《bird》不思議な目(星織遥 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●人騒がせ研究者コンビの受難?
「もうすぐ完成ですね、ミツキさんっ!」
「ええ、これもサージさんのご協力のお陰ですよ」
 ここは怪しさ溢れるタブロス市内の小さな研究所、ストレンジラボ。謎の研究に勤しむのは白衣姿の2人の青年――A.R.O.A.の科学班に所属するサージと、ストレンジラボ代表のミツキである。
「あ、でも……僕がここに通っていること、科学班の皆――特にクレオナ先輩にはご内密にお願いしますね! 叱られてしまうので……!」
 次にフラスコに注ぐ禍々しい紫色の液体を用意しながら、サージはふにゃりと苦い微笑を零した。「ええ、心得ていますよ」というミツキの返事に安堵したように、フラスコに満ち満ちる透明の液体へと、サージは試験管から紫の雫を垂らす。と、
「うわっ!?」
 フラスコから淡いラベンダー色の煙がもくもくと立ち上がり、あっという間に研究室中を満たした。
「あああっ、失敗!? どこがいけなかったんだろう……?」
「とにかく窓を開けましょう! 万一人体に影響があっては危険です!」
  あわあわとしてサージは背中を背後の鳥籠に強かにぶつけ、白衣の袖で鼻と口を抑えたミツキは手探りで窓を探し一気に開け放つ。その瞬間、煙と一緒に幾らも の小鳥が窓から外の世界へと飛び立っていった。先程のごたごたで、研究用に小鳥を飼育していた鳥籠の扉が開いてしまっていたらしい。
「ど、どうしよう……先輩に怒られる……!」
「そうですね、これは……」
 なかったことにしましょう、とミツキは言った。
「えええっ、なかったことって、どういう……」
「科学の進歩に失敗は付き物です。あの煙も幸い人体に影響はないようですし、この件は僕たち2人の胸の内に留めておくのが良いかと」
 2人は知らない。人体には影響を与えなかったあの煙が、青空の向こうに消えた小鳥たちの鳴き声に不思議な効果を纏わせてしまったことを……。


●不思議な目
 「あなたたち」はA.R.O.A本部からの要請を受けて、とある町にやってきた。依頼内容は町の裏側に広がる森に出現したオーガの討伐。森といってもそれほど木が生い茂っているわけではない。整備されていないものの、町の人々が何度も通った場所だけ足場が固められて道のようになっている。戦うことを考えると、それほど危険な場所ではない。しかし要請のタイミングが悪く、現場へは夜に赴くことになってしまった。
 危険の度合いが低いとはいえ、夜は死角が増えて厳しい。ぼんやりとした月明かりだけが照らすなか、「あなたたち」は森のなかを探索する。そのとき、ふと『ある音』が聞こえた。
「ぴかっぴー」
 おそらく鳥と思われる、甲高い鳴き声。しかし聞きなれないその音を、鳴き声だと断言することが出来なかった。その正体を確かめるために周囲を見渡す「あなたたち」。すると神人が木の枝に止まる一羽の小鳥を見つけた。敵意を持っている様子もなく、神人を見つめ返す。
 その姿にほっと安堵する神人。しかし次の瞬間、違和感を覚えた。
 森の中。薄暗い光。それにも関わらず小鳥の姿がはっきりと分かる。それだけではない。周りの木々や地面の様子も鮮明に見える。辺りは先ほどと変わらず薄暗いはずなのに。
「ど、どういうこと……?」
 戸惑う神人。その様子を精霊は不思議そうに眺めている。どうやら精霊には何も変化が起こっていないらしい。そんな2人のもとへオーガが確実に近づいていた……。

解説

●戦闘について
今回の戦闘は『個別での戦闘』です。
1組のウィンクルムが遭遇するオーガ・デミオーガの種類は不明、数は『3~5体』です。
会議室で『10面ダイスを1つ』振ってください。その目によって数が決まります。
出目が1~5:遭遇する敵が3体
出目が6~8:遭遇する敵が4体
出目が9~10:遭遇する敵が5体

