【お菓子】危険な仮装パーティ(木口アキノ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「ハロウィンなんてお祭り騒ぎ、僕達が紛れ込むには好都合だね」
 古い屋敷の衣裳室で、正装した妖艶な青年が唇をにぃ、と歪める。唇の端から鋭い牙が覗く。
「久しぶりに美味しい血にありつけそうだね、兄さん」
 隣に並ぶ色白な青年が、ぺろりと唇を舐めた。
 そう、彼らは吸血鬼の兄弟。それも、二人だけではない。
「噂に聞いたけど、神人ってやつの血は、格別に美味いらしいぞ」
「しかも、心臓から直接いただくのが最高だとか」
 別の兄弟が口々に言う。
「僕……上手くできるかな」
 末弟らしき少年がその整った顔を曇らせる。
「大丈夫さ。僕たちには催眠の能力があるじゃないか」
「その能力で神人とやらを操って、上手く人目の無いところに連れ込めばいい」
「ただし、気をつけなきゃならないのは、催眠は女性にしか効かない。一度解けてしまえば、2度目の効力はない」
「まあ、解けることなどほぼないだろうけど」
 兄たちは、今宵の馳走を確信して笑った。
 それでもまだ、末弟の不安は消えないらしい。
「催眠の効力は、どんな時になくなってしまうの?」
「そうだな……例えば、強い『絆』を持つ相手から、絆の記憶を呼び起こすような何かをされる……とか」
「けど、そんなに強い絆で結ばれる者などそうそういない」
「安心して、繰り出そうじゃないか」

 そうして、吸血鬼の兄弟たちは、ジャック・オー・パーク内のダンスホールへと消えてゆくのであった。

解説

 リザルトはダンスパーティで精霊がちょっと目を話した隙に神人が吸血鬼の催眠にかかってしまったところから始まります。
 吸血鬼に連れていかれる神人を精霊がなんとか止めてください。
 催眠を解くヒントはプロローグ内にあります。
 吸血鬼は複数いますから、手間取ると他の吸血鬼にも邪魔されてしまうかもしれません。
 急いで神人を取り戻さなければ、神人は……。
 神人が正気に戻っても、吸血鬼をなんとかしないことには逃げられません。
 武器の装備がないので素手になりますが、頑張ってください。
 大丈夫、一撃当てれば退散してくれます。

ゲームマスターより

 ダンスパーティ参加費用として一律【500ジェール】かかります。
 飲食代、衣装代を含みます。
 パーティには軽食、飲み物(アルコール含む。未成年者は飲酒できません)も提供されます。
 仮装パーティですので、どんな仮装をしたいかもプランに明記してくださいね。

 心臓から直接ということは、ほら、服とかも!←心配するところは果たしてそこなのか!?
 神人いろいろとピンチ!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  誰かが私の名前を呼んでる
黒髪で紅い瞳の、男の人…誰、だっけ?
どうして私の名前を必死に呼んでいるんだろう?

どうして…ううん、私この声を知ってる(足を止めて精霊の方に振り返る)

その人はたった1人で何もかも背負おうとする人で

誰も傷つかないようにって、自分が苦しいの隠して戦おうとする

とても優しくて、不器用な…私の一番大切な人(精霊に耳元に囁かれて記憶が戻る)

そ、それは何かが違っていると思うのっ(笑いながらも精霊が物凄く怒っていることを感じ取りあわあわ)

催眠にかかっちゃってごめんね
美味しそうなスイーツがあったから一緒に食べようと思ってそれで…ひゃう!?(精霊に首筋にキスされ)
お、おしおきって…(赤面)


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  仮装:ウィッチ

…あれ、私ってばいつの間にこんなところへ?
グレンがいつの間にかいなくなってて会場をあちこち探し回ってたはずなんですけど…
あ、そうだ!確かグレンを見かけたから案内してくださるというとても親切な方がいて、その方に案内して貰ってたんです!
…えっ、吸血鬼だったんですか?

