【例祭】鎮守の森でおもてなし(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 紅月ノ神社でフェスタ・ラ・ジェンマに合わせた夏祭りが開かれていると言う。
 神社境内には留まらず、かつては瘴気の森だった鎮守の森の中にも、露店は広がっているとも聞く。
「で、何故私がわざわざ行かねばならぬのですか」
「ご招待にあずかったんだから行っとくのが礼儀でしょ」
 不満げな顔をしている蛇御子に、遊火が肩を竦めて笑えば、小さな溜息と共に小言が返る。
 大体以前は敵対していた妖狐の祭に今更どうして顔を出せると言うのかそもそも遊んでいるほど暇じゃないうんたらかんたら。
 蛇ちゃんは真面目だなぁ。と胸中で呟きつつ、曖昧に笑って聞き流していると、森の入口に佇む影を見つけた。
「ようこそ、ようこそ!」
「なないろしょくどうへ!」
「ねえさまのしょくどうへ!」
 両手を広げ、掲げ、ぴょんぴょこ跳ねながら口々に言うのは、雪童。
 三人の少年が語る『ねえさま』というのは、彼らの育ての親に当たる雪女の事だとして。
「七色食堂?」
 聞き覚えのない単語に首を傾げれば、また、彼らはぴょんぴょこ跳ねる。
「なないろしょくどうの、しゅっちょうてんぽ!」
「ちんじゅのもりの、しゅっちょうてんぽ!」
「ゆきおんなとくせいの、しゅっちょうてんぽ!」
「うん、意味が分からない」
「めにゅーは!」
「ひとつ!」
「なべやきうどんていしょく!」
 きゃらきゃらとはしゃぐ雪童に、多分客引きは向いていない。
 しかし微笑ましげに見つめて、えーと、と遊火は先を促した。
「鍋焼きうどん定食が食べられるんだよね。じゃあ、案内、して貰おうかなー」
 それを待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせた雪童はきちんと整列して順に手を挙げる。
「いちばんカズハ! ほしのみち!」
「にばんフタバ! はなのみち!」
「さんばんミツバ! みずのみち!」
 あなたはどのみちを、はしる――?



 不思議な誘いに、二人は無難に一番を選んだ。すると雪童は毛糸を編んだようなふかふかの紐を取り出し、くるり、二人を囲う。
 縦に整列、先頭は雪童。しゅっぱつしんこう、と高らかに声が聞こえれば、すぐに悟れた。電車ごっこだ。
 いい年してこれはなかなか気恥ずかしい、とほんの一瞬思った二人だが、がたんごとんと口ずさんで進みだした雪童の足元から、唐突に星が湧くのを見つけて、目を瞠る。
 星の道。告げた言葉通り、きらきらと輝く星が、レールのように足元に続き、時折流れ星となって視界を横切る。
 なかなか幻想的な光景に見入る蛇御子を、前に並んだ遊火はちらりと盗み見た。
 かつて自分達は、この森は瘴気に満ちていて。
 炎龍王の配下として妖狐や人間と敵対していた。
 それがすっかり、和睦の道を歩んでいて。
 こうして、遊びに付き合うまでに至っていた。
(不思議なもんだねぇ)
 なにもかもウィンクルムのせいで、何もかも、ウィンクルムのおかげだ。
 逢ったことはないが。自嘲するように笑ったところで、たどり着いたのは一面の雪景色。
 そしてその中にぽつんと佇む東屋と、一人の女性。
「遅い、遅いわ! 私を待たせるなんて、いい度胸!」
「いやぁ、雪童ちゃんの可愛い電車ごっこ楽しんじゃったから」
「うちの子が可愛いのは当たり前でしょ」
(親馬鹿か……)
 へらりと笑う遊火と、ふっと目を逸らす蛇御子とを席に着かせ、雪女は分厚いミトンを装着して膳を提供する。
「鍋焼きうどん定食よ。こっちが味噌煮込みで、こっちがすき焼風。あとご飯と茶碗蒸しが付いてるわ。あとデザートにぜんざい」
「……熱いんだよね?」
「熱いに決まってるでしょ」
 湯気の立つ膳を眺めて、顔を見合わせて。『試食』のために招待されていた二人は、いただきますと手を付けた。
 辺りは雪景色。しかし夏祭りを楽しむつもりの服でも、不思議と凍える程ではない。
 というのも、道中の電車ごっこで、雪童たちが耐寒のまじないをかけているのだそう。
 夏の終わりに雪を眺め、雪女が手ずから振る舞うあつあつのメニュー。
 何とも不思議な心地は、どこか贅沢な心地。
「これなら、ウィンクルムも楽しんでくれるんじゃない?」
 ごちそうさまの後にそう告げれば、つん、と雪女はそっぽを向く。
「満足しないなら、凍らせるだけよ」
「人に合わせる気があるのかないのか分かりませんねあなたは」
「こおりあめちゃん過激だー」