●小鳥について
小鳥の鳴き声を聞くと『神人の視界が夜でも鮮明』になります。
日中ほどではありませんが、夜の森をライト無しで問題なく行動できる程度に見えます。
あくまで『夜でも鮮明』になるだけで、視力上昇や透視などはありません。
また、この効力は神人のみに発生し、精霊にはまったく起こりません。
なおこの効果は1時間で切れます。
小鳥は戦闘には一切関わらず、戦闘が終わったときには既にどこかへ飛び去っています。
ですので、小鳥のことは気にせずオーガとの戦闘に専念してください。

●道具について
今回は『バトルコーディネートのみ』でお願いします。

●プランについて
トランスする旨と、どんな風に戦うのかを書いてください。
今回は神人が特殊な能力を得ているので、それを生かした戦術も可です。


ゲームマスターより

星織遥です。
今回は巴めろGMと蒼色クレヨンGMによる企画《bird》のエピソードです。
不思議な現象をもたらした小鳥のお話。
楽しんでいただけたら幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

日向 悠夜(降矢 弓弦)

  クリアな視界にちょっと吃驚…でも、弓弦さんの視界は夜のままみたいだね
マグナライトを付けて弓弦さんの視界も確保するよ
ライトで照らしきれない場所もあるだろうからね…
なるべく弓弦さんの近くに居て視界情報を共有したいな

トランスを済ませたら…盾をしっかり構えて戦闘体勢!
デミオーガが居ればそちらを先に狙って敵の数を減らすね
敵に詰められたり、暗くて弓弦さんの死角になっている場所から敵が来ないか気を付けるね
あまり、深追いしないように…落ち着いて…

敵がオーガのみになればハイトランスするよ
私は素早かったり、高火力の敵を狙うね
迅速に…!まっすぐ踏み込んで急所を狙う!

…なんで、昼間みたいな視界になったんだろうね?



アマリリス(ヴェルナー)
  出目5(敵3体)
森に入った時点でトランス

これはどういう事かしら?役には立ちそうですけれど
怪しいとしたらあの小鳥ですが、今は構っている時間はなさそうですわね

視界が鮮明になった事に疑問を覚えつつも精霊にそれを伝える
効果は便利なので継続している内に討伐できるよう先を急ぐ
不意打ちされないよう大きな音は立てないよう慎重に

敵と遭遇次第ハイトランス・ジェミニ
精霊のスキル範囲から出ないよう立ち回る
敵の種類と数を確認
デミがいるならデミ優先
こまめに周囲を確認し敵の位置等を精霊に伝える

基本はアプローチⅡに掛かっている相手を狙い、自分が負傷する確率減らす
複数の敵が一気に寄ってきた場合はオーガを狙って鞭で拘束し時間稼ぎ



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  現場についたらトランス
最初はレムの後ろに配置
動く時もフォトンサークルの効果範囲内にいるようにする
夜目がきくってことは、オーガ・ナノーカのカメラを通しても有効かしら?
ナノーカを放ち偵察
カメラ越しにも見えるようならそのまま
見えなかったらナノーカ回収、目視で敵を探す

見つけたらマグナライトで敵のいる場所・方向を照らしてレムに教える
自分の方に来たら盾を構えて防御しつつさらに警戒と索敵
レムのMPが切れたら適宜ディスペンサを使用

…レムはあたしの近くの敵を優先して攻撃しているみたい?
それなら合わせなくちゃ
レムに見えやすいようにライトで照らして補助
輝白砂を投げてフラッシュみたいにするのもいいかも
その時は合図する



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  状況は兎も角…闇を気にしなくてよい視界というのは、なかなか新鮮ですね
暗闇の中を自由に動けるシノビといえ、今は私の方が身動きも取りやすいでしょうか
それなら…

マグナライトは腰に下げておきます
トランスし、すぐハイトランスへ移行
敵の種別と、囲まれない為にも位置を把握しておかなくては
前に出てくる敵の中にヤックドロア・アスがいるなら最優先で狙います
いないのであれば手近な敵から攻撃していきます
後方にいる敵は無視

