プロローグ
あの人が立ち上がったときにふわりと感じた香り。
「あ」
「何?」
「ううん、なんでもない」
ふふ、と小さく笑う。
あの人は、何でも無くないだろ? と首を傾げた。
「ちょっと、ね。良い匂いがしたなぁって」
「良い匂い?」
くん、と自分の袖の匂いを嗅ぐ彼に、神人はくすくすと笑う。
「別に何か特別な事をしたわけじゃないけど……良い匂いって何?」
くんくん、と自分の匂いを確かめる精霊に、神人はついに吹き出してしまった。
「あ、こら。そんなに笑うな……もう」
眉間にしわを寄せた彼がそっと近づく。
――お前の方が、良い匂いだよ。
*****
「こういうのって憧れる」
真顔で呟いたのはA.R.O.A.職員の一人。
「わかる」
まだ自分にはそういう人がいないと豪語するような頷き方をする娘たち。
「柔軟剤の匂いとかさ」
「わかる」
「シャンプーの匂いとかさ」
「それな」
「汗の匂いとかさ」
「ちょっと待て」
かなり個人的なのが混ざっていた気がする。
「でも、香水ってその人の体臭と混ざることでその人オリジナルの匂いになるよね」
「よねー。私、バニラ系好きだけど見事に似合わない」
この人だけの匂い! っていうの、ほんと憧れるわぁ。
受付嬢たちはほぅっと息を吐きながら、どこか虚空を見つめるのであった……。
解説
●デート代やお土産代などで300Jr消費致します。
いつも一緒にいるパートナーですが、そのパートナーの好きな香り(嫌いな香りでもいいです)
をお互いに言いあったり(言わなくても心の中でこっそりふふっと笑ったり)
ひたすら精霊から「お前って良い匂いだよな」的な事を言いまくったりでもOKです。
もちろん、神人側からでもOK。
相手の『香り』について、存分にお話したり感じたりしてください。
とんでもなく強烈なにおい(くさやとか)が出てこない限りは大丈夫だと思います。
冒頭の受付嬢はリザルトには登場しないのでご安心ください。
いつものように、公序良俗に反さないようお楽しみくださいませ。
ゲームマスターより
薫企画です! いいにおい! いいにおいだいすき!
香りものってすごく好きで、リップクリームとかシャンプーとか良い匂いの物
ついつい買っちゃいます。
そんな私が昔母に叱られた文言「口は一個しかないんだよ!」
至 極 正 論 。
でも大人になった今なら言える。
その日の気分で変えたいのよん。
というわけで、どうぞよろしくお願いいたします!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
桜倉 歌菜(月成 羽純)
羽純くんからお使いをお願いされて、製氷専門店で氷を買ってから、彼の自宅兼カクテルバーへ 羽純くん、お待たせ! 入った瞬間、ふわっと清々しい芳香 カウンターに立つ羽純くんが作ったカクテルの香りだと気付いて 凄く良い香り…これって柚子? 彼に氷を渡しながら尋ねます 大振りのワイングラスに爽やかなオレンジ色 見ているだけで元気になれそうな色と香り いつもね、羽純くんから良い香りがするなぁ…って思ってて カクテルの香りなのかな…って そっか、私もお弁当屋さんで働く時は香水は付けないよ 匂い移っちゃったりするもんね え?これ、飲んでいいの? ノンアルコール…なんだ もしかしなくても、私の為に作っててくれた? 美味しいし、香りが大好き |
アンダンテ(サフィール)
ああいうのが乙女の憧れってやつなのよね 興味深げに眺めつつ サフィールさんはどんな… あっ、逃げなくてもいいじゃない 嗅ぐだけよ、嗅ぐだけ いいじゃない減るわけでもないのだし だめ?そう、残念 でも覚えているから大丈夫よ だってもう長いこと一緒にいるじゃない いつの間にか覚えちゃったわ サフィールさんは海の香りがするの シャンプーかしらと思ってたのだけど、同じ香りの人に会った事はないのよね 不思議よね、私はこの香り好きだわ 甘い香りはあまり好きじゃないの だって、何だかお腹がすいてこない? 香りだけで食べられないなんて寂しいじゃない …なんでかしら? そうね…、近づきたかっただけかもしれないわ こういう口実作りも、素敵じゃない? |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