…今更ですけど、何だか少し怖くなっちゃいました…
もしグレンが私を見つけてくれるのがもう少し遅れてたらどうなってたんだろうって。
落ち着くまで、ほんの少しの間だけぎゅってさせて下さい…ね?

もうはぐれないように今日はずっとこうしてくっついてます。
あ、歩く時は…えーっと…腕、組んでちゃ駄目、ですか?



かのん(天藍)
  胸元が大きく開いたサテン地の黒いドレス
蜘蛛の巣を連想するレースでできたボレロ
とんがり帽子をかぶって魔女の仮装

ダンスの合間
天藍が2人分の飲み物を取るのに、ほんの少し離れた時
吸血鬼の仮装をした人に声をかけられる

我にかえると天藍に手を取られ抱き寄せられている
寸前の記憶がなく困惑
天藍曰く少しタチの悪い悪戯をかけられただけだと

吸血鬼を殴った天藍の手を取る
どこか痛めたりはしていませんか
大丈夫という言葉と、かのんこそ具合が悪かったりしていないかと尋ねられどこも悪くない事を笑顔で伝える

天藍に改めてマントに包むように抱き締められ
冗談交じりに助けた礼は甘い御褒美だと嬉しいんだがと

感謝の気持ちを沢山込めて頬にキスを



クロス(オルクス)
  ☆少し露出多めのサキュバス風衣装

☆催眠中
・目の前の人がオルクと錯覚

☆催眠解く方法
・オルクスに後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれ首筋を血が出る程強く噛じら血を吸われる

「……っ!?
ぅ、ぁ…っ!
お、ぅく…っ(あまりの痛さに覚醒
馬鹿なにしやがる!
いくら吸血鬼の格好だからってマジで噛むな血ぃ吸うなぁぁぁぁぁああああああ!
つぅか何してんだ!!
マジで痛いし!!
……てかコイツ誰?」

☆対吸血鬼
・基本体術で対応
・オルクスが吸血鬼の背後に周りやすくする為に攻撃を仕掛けるフリをする
・バックステップで距離を取ったら素早く特攻で回し蹴りを寸止めで行う

☆解決後
「あぁ、次からは気を付けるさ(苦笑
オルク心配かけちまって御免な」


ロア・ディヒラー(クレドリック)
  魔女の仮装で参加
クレちゃんが飲み物をとりにいってくれた間に催眠にかかる。
噛まれて意識が戻ってくるとともに首筋に痛み
「いったぁ!!なんで首を噛むのよ・・・!?・・・てあれ、クレちゃんいつの間に戻って来て・・・」
意識を取り戻した後、クレちゃんの怒りように血の気が引く。それを向けられてる相手にちょっと同情。物理的排除手段って、クレちゃんってエンドウィザードじゃなかったっけ・・・!?
「なんか変な術にかかってたっぽいのかな・・・助けてくれてありがとう。・・・で、でもあのその首また跡残りそうなんだけど・・・」
ケープで隠しつつも、気恥ずかしい。
ちょっと気を抜きすぎてたかな・・・催眠術にかかっちゃうなんて。


