それゆけ!不思議調査団(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 タブロス市内にある公園で、
いま、静かな戦いが繰り広げられていた。

「するもん!」
「しない!」
「すーるーもーん!」
「しーなーい!」

 公園の砂場の中、先ほどまで仲良くおままごとをしていた女の子と男の子が
とあるきっかけから、強い口調で言い争っていた。

「わたしのおとうさんとおかあさんはするもん!」
「おれのとうちゃんとかあちゃんはしない!」
 言い争いの経緯はこうだ。
お父さんに扮した男の子が、仕事へと出勤する体で家に見立てた砂場から出ようとした。
その際に、お母さんに扮した女の子がいってらっしゃいのキスをしようとしたところ、
男の子の強い拒否にあったのだ。
どうやら、各家庭の朝の風景に相違があった様子だ。

「いってらっしゃいのちゅー! するの!」
「しないって言ってんだろ!」
 男の子が強い口調で否定した途端、
女の子の大きな瞳に涙が溜まり始める。
さすがに泣かせるのは不味いと思ったのか、
男の子がとある提案をした。
「じゃあさ、ちようさしようぜ!ちょうさ!」
「ちょうさ……?」
 突然の男の子の提案に、女の子は泣くことも忘れて聞き返した。
「そう、ちょうさ! ウィンクルムがいってらっしゃいのちゅーするかどうか、みにいってみようぜ!」
「ウィンクルム……?」
「ウィンクルムは、ちゅーして強くなってオーガをたおすってかあちゃんがいってた。
だから、ウィンクルムがいってらっしゃいのちゅーをしないなら、ふつうはいってらっしゃいのちゅーはしないんだ」
「わ、わかった」

 かくして、ふたりの子どもたちは
ウィンクルムはいってらっしゃいのちゅーをするかどうかを調査するため、町の中へと走り出したのだった。

解説

いってらっしゃいのちゅー。
あなたはしますか? しませんか?
というお話です。
子どもたちはインスパイアスペルの存在は知りません。
「ちょうさ」にかこつけてちゅーしちゃうもよし、
照れてちゅーできないもよし!

なお、突然訪問したお子様たちへのジュース代金として300jr消費します。

ゲームマスターより

おひ!さし!ぶり!です!
忙しく生きております!
すっごく久々なので軽めのハピエピです。
皆様のちゅー事情、お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  自宅の庭の冬支度中
門扉の隙間から覗く子供達の質問に困惑
いってらっしゃいのちゅーですか?

ウィンクルムのキスはオーガと戦う時の儀式の様な物なので、だいぶ種類が違う物ですし

いってらっしゃいでするかしないかは
どちらが正しいという物ではないかと

2人でこうしたいというのであれば、いってらっしゃいの時にぎゅうってハグしたり、お互いに手を振ったりも良いと思うのですけど

改めて2人はちゅーするの?と聞かれ
私達は一緒に住んでいないのでいってらっしゃいをする機会が無いんですよねと誤魔化し


今日のお礼を告げるものの、まだ繋いだ手を離したくない

かのんと名前を呼ばれ顔を上げる
天藍の不意の行動に頬を染めつつ遠ざかる背中を見送る



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  いってらっしゃいのちゅー?
しますよ
新婚さんばりにばりばりです
嘘じゃあないでしょ
だってトランスする時のキスはいってらっしゃいのちゅーと同じようなものじゃないですか、ディエゴさん

ちゅーは相手がいるからできることだから
相手の気持ちを思ってあげなくちゃいけないですよ

ちゅーを特別なものと思ってぜんっぜんしないロマンチストな人知ってますからね
しない、って言われたってそれはその人が私のことを嫌いだって言ってるわけじゃないんです

【女の子に耳打ち】
ちゅーしたいんですか?
さっき言ったように恥かしくて嫌がる人もいます
ちゅーでなくても手を握ったり軽くぎゅっとするだけで
相手を大事に思う気持ちを伝えられるんですよ


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  いってらっしゃいのちゅー
何という質問をしてくるのでしょうかっ

偶々、羽純くんの自宅兼バーにお弁当を届けに来たんです
開店準備をする羽純くん、素敵だなぁなんて思ってたら
子供達が…!

難しい
凄く難しい…!
だって、私と羽純くんは…恋人…ではないし
一緒に住んでもないし
あ、考えたら何かダメージが…

羽純くんの声にハッとして
まだ子供達には何も答えられてない
…深呼吸

これは子供達の未来の為
「いってらっしゃいのちゅー=正義」なんだからっ
私は断固したい!

