おつきあいしませんか?(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ビリヤードというゲームをご存知だろうか。
 九つのボールを順にポケットに落としていくナインゲームと呼ばれるゲームが良く知られているだろう。
 厳密に言えば細かいルールが存在するこのゲームではあるが、遊ぶ分には、さほど細かくは言うまい。
「というわけで、ちょっと遊びに行きませんか!」
 にこにこ笑顔で誘うのはA.R.O.A.の受付だ。
 手にはゲームセンターのキャンペーンチラシのような物を持っており、それを見るに、ビリヤードをプレイした人にささやかな景品が出るそうで。
「好きな人は好きですけど、敷居の高い印象があったりしません? なので、少しでも馴染みあるものにしたいなーってお話のようです」
 つまりは初心者歓迎。勿論熟練者も大歓迎。
 プレイするだけで運営側からの景品は出るが、せっかくウィンクルムというペアなのだから、何か二人で賭け事をしてみるのも一つの手だろう。
 負けた方が勝った方の言う事を一つ聞いてみる?
 もっと単純にご飯でも奢ってみる?
 初心者と熟練者のペアなら、ハンデを考えるのもいいだろう。
「ビリヤードに慣れて楽しむのが一番なので、好きな感じに遊んでみたらいかがですか?」
 小首を傾げた受付がそう言うので、貴方達はチラシを受け取って、件のゲームセンターに訪れてみることにした。
 さて、どう遊ぼうか?

解説

★ビリヤードを楽しもう!
一応ナインボールのテイストで遊んで頂きますが、細かいルールは設けません
二人で何となくそれっぽい感じで遊んでみるのも良いですし、
慣れている方が初心者をレクチャーするプランも歓迎です

★特別ルール
ダイスで勝敗を決めるモードです
10面ダイスを二つ振って下さい。ダイスAが神人、Bが精霊の数字となりますは数字の大きい方が勝ちです(運要素)
『計算』『スポーツ』スキルをお持ちの方は基本数値に『+スキルLv』
『ビリヤード・ダーツ』スキルをお持ちの方は基本数値に『×スキルLv』
『メンタルヘルス』スキルをお持ちの方は基本数値に『スキルLvの半分(端数切捨て)』
をそれぞれ追加できます

※例
ダイス数値5で計算2Lv、メンタルヘルス3Lvの場合
→5+2+1=8
ダイス数値2でスポーツ1Lv、ビリヤード・ダーツ2レベルの場合
→5×2+1=11
『ビリヤード・ダーツ』の計算はダイスの数値のみです。他のスキル数値には反映されません

ダイス結果を踏まえてプランを練って頂くのも有りです。

★費用
1組様1プレイにつき300jr頂戴いたします
複数回プレイも可能です
ちなみにささやかな景品はペアのマグカップです(アイテム発行はありません)

★プラン
他のウィンクルムと勝負するのも有りです
2vs2のチームプレイとして扱います。
その際にダイスモードにする場合は二人の数字を足した数で勝敗を決めて下さい

複数回・チームプレイの場合は会議室内でロールを少しして頂く事も可能です
プラン9:会議室1くらいの比率で反映される場合もあります(プラン優先なのでされない場合もあります)
入れたい台詞等はプランに記入してください

ゲームマスターより

女性側で出していた「すないぱーごっこ」に近いなんちゃってダイスルールを用意してみました
勝負する相手はパートナーか他のウィンクルムとなりますが、宜しければ遊んでみてください

プレイ回数は何回でも構いません。ジェール計算はこちらでします
また、計上の関係上、発言の削除はご遠慮ください
誤字しても泣かない。連投して訂正してください

仕様上、1ウィンクルム当たりの連続発言が増える可能性が高いと思いますが、
仕様なので遠慮せず喋って頂ければ幸いです

ちなみに錘里はビリヤード未経験なのでルールとか詳しくないです
こまけぇこたぁいいんだよ!です

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  ビリヤード初挑戦
前から興味はあったんだ
経験者のフィンに教えて貰いながら、まず一回お試しを兼ねて勝負

先行を決めるバンキング…要するに、同じ位置から壁(クッション)に手球を撞き、より己の近くに球が戻って来たら勝ち…
力加減を競うと言われても、加減が分からないから、取り敢えず適当に力を入れてみたら…俺が勝った。ビギナーズラック?