 夏祭りに賑わう鎮守の森の片隅で。
 七色食堂出張店舗、期間限定、特別オープンだ。

解説

●費用について
飲食代として一組様500jr頂きます

●内容について
雪童と電車ごっこの後に雪女の料理を食べる流れになります
電車ごっこの祭は
A:カズハと星の道
B:フタバと花の道
C:ミツバと水の道
のいずれかを選択できます

また、雪女の料理は鍋焼きうどん定食一択(内容はプロローグ参照)ですが、
1:味噌煮込み味
2:すき焼風味
のいずれかを選択できます
どのような形でも構いませんのでプラン内に明記してください

●リザルトについて
個別の予定です
雪童と戯れるだけ、雪女と食事するだけ、でも構いません
どちらに重点を置いても、○○の道を移動して鍋焼きうどん○○味を食べた、という流れだけは描写します
蛇御子と遊火は試食係としての登場なのでリザルトには出ません

●他
服装は特に着こむ必要はありません
熱いお茶がおかわり自由です
別に文句言っても凍らされたりしませんのでご安心ください

ゲームマスターより

神社妖怪組が好きすぎる錘里です
遊火が好きすぎて遊蛇を推しすぎている錘里です

錘里宅のNPCの雪女や雪童が登場しておりますが、面識の有無は問いません
給仕として扱って頂ければ幸いです
お声掛けあれば返事はしますが基本的に込み入った話はしません

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  *星の道⇒味噌味

◆行動
電車ごっこに心が和む(こういうのって、良いな
可愛らしい送迎だな
皆でお迎えしているのかい?

着いたら有難うとお礼言って席に着く
俺は味噌が良いな。体があったまるし懐かしい感じがするから
ランスの申し出は快諾する
蓋を受け皿として少し分けてあげるよ

雪女にもお礼
戦いの時は、こういう風にゆっくり楽しめるなんて思ってなかったからさ
戦いのあと色々あったんだろうなあとも思う
だから雪女には「美味かった。また食べたい」と伝えたい
ずっと平和なら、また店も開かれるかもしれない
それを楽しみに…

体が温まったら周りを少し散歩
あたりの雪で雪ウサギが作りたい
大きいの一つに小さいのを三つ
入口の脇にチョンと添えたい



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ヒサメさんの手料理、食べに行かねば。

電車ごっこか、可愛いなぁ。
じゃ、ラキアの希望で花の道通って行こうぜ!
季節を跨いで行くって発想は無かった。
そう思うと楽しさ倍増だな!
「花達も一緒に冬に向かってしゅっぱーつ!」
うんてんしゅフタバと一緒に楽しく進むぜ。
どんな花が見れるかな?ラキアに聞こう。

うどんは味噌煮込み!ラキア、半分こしてくれるのか?
感激(ハグ)。愛を感じるぜ!
ヒサメさんの熱々手料理、両方食べたい。
茶碗蒸しも繊細な出汁で超ウマイ。ぜんざいもウマー!
美味しい物を食べると幸せだ。(超笑顔
大好きなラキアと一緒に食べるから更に幸せ。
「ヒサメさんのおかげて美味しくて幸せな時間を過ごせた、ありがとう!」



鳥飼(鴉)
  「カズハちゃん、フタバちゃん、ミツバちゃん。お久しぶりです」(屈んで視線を合わせる
元気そうで良かったです。(微笑
あれ?
もしかして僕の名前、『あるじどの』で覚えられてるんでしょうか?(首を傾げ

三択なんですね。(ちらりと鴉を見る
「ふふ、なら花の道にしますね。フタバちゃん、よろしくお願いします」
「鴉さんと電車ごっこする日が来ると思いませんでした」(楽しそうな笑み