●帰る場所
 おどろおどろしくもキュートなハロウィンの飾り付けが施されたダンスホール。
 そこで、吸血鬼に扮したグレン・カーヴェルはひとり、眉根を寄せた厳しい顔。
 隣にいるはずのニーナ・ルアルディの姿が見えない。
(こんな短時間で迷子になるとか……)
 人混みに紛れてしまった神人を探す。
「いた!」
 前方3メートルの位置に魔女姿のニーナ見つけ、声を張り上げようとしたその時。
 吸血鬼姿の青年がニーナを誘導しているのに気づいた。
(な……!)
 グレンは、再び人混みの向こうに消えてしまったニーナを追いかけ、走った。
(迷子になったうえに知らない奴についてくとか、見つけたらどうしてくれようか)
 怪しい青年は、ニーナをどんどん人気の少ない方へと導いていく。
 古城のような装飾の廊下で、ついにニーナは青年と二人きりに。
「ここまで来たら、邪魔は入らないね」
 青年はにやりと笑い、ニーナを壁に押し付ける。ぼんやりした瞳のニーナは抵抗する様子がない。
 青年はニーナが着用している魔女のマントをするりと肩の後ろに避ける。そして、フリルいっぱいのブラウスに手を伸ばした。
「楽しそうなトコ悪いがそいつ先約があるんだ、ダンスの相手なら他当たってくんねーか?」
 廊下にグレンの怒気を含む声が響く。
 青年はグレンをキッと睨みつける。
「食事の邪魔をしないでくれるかな」
「食事?オマエ何言ってるの?」
 相手は自分と同じ吸血鬼の仮装をした者だと思っていたグレンは、青年の言葉に怪訝な顔をする。
 ニーナが青年の前に両腕を広げ立ちはだかった。
「乱暴は許しません」
 力ない声で告げる。
「おい、ニーナ」
 困惑するグレンだが、彼女の瞳が生気を失っていることに気づいた。
(まさかあの男、本当に吸血鬼、とか?)
 ありえない、とは言い切れない。だとしたら、危険だ。
 本当ならすぐにでもそんな危ないヤツ殴り飛ばしてニーナを取り返す。手元に武器がないなんて、問題じゃない。むしろ相手にハンデをくれてやる、くらいの気持ちだ。
 だが、今そんなことをしたら、ニーナを巻き込んでしまう。
「くっ……」
 グレンは拳を握り締め、動けずにいた。
 吸血鬼の青年は唇を噛み締めるグレンを勝ち誇ったように睥睨し、
「場所を変えましょうか」
と、ニーナを促しグレンに背を向け歩き始めた。
 相手が油断したと判断したグレンは床を蹴り付け吸血鬼の背中に渾身の体当たり。
「ぐぇっ!?」
 前方に吹っ飛んだ吸血鬼は、床に転がり呻く。
 そんな吸血鬼を一瞥してから、グレンはニーナに向き直り、彼女の手をとる。
 ニーナの瞳はまだ、ぼんやりとしたまま。なにかの術中にいるのだろう。
 ニーナをこんな状態にしてしまったのは、自分の甘さだ。だから、自分がなんとか元に戻してやらなくては。
「……手、離して悪かったな」
 心ここにあらず、といった様子のニーナの瞳に、グレンが映る。
「前にも言ったよな、お前のいるべき場所はここだって」
 ニーナの精神は今、どこを彷徨っているのだろう。
「迷ったら何度でもお前の手を引いてやるから、ここに帰って来い……っ!」
 グレンはニーナの手をぐっと握り締め、引き寄せた。
 ニーナの瞳がゆらりと揺れたような気がしたその時。
「極上の血……よこしなさい……」
 よろけながら吸血鬼が立ち上がり、グレンの肩に手をかける。
「っるせぇ!」
 振り向きざまに、グレンは吸血鬼の頬に一撃拳をお見舞いする。
「再起不能になるまで殴られるのと蹴られるのだったらどっちに……逃げたか」
 グレンが低い声で凄んだところで、吸血鬼はひぃと声を上げ這いつくばるように去っていった。
 追撃してやっても良かった。が。
「……あれ、私ってばいつの間にこんなところへ?」
 ニーナの声が聞こえ、グレンはその場にとどまった。
「グレンがいつの間にかいなくなってて会場をあちこち探し回ってたはずなんですけど…」
 何が起こっていたのか本気でわからない様子である。
「あ、そうだ!確かグレンを見かけたから案内してくださるというとても親切な方がいて、その方に案内して貰ってたんです!」
 何も知らないニーナは、にっこりとグレンに笑顔を向ける。
 グレンは溜息をつき、これまでの過程を教えてやった。
「……えっ、吸血鬼だったんですか?」
「怪しい奴にホイホイついていくなっつーの」
「……今更ですけど、何だか少し怖くなっちゃいました……」
 ニーナはぶるりと身を震わせた。
「もしグレンが私を見つけてくれるのがもう少し遅れてたらどうなってたんだろうって」
 そっと身体をグレンに寄せ、控えめに腕を背に回す。
「落ち着くまで、ほんの少しの間だけぎゅってさせて下さい……ね?」
 まだ微かに震えているニーナの背を、グレンは優しく撫で、
「……無事でよかった」
と呟く。
 ここが、自分の居場所。ニーナはグレンの温かみを感じながら、そう思った。
「もうはぐれないように今日はずっとこうしてくっついてます」
 少し元気が出たのか、冗談めかしてニーナが言う。
「歩くときはどーすんだよ」
「あ、歩く時は……えーっと……腕、組んでちゃ駄目、ですか?」
 もちろん、駄目なわけがない。
 グレンはニーナの腕を引き寄せ自分の腕に引っ掛けると、ダンスホールへと戻っていった。

