プロローグ
「あ」
急に声をあげた神人に、精霊は振り返る。
「ん? どうした?」
「ふふ、今ね、良い匂いがしたなーと思って」
彼の言う良い匂いが解らず、精霊は首を傾げた。
「良い匂い?」
頷く神人。君からはとても良い匂いがするんだよ、と笑うと、精霊は
わからないと言ったように肩を竦める。
「べつに……いつも通りだぞ?」
「その、『いつも通り』がいいんだよ」
*****
がたん! とA.R.O.A.職員は立ち上がる。
「良いよね!」
「わかるー!」
「そういうの良いよね!」
そういうのって何。
「パートナーしか気づいてない、その人の香りっていうの」
「それな」
「香水でもいいし、お洗濯の匂いとかお料理の匂いでもたまりませんな」
「おい、シャンプーの匂いを忘れるなよ」
「失敬」
女子の会話は留まるところを知らない。なんでこんな会話になったのかというと、
この中の一人の知り合いのウィンクルムが冒頭のような話をしてきたのだという。
――俺って、良い匂いするのかねー?
「するよ!」
「私にはわからんけど!」
「パートナーさんには確実にしてるんだよ!」
だんだんとデスクを叩きながらヒートアップする女子たち。怖い。
「みんなの良い匂い話聞きたいですな」
「そうですな」
そんな呟きが、とある日の午後にあったとか、なかったとか。
解説
●交通費や相手とのデート代、手土産代などなどで300Jr消費致します。
神人、精霊、どちらでも、また、お互いにでも結構です。
相手から漂う香りについてのお話をしてください。
例えば、デートの待ち合わせで相手がやってきたときに「あれ? 香水付けた?」
とか、
おうちデートでちょっと寄り添った時に
「シャンプー変えた?」
とか、お料理を作って待っててくれた相手が出迎えてくれたときに
ふわっと手料理の香りがして「ああ、良いな」とか、
そんな感じです。
あんまりにも激臭なもの(しゅーるすとれみんぐとか)が登場しなければ
大体大丈夫です。
当然ですが職員は本編に登場しないのでご安心ください。
いつも通り、公序良俗に反さない内容でお願いしますね。
ゲームマスターより
この人の匂い、とかありますよね
ん? 待って!まって!別に匂いフェチとかそんなんじゃ! ある!(ででーん)
薫企画です。お願いだからそんな目で見ないでください。
でも、ふとした時に香る大好きな人の匂いって良いよね、ってそういうあれですよ。
あれ。
どうぞよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
部屋に入るとしっとりした空気 お花のいい香りがして、匂いの元を辿る 有り難う。折角だから貸して貰おうかな 生姜と蜂蜜の香りが漂う紅茶にようやく思い当たる …献身的な看病のお蔭で、もう風邪は治ったよ? (…用意周到な対策は嬉しいけれど 見回した部屋の中は、いつもと違う匂いで なんだか落ち着かず上掛けに鼻先をうずめる 微かに残る凛とした精油の薫り…ラセルタさんの匂いだ そのまま、目が合った ?!待って、違うから!(慌てて引き留め ええと…ラセルタさんの香水が良い匂いだなぁと 最近ふとした時に香りを思い出して …安心する位には、好きな匂いみたいで 意地の悪い答えが返ってくるのは分かっている でも、目が逸らせない …どうして、って? |
信城いつき(レーゲン)
前提:追加精霊(ミカ)にもらった香水のサンプルのうち一つ(「清爽」)を耳の後ろにつけてる 二人でのんびりお出かけ。せっかくだから香水つけてみたけど やっぱり似合わないかも……気づかれないうちにぬぐっちゃおう(ごしごし) えっ、な、何でもないよ。 待って!虫刺されでもないし、熱がでたんでもないって。 香り…分かる? ミカからもらったんだ……付け方は教えるから、香りは自分で選べって 付け方?まぁ、その……こういう時に香るくらいでって(レーゲンの肩にそっと頭を寄せる) でもやっぱり俺には背伸びしすぎて笑われるかもって思って、それでぬぐおうとしたんだ 変じゃない?よかったぁ……あの、ところでそろそろ下ろして。 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