「お久しぶりです、ヒサメさん」
また来ちゃいました。(にっこり
えっと、味は。
「はい、じゃあ僕も味噌煮込みで」(鴉に笑いかけ、向き直る

鴉さんと来れて、美味しいもの食べて。「幸せですね」
「安くないですよ。だってこれは僕達がして来た全部なんですから」



西園寺優純絆(十六夜和翔)
  ☆雪の結晶柄女児浴衣(髪型:下ろす

☆心情
「カズハちゃん達や氷雨お姉ちゃんに逢える!
カズちゃんに紹介しなくちゃ♪」

☆星の道・味噌煮込み

☆挨拶してから電車ごっこ
「カズハちゃん、フタバちゃん、ミツバちゃん久しぶり!
今日は新しい子と一緒に来たのだ♪
カズちゃんはツンデレ?って言う奴らしい…
わわっカズちゃん落ち着いて!」

☆到着後氷雨に挨拶
「カズハちゃん案内ありがと〜
氷雨お姉ちゃん、お久し振りですの!
又氷雨お姉ちゃんの料理食べれるなんて嬉しい♪」

☆食事中氷雨と話す
「アイスケーキも美味しかったけどこれも美味しい!
パパにも食べさせたいから作り方教えて欲しいのだよ
(あんなにデレるなんて気を許した証拠、良かった)」


カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
  「『雪景色の鍋焼きうどん』…何がおかしいのだろうか」

精霊のエルディと『おかしい』という概念の存在を会話しつつ
夏に雪景色で鍋焼きうどん。鍋焼きうどんが食せるのだろう? これのどこに問題があるのだろうか

「C:ミツバと水の道」を選択
電車ごっこ…確かに、この歳にして、これは恥ずかし──エルディの言う『おかしい』はこういう事をいうのだろうか。それならば、少し分かった気がする(多分違う)

味が選べるのか、ならば「2:すき焼風味」にしよう
真っ白な雪景色で鍋焼きうどん定食。うん、美味いな
そちらの方(ヒサメさん)が作ったのか。とても良い料理の腕だと思う。(少し幸せそうな笑顔)

エルディ、冷めるぞ。おまえが言うように



●共に在る暖かさ
 鎮守の森の入口で、お客さん待ちをしている雪童たちの元へ、鳥飼は笑顔で歩み寄った。
「カズハちゃん、フタバちゃん、ミツバちゃん。お久しぶりです」
 屈んで視線を合わせてくれる鳥飼に、雪童たちはぱっと表情を明るくさせて纏わりついた。
「あるじどのー!」
「元気そうでよかったです」
 ふふ、と嬉しそうに微笑んでから、鳥飼は、あれ? と胸中で首を傾げた。
(もしかして僕の名前、『あるじどの』で覚えられてるんでしょうか?)
 もしかしなくてもそうだと思われる。
 楽しげな彼らをぼんやりと眺めて、鴉は思う。鳥飼は、雪女に執心しているように見えると。
(初任務だったから、でしょうかね)
 およそ一年前の初めての接触から、ずっと。雪女の話を聞く度に駆けつける鳥飼。
 ――例えば彼が雪女の窮地に駆けつける事が出来ない状況になった時に、どう、なるか。
 考えなかったことにして、鴉は小さく溜息をついて見せながら、肩をすくめた。
「相変わらず、あなた達は元気ですね」
 鴉の言葉に元気よく頷いた雪童たちは、本題を思い出したように整列し、三つの道を示唆した。
 三択か、と胸中で思案した鳥飼は、ちらりと鴉を見る。
 それに気づいた鴉は、すぐに意を察して、「好きな道をどうぞ」と鳥飼を促した。
 鴉が己の意見を主張しないのは今に始まった事ではなくて、だからこそ彼は、わざわざ聞かずとも、と思うけれど。
 鳥飼が鴉に意見を窺うのもまた、今に始まった事ではない。
 そう、出会った時から、ずっとの事。
 過った思案を、ゆるりと頭を振って霧散させる鴉の横で、鳥飼は、じゃあ、とフタバに向き直った。
「ふふ、なら花の道にしますね。フタバちゃん、よろしくお願いします」
「はーい!」
「鴉さんと電車ごっこする日が来ると思いませんでした」
「そうですね。私もですよ。……この紐を持って進むのですか」
 初めてする電車ごっこに鴉が少しの動揺を見せながらも、大人二人と子供一人の不思議な電車は進む。
 足元に花が咲いて、揺れて、通り過ぎればふわりと綿毛が飛ぶように、光の粒になって消えていく。
 どこか幻想的な光景に楽しげに視線を巡らせていた鳥飼は、やがてたどり着いた雪景色の中に、その姿を見つけてぱっと表情を明るくした。
「お久しぶりです、ヒサメさん。また来ちゃいました」
 フタバにありがとうと告げて持ち場に戻るのを見送ってから挨拶すれば、雪女は一瞬だけ微笑んだが、いつものつんと澄ました顔に戻った彼女は、早々に席に着くように促した。
 二つ選べる味をじっと見比べてから、ちらりと鴉を見ようとした鳥飼だが、それより早く、鴉はメニューを閉じて雪女を見やる。
「味噌で」
 聞かれるのは、分かっていたから。
 だからそれより先に言っただけなのだけれど。
 少しだけ意外そうな顔をした鳥飼は、ふわりと微笑んだ。
「はい、じゃあ僕も味噌煮込みで」
 にこにこと嬉しそうに鴉に向きなおる鳥飼を、さりげなく見やって。雪景色を見る体で、そっと視線を背けた。
(偶に、いえいつもですね。主殿は何を考えているのやら)
 判らないだけで、そこに不満も不安も、ないけれど。
 熱々の鍋焼きうどんに舌鼓を打って、ぽかぽかとしている体が吐き出した息は、雪景色の中に白くとける。
「鴉さんと来れて、美味しいもの食べて」
 しみじみとした呟きに幸せな心地を籠めた鳥飼は、「幸せですね」とこぼした。
「そうですか」
 それは、なんとも。
「安い幸せで」
 淡々と返してうどんを啜った鴉に、鳥飼は安くないとささやかに抗議する。
「だってこれは僕達がして来た全部なんですから」
 出会いから、これまでの分。積み重ねてきた関係性の形が、『今』なのだ。
 真っ直ぐな目で告げる鳥飼の言葉を、むぐむぐと咀嚼しながら聞いていた鴉は、こくん、つい口を突く皮肉と一緒に飲み込んで。
「確かに、それは安くない」
 ふと、柔らかく微笑した。

