プロローグ
子供サイズの小屋の前。
横たわるのは硝子の棺。
七色七人の小人が倒木に並んで腰かけて。
水色から始まり、青、紫、赤、オレンジ、黄色、緑と並ぶ小人達は、歌うようにゆらゆら揺れて。
順々に、口々に、貴方達に尋ねてくる。
「末っ子の捨て場所はご存知?」
「永遠の後始末をどうつける?」
「くっつき虫はどこにいる?」
「お友達にさよならは言った?」
「幸福の夢はいつさめる?」
「せいくらべはどちらが高い?」
「にてない二人を何と呼ぶ?」
小人たちの質問に意味はない。意味はない。
応えても応えなくても答えは変わらない。
空になった硝子の棺から、一口齧った林檎を拝借して。
二人で交互に口付けましょう。
嫉妬の毒を打ち払った王子のキスと、幸福な姫君にあやかって。
その舞台は白雪姫。メルヘンホラーと奇妙を謳う館たちの、その一つ。
受付の女性に促されて中に入れば、小人の家に続く森は少し薄暗いけれどそれだけで、怖いことなんて何もない。
良く出来た動物のギミックと戯れて、小人の元へ向かえばいい。
あぁ、そう言えば受付の人がこう言っていた。
「お帰りの際に、林檎を林檎型のペアチャームと交換させて頂きますので、お土産にどうぞ」
それは小人たちの祝福が込められた、二人だけの愛のお守りとなるでしょう――。
解説
●プランについて
パターンA:
白雪姫モデルの不思議屋敷の感想・考察等を話す
・受付からチャームを受け取った後の描写となります。内部描写は感想と記憶のみになります
・どこにいるかを明記してください
喫茶店などに腰を落ち着けている場合は200jrの追加消費が発生します
パターンB:
白雪姫モデルの不思議屋敷内部での行動
・最後に受付でチャームを貰って終了となります
この後何処そこへ行こうと言う台詞描写は可能です
上記半々ぐらいや、もっとピンポイントなプランでも構いません
ただしパターンAの場合、感想・考察を含まないプランは白紙として扱わせて頂きます
パターンに関してはただの目安なので、プランへのアルファベットの記載等は不要です
●消費ジェール
入館料として一組様500jr頂戴いたします
そのほかに上記の飲食代が発生する場合があります
●小人の質問
質問その物に意味はありません
プロローグ文末の受付の言葉通りの意味が含まれております
回答してもしなくても、気付いても気付かなくても、問題ありません
折角なので何となく判った方も会議室内では内緒にしておいてください
●その他
怖くは、ありません
林檎チャームはアイテム発行はありません
ゲームマスターより
夏から秋になってる気がします。お彼岸済みましたしね。暑さ寒さも彼岸までって言いますしね!
でも9月一杯くらいは夏でいいじゃないと言う事で《strano》ラストエピソードをお送りいたします
余談ですが、最初の予定では棺の中に白骨が居たりしました
居なくなったのは、要らなくなったからです
プランの書き方が限定的に見えるかもしれませんが、
プロローグの舞台を活かして頂ければ大体なんでも大丈夫ですので、
特に難しく考えずにご参加頂ければ幸いです
リザルトノベル
◆アクション・プラン
藍玉(セリング)
「今回は私の行きたいところに付き合って下さい」 精霊の反応に苛立つ 「…林檎貰えるみたいですよ」(嘘ですけど (この人ちょろいですね…) 小人発言の意味がわからないと職場で噂になってた 謎解き気分で参加の為動物達をあまり見ずに考えながら突破 参加後喫茶店でアップルティー注文 色々小声で呟きながらメモ帳に色々書き考え込む 精霊は無視 「うーん、小人の質問…意味は無いのに祝福…」 「謎々…?んー、一度質問全部書き出して…」 「あ」 脱力して溜息、机の上で手を組み頭を乗せる 「そりゃ口頭だとわからないですよ…」 精霊の行為に驚くもジト目 「いらないんでしょう」 もう一度溜息 「すみません、おかわり下さい」 精霊を目を合わせ顰め面 |
アマリリス(ヴェルナー)