羽純くんと声を掛けて
「行ってきます」
思い切って彼の腕を引き寄せ、頬に口付けます

「おねーさん達は、やる派です!」
照れを隠す為、胸を張って言い切ります
羽純くんの顔見れないや…



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  えっと…。突然のご質問に戸惑いを隠せませんが。
可愛い子供達の(彼らにとって)ちょーしんけん、な質問なので、ちゃんと答えなくちゃ。
「いってらっしゃい、のちゅー……」
とミュラーさんをチラ見。
何か凄く自信に満ちた表情で鷹揚に頷いてます。
「今、私達は一緒に住んでいないけど…」
もじもじ。
先日の『キスしたら氷結が溶けて解放される事件』(エピ60)の顛末を思い出して、頬が赤くなってきました。ミュラーさんはああいう事を恥ずかしげもなくやっちゃうような人でした!
色々と思いだし1人であうぅ、な感じになっている間にミュラーさんがあっさりと結論を!
「お出かけの時には、する…かな?」と子供達に答えます。実演は遠慮。



向坂 咲裟(ギャレロ・ガルロ)
  契約してから初めてのきちんとした顔合わせ
AROA近くのカフェでお話よ

宿舎を出るの?なら良い所があるわ
ってあら、あの二人…どうしたのかしら?

二人には優しく対応するわ
何故怯えているのかしら?

いってらっしゃいのちゅー?
あら、当たり前じゃないかしら
お父さんのお見送りには必須だわ

ギャレロのお家ではどうだったの?

そうなの…
だったらワタシ達の間でもしましょう
キスは信頼の証よ
ワタシ達はウィンクルムだもの
そう言って、ギャレロの左頬にキスをしようとするわ

そうだわ…口にするのは本当に好きな相手に取っておくものなのよ
両親は口にするけれど、ワタシは頬っぺたにするの
おままごとでも、あなた達は本当に好きな相手同士かしら?



「おねえちゃんたちは、いってらっしゃいのちゅー、しますか?」
 瀬谷 瑞希は目の前の子どもたちの突然の質問に戸惑いを隠せなかった。
まだ年端もいかぬ子どもだからこそ、純粋な疑問にはきちんと答えてあげたい。
だが、彼らがまっすぐな眼差しで向けてきた質問は、
瑞希の論理的な思考を、照れと言う感情で阻害するには十分な威力を持っていた。
「いってらっしゃい、の、ちゅー……」
「かわいい質問だね、とても微笑ましいよ」
 隣から聞こえた声に、ちらりとフェルン・ミュラーを見遣れば、
子どもたちにジュースを買ってきてやった彼は、
それぞれにジュースを開けて渡してやりながら自信たっぷりと言った口調で語りかける。
「勿論、するでしょ」
 鷹揚に頷いた彼の言葉に、女の子の方がやっぱり、と声を上げた。
今、私達は一緒に住んでないけど、なんて照れながら言ってみるものの、肝心の彼はどこ吹く風だ。
不満げな男の子に向かって、優しく微笑みながら語りかけている。
「愛情は、ちゃんと言葉や態度に出さないと伝わらないからね。
黙っていたら察してくれるなんて、そんなことではいけない」
 男の子の前に屈んで、しっかりと視線を合わせて話す彼の言葉を聞きながら、
瑞希は先日の無重力☆カフェでの出来事を思い出し頬が熱くなるのを感じた。
そうだ、彼はああいうことを恥ずかしげもなくやってのける男だったのだ。
 思い出し笑いならぬ思い出し照れで、ひとり慌てる瑞希を余所に、
彼は男の子に、女性への接し方をレクチャーしている。
「好きな女の子には、彼女がどれだけ素敵かを伝えて、
彼女をどれだけ大切にしているか、態度で示さないと。
お互い、大切だよ、と確かめ合うには、行ってらっしゃいのキスは基本だね」
 ああ、私が照れて悶えている間にミュラーさんがあっさり結論を!
これでは私たちが普段からいってらっしゃいのキスをしていると公言したようなものだと
慌てる瑞希を視界の端で捉えて微笑みながら、彼は、でもね、と続けた。
「お母さんからお父さんへ、だけじゃなくて、別にその逆でも一向に構わないからね?
帰ってきたらハグし合うのも大事、むぐ」
 それ以上の言葉に耐えられなくなった瑞希が、フェルンの口を手で押さえて無理やり言葉を遮った。
「お、おでかけの時には、する……かな?
あっ、そういえばあっちにもウィンクルムのお兄さんお姉さんがいたよ!」
 瑞希の言葉に、子どもたちは可愛らしく礼を述べて駆け出して行った。
「……なんだ、実演も見せようと思ったのに」
 残念そうなフェルンの言葉を聞いて、瑞希はますます頬を赤くするのだった。



