ミルフィオリに想いを込めて(寿ゆかり マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロスのはずれにあるとあるガラス工芸館。
 二人はそこのショーウィンドウの前で立ち止まった。
 美しいガラス細工がキラキラと陽の光を受けて輝く中に、ちょこんと置いてあるネックレス。
 綺麗だなぁと見つめていると店主と見られる老人が店のドアを開けてくれた。
「おや、お客さんかな」
 二人の見つめるネックレスを見ると、老人はにっこりと笑ってこう言った。
「ミルフィオリに興味があるのかい?」
 これはミルフィオリというんですね、そういうと、老人は頷く。
「好きなガラスパーツを選んで配置して、自分でデザインも出来るんだよ」
 オリジナルのミルフィオリを作れるとのことだ。
 店内に招き入れられると、そこは木のぬくもりにあふれるカフェになっており、奥でミルフィオリを作れるようになっている様子。
「私の生まれ故郷ではね、ミルフィオリに願いをかけるんだ」
 赤い花は、持つ人の愛がずっとつづくように。
 白い花は、持つ人が危険にあわないように。
 緑の花は、持つ人が健康でいられるように。
 青い花は、持つ人が今よりもっと知識を蓄えられるように。
 紫の花は、持つ人に幸運が訪れるように。
 黄色い花は、持つ人がお金に困ら無いように。
 黒い花は、持つ人が贈った人以外の人を見ないように。
 それぞれの花の意味を説明する老人は、故郷を懐かしむようにガラスパーツをテーブルに広げる。
「もちろん、いろんな色が入っているミルフィオリも素敵だよ。効果を打ち消し合ったりはしないし……自由に組み合わせてごらん」
 ガラスのプレートの上にデザインを並べたら、綺麗に仕上げてあげるよ。と言い残して老人は奥の作業場に戻って行った。
 さぁ、どんなミルフィオリを作ろうか。

解説

●ミルフィオリを作ってみよう。
 ミルフィオリとは。ちっちゃい色の付いたガラスの金太郎飴みたいなのを配置して、
 上から透明なガラスで閉じ込める感じのガラス細工。花束みたいで綺麗です。
 色の説明はおじいさんから聞いている体のエピソードですが、聞き逃していても構いません。
 バッチリ聞いてて「えっ、こいつ黒い花なんて……」とかもOKです。
 色とりどりのお花を並べても、一色にしても大丈夫です。
 (色は、プロローグにない物を入れても大丈夫です。ジンクスは無いけど)
 一つのミルフィオリに入るお花の数は8~23個くらいが目安です。
 細かく設定したいよ! と言う方は真ん中の色は何で、
 その外側をぐるっと何色で囲んで~とかの指定をしてもOKです。
 お互いに贈りあってもOKですし、二人で一つのミルフィオリを作ってもOKです!
 お互い出来上がるまで内緒にし合って作るのも良いですね。
 (その場合はちゃんとテーブルを分けられます)
 ミルフィオリが出来上がるまで40分くらいかかるので、その間カフェでお茶を飲んでいてもOKです。
 (そのまま待っていてももちろんOK。カフェの描写が無い分、ミルフィオリの分に詰めてくださいね)
 ミルフィオリ代金は、おひとり様300Jr おふたりセットで500Jr
 カフェ利用料金は二人で200Jrです。
 カフェはコーヒー、紅茶、ソフトドリンクのみです。(ミルフィオリ柄の手作りクッキーサービスです)
 出来上がったミルフィオリはネックレスやキーホルダーに加工できます。
 サイズは大体100円玉サイズ~500円玉サイズ位を想定してください。

 *基本的に他のウィンクルムと遭遇しません。
 *相談期間が短いので、お気をつけて~。


ゲームマスターより

ミルフィオリ、つくったことがあるんですが、とってもきれいです。
もしよかったら皆さんも検索してみてね。夏は紫陽花みたいなのも綺麗だと思うし
冬はブーケや雪の結晶みたいに仕上げるのもすごくきれいです。

大切なパートナーに、お守りを作ってあげるとかそういうの好きなんです!!