バンドの練習から、フィンと同居している自宅へ帰宅 出迎えてくれたフィンから、ふわっと良い香り レモンの香り?好きな香りだ(柑橘系が好き レモンを使う料理でもしてたのか?と尋ねると、可愛らしい布の袋を渡された ポプリ? 凄くいい香りで落ち着く フィンが故郷で作っていたもの…思い出のポプリなんだな …フィンがさ、故郷の思い出をこういう形で俺に見せてくれて、嬉しい なあ、俺もやってみたい (フィンが俺に作ってくれたみたいに、俺もフィンの為に作りたいなと) うぐ…わかった 先に学校の課題を終わらせるから、終わったら教えてくれ 部屋に戻ったら急いで課題を仕上げよう …合間にちょっとポプリの事を調べる フィンに合う甘く爽やかな香りを |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
(今まで体臭なんて、気にした事なかったが) 洗濯機を回す間、自分の汗ばんだシャツの襟を掴み、ふと鼻を近づける。 「お婆様と同じ匂いだ……」 それはまるで、ラベンダーとグレープフルーツの香水にチーズを混ぜた感じの。 今までこんな体臭を放っていたかと思うと動揺する。 その時、背後からシャツを捲られるのを感じた。 熱心に嗅ぐ珊瑚が呟いた言葉におれは聞き返す。 「……おれ達」 珊瑚の話を聞いて一瞬、自分と出会ったのは偶然じゃない。 そんな気がした。 「どこかで繋がっているのかもしれないな」 目を細めて、遠くの景色を見て、そう呟く。 「……全く」 溜め息とは裏腹に、珊瑚を見つめ返し、訴えを受け入れる。 「が、今日1日だけだからな」 |
フラル(サウセ)
夕飯も終わり、一段落した。 ちょうど風呂もできあがったようなので、サウセに先に入ってもらう。 最近は、家で2人きりのときは仮面を外して素顔を見せてくれるので、その穏やかで優しい素顔には慣れてきた。 ソファに座って本を読んでいたら、サウセが出てきた。 フラルが隣に座った時、ふと、初めての香りに気付く。 ああ、昼に買ったシャンプーか。 シャンプーは別々に買っているので、サウセのシャンプーの香りに興味深々。 いい香りだなと思い、ついサウセの髪に顔を近づけてしまう。 顔を赤らめて距離を取るサウセに驚く。 あまり人慣れしてないやつなのに、近づきすぎてしまったか…。 自室に入っていった彼の姿を見て、「まずったな…」と思う。 |
●
フィン・ブラーシュは自宅にてルポライターの仕事にひと段落つけ、小さく息を吐いた。
(あ……)
ふと思い立ち、立ち上がる。密閉して熟成させていた手作りのポプリ。冷暗所に置いておいた小瓶をそっと取り出して、出来具合を確認する。
(うん、大丈夫そう)
そっと小瓶を開ける。ふわりと香りがあたりに充満した。
――昔、母さんがよく作っていたポプリ。その手伝いをするのが、大好きだった。
香りと共に、その頃の思い出が溢れてくる。
(作ったポプリを父さんと兄さんに手渡せば……厳しかった父さんの表情が僅かに緩んで、兄さんは頭を撫でてくれて……それが嬉しかったっけ)
あのころは、家督争いとかそんなこと何もなくて。ただ、暖かくて、優しくて。懐かしく切ない思いが胸を占める。
瓶に詰まった乾燥させた花や葉っぱは、あのころを鮮明に思い出させる。けれど、今は1人で作れる。――好みのエッセンシャルオイル、保留剤を入れて密閉し、熟成させたそれは、爽やかなレモンと、オレンジの香り。
優しく取り出して、可愛らしい布袋に詰めたら完成だ。
自由にイメージしたとおりの香りを作れるようになったフィンが作ったのは。
(オレンジの方を海十にあげよう)
ふふ、と小さく笑う。
――もちろん、この香りは愛しい恋人をイメージして作った物。
「ただいま」
バンドの練習から帰ってきた蒼崎海十の声がした。
「おかえり」
ことん、と小瓶をテーブルに置いて海十を出迎える。
(あれ……?)
