プロローグ
就航を目前に控えた豪華客船『アクサ』それはスクルージとキャロルの愛の結晶と言っても過言ではなかった。
新婚旅行に奮発して乗った豪華客船。あの時の幸せで楽しい気分を若い人たちにも味わってほしい。
そう考えた老夫婦が、ついに作り上げた船なのだから。
ところが、この船に黒き宿木の種が植え付けられてしまったのだという。
それが瘴気を放つ以上、救えるのはウィンクルムだけだ。
「さぁ、人助けを口実に全力で楽しもうじゃないか」
「身も蓋もない言い方をするものではないよ、エリック」
広々としたカジノスペース。その一角にて、一組のウィンクルムが佇んでいた。
彼らは興味津々で眺めるウィンクルムたちを、おいでおいでと手招いては、テーブルに置かれたトランプを指し示す。
「プロのディーラーが居ないからね、我々だけでも出来る遊びをしようと思って」
「ハイ&ローと言うカードゲームは知っているだろうか。次に引く札が、前の札の数よりも上か下かを予想する……で、大体あってるはずだ」
例えば今ここに7のカードが有る。次が8以上ならハイ。7以下ならローとなる。
「ドローはなしで、同じ数はローとして扱うよ」
トランプを切りながら告げた精霊が、とん、と山札をテーブルに置く。
それから、君たちを見やる。
「親は我々が勤めよう。その上で、君たち二人で勝負するのもいいし、我々と勝負するのもいい」
二人で勝負の場合、どちらかが外すまで続ける。
親と勝負する場合、8回以上当て続ければ勝ちとする。
「我々と勝負する場合、君たちが勝てばささやかだがクリスマスケーキセットを厨房に預けてあるのでね、それを二人で楽しんでもらえばいい」
では、負けた場合は?
尋ねる言葉に、待ってましたと言わんばかりに精霊が笑む。
「ここでキスをしてもらおう」
「は?」
突飛な条件に目が点になるのを見て、くすくす、精霊は楽しそうに笑う。
「なぁに、頬や手の甲で構わないよ。トランスに契約と、その辺なら経験済みだったりするだろうし、そこまで恥ずかしくもないだろう?」
「というか……流石に唇へのキスを見ようなんて野暮は言わないよ」
「してくれても構わんがね」
「エリック!」
笑う精霊を窘めて神人はこほんと一つ咳払いをしてから続けた。
「二人で勝負するに当っても、出来れば何か賭けをしてほしい」
夕食のおかずでもいいし、ジュース一本でもいい。
盛り上がれる、あるいは真剣になれる要素を付加してほしいと、神人は言う。
「言っただろう。これは、口実とはいえ人助けだと」
黒き宿木の種をすみやかに枯らすためにも、より楽しめるように設えてこそだと、彼は笑った。
解説
●ルール
二人で勝負するか親と勝負するかを選んでください
【二人で勝負】
プランにて色々指定していただいても構いません
運に任せて遊びたい方は下のダイスルールを参照してください
10面ダイスを2つ振ってください
基本的に神人が左、精霊が右のダイスで判定します
(発言時に宣言して逆にしてもらっても構いません)
数字の多い方が勝ちです
(例:神人→4、精霊→7のダイス=神人が4回当てて、精霊が7回当てた)
【親と勝負】
プランで勝敗は指定できません。ダイスで勝負してください
★短縮形
10面ダイスを一つ、または二つ振ってください
8・9・10のいずれかが出たら勝ちです
(【二人で勝負】と同じ判定手段です)
★ガチ型
【ハイ】か【ロー】かを宣言したうえで10面ダイスを一つ振ってください
1~5を【ロー】、6~10を【ハイ】として判定します
外すまで続けてください。8回以上当てれたら勝ちです
※連投になると思うので、予め【ガチ型】宣言の上でのダイスロールをしてください
●賭けについて
二人で勝負の場合は二人で完結する内容の賭けを指定してください(プラン内で)
親と勝負の場合は、勝てばケーキ、負ければキスです
キスの箇所はお任せしますが、その場ですることを考えて選んでいただけますと幸いです
●消費ジェール
乗船時に諸経費として400jr支払いました
ゲームマスターより
NPCウィンクルムはいつもの領主とその義兄ですが特に面識いりませんのでご安心を
お前らはキスしないのかとか思った方、奴ら貴族なのでキスとか日常茶飯事なのです…