どうぞ、よろしくお願いいたします。


リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  ラキアと2人でひとつずつミルフィオリでキーホルダーを作ろう。
お互い贈り合うんだ。
お守みたいな感じで持っていられればいいじゃん?
願いを掛けるってのにあやかってさ。
ラキアが危険に遭わないように、白い花で纏めたい。
地色は明るい緑にして。そこに白小花が満開って感じがいいじゃん。春の花畑ってイメージで。
依頼の時は危険がつきものだけれど、これのお蔭で少しでも危険が減るかもしれないし。こういうジンクスは信じるタイプなんだよな、オレ(笑顔。
そんな感じに作りたい、と希望を言って店主さんから作り方の指南を受けるぜ。

待っている間カフェでコーヒー飲んで一息つく。
巧く出来るかな。
出来上がったらその場でラキアと交換する。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  ミルフィオリに願いをかける…素敵だと思った
内緒でフィンに贈るものを作りたい
作るのを見られるのは何だか恥ずかしいから、別々に作ろうと提案

白・緑・紫、そして黒
黒だけ、俺の願望
黒を真ん中に目立たないよう数は少なめ
その外側を白・緑・紫の順で丸く囲む

出来上がるまでの間、カフェでお茶
俺はコーヒー
ミルフィオリ柄クッキーが可愛くて甘い
フィンはどんなミルフィオリを作ったんだろう
…でも尋ねると俺も答えないといけなくなるから、出来上がりまで我慢

完成したミルフィオリはネックレスに加工
身に付けてお守りにして欲しいなと

照れ臭いから、フィンしゃがんでくれと頼み
身を屈めた所に、ネックレスを着けてやり
俺の見立て通り、似合うなと



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
 
白い十字架を紫の花で囲む
黄色と緑で歯車をイメージ
ペンダントにする

初めて見るミルフィオリに内心興味津々
事前に二人目の精霊のイサークに作って欲しいと頼まれ渋々了承
黙々と作成
偶にサーシャの様子を見て作成の参考に

黄色の花が向日葵と重なって見えて少し故郷を思い出す
すぐに忘れようとする

完成するまで店内をサーシャとうろつく
最近、夢とはいえサーシャをこの手で殺めてしまい距離感が掴めず変に避けて迷惑をかけた事をまず謝る


台詞
お前は自分用に作れ
甘えと頼りになるは似て非なるもの
…どうしてもとせがまれたから仕方なく、だ
後で喚かれるのも面倒だし
もしかして妬いてるのか?(冗談ぽく
お前にはもう渡しただろう(懐中時計を指差し



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  イチカの「お互い作って贈りあおう」という提案を受けてミルフィオリを作ってみることに

色の説明聞かなきゃよかったなあ……作りづらい
悩んだあげく選んだ色は白と緑、そして紫
イチカは気にしてないみたいだけど、意外と身体が傷だらけだし、ウィンクルムとして健康でいて欲しい
あとなんやかんやで幸薄そうだから
というわけでこの三色

面と向かってミルフィオリを渡すのはなんとなく恥ずかしい
「……ほら」
イチカから貰ったミルフィオリを見て、配色に驚く
黒ってこいつ……
なんだか誤魔化されてる気がするんだが……まあいい
不思議と悪い気はしない

「捨ててもいいとかそんなこと言うなよ。大事に……」
大事にする、と言いかけてやめる。柄じゃない



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  千の花か
専門じゃねぇが、興味ある
「仕上がる過程、見させて貰っていいですか」
※年長の職人相手の為普段使わない敬語を普通に使う

作るミルフィオリは紫と緑の花を使用
補色の組み合わせだから、色配分注意な
緑多め紫少なめに考えるか
リースのような形で配置してぇな

※見せて貰えたら熱心に見学

「他の花?
イェルが危険なら俺も一緒に行くし、仕事や仕事の勉強頑張ってるって知ってる
イェルの愛情を疑ってねぇし、離さねぇって言ったからなぁ」※他は願う必要ない意味
…ピャアアアした
(レベル3か)
「俺がどうにも出来ない部分の健康と幸運を願ってな」
持ち易い形で持っておけよ?