 駆け出した子どもたちは、立派な庭がある家の前に辿り着いた。
見れば、ウィンクルムの女性が庭の植物に冬囲いを施しているところのようだ。
重たいものを隣に立つ男性が運んでやっている姿は、とても仲睦まじく見える。
女の子がこんにちは、と声をかけると、二人が子どもたちの方を向いた。
かのんと天藍だ。
「おねえちゃんたちは、いってらっしゃいのちゅー、しますか?」
「いってらっしゃいのちゅーですか?」
 門扉の隙間から投げかけられた質問にかのんが困惑した様子を見せる。
どう答えようか迷っているかのんを見て、天藍は子どもたちにジュースを渡しながら問いかけ返してみた。
「どうしてそんなことを聞いているんだ?」
 天藍の質問に、子どもたちは口々にいってらっしゃいのちゅーとウィンクルムのちゅーの話をする。
聞き取るのは骨が折れたが、なんとかだいたいの大筋は理解したかのんが、
まずは二人の誤解を解きにかかった。
「ウィンクルムのキスはオーガと戦うときの儀式のようなものなのでだいぶ種類が違うものですし、
いってらっしゃいでするかしないかは、どちらが正しいというものではないかと……」
 かのんの言葉は、幼い子どもたちにはまだ少し難しかったようだ。
ぎしき? しゅるい? と顔いっぱいに疑問符を浮かべる子どもたちを見て、かのんもまた言葉に詰まってしまう。
見かねて、天藍が助け舟を出す。
「要は、二人が良ければいいんだよ。
ちゅーしたいと思ってる二人ならするんだろうし、どちらかが恥ずかしいと思うならしないんだしな」
 どっちもありだ、と笑う天藍に、子どもたちは少し腑に落ちたような表情を浮かべた。
更に、やっと考えがまとまったかのんが続ける。
「二人でこうしたいというのであれば、いってらっしゃいの時にぎゅうってハグしたり、
お互いに手を振ったりもいいと思うのですけど」
 かのんの言葉を聞いた男の子が、
おれのとうちゃんとかあちゃんもばいばいはする、と納得したように呟いた。
「おねえちゃんとおにいちゃんはいってらっしゃいのちゅーするの?」
 女の子の疑問の対象は、ウィンクルム全般からかのんと天藍の二人に移行したようだ。
改めて尋ねられたかのんは少し戸惑いつつも、
私達は一緒に住んでないのでいってらっしゃいをする機会がないんですよね、と笑って誤魔化す。
ふうん、と頷く女の子に、男の子が声をかけた。
どうやら新たなターゲットを見つけたらしい二人は、手短に礼を言ってかのんの家を後にした。
「やれやれ、子どもってのも色々忙しいものなんだな」

 子どもたちを見送り、庭の冬囲いもひと段落した頃、
一旦借りている部屋へと戻る事にした天藍を、門扉の側までかのんが見送る。
いつものように手を振って別れる、つもりだった。
「ええと……」
 無意識に天藍の手を掴んでしまったのは、ただ単に、別れ難かっただけだ。
今日はありがとうございましたと取り繕うように礼を言えば、
それきり、後の言葉が続かなくなってしまう。
一方天藍も、かのんに握られた手を離せずにいた。
明日また会えると理解はしていても、なんとなく名残惜しい。
だが、天藍の手を握るかのんの手が、少しずつ冷たくなり始めていた。
天藍の脳裏に、先ほどの子どもたちの姿が浮かぶ。
「かのん」
 名前を呼ばれてかのんが天藍を見上げると、
彼の優しい瞳がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
その吐息が一瞬頬にかかり、
はっとしたかのんの唇に少し乾いた天藍の唇が触れた。
掠めるだけのキスをして、天藍はすぐに身を離す。
じゃ、また、とだけ言って、彼はさっと身を翻して町の方へと歩き出した。
かのんは、言葉も無く、去りゆく天藍の背を見送るだけだった。



