らなくて良いんだよアンタは」
「自分で言っといて教えてくんねぇのかよフィリップー」
 偉そうな人が一体誰なのか。そんなことは深く考えなくてもたこ焼きは食べられる。
 二人はたわいの無い会話を打ち切ってたこ焼きを食べる。
「ん、やっぱり素材そのままが一番良いな。余計な味はない方が良い」
 もぐもぐと食べるフィリップは幸せそうな顔であった。
 二人はその次に『たこ焼きバラエティ』の屋台へ向かう。
「邪道なのに」
「だからこそ比べるんだ」
 真のたこ焼きの素晴らしさを確認する為に。そう言ってフィリップとヴァイスは何でも焼きを購入する。
 そして、一口。
「おー、ツナコーンいいな!」
 美味い美味いと喜ぶヴァイスの横で、もぐもぐと食べながらも沈黙するフィリップ。
「……なんか……めちゃくちゃ悔しい」
「悔しい? なにが」
「なにがって」
 ぽつりと呟いた声を拾えば、返ってきたのは苦渋の発言。
「美味すぎて悔しい……」
 ヴァイスの弾けたような笑い声が、その場に生まれた。
 そうして二人とも何でも焼きを食べ終わる。
 フィリップは腹も満たされもういいかと思っていたのだが。
「……んで、全部試すのかよ?」
「はあ? 全部食わねぇとちゃんと判断できねぇじゃん」
「……嘘だろ。チャレンジャーかよ」
 更に別の屋台へ並ぶヴァイスを気が遠くなる思いで見る。
「あー……腹壊すなよ?」
 せめてもの応援に、ヴァイスは「任せろ」といい笑顔で答えた。


■たこ焼き戦争 冷戦Ver.
「美味であるなら、いっそ中身が入っていなかろうが全く問題無──」
「あ゙ぁ?」
「何か不満でも……!?」
 どうしてこうなった。
 たこ焼きグランプリに来て、さぁ何を食べようか、今すいてるから何でも焼きからいくか、よしそうしよう。
 そんな感じで並んでたこ焼きについて話してた筈だ。それが今、『カイエル・シェナー』と『エルディス・シュア』は完全に対立してしまっている。
 普段からは考えられないほど簡単に沸騰してしまったエルディスに、カイエルは一体何事なのかと戸惑う。
 戸惑うが、自分の意見を曲げるつもりも特に無い。
「たこ焼きが何でたこ焼きって名前が付いてるのか言ってみろ、名前はそれに的確だから付いているんだ、アレンジもタコ無しも認めんッ!」
「フッ、食べ物もいつの時代も美味である為に進化していく。『名前など只の飾りだ!!』」
「何だそのどっかの整備兵が言ってそうな台詞は!」
 エルディスは自分でもよくわからない異次元からの電波を受け取ってツッコミをいれる。
 こうして、ミラクル・トラベル・カンパニーが既に起こしているたこ焼き宗教戦争の冷戦バージョンがここに勃発した。
 お互い譲らず平行線。会話は消え、顔を背け、空気をギスギスした心地悪いものへと変化させる。それならいっそ別行動をすればいいのに、二人は一緒にギスギス空気を纏わせたまま会場を回りたこ焼きを食べ続ける。
 ―――喧嘩など面倒なだけだから、適当に同意を取って避ける事も出来たのだ。
 カイエルは薄く溜息をつく。そう、こんな事態は避けることが出来た筈だ。
 だが、と考える。
(……内容はともかく、『嘘をついてまで相手の思考に同意するのは、己に対する相手への裏切り行為』である気がしてしまったんだ)
 だからこそ、出来なかった。
 エルディスもまたぼさぼさの頭をかきながら、しまった、と考える。
(こいつ無駄に真面目だから、変に根に持って気を使って……)
 黙々と食べるたこ焼きは美味しいけれど、それを心から喜ぶことが出来ずにいた。