意味暴露されたら
「だったら何だよ」
※顔背けるが、微妙に顔が赤い



 蒼崎 海十は、ミルフィオリに願いをかける、と聞いて心がふわりと温かくなるのを感じた。
(……素敵だな)
「いいね、俺たちも作ろうか」
 フィン・ブラーシュは、にこりと笑って提案する。海十は頷き、すぐに切り出した。
「えーと……別々に、作ろう」
(作っているところを見られるのはなんだか恥ずかしい)
 海十はそれを悟られないようさりげなく言った。フィンも、快諾する。
(……丁度良かった)
 海十に贈る物を作りたいから、本人には見えないように作業したかった。出来上がってからデザインを見てもらう方が、きっと良い。フィンは内心ホッと胸をなでおろす。
 海十は、フィンと背中合わせに作業テーブルに座ると白、緑、紫、そして黒い花を手に取った。ピンセットでつまんで、丁寧に配置していく。
 ――まず、真ん中に……黒。
(黒だけ、俺の願望)
 ――俺だけを、見て。
 目立たないよう数は少なめ。その外側をそっと危険から守るように白い花で囲い、更に緑色の花で健康を祈り、幸運が彼を包み込むようにと願いながら紫の花で包む。
(できた……)
 その後ろで、フィンは小さくため息をつきながら、迷いつつ花を手に取る。
(欲張りな俺は全種類願いを込めたくなるけど)
 苦笑しながら、フィンは黒い花を手に取った。
 海十がしたのと同じように、フィンは大きめの黒い花を真ん中に一輪。そして、その周りに真っ赤な花を『愛が続くように』と願いを込めながら綺麗に囲うように並べる。
(海十が俺だけ見てくれて、愛してくれたら……)
 独占欲を秘めた黒い花が赤い花で囲まれている様は、どこか背徳的で美しい色合いになっている。
「俺がきっとずっと守って見せる……なんて」
 小さな小さな声で呟いた言葉は海十には聞こえることは無く。
 その色が示すのは独占欲だけではなく、確かな愛情と優しさだった。
 出来上がるまでの間、二人はカフェスペースでゆったりと待つことに。海十はコーヒーを飲みながら、一息ついた。小皿に乗せられたミルフィオリを模したクッキーが、愛らしく、そして甘い。
「クッキー美味しいね」
 紅茶によく合う、と笑顔でフィンはクッキーを口に運んだ。見た目も華やかで楽しくなる、と言うと、海十も頷く。
 はたと海十は尋ねたくなった。
(フィンはどんなミルフィオリを作ったんだろう)
 けれど、それを聞いてしまったらきっと自分も言わなければいけなくなる。そう思って我慢しようと言葉を引っ込めた海十と、フィンは全く同じことを考えていた。
(聞きたくなったけど……完成を楽しみにしよう)
 ゆっくりと紅茶を口に運び、穏やかな時間を過ごす二人。
「できたよ!」
 ややしばらくして、老人が工房から顔を出した。綺麗な箱に入れて、ネックレスに加工したミルフィオリを手渡してくれる。箱は閉じたまま。まだお互いに何を作ったのかわからない状態。
 海十は少し照れくさそうに口を切る。
「……フィン、しゃがんでくれ」
 なんだろう、と思いながらフィンが軽く屈むと、その首にネックレスがしゃらり、と降りてきた。
「俺の見立て通り、似合うな」
 フィンは、首にかけられたミルフィオリの色をみて、少し驚き、そしてふわりと微笑む。
「……嬉しい」
「身に付けてお守りにして欲しいな……って、思って」
 同じ思いで作ってくれたんだ。そう思うと、フィンは嬉しくて胸がいっぱいになる。
「あのね、海十。俺も……海十にプレゼントしたくて作ったんだ」
 海十がしてくれたのと同じように、海十の首にミルフィオリをかけてやる。
「……この色……は……」
 海十がミルフィオリの真ん中の色を見てサッと頬を赤らめる。
 ――同じ事、考えていたんだ。
「海十に出来るだけ近くずっと……」
 フィンは優しく微笑んで、海十のミルフィオリをそっと指でなぞった。
 図らずもお揃いになったミルフィオリは、二人の胸元で、優しく揺れている……。

