【薫】香る、温もる(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ハーブティというものは、ご存知だろうか。
 乾燥させて、または摘みたてを。お湯で煎じて飲むものである。
 ストレスの緩和や軽い不調の軽減など、漢方のような用途で使われることもあるのは有名な話。
 それとは関係なく、ただ香りや味を楽しむことだってある。
 要するに、貴方次第なのだ。
 いま目の前にあるメニュー表から、どんなハーブを選ぶのかも、そのハーブにどんな期待をするのかも。
「飲みやすくて、香りが良い物を揃えているつもりですよ。どうぞ、お好きな物をお選びください」
 薬効的なものが知りたければ、聞いてくれればいい。
 こういう悩みに効くものはないかと尋ねるのもまた良し。
 ただ、どんな期待を持って選んだとしても、一つだけ約束して欲しい。
「せっかくなので、ハーブの香りを、ゆっくりと楽しんでくださいね」
 香りを先に比べてみることも出来る。味は飲んでみてのお楽しみとしていただこう。
 お茶請けにはクッキーが用意されている。ティー自体に甘味がほしいなら、コーディアルと呼ばれるシロップを足してもいい。
 好みの味を探して、お喋りでもしながら、のんびりと。
「のんびりと出来る時間って、貴重ですよ?」
 さぁ、どうぞごゆっくり。心ゆくまで、穏やかな時間をお過ごしくださいませ。

解説

●目的
ハーブティを楽しもう

●場所
全席半個室の喫茶店です
香りが混ざらないようレース系のカーテンで仕切りがしてありますが、近くの席の人の姿はぼんやり見えます

●ハーブティについて
今回は下記からお好きなハーブを選んで頂きます。一杯150jr(プレーンクッキー付き)
ブレンド不可。シングルのみです
オレンジブロッサム(甘く濃厚な柑橘系の香り)
ミント(スーッとした清涼感のある香り)
ローズヒップ(フルーティで甘い香り)
ジャスミン(優雅で甘い花の香り)

シロップは無料で提供いたします

●その他メニュー
ハーブを使ったお菓子が数点あります(別料金)
ゼリー(ハイビスカス):50jr
パウンドケーキ(ローズ&ラズベリー):100jr
レアチーズケーキ(レモンバーム&ミント):150jr

●プランについて
ご注文内容が分かるようになっていれば後はお好きにどうぞ
席の間はカーテンが仕切りになっているだけですので、会話は聞こえる場合があります

ゲームマスターより

寿GM主催、【薫】エピソードをお送りさせていただいております
優しく甘く、時にスパイシーなハーブの香りをご堪能くださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  オレンジブロッサムとパウンドケーキにする。
オレンジの皮系ハーブかと思ったら花の方だったとはビックリ。
お茶の香りをまずは楽しむ。やっは柑橘系っぽくてスッキリ。
ひとくち飲んで、味もスッキリ。オレ、これ気に入ったぜ。
効能はラキアに教えてもらう。
気持ちが落ち着くのか。スッキリと気分転換で落ち着くのかな?
でもこのお茶を家で作ると猫達が「やーん」って言うかもしれないな。柑橘系苦手な猫が多いからさ。
飲みたい時はまたこの店に来ようぜ。
ラキアも他のお茶試してみたいだろ?
ケーキはお茶を半杯位飲んでから食べよう。
オレンジの香りをしっかり確かめたいからさ。

パウンドケーキもウマい。
この店は当たりだ。今日は良い日だぜ!