フィンに教えて貰い、1番ボールを先頭、9番ボールを中心にひし形状にボールを並べ
9番ボールを先に落としたら勝ち
よく狙って……勝てた。何だか凄く嬉しいかも

よし、二回目の勝負だ!
今度はフィンが先行
さっきと気合が全然違う…嘘だろ?
く、悔しい…!
分かったよ、約束は守るけど、家に帰ってから


月岡 尊(アルフレド=リィン)
  台を前に暫し一考。
やった事が無いのかとでも問われれば「触れた事くらいはあるんだがな」と。
やけに自信満々な顔なのが気になるが…提案には是を返す。
断るのは端から負けを認める様で癪だしな。

言うだけあって、アルの腕は確かに良い。
5セットマッチ、2:2のイーブン。実に順調なゲーム運びでの最終セット。
…が。
7まで落とされた所で、狙いを定めるのは9の球。
8に当てて落とし、そのままの勢いで9にもポケットする…
在り来たりな手じゃないか。
「初心者だなどと言った覚えは無いが?」
留学時代の手習い程度だ。嘘は言ってない。
思わず口の端に浮かぶ笑み。
提案通り今夜の払いはアルに任せ、煙草を一本。
まだ若造に負けてはやれんよ。


李月(ゼノアス・グールン)
  適当にキュー選び
「精霊用なんて置いてるのか?


練習
危機に直面真っ白
「おまっ
これパワーゲームじゃないからっ
じゃなきゃ勝負する訳ないし



勝負

ルール把握
クッション反射も活用し手堅く

「剣をぶん回すとは訳が違うからな
(勝てる!いつもいい様に振り回されてる恨みだフハハ

賭け提案に困惑
だが勝を確信

「いいよ!負けが1つ言う事聞く

気迫に飲まれ決め時ミス
負け
凄く悔しい

勝どき声を慌てて制す
「大声迷惑だろ

気構え差に気付く
勝てる訳ない事を悟る
悔しさ薄れ何故か恥かしく照れくさい
(何だよこれ‥?

相手がご機嫌なので褒めて
賭けをうやむや試み
「じゃ帰ろうかスーパー寄ろう
そう!すき焼きなんかどうかな

ニヤリに赤面
「その変な言い方やめろー


ショウ=エン(廉硝)
  チラシを見て面白そうに
「親睦を兼ねてやってみるか」
「一応あるぞ」

キューにチョークを塗りながら
「やった事は?」
バンキングで先攻
ブレイクショットをしてから
「そう言えば、何て呼べばいい?」
「お前は何て呼びたい?」
普段は直属ではないとはいえ上の立場なので役職名で呼ばれてる
考え込んでしまった精霊に提案
「よし、お前が勝ったら好きに呼べ。俺が勝ったら俺が決める」
精霊の様子に小さく笑いながら進める