■全部全部、楽しんで
 会場についた『李月』とこのグランプリの趣旨が書かれた特設舞台の前にいた。
 一番美味しいたこ焼きを決める。ただし若干たこ焼きと呼んでいいのかわからないものも混ざっているこの状況。
 とりあえず理解した李月は一人頷きながら屋台の方へと向かう。
「たこ焼きというからにはたこは入っててほしいかなってお前ー!」
 歩みを止めて思わずツッコむ。
 目の前には一足先にたこ焼きを食べ始めていた『ゼノアス・グールン』がいた。
 食べ放題が大好きでワクワクしていたのは知っている。先に食べてると言ったのも聞いている。
 しかしだ。複数のたこ焼きを混ぜていっぺんにばくばく食べるというのはどうだろう!
「その食いっぷりはいつも通りか。ったく、好きな味投票するのに混ぜて食うとかありえないだろ」
 それじゃどのたこ焼きか分からないじゃないかという至極真っ当なツッコミに、しかしゼノアスはたこ焼きを食べ続けながら首を捻る。
「別にみんな旨いでいんじゃね? 1つに決める意味あんのか」
「しっ……ここでそれ禁句な」
 思わず李月が声を潜める。こちらも至極真っ当な意見だったが、しかしここでそれは通じない。
 だってほら、なんかミラクル・トラベル・カンパニーの職員がにっこり笑ってこっちを見ている気がする。
 こちらも笑顔を返してその場を離れ、そうして気を取り直してたこ焼きを食べ始める。
 全部食べて、そして。
「……悩むな」
「うーん」
 全部を食べた二人はどれに投票するかを考える。
「『どでかたこ焼き』はインパクトがあったな」
「食い応えもあった」
「味がいいに越した事はないから、そうなると『旨味抜群いい生地たこ焼き』か……」
「味応え? 美味しかったけどそこら辺はよくわからん」
「とはいえ『カリカリ揚げたこ焼き』の食感も捨てがたい」
「うん、カリって音はいいな」
「それに基本は大事だって考えると『ア=カシの玉子焼き』……」
「卵焼きも好きだ」
「それとも『たこ焼きバラエティ』で未知なる世界への探求……」
「あー、何でも入れられるのか……」
 二人は悩む。悩む。ゼノアスにいたってはまだもぐもぐ食べながら悩む。
 投票場に二人が足を運ぶのは、もう少し先になりそうだ。


■熱いのは、誰のせい?
 人の賑わう会場に入った『天原 秋乃』と『イチカ・ククル』はやってきた。香ばしい香りが漂う中を歩けば目移りをしてしまう。
「どのたこ焼きも美味しそうだよね~……『たこ焼き』じゃないのもあるけれど、それはそれとして」
 イチカは言いながらそれぞれの屋台の並び具合を見る。
「とりあえず全部食べてみないことには、投票なんてできないし……全部食べるか」
 秋乃の言葉に、イチカは「今はこことあそこが空いてるみたい」と教え、二人は別々に並んで二人分購入する。無事に買えた二人はそれぞれ秋乃が『たこ焼きバラエティ』を、イチカが『どでかたこ焼き』を食べ始めた。
 しかし何故だろう。人が食べている者は美味しく見えるものである。
(あ、今秋乃が食べてるたこ焼き、もとい、なんでも焼き美味しそう。中に入ってるのは何かな)
 予想以上に熱かったのか、はふはふしながら食べている秋乃は、それでも美味しさを堪能しているのが分かる表情だ。イチカが気になってしまうのも仕方が無いだろう。
「秋乃秋乃! 一口ちょうだい」
 イチカは口を大きく開けて待つ。
 駄目元でのおねだりだった。秋乃のことだ、睨まれて終わるだけだろう。けれどこの会場の浮かれた空気と、美味しそうな食べ物がイチカに実行を促したのだ。
 そんなイチカを秋乃は胡乱な目つきで見る。
(食わせろってことなんだろうか……)
 たこ焼きの大きさを考えれば一口には大きすぎる開け方だ。その口の中にわざわざ自分が何でも焼きを一つ入れてあげる図を考えると、自然と顔が渋く歪む。
 それでも、なんとなく。
「……ほらよ」
「……あっつ!!!」
 なんとなく、イチカの口に何でも焼きを一つ、放り込んだ。
 ものが入ったせいで咄嗟に口を閉じたイチカは、口の中のものが潰れて中から熱いチーズが飛び出た事に目を白黒させた。
 その様子が面白くて、秋乃はプッと噴出して笑う。
 こんなイチカが見れたなら、さっきの行動もやってよかった。
 秋乃に何でも焼きを放り込まれた事実を飲み込めずにいたイチカだったが、とろとろのチーズを味わって飲み込んだ頃、その事実もようやく飲み込めたようで。
(……ちょっと嬉しいかも)
 緩む頬を引き締めることもせず、もう一度ねだろうか、と考えた。