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  ローズヒップ

薔薇は好きだし色も香りもいいから選んでみたら
飲んでみるとめちゃくちゃ酸っぱいな
紅茶は好きだけどそんなに詳しくねえんだよ
シロップ入れてもう一度…ちょっとまろやかになったな
今度は大丈夫だ

前の時って、前に紅茶飲んだ時か?
それもあるけど、お前の好きってどういう意味での好きかって聞いたよな
いや、今はどうなのかなって

図星つかれてむせる
そうだよ俺だってそういう意味の好きだよ(スプーンで紅茶ぐるぐる
好物とかとは全く違う次元だな、恋愛って…

やっぱり照れはそうそうなくなるもんじゃないが
それでも素直に言い合えるのはいいものかもしれない
なんか嬉しそうにしてるし
残りの紅茶を飲み干し
…これこんなに甘かったっけ


フレディ・フットマン(フロックス・フォスター)
  ミント

仲良くなるには、積極的に…
…お話、だよね

行動
こういうの、好きかなって…
僕も…仲良くなりたいから

僕、子供の頃…忌み子って、言われてて
神人は、オーガに狙われるって…皆知らなくて
気づいたら…地下牢に、独り
十年位前まで、ずっと…ご飯が出ない日もあった
皆に要らない子だって、言われてた
…オジさん、覚えてないだろうけど
一人にはしないって言ってくれて…嬉しかったよ(EP8
手を引いてくれて…ありがとう

え…?
もしかして、ママ先生って…
(ずっと、僕だけだと思ってた
孤独感…オジさんも、寂しかったんだね

僕を、待ってたの?
必要…(胸が熱い…なんだろう、この感じ?

…待たせちゃって、ごめんなさい
うん、美味しいね…ふふ


カイル・F・デュライド(ダシュク・ベルフェル)
  俺なんでもいいわ
じゃあ、スーっとしたのでお任せ!

食いもんあるの?んじゃ甘いやつ!
チーズケーキで!

ダシュクはこういうの好きだよなー
匂いで腹は膨れねぇっつぅの
……ふぅん
楽しそうなことですこと
嫌味じゃねーよ
いっつもそれくらいさわやかな顔してりゃ、モテモテなのになーぐへへ
怖っ

…どれどれ
ん、おお、これミントの香り?
へー!こんなにいい香りがするんだな
シロップ入れて飲むのか?ふーん
……ん!んまい!

ダシュクは何を飲んでるんだ?
……じゃすみん?ふーん
ちょっと嗅がせてみ?(乗り出し
おお、こっちもいい香りだな

…腹はふくれねーけど!
…あ、ごめんなさい、すいません怒らないで


咲祈(サフィニア)
  オレンジブロッサム/ゼリー

はーぶ? …ふむ……なるほど
…ここまで良い香りのする飲み物は初めてだ……(じーっ
そう? 僕だって香りの良さくらい分かる
サフィニアのは香り……なんというか、ガム…いや、なんでもない