ルールの仕様上、連投になるケースが有ると思いますが、
そういう仕様なので、遠慮なく遊んでいただけると嬉しいです
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
(二人とも元気そうでよかった。意外に遊び心がある人だったんだ) ゲームではやったことある。でもこういう場では初めてだ 赤面でムスッ (人前でキスなんてないからね…!) 何それ!?…わかったよ(動物好きだし…まあ)知らずわくわく真剣 確立で絞れるけど最後は運だよね ※虫の知らせはたまに感じる。ざわざわ ■二人で勝負。セラが10回、タイガ2回当て ■賭けが甘いなら動作+ 当たった…!勝ったんだ 覚悟を決める 夕食は僕の分のデザートもあげるし悪いようにはしないからさ(多分) タイガは虎だから『虎マネ』にする? ほらほら虎さん 笑)いいよそれで。虎も猫科だし似てるんじゃない? おいで(撫で (どっちが勝ったのかわからないけど、いいか |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
親と勝負 フィンと勝負はいつでも出来るし、折角だから こういう勝負は燃える 楽しみながらも、やるからには負けたくない ケーキ食べたいし(本音) フィン、ここは協力して勝ちに行くぞ! まずは『ハイ』 よし!(拳ぐっ) 次はフィンに任せた って…フィン、あっさり負け過ぎだろ うぐぐ…これは悔しい(負けず嫌い) とはいえ、負けは負けだ フィン、手貸せ…って、責任取る? いや、いい フィンに任せたらより恥ずかしい事になりそうだ 信用してないとかそういう訳じゃ… 俺は別に負けた事を怒ってる訳じゃ…力を合わせてゲームするの、楽しかったし 分かった…フィンに責任取って貰うから、そんな顔するな …って、お約束かよ!(背中にツッコミ) 恥ずかしい… |
李月(ゼノアス・グールン)
親と勝負 敬語使 豪華客船初体験ハイ気味 気合顔 ローです 負けて固る (こいつの負け嫌いは知ってたのに 慎重さ欠いたミスを反省ながらも 相棒が煩いのでやけくそ引き寄せ頬キス したものの物凄羞恥感 (くそトランスなら気にならなくなったのに 赤面で親に話し掛 こんなもので種が消えてくれるといいですけど キスされ 混乱 離れ様とする 引きずられてく (男にキス‥なんでこんなドキドキしてるんだ 負けたから怒ってるのか? (もしかして僕と話してたから嫉妬?子供か お前までする事なかったのに 抱付は日常茶飯事 でもこういうのなかった ‥驚いただけだよ 嫌じゃない事に気付く (どうなってんだ僕は 胸掴み この感情の正体に本気で向き合えと言われた気がした |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
【親と勝負】 二人ですると、負けた時が怖いので 負けなければいいんです【ロー】で なん…だと…(絶望 …僕がします 負けたのは僕ですし、自分からした方がまだ羞恥心が抑えられますから (とはいえ、トランスするわけでもないのにキスとか…しかも人前で 口とか絶対無理ですし…) どこにしてもいいんですよね? 精霊の髪を一房取ってキス キスに意味、ですか? 思慕…とりあえず変な意味じゃなくて良かったです (意味を知って照れはあるけれど、嫌な気分にはならなかった むしろ挨拶と同義に思われた方が…) 精霊の行動に吃驚)…これも挨拶ですか…? 先生はズルい そうやって肝心な所はすぐにはぐらかそうとする じっと手を見つめて)…あとで調べますから |
信城いつき(ミカ)
ガチ・負け あっけなく負けちゃったよ…やっぱり手の甲……ええっ? ミ、ミカ落ち着いて。俺にはレーゲンが…… え、ええと、何で、どうして?(混乱中) そんなに近くで話しかけなくたっていいって! 相手がミカだから突き放す訳にもいかないし、どうし- っ!(思わず目をつぶる) ………あれ?感触が違う。 ばかばかばかー!そうだった、初めて会ったときからミカってこんな人だった! 怒りと恥ずかしさが混じりみんなの顔が見れなくて、思わず立ち去りかけるけど一度Uターン。 「唇にされるのがイヤだっただけで、別に嫌いなわけじゃないから!」 証明としてミカの手にキス。これでいいよね!じゃあ失礼しました!(ダッシュで部屋から逃走) |