●幸せな温もり
 七色食堂の出張店舗、しかも雪女の手料理と聞いて、セイリュー・グラシアは使命感に突き動かされた。
「食べに行かねば」
 それにラキア・ジェイドバインも頷くのを見て、二名様ご案内、と嬉しそうに言った雪童たちは、三つの道を選べることを告げた。
「電車ごっこか、可愛いなぁ」
 ほのぼのとしているセイリュー。対し、道の説明を聞いたラキアが強く主張する。
「花の道にしようよ」
「ん? そうだな。じゃ、ラキアの希望で花の道通って行こうぜ!」
 はーい、と元気よく返事をしたフタバは、くるりと三人に紐をかけて準備万端と敬礼した。
 倣って敬礼したセイリューは、わくわくとした様子のラキアを振り返って、花の道を選んだ理由を尋ねてみる。
「ヒサメさんって事は、夏から冬に行くんでしょ」
 春の花の中を通れば少しだけ過去に戻って。
 秋の花の中を通れば少しだけ未来に、って感じで幻想的だよね。
 そう言いながら、今から歩く道を想像して楽しそうに笑うラキアに、なるほど、と頷くセイリュー。
「季節を跨いで行くって発想は無かった」
「なかった!」
「えっ」
「そう思うと楽しさ倍増だな! よーしそれじゃ、花達も一緒に冬に向かってしゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
 フタバがセイリューと同じ感想を言ったのを聞いて、え、となったラキアだが、そっと足元に広がる花を見て、顔をほころばせる。
「これなら俺も判るぜ、タンポポだな!」
「うん、それに桜……あぁ、春の花って感じだね」
「なつー!」
 運転手の合図と共に、朝顔が花開く。にょきりと伸びた向日葵が目線の高さで咲くのを見つめていると、ふわりと涼しげな風と共に、コスモスの花が足元を覆う。
「あきー!」
「うん、秋だ。様々な甘い香りも素敵だよね」
 目に映る花一つ一つをセイリューに説明しながらの道程は、あっという間で。
 やがて雪景色と共に花たちが光の粒になって消えるのを、ラキアは名残惜しげに見送った。
「沢山の花をありがとう、フタバ。とても嬉しいよ」
 幸せそうな笑顔で持ち場に戻るフタバを見送って後、二人は雪女に挨拶しながらメニューを選んだ。
(セイリュー、凄く悩んでるなぁ……)
 どっちも食べたい、と顔に書いてあるのを微笑ましげに見つめつつ。迷いに迷ってセイリューが味噌煮込みうどんに決めるのを待ってから、ラキアはすき焼風を頼んだ。
「セイリュー、半分交換しようよ」
「半分こしてくれるのか?」
「ふふ、だってセイリュー、どっちにするか迷いっぷりが凄くて」
「愛を感じるぜ!」
 嬉しい申し出に、ぱっと両手を広げてそのままラキアをハグするセイリュー。
 程なくして運ばれてきた料理を口に運べば、二人揃って満面笑顔になった。
「ヒサメさんさらに料理の腕が上がったみたい。とても美味しいです」
「そりゃ、七色食堂で色々教えて貰ってるもの」
「なるほどなー。茶碗蒸しも繊細な出汁で超ウマイ!」
 口々の賛辞に、少しくすぐったげにした雪女は、デザートの準備と言って早々に退散する。
 にこにこと笑顔で見送って、ぱくぱくと食べ進める。
 美味しい物を食べる幸せはセイリューを笑顔にするけれど、それ以上に、ラキアと一緒に、という現実に幸せが増すのを感じていた。
 程よい甘さのぜんざいまで平らげ、満たされた顔を上げると、ラキアと目が合った。
「セイリュー本当に美味しそうに食べるね」
 そりゃ勿論。と笑みを返して、セイリューは雪女を振り返る。
「ヒサメさんのおかげて美味しくて幸せな時間を過ごせた、ありがとう!」
「それは……どう、いたしまして」
 相変わらずくすぐったげながらも柔らかく微笑んだ雪女に、揃って笑みを湛えて。
「また来ようね」
 彼女の居場所でなくても、どこへでも。二人で。
 またいつか、を告げられる喜びを、ほんのりと噛みしめながらラキアは微笑んだ。