メルヘンホラーといってもそれほど怖くはないようですね 雰囲気を楽しむには丁度よさそうですわ 心細いから傍に、なんていうのはつかえないわね 最もそういう駆け引きが通じる人ではないけれど この動物もよく出来ていますね あら、そうでもなくてよ 童話の原作を読んでみたら意外と…、という事はよくありますもの わたくしも最初に読んだ白雪姫は原作の方でしたわ 驚いたわ、まともな人がまるでいないのだもの けれど、そんな中でも白雪姫はわたくしの憧れでした 美しくて、幸運で、したたかな人 白雪姫が最後、母に何をしたのかはご存知? 知らないのなら、それでいいわ 貴方はそのままでいてね さあ、そろそろ小人がいる場所ではないかしら いきましょう |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
頂いたチャーム…見れば見るほど彼らの質問が気になります お茶にしましょう ちょっとじっくり考えたいんです ペンとメモを取り出して、小人達の質問を1つずつ書き出してみる いいえ。好きでは無いですし、得意でもありません ただ、どうしても気になったんです 彼らの質問がというよりも、白雪姫のことですね 白雪姫は、林檎が毒だと分かっていても食べたのでしょうか そうですね、普通なら食べません …では、ラルクさんと出会ったばかりの私なら、どうしたんでしょうか 普通じゃないとは、どういうことでしょうか? …ふふっ、確かにそうですね 私なら、そうでしょう 答え分かるんですか?じゃあ…お願いします 末永くお幸せに…? 貴方への皮肉みたいですね |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
少し薄暗い森、いつもなら羽純くんと手を繋ぎたいけれど… 守られるだけじゃ、駄目だから 手を繋ぐのは我慢 小人達の言葉に、あ。とその意味に気付いて 『末永くお幸せに』 噛み締めるように口に出し、瞳を閉じ (幸せに、なっていいのかな? 羽純くんの隣に居ても良い?) 祈るように林檎に口付を もっと、私は強くなりたい 帰り道、羽純くんの手を取る 怖いからじゃない 彼と歩きたいから 緊張で指先が震える 不思議屋敷を出たら、散歩 屋敷の事を話す 小人達の言葉の頭文字に隠された、素敵なメッセージ 白雪姫と王子様の幸せを祈った言葉 白雪姫は王子様が来て助けてくれた それは女の子の憧れ でも…私は守られるだけのお姫様にはならないよ 強くなるって決めたの |
●憧れの指針
薄暗い森。だけれどところどころにパステルカラーが取り入れられており、メルヘンの雰囲気が醸し出されている。
それが逆に奇妙な雰囲気になっているのは、きっと、意図的だ。
アマリリスは周囲の景色を眺めながら、ぼんやりとそんな思案をしていた。
「メルヘンホラーといってもそれほど怖くはないようですね」
「薄暗いですが、そのようですね」
雰囲気を楽しむ分には、丁度良い。
だけれど、この程度では、心細いから傍に、などと言う手はつかえまい。
(そういう駆け引きが通じる人ではないけれど)
そもそもの話を脳裡に過らせ、ちらり、アマリリスは少し前を行くヴェルナーを見た。
アマリリスの言葉に同意を返しつつ、警戒も含めた行動をとるヴェルナーは、いつも通りだ。
溜息が出るくらい。
だけれどそれは、顔に出す必要もないことで。アマリリスはヴェルナーの少し後ろをのんびりとついて進む。
そんな二人の道中に、きゅい、と。可愛らしい鳴き声が聞こえる。
顔を上げれば、葉先が変色し始めている木の上に、リスが木の実を抱えて佇んでいる。
それが、ととと、と降りてきて足元に……きたところで気が付いた。それが、木の上と地上を行ったり来たりする仕様のギミックなのだと。
「この動物もよく出来ていますね」
「確かに。ここだけ見ていれば普通の童話のようですね」
近づてみれば、ふわりと柔らかな毛に触れられる。小さな森を散歩しているような心地は、長閑な気分にさせてくれる。
それがあんまりにも和やかなものだから、ヴェルナーはつい、首を傾げていた。
「メルヘンとホラーを結びつけるのは難しいのでは」