●掴めない、きもち
李月は親と勝負する事を選び、山札を真剣な目で見つめていた。
しかしその内心は、初めての豪華客船でハイ気味だった。
きりりとした気合顔で決めるが、完全に直感に任せた思考展開をしていた。
「ローです」
鋭く告げた宣言。しかし、開かれた札は、ハイもハイ。絵札だった。
ひくり、表情を引くつかせて固まる李月。
同様にひくりと引きつった顔をしたのは、精霊のゼノアス・グールン。
「テメーなに初っぱなから負けんだよ、ありえねーだろ!?」
あまりにもたやすく負けてしまった李月に掴みかかって捲し立てるゼノアス。
(こいつの負け嫌いは知ってたのに……)
テンションが上がっていたせいで慎重さを欠いたミス。それを深く反省しながらも、李月は喚き散らすゼノアスがあまりに煩いものだから、勢い余って掴み返していた。
そうして勢いが一瞬止まった隙に、ぐいと引き寄せて、頬にキスを。
大胆な李月の行動に、親の二人は「おやおや」と楽しげに笑い、ゼノアスは瞳をパチクリとさせ。
李月本人は、物凄い羞恥が押し寄せて、一気に頬が熱くなるのを実感していた。
(くそ、トランスなら気にならなくなったのに……)
恥ずかしさに泳ぐ視線をごまかすように、李月はゼノアスから親役へと視線を移し、ぽつぽつと口を開く。
「こんなもので種が消えてくれるといいですけど」
「ふふ、それは心配ないだろうね」
そんな、他愛もない話は動揺を落ち着かせてくれた。
そうやって徐々に落ち着いた李月だが、繰り返し瞳を瞬かせていたゼノアスの方は、彼らと話している李月の姿が、なんだかひどく腹立たしい。
何で俺じゃなくてそいつらと。
感情に逆らうことなく、ゼノアスは李月の腕を掴んで、ぐいと引いた。
「こっちのが残ってんだよ」
言うが早いか、引き寄せた李月の頬に、口付ける。
それは見せつけるような行為で。
落ち着いたと思った羞恥と動揺がぶわわと湧いた李月が離れようとするのも許さず、至近距離で李月を見つめた。
「な、な……」
「フン! オマエの負けはオレの負け。俺もするに決まってんだろが」
きっぱりと言い切ったゼノアスは、じとりと親を見やると、もういいだろとカジノスペースを後にした。
ゼノアスに引きずられる形になりながら、李月は早鐘を打つ胸に、どこか息の詰まる思いをしていた。
(男にキス……なんでこんなドキドキしてるんだ)
甲板に辿り着けば、風が冷たく撫で付けてくる。熱を帯びた頬が冷えて、少し、冷静さが戻る。
「……負けたから怒ってるのか?」
「はっアノヤローのツラが気にいらねーだけだ」
海を眺めながら言うゼノアスの顔には、言葉通りの感情と、それよりもう少し複雑な何かが過ぎっている。
気に入らない、その理由が。
(もしかして僕と話してたから嫉妬? 子供か)
所有権を主張したい子供のようなゼノアスの態度に、また少し、気持ちが穏やかになって。
そんな李月を他所に、ゼノアスはケラケラと笑った。
「にしてもソッコーで負けちまったなぁ。これもヒトダスケか……面白れーな」
ペテン師じみたあの精霊も、上手いことを言ったものだとゼノアスは笑う。
「お前までする事なかったのに」
笑い声の間に、ぽつり、小さな李月の台詞が零れる。
「……嫌だったのか?」
「……驚いただけだよ」
ぷいとそっぽを向いた李月に、ふ、とゼノアスはどこか勝ち誇ったような顔で笑う。
「だろうな」
自信に溢れたその顔が、真っ直ぐ、李月を見据えた。
「あんなおざなりキス許さねぇ。ちゃんとオレを見ろリツキ」
凄むような顔に、李月がかすかに身を引いて。それを見て、ふわり、ゼノアスは表情を緩める。
「さーてんじゃ初体験船遊び堪能しよーぜ。飯どこで食える?」
何でもなかったかのように踵を返すゼノアスの背を、睨むように李月は見つめた。
ゼノアスが抱き付いてくるのは日常茶飯事で。しかしあんな風に強く引き寄せられるのは初めてで。
唇が触れるのが、嫌じゃなかった。
(どうなってんだ僕は……)
胸の奥が、疼く。
得体のしれない感情がひしめいている、そんな心地。
その正体に、本気で向き合えと。そんな風に言われた気がした。
●一人と、一匹?