先日、香水を手に入れました。 今日はフェルンさんとお出かけなので、使ってみたんです。 香水を使うと少し大人になった感じがします。 フェルンさん気が付くかしら、というドキドキ感も楽しいです。 早々に気づかれました。 「そ、そういう訳じゃないですけど…」 図星指されて、だんだん語尾が小さくなっちゃいます。 フェルンさん、私の事何でも解っているみたい。 「香水ってどう選んだらいいのかよく判らなくて」 自然がイメージ出来る香りとか好きですよ。 落ち着く気がするんです。 森の中にいる爽やかな感じとか、水が近くに在る時の香りとか。 でもこれ、香水選ぶ参考にならないですよね(苦笑。 フェルンさんの香りは好きです。凄く惹かれます。 |
八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
用事があってそーちゃんのお部屋を初訪問 お邪魔します…わ、素敵なお部屋 私の部屋より片付いてるかも…(本と書類であふれている 今日の用事っていうのは…えっ? 髪を触る手つきが時々耳や頬に触れて恥ずかしい 確かに私の髪ココアみたいな色だけど… 顔が離れる瞬間、そーちゃんから仄かにいい匂いが オリエンタル系のちょっと大人っぽい香りにドキッとする でもすぐに消えちゃった この香りは私だけの秘密にしておこう 今日の本題はそーちゃんの言う「甘い香り」だし 隠し持っていた箱を差し出す はい、バレンタインのチョコレート…8年ぶりだから手作りしたの ラッピングも本を見て自分でやったのよ 受け取ってくれるかな…? えっ…?の、ノーコメント! |
エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
心情 オーガによって私は親友を、モルさんは故郷を喪失しました。 行動 モルさんは自宅の大釜で色んな薬を調合するのが趣味でしたね。 調合素材によって、モルさんの香りは変わります。 薬といっても、ハーブを使った民間療法レベルのものですけどね。 と悪気なく。 皮肉にカチンと。 今日のモルさんはなんか煙っぽいですねー。 調合に失敗でもしたんでしょうか? なるほど、お香でしたか。 そう言われてみると、甘く安らかな香りです。 安息香。たしか、樹脂系に分類されるアロマですね。 傷……。 ご安心ください! 人間は樹液は出せませんが、かさぶたなら作れますよ! ……私達を深く傷つけたオーガに見せてやりましょう。 傷を負ってなお、力強く生きる姿を。 |
●
精霊蒼龍・シンフェーアは、神人八神 伊万里に『用事がある』と告げられ、訪問を許した。
「イマちゃんが来るから部屋片付けとかなきゃ」
もとよりそんなに散らかっていない蒼龍の部屋。サッと物を定位置に戻し、ルームフレグランスを手に取った。
(ルームフレグランスは……いいか。きっとイマちゃんの方がいい匂いするよね)
ふふ、と含み笑いの後、チャイムの音が響いた。
扉を開くと、そこにはほんの少し緊張した面持ちの伊万里がいる。
「いらっしゃい、ささ、こちらへどうぞ!」
笑顔で部屋に招き入れると、
「お邪魔します……わ、素敵なお部屋」
伊万里は思ったことをするりと零す。
「私の部屋より片付いてるかも……」
本と書類で溢れた伊万里の部屋とは似つかない、男にしては綺麗な部屋。
幼馴染が部屋にやってきたドキドキを感じながら、蒼龍は伊万里にお茶を勧める。しばしゆったりとした時間を楽しんだ後、今日の用事を切り出せずにいる伊万里に蒼龍は尋ねた。
「そういえば、用事って?」
「あ、うん……今日の用事っていうのは……」
話そうとした伊万里から、ふと甘い香りが漂ったことに気付く。くん、と香りを嗅ぐ蒼龍。
「何だろう、ココアみたいな……」
「えっ?」
「……ここかな?」
そっと蒼龍の手が伊万里の髪の一束をすくい上げた。そして、そっと顔を近づける。
「っ……」
その指が、時々頬や耳に触れて恥ずかしい。
「うーん? 違ったみたい、色はココアなんだけどね」
「確かに私の髪ココアみたいな色だけど……」
するり、と髪の毛が蒼龍の手から解放される。と思いきや。
指から滑り落ちる毛先に、一つ優しいキスが落とされた。
「!」
悪戯っぽく笑って顔を離したとき、伊万里は気付く。仄かないい匂い。