精霊の勝ち
負けても楽しそうに微笑みながら
「さて、何て呼ぶ?」
悩んでいる精霊に助け舟
「決まらないのか? そうだな……例えば、俺の嫁は、ショウと呼ぶぞ」

「敬語もそんなに使わなくていいぞ」
返しに思わず吹き出し声に出して笑う


●ハジメテの楽しみ方
 ビリヤードは初挑戦。しかし前から興味はあったのだ。
 幸いにもパートナーが経験者という事で、蒼崎 海十はわくわくしながらキューを握っていた。
 キューの握り方、フォーム、簡単なポイントなど、初心者にも判り易く教えてくれるパートナー、フィン・ブラーシュのおかげで、とっつきにくそうな印象だったこの球技にも、少しの自信が湧いた。
「……で、順番を決めるのがバンキングって言う手段でね。同じ位置から壁に手球を撞いて、より自分の近くに球が戻ってきたら勝ちって感じ」
「ふんふん」
「力加減を競うわけなんだけど……あんまり難しく考えず、やってみなよ」
 にこ、と微笑むフィンは、一通りの事は一緒にやってみたのだから、後は実際にゲームをして覚えていくのが良いと言う。
 よし、と一つ気合を入れた海十は、適当に球をついてみる。
 同じように行ったフィンの球は、海十より少し後ろで止まる。
「あ、俺の勝ち……って事?」
「うん、そうだね。それじゃ、ルールも説明しながらやって行こうか」
 選ぶゲームはナインボール。初心者向けに少しルールを甘くしたものがあるようなので、そちらを採用。
 ゲームの最初手、ひし形を作るように綺麗に並べたボールに勢いよく手球を当てるのは、なかなか爽快だった。
「えっと、1番から順番に落としていけばいいんだよ、な?」
「そうそう、それで最後に9番を落とした方が勝ちだよ」
 ルールを確かめながら、慎重に一つずつ。
 上手い上手いと笑顔で楽しく教えていたフィンだが、ビギナーズラックも相まってか、海十はするすると順調に球を収めていく。
(よく狙って……)
 カツン、ころころ……ごとん。
「よし、また落せた!」
 嬉しそうにガッツポーズする海十をにこにこと眺めつつ、フィンは内心ほんの少し焦っていた。
(うぐ、ビギナーズラック恐ろしいな)
 ビリヤードは頭脳戦だと言うが、運も実力の内である。
 フィンとて付き合い程度の経験だ。特別上手いわけではなく、運を天秤に乗せた海十とはすっかりいい勝負で……最終的に9番を落とした勝者は、海十だった。
 信じられないと言った顔をした海十だったが、じわじわと実感が湧いて、嬉しさがこみあげてくる。
(何だか凄く嬉しいかも)
 ビリヤード、難しいと思ってたけど楽しいな。
 そんな様子できらきらした目をしている海十に拍手を送りつつ、フィンは内心で肩をすくめる。
(喜んでる海十は可愛いな)
 でも、だからと言って。
(少し手心を加えていたとはいえ、負けてしまったら……悔しいじゃないか)
 楽しそうな海十の笑顔と天秤にかけて、ちょっぴりだけ勝ってしまった自尊心が疼く。
「海十、二回目は本番だよ。勝負しよう。何か賭けてみる?」
 微笑を添えた提案に、海十は少し思案するように瞳を瞬かせたが、その口が答えるより先に、フィンが続ける。
「そうだなぁ……俺が勝ったら、海十、ちゅーして?」
 自身の頬を指さしながら告げるフィンの笑顔に、冗談だと思ったのか。ビリヤードの楽しみを覚えた海十は、大きく頷く。
「よし、二回目の勝負だ!」
 快い承諾に、きらり、フィンの瞳の奥が光る。
「よし、オニーサン、やる気出た!」
 真剣な表情でキューを構えたフィンはバンキングで先行を勝ち取り、丁寧に球を落としていく。
(最初から本気で行かせて貰うよ。これ、勝負だからね!)
 海十もコツを掴んで善戦するが、説明の必要もなくなって無駄口の無くなったフィンの気合に、飲まれてしまっていた。
(さっきと気合が全然違う……あ、ちょ、嘘だろ?)
 小気味よい音を立てて、ぶつかり合った球同士がポケットに沈んでいく。一気に空っぽになった台と、ぐっ、とガッツポーズを決めたフィンとを、海十はポカンとした顔で見つめていた。
「今回は俺の勝ちだね」
 きらきらと光の粒が舞いそうな爽やかな笑顔で振り返るフィンに、ぐぬ、と唸る海十。
「く、悔しい……!」
 真剣勝負だからこそ、一層。
 悔しがる海十の様子を微笑ましげに見つめてから、フィンはこそりと耳元で囁く。
「海十、約束……ちゃんと守ってくれる?」
 その言葉に、今度は違う意味で、言葉に詰まって唸る海十。
 ほんのりと染まった頬で、視線を泳がせてから、ぽつり、零す。
「分かったよ、約束は守るけど、家に帰ってから」
 悔しさを、俄かに勝った気恥ずかしさが、落ち着くまで。
 それまで待ってと口ごもる海十を、フィンは幸せそうな顔で、見つめていた。