すん、と鼻を鳴らす海十。
(フィン、良い香りがする)
「ん? どうしたの?」
(レモンの香り? 好きな香りだ……)
柑橘系の香りが好きな海十にとっては、とても心地いい香り。
「レモンを使う料理でもしてたのか?」
海十がことりと首を傾げると、フィンは柔らかく微笑んだ。
「はい、これ」
手渡されたのは、オレンジ色の小さな布の袋。
「ポプリ?」
「うん、故郷で母さんとよく作ってたんだ」
愛らしいオレンジ色に顔を寄せる海十。
「凄くいい香りで落ち着く」
「気に入ってくれた? 良かった」
(フィンが故郷で作っていたもの……思い出のポプリなんだな)
フィンの心のかけらを貰ったみたいで、海十は胸がいっぱいになる。
「……フィンがさ、故郷の思い出をこういう形で俺に見せてくれて、嬉しい」
思ったことが、するりと素直に唇から零れた。なんて可愛らしい事を言うんだろう。
フィンは胸がほうっと暖かくなる。
「うん、俺も受け取ってもらえて嬉しいよ」
がば、と顔をあげて海十は切り出す。
「なあ、俺もやってみたい」
「え?」
(フィンが俺に作ってくれたみたいに、俺もフィンの為に作りたい)
想いが溢れ出していく。
ぽん、とフィンが海十の両肩を叩いた。
「教えてあげるけど……まず学校の宿題と予習をしないとね?」
「うぐ」
そう、彼は学生。学生の本分たる勉学を怠ることは、フィンが許さない……。
「……わかった。先に学校の課題を終わらせるから、終わったら教えてくれ」
もちろん、とフィンは頷く。
「美味しい夕飯を用意して待ってるよ。夕飯を食べたら、一緒に作ろう」
こくん、と海十は頷き、自室でテキストやら何やらを広げる。
急いで課題を仕上げないと。……その合間に、海十はこっそりと調べ始めた。
(ポプリの……つくりかた、っと)
――フィンに合う甘く爽やかな香りを。
●
フラルとサウセは夕食を終えて、後片付けも済んで食後のゆったりとした時間を過ごしていた。フラルの傍らには、仮面を外したサウセ。こうして二人きりで家にいるときは、仮面を外して素顔を見せてくれるようになった。
過去に、ヘテロクロミアと周囲に不吉がられていたサウセのその青と緑の瞳は、とても穏やかで優しい。この素顔が当たり前になってゆく事に、確かな幸福を感じていることは、言うまでもない。
自分だけが独占できるサウセの素顔。愛おしい時間。
「あ、そろそろお風呂沸いたかな」
浴室に湯を止めに行って、温度を確認するフラル。
「サウセ、良い湯加減だ。先に入って」
小さく頷くサウセ。
「はい、お言葉に甘えてお先に」
タオルを持って、脱衣所へ。昼間に買い出しに行ったときに、新しいシャンプーを買ったんだった。今日はそれを使うことにしよう。サウセは真新しいシャンプーのボトルを持って、浴室へと入った。
……なかなかいい香りだ。泡立ちも良いし、髪も軋まないし。上機嫌で髪を洗って、十分に温まってから風呂を出てパジャマに着替える。
仮面は、もちろん外した状態で、フラルを待たせてはいけないとリビングへ戻った。
フラルは、リビングのソファで本を読んでいる。こちらの気配に気づき、一度だけ顔をあげた。
「お待たせしました」
すとん、とフラルの横に腰かけると、フラルは何かに気付いたようにもう一度顔をあげる。
(――いい香りがする)
「ああ、昼に買ったシャンプーか」
「?」
「いい香りだな」
フラルは、引き寄せられるようにサウセの頭に顔を近づける。ふわ、と優しい香りが鼻腔を擽った。
シャンプーは別々に買っている二人、フラルはサウセのシャンプーの香りに興味深々で、その髪に鼻先をうずめる。
「ち、近いです……!!」
顔をかぁっと赤らめ、サウセはバッと飛び退いた。急に大きく飛び退いたものだからフラルは驚いて目を丸くする。
「……っ」
心臓がどきどきして、顔が熱くて、でもその理由がわからなくてサウセは瞳にうっすらと涙をためる。――恥ずかしい。その様子をみて、フラルは瞬時に理解した。
――まずい。
どうしていいかわからなくて、ついにサウセは立ち上がり、自室に走って行ってしまった。
「っ、すみません」
引き止めることもできず、フラルはその後ろ姿を見つめる。