●誓いを思い出せ
 クロスは少し露出度高めのサキュバス衣装でダンスホールに現れた。
 オフショルダーで肩も胸元も大胆に開き、ロングスカートの深いスリットからはちらりちらりと太ももが見える。背中には小さな黒い羽がついている。
 共に歩くのは吸血鬼衣装のオルクス。獣耳はシルクハットで隠れている。
「吸血鬼の仮装、いっぱいいるな」
「オルクが一番カッコ良い吸血鬼だぜ」
「まあな」
 二人は笑い合う。
 その時、オルクスの帽子がするりと滑り、床に落ちた。
「おっと」
 慌てて拾い、立ち上がると、クロスの姿が雑踏に紛れてしまっていた。
「クー?」
 オルクスが人を掻き分けクロスを探す。
しばらくして、バルコニーに見覚えのある影を見つけた。
 クロスは、バルコニーで誰かと楽しそうに会話していた。オルクスと同じ、吸血鬼の姿をした銀髪の青年と。
(クーが魅力的だからって早速ナンパかよ)
 むむぅ、と眉間に皺のオルクス。だが、ナンパ男などオルクスの敵ではない。
「もしかしてお仲間?」
 余裕たっぷりに声をかける。青年は顔を上げ、オルクスを見遣る。
「……?」
 オルクスはその視線に異様なものを感じた。しかし、退くつもりはない。
「悪いが既にオレが目ぇ付けてたから返してくんね?」
 オルクスは青年を睨み返す。
「オルク、どうしたの」
 気の抜けたような喋り方でクロスは青年に語りかける。青年を「オルク」と呼んだことに、オルクスは顔をしかめる。
「なんでもないよ、さあ、行こう」
 青年がクロスの腰に手を回す。
「ちょっと待った!どこ触って……じゃない、お前クーに何をした!」
 オルクスが怒鳴ると、クロスがちらりとこちらに視線を向ける。
「オルクとのデートじゃますんな」
 どうやらクロスは不審な青年がオルクスに見えているようだ。
「オルクスはこっちだっての!」
 オルクスは乱暴にクロスを青年の手から引き剥がし、自分の腕の中にぎゅっと抱きしめる。
 どっちが本物のオルクスか、わからせてやる。
 不審な男はクロスを取り返そうと掴みかかってくるし、クロスはオルクスの腕から逃れようと暴れる。が、オルクスはクロスをしっかりと押さえつけ、その耳元に囁く。
「クー、オレがキミと契約した時の誓い覚えてるか?」
「お前と契約?」
 クロスの動きがぴたりと止まる。
「【いついかなる時も側に寄り添い共闘し、守り抜く】」
 その言葉は、クロスの心の何かに触れたようで、クロスの目が見開かれる。
 手応えを感じたオルクスは唇の端に笑みを浮かべた。
「さぁ目覚めの時だぜ?愛しい姫さん……」
 オルクスはクロスの首筋に唇を寄せ……歯を立てる。
「……っ!?ぅ、ぁ…っ!」
 クロスの唇から小さな悲鳴が漏れる。
 オルクスの口内には、鉄に似た味が染みていく。
(これが……クーの、味……)
 そう思うと甘美な感覚に襲われそうになる。が。
「お、ぅく…っ……馬鹿なにしやがる!」
 クロスに怒鳴られ、陶酔感はきれいさっぱり消え失せた。
「いくら吸血鬼の格好だからってマジで噛むな血ぃ吸うなぁぁぁぁぁああああああ!つぅか何してんだ!!マジで痛いし!!……てかコイツ誰?」
 ひととおり文句をいい、やっと傍らの不審者に気付く。
「ふん……我らの真似事か。だがな、一番美味い血は私がいただく」
 青年は言うが早いが、クロスの衣装の胸元に手をかける。
「お前、本物の吸血……っ」
 オルクスが全て言う前に、クロスの掌底が青年の頬を張り倒す。
「さすが、オレのクー」
 オルクスもそれに呼応するように、気配を消して吸血鬼の背後に周り込み腕を締め上げる。
「さあ、観念するんだな……あっ」
 吸血鬼はコウモリに姿を変えると、空の向こうへ羽ばたいていった。
 