●深くを貫く
 球が並べられた台と、棒が並べられた台とを見比べて、ゼノアス・グールンはほんの少し怪訝に眉を寄せる。
「あんだよ軽い棒っきればっかだな」
 ひょいと軽く拾い上げられる重量感のなさは、普段重い武器を所持する精霊にはやや心もとない。
 ぶつくさ文句を零している精霊を横目に、李月は適当に棒――キューを選ぶ。
「精霊用なんて置いてるのか?」
 そもそもそんなものがあるのかと言うように首を傾げつつ、選んだキューで球を軽く小突く。
 これでいいかな、と呟く李月を真似るように、太目でやや重量感のあるキューを選んだゼノアスもまた、台の上の球を小突いてみた。
 小突いてみた、つもりだった。
 ゴウッ! と空気を切る音を立てて、台の上から李月の顔を掠めて吹っ飛んでいく球。
 ごとん、と重い音と共に球が落ちた辺りをぎこちなく振り返り、ぎりぎりと軋んだ音を立てるようにして再びゼノアスに視線をやった李月の顔面は蒼白だった。
「なかなかデンジャラスなアソビじゃねーか」
「おまっ、これパワーゲームじゃないからっ!」
 あ、ヤベ、と言った顔で視線を背けながらのゼノアスに、全力でツッコミを入れてから、はぁ、と李月は溜息。
 そう、これはパワーゲームではなくどちらかと言えば頭脳ゲームだ。
(じゃなきゃ勝負する訳ないし)
 最初から勝負にならない勝負をするなんて、意味がないのだから。
 溜息を零す李月に、呆れたか、と肩を竦めつつ、ゼノアスは内心の動揺をそっと抑え込む。
(タマツキで神人コロスとか洒落になんねぇ)
 なるほど、これは、デンジャラスで難しい、アソビだ。
 初心者同士、ナインボールのルールを把握し、先攻後攻を決める。
 先行を取ったゼノアスだが、狙いを定め脳裡に軌跡を描くも、肝心の力加減が上手くいかず、凡ミスを繰り返してしまう。
 対する李月は、ややぎこちないながらもクッションを利用し手堅く球をポケットに収めていく。
 順調な李月に対して、自分が劣勢なのが判るゼノアスは、変な力の入りっぱなしな腕をぶんぶんと振りながら、苦い顔をする。
「クソッ腕がツリそうだ」
「剣をぶん回すとは訳が違うからな」
 もどかしそうな様子のゼノアスに、李月の口元に思わず笑みが綻ぶ。
(勝てる! いつもいい様に振り回されてる恨みだフハハ)
 お前ばっかりがいつも優位じゃないんだからな! と胸中でだけ誇らしげな顔をする李月。
 その余裕ある様子に、いよいよゼノアスの焦りが臨界に達した。
(ただ勝つ事には何の意味もねぇ……いや、このままじゃ勝つ事も……オレのイクサはいつだって)
「賭けだ! 賭けをする!」
 急な提案に、李月は瞳をぱちくりとさせた。
 自分が劣勢な状況だと言うのに、どうして。
 困惑にかすかに眉を寄せた李月だが、手を抜いているわけでもないゼノアスが今から劇的に上手くなるわけもない。
 勝ちは、揺るがないはずだ。
「いいよ! 負けが1つ言う事聞く」
「よし、成立だな!」
 頷き合い、駆けの成立を確かめたところで、ゼノアスの目の色が変わった。
 ゲームに苦戦する困惑顔はすっかりなりを潜め、そこにあるのは獲物を狩る獣のような真剣さ。
 ごく、と息を呑んだ李月の目の前で、球が軽やかな軌跡を描いて一つ、二つと綺麗にポケットに沈む。
(まぐれだ、まぐれ……!)
 気を取り直し、キューを握り直した李月が向き直った台には、もう9の球が残るだけ。
 二つも一気に落とすから。李月が手堅く決めればそれで終わり。やっぱり負ける事なんてない。
 ――だというのに、ゼノアスの気迫が伝わったゆえの緊張か、球はあと一歩のところで止まってしまう。
 唖然としている李月を横に、最後の球を落としたゼノアスは、ぐ、と力強く拳を握りしめ、突きあげた
「オレは負ける訳にはいかねぇ! オレの負けはお前が死ぬって事だからなァ! 死なせネェェッ」
「ちょ、大声迷惑だろ」
 勝どきの声をあげるゼノアスを慌てて止めた李月は、ゼノアスの気迫の意味を、深く知る。
 どんな状況だとて、ゼノアスは負けてはいけないのだと自負している。
 それは彼が、契約精霊であるがゆえ。
 二人分の命を、背負ったゆえ。
(勝てるわけないじゃないか……)
 気構えにこんなに差がある時点で、勝負になんてなっていなかったのだ。
 それに気づいた時、李月は湧き上がっていた悔しさが薄れ、恥ずかしさと照れくささを感じる。
(何だよこれ……?)
 想われて、いる。
 そんな気がして、くすぐったい。
 振り払うように緩く頭を振って、李月はゼノアスに向き直った。
「凄いな。初心者なのに二つ一気に落とすなんて早々できないだろ」
 機嫌よく笑っているゼノアスをさらに持ち上げて、賭けをしたことをうやむやにしようと試みる李月。
「じゃ帰ろうかスーパー寄ろう。そう! すき焼きなんかどうかな」
 確か好きだったはずだ。その提案に、案の定、ゼノアスが食いついてくる。
「スキヤキッ! 今夜は濃厚なスキヤキ奉仕をして貰おうじゃねーか」
 単純に喜んでいたように見えたゼノアスが、不意に意味ありげにニヤリと笑うのを、見て。
 言葉に詰まった李月は、頬が染まるのを自覚しながら、そっぽを向く。
「その変な言い方やめろー」
 結局今日も振り回されているけれど、その心内を少しだけ知れたから。
 悪い気は、しなかった。