ハイトランスしているとは言え、三体のオーガの攻撃を受け続けるのは厳しいですね…
一体ずつ確実に減らしていかなくては

ラルクさんが前に出てきてなら後方に下がります
その場合は照明を敵に向けるようにします


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  敵数4体
……なにこれ。今、夜なのよね?
…別に、ただやけに鮮明だなって思っただけ
防御力高い敵だけはごめんだけど…でもまあ、引き受けたからにはしっかり倒すわよ

・戦闘
敵が姿を現し次第、トランスする
敵が固まって現れるとは限らないので、
今だけ鮮明に辺りが見える神人は精霊が戸惑わないように、どこに敵が居るか、移動したか伝える

尚、精霊の死角からの襲撃も考えられなくはないので、精霊に逸早く伝える
基本的に神人は精霊の目の代わりとして動く

敵が精霊に襲い掛かりそうになった場合、すぐさま精霊に伝え、
自分は敵から少し離れた距離から木などに隠れつつ、弓矢を敵に向かって放つ



●視界良好
 「暗い夜の視界……これは難儀だね……」
 『降矢弓弦』は『日向悠夜』とともに森のなかを歩きながらそう呟いた。オーガ討伐に赴いたものの、視界の悪さに小さくため息をつく。月明かりとマグナライトを頼りに進む。
 そんな2人の耳に『ぴかっぴー』という不可思議な鳴き声が届く。周りを見渡すと、悠夜が1羽の小鳥を見つけた。オーガではないと分かり、それを弓弦にも伝える。しかし、先ほどと違って彼の顔がはっきりと分かる。気になって周りを見ると、やはり視界が鮮明になっている。弓弦は驚いた様子の彼女に疑問を投げかけた。彼女は自分に起きた事を説明する。
「え、悠夜さんは見えるのかい?」
「ええ、クリアな視界にちょっと吃驚……でも、弓弦さんの視界は夜のままみたいだね」
「うん。……理由は不明だけれど、心強いよ」
 突然夜目がきくようになった原因は分からないが、状況を悪化させることはない。悠夜はマグナライトを構えなおすと弓弦の視界確保に努める。この現象が起きているのは彼女だけなので、出来るだけ視界情報を共有したいと考えているようだ。それに応えるように弓弦はライトの照らす先を注視しつつ、視界の及ばない範囲は悠夜に託すことにした。
 警戒しながら森のなかをさらに進む。するとガサッという、木々のこすれる音。先ほどの小鳥とは明らかに違う気配。2人は警戒心を強め、トランス状態へ。悠夜はライトと盾を構え、弓弦はそのすぐ後ろに位置取り、息を合わせる。音は次第に大きくなり、複数の方向から響いてくる。さらに警戒心を強める2人。そして、音の主たちはついに姿を現した。
 野生の猪がデミ・オーガ化したデミ・ボア。ハイエナの頭部をもつオーガ、ヤックハルス。爬虫類めいた頭部をもつオーガ、ヤックドロア。3体の敵に囲まれる形となった。2人は互いに目配せするとまずデミ・ボアに狙いを定め攻撃する。しかし敵も簡単にはやられない。悠夜たちに敵意を向けながら迫ってくる。
 ヤックハルスが素早い動きで鍵爪攻撃を仕掛けてくる。しかし弓弦はこれに対して『ダブルシューター』を発動し、間合いをつめさせない。その隙に悠夜がデミ・ボアへと攻撃を仕掛ける。
(あまり、深追いしないように……落ち着いて……)
 悠夜は弓弦の様子もみながら、少しずつダメージを与えていく。その間も弓弦が残り2体との距離を保つ。暗い場所でのデミ・ボアの突進攻撃は十分な脅威。だが、今の悠夜にはその動きが見える。敵の突進は無駄に終わり、彼女の一突きがとどめを刺した。
 敵が1体減ったことを確認した弓弦は『ダブルシューター』で敵との距離を大きく取る。それに合わせて悠夜が移動すると、2人はハイトランス状態へと移行した。悠夜はヤックハルスを標的に定める。
(迅速に……!まっすぐ踏み込んで急所を狙う!)
 敵から視線を逸らさず神経を研ぎ澄ます。ヤックハルスの鍵爪が薄明かりのなかで怪しく光る。暗闇をもろともしない今ならば、踏み込みをためらう理由はない。しばしの緊張状態が続いたが、その綻びを狙い一気に踏み込むとヤックハルスの体にレイピアを突き立てた。敵はその場に倒れ、動かなくなった。
 残る敵はヤックドロアのみ。しかし分厚い装甲が邪魔で闇雲に攻めても無謀だろう。弓弦は『ワイルドショット』によって凝縮したエネルギーを矢にこめて放つ。その攻撃は敵に命中し、装甲にダメージを与えたがまだ足りない。もう一度放ちたいが、高威力であるが故に反動も大きいため、連続では使えない。そこでロングコート『グローム』の効果でもう一発『ワイルドショット』を放つ。今度こそ装甲が砕け散り、体を守る盾が消え去った。体勢を立て直す隙を与えず『ダブルシューター』で追い討ちをかける。無防備な体に突き刺さった矢は敵を倒すには十分だった。
 周囲を見渡すが、これ以上の敵は居ないようだ。戦闘の前に見かけた小鳥も気付けばどこかへ行ってしまった。悠夜に起こった異変も収まり、彼女の見る世界は元の薄暗い森に戻った。
「……なんで、昼間みたいな視界になったんだろうね?」
 悠夜が首を傾げると、弓弦もつられるように同じく傾げた。不思議な現象ではあったものの、結果的に戦闘を有利に進められた。2人は森の出口へと向かって歩き出す。


