プロローグ
神秘的な輝きを放つ星々をレールにして、ムーン・アンバー号は光を振りまきながら、目的地の明るい月と呼ばれる『ルーメン』へと到着した。
『よく来た。救世主たちよ、愛しき地上の我が子らよ』
ムーン・アンバー号を降りると同時に、頭の中に声が響いた。
戸惑っている者、懐かしさを覚える者、様々な反応を見せるウィンクルム達に、一人の『Love-Bit』が「聞こえましたか?」を笑顔で訪ねてきた。
「ようこそ、ルーメンへ!」
そう言って迎えてくれたのはロップ。優秀なナビゲーターの彼は、ジェンマ祭を兼ねた収穫祭の窓口となっていた。
「先程の声はここルーメンの神、フィフス様です。皆さんを歓迎しています。勿論、僕たちも!」
さぁこちらへ! と元気よく言い、ロップは祭の案内を始める。
地上と変わりないように見えて、ルーメンはやはり異世界。よく見ると変わったものが色々と並んでいる。
初めて見る植物、何か混ざったような生き物、よく分からない見かけなのに食べると美味しい謎の食材。
そんな見慣れない生き物や植物、食べ物をたっぷりと楽しんだウィンクルム達は、ふと、嗅ぎなれた香りに足を止めた。
「ああ、この店ですか?」
その様子に気付いたロップが説明を始める。
「珈琲の香りにとてもよく似ているでしょう? けどこれは珈琲じゃなくて『赤味豆』っていう……あの、何と言いますか、ちょっと刺激の強い豆でして。あ、でも害はないんですよ!」
ルーメンでは興奮剤として使われるこの赤味豆を、この屋台では作用を抑えて調理することに成功していた。
「味も珈琲そっくりです。ただ少しだけ、食べるとのぼせたような感じになるというか……冷え性の人にはいいと思いますよ! あと落ち込んでる人にも! 食べてみますか?」
興味をひかれたあなた達は、店に入ってみることにした。
解説
ジェンマ祭兼収穫祭を楽しみながら、赤味豆料理を味わってください。
カフェ内の描写になります。
別々のテーブルでも仲間と一緒のテーブルでもご自由にどうぞ。
ロップは仕事の電話がかかってきた為ちょっといなくなってますのでお気になさらず。
赤味豆の味は珈琲と同じです。美味しいです。
ただし、赤味豆料理を口にすると、身体が温かくなってのぼせたような感じになります。
さらにすごく元気になってポジティブシンキンになります。
その点だけお気をつけください。
食べてる間はずっとそんな状態です。人によっては食べ終わっても暫く引きずるかもしれません。
メニューは以下となっております。
1、ホット赤味豆茶 50Jr
2、アイス赤味豆茶 50Jr
3、赤味豆ゼリー 200Jr
4、赤味豆ビスコッティ 200Jr
5、赤味豆シフォンケーキ 300Jr
6、赤味豆パフェ 500Jr
7、大盛りスペシャル赤味豆パフェ 1000Jr
食べたいものの数字をプランの頭に書いてください。複数選んでも大丈夫です。
1、2に関してはシロップ、シュガー、ミルク、ホイップクリーム、シナモン等、トッピングとして考えられるものは揃ってますし全て無料です。
こだわりのある方はプランにご記入ください。
例:1シュガー沢山、4
例:7以外全部
体があったまるという事は頬なんかも赤く染まってるんですかね!
上着なんかも脱いじゃったりするんですかね!
普段言えないこともポジティブシンキンで言ったりするんですかね!