 子どもたちがたどり着いたのは、小さなカフェの前だった。
ここに、ウィンクルムが入っていくのを見たのだ。
カフェの中では、向坂 咲裟とギャレロ・ガルロが
契約したばかりのお互いの交流を兼ねて、近況報告をしていた。
「しかし、宿舎はイヤなもんだな。めんどくせえ。
どっかいいトコしらねえか?」
「宿舎を出るの? なら、良い所があるわ」
 現在A.R.O.A.の宿舎を仮の住まいとしているギャレロだが、
もともと他人との交流が希薄だったためか、どうにも宿舎暮らしに慣れられずにいた。
どこか良い家があればすぐにでも引っ越したい様子の彼に、
咲娑が思いついた物件を紹介しようとした時。
「あら、あの二人……どうしたのかしら」
 咲娑は、ウィンドウに張り付くようにして店内を見渡す子どもたちに気が付いた。

「さあ、どうぞ」
 子どもたちにと注文したジュースが運ばれてきて、
咲娑はストローを付けて目の前に置いてやった。
先程まで向かい合って座っていた咲娑とギャレロは隣合い、
その向かいに子どもたちが座っている。
カフェの中へと招き入れた子どもたちは思いのほか大人しく、
まるで借りてきた子猫のようだった。まるで、何かに怯えているようにも見える。
「それで、ワタシ達に何か御用だったかしら」
 優しく語りかけると、男の子の方が恐る恐ると言った体で口を開いた。
「あの、ウィンクルムは、いってらっしゃいのちゅー、しますか」
 男の子の質問に、咲娑は考えるそぶりも見せず、すぐさま答えた。
「いってらっしゃいのちゅー?
あら、当たり前じゃないかしら。お父さんのお見送りには必須だわ。
ギャレロのお家ではどうだったの?」
「オレ?」
 咲娑に話を振られたギャレロが口を開くと、子どもたちの表情が目に見えて固まった。
先程から、ギャレロは特に子どもたちには強い興味を示さず、
咲娑と子どもたちの会話を話半分で聞きながらぼんやりと眺めていたのだが、
その元来の目付きの悪さとも相まって、
子どもたちには強面の男に睨みつけられているように思われていたのだ。
勿論、そんなことを気にするギャレロではない。
考えつつも、意外にしっかりと答える。
「あー……知らねぇ。父親は居なかったし、一人だった」
 特に何の感情も込めず、淡々と語られた境遇に、
子どもたちの目が驚いたように見開かれた。
この子達はまだ、世界の広さを知らないのだ。
「ああでも、かあさんがいた頃はオレの額にしてくれた覚えがある」
 母を思い出してか、少し懐かしそうに細められた目元に、
子どもたちは安堵の溜息を漏らす。よかった、悪い人じゃなさそうだ。
ギャレロの言葉に、咲娑はそうなの、と少し考え込んでから、
だしぬけにギャレロの方へと身を乗り出した。
「だったら、ワタシ達の間でもしましょう」
「はあ?」
 唐突な咲娑の提案に、ギャレロは戸惑いを隠せない。
そんなギャレロの反応などお構いなしに、咲娑は言葉を続けた。
「キスは信頼の証よ。ワタシ達はウィンクルムだもの」
 そう言って、ギャレロの肩を抑えて彼の左頬を自分の唇近くへ寄せようとするが
目の前の子どもたちがじっと見ているためか抵抗があるようだ。
ようやく咲娑が頬に口づけられそうになった瞬間、
ギャレロは自身の左手を頬にあて、その手の甲で桜色の唇を受け止めた。
もう、と抗議の声を上げそうになる咲娑に、子どもたちが尋ねる。
「ちゅーは、ほっぺにするの?」
 質問で咲娑の意識が子どもたちに向いたため、ギャレロは手を降ろした。
「そうだわ……口にするのは本当に好きな相手に取っておくものなのよ。
両親は口にするけれど、ワタシは頬っぺたにするの
おままごとでも、あなた達は本当に好きな相手同士かしら?」

 カフェを後にする子どもたちを見送りながら、
ギャレロは先ほど咲娑の唇が触れた左手の甲を見下ろした。
そこには、先日色が変わったばかりのウィンクルムの紋章が刻まれている。
「……ウィンクルム、信頼の証」
 そっと存在を確かめるように、指で触れてみる。
「……悪くねぇ」
 にやりと笑った顔は、通りがかった赤ん坊が泣きだすには十分な迫力だった。