■君こそまさに、ナンバーワン!!
『たこ焼きグランプリをお楽しみの皆さんにお知らせします。間もなく投票時間終了となります。まだ投票を済ませてない方は是非ご投票下さい』
 場内アナウンスが流れて、李月とゼノアスは目を見合わせる。まだ投票どころかどれにスルかを決めていない。
(自分では決められない、なら相棒に作るとしたら?)
 李月は迫る時間に、今までと視点切り替えて考えてみた。
 そしてそれはゼノアスも同じ。李月と一緒に食べるならどれか? という視点で考え始めた。
 すると、二人ともスッと決まった。
「決まったか?」
「おう!」
 投票場にある、それぞれのたこ焼きの名前と写真が載った看板。それを見て二人は「せぇの」で一斉に指差す。
 二人が指差した先は、同じ。
 たこ焼きバラエティ
 同じものを選んでしまった結果に動揺する李月をよそに、ゼノアスは「お! お前もか」と素直に受け止めた。
「……これなら何入れたっていい訳で。家で作るならお前の好物入れてやれるから……」
 別に自分の好みで選んだわけではない、という事を言い訳のように口にすると、ゼノアスもまた自分が選んだ理由を口にする。
「オレは一緒に食うならこれだなって、オマエあんま食わねぇし、色々あった方が面白くて食い気も湧くだろ?」
 言って、ゼノアスはにんまりと笑い、李月は何とも言えない顔で微かに赤くなる。
 好みが合っていた方がまだマシだ。まさかお互い、相手視点で考えていたなんて。
(なんだこれ……)
 妙な気恥ずかしさに襲われている李月に、ゼノアスは「今度肉入れて作ってくれよ」と満悦顔で言った。当然の約束のように。

 全部のたこ焼きを楽しんだ秋乃とイチカは、投票場の前で投票先と予想を決める。
「よし、投票も予想も『カリカリ揚げたこ焼き』にしよう。王道に一手間って感じで安心して食べられるし、美味しいもんな」
「僕は投票は『たこ焼きバラエティ』に入れちゃおう♪」
 秋乃に食べさせてもらって嬉しかったから、とまでは言わない。秋乃から冷たい視線が飛んできそうだから。
「予想は?」
「見た目のインパクトで『どでかたこ焼き』かなー」
 無事に投票を終えた二人は、二人で行ったカレー祭りを思い出す。
 今回と同じように、ミラクル・トラベル・カンパニー主催で一番美味しいカレーを決める、というイベント。そこで秋乃はカレー大使になってしまったのだ。
 だからこそ今回のたこ焼き大使は勘弁願いたいのだ。
「任命されたら……やるしかないけど……」
 ぼやいた声をイチカはきっちり拾い上げる。
「僕がたこ焼き大使に任命されたらノリノリで頑張っちゃうよ」
「そりゃそうだろうな」
「秋乃が任命されたら思いきり冷やかすけどね」
 ニッと笑うイチカに、秋乃は絶対に当たらないよう神に祈った。

 ギスギスした空気のまま投票場へやってきたカイエルとエルディスは、そのまま特に仲直りすることもなく投票を終える。
 美味しければたこが入っていようがいまいがと言ってエルディスを怒らせ、さらにたこが物凄く存在を主張する『どでかたこ焼き』を食べなかったカイエルだったが、投票先はその唯一食べなかった『どでかたこ焼き』である。
(好きな物が1位になれば、エルディスもそれは嬉しいに決まっている)
 そんな遠まわしな思いやりは当然、エルディスに伝わるわけも無かった。だが、実はそのエルディスも、自分の推しが一位になれば少しは落ち着くかもしれない、という同じような理由で『たこ焼きバラエティ』に投票していた。
 投票も予想も終えた二人は、少しベンチで休憩する。
 一息ついたカイエルにの頬に、不意に、冷たいものがくっつけられる。
 何事かと体を引いて振り返れば、冷たいウーロン茶をこちらに突き出しているエルディス。
「……悪かった」
 終戦を言い出したのは、エルディスの方だった。
 いつまでもこんな嫌な空気を引きずるのはカイエルとて本意でない。折れてくれたエルディスに特に何も言わず、ウーロン茶を受け取ってその返事とした。
「予想はどれにしたんだ?」
「無難な『カリカリ揚げたこ焼き』に入れてみた」
「俺もだ。たこ焼き大使は意地でも御免被りたいからな」
「本当だよ、冗談じゃない」
 二人は顔を見合わせ、小さく笑いあう。
 どちらが言うともなくウーロン茶で乾杯をして、そのまま談笑を続ける。
 投票結果は、もうすぐ発表だ。

 早々に『旨味抜群いい生地たこ焼き』へ投票し、『どでかたこ焼き』を予想したフィリップは、投票から戻ってきたヴァイスを迎える。
「どれにしたんだ」
「他のもなかなか美味かったけど、オレはなんでも焼きに投票で、まあー……予想としちゃあどでかたこ焼きだ。やっぱ王道だろ。美味かったし」
 妥当だな、と頷き合ったところで、場内アナウンスが入る。
 投票結果が発表されるから特設ステージへ集まってくれ、という事だ。
「たこ焼きグランプリにご参加の皆様、大変お待たせ致しました! これより人気投票の結果、つまり究極のたこ焼きの発表と、たこ焼き大使の任命式を始めまーす!!」
 特設ステージにあがった司会が高らかに言う。集まってきた人達は拍手で迎える。
「それでは発表します。たこ焼きグランプリ! 皆さんの心を射止めた究極のたこ焼きは!!」
 軽快なドラムロールが鳴ると同時にステージ上で照明が踊る。
 ジャジャン!! と派手なおとが鳴った後、真っ直ぐな光に照らされた司会が読み上げたのは。