こんな食べ物なので、カフェ内は多少賑やかですし、多少賑やかにしても大丈夫です。
ゲームマスターより
赤味豆、どうぞご賞味ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
*ホットをブラックで、あと、ビスコッティ ◆赤味豆に興味が有る 豆がそのまま使われてるメニューがあればそれも なければ写真でも 俺はコーヒーが好きだ 砂糖もミルクも入れない 入れる時は味を誤魔化す時 あと、疲れている時、かな 赤味豆とコーヒーを比べたり、齧ったり 暑くなって上着を脱ぐ まだ暑い ネクタイも緩め、ベストも脱ぐ *視線に余計赤くなる ◆観光の相談とモフモフ これから何を見に行くかを相談したい ウサギに似た住人達も可愛いよな モフモフしくてさ ランスの意味不明なスネっぷりに、ヤキモチだと気付く ソファーの隣をポンポン叩いて 「こっちこいよ」とボソリ 耳の後ろとかモフモフしてやるけど 甘えさせるのは今だけだからな(わしゃわしゃ |
明智珠樹(千亞)
ふ、ふふ…! ルーメンは初めて訪れますね。兎さんいっぱいで嬉しいです、ふふ…! そして赤味豆、なんて魅惑的な響きでしょう…! さぁ、千亞さんにうってつけの特盛を…! おや、頼まないのですか?残念です… あ、パフェは食べるのですね、いつもの千亞さんですね 安心しました、ふふ…! ●注文:1&4 …!ふふ、美味しいですね…! コーヒー好きにはたまりません。 この内側からジワジワと燃え上がるこの感じ、この想い…!(ハァハァ) あぁ、千亞さんのことを想うだけで…(頬染め) ほぉら、こんなにもアッツアツのビショビショ(※汗)です…! (上着脱ぎ、胸をはだけ) 千亞さんは暑くありませんか? さぁ、千亞さんも開放的に…!さぁ…! |
安宅 つぶら(カラヴィンカ・シン)
2 ルーメンは食べ物も生き物も変わってるよねェ! この赤味豆ってのもちょっと火照るくらいだしだいじょ… (お約束言われ) 何がどうお約束、って言うか自分だけ何も飲まず食わずのつもりかい!? ごめーんゼリー追加で!(注文) お、ビビってんのじーさん? …逃がさないよちびすけこの野郎(貼り付けた笑顔) という訳でつぶらサンは全部飲むよー! はーあっついねェ!(上着を外して胸元寛げる) つぶらサンはさー、やっぱ笑顔が生き甲斐なんだよねェ カーラにも嫌味とか営業用じゃなくて、ホントの笑顔見せてほしいなァってのは思ってるワケですよ じーさん聞いて…歩けない? あっはっは!フラグ回収お疲れサン♪ おぶって帰ってやろうかねェ |
楼城 簾(フォロス・ミズノ)
ホット赤味味茶と赤味豆シフォンケーキを頼むよ。 飲み物に何か入れるのは好きではないから、そのままで。 さて、ミズノさん。 君と僕は契約した訳だが……、僕達は同じ大学、同じ会社にいながらもあまりにも面識がなかった。 僕達には互いを知る時間が必要だと思わないか? 食べている間に少し暑くなってきたから、襟元でも寛げておこうか。 業務中……面白いことを言う。 君には僕との時間は業務ということか。 なら、この際、言っておくが。 僕は利用価値のないクズと契約しなくて良かったと思っている。 君の社内の評価は実にいい。 自分の立場を理解して振舞うのは僕も同じだ。 君は良き理解者になってくれそうだよ。 気が合うな、僕もそう思っていた。 |
■嫉妬の風味
「ホットをそのままで、あと、ビスコッティ」
「俺はホットとケーキ」
カフェに入ってメニューを見てから、『アキ・セイジ』と『ヴェルトール・ランス』は店員を捕まえて注文をする。
以前、赤味豆の採取を手伝ったことがある二人だが、その時はあくまで採取だけで、料理などはなかった。
「ビスコッティには豆が丸ごと入ってるな」
特に赤味豆に興味があるセイジは、運ばれてきたものを嬉しそうに見ている。
「セイジは何か入れるか?」
ランスはミルクピッチャーを片手に聞くが、セイジは断る。
「コーヒーに似てるんだろう? 俺はコーヒーには砂糖もミルクも入れない。入れる時は味を誤魔化す時か、あと、疲れている時、かな」
だから、赤味豆茶もこのまま楽しむ。