●熱さに浸り
 がたんごとん。口ずさみながら電車ごっこの先頭を行くのはカズハ。
 星の道を選んだアキ・セイジとヴェルトール・ランスは、きらきら光る星が敷き詰められた道を行く小さな背中を、微笑ましげに見つめていた。
(可愛らしい送迎だな。こういうのって、良いな)
 ほっこりとした気分に、口角が緩むセイジ。
(なんか実家の弟妹達を思い出すな。にいちゃんにいちゃんって腕にぶら下がってきて……ふふ)
 こっちの都合もお構いなしに飛び込んでくる弟や妹は、可愛らしくもあり憎たらしくもある、微笑ましい関係性で。
 ランスが懐かしい心地に浸っていると、とうちゃーく、と元気のいい声と共に、雪景色の東屋に辿りつく。
 寒さを感じない不思議な状況ながらも、セイジはカズハにお礼を言って雪女が促す席に着いた。
「俺は味噌が良いな。体があったまるし懐かしい感じがするから」
「んー、じゃあ俺はすき焼風にしようかな」
 メニューと睨めっこをして決めると、暫し周囲の雪を眺めて雑談を。
 夏も終わりに近いとはいえ、雪を見るのも不思議な心地。なんて話をしていると、運ばれてくるそれぞれのメニュー。
 自分のすき焼風を一口啜って満足気な顔をしたランスだが、じぃっとセイジの鍋を見ていると、そちらの良い香りも漂ってきて……。
「セイジの味噌煮込みも美味そうな香りだ。一寸くれよ」
 蓋を差し出しつつ、「俺のもあげるからさ」とねだるランスに、ふふ、と笑みを零して快諾するセイジ。
 猫舌な彼の為に、受け取った蓋を受け皿にして少し盛った。
 ランスもまた、自分の鍋から少しを蓋に盛る。沢山入っている肉に嬉しそうな顔をしながらも、野菜と一緒に添えて。
「ほい、こんなもんかな」
「あぁ、ありがとうランス」
 互いの蓋を差し出して、うん、こっちも美味い、なんて言い合いながら、ぺろりと平らげる。
 ぽかぽかと温まったところで、ぜんざいを出してくる雪女に、セイジはにこりと微笑みかけた。
「今日はありがとう。戦いの時は、こういう風にゆっくり楽しめるなんて思ってなかったからさ」
「私だってここがデートスポットになるとは思わなかったわよ」
 肩を竦める雪女とは、同じ場所で一戦を交えた事もある。こんな風に穏やかな時間を過ごすとは、あの時は思い至るわけもなく。
 複雑な心地だろうかとちらり窺うが、セイジは素直に、感想を伝えた。
「美味かった。また食べたい」
「そうだな、期間限定なの勿体ねぇ。どっかに常設店は構えねぇの?」
 ぜんざいをもぐもぐとしながら問うランスに、雪女は首を傾げる。
「七色食堂の『Reverse blue』に来ればいいわよ。私は、夏だけの避暑バイトだけど」
 タブロス市内に点在すると言う食堂の名前に、なるほど、と頷いたところで、デザートも完食。
 雪女にとってはバイトからの延長出店なのだろうが、このまま平和な時間が続けば、例えば来年、またこうして出張店舗を構える事もあるのかもしれない。
 そんな時が来ればいいなと、セイジは思いめぐらせる。
 体も暖まったし、と席を立った二人は、そのまま周囲の雪景色を眺める。
 気付いた雪女が、積もってるのはこの近くだけだからと告げるのに了解を返し、さくさくと新雪を踏みしめてみる。
 枝に積もっている雪を一口摘まんで口にしたランスは、ふむ、と氷の味を堪能してから、足元にしゃがみ込んだセイジを見やった。
 何を、と覗き込めば、雪兎を作っているようだった。
「意外と子供っぽいところあるんだな」
「たまには良いだろ」
 素直な感想に、セイジは少し頬を膨らませるが、手はせっせと兎を作り続ける。
 そうして出来上がったのは、大きな兎と小さな兎。
 一つと三つ拵えられたそれは、雪の化身の誰かさん達を連想させるよう。
「これ、入口に飾っても?」
 示し尋ねれば、雪女は少しだけ目を丸くしてから、くすりと笑う。
 かくして、夏祭りの間、溶けない雪の東屋に、兎の親子が佇む事となるのであった。