●崩したい、その余裕
 月岡 尊がビリヤードの台を前にして思案する様子を、アルフレド=リィンは小首を傾げて見やる。
「初めてなんスか?」
「触れた事くらいはあるんだがな」
 素直な疑問に、率直に答えれば、ふぅん、と曖昧な返事。
(何やらせてもそつがなさそうな人だけど)
 アルフレドにとって、尊という男はそういう印象だ。
 だけど。
(こーいう遊びならオレだって負けちゃいない!)
 向こうに経験がないと言うのなら、むしろ好都合だ。
「どーせなら何か賭けませんか?」
 キューを磨きつつ提案してくるアルフレドの、自信満々な顔を、尊は少しの思案を抱きつつ見つめるが。
「いいだろう」
 返すのは、是。
 断るのは簡単だが、端から負けを認める様で癪なのだ。
 尊の返答に、アルフレドは気前よく笑う。
 尊から何が欲しいわけでもない。強いて言うなら勝ち点1だ。
(不慣れならちっと心は痛むけど……)
 それでも、何もかもで上手を行かれるこの相手に、何でもいいから勝ちが欲しい。そんな、内心。
「そんなら、5セットマッチで勝負しましょう」
 そうと決まれば早速、と先行を決めると、アルフレドは自信の中に真剣さを孕む表情で手球を操っていく。
(なるほど、言うだけあるな……)
 自信を裏付ける程度には、アルフレドは腕が良い。あっという間に1セットを取られる。
 しかし尊も一方的に負けるわけでもなく、接戦を繰り広げて2:2での最終セット。
 実に順調、ショー・スポーツの定義に相応しく、ギャラリーが居れば盛り上がるだろう勝負となった。
「ん、良し……!」
 7番ボールをいい具合にポケットに収め、アルフレドは台を確認する。次に落す8番は、狙いにくい位置。
(この勝負、貰った!)
 確信に内心でガッツポーズするアルフレドをよそに、思案顔をした尊は、8番を一瞥、流した視線で、真っ直ぐ9番ボールを見据えた。
「え、ちょっ……」
 ナインボールで手球を当てていいのは台上の一番小さな数字。今の場合なら8だ。
 だというのに9を狙うなんて、この人ルール解ってなかったのか……!
 そんな焦りは一瞬だった。
 制止の声を紡ぎきるより先に撞かれた球は、難解な配置にも拘らず8番に当たる。
 ポケットに収めてなお勢いの止まらない手球は、そのまま9番ボールにも当たり、ポケットへ。
「あ、ああ!?」
 嘘だろ! と思わず上がる悲嘆の声。
「ビギナーズラックにしちゃ出来過ぎだ……」
 愕然とするアルフレドとは対照的に、涼しい顔をした尊は肩を竦める。
「初心者などと言った覚えは無いが?」
「え、だってツキオカさん最初に……」
「留学時代の手習い程度だ」
 触れたことくらいはある。嘘は、言っていない。
 『触れた』の程度について尋ねなかったアルフレドの落ち度である。
(まだ貸しすら作らせちゃくれない……)
 悔しさを押し留めきれず、表情に滲み出るアルフレド。
 自覚できるから、誤魔化すことはせずがりと頭を掻いて心情をそのまま態度に表わす。
(ホントにズルいよこの人は)
 ゲーム以前の駆け引きが、どうにも勝てない。
「賭けてたんだったな」
「あ、そっスね……」
「なら、支払いは任せた」
 さらりと会計を押し付け、さくさくと帰路に着こうとする尊に、悔しげに唸ってから、アルフレドは財布を開いた。
 そんな彼を横目に見て、背を向けた尊は口の端が緩むのを自覚する。
 思わず浮かんだ笑みを、誤魔化すように。一本取り出した煙草を咥え、火をつける。
 腕その物ならイーブンだっただろう。運も実力の内とはよくいうものだが。
「まだ若造に負けてはやれんよ」
 今日の勝ちは、駆け引き上手の、年の功。
 優位を譲る気は、まだ、無いのだ。