●役割分担
 薄暗い森のなか。『シャルティ』と『グルナ・カリエンテ』の2人は、オーガ討伐のために歩を進める。月明かりだけで心もとない空間。周囲を警戒しながらさらに奥へと向かう。その道中で『ぴかっぴー』という不思議な鳴き声を耳にする。おそらく鳥と思われるが、確信がもてない。周りを確認するとシャルティが1羽の小鳥を見つけた。しかし、それと同時に訪れる違和感。シャルティの目には、景色が先ほどよりも鮮明に映っていた。
「……なにこれ。今、夜よね?」
「何言ってんだお前?」
「……別に。ただやけに鮮明だなって思っただけ」
「……は?鮮明?……俺はお前が何言ってんのか分かんねぇよ」
 彼女はグルナにいま起きている状態を説明するが、彼は首を傾げるばかり。どうやら彼女にだけ起きた変化らしい。不思議ではあるが、害の兆候もないので大丈夫だろう。彼女はそう思うことにした。
「防御力高い敵だけはごめんだけど……でもまあ、引き受けたからにはしっかり倒すわよ」
「分かってる。戦えればそれで良い」
 そうして2人で戦闘にむけて心の準備をした矢先、草むらから2つの影が飛び出してきた。デミ・ウルフが2体、牙をむき出しにしながら鈍く光る瞳で2人を睨んでいる。すぐにシャルティがインスパイア・スペルを唱え、所定の動作を行うとトランス状態へと移行する。シャルティはデミ・ウルフ以外の敵がいないか警戒。グルナは目の前に見える敵に対して武器を構えた。
 先に仕掛けたのはグルナだった。周囲の警戒はシャルティに任せて、デミ・ウルフと対峙する。飛びかかるように牙をむける敵を避けつつ、大剣で切りかかる。しかし相手も懸命に避ける。その攻防をシャルティは少し離れた木陰から観察していた。加勢しようと弓矢を構え、狙いをデミ・ウルフに定める。しかし彼女の目には、それらとは違う影が映りこんだ。本来なら暗闇であろう場所が、いまの彼女には鮮明に見えた。
「グルナ!うしろ!」
 彼女の声に咄嗟に後ろを振り向くグルナ。その直後、暗闇から2体のオーガが現れた。ハイエナの頭部をもつオーガ、ヤックハルス。グルナは反射的に転がるようにして回避した。ヤックハルスの鍵爪が彼のいた場所で空を切った。回避が遅れていたら全身を切りつけられていただろう。
 なんとか体勢を立て直そうとするグルナ。少し離れたところにはシャルティ。彼女は改めて弓を構えると、オーガに向けて矢を放つ。オーガへのダメージを、グルナが持ち直すまでの時間稼ぎ。それらを込めた攻撃。その先端はヤックハルスの体に的中し、傷を負わせた。
 しかしそれは致命傷とは程遠く、敵の注目を自分自身に集めるという結果を生んだ。もとより神人はオーガに狙われやすい。それが悪い形で現れた状況。オーガたちがシャルティのほうへと駆け出す。デミ・ウルフの牙が、ヤックハルスの鍵爪が、シャルティに迫る。
 だが、グルナが持ち直すまでの時間稼ぎという目的は果たされた。敵は全員彼女へ向いており、彼からみれば背中を向けている状態。この機を逃すわけにはいかない。
「トルネードクラッシュ!」
 グルナは大剣を構え、全身をコマのように回転させると、それを敵の側方から叩きつける。回転によって生まれた力がオーガの無警戒な体にめりこむ。さらにシャルティに向かって一点に集中したのが災いし、連鎖的にその攻撃へ巻き込まれていく。
 彼の動きが次第に緩やかなものに変わり、そしてついに止まった。改めて周囲を見ると、攻撃を受けたオーガたちが、動く気配をまるで見せずに倒れている。シャルティとグルナの思考が現状に追いつくまでに少し掛かったが、すぐに戦闘が終わったのだと理解した。
 危ない場面はあったものの、大きな怪我もなく戦闘を終えたことに2人は少なからず安堵の表情を浮かべた。気付けばシャルティの目は元に戻り、例の小鳥もどこかへ行ってしまったようだ。依頼を完了した2人は森の外へと向かって歩き出した。