「ミルフィオリかあ、綺麗だね」
 イチカ・ククルは、神人たる天原 秋乃に笑いかける。
「あぁ」
「せっかくだからお互いに作って贈りあおうよ」
 イチカの提案に、秋乃は特に反対する理由もないし、綺麗なミルフィオリに興味もあるので頷くこととした。
 作業テーブルに向い、秋乃はうーんと唸る。
(色の説明聞かなきゃよかったなあ……作りづらい)
 眉間にしわを寄せている秋乃をよそに、イチカはバッチリと聞いた説明を思い返しながら花を選び始めた。
(……白と緑と青、あとは黒も少しいれておこう)
 危険から守ってくれるように、白と緑をベースに。ウィンクルムだから危険はつきものだけれど、少しでも無事でいられるようにと願いを込める。
(無病息災っと)
 そして、教職を志す秋乃のために、青い花。
 ――最後に、黒い花。
(「僕だけをみて」とまでは言わないけど、僕の傍から離れないで欲しいから……)
 そっと置いた黒い花が、ほんの少し浮いた感じで輝いている。
 秋乃もようやく悩みぬいて色を決めたようだ。
 白と緑、そして紫。
(イチカは気にしてないみたいだけど、意外と身体が傷だらけだし、ウィンクルムとして健康でいて欲しい)
 無病息災。イチカと同じ願いを意図せずミルフィオリに込める。そして。
(あとなんやかんやで幸薄そうだから紫)
 ……サラッと失礼な事を考えてしまったような。
 ――幸運が訪れますように。というわけでこの三色。
 店内を見たり、二人で他愛もない話をして時間をつぶし、ややしばらくして、出来上がったミルフィオリを受け取り、秋乃は少し気恥ずかしそうにイチカへ差し出した。
「……ほら」
 面と向かって渡すのはなんだか恥ずかしい。少し、視線を逸らす秋乃にイチカは満面の笑みを浮かべる。
「わ! ありがとう!」
 これで僕もラッキーになれるかな? なんて笑うイチカがお返しにと差し出したのは。
(黒ってこいつ……)
 受け取ったミルフィオリをみて、秋乃は目を丸くする。
 それはまるで自分の本心をあまり明かさないイチカのように、少し異質な――黒。
 イチカは、へらっと笑った
「僕あんまり色の説明聞いてなかったんだよねー。どういう意味があるんだっけ?」
 本当は、嘘。
 しっかりと聞いていた。
 黒い花の意味も、全部、知っている。
「ん? ああ……」
(なんだか誤魔化されてる気がするんだが……まあいい)
 秋乃が説明するよりも前に、イチカはとんでもないことを口にした。
「気に入らなかったら捨ててもいいよ」
 不思議と悪い気はしない、そう思ったのに、どうしてそんなことを言うんだ? 秋乃はむっと口を噤む。そして。
「捨ててもいいとかそんなこと言うなよ。大事に……」
 イチカはそんな秋乃の反応を見るように、少し期待を込めた視線を送る。
 それに気づいてか気づかないでか秋乃はふいと視線を逸らした。
(柄じゃない)
 大事にする。
 そう言いかけたけれど。
 ――そう思っていることに、嘘は無いけど。
 そんな秋乃の様子を見て、イチカは心底嬉しそうに笑った。
(秋乃から貰ったミルフィオリは大事にしよう)
 ぎゅっと、大切にその手に閉じ込めて。