コーヒーに似た味と聞いていたこともあり、コーヒー好きのセイジは純粋に味を試したいようだ。
ランスは感心したように頷き、「じゃ俺も入れないでおくかな」と同じようにそのままで赤味豆茶を飲む。
香ばしい匂いに、苦味と爽やかな酸味。
「うん、豆の味が良く分かるな」
「そうだろう?」
ランスの言葉にセイジは思わず得意気に、嬉しそうに返した。その笑顔にランスの顔も綻ぶ。
「さーて、ケーキの方は、と」
気分よくランスはシフォンケーキを一口。口の中いっぱいに広がる仄かな甘味と味わい。
「ん、ケーキも美味い」
フォークの進みも早くなる。ランスはあっという間にシフォンケーキを半分まで平らげ、そこで正面に座るセイジの視線に気がつく。
「何だ?」
カップを片手にニコニコとこちらを眺めているセイジに尋ねれば。
「食べっぷりが微笑ましくて、つい」
そんな答えが返ってきて。
ランスは「そうか」と言いながらも、思わず赤面した。けれどそれは恥ずかしさや照れ臭さだけではなく。
「……なんだか暑くなってきたな」
そう言って、セイジが上着を脱ぐ。ランスも瞬間的に火照った頬から熱が引かない。
赤味豆の効果だ。
上着を脱いでもまだ暑いらしいセイジが、ネクタイも緩め、ベストも脱いでいく。
(おー、これはこれは……)
ランスはさっき眺められていたことのお返しとばかりにじっくりと見る。そんなランスの視線にセイジも気付き、暑くて赤らめていた頬を更に赤くさせて「見るな、バカ」と顔を背けた。
そんな可愛らしい仕草を堪能しながら、ランスもまた暑さに耐え切れず上着を脱いだ。
「この後はどうする?」
お互い大分薄着になった状態でこの後の予定を考える。せっかくルーメンまで着たのだ。色々と観光をしてみたい。だからこその観光の相談だ。
「ウサギに似た住人達も可愛いよな。モフモフしくてさ」
セイジがほんのりと上気した顔で言えば、ランスは疑問符を浮かべながら首を傾げてしまう。
(……もしかして、Love-Bitの事を勘違いしてるの、か?)
その可能性に気付いて、ランスは指で頬を掻きながら「あー、あのな?」と切り出した。
「ここまで案内してくれたロップ、いるだろ?」
「いたな」
「ロップはLove-Bitだぞ?」
「え」
セイジが目を見開く。
「モフモフしてるのは、ほら、ショコランドの……」
「ああ!」
セイジは声をあげながら気がつく。ショコランドの古都ウルプスにいるプレジール・ラビット。彼らとごちゃ混ぜになって勘違いしていた。
「名前が、Love-Bitって名前がウサギっぽいから……ッ」
恥ずかしさにセイジはテーブルに突っ伏しながら呻く。
ランスはそんなセイジを笑いながら見ていたが、内心は複雑だ。
(そんなに兎が良いのかよ)
「狼より可愛い?」
言われたセイジは一瞬その意図することがわからず、きょとんとして体を起こした。
けれど、そうして向き合ったぶすくれたランスの顔を見て気付く。ヤキモチ、なのだと。
「……ッふふ」
思わず吹き出したセイジに、ランスはヤキモチを焼いていたのがばれた事を知る。
くだらない嫉妬だ。自分でもそう思う。そんなことはわかっているけれど、でも嫉妬してしまうものは嫉妬してしまうのだ。
さらにむすっとするランスに、セイジは苦笑してから自分の座るソファーの隣をポンポンと叩く。
「こっちこいよ」
ボソリと呟けば、ランスは耳をピンと立ててサッと立ち上がり移動する。
撫でろとばかりに頭を差し出せば、セイジはやはり苦笑したまま、それでも手をランスの頭に乗せる。
「耳の後ろとかモフモフしてやるけど、甘えさせるのは今だけだからな」
ランスは知っている。そうは言っても、何だかんだで何度も甘えさせてくれるセイジを。
「へへっ。あ、そうだ! でっかいパフェ取ろうぜ?」
撫でられながらの提案は「もうお腹いっぱいだよ」というセイジの一声で却下された。
いっぱいだったのがお腹なのか胸なのかは、セイジだけが知っている。
■探り合いの香り
「ホット赤味豆茶と赤味豆シフォンケーキを」
「ホット赤味豆茶と赤味豆ビスコッティで」
店員が「かしこまりました」と厨房へ向かうのを見送ってから、『楼城 簾』と『フォロス・ミズノ』は改めて向かい合った。