オリエンタル系の少し大人っぽい香りが、ふわりと伊万里を包んだのだ。……少しだけ、ドキドキする。けれど、淡い香りはすぐに消えてしまう。
(……この香りは私だけの秘密にしておこう)
今日の本題は、蒼龍の言う『甘い香り』なのだから。
ニコッと笑った蒼龍が尋ねる。
「その後ろに隠してる物は何かな?」
気付いちゃった。と無邪気な笑みを浮かべる彼に、伊万里は可愛らしいラッピングの箱をそっと差し出した。
「はい、バレンタインのチョコレート」
「イマちゃんの手作りチョコ?」
こく、と伊万里は頷く。
「……8年ぶりだから手作りしたの」
「うわあ嬉しいな! ありがとう!」
「ラッピングも本を見て自分でやったのよ。受け取ってくれるかな……?」
もちろん、と蒼龍は頷き、チョコレートを受け取る。そして、顔を少し近づけて香りを確認し、なるほどと納得した。
「このチョコだけじゃなくて全体的にふわっと匂ってたのは手作りだからかあ」
同じ香りがするね。そう言ってもう一度伊万里に近づく。そして、耳元でこっそりと尋ねた。
「……ところで、これって本命チョコ?」
ふわっと伊万里の頬が色づく。慌てた様子で上ずった声が返ってきた。
「えっ……? の、ノーコメント!」
上がった体温で、チョコレートの香りがふわりと増したのも、気付かずに。
●
「まずいな……」
今日の分の氷を専門店に取りに行きたかったのだが、店の準備で慌ただしく、時間が許さない。月成 羽純はどうした物かと眉を下げた。
「もしもし……歌菜?」
「はい、あっ、羽純くん?」
電話の向こうの桜倉 歌菜の声に少しホッとする。店の準備で手が離せないので氷を買いに行ってくれないか、という彼のお使いのお願いに歌菜は快く頷く。
それから数十分だろうか。思ったよりも店の準備をスムーズに済ませることが出来た羽純ははたと思い立った。――彼女のために、出来る事。
カラン、とドアベルが音を立てる。
「羽純くん、お待たせ!」
これで合ってるよね? と購入してきた立派な氷を掲げる。
「助かった、有難う、歌菜」
どういたしまして、と微笑む歌菜は入った瞬間に香ったその香りが気になっていた。
ふわりとしたすがすがしい芳香。何かな? と首を傾げたが、すぐにその正体に気付いた。
「凄く良い香り……これって柚子?」
氷を羽純に手渡しながら尋ねると、羽純が頷く。
柚子を丸ごと一つ、皮ごと潰して相性の良いパッションフルーツと合わせ、トニック・ウォーターで割ったカクテルが、大振りのワイングラスに揺れる。
爽やかなオレンジ色は、見ているだけで元気になれそうな色。そして、新鮮な柚子の香りが心を満たしてゆく。
ふふ、と微笑む歌菜に、羽純はどうした? と小さく尋ねる。
「いつもね、羽純くんから良い香りがするなぁ……って思ってて」
「俺から良い香り?」
こくんと歌菜が頷く。そして、合点がいったというような表情で続けた。
「カクテルの香りなのかな……って」
「……そうだな、大体酒の香りだと思う」
こうやって生の果実を絞ったりすることもあるし、自然とその香りが移るのだろう。
「香水は酒の香りを消してしまうから、基本付けないし」
うんうん、と歌菜は頷く。
「そっか、私もお弁当屋さんで働く時は香水は付けないよ。匂い移っちゃったりするもんね」
食品を扱う店で働く者同士、通ずるところがある。客に上質なものを提供する以上、邪魔になる香りは付けない。うん、と羽純も頷いた。そして、歌菜に少し近づく。
「歌菜からは……いつも甘い香りがする」
「えっ?」
「石鹸とシャンプーの香りか……好きな香りだ」
するりと彼女の髪を撫で、ちょうど自分の顎の下に来るそのつむじに顔を近づける。
「……っ」
「今日も優しい香りだな」
そっと囁くと、見る間に彼女は耳まで真っ赤になってしまった。
ちょっとやりすぎたかな。苦笑を浮かべて羽純は離れる。そして、カウンターの上のあのオレンジ色のグラスをそっと歌菜の前に滑らせた。
「ほら、これ飲め」
「え? これ、飲んでいいの?」
しっかりと頷く羽純に、歌菜はぱあっと顔を明るくする。
ここはお酒を出す場所。けれど、歌菜はまだ未成年。……という事は。
「ノンアルコール……なんだ」
頷く羽純。
「もしかしなくても、私の為に作っててくれた?」
少しはにかんだような表情の羽純が、頷いて微笑んだ。