●もう一度、愛を伝えよう
 パステルイエローのプリンセスドレスに身を包んだミサは、吸血鬼の仮装をした青年に手をとられ、螺旋階段を登っていた。
 青年は、ミサの胸元に視線を向け、にやりと唇を歪める。そこから牙がチラと見えた。
 ミサは、なんの疑問も持たず彼についてゆく。なぜか、それが当然のことであると認識していた。
「……ミサ!」
 名を呼ばれ振り返る。
 そこにいたのは、黒衣の王子。紅い瞳がミサを見据える。
「……誰、だっけ?」
「いいから、急ごう」
 吸血鬼の青年はミサの手を強く引き、ミサはよろめきながら階段を駆け上がる。
「待って、ミサ」
 黒衣の青年の声はミサの心を波立たせた。
(どうして私の名前を必死に呼んでいるんだろう?)
 どうして……?
「ねえ、ミサ。俺達の絆は吸血鬼の催眠なんかで揺らぐものじゃないだろう?」
(ううん、私この声を知ってる)
 ミサの足は自然と止まり、吸血鬼の手を振りほどく。
「ミサ、俺を思い出して」
(その人はたった1人で何もかも背負おうとする人で)
「俺はお前の良いところも悪いところも全てが愛しい」
(誰も傷つかないようにって、自分が苦しいの隠して戦おうとする)
 ミサの脳裏に誰かの影が揺らめく。これは、誰だった?
 その人は、ゆっくりと階段を上りミサへと近づいてくる。
「俺はお前が」
(とても優しくて、不器用な……)
 彼はミサの肩をぐいと引き寄せ、耳元に囁く。初めて愛を伝えたあの時と同じように。
「……好きだ」
(私の一番大切な人)
「エミ……リオ」
「やっと、正気に戻ったかい」
 エミリオの顔に安堵の笑みが広がる。
 ミサが微笑みを返すのを待たずにエミリオは階段を駆け上がった。
 彼は、逃げ出そうとした吸血鬼の前方に回り込み、退路を断つように思い切り壁を殴りつける。
 にこにこと笑ってはいるが瞳はこれ以上ないほどに冷ややかだ。
「ふふ、これが今流行の『壁ドン』ってやつなのかな」
「そ、それは何かが違っていると思うのっ」
 エミリオから滲み出る怒気に気圧されたのか、ミサはあたふたしながらこの場にそぐわぬツッコミを口走る。
「人の大切な恋人に手を出すということは、それなりの覚悟はできているんだよね?……歯を食いしばれ」
 エミリオから笑顔成分が完全に消え失せ――殴りつける鈍い音が階段に響いた。