●不思議な熱の、
 カイエル・シェナーは殊更不思議そうな顔をして、パートナーのエルディス・シュアの言葉に首を傾げていた。
「『雪景色の鍋焼きうどん』……何がおかしいのだろうか」
 これから向かう予定の紅月ノ神社の祭りの出店。鎮守の森で雪景色を楽しみながら鍋焼きうどんが食べれると聞いて素直に楽しみにしているカイエルに、エルディスは胃の軋むのを感じた。
「だーかーらー! 何で、『暑い夏』に改めて『寒い雪景色』作って『熱々の鍋焼きうどん』食わなきゃいけないんだって!」
 エルディスが強く訴えても、カイエルは今一つピンと来ていない様子。
 どうやら今から向かう所は色々と『おかしい』現象が起こりまくっているらしい。
 らしい、以上に膨らまないのがカイエルであったが。
「気候的にも体感温度的にもおかしいだろうって! 何でそこまでワイルドな手間の掛かった鍋焼きうどん食わなきゃいけな……」
「夏に雪景色で鍋焼きうどん。鍋焼きうどんが食せるのだろう? これのどこに問題があるのだろうか」
「……まあ、気にならないって言ったら嘘になる」
 ふむー、と純粋な気持ちで首を傾げているカイエルに、腑に落ちない顔をしながらもぽつり呟くエルディス。
 気になるならそれでいいではないかと話がまとまった所で、三人の少年と遭遇した。
 並んだ少年たちが星と花と水の道を提示するのを聞いて、カイエルは暫しの試案の後、ミツバに案内を頼んだ。
「電車ごっこ……確かに、この歳にして、これは恥ずかし──」
 苦笑しながらも進みかけて、カイエルははっとしたような顔をする。
(エルディの言う『おかしい』はこういう事をいうのだろうか。それならば、少し分かった気がする)
 ちょっと違う。
 一方のエルディスは、童心に心が傾くのを自覚しながら、子供の歩調で進む電車の『車窓』を見渡す。
(あの様子なら、何かしらギミックがあるんだろう。水の道に何があるか楽しみだ)
 水の道はその名の通り、足元に水面のような揺らぎが生じる道。
 広がる波紋の下を横切る鯉。
 雨粒に似た滴がしとりと視界を横切るのに手を出しても、触れた感覚だけで、不思議と手のひらは濡れない。
 そんな光景を眺めてたどり着いた先では、一面の雪景色に佇む白い女性。
 それを見て、そう言えば、と思い出したような顔をしたエルディスだが、促されるまま席に着き、一先ずメニューを開いた。
「味が選べるのか、ならばすき焼風味にしよう」
 二人分を頼んで、くるりと視界を巡らせるカイエル。見事なまでの雪景色は、寒くないのが不思議なほど。
 そして同じ状況を眺めて、エルディスはやはり神妙な顔をした。
(たしかに特徴のどれが抜けても我慢大会だけどさ……)
 夏に鍋焼きうどんはつらい。雪景色に相当する寒さをこの格好で感じても困る。
 だがしかし、だがしかし!
 運ばれてきた熱々の鍋焼きうどんを凝視して、エルディスはぼそりと訴える。
「普通雪景色が維持できる寒さで鍋焼きうどんて、即冷めて不味……」
 ぞくりとしたものを感じた気がして視線を上げたエルディスは、じとりと睨んでくる女性の視線に、内心で悲鳴を上げた。
(うわ、綺麗なお姉さんが見てる! 睨んでる! これは殺しに掛かろうとしている目線!)
 やばい! と直感したりしているエルディスの様子にはお構いなしに、カイエルはずるずるとうどんを食べていた。
「うん、美味いな」
 そうしてから、ちらりと女性を振り返って微笑む。
「そちらの方が作ったのか。とても良い料理の腕だと思う」
 幸せそうな笑みを浮かべていたカイエルは、ふと、エルディスが食事に手も付けず何やら悶えているようなのを見止めて、首を傾げた。
「エルディ、冷めるぞ。おまえが言うように」
「恐怖で頭抱えてる時に冷静に冷めるとか言うなど阿呆っ!」
 くわっ、と噛み付いたエルディスに、カイエルは相変わらず小首を傾げるばかりであった。