気さくな態度でトランプを混ぜる親役の様子を、ちらり、観察するように見て。
セラフィム・ロイスは、少しホッとしたような顔になる。
(二人とも元気そうでよかった。意外に遊び心がある人だったんだ)
先日、強敵と相見えた時の彼らが、命を捨てるかのような無茶をしたのを覚えているから。
だから、他愛もない遊びの場で再び会えることが、素直に嬉しかった。
そんな彼らからのハイ&ローの申し出に、火山 タイガはふむと一つ頷く。
「カジノといえばルーレットとかバカラ? とか聞いてたけど手軽なもんもあるんだな!」
「ゲームではやったことある。でもこういう場では初めてだ」
「俺も。金ねーし」
はは、と肩を竦めて笑いつつも、タイガはキラリと瞳を輝かせる。
「んでも似たようなコインの裏表やじゃんけんとかビンゴあるし、勝負は兄弟じゃ付き物だしな!」
その目は勝負師の目をしていた。
受けるなら勿論親との勝負に決っている、と言おうとしているのが、対峙したエリックにはよく分かって。
――勿論、セラフィムにも分かって。
ムスッとした顔で、タイガの服の袖を引く。
赤面しながらもじとりとした目で睨んでくるセラフィムの言わんとすることは、すぐに悟れた。
(人前でキスなんてないからね……!)
ですよねー。と、再び肩を竦めたタイガは、セラフィムに隣りに座るように促すと、二人での勝負を提案する。
「キスは駄目、だけど他は何でも、だな? それなら、『一日猫まねをして過ごす事』で!」
「何それ!? ……わかったよ」
突拍子もないタイガの提案に、一瞬眉をひそめたセラフィムだが、動物は好きだし、まぁ、そういうのなら可愛いよね、と承諾。
賭けの内容は少し気になるが、それよりもカードゲームをわくわくと楽しむ思考に切り替わっていた。
開始を告げたエリックがカードを開く。じっ、と真剣な目で、セラフィムはそれを見つめた。
(確立で絞れるけど最後は運だよね)
(勝てばセラの猫コスプレ……)
一方のタイガは、自分が提示したペナルティの方に気を取られているようで。
一回、二回、と無難に当てていきながらも、三回目であっさりと外した。
「うわあっ!? セラの猫マネが!! パラダイスが!」
「うるさいよ、タイガ」
セラフィムの勝負はまだ続いている。虫の知らせのような違和感に選択を変えてみたり、開いたカードを見て確率を考えてみたり。
最後まで集中し続けたセラフィムは、十回もの回数を当てることに成功した。
「当たった……! 勝ったんだ」
喜ぶと同時に安堵したような顔をしたセラフィムを、負けたタイガはしゅんと耳をうなだれて見つめている。
そんな彼を一瞥して、はぁ、とため息を付いてみせたセラフィムは、ふ、とその顔を笑みに転じた。
「夕食は僕の分のデザートもあげるし悪いようにはしないからさ」
多分、と語尾につくのは内緒である。
「マジで!? おっしゃ!」
素直なタイガはデザートにつられてあっさりと耳復活。
その耳を見て、タイガが虎のテイルスであるのを思い出したセラフィムは、猫マネを虎マネにしようかと提案した。
猫と比べれば虎の方が格好いい。と思案を挟んで後承諾したタイガだが、虎マネとは。という思考に固まる。
(猫はにゃんって語尾につければいいけど、どんなんだ)
「ほらほら虎さん」
「おう!? がおー!」
セラフィムの促しに、とっさに猫のような手つきで吠えたタイガだが、じわじわと恥ずかしくなる。
(セラにも笑われてるし……何でコレ思いついた……!)