とことこと木の上に戻っていくリスを見送りながらの呟きに、あら、とアマリリスは小さく笑う。
「そうでもなくてよ。童話の原作を読んでみたら意外と……、という事はよくありますもの」
「原作、ですか」
ヴェルナーには、読書量が多いと言う自覚は無い。アマリリスと比べるなら、殊更。
彼の知っている白雪姫は、王子様と白雪姫が結ばれる幸せな結末だけ。
今一つピンと来ていない様子のヴェルナーをふわりと見つめてから、アマリリスは記憶に過るページをめくる。
「わたくしも最初に読んだ白雪姫は原作の方でしたわ。驚いたわ、まともな人がまるでいないのだもの」
この森によく似た雰囲気の薄暗さ。ロマンスとは無縁な世界。
それでも、その中で生きる白雪姫は、アマリリスの憧れだったと、言う。
美しくて、幸運で、したたかな人。
瞳を伏せて、記憶に浸り語るアマリリスの言葉を聞きながら、ヴェルナーはまた首を傾げた。
(そこまで言わせる原作はどんなものだろう……)
彼女の横顔にはどこか陶酔じみたものがあり、ヴェルナーの興味を惹く。
したたかな、の意味は、分からなかったけれど。
「姫が憧れというのは……貴方にも、そう言った可愛らしい時期があったのですね」
微笑まし気な呟きに、また、あら、と小さな声と笑みが返る。
「白雪姫が最後、母に何をしたのかはご存知?」
「……何を、とは」
「知らないのなら、それでいいわ」
知らないのなら、知るべきかと。
思案しかけたヴェルナーの思考を遮るように、アマリリスの瞳が微笑む。
「貴方はそのままでいてね」
ふわり、彼女の髪が靡いて、服が翻る。
颯爽と歩みを再開したアマリリスに、数歩追い越されて、はっとしたように顔を上げたヴェルナーは、つぃと引かれる手のままに、歩き出した。
「さあ、そろそろ小人がいる場所ではないかしら」
いきましょう。笑うアマリリスの笑顔は、いつも通りだ。
ほっとした心地で、ヴェルナーは再び、今度は並んで、森を歩いた。
彼女の言葉には、意味の分からない……深い部分を垣間見るが、ヴェルナーはそれを、詮索も追及もしない。
だって彼女は、それを望んではいないのだから。
●決意に寄り添う
怖くはない。そう聞いたって、薄暗い森の雰囲気には少し気持ちが怯んでしまう。
それでも、桜倉 歌菜はぎゅっと握りこぶしを作って、真っ直ぐ前を見て歩いた。
(いつもなら羽純くんと手を繋ぎたいけれど……)
そうやって頼ってばかりでは、駄目なのだ。
守られるばかりでは、いけない。だからせめて、手を繋ぐことを我慢するくらい、出来なくては。
気丈を振る舞う歌菜の様子に、月成 羽純はちらりとだけ視線を向けて、不思議な心地に思案する。
(少し前までの歌菜なら、手を繋いでいいか? と聞いてくる場面なのに……)
今日は、違う。
彼女に思う所があるのは明白だが、それが、何なのか。羽純には理解しきれなくて。
なんだか少し、胸がざわめいた。
微妙な距離感は、しかし、ぎこちなさを醸し出すほどはっきりとは滲まずに。
いつもよりほんの少し空いた距離に、羽純だけが気付いて、気付かない振りをしていた。
やがてたどり着いた小人の家。空っぽの棺を前に、ゆらゆらと歌でも歌うかのように陽気な小人たちが並んでいる。
二人で顔を見合わせて、恐る恐る歩み寄ってみれば、小人たちは手前から順番に顔を上げて歓迎を謳い、ゆらゆらと揺れながら問うてくる。
それは問い、だった。
だけれど、意味が分からない問いかけだった。
何処か残酷な意味合いを含んでいる言葉を笑顔で吐き出す小人に、羽純は眉を寄せ、その意味を考える。
受付は言っていたのだ。小人たちは祝福を籠めていると。
うんうんと考えている羽純の横で、歌菜は一度、その問いを口元で反芻した。
「あ……」
そうして、気付いた。
「末永くお幸せに」
ぽつり、紡ぎ出された歌菜の、言葉を耳に聞き留め、羽純もまた、言葉を思い起こす。そうして、成程な、と呟いた。
にこやかな小人たちに見守られながら、そっと空の棺を開け、林檎を手に取る。
もう一度、噛みしめるように呟いて。そうして、歌菜は瞳を伏せる。
(幸せに、なっていいのかな? 羽純くんの隣に居ても良い?)