「千の花、ですか」
 ミルフィオリ、と聞いてイェルク・グリューンはその言葉の意味を噛みしめるように呟いた。傍らの神人、カイン・モーントズィッヒェルはアクセサリー職人の血が騒ぐのか、専門ではないけれど興味深そうにミルフィオリを見つめている。そして、老人に尋ねた。
「仕上がる過程、見させて貰っていいですか」
「ん? おお、興味を持ってくれるのかい、もちろん、いいよ」
 焼き釜に入れるだけだけどね、と照れくさそうに笑う老人はどこか嬉しそうだ。今日はミルフィオリのフュージングだけなので、バーナーを使った蜻蛉玉などの機材は使わないけれど、そんな機材や窯の数々も興味深いとカインは目を輝かせて作業場を覗き込む。
 敬語使用するカインはなんだか新鮮で、イェルクは微笑ましく思い小さく笑った。
 そんなイェルクは、カインとは別の場所でミルフィオリを作り始める。緑を少なめにして、赤と白の花束みたいになるように花をランダムに配置していく。カインは、イェルクに背を向けながら緑色のリースを作り上げる。そして、リースの飾りに紫色の花を転々と配置していけば、シックなバランスの良いクリスマスリースのような模様が浮かび上がった。
「じゃあ、焼くよ~」
 老人はガラスの上に並べたミルフィオリを確認し、小さな焼き釜にいれる。その様子を、少年のように目を輝かせて見つめるカイン。それを、カフェから紅茶を飲みながら見つめるイェルクの表情はとても穏やかだった。
 ガラスに閉じ込められたミルフィオリは高熱で真っ赤になっており、冷めるまでしばし待たなければならない。真っ赤な状態のガラスも見せてもらえて大満足でカフェに戻ってきたカインに、イェルクは笑いかけた。
 それからしばらくして、冷めたミルフィオリを交換する。
「おや」
 イェルクはぱちくり、と目を瞬かせた。
「どうした」
「意外な色だと思って」
 緑と紫だけなんですね。とミルフィオリを見つめ、他の花は? と問われたカインは答える。
「他の花? イェルが危険なら俺も一緒に行くし、仕事や仕事の勉強頑張ってるって知ってる。イェルの愛情を疑ってねぇし、離さねぇって言ったからなぁ」
 さらりと言ってのけたカインに、イェルクはふわっと頬に赤色を差す。
 ――それはつまり、そのことについて願う必要は無い。と言う意味で。
「俺がどうにも出来ない部分の健康と幸運を願ってな」
 恥じらうイェルクにニッと笑いかけると、頭からわずかに湯気が出てるのではないかという勢いのイェルクが俯き気味にこくりと頷く。
「ありがとうございます」
 嬉しいです、と呟いた声が、いじらしく、愛おしい。
「持ち易い形で持っておけよ?」
 カインの言葉に、イェルクは何度も頷いた。そして、カインはイェルクから受け取ったミルフィオリを見て頬を緩める。
(私の願いも届きますように)
 祈るようなイェルクの視線に、カインは嬉しそうに頷いた。
 ひょこり、と老人が顔を出す。
「お兄さん、粋なモンを作ったよね~リースだろう?」
 カインの口から明かされることの無かったリースの意味を老人はぽろりと口走る。
「終わりのない永遠の象徴……はじめも終わりもなく、永遠に続く神の愛を表しているのさ」
 悪戯っぽく老人が笑う。慌ててカインがそっぽを向いた。
「だったら何だよ」
 顔をそむけてしまっているが、後ろからでもわかる。耳が僅かに赤い。その様子を見て、老人とイェルクは小さく笑った。
「愛されているね」
 老人が優しくイェルクに微笑みかける。
「……嬉しいです」
 はにかみながら、ゆっくりと頷いたイェルクの顔は、幸せに満ちていた。