そうなのかい?
…いや、遠慮しておく。僕はこっちで良い
…僕の弱点…?(首傾げ

だけどこっちのぜりー? は花が入ってるように見える
え、入ってるのかい? …ふむ……興味深いねこれ(無表情で頷く


●また一つ、君を知る
「はーぶ? …ふむ……なるほど」
 オレンジブロッサムにハイビスカスの真っ赤なゼリー。
 二つ並んだそれを交互に見比べて、咲祈は一つ頷いた。
「……ここまで良い香りのする飲み物は初めてだ……」
「咲祈はこういうの初めてなんだね」
 じーっとハーブティーを見つめている咲祈に、サフィニアはくすりと小さく笑う。
 だが、少し意外だ。
 『初めて』のことに興味を示しやすいとはいえ、色々と欠如している彼が『良い』と感じるのが、ほんの少しだけ。
 それをぽつりと口にすれば、きょとんとした目に見つめられる。
「そう? 僕だって香りの良さくらい分かる」
 そう言って、すん、と鼻を鳴らしてサフィニアの方のカップの香りを嗅ぐ。
「サフィニアのは香り……なんというか」
 巧く言い表せる語彙が足りない咲祈だが、この香りにピッタリと合うものが、脳内には浮かんでいる。
「ガム……いや、なんでもない」
「……ガムって……」
 なにそれ。とサフィニアは呆れた声で苦笑する。
 サフィニアのカップは清涼感のある香りを放つミントティー。
 ミント系のガムを口にした時に感じる、すーっとした感覚を思い出したのだろうが、それそのものに例えられるとは。
「咲祈の発想ってなぜかぶっとんでるよ……」
 分からなくもないが。とは、胸中だけで。
 自覚のない様子の咲祈に肩を竦め、しっとりとしたパウンドケーキにフォークを刺してから、サフィニアは思いついたように尋ねた。
「ガムって思う? 飲んでみる?」
 勧められるカップを、まじまじと見つめて。しかし咲祈は、怪訝な顔をして首を振った。
「……いや、遠慮しておく。僕はこっちで良い」
 そう言って、大人しく己のカップを口にする咲祈に、あはは、とサフィニアは笑う。
「咲祈の弱点がだんだん見えてきたよ」
「……僕の弱点……?」
 にこにこと笑っているサフィニアが何を言いたいのか分からなくて、咲祈はきょとんと首を傾げる。
 変なことを言う精霊だ。ふいとそっぽを向いて、それきり。
 そうして、今度はゼリーの方へと視線を落とす。
「こっちのぜりー? は花が入ってるように見える」
「いやいや実際入ってるんだよこれ。まぁ、花の部分はほんのちょっとで、ティーの塊みたいなものだけどね」
 サフィニアの説明に、え、と驚いた顔をする咲祈。
「入ってるのかい? ……ふむ……興味深いねこれ」
 花を食べるなんて不思議な感覚だ。
 世の中にはエディブルフラワーという食用の花があるのだが、そういった雑学はおろか常識的な記憶までごっそり抜けている咲祈は知る由もない。
 だからこそ興味津々でゼリーを見つめているのだ。
 そんな咲祈を、柔らかな表情で見つめるサフィニアの眼差しは、見守るそれで。
「害はないよ。大丈夫」
 食べてご覧よ。促しながらも己で証明するかのように、ローズとラズベリーの入ったパウンドケーキを口にする。
 ほんのり甘くて上品な味。
 今日はぜひ、この香りと味を覚えて帰ってもらおうか。

●甘いのは、にがてなもの
 メニューを一頻り眺め、ダシュク・ベルフェルは一つ頷き注文をする。
「……俺はジャスミンティーを。シロップは無しで」
 そこまでを言ってから、思い出したように店員を引き止める。
「……あ、いや、こいつにはシロップ付きのものを」
 こいつ、とは、なんでも良いからスーッとしたのでお任せ。と言い切ったカイル・F・デュライドのことである。
「あ、食いもんあるの? んじゃ甘いやつ! チーズケーキで!」
 ティーとは別の欄を見ていたカイルの明るい声に、かしこまりましたと礼をした店員が立ち去る。
 それを見送ってから、カイルはきょろきょろと周囲を見渡し、頬杖をつく。
「ダシュクはこういうの好きだよなー」
 対し、ダシュクは深々と溜息をつく。
「お前は、どこにいてもデリカシーのない男だな」
「匂いで腹は膨れねぇっつぅの」
「頼むからここにいる間は大人しくしてろよ」
 もう一度溜息を零してから、ついでと言わんばかりに付け加える。
「言っておくが、甘味は残しても食べられん」
 何が出てきても文句言わずに食べるんだぞ、と暗に告げるダシュクだが、その表情はどこか楽しそうに見えて。
 ふぅん、と。カイルは瞳を細める。
「楽しそうなことですこと」
 そうして吐き出された言葉には、ぴくり、ダシュクが怪訝な顔で反応するが、「嫌味じゃねーよ」と肩をすくめるカイル。
「いっつもそれくらいさわやかな顔してりゃ、モテモテなのになーぐへへ」
 デリカシーどころか品がない。
 そんな感情が駄々漏れの顔で、ダシュクはじとりとカイルを睨んだ。
「……ここを出たら覚えておけ」
「怖っ」
 凄みのある声に、ひょいと身を引いたところで、店員がメニューを運んできた。
 お待たせしましたの声と共に並べられるカップと皿を、カイルはどれどれと覗きこむ。
「ん、おお、これミントの香り? へー! こんなにいい香りがするんだな」
 清涼感のある香りはすーっと心地よく鼻を抜ける。
 香りにつられて爽やかな心地になる気がする。
「……ああ、いい香りだ。花の香りが香しい」
 対するダシュクのカップにはジャスミンティー。優雅な香りは落ち着いた店内の雰囲気にぴったりで、心穏やかにしてくれる。
 ……一番騒がしいのが傍らという現実は、この際見ないふりだ。黙らせればいいだけの話なのだから。
「お前も騒いでないで飲め。こういう本格的なものも、少しは経験しておいたほうがいい。……まぁ、わかる味覚や嗅覚を持っているわけがないが」
 嫌味はさらっと聞き流して、カイルは一緒に出されたシロップをティーに加え、くるくると混ぜた。
「シロップ入れて飲むのか? ふーん。……ん! んまい!」
 ハーブティー用のシロップは、ややクセのあるティーの味をまろやかにし、カイルの舌に合わせてくれる。
 チーズケーキも美味しそうだし、と笑みを浮かべたカイルは、ふと、目の前のダシュクのカップが気になって、小首を傾げる。
「ダシュクは何を飲んでるんだ?」
「ジャスミンだ」
「じゃずみん? ふーん……ちょっと嗅がせてみ?」
 ひょいと身を乗り出すのを、ダシュクは慌てて止めるが、時既に遅し。
「おお、こっちもいい香りだな」
 ふわりと漂う香りを楽しんで満足気な顔をしたカイルのミントの香りが、ジャスミンに混ざる。
 それはごくかすかではあるが、なにせミントは香りが強い。
 お前のせいで……と呆れきったダシュクに、止めの一言。
「腹はふくれねーけど!」
 デリカシーがこい。
 ことりと首を傾いで、ダシュクは穏やかに笑む。
 それを見て、カイルは察した。
「……あ、ごめんなさい、すいません怒らないで」
「後で覚えておけよ。俺の安穏の時間を奪ったこと、覚悟しておけ」
 どうやら、優雅で気持ちのいい午後……というやつには、残念ながらならないようだ。
 彼らの日常は、まだまだ、そんな距離感。