あなたのしあわせにあやかっても、いいのでしょうか。
問いにも似た祈りを乗せ、そっと林檎に唇を寄せる。
そんな歌菜の姿を見て、見つめて。羽純は胸がざわつくような思いを抱きながらも、傍らに歩み寄った。
視線をやれば、ぱちりと合う。差し出された林檎を手に取り、羽純は歌菜と同じ場所に口付けた。
(もっと、私は強くなりたい)
(末永い幸せを、誰よりも歌菜へ)
互いの祈りは胸の内だけで響いて。
やや間を置いて、帰るかと声をかけた羽純の手を、ぎゅ、と歌菜が掴んできた。
少しの驚きに彼女を見れば、笑顔が見えて。
だけれどその笑顔が、どこか、必死に見えて。
絡む指先が震えているのを感じ、怖いのかと案ずるような瞳に、歌菜はふるりと首を振った。
怖くはない。ただ、羽純と歩きたかった。祈るような願いは、許されているのか。確かめる指先が、震えただけで。
羽純は、何も言わなかった。何も言わずに、許容した。
その温もりを、離さないように、震える指先優しく握り返して。
林檎のチャームを揺らしながらの帰り道、歌菜は不思議屋敷の感想をゆっくりと語る。
末永くお幸せに。小人たちの言葉の頭文字に隠されたメッセージは、素敵だと思った。
だってそれは、白雪姫と王子の幸せを祈った言葉だから。
「俺は直ぐには気付かなかった。言葉って不思議だな」
肩を竦めた羽純に微笑みかけて、歌菜は告げる。
「白雪姫は王子様が来て助けてくれた。それは女の子の憧れ」
でも、だけれど。
「私は守られるだけのお姫様にはならないよ」
強くなるって、決めたの。
真っ直ぐな瞳に、羽純は暫し同じ瞳を返して。
ふわり、笑う。
「……強くなるのは良いが、俺より腕っぷしが強くなるのは勘弁してくれ」
彼女の中の切実を感じるがゆえに、己の中の切実を明らかにする。
「王子様だって、あんまり頼られないのも……退屈で悲しいものだ」
誓いと願いは、食い違う言葉で。
だけれどそれは、重なる祈りだった。
ただ、あなたのそばに、と――。
●率直な、欲求
「今回は私の行きたいところに付き合って下さい」
「えー……」
藍玉の直球な誘いに、セリングは露骨に嫌そうな顔をした。
それを見て、藍玉は苛立ちが湧くのを宥めつつ、小さく付け加えた。
「……林檎貰えるみたいですよ」
「そんなの行くに決まってるじゃん」
あ、ちょろい。
先程とは打って変わって急くような態度になったセリングを見て、食べ物で釣る手は、まだ何度か使えそうだと藍玉は悟る。
実際、貰えるのは林檎ではなく林檎のチャームなので、嘘なのだが。
そうとは知らないセリングは、林檎林檎と楽しげに口ずさみながら件の不思議屋敷に訪れると、特にギミックや小人の質問に興味を示さないまま突破する。
藍玉も藍玉で、途中まではきょろきょろとしていたものの、職場で噂になっていた小人の質問の意味を考え始めたところで周囲の情景はシャットアウトされたようで。
薄暗い森の中、ゆらゆらと揺れる小人に見送られながら、動物たちのギミックが所無さげに右往左往している光景が、あったりした。
それでもゴールはゴール。おめでとうございますと笑顔で手渡された林檎のチャームを受け取って、セリングは目を丸くして。
それから、露骨に不機嫌になった。
むすっとした顔のセリングと、思案顔の藍玉が揃って訪れたのは近所の喫茶店。
藍玉はアップルティーを、セリングはアップルパイを注文し、仲良く感想の語り合い……とは、いかなかった。
「うーん、小人の質問…意味は無いのに祝福……謎々……? んー、一度質問全部書き出して……」
何やらぶつぶつと小声で呟きながらメモ帳と睨めっこしている藍玉は、セリングの存在をすっかり忘れているようだし。