 カフェを出た子どもたちは、
いい匂いにつられてとあるバーの前までやってきてしまっていた。
漂う香りは……から揚げ。
 桜倉 歌菜が手にした包みから漂ってくる。
歌菜は子どもたちにも気づかず、じっとバーの方を眺めていた。
バーの中では月成 羽純が開店の準備をしているのが見える。
 どうやら、歌菜は羽純が仕事をしている姿に見とれているようだ。
おねえちゃんと女の子が声をかけると、歌菜はやっと我に返ったらしく、
子どもたちに、こんにちは、と明るい笑みを向ける。
そんな歌菜の様子に気づいて、羽純もバーの外へとやってきた。
手には、自動販売機で買ったジュースを持っている。
「どうした、迷子か?」
 子どもたちと視線を合わせるように身を屈めて
ジュースを手渡してやりながら羽純が優しく尋ねたが、
ふたりはそうじゃないというように首を振って、
そのまま歌菜と羽純に質問を返す。
「おにいちゃんたちは、いってらっしゃいのちゅー、しますか?」
 え、と声を上げて固まった歌菜と、目を瞬かせる羽純。
「いってらっしゃいの、キスか……
そうだな、父さんが生前、母さんはよくやっていたな。
仲が良いものだと子ども心に感じたものだ」
 なるほど、と納得する子どもたちを前に、羽純は考え込む。
今問われているのは、自分達の事だ。
歌菜とそういうことをするか、と思いを巡らせるが、
顔を真っ赤にして照れ、なかなか先へ進まない歌菜に
自分が焦れてしまう姿が容易に想像できてしまった。
一方、考え込む羽純の隣で、歌菜は赤くなったり青くなったりと忙しい。
 難しい
 すごく難しい……!
という心の声は、もちろん誰にも届かない。
 そもそも、歌菜と羽純はお互いの想いを意識してはいるものの、
決して恋人同士、と言うわけではないのだ。
恋人同士でもなく、一緒に住んでいるわけでもない二人が
いってらっしゃいのキスをするかと言われれば、おそらくNOだろう。
だが、NOと思い切りよく答えてしまうには、
歌菜の想いはあまりにも育ちすぎていた。
結局、自分で出した答えに自分でダメージを受け、意気消沈してしまった。
「歌菜、そろそろ戻らないといけないんじゃないか」
 また何か変な事を考えたんだろう、と
歌菜の思考など見通したような羽純の声に、歌菜はハッと我に返った。
まだ、自分は子どもたちに何も答えられてはいない。
深呼吸をして心を落ち着け、自分に言い聞かせる。
 これは、子どもたちの未来の為。
いってらっしゃいのちゅー=正義なんだからっ!
するかしないかはともかく、私は断固、したい!
「羽純くん」
 呼びかけられた羽純が返事をすると同時に、
歌菜はその腕を引き寄せ、少し踵を浮かせて羽純の頬に口づけた。
突然の歌菜の行動に羽純は目を丸くしたが、
笑って、行ってきますと告げる歌菜の顔が真っ赤に染まっているのを見て、唇の端に笑みを乗せた。
「おねーさん達は、やる派です!」
子どもたちの方に向き直った歌菜が胸を張って高らかに宣言する。
いつも以上に元気に見えるのは、照れ隠しだろう。
その様子が可愛らしくて、羽純も笑いながら告げた。
「そうだな。する派だ。……いってらっしゃい」
 送り出す言葉は、歌菜に向けて。
わかりやすく真っ赤になっている頬に素早くキスを落とせば、
歌菜は耳まで赤くなると、弁当を羽純の手に押し付けてきた道を勢いよく引き返していった。
歌菜の行動に目を丸くしている子どもたちの髪を
羽純が優しく微笑みながらくしゃりと撫でた。
「キスは愛情を確かめ合うものだが、個人差はある。
やってもやらなくても、それで愛情は変わらないさ」
 気を付けて帰るんだよ、と手を振る羽純に礼を言い、二人は帰路へ着いた。