「今日のお礼だ」
じゃあ、いただきます、と歌菜は大切にグラスをそっと唇へと運ぶ。
「……美味しい!」
それに、この香り大好き。
羽純と同じ香りが、ふわりと歌菜から香った。
――冬を感じさせる、柚子の香りが。
●
精霊、モル・グルーミーとの何気ない会話の間に、ふとエリー・アッシェンは切り出した。
「モルさんは自宅の大釜で色んな薬を調合するのが趣味でしたね」
こく、と小さく頷くモル。エリーは、いつもモルの香りが会うたびに違うことに気付いていた。
(調合素材によって香りが変わるのでしょうね……)
「薬といっても、ハーブを使った民間療法レベルのものですけどね」
悪気なく付け足したその言葉に眉を顰め口をへの字にまげたモルが答える。
「あぁ。そういえば最近神人は沈丁花の香水を愛用している。我も良い香りだと思うぞ」
『アスピラスィオン』のことだろうか、身に着けている香りを褒められて悪い気はしない。
「まあ」
にこやかにお礼を言おうとしたエリーにぐさりと皮肉を付け足すモル。
「生まれついた顔はそうそう変えられぬ。第一印象に難のある神人は、せめて香りだけでも良質なものを纏うが良かろう」
青白い肌に、長い黒髪。ラダなんかは初対面の時幽霊と見間違えたほどだ。
それでもその言いようはやはりカチンとくるものがある。
「今日のモルさんはなんか煙っぽいですねー。調合に失敗でもしたんでしょうか?」
嫌味には嫌味で返す。
「煙っぽい香り? 我は調合を仕損じた覚えはないぞ」
ぶすっと不機嫌な顔を見せてモルはそっぽを向く。そして、思い当たることがあったのかふと顔を上げた。
「……おそらく瞑想の際に使った香の煙ではないか」
「なるほど、お香でしたか」
それなら納得がいくとエリーも頷いた。彼の長い髪から香る香りにすん、と鼻を鳴らす。
「そう言われてみると、甘く安らかな香りです」
「ベンゾイン。安息香とも呼ばれている。樹液から抽出されたものだ」
軽く説明を付け加えると、アロマショップで働いているエリーにもピンとくるものがあった。
「安息香。たしか、樹脂系に分類されるアロマですね」
そのとおりだ、とモルが頷く。
「その木から樹液を得るには、傷つける必要がある」
何処を見るわけでも無く、少しうつろな目でモルが呟いた。
(傷……)
エリーは付けられた傷口から樹液が滲むさまを想像した。痛みを、傷を与えることで我々人間は、『得る』のだ。
「そうして採取された香が、かくも安らかで温かいのはなんとも不思議だ」
そうですね。とエリーは頷いた。痛みから生み出される安らぎとは、なんと不思議な物だろう。
「我の心の傷も、安息香のように有用な何かを生み出せれば良いのだがな」
モルの、モルなりの前向きな言葉。それを聞いてエリーはぐっと拳を握りしめる。
「傷……。ご安心ください! 人間は樹液は出せませんが、かさぶたなら作れますよ!」
自らを癒し治すための『かさぶた』それだって、有用な『何か』になるはず。
エリーのノリに脱力しながらモルは小さくため息をつく。ニタ、と笑ったあと、エリーは真顔になる。
「……私達を深く傷つけたオーガに見せてやりましょう」
声色が、真剣みを帯びていて、モルはエリーの顔を見つめた。
オーガによって故郷を失ったモル。
おなじく、オーガによって大切な親友を失ったエリー。
その瞳の色が、強くなった。
「傷を負ってなお、力強く生きる姿を」
決して屈したりはしない。その強い意志が、彼女の瞳に満ちていた。
モルは、静かに首を縦に振る。
――確かな、肯定の意を伝えるために。
●
神人瀬谷 瑞希と共にショッピングモールに訪れたフェルン・ミュラー。今日は、少し彼女の様子が違うということにすぐに気付いた。
瑞希はというと、少しそわそわしている。
(フェルンさん気が付くかしら……)
先日手に入れた香水『サンライトランデブー』。折角の精霊とのお出かけだから、使ってみたのは良いけれど、香水なんかつけると少し大人になった気分になってドキドキしてしまう。気付くかな、気付かないかななんて思っていると、彼が顔を近づけてきた。
「今日はオトナな気分なのかい?」
そんな笑顔を向けられてどきりとして肩をはねさせる瑞希。
「そ、そういう訳じゃないですけど……」
図星。どうして考えていることがわかってしまうんだろう。