(あまり人慣れしてないやつなのに、近づきすぎてしまったか……)
そっとサウセの部屋の前に行き、反省。
(……まずったな)
あたりには、サウセの新しいシャンプーと、サウセの香りが残っている。
その頃、ドア越しにサウセはというと、今だ収まらない胸の鼓動の高鳴りにギュッと胸を抑えて深い深いため息をついていたのであった……。
(どうして、こんなに……)
この気持ちの理由が、わからない。どうして、こんなに動揺してしまうのか。
……いつか、わかるときが来るのだろうか。
●
「病み上がりの身体に人混みは毒だろう?」
羽瀬川 千代は、ラセルタ=ブラドッツのこんな一言から、買い物帰りに彼の部屋に寄ることになった。
招かれて彼の部屋に入ると、しっとりとした空気。ラセルタがあらかじめ加湿器を設置してくれていたのだ。こうして千代が来ることを見越して。千代を誘えば断らないだろうと思って、彼がいつ来ても良いようにと。
(お花のいい香りがする……)
これも加湿器から香っているのかな。千代はすん、と鼻を鳴らした。
「体を冷やさないよう、これを使うといい」
千代がソファに腰かけるのを確認すると、ラセルタは厚めの上掛けをぽふん、と千代に宛がう。
「有り難う。折角だから貸して貰おうかな」
うん、と満足そうにうなずくと、ラセルタは座らずにサッとキッチンへ立ってしまった。
「ラセルタさん?」
少しだけ心細くなって名前を呼ぶ。すると、あまり間を開けずにキッチンから良い匂いが漂ってきた。
(これは……)
「体が温まるように。飲めるか?」
そっと差し出されたのは、紅茶。こくんと頷いて唇を寄せる。――生姜とはちみつが入っている。そこで、ようやく思い当たった。
「……献身的な看病のお蔭で、もう風邪は治ったよ?」
顔をあげ、くす、と笑う千代にラセルタもふと笑みを深める。
「千代には俺様の手厚過ぎる看病が丁度良いだろう」
ふわ、と熱もないのに千代の頬が薔薇色に染まった。
「先日のリベンジだ」
ラセルタは林檎を手に、『待っていろ』と一言残し席を立った。
なんだかその様子が可愛らしくて、嬉しくて千代は頬が緩んでしまう。
リビングに残され、千代は何となく部屋を見回す。……用意周到な対策は嬉しいけれど、部屋の中はいつもと違う匂い。
なんだか落ち着かず、上掛けにぽふんと鼻先をうずめた。
(あ……)
微かに残る凛とした精油の薫り……
(……ラセルタさんの匂いだ)
その光景を、扉の影から見ていたラセルタ。何となく悪戯心が芽生えそうになるのを、ぐっとこらえる。
すり、と頬を寄せ、千代はかすかに香るラセルタの香りを肺一杯に吸い込んだ。
ふと顔を上げる。と。
「あ」
「……」
目が合ってしまった。
「……臭うなら洗い立てと交換してやるぞ」
ラセルタは上掛けをそっと取ろうとする。
「?! 待って、違うから!」
ぎゅぅ、と上掛けの端を掴んで千代が制止した。
小さく首を傾げるラセルタに、千代はか細い声で答える。
「ええと……ラセルタさんの香水が良い匂いだなぁと……最近ふとした時に香りを思い出して……安心する位には、好きな匂いみたいで」
ぽつりぽつりとその声で語られる言葉に、でまかせではないと確信しラセルタは口元を隠さずにニヤリと笑う。
(ああ、きっと……)
意地の悪い答えが返ってくるんだろう。千代は直感した。けれど、目が逸らせない。
「どうして安心するのだろうな?」
ギシ、とソファが軋んだ。千代をそこに縫い付けるようにラセルタは身をかがめ、顔を近づける。
「……っ」
(こんな風に傍に居れば勿論、匂いは直ぐ分かるが体温の上昇で香りは強くなる)
ラセルタは千代の耳元で再度、『どうしてだろうな?』と囁いた。千代の香りが、強くなる。
「……どうして、って?」
頬を赤く染めてしどろもどろになりながら千代はぽそりと呟く。それに、喉の奥で笑ったラセルタがようやく答えてくれた。
「俺様が抱き締めた記憶と結びついているんだろう」
そう告白したも同然だ。聞こえるか聞こえないかの言葉のあと、ギュッと抱きしめられる。
「……!」
肯定も否定もできず、ただラセルタに抱きしめられたまま彼の服を恥ずかしげにキュッと握りしめる千代に、ラセルタはふっと笑った。
(……揶揄いすぎたか?)