●心根に暖を取る
 雪の結晶が描かれた、可愛らしい女児用浴衣を身に纏い、下ろした髪をふわふわと跳ねさせて。西園寺優純絆は鎮守の森を進んでいた。
(カズハちゃん達やヒサメお姉ちゃんに逢える! カズちゃんに紹介しなくちゃ♪)
 交流のある妖怪たちとの再会にうきうきとしている優純絆をちらりと見て、紺色の甚兵衛を着た精霊の十六夜和翔は少し不満げな顔をした。
(はぁ……、ユズの奴そんなにアイツ等に逢えるのが嬉しいのかよっ! ムカつくぜ……!)
 人はそれを嫉妬と言います。
 もどかしい胸中を抱えながらも、優純絆の少し後ろをついていけば、あ、と優純絆の明るい声。
「カズハちゃん、フタバちゃん、ミツバちゃん久しぶり! 今日は新しい子と一緒に来たのだ♪」
 遊んでくれる人! ときゃっきゃし始めた雪童たちだが、今日はお仕事である。
 きりっとしたところで、和翔に視線を向ける。
「あー、初めまして。俺様は十六夜和翔、仕方ねぇから宜しくしてやるよ」
 じゃないと、優純絆が悲しむだろうから。優純絆にとって不本意な事は避けたいと思いつつ、しかしこのもどかしい気持ちは抑えがたく。
 つっけんどんな態度の和翔を横目にみつつ、優純絆はうーんと小首を傾げた。
「カズちゃんはツンデレ?って言う奴らしい……」
「って俺様はツンデレじゃぬぇー!」
「わわっカズちゃん落ち着いて!」
 和翔の態度を弁解しようとした優純絆は、突然あらぶった和翔に驚きつつ宥める。
「ほらさっさと電車ごっこで行くぞ!」
「あ、うん、それじゃ……星の道でお願いするのだよ♪」
 カズハを見て告げた優純絆に、はーいと元気よくお返事して、がたんごとん、口ずさみながらの電車ごっこ。
 きらきらと光る星の道を三人で進みながら、電車の歌や星の歌などをカズハと優純絆で歌ったりして。
 少し置いてけぼりな感じに頬を膨らませた和翔は、気を紛らわすように、流れる星を見つめているのであった。
 やがてたどり着いた雪景色に、優純絆は白い吐息と共に感嘆を零す。
「カズハちゃん案内ありがと~。ヒサメお姉ちゃん、お久し振りですの! またヒサメお姉ちゃんの料理食べれるなんて嬉しい♪」
 席に着きつつにこにこと優純絆が和翔を振り返れば、じぃっと雪女を見上げていた和翔が口を開く。
「貴様が噂のヒサメか? 俺様は十六夜和翔、宜しくと言っておくぜ」
 それを聞いて、にっこりと微笑んだ雪女は、指を掲げて、和翔の眼前で軽く振る。
 途端、雪の結晶がきらりと光って、和翔の鼻先で弾けた。
「冷た!?」
「そう、そう。それは大変ね、あぁ大変。熱いうどんを食べた方がいいわね。えぇ、良いわね?」
「ぐ……注文はこれとこれな」
 優純絆に味噌煮込み、和翔にはすき焼風をそれぞれ頼めば、つん、とすまし顔の雪女は早々に退散する。
 そんなやり取りを見つめていた優純絆が、そわそわしたように何度か雪女の方を見やっていたが、特にそれ以上何があるわけでもなく、二人分の食事が運ばれてきた。
 暖かな鍋焼きうどんセットを見つめ、どうぞと促す雪女にほっとしたような顔をした優純絆は、いただきますと手を合わせてから食べ始める。
「アイスケーキも美味しかったけどこれも美味しい!」
 素直に喜ぶ優純絆に対し、ぼそり小さく「美味ぇ」と呟く和翔。
(初めて食ったが美味い。ユズ達と出会う前は碌に食えずにいたからな……)
 普通の、それ以上に美味しい食事を口にした喜びに、嫉妬から来る些細な不満は吹き飛んだ模様。
 夢中で食べてからぱっと顔を上げて雪女を見上げた和翔の顔は、最初のような値踏みするような目ではなく、少年らしくきらきらして見えた。
「なぁどうしたらこんなに美味いメシが作れんだ。教えてくれよ姐さん」
「ユズもパパにも食べさせたいから作り方教えて欲しいのだよ」
 二人の少年のきらきらした瞳に見つめられて、雪女は少したじろいだが、仕方がないわね、と小さく息を吐いた。
 真剣な顔の和翔をちらと見て、優純絆はこっそり、嬉しそうに笑う。
(あんなにデレるなんて気を許した証拠、良かった)
 仲の良い者同士が繋がるのは、嬉しい。
 また、彼らと逢う機会があった時に、一緒に訪ねる事が出来るから。
 今度は雪童三人と遊びたいなと思いつつ、レシピの紙を抱えて元気に帰路に着く優純絆であった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月09日
出発日 09月14日 00:00
予定納品日 09月24日