「さて、ミズノさん」
まず、簾が切り出す。
「君と僕は契約した訳だが……僕達は同じ大学、同じ会社にいながらもあまりにも面識がなかった。僕達には互いを知る時間が必要だと思わないか?」
新しいウィンクルムが話し合う内容としては、実に妥当な内容。
だがそれに対し、フォロスは微笑みながら違いを指摘する。
「大学では存じませんが、社内では面識なくともあなたの名前は知っておりましたよ」
簾の片眉が僅かに上がる。
「起業者の孫、社長の息子……秘書課にいて知らない方がおかしいですから」
「なるほど」
納得のいく回答を聞いたところでお茶と焼き菓子が運ばれる。
「砂糖は入れますか?」
「いや、飲み物に何か入れるのは好きではないから、そのままで」
「そうですか」
そうして簾はストレートの赤味豆茶を、フォロスは砂糖を少量入れた赤味豆茶の香りと味を楽しむ。
その間も何気ない、もしくは実の無い会話を静かに重ねていく。
それは大学の現状だったり、社内の社報についてだったり、本当に他愛の無いもので、互いを知るという目的にはなかなか辿り着けない。
不意に、簾が襟元を広げて息を吐く。赤味豆の効果で暑くなったようだ。
「少し暑いですね」
それに気がついたフォロスが言えば、「君も寛げばいい」と簾が勧める。だが。
「今は業務中なので、あなたの前で失礼は致しません」
その発言に、眼鏡の奥の鋭い眼が緩く弧を作る。
「業務中……面白いことを言う。君には僕との時間は業務ということか」
「違いますか」
問いかけではなく、事実の確認。
「なら、この際、言っておくが」
それを聞いた簾は、少し自身を曝け出すことを決める。
「僕は利用価値のないクズと契約しなくて良かったと思っている。君の社内の評価は実にいい」
傍から聞けば、決して褒められない内容。
「……それが、本音ですか」
けれどフォロスはそれを驚く事無く受け入れる。
「あなたは、野心家のようですね。効率特化、利用価値の有無を優先されるとか」
「なるほど、そういう風評か。それで、それが事実だとして、気に食わないか?」
何か腹に含みを感じさせる、問い。
それすらもフォロスは静かに受け入れる。
「いいえ、支え補佐するのが秘書の役割です」
職場での立場を意識して弁えた上での発言。振舞い。
(自分の立場を理解して振舞うのは僕も同じだ)
フォロスの言動を確認した簾は、自分は良い契約が出来たようだとひとまず思う。
「君は良き理解者になってくれそうだよ」
「ありがとうございます」
友好な関係が築かれたように見える。
けれどそれはそう見えるだけで、互いにまだ探り合っている。探り合っているという事を互いに理解している。
起業者の孫、社長の息子、将来を目されている実力のある男。
(そのお立場も手段に過ぎないのでしょう)
何処か油断のならない簾を前に、フォロスは何故かそんな事を思った。力も、立場も、簾は自分の目的の為に使っていくのだろう、と。
(ですが……それが全てではありません)
フォロスは微笑む。自分の立場を理解して簾を立てる気はある。だが、そこに心はない。そこまではまだ、とても許せない。
自分にとって、敵となるのか、味方となるのか、見極めなければ。
そしてもし味方となるのならば、上に立つのは―――。
(さて、躾けられるのはどちらでしょうね?)
「今後ともよろしくお願い致します」
二人を探るように視線を交わし、そして同じタイミングで断ち切るようにカップを傾けた。
お互い機を窺っている。それが何の機なのかは明かし合わない。それでも機を窺っているという事実は肌で感じ分かった。
「これはこれで良き時間でしょうね」
互いを知る、という事が出来たのだから。
「気が合うな、僕もそう思っていた」
零した声に簾も頷く。
―――不本意ではありますが。
フォロスの心の中の声までも同意したかは、わからない。
■曝け出される味わい
「ふ、ふふ……! ルーメンは初めて訪れますね。兎さんいっぱいで嬉しいです、ふふ……!」
「言っとくけど、Love-Bitは兎人間じゃないからな」
呆れたような『千亞』のツッコミにも『明智珠樹』は動じない。