●二人だけの甘さ
 薔薇は好きだし、色も香りもいいから選んでみた。
 特別茶の類に詳しくはない俊・ブルックスがローズヒップを選んだ理由はいたって単純なもので。
 だからこそ、飲んでみたところで、予想外の酸っぱさに思わず顔をしかめた。
「大丈夫です? 口直しにケーキとか頼みます?」
 渋い顔をしている俊に、ネカット・グラキエスがジャスミンのカップを傾けながら問う。
 そんな彼に、俊はふるふると首を振って、シロップを足して、くるり。
 今度はそっと口にしては、ん、と一つ頷いた。
「ちょっとまろやかになったな。今度は大丈夫だ」
「んー残念です、あーんってしたかったのに」
 大丈夫という言葉は喜ばしいものなのだが、ささやかな下心が叶わなかったことに、くすくす、冗談めかしてネカットは笑う。
 優雅な香りを楽しんで、ほっと一息。
 そこで、ぼそっと零した。
「そういえば前の時は何の話しましたっけ」
「前の時って、前に紅茶飲んだ時か?」
 砂糖漬けの菫がふわりと浮いた、甘く心を酔わせる紅茶の話。
「そうそう、好きな物の話でした」
 微睡みのひと時を思い起こしながら、うん、とネカットは頷く。
 好きなモノはなんですか、なんて。酔いに口が滑らかになってくれるのを期待して尋ねたのだ。
 そうして紡ぎだされたのは、明確な答えと、曖昧な回答。
「……それもあるけど、お前の好きってどういう意味での好きかって聞いたよな」
 ぽそ、と。
 曖昧だった方を思い起こして付け加えるように呟く俊の言葉に、ネカットはカップを降ろして、少しだけ首を傾げる。
「いや、今はどうなのかなって」
「……私の好意の種類です?」
 ふむ、と。ネカットは思案する。以前は、よく分からないと告げた。返答に困る問いだったのだ。
 けど、今は。
「今はシュンと同じ気持ちですよ」
 もちろん恋愛の意味で、です。そう続けたネカットは、綻ぶように笑う。
「シュンだってそうでしょ?」
 唐突な問い返しに、まろやかになったはずの酸味が喉を突いて、思わずむせる俊。
 酸味のせいだけではなくて、図星を突かれたせいでもあるのだけれど。
 それをごまかすように、特に意味もなく、カップの中身をスプーンで掻き混ぜながら、俊は視線を彷徨わせる。
「そうだよ俺だってそういう意味の好きだよ」
 それは好意とは全く別次元の感情だ。些細な一言でこんなにも動揺してしまうくらいに強烈な、熱。
 その熱に当てられて頬を染める俊を、にこにことネカットは見つめている。
「ふふっ、今更ですよ? キスだってしたしちゃんと告白も聞きました。というわけで私達は絶賛付き合いたてホヤホヤの恋人同士です」
 恋人、という響きが照れを無くしてくれるかというとそうでもなくて、一層助長させているのだけれど。
 それでも、と俊は思う。
(素直に言い合えるのはいいものかもしれない)
 ネカットが、なんだかとても、嬉しそうだし。
「まあ前みたいにツッコミが来ないのはちょっと寂しいかもしれませんが」
 そんな冗談めいた呟きを聞きながら、俊は回し過ぎた紅茶をそろそろと口に運んで。
(……ん?)
 口にした紅茶が、やたらと甘く感じるのに気付く。
(……これこんなに甘かったっけ)
 シロップを足したわけでも、ないのに。
 甘さを感じているのがどこで、どんな理由で。なんて。
 今の俊にはまだわからないけれど。