だんだん小さくなる語尾は、『その通りです』と言っているのと同じだった。
「とても素敵な香りだね」
彼に褒められて、嬉しくて瑞希は笑顔を浮かべる。
「ホントですか?」
「うん、シトラスのさわやかな香りが活動的な印象を与えてくれるよ」
良く似合っている、と笑いかけられて、瑞希はぼんやりと思った。
(フェルンさん、私の事何でも解っているみたい……)
「いつもより足取りも軽いみたいだね?」
香りは気分を左右することもあるものね、とフェルンは笑った。
ふと思い立って、瑞希はフェルンに相談を持ちかける。
「香水ってどう選んだらいいのかよく判らなくて」
今回は、たまたま手元にシトラスの香水が有ったことと、元からスイーツが大好きな瑞希がシトラス系の香りも好きであったこともあってこの香水をつけてきたが、他に種類……となるとどうしたらいいのかよくわからない。
「ミズキはどんな香りが好き?」
どうやって選べばいいの? という彼女の問いかけに、彼は逆にそう聞き返した。
「自然がイメージ出来る香りとか好きですよ」
「自然、か」
「落ち着く気がするんです。森の中にいる爽やかな感じとか、水が近くに在る時の香りとか」
そこまで話して、瑞希はあっと小さく声を上げ苦笑した。
「でもこれ、香水選ぶ参考にならないですよね」
そんな彼女に、フェルンは小さく首を横に振る。
「色々な物を試してみるのが良いと思う。気に入る香りに出会えるよ」
「色々……でも、似合うかしら」
だから、たくさん試すんだ。とフェルンは笑った。
「きっと、幾つも見つかるよ。知的な印象の物も良いし、可愛い印象の香りも絶対合うよ」
自分にはそんなに可能性があるのかな、と瑞希は照れくさいやらワクワクするやらで不思議な気持ちになってくる。
「君の魅力を色々引き出してくれる」
最後にそんな風に付け加えられたら、顔が火照ってきてしまう。
「今の香水も凄く良いね」
でも、他にも欲しいのかな。そんな風に思ったフェルンは『今度何か買ってあげようか』その言葉を飲み込んで、後日の楽しみにとっておくことにした。
「それじゃあ、今日は少し香水も見て回ってみようか?」
興味があるんだよね? というフェルンに瑞希は小さく頷く。
「あ、あの」
「ん?」
「フェルンさんの香り……好きです。凄く惹かれます」
蚊の鳴くような声で告げられた言葉に、フェルンは目を細める。
無意識で言っているのなら、なかなかにたちが悪い。
――そんな彼女に似合う香水、見つかるかな、なんて。
●
アンダンテは前方で香りを嗅ぎ合ってキャッキャしているカップルを見つめぼそりと呟いた。
「ああいうのが乙女の憧れってやつなのよね」
「そうなんですか」
こともなげな相槌を打つのは、精霊サフィール。
興味深げにしげしげと見つめる彼女を嗜めた。
「こっちが恥ずかしいのでやめてください」
カップルを見つめるのをやめたかと思うと、次はサフィールににじり寄るアンダンテ。
「サフィールさんはどんな……」
「やめてください」
無遠慮に距離を詰めてくるアンダンテを手で制してサフィールは顔をそむける。
「あっ、逃げなくてもいいじゃない」
それでもぐいぐいと近くに来ようとするアンダンテ。二人の攻防が続く。
「嗅ぐだけよ、嗅ぐだけ」
回り込むようにするアンダンテ、サッと躱すサフィール。
「いいじゃない減るわけでもないのだし」
むぅと唇を尖らせるアンダンテにぴしゃりと言い放った。
「だけでもないし精神的に減ります」
「だめ?」
「だめです」
「そう、残念」
ふふ、とじゃれるように笑った後、アンダンテは静かに付け足した。
「でも覚えているから大丈夫よ。だってもう長いこと一緒にいるじゃない。いつの間にか覚えちゃったわ」
え、と目を丸くするサフィールに笑いかける。
「サフィールさんは海の香りがするの」
うみ、と聞き返すように唇を動かすサフィールにアンダンテは一つ頷く。
「シャンプーかしらと思ってたのだけど、同じ香りの人に会った事はないのよね。不思議よね、私はこの香り好きだわ」
近寄って嗅ごうとすると避けられてしまうので今は嗅ぐことは出来ないが、鮮明に思い出せる。アンダンテは軽く瞳を閉じて笑った。
なんだか気恥ずかしくて、サフィールは話題を逸らそうとアンダンテの香りについて口にする。