「いいよそれで。虎も猫科だし似てるんじゃない?」
ふふ、と笑みを零したセラフィムが、おいで、ともう一度手を差し伸べる。
その手に擦り寄って、がおー、とタイガは甘い声で吠える。
「甘えるぞがおー!」
撫でられる心地に、結構いいかも、とぐいぐい頭を寄せるタイガ。
それを楽しみながら、セラフィムはふわり、笑みを零した。
(どっちが勝ったのかわからないけど、いいか)
その後、一日の約束の虎マネで、ごろごろと喉を鳴らすように甘えるタイガは、手を使わないを主張してセラフィムからのあーんを達成するのであった。
●その口づけの意味を知る
暁 千尋は考えた。ジルヴェール・シフォン二人での勝負は危険であると。
負けた時を考えるのが怖い。そう思うのは、ジルヴェールという人の本心を上手く気取れていないからだろうか。
「負けてキスはいいのかしら?」
「負けなければいいんです」
小首を傾げたジルヴェールの問いに、きっぱりと言い切る千尋に、問うた精霊は苦笑する。
(チヒロちゃんって、プラス思考なのかマイナスなのかよく分からない時があるわねぇ)
消極的でもあり、積極的でもある千尋の方こそ、掴めないと言いたげに見つめるジルヴェールを他所に、千尋はローを選択する。
そうして、開かれた次のカードを見て、目を剥いた。
「なん……だと……」
「あらまぁ……」
8くらいならばローの方が確率が高いと思ったのに、まさか絵札が来るとは。
一発負けの絶望に打ちひしがれている千尋を、苦笑しながら宥めるジルヴェールは、小首を傾げてそっとその顔を覗き込んだ。
「それで、キスはワタシからした方がいいのかしら?」
ちらり。横目に見て、一度言葉に詰まった千尋は、溜息の素振りで肩の力を抜き、僕がします、と告げる。
「負けたのは僕ですし、自分からした方がまだ羞恥心が抑えられますから」
とは、いえ。
(トランスするわけでもないのにキスとか……しかも人前で口とか絶対無理ですし……)
ジルヴェールの美しい顔をじっと見つめた姿勢で固まった千尋に、どうしたものかと曖昧に微笑むジルヴェール。
やがて千尋が一度視線を外して、親の方を見やる。
「どこにしてもいいんですよね?」
「勿論、それはお任せするよ」
回答に頷いて、千尋はそっとジルヴェールの髪を一房掬い上げると、柔らかなそれに、唇を寄せた。
その、予想外の箇所への口づけに、ジルヴェールは驚いたように目を見張る。
「……ふふ、一応これでも罰ゲームは成立かしら?」
口元に添えた指先でたおやかに微笑んで見せるジルヴェールに、麗しいねぇ、などとにこにこ笑って応じるエリック。
一先ずOKが出たことに安堵したような顔をする千尋だが、その頬がほんのりと朱に染まっているのを見とめて、ジルヴェールはころりと小首を傾げてみせた。
「ところで、キスには場所によって意味があることを知ってる?」
「キスに意味、ですか?」
知らない事を示す問い返しに、ジルヴェールは頷いてから解説する。
「例えば頬だと『親愛』、手の甲だと『敬愛』っていう風にね」
そうして、さらり、千尋の唇が触れた己の髪を、指先で梳く。
「ちなみに髪へのキスは……『思慕』」
「思慕……」
くるりと髪を巻く指先から、その髪が零れるまでを見届けてから、なるほど、と千尋は頷いた。
「とりあえず変な意味じゃなくて良かったです」