「催眠にかかっちゃってごめんね」
 吸血鬼が逃げ出した後、ミサは申し訳なさそうにエミリオを見あげる。
「美味しそうなスイーツがあったから一緒に食べようと思ってそれで……ひゃう!?」
 不機嫌そうなエミリオに懸命に言い訳をしているところへ、不意打ちで首筋に口づけされる。
「え、エミリオ!?いきなり何を……っ」
「恋人を忘れるような悪いコにはおしおきだよ」
 くすくすとエミリオが笑う。
「お、おしおきって……」
 真っ赤になって恨めしげにエミリオを見るミサに、エミリオは意地悪っぽい笑みを浮かべて囁いた。
「あんまり悪いコだと、食べてしまうからね」

●ハロウィンの奇跡
「賑やかなパーティですね」
 天藍と踊り微笑むかのんは、魔女の仮装をしている。
 とんがり帽子に蜘蛛の巣を連想するレースでできたボレロ。サテン地の黒いドレスもかのんによく似合っていたが、ちょっと開きすぎの胸元が他の男性の視線も集めているのではないかと天藍は気が気ではない。
 対する天藍は、クラシカルな吸血鬼衣装。
 二人ともダークかつ大人っぽい雰囲気でまとまっている。
「そろそろ一休みしないか。飲み物でもとってくるよ」
 曲の合間に天藍はそう言うと、「ありがとうございます」と、かのんはその背を見送った。
(いろいろな仮装の方がいますね)
 天藍を待つ間、かのんは会場の皆の仮装を見て楽しんだ。
「素敵な魔女だね」
 横に並んだ吸血鬼仮装の男性に声をかけられ、かのんは顔をあげる。
 服装だけ吸血鬼の天藍と違い、目の前の男性はご丁寧に牙まで付けている。
(凝ってらっしゃいますね)
 かのんが彼の顔を見たところで――かのんの意識は途切れた。

 ダンスホールの前庭の端、照明の届きにくい薄暗い場所で、かのんは立木を背にぼんやり佇んでいた。
「美しい肌だね。その内側に流れる血も、さぞ上質なものだろう」
 吸血鬼衣装の男性が、かのんの頬に触れる。かのんは微動だにしない。
 その様子に満足したように頷くと、男性はかのんのボレロを取り払い、その胸元に唇を寄せる。
「さあ、私の喉を潤しておくれ」
 男の細い指が、かのんの衣服の胸元にかかる。
「そこのエセ吸血鬼」
 あちこち走り回ってかのんを探していたのだろう天藍が、間一髪かのんを見つけた。
「人の女の胸元に牙を立てようとは良い度胸だ」
 天藍は吸血鬼とかのんに近づく。
「最早彼女は私の人形に等しい。諦めて帰るんだ」
 吸血鬼はかのんを促しその場を去ろうとする。
「待てよ」
 かのんはぼんやりとした表情で天藍を振り返る。
「俺たちの絆は、おかしな術なんかで消えてしまうようなものじゃないだろう」
「君たちは、その程度の絆ということだよ」
 吸血鬼はくすくす笑ってかのんの手をとり歩き出す。
「かのん!」
 天藍は声を張り上げる。
「去年のハロウィン大樹の洞で誓いを交わしたのは誰だ?」
 丁度一年前。あの夜のように、今夜も空には月が輝き。振り向いたかのんの瞳に、月光に照らされる天藍の姿が映る。
「足りない所は2人で補いながら前に進もうと誓っただろう?」
 天藍はかのんに歩み寄り、吸血鬼から奪うようにかのんの手をとり、甲の紋章に口付ける。
「天……藍……」
 かのんが天藍の名を呼ぶ。瞳の焦点が合ってゆくのがわかった。
「かのん……!」
 天藍は彼女の身体を抱きしめた。
 ちゃんと戻ってきた……俺のかのん!
「私……?」
 戸惑うかのんを自らの背に庇い、天藍は吸血鬼に冷ややかな視線を送る。
「とっとと失せろ」
 天藍は吸血鬼の髪を掠る勢いで拳を繰り出す。相手がオーガではない以上、荒っぽい真似は控えたい。
「退かないつもりなら……わかるよな?」
 低い声で凄むと、吸血鬼はコウモリに姿を変えて飛び去った。その方角を睨みつけていた天藍は、かのんの声に我に返る。
「天藍、あの、いったいなにがあったのでしょう」
「少しタチの悪い悪戯をかけられたんだ」
 天藍が微笑むと、かのんは彼の手をとる。
「どこか痛めたりはしていませんか」
「大丈夫。牽制しただけだ。かのんこそ、具合悪かったり、怪我とかしていないか?」
 天藍は、吸血鬼が手をかけたかのんの胸元を確かめる。
「あ、あのっ……じっと見られると、さすがに恥ずかしい、です」
 消え入りそうな声で訴えられ、天藍も自分の視線の行き先に気づきはっとする。
「わ、悪い」
 慌てて視線を外す天藍に、かのんは苦笑しながら「怪我もなにもしていません、大丈夫ですよ」と告げる。
 天藍は自分の衣装のマントを取ると、かのんにふわりと羽織らせる。
(やっぱりあんまり他の奴らに見せたくない)
 マントで包むように、天藍はかのんを抱きしめた。
「天藍、いつも私を助けてくれてありがとうございます」
「助けた礼は甘い御褒美だと嬉しいんだが」
 冗談交じりの言葉に、かのんは天藍の頬に感謝を込めたキスをした。