「ミルフィオリ……」
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは、初めて見るミルフィオリに興味津々で老人の説明を聞いた。精霊、アレクサンドルは、ミルフィオリを作って交換しないかと申し出る。
「お前は自分用に作れ」
 さらりと断るヴァレリアーノに、アレクサンドルは内心傷つきながらしぶしぶ承諾した。
 そして、ミルフィオリを作り始めるが、……何度色を置いてもヴァレリアーノの事を思い浮かべてしまう。仕方ないので、無理にそのイメージから離れようとせず、真っ白な花に紫の花を浮かべ、黒い花で縁取りした『ヴァレリアーノ』のイメージミルフィオリを完成させる。
 その頃、当のヴァレリアーノは十字架を白い花で象り、それ紫の花で囲んで、周囲に歯車のような黄色と緑を配置し、時々アレクサンドルの作品を盗み見ながら参考にしつつミルフィオリをくみ上げた。
 事前に二人目の精霊のイサークに作って欲しいと頼まれたものを、ただ、黙々と作り上げる。けれど、手元の黄色を見たときにその花が向日葵と重なって見えた。
 ――少しだけ故郷を思い出す。ヴァレリアーノは小さく首を横に振り、それをすぐに忘れようと努めた。
 それから、出来上がったデザインを老人に渡し、二人は店内をうろつきながら時間をつぶす。
「その……すまなかった」
 突然、ヴァレリアーノが謝罪を口にした。
 何のことかと首を捻るアレクサンドルに、謝罪の意味を話す。それは、夢とはいえサーシャをこの手で殺めてしまい距離感が掴めず変に避けて迷惑をかけた事。ずっと気に病んでいたのだ。
「相棒なのだから気に病む必要は無いし我も気にせぬ、この話はこれで終いだ」
 アレクサンドルは薄く微笑むが、ヴァレリアーノが切り返す。
「甘えと頼りになるは似て非なるもの」
 だから、きちんと謝罪をしておきたかった。そう言うヴァレリアーノに、アレクサンドルは小さく頷き、もう一度言った。
「ああ、わかった。謝罪は受けた。……この話は、終いだ」
 そして、店内の美しいガラス細工に目を移し、話題を変えるべく問う。
「ところで、アーノはミルフィオリを誰に作っていたのかね?」
「イサークが、どうしてもというから」
 聞く前から、感づいていた。案の定、だけれど、それが事実として明確になると苛立ちが募る。顔にこそ出さないが、明らかに嫉妬している自分に気付いてアレクサンドルは自己嫌悪に陥った。笑顔のまま、問う。
「気に食わないと言う割にはお優しいのだね」
 ふ、と笑いながら言うと、ヴァレリアーノは被るように否定した。
「……どうしてもとせがまれたから仕方なく、だ。後で喚かれるのも面倒だし」
 ちら、と表情を見ると、笑顔のままのアレクサンドルが逆に不気味だ。
「もしかして妬いてるのか?」
 冗談っぽく言ったヴァレリアーノの言葉に、アレクサンドルはさらりと切り返す。
「……だとしたら?」
 アレクサンドルは喉の奥で笑った。
「お前にはもう渡しただろう」
 ヴァレリアーノはアレクサンドルの懐中時計を指さす。
「アーノから貰える物なら何でも嬉しいが。……我はそこまで器は小さくないのだよ」
 もらえるならばうれしいけれど、ヴァレリアーノが他の人間に何かを渡すことに嫉妬など……嫉妬などしていない。言い聞かせるようにも聞こえる。
「お二人さん、出来上がったよ」
 奥から、ミルフィオリをもって老人が現れた。
 箱に収まったミルフィオリのブレスレットを、半ば押し付けるようにアレクサンドルはヴァレリアーノに渡す。
「おい、これは」
 尋ねようとする声を、遮る。
「我達の間柄に目に見える繋がりは要らぬかもしれないが」
 まあ、受け取ってくれ。
 その声色は、拒否権を認めなかった。おとなしく、ヴァレリアーノはブレスレットを受け取る。
 ――その『間柄』について、考えながら……。