とても、満足そうに。
●
洗濯機のスイッチを、オンにする。洗濯かごの洗い物をぽいぽいと無造作に掴んで洗濯機に放り込み、洗剤を入れて、柔軟剤をセットし、ふたを閉めた。ざぁっと水が流れ込んでくる音がする。
(今まで体臭なんて、気にした事なかったが)
瑪瑙 瑠璃は、ふと自分の汗ばんだシャツの襟を掴んで鼻を近づける。
「お婆様と同じ匂いだ……」
ラベンダーの精油とグレープフルーツに、汗のにおいが混ざったような、形容しがたい懐かしい匂い。
今までこんな体臭を放っていたかと思うと、なんだか動揺してしまう。
「加齢臭か?」
バッと背後からシャツを捲られた。慌てる瑠璃。
「っ、おい」
瑪瑙 珊瑚がくんくんとインナーごとTシャツのにおいを嗅いでいる。
「誰が加齢臭だ……っ」
離れろ、と瑠璃は珊瑚の頭を引きはがそうとする。それでも食い下がって珊瑚はなかなか離れてくれない。
「おいっ……」
「……この匂い、嗅いだ事ある」
「え?」
ぽつりと呟いてインナーに鼻先をうずめてきた珊瑚に、瑠璃は聞き返した。本当に?
「やさやさ」
がばりと顔をあげた珊瑚が思い出しながら話しはじめる。
「オレ、子供の頃な、たーりーの部屋で、自分のあやーじゃねぇいなぐぬ写真を見たんだ」
父親の部屋から出てきた、自分の母親じゃない女性の写真。そこから、今嗅いだにおいと似た匂いがしたのだという。
「どんな関係だったか知らねぇけどさ」
瑠璃は、わずかに目を見開く。
「……おれ達」
珊瑚の話を聞いて一瞬、自分と出会ったのは偶然じゃない。そんな気がしたのだ。
「どこかで繋がっているのかもしれないな」
目を細めて、窓から遠くの景色を見て呟く。珊瑚も、小さく頷いた。
何かしら自分たちには運命的なものがあるのではないか。そう思わずにはいられないことが、過去にも何度かあった気がする。
おまけに、今回は香りときたものだ。香りの記憶と言うのは他の五感に比べ、潜伏しているくせに強烈だという。
――何か、あるのではないか。
さて、まだ洗濯機に洗い物を放り込むのは間に合いそうだ。瑠璃は着ているシャツをぐいとまくり上げようとした。それを、珊瑚の手が制止し、もう一度鼻先を近づけてくる。
「なんだよ……」
シャツを戻して、瑠璃は首を傾げた。
「瑠璃が何を思ってるかわからねぇけど」
ひょい、と顔をあげて、珊瑚は瑠璃の前髪をそっとかきあげた。
「!!」
そして、そこに鼻先を近づける。
「オレには……思い出の匂いだしさぁ」
何が言いたいんだよ、と訴える瑠璃の目に、珊瑚は上目づかいで返した。
「消さないで欲しい……な?」
まるで、犬のようだ。こつんと額を合わされてそんな風に懇願されるとなんとなく断れない。
「……全く」
大きなため息。やっぱりだめか? 珊瑚の読みとは裏腹に、瑠璃は珊瑚の瞳を見つめ返して小さな声で答えた。
「が、今日1日だけだからな」
「へへ、やった」
二人だけが知っている、ふしぎな香り。――どうしてなのか、いずれわかる日はくるのだろうか。
●
信城いつきと精霊レーゲンは、のんびりしたいね、ということで二人でおでかけすることにした。が、先刻からいつきは何やらそわそわしている。
(せっかくだから香水つけてみたけどやっぱり似合わないかも)
精霊ミカから貰った香水のうちのひとつ『清爽』を試しに耳の後ろに付けてみたのだが、どうにも落ち着かない。
(……気づかれないうちにぬぐっちゃおう)
ごしごし、と耳の後ろをこするいつきに、レーゲンが気付かないわけがなかった。
「……?」
首を傾げ、レーゲンが問いかける。
「どうしたの?」
「えっ、な、何でもないよ」
恥ずかしくて、言えない。首を横に振り、何でもないと繰り返すいつきにレーゲンは眉を顰める。
「顔も赤いし……まさか虫に刺されて熱が出た、とか?」
赤く染まった頬、首のあたりをごしごしやっているという事はかゆかったのかな、と推測する。何か悪い虫に刺されてしまったのではないかという想像がレーゲンの頭にひろがっていった。
「ううん、ちが……」
慌てて否定しようとするも、レーゲンが首筋に顔を近づけてくるものだから。
「大丈夫かい?」
「~~!!」
余計に顔が熱をはらんでいく。
(大変だ……更に顔が赤くなってる……!)