●不思議な力
 オーガ討伐の依頼を受けて、夜の森への入り口に立つ『アマリリス』と『ヴェルナー』。
「汝、誠実たれ」
 アマリリスがインスパイア・スペルを唱えトランス状態へ。森のなかは木で光が埋もれるほどではなく、うっすらと月明かりが差し込んでいた。それでも薄暗いことに変わりはない。2人は警戒しながら森の奥へと進む。
 その途中、『ぴかっぴー』という不思議な音を耳にする。アマリリスが音のほうへ視線を送ると、1羽の小鳥が枝に止まっていた。一見、どこにでもいる普通の鳥。しかしそれを見てから、彼女は夜目がきくようになっていることに気付いた。アマリリスは視界が鮮明になった事に疑問を覚えつつも、ヴェルナーにそのことを伝える。
「これはどういう事かしら?役には立ちそうですけれど」
「不思議な事もあるものですね」
「怪しいとしたらあの小鳥ですが、今は構っている時間はなさそうですわね」
 アマリリスは小鳥に視線を向けつつ、周囲の様子をうかがう。ヴェルナーは彼女に起こった現象を不思議がりつつも、夜目が利くのは素直に羨ましいと感じた。彼女はその効果が便利なので、継続しているうちにオーガ討伐を進めたいという。それに同意したヴェルナーとともに、不意打ちされないように大きな音は立てず慎重に進む。
 森の奥へと進んでいく2人。すると前方から何かが草木を分けて進む音が聞こえた。その音は徐々に2人のほうへと近づいていた。周囲に緊張が走る。アマリリスは不思議な力を得た目を活かして、音のするほうを注視する。すると3体の影が現れた。1体は長い嘴をもった鳥めいたオーガ、ヤグアート。残る2体はハイエナの頭部を持つオーガ、ヤックハルス。3体とも2人を確実に認識したうえで距離をつめてくる。
 オーガの出現を確認するとすぐに『ハイトランス・ジェミニ』を発動。そしてヴェルナーが『アプローチ』を発動し、続けて『フォトンサークル』を展開する。その内側に入るようにアマリリスは立ち回る。敵が3体というのは彼の目でもわかるが、細かい挙動までは読み取れない。彼は迎撃することに主眼を置き、敵の動向観察はアマリリスに託すことにした。
 戦いはなんの前触れもなく始まった。3体が『アプローチ』の効果でヴェルナーに一斉に襲い掛かる。アマリリスが敵の行動をヴェルナーに伝え、彼はそれを聞き、無闇に焦らず常に落ち着いた行動をとることを意識する。
 2体のヤックハルスがもつ長い鍵爪がヴェルナーに襲い掛かる。アマリリスの指示に従いながら、カウンター攻撃『ソードブレイク』を発動する。ヴェルナーを切りつけるはずだった鍵爪は見事に弾かれ、その勢いのままに正面からカウンターをくらう。素早い動きをもつヤックハルスといえど、これは避けようがなかった。そのままその場に倒れ伏す。しかしカウンターの隙を突いて、ヤグアートが別方向から彼に急接近していた。音もなく滑空する特性は、薄暗い森と相性がいい。それに気付いたアマリリスは鞭を向ける。動きの素早いヤグアートにはなかなか攻撃があたらないが、ヴェルナーが体勢を立て直すには十分だった。2対1と優勢になり、アマリリスの目を頼りにヴェルナーも慎重かつ確実にヤグアートを仕留めた。
 これ以上敵がいないことを確認すると2人は小さく息を吐いた。不思議な鳴き声を発した小鳥はいつの間にか姿を消し、アマリリスの目も元に戻った。結局あの現象はなんだったのか。気になったものの知る術はない。2人は依頼を終え、森の外へと向かった。