「そうね……どこへしたって気持ちがなければ、ただの挨拶と変わらないしね」
ふふ、と笑うジルヴェールに、千尋の胸中に、じわ、と広がるような照れが過るけれど、それは決して嫌な感覚ではなかった。
思慕する心があるのは事実で。
だけれど、知らなかったから。先程のは、挨拶だと思われた。
今はまだ、その方が――。
「――先生?」
思案する千尋の手をとって、そっと、掌へ寄せられる唇。
不思議そうな視線と穏やかな微笑とが絡んで、一瞬後に、じわり、千尋の頬が朱に染まる。
「……これも挨拶ですか……?」
「さぁ……どうかしら?」
ぱ、と手を離して微笑むジルヴェールに、千尋はむっと唇を尖らせた。
(先生はズルい)
そうやって、肝心なところはすぐにはぐらかそうとする。
口付けられた掌はまだ彼の熱を帯びているようで。見つめ、千尋はその視線を真っ直ぐにジルヴェールに向けた。
「……あとで調べますから」
その宣言を、ころりと笑って受け止めて。行きましょう、と踵を返すジルヴェール。
(今回は照れ隠しだったのでしょうけど、いつか本当にそう想ってしてくれたらいいのに)
心からの思慕を、示して。
口付けてくれる日が来たならば。
願いは、口づけに換えられた。
君からの心がほしいという、『懇願』に――。
●ドアベルを鳴らし続ける
親と勝負。挑む姿勢満々の信城いつきをちらりと見て、ミカは試しにどちらを選ぶか訪ねてみた。
「えっと……ロー?」
「じゃあハイで」
さらっとしれっといつきの予想とは反対の宣言をするミカを二度見したいつきだが、もしかしてこれがミカ流のギャンブルの心得的なあれそれなのかもしれないとも思ったりした。
したが、あっさり負けた。
2が出てはどうしようもないなーと肩を竦めるミカに対し、予想が当たっていただけにしょんぼりとするいつき。
「あっけなく負けちゃったよ……やっぱり手の甲……」
ミカの手の甲に落としていた視線が、くい、と持ち上げられる。
「ええっ?」
顎に添えた指先でいつきの視線を顔ごと持ち上げたミカは、にこにこといつきを見つめている。
「負けた以上は文句言えないよな、仕方ないなー」
言いつつ近づけられる顔。ぎょっとして固まるいつき。
「ミ、ミカ落ち着いて。俺にはレーゲンが……」
「ん? 何かいったか?」
ゆっくりとだが確実に寄せられる顔は、明らかに口づけようとしているようで。
「そんなに近くで話しかけなくたっていいって!」
何がどうしてこうなってる? と混乱する頭でぐるぐると思考するも、いつきにはどうすればいいのかわからない。
相手はミカだ。どことなく兄のように思い、少なからず慕っている相手を突き放すという選択肢は、いつきには選べなかった。
そうこうしている内に、吐息が感じられる距離まで詰まってしまって。いつきは思わず、固く目を閉じた。
何かと触れ合う感覚が、唇に感じられて。
だけれどそれは、暖かな唇とは、違っていて。
「…………あれ?」
そろりと開いた瞳に映ったのは、トランプの角。
それから、カード越しに、にやりと笑うミカの顔。
「さすがに本気でする訳ないだろ」
互いの唇の間にトランプを挟んでの口付け。取り払ったカードにキスをして、それを示すミカの所作に、ぽかんとしていたいつきは、わなわなと震えだす。
(そうだった、初めて会ったときからミカってこんな人だった!)