「アンダンテは石鹸の香り、でしょうか。あまり匂いらしい匂いはないような」
「そう?」
くん、と自分の服の袖をつまんで嗅いでみるアンダンテ。なかなか自分の匂いはよくわからないが、嫌な臭いとは言われなかった。よかった。
「見た目的には甘い香りがしてそうなイメージですが……」
「どういう意味かしら」
ふふ、と笑ったアンダンテから、また石鹸の香りがふわりと漂った。そういえば、甘い香りの香水なんかは身に付けないのだろうか。サフィールがちらと思うが早いか、アンダンテが切り出す。
「甘い香りはあまり好きじゃないの。だって、何だかお腹がすいてこない?」
「え?」
「香りだけで食べられないなんて寂しいじゃない」
ふふふ、と笑ったアンダンテの言い分はなんだか子供っぽくて。けれど、それがとても彼女らしくて。少し呆れる感情もあったがそれよりもおかしくなって苦笑が漏れた。
ふと、あることに気付く。
「匂いを覚えているのなら、なぜさっき寄ってこようとしたんですか?」
「……なんでかしら?」
この人と来たら。
自分でしたことなのに理由がないと言うのか。
サフィールは一瞬くらっとしてしまう。
けれど、先程までの無邪気な笑顔から一転、急にからかうような大人っぽい微笑を浮かべて彼女はこう言った。
「そうね……、近づきたかっただけかもしれないわ」
「……っ?」
少し驚いたサフィールの目を見て、アンダンテは妖艶な笑みを深める。
「こういう口実作りも、素敵じゃない?」
――ああ、読めない。
サフィールは、もどかしいやら悔しいやら。
相変わらず本質がわからない彼女のほのかな石鹸の香りが、彼女の髪が揺れるたびにふわり、と香った――。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月05日 |
出発日 | 02月10日 00:00 |
予定納品日 | 02月20日 |
参加者
会議室
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2016/02/09-23:55
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2016/02/09-23:55
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2016/02/09-00:41
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのフェルンさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
木の香りが好きです。落ち着ける気がします。
皆さまが素敵な時間を過ごせますように。
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2016/02/08-22:03
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2016/02/08-17:51
エリー・アッシェンと、精霊のモルさんで参加です!
どうぞよろしくお願いします。
モルさんは薬品の調合とか好きなようです。……といっても、民間療法レベルの素朴なものですが。
調合に使った素材によって、モルさんの匂いは良い香りの時と煙っぽい時があります。 -
2016/02/08-15:34
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2016/02/08-15:34
八神伊万里です。パートナーはそーちゃん…蒼龍さんです。
よろしくお願いします。
好きな香りは…シトラス系でしょうか。
さっぱりして頭がよく働くような気がします。 -
2016/02/08-01:38
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2016/02/08-01:38
桜倉歌菜と申します。
パートナーは羽純くんです。
皆様、宜しくお願いいたします!
好きな香り…やっぱり、お花の香りが好きです。
ふわっと優しく薫るとリラックスできます♪
よい一時になりますように!