「チャームって…本物の林檎じゃねぇし……あ、美味い」
アップルパイに舌鼓を打っているセリングは、一人で延々と文句を言っていた。
彼らには、一緒に行く意味なんて、多分なかった。
ただ、この不思議屋敷がカップル推奨という雰囲気を醸し出していたから、たまたまウィンクルムという繋がりのある都合のいい異性を調達したに過ぎない。
セリングに至っては騙されたわけなので、不満も当然なのである。
「ちぇー、久しぶりに薔薇のアップルパイ作りたかったー」
「あ」
幾つめかの不満を呟いたところで、不意に、藍玉が声を上げて手を止めた。
そこでようやく神人の行動に興味を抱いたらしいセリングが、ひょいと彼女の手元を覗き込んだ。
箇条書きの質問文の、冒頭。頭文字を一つ一つなぞっていくのを見て、「あー……」と納得の声を上げた。
末永くお幸せに――。
はぁっ、と大きなため息をついた藍玉が、机の上に手を組み、その上に脱力したように伏した。
「そりゃ口頭だとわからないですよ……」
ある意味では、なぞなぞだったのだ。ドツボに嵌れば抜け出せない思考の迷宮とでも言えば、それらしいか。
だけれど、気付いてしまえばなんてことないし、それに……。
「俺達には関係ない祝福だねぇ」
正しく、それだ。
鼻で笑ったセリングが、ぱくりと再びアップルパイを食べ進めてから、思い出したように、机の上に放り出していたチャームを藍玉の手元に置いた。
「はい、よくわかったで賞ー」
ちゃらりとかすかに鳴ったチャームを、少し驚いた顔で見やって。それから、じとり、とセリングを見た。
「いらないんでしょう」
「うん、食べれねぇし」
この精霊は、本当に、判り易いことだ。
邪魔な物を押し付けられただけだと理解して、藍玉はもう一度大きくため息をつくと、体を起こして店内を振り返る。
「すみません、おかわり下さい」
「すみません、これおかわりー」
同じタイミングで店員を呼ぶように手を上げたセリングは、藍玉と言葉が重なった事に一度目を丸くして。
似たような顔で再び振り返ってきた藍玉と顔を見合わせては、揃って、渋い顔をした。
似ている所があるのは知っているけれど。
それを認められるかどうかは、また、違う話なのである。
●齧られた林檎
不思議屋敷を後にして。近くの喫茶店に腰を据えたアイリス・ケリーは、貰ったチャームをまじまじと見つめていた。
小人たちの意味不明な質問は、メルヘンホラーを売りにしているゆえの物だろうか。
だけれど受け付けは言ったのだ。祝福、と。
アイリスはペンとメモを取り出して、小人たちの質問を一つずつ書き出し始める。
そこまでを相槌打ちつつ傍観していたラルク・ラエビガータは、彼女の視界の端で小さく溜息をつく。
運ばれてきたケーキはアイリスの物。集中している彼女の代わりに受け取って、邪魔にならない位置に置くと、もう一度溜息。
(よっぽど気になるのか)
甘い物が食べたいと言うわけでもなく、今すぐ考察したいという顔でチャームを見つめていたアイリスは、一人無言で書き出した質問と睨めっこをしている。
珈琲を啜りながら数分。数十分。
気の済むまでやらせるつもりだったラルクだが、ふと気になって、沈黙を破って訪ねた。
「そういえばアンタ、謎解きとか好きなのか?」
「いいえ。好きでは無いですし、得意でもありません」
だからこうして時間がかかるのだ。
ただ、好きでも得意でもない物に自ら挑もうと思う程度には、気になったのだ。
「彼らの質問がというよりも、白雪姫のことですね」
質問を全部ひらがなで書いてみたり、逆から読んでみたり。