●執着の証 
「クレちゃんの今日の仮装は――」
「一目瞭然だろう、血を求める吸血鬼なのだよ」
(マッドサイエンティストの仮装かと思ったけど違ったみたいね)
 そもそも、それじゃ仮装になっていない。クレドリックの場合は。
 ロア・ディヒラーはキュートでゴシックな魔女の仮装。
「面白そうなドリンクもあるね」
 ロアが指差す先には、血の色のジュースと目玉ゼリーが浮かんだソーダ。
「持ってきてやるから待っているのだよ」
「ありがとう」
 クレドリックを見送ると、背後からおずおずと声をかけられた。
「あの、あなたは神人さん、ですよね」
 振り向くと、吸血鬼の仮装をした少年がいた。
「そうだけど……?」
「わあ、やっぱり。僕、神人さんて憧れているんだ」
 ぱあっと笑顔になる少年。
「ねえ、もっと僕とお話してくれる?」
 少年の瞳に邪悪なものを感じたが、ロアの意識はそこで途絶えた。
「ロアは血と目玉、どちらが好みかね」
 クレドリックが戻ってきたとき、ロアは吸血鬼少年と共に裏口へと歩き始めていた。
「ロア?」
 歩いている後ろ姿を見るだけでも、クレドリックにはわかる。ロアの様子がおかしいと。
 ロアは今日特段具合が悪いわけでもなかった。アルコールなどを口にした様子もない。となれば。
「何らかの術にかかっている……」
 その結論に達すると、足先から頭の天辺まで、怒りが湧き上がる。
「私のロアを拐かそうとは、許しがたい」
 だが人目の多いところで騒ぎを起こすのは得策ではない。
 ありがたいことに、ロアを連れた吸血鬼は自ら人気の少ないところへと進んでくれた。
 裏口の扉の陰に二人が消えたところで、クレドリックは駆け出した。