●暗闇との相性
 夜の森へと赴いた『アイリス・ケリー』と『ラルク・ラエビガータ』。月が出ているとはいえ、森のなかは薄暗い。腰に下げたマグナライトがあるとはいえ、どうしても局所的になってしまう。そのため慎重に進んでいく。そのとき『ぴかっぴー』という音が2人の耳に届いた。いったい何の音なのか。おそらく鳴き声だと思われるが、普段の生活で聞くことの無い音に警戒を強める2人。
 周囲を見渡すとアイリスが1羽の小鳥を見つける。敵意を見せる様子もなく、彼女のほうを見ている。おそらく先ほどの音はこの鳥だろうと察した。安心を覚えた直後、訪れる違和感。薄暗さを感じさせない鮮明な視界。戸惑うアイリスにラルクが声をかける。彼女は自分に起きている事態を説明した。
「状況は兎も角……闇を気にしなくてよい視界というのは、なかなか新鮮ですね」
「夜戦はシノビの真骨頂なんだが……アンタの方が動きやすそうってのは癪だな。まぁ、やりやすくなるに越したことはないか」
「暗闇の中を自由に動けるシノビといえ、今は私の方が身動きも取りやすいでしょうか。それなら……」
「ああ。んじゃ、前は頼んだ」
 原因は謎だが、アイリスの夜目がきくようになったのは間違いない。これを活かすためにアイリスを前衛、ラルクが後衛という布陣を組んだ。警戒を緩めず、さらに奥へ進む。
 そのとき、ふとアイリスの視界で何かが動いた。それと同時に聞こえる複数の足音。2人は音の方向に意識を向ける。すると3体の影が2人の前に現れた。
「猛き心を」
 オーガの姿を確認するとアイリスがインスパイア・スペルを唱え、トランス状態へ。そこからさらにハイトランスへと移行した。アイリスは自身の目とマグナライトを駆使して、敵の判別と位置関係を把握する。そこに居たのはカエルに近い形状のオーガ、ヤグマアル。猪の頭部をもつオーガ、ヤックアドガ。ハイエナの頭部をもつオーガ、ヤックハルス。種類の異なるオーガが1体ずつ。敵の陣形はヤックアドガとヤックハルスが前線で、その後ろにヤグマアル。
(ハイトランスしているとは言え、3体のオーガの攻撃を受け続けるのは厳しいですね……。1体ずつ確実に減らしていかなくては)
 アイリスはラルクに敵の情報を伝えつつ、近くに居る敵から倒すことを提案。厄介なヤグマアルを先に倒したいところだが、他の2体が前衛で邪魔をする。彼はアイリスに同意するとすぐに行動に移す。しかし敵の行動もほぼ同時だった。
 ヤックアドガの突進攻撃がアイリスに襲い掛かる。しかし目の効力もあって回避することは難しくなかった。敵はそのまま木に激突する。2人は目配せすると、まずこの敵に狙いを定める。アイリスの太刀とラルクの手裏剣が、背を向けたヤックアドガにダメージを与える。ラルクは『双葉弐式』も発動し、畳み掛けるように集中攻撃をしかける。2人からの攻撃に耐え切れず、ヤックアドガはその場に倒れた。
 休む間もなく、ヤックハルスが近づいてくる。ヤグマアルも後方から遠距離攻撃を行う。ヤックハルスが持ち前のスピードを活かして接近し、長い鍵爪を闇雲に振り回して襲い掛かる。夜目がきくといっても、あまりにも不規則な動きに体が対応しきれない。前衛であるアイリスに傷が増えていく。
 この状況はまずいと判断したラルクは『霞斬り』を発動して、後衛から一気に前衛まで駆け出すとヤックハルスに攻撃を加える。アイリスは彼が前に出たのを確認すると、すぐに後方へ下がりマグナライトを敵に向ける。狙いを定めた光ははっきりと敵の姿を照らした。ラルクは両手で手裏剣を構えると『双葉弐式』を発動する。軌道の読みにくい手裏剣の動きがヤックハルスを困惑させ、避けられずに体に深く攻撃を受ける。その隙を逃さずラルクが追撃すると、やがて動かなくなった。
 残る敵はヤグマアルのみ。1体になった今、仲間の影から攻撃するということはできない。さらにマグナライトに照らされて逃げ場はない。ラルクが暗闇の死角を活かして一気に距離をつめ、手裏剣での攻撃と移動を繰り返す。敵も反撃を試みるがその動作が丸見えで、回避は容易だった。それゆえにラルクの圧倒的優勢だった。攻撃を受け続けたヤグマアルが耐え切れずにその場に倒れた。
 戦いが終わり、周囲をふたたび警戒する。どうやら他に敵はいないようだ。オーガと出会う前に見かけた小鳥も気がつけばどこかへ消えていた。2人は依頼達成報告のために森の出口へと向かった。