初めから、いつきの反応を面白がってからかってくるような男だった。
今回もその類なのだと思い知らされて、怒りや恥ずかしさが急速に沸騰する。
「こんなことしてくるヤツがいたら、蹴りの一発ぐらいたたき込んでいいぞ。悪い虫が寄ってこないか、パートナーとしては心配だなー」
へらりと笑ってのミカの台詞が止めとなって、いつきは顔を真赤にしてその場から逃げるように駆けだした。
「ばかばかばかー!」
喚き散らしてそのまま駆け去るかと思えば、入口近くでピタリと止まって、∪ターン。
「唇にされるのがイヤだっただけで、別に嫌いなわけじゃないから!」
顔を真赤にして、涙目で訴えたいつきは、ぐい、とミカの手を掴み上げると、その甲にキスを落とす。
「これでいいよね! じゃあ失礼しました!」
そうして猛ダッシュで今度こそ逃げ出すさまは、嵐のようで。
わざわざ戻ってきての「嫌いじゃない」に、ミカは軽い調子で笑った。
「……お騒がせしました。おかげで久しぶりにチビ……いつきが大声だせた」
くるり、親の二人を振り返ったミカは、軽く頭を下げて、笑む。
「あのぐらい元気いい方があいつらしいんで」
それを、二人は穏やかな顔で見つめていた。
「程々にしようと思ったことは、ないのかね?」
「あいつに優しくするのは俺の役目じゃない。俺は、あいつを怒らせるのが役目なんで」
きっぱりと、当たり前のように告げるミカに、エリックはにこり、微笑んで。
「それは、素敵だね」
ただ、肯定した。
もう一度会釈をして立ち去ったミカは、おそらく部屋だろうとは思いつつ、一応いつきを探し始める。
怒っているだろうが、それでいいとミカは思う。
そうやって、素直に振る舞ってくれればいい。
嫌われることを恐れずに、感情をぶつけてくれればいい。
いつきが、その心を再び閉ざす事のないように。
その一助となれるなら、それで、いいのだ――。
●求めるものは
精霊との勝負ならいつでもできるし、折角だから。
蒼崎 海十が親との勝負を選択したのはそんなささやかな理由だったけれど。勝負となれば、どんな状況だとて燃えるものである。
楽しみながらも、やるからには負けたくない。
(ケーキ食べたいし)
本音は、こちらだが。
「フィン、ここは協力して勝ちに行くぞ!」
「うん、頑張ろうね」
勝負に燃える海十の様子にくすりと微笑ましげな笑みを浮かべるフィン・ブラーシュは、本音で言うなら海十と二人きりでのゲームでも良かった。
良かったけれど、勝負となると熱くなる海十が可愛いのだから、ここは乗っておこうと思うのだ。
「よし、まずはハイで」
二人で交互に、と決めて、海十から。
今のカードが4ならハイの確率の方が圧倒的に高いと見越した予想は当たり、海十はぐっと拳を握りしめる。
続いてフィンの番だが、目の前にあるのは8のカード。ど真ん中だ。
(悩むなぁ……でも、まぁ、負けても美味しいという事で……)
「ローで」
深くは考えずに直感で宣言したフィンだが、開かれたカードはキング。ハイだ。
「負けてしまったね」
「って…フィン、あっさり負け過ぎだろ」
うぐぐ、と悔しがっている海十の隣で、こっそりと肩を竦めるフィン。負けても美味しいと思った思考が反映されてしまったのだろうかと。
ひとしきり悔しがった海十だが、負けは負けだと腹を括り、フィンへと向き直った。
「フィン、手貸せ……」
「ごめんね、海十」
台詞が、被った。
そして、二言目はずいと顔を寄せたフィンの方が早かった。
「罰ゲームは俺が責任取るから任せて欲しい」
「責任取る? ……いや、いい」
きり、と表情を引き締めたフィンを瞳を瞬かせて見つめた海十だが、やや間を置いて、そっと拒否を示す。
(フィンに任せたらより恥ずかしい事になりそうだ)
なんとなく予感された事態を回避しようと試みた海十だが、そんな海十の反応に、フィンが悲しそうな顔をした。
「そんな……俺の事、信用してくれないんだね……仕方ないか、俺のせいで負けちゃったんだもん」
「信用してないとかそういう訳じゃ……」
フィンが本気で項垂れているのを見て、一度は逸らした視線を慌てて戻す海十。
「俺は別に負けた事を怒ってる訳じゃ……力を合わせてゲームするの、楽しかったし」
一生懸命フォローするも、ちら、と見てくるフィンの視線は、「でも、任せてくれないんでしょう?」と言っている。