 吸血鬼の少年はロアに向けて手を伸ばす。
「いただきま……わああっ」
「ロアに手を出すなど、万死に値するのだよ!」
 扉の陰からいきなり現れたクレドリックに吸血鬼は驚き悲鳴をあげる。
 その隙に、クレドリックはロアの首筋に噛み付いた。正気に戻すために、何らかの衝撃を与えるのが良いと考えたのだ。
 術中のロアは痛みに眉をひそめる。
 クレドリックは、甘噛みで済ませるつもりはなかった。
 ロアは自分のものだ。これはその証。そんな想いで、歯を立てた。
 ロアの意識は徐々に鮮明になり――
「いったぁ!!なんで首を噛むのよ……!?……てあれ、クレちゃんいつの間に戻って来て……」
 クレドリックが放つ怒気にロアは血の気が引き言葉を続けられなくなった。激しい怒りは相手の吸血鬼に同情したくなるほどだ。
「執着の証をつけるのはこれで二度目だったかね……」
 クレドリックは先ほどまで歯を立てていたロアの首筋を指でなぞり、彼女を自らの腕の中に閉じ込めながら、吸血鬼に向き直る。
「ロアは私のものだ。それを奪おうとするのであれば私は容赦など一切しない。……魔法が使えずとも、物理的排除手段ならばいくらでもある……」
(物理的排除手段って、クレちゃんってエンドウィザードじゃなかったっけ……!?)
 クレドリックは拳を固め、吸血鬼に向かって放つ――!
 ……ぽこん。
 どう見ても威力のないパンチだった。
 しかし、クレドリックから溢れ出る殺気に気圧された吸血鬼にはそれで十分だった。
「覚えていろ!」
 捨て台詞を吐いて、吸血鬼は逃げていき、その姿が完全に見えなくなってようやく、クレドリックはロアを解放した。
「なんか変な術にかかってたっぽいのかな……助けてくれてありがとう。……で、でもあのその首また跡残りそうなんだけど……」
 ロアは鬱血した首筋を押さえる。
「跡……?所有の証だとでも思っていたまえ」
(所有の証って……)
 ロアはケープの襟を引っ張り首筋を隠した。嫌なわけではないけれど、やはり気恥ずかしい。
「ロアはふとした瞬間に攫われてしまいそうで、私は気が気ではないのだよ……」
 クレドリックが一瞬切ない表情をしたものだから、ロアは彼に心配をかけてしまったことを深く反省した。
(ちょっと気を抜きすぎてたかな……催眠術にかかっちゃうなんて)



依頼結果:成功
MVP
名前:ロア・ディヒラー
呼び名:ロア
  名前:クレドリック
呼び名:クレちゃん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 紬凪  )


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月17日
出発日 10月24日 00:00
予定納品日 11月03日

参加者

会議室

  • [11]クロス

    2015/10/23-22:20 

  • [10]かのん

    2015/10/23-20:38 

  • [9]ニーナ・ルアルディ

    2015/10/23-11:02 

  • [8]ニーナ・ルアルディ

    2015/10/23-11:02 

    なかなか物騒だなお前ら…
    とりあえずここは穏便に再起不能になる程度に殴られるか、
    もしくは二度と起き上がれない程度に蹴られるか
    選ぶ程度の権利くらいは渡してやろーぜ。

    あとでニーナには知らない相手に簡単に着いていくなと
    よく言い聞かせる必要がありそうだな。

  • [7]ミサ・フルール

    2015/10/23-08:27 

  • [6]ミサ・フルール

    2015/10/23-08:26 

    エミリオ:
    皆久しぶりだね、よろしく。
    ふふっ…人の大切な恋人に手を出したんだ、向こうもそれなりの覚悟をしている筈だよね。
    ほんと楽しみだなぁ…(ニコニコ)

  • [5]ロア・ディヒラー

    2015/10/22-00:43 

    ・・・久しいメンバーだ、よろしく。

    吸血鬼とはまた、興味深い対象ではあるがロアを狙うとは許しがたい。
    血の一滴もやるものか。・・・催眠をかけたこと、後悔させてやろう。

  • [4]かのん

    2015/10/20-21:25 

  • [3]かのん

    2015/10/20-21:25 

    天藍:
    久し振りだな、よろしく
    ダンスの合間に飲み物でもと少し離れただけだったんだが、ろくでもないのが混ざってたんだな
    ったく、早々に取り戻させてもらおうか

  • [2]クロス

    2015/10/20-20:04 

    オルクス:
    皆久し振りだな、改めて宜しく頼むな(微笑

    しっかし吸血鬼、か…
    神人達の血を吸わせねぇ様にお互い頑張ろうな!
    ……クーの血を飲んで良いのはオレだけだ……(ボソリ←

  • [1]クロス

    2015/10/20-20:00 


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