 セイリュー・グラシアは、色とりどりのミルフィオリを見て、目を輝かせた。
「へぇ、綺麗だな」
 そして、願掛けの事を老人から聞いてぽんと手を打ち、傍らの精霊、ラキア・ジェイドバインを振り返って提案する。
「2人でひとつずつミルフィオリでキーホルダーを作ろう」
 ラキアは笑顔で頷く。
「お互い贈り合うんだ。お守みたいな感じで持っていられればいいじゃん?」
 キーホルダーならどこにでもつけていけるし、肌身離さず持っていられると笑うセイリューに、ラキアは肯定の笑顔を浮かべる。
「じゃあ、俺も願いを込めてミルフィオリキーホルダーを作るね」
「ん! 頼むぜ」
 作業テーブルに二人並んで座る。
「さて……どんな感じにしようかな」
 うーんと考え込むセイリューに、老人が声をかけた。
「デザインで迷っているのかい?」
 セイリューはこくり、と頷く。
「どんなイメージで作りたいんだい?」
 セイリューは、頭に思い浮かんだ事を、口にした。
「ラキアが危険に遭わないように、……白い花で纏めたい」
 老人はにっこりとほほ笑む。そして、それじゃあ、と白い花と緑色の花を持ってきた。
 セイリューはぱぁっと顔を明るくする。
「あ、それいいかも……! 地色は明るい緑にして。そこに白小花が満開って感じ……」
 ガラスの上に、小さな花を並べていく。綺麗な草原を思わせる緑に、シロツメクサのような白いガラスの花がどんどん咲いていく様は……。
「春の花畑ってイメージで!」
 出来上がったデザインを見て、老人もうんうんと頷く。
「きれいだねぇ、とてもさわやかで、見ていて気持ちがいいね」
「依頼の時は危険がつきものだけれど、これのお蔭で少しでも危険が減るかもしれないし」
 へへ、と笑顔を浮かべ、老人と顔を見合わせるセイリュー。それをみて、ラキアも嬉しくなって自然と笑顔になる。
「ジンクスは信じるタイプなんだよな、オレ」
 セイリューは配置し終わったミルフィオリを老人に渡した。ラキアも、その様子を見ながら自分のミルフィオリに着手する。
(セイリューが危険な目に逢わないように……)
 白い花を手に取りかけ、ラキアはその手を止めた。
 ……というのはほぼ無理な話だ。事件が起きたらセイリューは真っ先に突っ込んで行く。誰かが困っていたり傷ついたりすることに、黙っていられない性分なのだ。そんな彼を止めることは出来ないし、止めるのは違うと思う。だから、ラキアは白い花の代わりに紫の花を取った。
(セイリューに幸運が訪れますように)
 そっと、願いを込めながら花を置く。自分達でも色々と対処をするつもりだけれど、幸運にも手助けをして欲しいから。
 ……それに紫はセイリューの瞳の色だから。
 紫の小花をぎゅうぎゅうに敷き詰めた花の絨毯のまわりに、セイリューは淡い赤色の花をぐるりと置いて行く。
 あたたかな印象のミルフィオリが、出来上がった。
 小さな花がギュッと詰まって咲き乱れるさまは、ラキアの願いが現れている。
 ――ささやかな、でも沢山の幸運が呼び込めるように。
「できたかい?」
 老人に問われ、ラキアは頷く。二人はミルフィオリの仕上がりを待つ間、カフェで一息つくことにした。
「巧く出来るかな」
 セイリューはわくわくを抑えきれない瞳でコーヒーをすすった。
 ラキアは飲んでいた紅茶を一度ソーサーに置いて、しっかりと頷く。
「あの職人さんなら大丈夫だよ。……素敵に出来上がるといいね」
 ややしばらくして、寛いでいる二人の下に出来上がったミルフィオリを持って老人が現れた。二人は、早速包みを交換して開けてみる。
「わぁ……綺麗だな! ……で、なんで紫と赤?」
 セイリューの問いに、ラキアは答える。
「ささやかでも、たくさんの幸運が訪れるといいなって。……そして、いつまでも愛に包まれるように」
 紫の小花が、セイリューの瞳のようで、それが淡い赤色に囲まれる様はまるでセイリューが大きな愛の中にいるようにも見える。
「そっか……ありがと」
 セイリューは少しはにかみながらミルフィオリをライトに透かし、笑う。
「白花は大きさ色々あって可愛いね」
 お花畑みたいだ。
 そう呟いたラキア。セイリューは『花畑』であることが通じていたことに満足そうにうなずいた……。

 ――それぞれのミルフィオリは、きっと素敵な幸運を運んできてくれるはず。
 こんなに、想いがこもっているのだから。




依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月06日
出発日 11月11日 00:00
予定納品日 11月21日

参加者

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