「わかってますよ、名前だけでも可愛らしいじゃないですか。ふふ、ふ……!」
平常運転の笑いを漏らしながら二人はカフェのメニューを改めて見る。
「そして赤味豆、なんて魅惑的な響きでしょう……!」
赤い味。その赤は何を表してるのか。情熱の赤、嫉妬の赤、××の赤。××に当てはまる言葉はご自由にお考えください。
「さぁ、千亞さんにうってつけの大盛を……!」
「いや……そりゃ大盛も気になるけど。効能のこと聞いたら二の足踏むよ……僕、冷え性じゃないし」
大盛は、食べてみたい。けれどもう赤味豆を食べたらどうなるか知っている。それならいっぱい食べたい欲望は我慢するのが得策だ。だって赤くなったりとか脱いだりとか変な事言ったりとか騒いだりとか、そんな事になりたくない。切実になりたくない。そういうのは目の前の神人だけで充分だ。
「おや、頼まないのですか? 残念です……あ、私はホットとビスコッティで」
「取り敢えず、パフェとアイスで」
「あ、パフェは食べるのですね、いつもの千亞さんですね、安心しました、ふふ……!」
「だ、だってやっぱり食べてはみたいし!」
量をとらなければきっと大丈夫だ。そう自己暗示をかけて、千亞は美味しそうなパフェに挑むのだった。
「……! ふふ、美味しいですね……!」
「……! 美味っしい……!」
お互いに目を閉じじっくりと味わう。千亞にいたっては何処かうっとりとしている。
「ふふ、コーヒー好きにはたまりません」
「普段は紅茶派だけど、普通のコーヒーより赤味豆の方が好きかも……!」
なんか飲みやすい? と更に飲みながら千亞が尋ねれば、珠樹も口をつけながら頷く。
「……ん、でも……」
美味しく飲んでいたストローから口を離し、千亞はパタパタと手で顔を扇ぐ。
「言ってた通り、本当に暑さを感じる……」
ほんわりと、千亞の頬が赤く染まる。
「ふ、ふふ……! この内側からジワジワと燃え上がるこの感じ、この想い……!」
同じように頬を染めてはいるが、それに伴う荒い呼吸が珠樹を珠樹らしくしている。つまり変態らしくしている。
「あぁ、千亞さんのことを想うだけで……」
「おい。煩いぞド変態」
ホカホカしつつもまめにツッコむ千亞に、けれど当然珠樹はめげない。
「ほぉら、こんなにもアッツアツのビショビショです……!」
一歩間違えれば「もしもし警察ですか?」の危険もある発言だが、大丈夫です、汗ですよ。
言いながら上着を脱ぎ胸を肌蹴させてるのも「お母さんあの人」「し、見ちゃいけません」の事案の可能性がある行動だが、大丈夫です、このカフェに限ってみんな同じ様な事してます。
「……珠樹、変な事言うなそれ以上脱ぐなよっ」
千亞が机の下で珠樹の向こう脛を蹴る。「あぅん!」と痛がってるのか喘いでいるのかわからない声が漏れたが、それは流すことにする。そして放置する。だってパフェ食べたいし。珠樹を諌めていたらそんな余裕がなくなるし。
「千亞さんは暑くありませんか?」
痛みが治まったのか、快感が落ち着いたのか、珠樹はふぅ、と息を吐きながら立ち上がる。
何故立ち上がったんだろう。そう疑問に思ったけれど、パフェを食べる方に夢中だった。それがいけなかった。
「暑いけど我慢でき……」
「さぁ、千亞さんも開放的に……! さぁ……!」
「って何僕を脱がそうとしてるんだっ」
千亞の横に来ていそいそと上着を脱がす珠樹をげしげしと蹴る。千亞の意識が完全にパフェから珠樹に移る。本当にこの変態はどうしてこう変態なんだ。
「公衆の面前だぞっ!」
千亞が暑くなっているのは赤味豆のせいか、珠樹のせいか。
怒られた珠樹はそれでもやっぱり欠片もめげず、それどころか千亞の腰に手を当てずいっと顔を迫らせる。
迫らせて、そして笑顔で訊く。
「つまり。二人きりの時ならいいのですね……!」
「え?」
千亞は一瞬、頭が空っぽになって。
「そ、それは……」
他に誰もおらず、珠樹と二人きり。そんな状況だったら、自分はどう返すのだろう。
どう返したいのだろう。
不意に、二人きりの海岸で交わした約束と、頬へのキスを思い出す。
赤味豆の火照りとは別の火照りが、一気にカァッと顔を真っ赤にさせる。
珠樹と二人きりだったら、そしたら、そしたら?