●こころ、揺さぶる
 受付で見たチラシを、面白そうに眺めていたショウ=エンは、同行していた精霊の廉硝に、ぴらりと見せた。
「親睦を兼ねてやってみるか」
「拒否権は」
 ショウからの提案は、彼と上司部下の関係性である廉硝にとっては半分命令みたいなものだ。
 残りの半分の可能性に賭けての確認だが、ショウから返るのはさらりとした返答。
「一応あるぞ」
 つまり、ない。
「……後が面倒臭そうなのでやります」
 溜息が零れるのくらいは、許して貰う事にしよう。

 さて、噂のゲームセンターにて。
 選んだキューにチョークを塗りながら、ショウは廉硝にビリヤードの経験を尋ねる。
「付き合い程度で」
 端的な答えに、なるほど、と相槌だけを返す。どの程度できるかは、見て見れば判る事だ。
 バンキングにて先行を得たショウは、ひし形に組んだボールを手球越しに見つめながら、思案する。
 カン、と小気味のいい音を立てて四方八方に広がるボールを見届けて後、廉硝を振り返った。
「そう言えば、何て呼べばいい?」
 ショウにとって、廉硝は部下だ。
 そして嫁の幼馴染であり、友人の後輩でもある。
 遠からず近からず。理由がなければさして関わる事も無かった相手との距離感を探るような発言に、廉硝は一度だけ視線を合わせ、すぐに逸らした。
「別に普段通りに廉硝と」
 逸らした視線でそのまま手球を見つめ、一撞き。
 1番のボールがポケットに沈む。
 続けてショットを行おうと狙いを定める所作を眺め、ふぅん、とまた相槌を返したショウは、緩く首を傾げる。
「お前は何て呼びたい?」
 カツンッ。手球は2番の球にぶつかるも、ポケットに辿りつくことなく台の上を転がすだけ。
(確か親しい人にしか名前で呼ばせてなかったな……極力呼びたくないけど、そうもいかないか……)
 思案顔ですっかり黙り込んでしまった精霊にかすかに笑みを浮かべ、ショウは先と同じ球を狙いながら提案する。
「よし、お前が勝ったら好きに呼べ。俺が勝ったら俺が決める」
 言いながらのショットは、軽やかに2番の球を落とす。
 勝たせる気がないかのような様子に、碌な呼ばせ方をしない気がして、思わず眉が寄った。
 普段は、役職名で呼んでいる相手。
 本当なら、あまり関わりたくない相手。
 良い予感は、しないのだ。
 表情の険しくなる廉硝をちらと盗み見て、ショウはくすりと小さく笑っていた。
 そんな心理戦じみたものを挟みながらのプレイは、結果を見て見れば廉硝に軍配が上がっていた。
 とはいえ。
「さて、何て呼ぶ?」
 勝ってしまった事で賭けのような提案の判断を迫られて、言葉に詰まる廉硝。
(好きに呼べと言われても……)
 正直、困る。難しい顔をしている廉硝を楽しそうな笑みを湛えて見つめているショウは、もしかしてわざと負けたのか。
 反応を楽しむような様子に、疑いの眼差しを向けるが、当の本人はそ知らぬ顔。
 小首を傾げ、悩む様に助け舟を出す体で、提案する。
「決まらないのか? そうだな……例えば、俺の嫁は、ショウと呼ぶぞ」
 ショウの、嫁は。
 廉硝の、好きな人。
 知られていると思っていたのに……いや、知られているのを知っているからこそ、廉硝は即座に理解した。
 あてつけか、と。
(人の傷抉って何が楽しいんだか……まぁ、楽しいんだろうな、この人は)
 そう言う人間だと、理解している。そしてそれと付き合っていかなければいけない事も。悲しいことだが。