●心穏やかな約束
 オレンジブロッサムと聞いて、セイリュー・グラシアが思い浮かべたのは果実の方。
 しかしこれは、花の方。果実よりも濃厚で甘い香りを放つティーだ。
 そっとカップを手にとって、セイリューはゆっくりと香りを楽しむ。
 やっぱり名前の通り柑橘系。甘さの中にスッキリとした物を感じて、ふ、と笑む。
 一口飲んでみれば、味もスッキリとしている。うん、と、セイリューは大きく頷いた。
「オレ、これ気に入ったぜ」
 笑みを湛えるセイリューを正面の席から見つめて、ラキア・ジェイドバインはにこりと微笑む。
 ラキアの元にあるのはローズヒップのカップ。ほんのりと感じる程度の甘さと独特な酸味は、ラキアの好む味だった。
 セイリューはパウンドケーキを、ラキアはレアチーズケーキを傍らに、それぞれのティーを楽しむ二人。
 味を確かめてうんうんと満足気に頷いたセイリューは、そういえば、とラキアに尋ねた。
「ハーブって、色んな効能があるんだよな?」
 植物に詳しいラキアなら、きっと知っているだろうと言う期待をはらんだ問い。
 それに、ラキアは嬉しそうに頷き、説明する。
「ビタミンBとCが豊富なんだ。抵抗力が強くなるし、血行も良くしてくれて、心も体も健康になれるよ」
「へー、オレンジって花にもビタミンが入ってるんだな」
「そう。それに柑橘系の香りには、気持ちを落ち着かせる効果もあるんだよね」
 そう言われて、セイリューは改めて香りを嗅いでみる。仕組みはよく判らないが、なるほど、スッキリと気分転換できる感覚は、確かに落ち着ける気がする。
「このローズヒップもビタミン豊富で、『美容に効果アリ』って女性に人気なんだよね」
 抽出した後の実をヨーグルトに入れて食べたりも出来るんだよ、と、ふふっと笑うラキアに、なるほど、なるほどと繰り返し頷くセイリュー。
「色々なハーブティの香りと穏やかな味でゆったりとした気分になれるよね」
 香りを楽しむ空間は、空調はごく控えめ。レースのカーテンが幾つも垂れる席は、どこか隔離されたような心地で、喧騒的な物もふわりと掻き消えるよう。
 穏やかな心地に浸っているラキアを横目に、セイリューはハーブには本当に色んな効能があるのだなと感心する。
 その一方で、自宅の様子を思い起こして、苦笑した。
「このお茶を家で作ると猫達が「やーん」って言うかもしれないな。柑橘系苦手な猫が多いからさ」
 自宅でも栽培して気軽に淹れることが出来ればもっと色々と知ることが出来るかもしれないが、先客が優先だ。
 だから。
「飲みたい時はまたこの店に来ようぜ。ラキアも他のお茶試してみたいだろ?」
 そんな提案に、ラキアも快く頷いた。
「自作のハーブティもいいけど、他の人の作ったものを飲むと色々と勉強になるよ」
 次の機会はいつになるかな。楽しみを話しながら、思う存分ティーの香りを楽しんで。
 半分程飲んだところで、そろそろケーキも、と手を出す。
「パウンドケーキもウマい」
「このレアチーズケーキも美味しいよ。セイリュー、これも少し食べてみる?」
「いいのか? じゃあ交換だな!」
 互いのケーキを一口ずつ交換して、それぞれの風味を満足気に味わう。
 口に入れる度に幸せ度の増していくセイリューは、にこにこと嬉しそうに笑っていた。
「この店は当たりだ。今日は良い日だぜ!」
 あっという間に平らげてしまいそうなのを、努めてゆっくりと。
 それでも気がつけばなくなってしまったカップを名残惜しげに置いて、ほぅ、と息を吐くラキア。
 良い時間を過ごすことが出来た。そんな満足が、じんわりと胸中に広がる。
「他のメニューも気になるから、うん、また今度一緒に来よう」
 君とまたここへ。ささやかな約束は、二人で紡ぐ日常に、また一つ、色を付けるのであった。