首を傾げて、ケーキで糖分を補給しながら呟くアイリスに、ラルクは同じ方向に首をひねる。
「白雪姫の何が気になったんだ?」
「白雪姫は、林檎が毒だと分かっていても食べたのでしょうか」
林檎のチャームを、黒が全体を占め始めた紙の隣に並べる。
綺麗な林檎は齧りつきたくなるほどに美味しそうで。だけれどそれが毒林檎だと、分かっていたなら。
「死ぬような代物なんだから、普通なら食わないだろう」
「そうですね、普通なら食べません」
普通、なら。
己を害すると悟ることが出来たなら、手を出す事なんてしないだろう。
「……では、ラルクさんと出会ったばかりの私なら、どうしたんでしょうか」
「普通ならパートナーよりも距離を詰めようなんざ思わねぇだろうな」
さらりと、当然のように返して、ただ、とラルクは続ける。
「アンタは普通じゃないだろ?」
「……普通じゃないとは、どういうことでしょうか?」
そのままの意味だと、ラルクは背凭れに身を預けながら少し皮肉気な顔をする。
「俺をどう利用するか考えながらパートナーでいようとしただろうよ」
『林檎』を毒と知ったとて。
アイリスは『林檎』を、食べるのだろう。
『毒林檎』からの指摘に、アイリスはかすかに瞳を丸くしたが、すぐに、おかしそうに笑う。
「確かにそうですね。私なら、そうでしょう」
何か張りつめていた物が緩んだように笑ったアイリスは、傍らに置いていたケーキを引き寄せて食む。
そうしながらもちらりとメモを見ては首を傾げているのを見て、ラルクは空になったカップの代わりにペンに手を伸ばした。
「ほれ、メモ貸してみろ。答え合わせの時間だ」
「答え分かるんですか? じゃあ……お願いします」
アイリスから、ずいとメモを差し出されたメモを受け取ったラルクは、箇条書きされた質問の一文字目の横に、真っ直ぐ縦線を引く。
文章から切り離された文字の羅列。
これで分かるだろうと言いたげな顔でメモを返したラルクの視界の先で、アイリスが数度、瞳を瞬かせた。
「末永くお幸せに……?」
一文字目に当たる、文字。質問の順に読めば浮かび上がる単語に、アイリスはしばし沈黙して。
「貴方への皮肉みたいですね」
齧られるのを待つ毒林檎は、死をもたらす甘い果実。
それに、しあわせなんて。
真正面からの皮肉に、ラルクは口角を釣り上げて、笑うだけだった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月23日 |
出発日 | 09月29日 00:00 |
予定納品日 | 10月09日 |
参加者
会議室
-
2015/09/28-23:10
-
2015/09/28-01:28
-
2015/09/28-01:28
-
2015/09/28-01:12
あらためまして、桜倉歌菜と申します!
アマリリスさん、アイリスさん、藍玉さん、またご一緒できて嬉しいです♪
宜しくお願いいたします!
白雪姫の童話な世界、わくわくしますねっ
よい一時となりますように! -
2015/09/26-20:23
こんにちは、藍玉といいます。
精霊はディアボロのセリングさんです。
アマリリスさん、ケリーさんは初めまして。桜倉さんはお久しぶりです。
白雪姫モデルの不思議屋敷、楽しみましょうね。
よろしくお願いします。 -
2015/09/26-13:03
アイリス・ケリーと申します。パートナーはラルク。
藍玉さん、セリングさんは初めまして。
アマリリスさんと歌菜さんはお久しぶりです。
現地でごいっしょすることはありませんが、どうぞよろしくお願い致します。 -
2015/09/26-00:38
-
2015/09/26-00:15