レーゲンは、慌ててひょいといつきを抱え上げる。
「少し休もう」
「待って! 虫刺されでもないし、熱がでたんでもないって」
暴れると危ないのはよくわかっているので、顔を真っ赤にしながらもいつきは一生懸命に状況をレーゲンに伝えようとする。かくなるうえは白状するしかない……!
「え……?」
(あれ? かすかにだけど何かの香りがする……いつきから?)
抱き上げたことによって上がったいつきの体温、そして近くなった二人の距離。やっとレーゲンは気付いた。
「香り……分かる?」
「うん」
こくり、と頷くレーゲン。
「ミカからもらったんだ……付け方は教えるから、香りは自分で選べって」
「えーと、付け方っていうと?」
いつきは恥ずかしそうにレーゲンの肩にそっと頭を寄せる。
「まぁ、その……こういう時に香るくらいでって」
ドキッとしたのは否めないけれど、レーゲンは苦笑する。
「……彼らしい教え方だな」
いつきはすこししゅんとして不安げに呟く。
「でもやっぱり俺には背伸びしすぎて笑われるかもって思って、それでぬぐおうとしたんだ」
顔をあげると、レーゲンが優しく微笑んでくれる。そして、小さく首を横に振ってくれた。
「香りはいつきが自分で選んだんだよね」
「うん」
「いつきに似合った香りだと思うよ。これが新しいいつきの香りなんだね」
「変じゃない?」
「もちろん」
柑橘系の香りにレモングラスの爽やかなスパイスが効いて、そしてその奥にほのかな甘さがある。それにいつきの持っている元々の体臭が馴染んで、いつきにぴったりの香りになっている。
(かなり近づかないと香りも気がつかない)
レーゲンは、もう一度いつきの首筋に鼻を寄せる。
「この香りを知っているのは私だけだね」
小さく呟き、ひそかに優越感に浸るレーゲン。
「え?」
「ううん、良い香りだなと思って」
「よかったぁ」
心底安心したように息を吐くいつき。
「……あの、ところでそろそろ下ろして」
そういえばずっとこの体勢なんだけど。いつきは恥ずかしくなってレーゲンの袖をぎゅっと掴む。にっこりと笑みを深めたレーゲンがさらりと拒否した。
「もう少し待ってね」
「え」
「いい香りだから、もう少しだけ楽しんでもいい?」
そっといつきの耳元に顔を寄せて囁く。
もう少しだけ、独り占めさせて。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月01日 |
出発日 | 02月06日 00:00 |
予定納品日 | 02月16日 |
参加者
会議室
-
2016/02/05-23:57
-
2016/02/05-23:52
-
2016/02/05-23:22
-
2016/02/05-23:05
-
2016/02/04-20:07
オレはフラル。相棒はマキナのサウセだ。
よろしくな。
香りか…。
その人の香りだなってわかるような関係性ってなんだかいいな。
…。
なぜかサウセが赤面しているのだが、オレ、何かしたっけか…。 -
2016/02/04-00:56
-
2016/02/04-00:56
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願い致します。
香り…普段は余り気にしてないのですが、ふとした瞬間に意識したりしますね。
…自分で自分の香りって、あんまり分からない、かも。
よい一時になりますように! -
2016/02/04-00:43