●あなたにこそ、伝えたい
 フレディ・フットマンの手元には、爽やかに香るミントティー。
 かたりとティーカップの鳴る音に合わせて波紋を作るのを見つめて、フレディは小さく息を吐いた。
(仲良くなるには、積極的に……お話、だよね)
 パートナーであるフロックス・フォスターと、もっと仲良くなりたい。
 その単純な願いは、フレディにとっては敷居の高いもので。
 だけれど今日は、一つ、壁を超えてみようと、決めていたのだ。
「珍しいな、お前さんから誘うなんて」
 そんな風に話を切り出したのはフロックスの方。だが、その言葉通り、今日この場に誘ったのは、フレディの方である。
 こくり、一つ頷いて、ちらりと見やる。
「こういうの、好きかなって……僕も……仲良くなりたいから」
 ぽつりとした呟きは、先日A.R.O.A.本部にてこたつパーティに赴いた時の影響だろう。
 仲間達の和気藹々とした雰囲気をどこか羨ましそうに見ていたのを覚えている。
 どちらかと言えば消極的なフレディが自ら歩み寄ってくるのはいい傾向だとは思うのだが、と。フロックスは胸中でひとりごちる。
(……もう話してもいいかもな)
 二人の間に微妙に開いた心の距離。
 それを作る、要因について。
 フロックスがそんな思案を抱きながらオレンジブロッサムにシロップをたっぷり含ませ、パウンドケーキの味を程々に楽しんでのを横目に見て。
 切り出すフレディの声は、やはりポツリと、ささやかで。
「僕、子供の頃……忌み子って、言われてて」
 けれど、はっきりとした言葉の不穏な響きに、フロックスは訝るように眉を寄せる。
「忌み子?」
「神人は、オーガに狙われるって……皆知らなくて……気づいたら……地下牢に、独り」
 訥々と語るフレディの話に、フロックスの眉間の皺は深くなる一方だ。
(こいつ、生まれつきだっけ)
 生まれた子供の手の甲の紋章に、理解に乏しい大人たちは怯え、封じたのだ。
「十年位前まで、ずっと……ご飯が出ない日もあった」
 それ、よりも。
「皆に要らない子だって、言われてた」
 その言葉が、ただただ、心を抉った。
 それは話を聞くフロックスの心も同様に傷つける。
「要らないって、お前……」
 フレディの無知加減を、フロックスは薄々感じていたが、これで全てに合点がいく。
 絵本も炬燵も、地下牢にはありえない。
 日常的な物も、子供らしい物も、フレディにとっては全くの無縁だったのだ。
 掛ける言葉を見つけられず、眉を寄せるばかりのフロックスを、フレディは見上げ、見つめる。
 その目は、悲嘆よりも強く、それでいて穏やかな喜びを湛えていた。
「……オジさん、覚えてないだろうけど、一人にはしないって言ってくれて……嬉しかったよ」
 奇妙の名を持つお化け屋敷で。暗がりに過去を重ねて怯えていたフレディを、フロックスは救ってくれた。
 フロックスにとっては、ほんの、些細な事だったのかもしれないけれど。
 それは、フレディにとって初めて向けられた肯定だったのだ。
「手を引いてくれて……ありがとう」
 ふわり、穏やかに笑うフレディを、フロックスはまじまじと見つめる。
「……俺も独りだった」
 小さな声に、フレディの瞳が瞬く。
 ふ、と強張っていた表情を緩めて、フロックスは続けた。
「孤児なんだよ、気づいたら施設に居た」
 その言葉に、フレディははたと気づく。
「もしかして、ママ先生って……」
「ママ先生は施設の先生でな。俺みたいな悪ガキを辛抱強く相手してくれた」
 母親代わりの人がいて、似た境遇の仲間もいて。
 けれど、それは何かが違うもの。
 孤独感は、フロックスに付き纏って離れなかった。
「……オジさんも、寂しかったんだね」
 自分だけだと思っていた。けれど、違った。
 こんなに近くに、同じ思いを理解してくれる人が、いた。
「登録漏れで選定が遅れたが、遅れてよかった。……俺もきっと、フレディを待ってたんだろう」
「僕を、待ってたの?」
 確かめるような問いに、フロックスは大きく頷いた。
「最初は突き放せなかったと思ったが違うな。俺がお前さんを必要だと感じたんだな」
「必要……」
 反芻して、フレディは不意に熱を感じた胸を押さえる。
 この感じは、なんだろう?
 わからない。わからないけれど、幸せだということは、解ったから。
「……待たせちゃって、ごめんなさい」
「気にすんな、今は一緒に茶が飲めるだろ」
 肩を竦めてカップを示したフロックスに、フレディははにかむように笑う。
 あぁ、なんだ。
 儚いばかりのこの青年も、普通に笑えるんじゃないか――。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