●以心伝心
 『出石香奈』と『レムレース・エーヴィヒカイト』はオーガが出たという森の入り口に立っていた。
「やってやろうじゃない」
 インスパイア・スペルとともにトランス状態に移行すると、玉鋼色のオーラを纏った。そして気をつけながら森のなかへと入っていく。夜の森は薄暗く、月明かりとマグナライトを頼りに歩く。その途中『ぴかっぴー』という不可思議な鳴き声を耳にする。周囲を見渡すと香奈は1羽の鳥を見つけた。どこにでもいそうな小鳥。しかし鳥を確認してから自分の視界が鮮明になったことに気付く。レムレースにもそれを伝えると、彼も不思議そうに首をかしげた。原因は分からないが、特に害はなさそうだ。
(夜目がきくってことは、オーガ・ナノーカのカメラを通しても有効かしら?)
 そう考えた香奈はオーガ・ナノーカを放ち、カメラ越しに森のなかをのぞく。しかしカメラ越しの空間は薄暗いままだった。仕方ないのでそれを回収し、目視で敵を探す。レムレースが前、香奈が後ろという隊列で奥へ進む。
その道中で香奈は不穏な影に気付いた。そちらにライトを向けると同時に、影のほうも香奈たちのほうへ向かってきた。ハイエナの頭部をもつオーガ、ヤックハルスが2体。デミ・ベアーが1体。3体の急接近によって戦闘は前触れもなく始まった。
 レムレースは『フォトンサークル』を展開後、続けて『アプローチ』を発動。敵の注意をひきつけ迎撃の体勢をとる。香奈は盾を構えて敵からの攻撃に備える。『アプローチ』の効果によってヤックハルス2体はレムレースのほうへ向かったが全部は捕捉しきれず、デミ・ベアーだけ香奈のほうへ向かった。レムレースは先にデミ・ベアーに狙いを定める。
(1体ずつ集中して倒した方が効率がいいのは分かっているが、香奈の周囲の方が明るいからな……俺のライトと合わせて照明を集中させた方がいいだろう。それに香奈を傷つけさせたくはない)
 レムレースはマグナライトをデミ・ベアーに向けて立ち位置をより明確にする。そして武器を構えるとデミ・ベアーに仕掛ける。
(……レムはあたしの近くの敵を優先して攻撃しているみたい?それなら合わせなくちゃ)
 彼の行動から意図を察した香奈はライトの位置を調整。レムレースが戦いやすい位置取りを行う。このサポートを受けて彼はデミ・ベアーと対峙した。衝動的な攻撃が彼に襲い掛かるが、十分に光源が確保された今なら避けることは可能。冷静に避けつつ、自分の攻撃をぶつける。デミ・ベアーはほどなくして動かなくなった。
 まだ戦いが終わっていない。2体のヤックハルスが彼に向かって攻撃する。香奈は彼の後ろに入り、補佐するようにライトを照らしたり『ディスペンサ』で回復を行う。しかし『フォトンサークル』などを再展開しても実質2対1という状況は厳しい。
そこで香奈は『輝白砂』で目くらましできないかと考えた。ヤックハルスの攻撃をじっと観察しながら最良のタイミングを見計らう。
(今!)
 レムレースに合図を送り『輝白砂』を使う。輝かしい光が敵をスタン状態に追い込む。動きが停止した敵は隙だらけ。この好機を逃す手はない。彼は敵に猛攻撃をかける。なす術もないまま、2体のオーガはその場に倒れた。
 他に敵がいないことを確認すると2人は警戒を緩めた。不思議な力もいつの間にかなくなっており、小鳥もどこかへ飛んでいったようだ。依頼を無事に終えた2人は森の出口へと向かって歩き出した。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 星織遥
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 10月11日
出発日 10月18日 00:00
予定納品日 10月28日