勝ち負けよりもそっちの方がショックだと言わんばかりの顔に、ついに海十が根負けした。
「分かった……フィンに責任取って貰うから、そんな顔するな」
な? とそろり顔を覗き込みながらの海十がそう告げるや、否や。
「有難う。やっぱり海十は優しいね」
パッ、と笑顔を浮かべたフィンは、そのまま素早く海十の唇を掠めるようにキスをした。
「大好きだよ」
ささやかに響くだけのリップ音。
触れた感触もほんの一瞬で、海十は何が起こったのか理解が追いついていない顔をしていた。
そんな海十にくすりと笑ってから、親役の二人を振り返り、にっこり、フィンは微笑んだ。
「罰ゲーム、これで大丈夫ですか?」
「いやぁ、あてられるねぇ」
にこにこと楽しげに笑っているエリックと、微笑ましげなミハエル。
穏やかな雰囲気の三人から一人取り残されて、海十はようやく理解に至ると同時に沸き起こった羞恥心に、フィンの背を思い切り叩いた。
「……って、お約束かよ!」
「痛いよ海十。だって、海十が好きだから、見せつけたくなっちゃった」
背中をさすりながらもぱちりとウィンクするフィンに、みるみる内に紅潮した顔を覆い、海十は恥ずかしさに机に突っ伏すのであった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月09日 |
出発日 | 12月16日 00:00 |
予定納品日 | 12月26日 |
参加者
会議室
-
2015/12/15-05:47
プラン提出
Σ僕だけ挨拶してない
李月です
相棒はゼノアス
よろしくお願いします
‥負けかぁ ということは‥はぁ -
2015/12/13-01:07
あ。勝った、勝てたんだ・・・!
タイガ『うわあっ!?セラにやらせたいことが!!パラダイスがっ』
・・・何を考えてたか知らないけど覚悟を決める。
夕食は僕の分のデザートもあげるし悪いようにはしないからさ
『マジで!?おっしゃ!』
(・・・多分ね) -
2015/12/13-00:57
:タイガ
ガチで面白れーことになってんな~。皆の当日楽しみにしてる!
俺タイガと相棒のセラだ。よろしくな!
流れに乗って俺も親とガチ勝負!
・・・といきてーとこだけど(セラをちらり。赤面でムスッとしてる)
【二人で勝負】も興味あったしそっちにしとくかな(たはは
ってことで勝負だ!セラ!『わかった。負けないよ』
【ダイスA(10面):10】【ダイスB(10面):2】 -
2015/12/13-00:28
フィン:
あ…。
外れちゃったねぇ…(いい笑顔)
海十:
流れを切ったのに、中途半端な結果……(がっくり)
わざとじゃないだろうな?(拳握り)
フィン:
い、いやいやいや!
至って真剣!真剣勝負の結果だよ。
…たぶん(ぼそっ) -
2015/12/13-00:26
フィン:
お、当たったね!
じゃあ、続けて……
次は【ロー】を選んでみようか♪
【ダイスA(10面):9】 -
2015/12/13-00:25
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願い致します。
俺達も【ガチ型】で勝負です…!
【ハイ】を選びます。
【ダイスA(10面):6】 -
2015/12/12-23:20
あらまぁ……ここまでの流れ、面白いことになってるわねぇ、ふふ。
-
2015/12/12-23:19
暁千尋とパートナーのジル先生です。
宜しくお願いします。
【ガチ型】でいきます。
【ロー】で。
【ダイスA(10面):7】 -
2015/12/12-20:17
ミカ:あー残念。はずれたなー(棒読み)
いつき:どうするの、これ!?(涙目) -
2015/12/12-20:16
ミカ:信城いつきと相棒のミカだ。どうぞよろしく。
ハイ&ローね…いくならやっぱり【ガチ】だろ。チビ、どっちが正解と思う?
いつき:えっと……【ロー】?
ミカ:了解、じゃあ【ハイ】で
いつき:(えっ!?)
※【ハイ】選択です
【ダイスA(10面):1】 -
2015/12/12-08:40
……終わった
-
2015/12/12-08:39
【ガチ型】でいきます!
【ロー】だ
【ダイスA(10面):8】