ぐるぐると考えてしまった千亞だったが、すぐに自分のズボンがおろされようとしている危機に気付く。
「千亞さんを脱がし尻尾をもふりまくり……ふふ、ふ…ふふふふふ……!」
犯人は勿論、自分の神人、明智珠樹その人。
頬を赤らめ、うっとりとした笑顔で、ズボンのホックに手をかけている。
それまでの暑さも動揺も全て吹っ飛んで、一気に氷点下突入するほど冷静になる。
「いいわけないだろド変態」
そして至極冷ややかに、的確に、抉るように、珠樹の横っ腹へと蹴りを叩き込んだ。
「はぁんッ……ふ、ふふ、ナイス抉りです、千亞さん……!」
珠樹は頬を赤らめたまま、いい笑顔でうっとりと見つめてくる。
千亞は冷静になったものの、まだ火照りが燻る体で溜息を一つ零した。
■華やかなりし演出の味
アイス赤味豆茶を頼み終えた『安宅 つぶら』は『カラヴィンカ・シン』へと今日の感想を口にする。
「ルーメンは食べ物も生き物も変わってるよねェ!」
楽しい! とこぼれんばかりの笑顔だ。
色々観光をして、そうして辿り着いたこのカフェ。用意されている赤味豆の料理。ロップの説明は果たして本当だろうかと、若干の不安と大いなる期待が入り混じる。
「まぁ、この赤味豆ってのもちょっと火照るくらいだしだいじょ……」
「……ふっ、お約束という奴か?」
入り混じった不安を見抜いたのか、それとも言葉通りその発言を『お約束』として受け取ったのか、カラヴィンカは面白そうにつぶらを見ながら語る。
「予定調和、フラグ建築、大いに結構! その方が演出もしやすいからな」
演出家らしい発言に、カチンと来たのかそれとも乗っかろうと思ったのか。つぶらはスッと頬を引き攣らせながら口を開く。
「何がどうお約束、って言うか自分だけ何も飲まず食わずのつもりかい!?」
語尾が大きくなったかと思えば、ガタンッと音を立てて立ち上がる。
「ごめーんゼリー追加で!」
「何をしている、体を張って踊らされるのは道化の仕事で演出家の仕事では」
「お、ビビってんのじーさん?」
ふふん、と挑発するようにカラヴィンカの顔を覗き込めば、ぐっと言葉に詰まる可愛らしい精霊の姿が目に入る。中身はとても可愛らしいとは言えないが。
「……何だ今日は……茶を飲む前から既に中てられているのではないか?」
言いながら、そういえばと説明を思い出す。
―――凄く元気になる。前向きな思考になる。
香りだけでもその効果があるのなら、元より元気なつぶらではどうなるのか。
「……逃がさないよちびすけこの野郎」
貼り付けた笑顔で告げるつぶらに、本当に香りに中てられたのかどうかは確認できなかった。
「という訳でつぶらサンは全部飲むよー!」
運ばれてきたアイス赤味豆茶を笑顔で掴むと、ストローを外しコップに口をつけ、大きく仰ぎながら一気に飲み干した。
「ッぷはー! 飲んだー! はーあっついねェ!」
赤味豆の効果はすぐ訪れた。つぶらは笑顔にじんわりと汗を滲ませ、頬を赤くし、上着を脱いで胸元を寛げた。
飲みっぷりに通りかかった店員がクスクスと笑う。それに対して「どーもー!」とにこやかに手を振る。
まさに『赤味豆料理を堪能している青年』そのものだ。
(こいつ……役者としてはそれなりにできるのか……!?)