参加者

会議室

  • [8]アキ・セイジ

    2015/09/13-19:05 

    プランは出来ているよ。
    二つの味が気になるなら二つとも食べたらいいじゃないか。
    迷わず分け合う俺達(笑

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ!
    カイエルさん達は初めまして!
    ユズちゃんは久しぶり、十六夜さん初めまして。
    他の皆は今回もヨロシク!

    ヒサメさんの鍋焼きうどんに誘われて来た―!
    どっちの味が良いかなぁ。ああ、悩む!すっごく迷う!

  • [5]鳥飼

    2015/09/12-18:43 

    改めて、僕は鳥飼と呼ばれています。
    よろしくお願いしますね。

    皆さん仲が良いですね。(優純絆さん達や、カイエルさん達を見送った感想

    ふふ、どの道も楽しそうです。
    鍋の味も悩みますね。どっちもおいしそうです。

  • [4]カイエル・シェナー

    2015/09/12-16:15 

    カイエル:
    A.R.O.Aの依頼ではなく、祭りの一端が他のウィンクルムの方々への挨拶になるとは思わなかった。
    カイエル・シェナーだ。宜しく頼む。
    それにしても『雪景色で、鍋焼きうどん』とは良い趣向だな。とても楽しみだ。

    エルディス(精霊):
    ……普通さ、驚かない?

    カイエル:
    何故? 寒い中で鍋焼きうどんが食べられるのだぞ? 素晴らしい事はあっても、おかしいところも驚くところも、何も無──

    エルディス:
    はいっ! まずは『気候と食べ物の温度差』について、俺の知ってる一般的常識から説明します!(襟首掴んで)
    皆さん初めまして、これの精霊やってるエルディス・シュアって言います!

    何でこうなってんのかは分からないけれど、皆さんは美味しい鍋焼きうどん定食が食える事を祈ってます! ……つーか、電車ごっこまであるのかよ、まじか……
    (挨拶をした後、ずりずりと神人を引き摺って)

  • [3]西園寺優純絆

    2015/09/12-14:25 

    優純絆:
    カイエルさんは初めましてなの!
    他はお久し振りなのだよ〜!

    和翔:
    俺様はユズの新たなパートナー、十六夜和翔だ
    宜しく、と言ってやっても良いぜ

    優純絆:
    カズちゃん、ツンデレ?

    和翔:
    俺様はツンデレじゃぬぇー!
    兎に角! ユズがカズハ達に会いたいっつぅから参加したんだろぉが!
    ほら挨拶済んだら帰んぞ!!(手を引っ張り出て行く)

    優純絆:
    わわっ!? か、カズちゃん!?
    えっと皆さん改めて宜しくですの〜!(引っ張れながら伝える)

  • [2]鳥飼

    2015/09/12-14:01 

  • [1]アキ・セイジ

    2015/09/12-02:39 


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