 溜息をつきつつも、無表情のまま。呆れに見せかけた諦めを湛えて、廉硝はショウを見た。
「じゃあ、ウィンクルムの時はショウと」
「敬語もそんなに使わなくていいぞ」
 けれど思い出したように付け加えたショウに、諦観の中の何かが、刺激されて。
「助かります、クソ野郎」
 ささやかな反抗とばかりに毒づけば、ショウが噴出し、声を上げて笑った。
 嫌味が通じたのなら、何よりだ。
 一矢報いた気分に、廉硝は胸中でだけかすかに感情を綻ばせていた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月15日
出発日 11月21日 00:00
予定納品日 12月01日

参加者

会議室

  • [8]月岡 尊

    2015/11/20-22:38 

  • [7]ショウ=エン

    2015/11/20-21:07 

    ギリギリの参加ですまない。ショウ=エンだ。
    時間が取れたから新しい精霊と一勝負しようと思う。よろしく。

    さて、どっちが勝つやら……。

    【ダイスA(10面):3】【ダイスB(10面):4】

  • [6]蒼崎 海十

    2015/11/20-00:20 

  • [5]月岡 尊

    2015/11/20-00:13 

    アルフレド:
    ちッス!
    ドーモ、俺はアルフレド。ツレは神人のツキオカさん……月岡尊。
    どーぞヨロシク頼むな!

    そんじゃまー、一発勝負としゃれこむか……!!(てーい)

    【ダイスA(10面):10】【ダイスB(10面):8】

  • [4]蒼崎 海十

    2015/11/20-00:01 

    フィン:
    (アイコン間違えて、ちょっと恥ずかしい)

    ふむふむ、こんなカンジだね。

    それじゃ、楽しい一時になるように頑張ろうか!

  • [3]蒼崎 海十

    2015/11/19-23:59 

    フィン:
    俺もやった事がある、程度なんだけど、
    こういう勝負って、何でか燃えちゃうよね…!

    二回目だ(ていっ)

    【ダイスA(10面):1】【ダイスB(10面):7】

  • [2]蒼崎 海十

    2015/11/19-23:58 

    蒼崎海十です。パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願い致します!

    俺がビリヤード未経験なので、一回目はフィンに教えて貰いながら、二回目はフィンと勝負してみようかなと思ってます。

    では、まず一回目…!(サイコロを転がし

    【ダイスA(10面):8】【ダイスB(10面):3】

  • [1]李月

    2015/11/18-03:22 

    李月っていいます
    よろしくお願いします

    僕等は二人でプレイして早々に退散予定です
    (後ろでやる気満々でキュー選びしてる精霊の姿)
    はぁ‥(面倒くさそうな顔) ダイス振るか

    【ダイスA(10面):1】【ダイスB(10面):3】


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