「たこ焼きは何にでもなれる?!『たこ焼きバラエティ』です!!」

 拍手、拍手、そして歓声。
「おお?!」
 叫んだのは、ゼノアス。
「ゼノアス、確か予想したのって……」
「『たこ焼きバラエティ』だ! これはもしかして……!」
「さぁ、それでは見事予想的中した方の中から、たこ焼き大使を選ばせていただきまーす!」
 ステージ上で司会が箱に手を入れてがさごそ探る。固唾を呑んで見守る李月とゼノアスの二人。
 そうして司会が箱から勢いよく取り出した、その一枚の紙に書いてあるのは。

「ゼノアス・グールンさん! ステージにどうぞー!!」

「うおおお!!」
「た、たこ焼き大使が、ここに……!」
 歓喜するゼノアスと驚愕する李月。驚愕と言っても、もはや何に驚いているか分からない。展開に頭がついていけてないのだ。
 そんな二人だが、周囲は拍手で受け入れる。そしてステージへと見送る。
 拍手をおくる客の中、フィリップが決心した顔つきでヴァイスに告げる。
「おい、これ終わったら速攻で生地と材料買に行くぞ。この際なんでも試してやる……」
「おいフィリ。なんでも焼きは邪道やらなんやら言っておきながら、ハマってんじゃねぇか!」
 そんな平和な会話を耳にしながら、ゼノアスはステージにあがる。
 ステージ上から、李月の呆然としたまま拍手をしている姿が見える。その様子が何ともおかしい。
 そのまま滞りなくたこ焼き大使任命式が始まる。
「是非! 是非ともたこ焼きならぬ何でも焼きの素晴らしさを! 周りの人間に広めてください!!」
「任せろ!」
 やたらと熱く語るミラクル・トラベル・カンパニーの社員に、いい笑顔で答える。ステージ横でギリギリと悔しがってる他のミラクル・トラベル・カンパニーの社員達は見なかったことにしよう。
「それでは、たこ焼き大使に着任しましたゼノアス・グールンさんに、たこ焼き大好き宣言をしてもらいましょう!」
 司会が笑顔でゼノアスにマイクを渡す。
 ブカブカの王冠にたこ焼き大使と書かれたたすきを身につけたゼノアスは、李月にVサインを送りながら叫ぶ。

「たこ焼き大好き―――ッ!!」

 楽しげな宣言は盛大な拍手と歓声で受け入れられた。
 そんな任命式が終わって、特典の特製鈴カステラと任命式での写真を受け取ったゼノアスは、得意気に李月に見せる。
「まさかのたこ焼き大使……」
「さー、食べ放題! 食い倒すぜ!!」
 満面の笑みのゼノアスは、まずはこれ、と鈴カステラをあける。
 楽しそうな様子に李月はフッと小さく笑って「たこ焼きばっかりの一年になりそうだな」と言い、ゼノアスから鈴カステラを一つ貰った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 02月20日
出発日 02月27日 00:00
予定納品日 03月08日

参加者

会議室

  • [4]天原 秋乃

    2016/02/25-22:26 

    っとと、挨拶遅くなった。
    天原秋乃とイチカだ、よろしくな。

    たこ焼き、と言うからにはタコは入ってて欲しいもんだけど、チーズとかウインナー入れて作ったりするの結構美味しいよな
    さて、何を食べようか

  • [3]カイエル・シェナー

    2016/02/23-21:21 

    カイエル:
    カイエル・シェナーに、エルディス・シュアだ。どうか、宜しく頼む。

    『たこ焼き大使』の残虐度具合に目を見張っている。
    更に美味であるなら、タコなど、入っていなかろうが全く問題な──
    (──裏で精霊と神人とでタコ焼きにおける、宗教戦争が勃発している)

  • [2]フィリップ

    2016/02/23-19:26 

    …フィリップだ。
    たこ焼きならぬ何でも焼きとかあるのか……(長考
    まあなににするかは決めてないんでこれから考える。

  • [1]李月

    2016/02/23-19:05 

    李月とゼノアスです
    よろしくお願いします

    たこ焼きというからにはたこは入っててほしいけど
    うーん悩むなぁ…
    あ、とりあえずウーロン茶とコーラを(お店の人に注文


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