名前:カイル・F・デュライド
呼び名:カイル、おい
  名前:ダシュク・ベルフェル
呼び名:ダシュク、相棒

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月03日
出発日 01月10日 00:00
予定納品日 01月20日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    カイルさんは初めまして、だな。
    他の皆さんは、今回もヨロシク!
    どのハーブティにするか大いに迷うぜ。

    ゆったりとした良い時間をすごせるといいな!

  • [4]俊・ブルックス

    2016/01/09-21:56 

    挨拶遅れたが、俊・ブルックスと相方のネカだ。
    紅茶は結構好きだから楽しみだな。
    それじゃ、よろしくな。

  • [3]咲祈

    2016/01/07-09:40 

    今のところ皆さん初めましてかな。
    咲祈とサフィニア。よろしくね。
     うちの神人がオレンジブロッサムで、俺はミントになるかな。

  • うっす。カイル・F・デュライドだ。
    俺は紅茶は別にどうでも…っと、そんなに睨むなよ。
    あー、相棒のダシュクが紅茶飲みたいらしくってな。

    あんまり騒がねぇよーにするわ。どーぞよろしく。

  • あ、の…初めまして、かな?
    フレディ・フットマン…です、オジさんと…来ました
    一杯、美味しそうなお茶…あります、ね

    僕はミントが、気になるかな…?
    オジさんは…甘いのが、いいよね
    皆さん…よろしく、お願いします


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