参加者

会議室

  • [11]日向 悠夜

    2015/10/17-22:00 

  • [10]日向 悠夜

    2015/10/16-22:58 

    出目が2ということは…遭遇するのは3体だね。
    敵の構成が分からないからね…色々考えないとだ。
    …高防御のオーガがいないといいなぁ。

  • [9]日向 悠夜

    2015/10/16-22:55 

    こんにちは、日向 悠夜です。パートナーはプレストガンナーの降矢 弓弦さん。
    個別での戦闘になるみたいだけれど、宜しくお願いするね!

    さて、相手はどうなるかな…?

    【ダイスA(10面):2】

  • [8]シャルティ

    2015/10/16-19:34 

    つーことは…ほお? 4体か。
    微妙な数字だな。まぁ、戦えるんならなんだって良い。
    勝てるかどうかは運、だ。

  • [7]シャルティ

    2015/10/16-19:29 

    シャルティ。それからHBのグルナ。よろしく。
    相手分からないし、油断大敵、ね。

    【ダイスA(10面):7】

  • [6]アマリリス

    2015/10/16-02:00 

    こちらも3体のようです。
    種類が不明というのはなかなか対応に悩みますわね。
    では、お互い頑張りましょう。

  • [5]アマリリス

    2015/10/16-01:57 

    アマリリスとロイヤルナイトのヴェルナーです。
    現場ではお会いする事はないようですが、どうぞよろしくお願いいたします。


    【ダイスA(10面):5】

  • [4]出石 香奈

    2015/10/15-13:11 

    あら、こっちも3体ね。少なくてよかったと言うべきかしら。
    高防御…そうね、アス3体とかだったらどうにもならないっぽいわね…

  • [3]出石 香奈

    2015/10/15-13:08 

    出石香奈とロイヤルナイトのレムよ。
    今回は個人戦だけどよろしくね。お互い頑張りましょ。

    さて、久々に暴れるとしますか。

    【ダイスA(10面):4】

  • [2]アイリス・ケリー

    2015/10/15-12:34 

    3体か。
    高防御なやつがいないことを祈りたいところだ。

  • [1]アイリス・ケリー

    2015/10/15-12:32 

    シノビのラルクとアイリスだ。
    個別で一緒に戦うことはないとはいえ、よろしく頼むな。
    んじゃ、ダイス転がしてみっかね。

    【ダイスA(10面):1】


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