あっさり飲み終えたつぶらに釣られるように、カラヴィンカは無意識にも近い動作でゼリーを一口食べる。
「……おぉ」
香ばしくもほんのりと甘い味わい。冷たくぷるりと揺れる食感。
美味しい。
美味しいが、喉を通り腹に落ちた辺りから、じわじわと身体が暑くなっていく。
だが、暑がっている、などという様子は見せたくない。赤味豆料理にやられるのは『赤味豆料理を堪能している青年』であって、演出家である自分ではないのだから。
大丈夫、まだ大丈夫だ。そう自分に言い聞かせながら、それでも極力ゆっくりとスプーンをすすめる。
「つぶらサンはさー、やっぱ笑顔が生き甲斐なんだよねェ」
そんなカラヴィンカの静かな格闘には気付かず、つぶらはパタパタと手で自分を扇ぎながら話し出す。
「さっきはねェ、別に赤味豆の香りに中てられたわけじゃなくって、百パーセント自分の意思で煽ったの」
つぶらは語る。さっきの行動の真相を。その意味を。
「カーラにも嫌味とか営業用じゃなくて、ホントの笑顔見せてほしいなァってのは思ってるワケですよ」
だからこその行動。道化。
その告白は、けれど残念ながらカラヴィンカにはあまり届いていなかった。
何故なら、暑さに耐え、動じずにゼリーを片付ける事に必死になっていたからだ。
「じーさん聞いて……」
「よし、食べ終わった。出るぞ」
あまりにも静かなカラヴィンカにいぶかしめば、カラヴィンカは空いた器を見せるようにつぶらの前に突き出し、そのまま立ち上がった。
立ち上がって、一歩踏み出したところで、盛大によろけた。
「……もしかして、歩けない?」
まさかの事態につぶらは目を丸くする。
暑さに服を脱ぐことも休む事も無かったカラヴィンカは、見事にのぼせてしまったのだ。
「……うる、さい……誰のせいで……」
机に手をついてしっかりと立とうとする自分のパートナーを見て、つぶらはプッと吹き出し、そして盛大に笑う。
「あっはっは! フラグ回収お疲れサン♪」
楽しそうに、実に楽しそうに笑うつぶらを見て、カラヴィンカは意識を切り替える。
「……そうだな、見事なまでの回収だ」
そう、赤味豆の効果通り、前向きに、ポジティブに切り替える。
「ハハッ、これはひどいオチだ! それも演出し甲斐のない最低な! ああ、まさか演出家が演出の一部になろうとは! まさに喜劇!」
言葉は悪くとも、間違いなく喜んでいる。
つぶらはそれがわかったから、声をあげて笑い出すカラヴィンカに満足気に胸を張る。
「おぶって帰ってやろうかねェ」
嫌味や営業用ではない、ホントの笑顔。それを見る事が出来たつぶらが笑いながら提案すれば、カラヴィンカはようやくすっくと立って優雅に手を差し出す。
「背負ってくれるのか? 気が利くじゃないか、つぶらよ」
まだ親密さの低いウィンクルムの、それでも一歩近づいた喜劇の終幕に相応しい、華やかな笑顔で告げながら。
依頼結果:成功
MVP:
名前:安宅 つぶら 呼び名:道化 |
名前:カラヴィンカ・シン 呼び名:カーラ、ちびすけ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月12日 |
出発日 | 09月18日 00:00 |
予定納品日 | 09月28日 |
参加者
会議室
-
2015/09/17-23:43
プランは提出できているよ。
コーヒーとの違いも楽しみつつまったりできたら嬉しいな。
けど、さっきからなんだか暑くてさ…(上着脱ぎ脱ぎ -
2015/09/17-22:53
-
2015/09/16-22:59
よかった、僕らが居た空間は幻じゃなかったんだね…!
と、いうわけで改めまして。
つぶらさんご両人、簾さんご両人ははじめまして、明智珠樹と申します。
何卒よろしくお願いいたします、ふふ…!!
そしてアキさんランスさん、ご無沙汰しております、今回もよろしくお願いいたします…!
赤味豆効果、今から楽しみですね、ふふ、ふふふふふ…!! -
2015/09/16-00:12
-
2015/09/15-21:29
初めまして、楼城 簾だよ。
ディアボロのパートナー、ミズノさんと一緒に来たんだ。
僕達は契約して間もないから、言いたいことを先に言うのも悪くないと思って。
さぁて、彼とはいい話をしたいね、ふふふ。
皆もそれぞれ時間を過ごすのかな?
お互い良い時間を過ごせるように。 -
2015/09/15-10:19
じゃーん! 実は皆でかくれんぼしてました!(どやぁ
嘘ですごめん皆初めまして!(運営さんはお疲れサン!)
つぶらサンですよろしくゥっ
火照ったおちび連れたお兄さんがいても不審者じゃないんでそこもよろs、あいたァッ(足小指踏まれる) -
2015/09/15-00:27
ご無沙汰しております、貴方の明智珠樹です。
そして隣の小兎ちゃんは千亞さんです、ふふ…!!
せんせい、私達以外の参加者さんの姿が見えないのですがアレレレレ。
埋まってるの、でしょうか。どっきどき!
何はともあれ、よろしくお願いいたします…!ふふ。 -
2015/09/15-00:24