 自宅へと帰る途中、子どもたちは本日最後の調査対象を見つけた。
二人と同じく、家に帰る途中のハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロだ。
急いで駆け寄って、本日五度目の質問をぶつけた。
「おにいちゃんとおねえちゃんはいってらっしゃいのちゅー、しますか?」
 突然の質問だったが、ハロルドはにっこりと笑ってこう答えた。
「いってらっしゃいのちゅー? しますよ。
新婚さんばりにばりばりです」
 この答えに驚いたのは、子どもたちではなく、
隣にいたディエゴの方だった。
「しない。嘘を言うなハロルド」
「嘘じゃあないでしょ。
だってトランスする時のキスはいってらっしゃいのちゅーと同じようなものじゃないですか、ディエゴさん」
 たしかに、受け取り方によっては、オーガを倒しにいってらっしゃいのちゅーと言えなくもない。
だが、子どもたちにそう思われたままでいるのは、ディエゴとしては不本意だった。
「……まあ、そう言われればそんな気もするが
この子たちに誤解のないように言った方が良い」
 近くにあった自動販売機で買ったジュースを手渡しながら、
ディエゴは子どもたちにトランスのキスについて説明を始めた。
「ウィンクルムというのは悪いオーガと戦うんだ。
オーガを倒すためには自分のパートナーから力を貰わなければいけない、
それが君たちが言っているウィンクルムの「いってらっしゃいのちゅー」ってやつだな。
だが君達のお父さんやお母さんがする「ちゅー」とは違う」
 わかったような、わからないような表情の子どもたちだったが、
ディエゴの真剣さに押されてうんうんと頷く。
その身振りを理解したと取ったディエゴは、更に言葉を続けた。
「そして、ちゅーはしてもしなくても変な事じゃないぞ。
色んなお父さんとお母さんがいる。
大事なのはお互いに優しくして一緒に暮らしているってことだ。
だから、どちらが恥かしくてちゅーができないなら、それに合わせてあげような」
 ディエゴの言葉を飲み込もうと必死になっている子どもたちに
今度はハロルドが語りかけた。
「ちゅーは相手がいるからできることだから、
相手の気持ちを思ってあげなくちゃいけないですよ。
ちゅーを特別なものと思って、ぜんっぜんしないロマンチストな人知ってますからね。
しない、って言われたってそれはその人が私のことを嫌いだって言ってるわけじゃないんです」
 ハロルドの言葉に、女の子が少し安心したような表情を浮かべたのを、
彼女は見逃さなかった。
そっと女の子の耳元に唇を寄せ、内緒話のように囁いた。
「ちゅーしたいんですか? さっき言ったように恥かしくて嫌がる人もいます。
ちゅーでなくても手を握ったり軽くぎゅっとするだけで、
相手を大事に思う気持ちを伝えられるんですよ」
 そういって、がんばれ、とでもいうように軽く背を叩いてやれば、
女の子の表情がぱっと明るくなった。
ありがとう、お姉ちゃん、と笑った彼女の頭を、
ハロルドが優しくなでてやる。
「なんの話だ? ……聞いてるのかハロルド」
 楽しそうにしている女性二人に、ディエゴと男の子は不思議そうな表情を浮かべた。
内緒ですよ、と返すハロルドの声が終わるか終わらないかのうちに、
子どもたちの帰宅を促す鐘の音が響く。
「やべ、こんなじかんだ。おれたちかえらなくっちゃ。
またな、おにいちゃんたち!」
 いこう、と声をかける男の子の手を、女の子がそっと握る。
ちらりと振り返ったあどけない瞳と、ハロルドの視線が交わった。
気を付けてね、と手を振れば、
女の子はもう一度、ありがとう、と呟いて、夕暮れの町へと帰っていったのだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月06日
出発日 11月11日 00:00
予定納品日 11月21日

参加者

会議室

  • [9]瀬谷 瑞希

    2015/11/10-23:55 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    プランは提出できました。
    子供達の純真な質問は、時に巨大な破壊力を生みますね。

  • [8]向坂 咲裟

    2015/11/10-23:32 

    きちんと挨拶出来なくてごめんなさい。
    プランは提出完了よ。

    ギャレロとはまだウィンクルムとしての活動はしていないけれど…この調査は、どうなるかしらね。
    素敵な時間になるよう祈っているわ。

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/11/10-22:53 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/11/10-22:52 

  • [5]かのん

    2015/11/10-22:22 

  • [4]桜倉 歌菜

    2015/11/10-00:41 

  • [3]桜倉 歌菜

    2015/11/10-00:41 

    確かに、すっごく困っちゃう質問です…!
    (羽純をチラチラ)

    いってらっしゃいのちゅー…乙女の浪漫…どう答えるべきか…!(もだもだ)

    皆様の答えが、凄く楽しみです!(拳握り)

  • [2]かのん

    2015/11/09-20:55 

  • [1]かのん

    2015/11/09-20:54 

    こんにちは
    面と向かって聞かれたら、なんというか答えにくい調査ですね
    ……どう答えましょうか……?


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